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2007年08月28日
世界を変える人たち―社会起業家たちの勇気とアイデアの力
■ 書籍情報
【世界を変える人たち―社会起業家たちの勇気とアイデアの力】(#950)
デービッド・ボーンスタイン (著), 井上英之 (監修), 有賀 裕子 (翻訳)
価格: ¥1890 (税込)
ダイヤモンド社(2007/2/17)
本書は、「社会的な課題に、事業として取り組む」試みをする人たちである「ソーシャル(社会)+アントレプレナー(起業家)」を紹介しているものです。著者は、彼らを「世界を変える勢力」として捉え、「社会の重要な問題を解決に導くために新しいアイデアを抱き、不屈の精神でビジョンの実現を目指す人々、頑として弱音を吐かず、決して諦めずに、どこまでもどこまでもアイデアを広げていく人々」であると述べています。
本書で中心的に扱われているのは、アメリカ環境保護庁(EPA)の元幹部であったビル・ドレイトンが、1978年に立ち上げた、社会起業家の支援組織「アショカ」です。アショカは、「アジア、アフリカ、南北アメリカ、ヨーロッパの46カ国で活動」しており、「これまでに支援した社会起業は1400人、合計で4000万ドル近くを提供するとともに、専門的な助言などを行ってきた」実績を持ちます。
第1部「世界を変えた人・変える人」では、10人の社会起業家を取り上げています。
第1章「子どもを守る、24時間の電話〔インド〕」では、「子どもたちに困ったことが起きたら、深夜でも対応する、児童保護サービス」である「チャイルドライン」の設立者ジェリー・ビリモリアを取り上げています。ジェルーは、ソーシャルワーカーの育成に携わるかたわらで、「いくつもの児童保護組織があるのに互いに協力しておらず、危険な目に遭った子どもたちを救うのに何日もかかる、という実情」に気づき、緊急事態に対応する電話サービスを実現するため、通信大臣にまで陳情を行い発信無料の電話サービスを実現するとともに、関係する組織にチャイルドラインへの参加を呼びかけ、元ストリートチルドレンの若者にコールセンターのスタッフとして職を与えています。この取組みは、フランチャイズ式に全国に拡大し、2002年10月までに電話件数は270万本に達し、現在は世界にヘルプラインを普及させるための活動に拡大しています。
第2章「社会起業家のさきがけ、ナイチンゲール〔イギリス〕」では、1845年に、ナイチンゲールが看護師として働くことを志した当時、看護師といえば、「薄汚い身なりの品行の悪い女性」というイメージがあり、裕福な家の娘が就く職業としては常識外れなものであったことが述べられています。
1854年のクリミア戦争へのイギリスの参戦に合わせ、ナイチンゲールは38人の看護師を集めて現地に赴き、目を覆うばかりの病院の惨状を目にし、「病院内を掃除し、兵士たちの衣類を洗い、軍にかけ合って医療不足の解消を目指し」、資材を投じて備品倉庫まで建てています。兵士たちから「ランプの貴婦人」と慕われた彼女によって、1855年2月に43%だった院内死亡率が5月には2%にまで低下しています。
偉人伝などでは、彼女の優しさや自己犠牲を強調していますが、この成果の陰には、「不屈の精神を支えにして緻密な手法や厳しい規律を取り入れ、細かいところにまで気を配り、休みなく働く姿勢があった」ことが指摘されています。彼女は、統計学者のウィリアム・ファーと共同で、軍隊での病院や死因についての統計データをまとめ、図を用いて変革を訴えることをしています。
著者は、ナイチンゲールを、「物事を管理する能力に長け、統計を使いこなし、政府にまで働きかけをしていた」人物であり、「まさに起業家として高い成果をあげた。衛生や病院管理の手法を築き、各国に大きな影響を及ぼした」と述べ、「世の中を変えるには、強い倫理観に突き動かされたナイチンゲールのような社会起業家の力が求められるのだろう」と語っています。
第3章「世界の環境政策を変えた男〔アメリカ〕」では、後にアショカを組織するビル・ドレイトンが、20歳のときにインドを旅し、土地改革運動の指導者ヴィノバ・バーヴェと行動を共にすることで、非暴力思想をじかに学んだことが述べられています。そして、アメリカ環境保護庁(EPA)の幹部となったドレイトンが、工場自らが大気汚染を減らす方法である「バブル(「透明な半球」の意)を発案し、「ある部門が汚染物質を排出しても、別の部門が排出を減らして、工場全体として汚染ガスの排出量が一定以内に収まればよい、そのための方法は工場側が提案できるようにしよう」というアイデアを実地に移し、当時は環境運動家からも過激だと見られたものだが、今では汚染を防ぐ優れた方法として認められているものであると述べています。
第6章「スラム街の子を病気から守る〔ブラジル〕」では、1991年にリオデジャネイロで「病気の子供とその母親を対象に、退院後のケアをするための組織」である「ヘナセ(再生)」を組織したヴェラ・コルディロを取り上げています。コルディロは、ヘナセに倣う組織との協力関係を結ぶに当たり、
(1)病院と確かな協力関係を築いている
(2)貧しい親に対処した経験がある
(3)ヘナセと同じ水準を守るという合意書に署名する
(4)純粋な思いに突き動かされている
の4つの基準を設けるとともに、アショカのブラジル支部を通じて、マッキンゼーの協力を得ることで組織を拡大するための専門的な管理手順を取り入れたことが述べられています。コルディロは、「マッキンゼーはヘナセに革命を起こしてくれたの!」と述べた上で、「社会変革に、どのように事業経営の枠組みを当てはめるのか。財務面の考慮と人間的な心配りをどう調和させるのか。プロ意識を持って仕事をしながらも、親しみやすさを保つには、どうすればいいのか」という難しい問題が残されていることが述べられています。
第7章「低所得者の大学進学支援〔アメリカ〕」では、低収入家庭の子どもたちに、4日間のコースで文章教室やカウンセリング、モチベーション向上講座などを開く「カレッジ・サミット」を立ち上げたJ・B・シュラムを取り上げ、アメリカで毎年、高校を卒業する90万人の低収入家庭の子どものうち、能力があるのに入学を認められない生徒が少なくとも18万人ほどいるという実態に対し、その原因は、「収入の低い家庭の子どもは、自分をアピールするのが下手であるうえ、決め細やかな指導を受ける機会が少ない」との指摘を紹介しています。
そして、「低所得者層の多い地域で大学進学率が上がるように後押しをすれば、その地域全体、いや、アメリカの低所得者層全体に好ましい変化を及ぼせるだろう」というシュラムの考えを紹介しています。
第8章「差別の国でエイズ患者を救う〔南アフリカ〕」では、ベテラン看護師であるヴェロニカ・コーサが、「南アフリカには、職のない人も、自宅で介護を求める人も、大勢いる。だから、誰かが若者に介護の訓練を施すべきではないか」と考え、エイズ患者を救う組織「タニーテ」(「歩き始めたばかりの子どもへの愛情」の意)を立ち上げ、
(1)正規の医療を補う役目を果たす
(2)地域社会のあらゆる組織との連帯を目指す
(3)家族、隣人などにも介護技能を広める
(4)タニーテの活動に関して大きな判断を下す際には地域社会に相談する
の4つの原則を掲げたことを取り上げています。
2001年にはコーサは、「南アフリカで今年一番輝いた女性」の医療部門で第1位に輝いています。
第10章「2500万人の幼い命を救ったユニセフ事務局長〔アメリカ〕」では、1980年のユニセフ事務局長への就任以来、自身の死の間際まで、シンプルな方法で子どもたちの健康を守ろうと努めたジェームズ・グラントを取り上げています。
第2部「世界を包む『社会起業』の波」では、「アショカ」を初めとする社会起業家の特質について解説しています。
第1章「社会起業家の支援組織・アショカの誕生」では、ビル・ドレイトンがアショカを立ち上げてからの5年間で、アメリカの公的な財団からはいっさい資金提供がなかったことを紹介した上で、1984年にマッカーサー財団から20万ドルの奨励金が下りたことがドレイトンがアショカの仕事に全力を傾けるきっかけになったと述べています。
第2章「アイデアではなく、『人』が世界を変える」では、これまで社会起業かが注目されてこなかった理由として、「社会起業家がいなかったわけではない。だが、彼ら彼女らの推し進めた運動だけが関心を集め、誰がどのような手法を用いてそれを成し遂げたのかは、見過ごされてきた」ことを挙げています。
第3章「アショカが探し求める人物とは?」では、ビル・ドレイトンが、「人々は、理屈ではなく実在の人物を通して社会起業についてのイメージを膨らませます。ですから、模範となるような人材を探し出さなくてはなりません」と語っていることを紹介しています。
そして、アショカ・フェローの面接において、
(1)創造性
(2)起業家にふさわしい性格
(3)アイデアの中身
(4)倫理観
の4つの基準に着目していることを紹介しています。
第5章「世界を変える組織の四つの特徴」では、世界を変える組織が、
(1)苦境にある人々の声に耳を傾ける
(2)予想外の出来事からひらめきを得る
(3)現実的な解決策を考える
(4)適材を見つけ出して大切にする
の4つの共通の特徴を持っていると述べています。
第6章「成功する社会起業家の六つの資質」では、「大きな成功を手にする起業家は、大切な目標を掲げ、何としてもそれを実現しようとする。だからこそ着々と機械を探り、壁に気づき、途中結果を見きわめ、今後に向けて計画を練っていくのだ」と述べた上で、成功する社会起業家の資質として、
(1)間違っていると思ったらすぐに軌道を修正する
(2)仲間と手柄を分かち合う
(3)枠から飛び出すことをいとわない
(4)分野の壁を越える
(5)地味な努力を続ける
(6)強い倫理観に支えられている
の6点を挙げています。
第7章「よりよい世界を実現するために」では、社会起業家が、「世の中や他人のために尽くしたい」との思いに突き動かされているのではなく、「自分の熱い思いに従い、本能の赴くままに行動している」と述べ、「そのような行動を通して、得がたい褒美を手にしている」と述べています。
本書は、現実に世界をどんどん変えている社会起業家を知るための良質なガイドブックとなる一冊です。
■ 個人的な視点から
本書の監訳をしている慶應SFC講師の井上さんは、2年前の8月に本書で主に取り上げられている「アショカ」と、社会変革を起こす投資を行っている「REDF」の2つの組織を日本に招いて「日米ソーシャル・イノベーション・フォーラム」を開催した時の中心メンバーです。
雑誌『経済セミナー』の2007年9月号には、このフォーラムを開催した専門委員会のメンバーやフォーラムに参加した日本の社会起業家が特集を執筆しています。
「特集=いま社会起業家に注目しよう!」
http://www.nippyo.co.jp/maga_keisemi/ke0709.htm
■ どんな人にオススメ?
・現実に世界を変えている人を見てみたい人。
■ 関連しそうな本
渡邊 奈々 『チェンジメーカー 社会起業家が世の中を変える』 2005年08月11日
シルヴァン・ダルニル, マチュー・ルルー (著), 永田 千奈 (翻訳) 『未来を変える80人 僕らが出会った社会起業家』 2007年03月28日
町田 洋次 『社会起業家―「よい社会」をつくる人たち』 2005年02月16日
ムハマド ユヌス, アラン ジョリ (著), 猪熊 弘子 (翻訳) 『ムハマド・ユヌス自伝―貧困なき世界をめざす銀行家』 2007年05月10日
C.K.プラハラード 『ネクスト・マーケット 「貧困層」を「顧客」に変える次世代ビジネス戦略』 2006年07月28日
ジェフリー サックス (著), 鈴木 主税, 野中 邦子 (翻訳) 『貧困の終焉―2025年までに世界を変える』 2007年06月20日
■ 百夜百マンガ
単発ものでテレビアニメ化されました。「トトロ」や「もののけ姫」のイメージを引っ張るようなストーリーなのですが、実際にジブリ作品の美術監督を務めた人が監督したそうです。
投稿者 tozaki : 2007年08月28日 07:00
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