« どうすれば役所は変われるのか―スコラ式風土改革 | メイン | 和風旅館建築の美 »
2007年09月29日
KJ法―渾沌をして語らしめる
■ 書籍情報
【KJ法―渾沌をして語らしめる】(#982)
川喜田 二郎
価格: ¥8971 (税込)
中央公論社(1986/11)
本書は、「KJ法」の産みの親である著者自身が、進化し続けるKJ法を「KJ法1986年版」という位置付けで総括した一冊です。著者は、KJ法の「最も大きな特色」は、「混沌をよく見つめ、そこから取材し、そうして『混沌をして語らしめ』」ることであると語っています。
第1章「序論」では、著者がKJ法の創案を迫られた痛切な必要として、
(1)私の仕事のため
(2)私の生活のため
(3)現代の危機の打開のため
の3点を挙げています。
そして、データをまとめて判断をする場面においては、「正直にデータをして語らしめねばならない」と述べ、「正しい判断に到達するには、『こうに違いない』『これがよいのにきまっている』『こうあってほしい』などという既成概念や通念や希望的観測を、初めから現実に当てはめて、判断を曇らされてはならない」と、このような姿勢や態度を「アテハメ主義」「アテハメ思想」と名づけ、「今日の世界に惨害を流しているのは、このアテハメ思想なのである」と述べています。
第2章「人間行為の首尾一貫性」では、人間やチームにとっての一仕事の構造を、
(1)問題提起
(2)情報集め
(3)整理・分類・保存
(4)要約化
(5)統合化
(6)副産物の処理
(7)情勢判断
(8)決断
(9)まとめの計画
(10)手順の計画
(11)実施
(12)結果を味わう
の「一仕事の12段階」に配置しています。
そして、「問題解決の3つの大きなプロセス」として、〔判断→決断→執行〕という流れを挙げ、「物事をやってのけるには、その主題をめぐり、(1)まず判り、(2)次に肚をきめ、(3)最後に手を下す、ということである」と解説しています。
著者は、「人間にとって、行為の首尾一貫性は驚くべき根源的重要性を持っている」にもかかわらず、文明はその首尾一貫性の維持に失敗し、その最も重要な原因は、「問題解決の方法論の不均衡な発達」であり、「特に判断プロセスの方法論の発達が今日まで取り残されてきた点」であると指摘し、「この隘路を打開」し、「それに科学的方法と実技を提供したのがKJ法なのである」と述べています。
第3章「W型問題解決のプロセス」では、「データをして語らしめる」ことと「事実をして語らしめる」ことの違いとして、「事実をわれわれは観察し、記録する。それがデータなのだ」と述べ、「知ることができるのは、(1)データと、それを獲得するに至った(2)方法・手段だけなのである」と解説しています。
また、〔判断→決断〕は「算術の四則演算に似る」として、「状況把握は〔足し算→掛け算〕つまり加乗のようなもの。情勢判断は、〔足し算→掛け算→引き算〕すなわち加乗減のようなものなのだ。そこで、決断とは、加乗減を踏まえて最後に割り算を行うようなものである」と述べています。
第4章「協議のKJ法一ラウンド」では、「最も基本となるKJ法の一巡工程」である「一ラウンド」の手順について、まず取材活動で定性的データが集められた上で、
(1)ラベルづくり
(2)グループ編成
(3)図解化(またはA型、A型図解化)
(4)叙述化(またはB型、B型叙述化)
の4ステップを順次踏んで完了すると解説しています。
そして、「ラベルづくり」の最も肝要な心がけは、「各一枚のラベルが、一つの「志」を持つように書け」というものであると述べています。
また、「グループ編成」は、さらに(1)ラベル拡げ、(2)ラベル集め、(3)表札づくり、の3つの小ステップに分けられることを解説しています。このうち、「表札づくり」については、問題は、ラベル集めによって作られた「一セットの内容を、どのように要約すればよいかという点にある」と述べ、「実に簡単なことのようにみえて、KJ法一ラウンドの諸作業中、最も難しい作業」であり、「この作業が的確であるか否かで、一ラウンドのまとめの成否が最も決定的に左右される」と述べています。
「図解化」については、模造紙などの大きな紙の上に、グループ編成した紙束のラベルを空間配置し、「島どり」し、島の間の関連付けを行っていく手法を解説しています。
さらに、「図解化が完成すると、作った人は今までの混沌の闇から一挙に解放されたかのような解放感に充たされ」、そこで「できた!」と叫ぶが、「この図解化を踏み台にしてさらに叙述化をしないと、本当に配置ラウンドが終わったことにならない」と述べています。
この他、各ステップに対する注意点として、「ラベルづくり」は「ひとつのラベルはひとつの志を持つように記せ。ふたつ以上の志があるのはラベルづくりではない」こと、「表札づくり」に関しては、「理屈を考えるところから出発するのではなく、受けとめた完成から出発するのが自然というものである」こと等を解説しています。
第6章「KJ法のグループ作業」では、「トランプ」というニックネームが付いた「グループKJ法」の作業のやり方を解説しています。
また、「KJ法」という名称について、それまで「紙キレ法」と呼んでいたものを、ある会合に出席していた梅棹忠夫氏が、「この名称を改めよ」と注意し、解説パンフレットの隅に書いてあった著者のイニシャル「KJ」にちなんで「KJ法」という名を示唆したことが述べられています。
第7章「取材の方法」では、「いかに取材ネットを打てばよいか」を意味する「探検」について、
(1)360度の視角から
(2)飛び石伝いに
(3)ハプニングを逸せず
(4)なんだか気にかかることを
(5)定性的に捉えよ
の5点を挙げ、「探検の五原則」と説明しています。
また、取材に関して、「話題を提供した上で、『存分に好き勝手に語ってください』という方法をとれば、人間は喜んで答える傾向がある」と述べ、常滑市の青年会議所が、都市計画を作るためのフィールドワークで意見を求める中で、「漁民のあるおじさんは、『われわれのところまで意見を聞きにきたのは、あなたがたが初めてじゃ」と喜んで、とりたえのアワビを出してくれ、茶碗酒をついでもてなしてくれた」というエピソードを紹介しています。
また、「探検ネット」は、「見かけが幾分KJ法のA型図解に似ている」が、探検ネットは、「野菜の仕分陳列」にもあたり、「遥かにスピーディーに楽に行える」反面、「データは本当には高度に活用」されず、「料理以前」であるのに対し、「グループ編成も空間配置も関係線も厳正なA型図解は、各種材料の持ち味を活かしきった調理済みのお料理である」と、その違いを明らかにしています。
第8章「探検ネット再論――KJ法の実務化」では、探検ネット一ラウンドを、
(1)ラベルづくり
(2)ネットづくり
(3)統合図解化
(4)叙述化
の4つのステップに分けて解説しています。
また、探検ネットをKJ法は、「根はひとつ」であり、「両者は発達の過程で分化した双子の兄弟と見ることができる」と述べ、「両者に独立した人格を認め、その上で連動させて活用すれば、両者ともに活かされることになる」と解説しています。
第9章「会議討論法」では、ある組織において、幹部会で定例的に3年越しで論じられた重要問題に関して、著者が、過去の議事録を素に「僅か3枚のシートの図解」にまとめ、100名近い幹部会で20分ほど説明し、「おそらく全員が、論じられてきたことの主要な骨子を漏れなく、全体の構造としてよく理解した」ために、説明を終えたとき、「明解に判ったことのしるし」として、「かすかなため息がいっせいに漏れた」というエピソードを紹介しています。
著者は、会議の最も大切な会議機能を、「衆知を集め最善の判断を導きだす」ことであると述べ、「算術の四則演算にたとえて、『加乗減除』方式こそ、採るべき大筋である」と述べています。
第10章「累積KJ法」では、「一ラウンドだけKJ法を用いただけでも、実りは豊かである」が、複雑難解・巨大な課題に対しては、一ラウンドだけでは、「簡にすぎたり底が浅くて、用が足りなくなる」ため、「何ラウンドをも累積的に行使し、いわば畳み掛けるようにして問題を解決する」必要に迫られ、「累積KJ法(Cumulative KJ Method C-KJ)」が生まれたと述べています。
そして、「W解決に位置づけた6ラウンド累積KJ法」として、
(1)問題提起ラウンド:当事者の問題意識を発掘し、それを確認する。
(2)状況把握ラウンド:当事者の問題意識をめぐる現実はどうなっているのかを冷静に見つめ、状況を総合的に捉える。
(3)本質追求ラウンド:判断の全過程に渡る情報が、能力の範囲で出し尽くされ、しかも消化され尽くす。
(4)構想計画ラウンド:達成されたときの状況が、ありありと具体的に思い浮かべられるような目標を探す。
(5)具体策ラウンド:構想を達成する手段・方法をめぐり、できるだけ発明的(もしくは創意工夫的)な心の姿勢を持つ。
(6)手順化ラウンド:「どんな作業をどんな順番で行えばよいか」に注意を集中する。
の6つのラウンドを累積した累積KJ法を解説しています。
著者は、「累積KJ法では、心の姿勢をめぐり、集中と場面転換が最も大切だ」と述べ、「どのラウンドでも一見同じような手続に見えるものだから、集中と場面転換の重要性を見損なう人がよく出てくる」と指摘しています。
第11章「思想としてのKJ法」では、「KJ法とは、技術であり思想であり、また科学でも宗教でも芸術でもある」と述べ、「KJ法とは、そのような概念やジャンルの分化する以前の、人間社会の『生きることそのもの』に深く喰い込んだ何か」なのであり、「KJ法を支え、それよりももっと深いものは、分割された営み以前の、人間が生きるという、その全体性を持った営みそのものなのである」と主張しています。
また、方法論の立場から、「科学」を「書斎科学・実験科学・野外科学」の3つに分類し、「実験科学的方法は仮説検証的であるのに対し、野外科学的方法は、その仮説をどうして思いつき構成すればよいかを主眼にしている意味で、仮説発想的なのである」と述べています。
著者は、「KJ法は、現代の最大の悩みのひとつである組織公害を克服する、最も有望な武器のひとつである」と述べ、「管理社会から参画社会へ脱皮するための、決め手のひとつとなりうると思われる」と述べつつも、「KJ法を用いたその組織開発は小さな組織では成功例がいくつかあるが、大きな組織ではまだ存しない」と述べ、「現状ではまだまだ大きな壁が立ちはだかっている」と指摘しています。
本書は、多くの人が研修などで触ったことはあるものの、本格的に活用して、その効果を実感している人は少ないKJ法の基礎から思想までを網羅した「KJ法の経典」とも言える一冊です。
■ 個人的な視点から
研修で「KJ法」について習う機会はありますが、実際に職場で使うことはほとんどありません。4月に異動する前までの職場では、付箋をペタペタ貼りながら議論することも多かったのですが、現在の職場では、いきなりパワーポイントで「ポンチ絵」なるものを個々人が作り始めることが多いようです。一応は「企画」という名前のついた職場なのですが、「KJ法」とか「ファシリテーション」とかには縁がないようです。この本自体も20年以上昔の本ですし、やはり時代遅れということなのかもしれません。
■ どんな人にオススメ?
・KJ法を極めたい人。
■ 関連しそうな本
川喜田 二郎 『発想法―創造性開発のために』 2005年08月27日
川喜田 二郎 『発想法 (続)』
梅棹 忠夫 『知的生産の技術』 2005年05月05日
久恒 啓一 『図で考える人は仕事ができる』 2005年08月13日
トニー ブザン (著), 田中 孝顕 (翻訳) 『人生に奇跡を起こすノート術―マインド・マップ放射思考』 2006年05月07日
トニー・ブザン (著), 神田 昌典 (翻訳), バリー・ブザン 『ザ・マインドマップ』 2006年12月17日
■ 百夜百音
【雨 あなたが帰る時】 三善英史 オリジナル盤発売: 2005
子供の頃によく母が口ずさんでいたのを聴いていましたが、なんて曲だかよく知りませんでした。Wikipediaによれば、最近カミングアウトしたらしいので、もしかするとまた流行るかもしれません。
投稿者 tozaki : 2007年09月29日 16:00
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.pm-forum.org/MT3/mt-tb.cgi/1505