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2007年10月03日
ああダンプ街道
■ 書籍情報
【ああダンプ街道】(#986)
佐久間 充
価格: ¥430 (税込)
岩波書店(1984/05)
本書は、首都圏において建築資材や埋め立てに使われる山砂の大半を昭和40年頃から供給してきた、千葉県君津市を中心とする一帯で、「給料が次々に削られ、一日に4千台も通るダンプカーが沿道住民に騒音、振動、交通災害や粉じんによる健康破壊を引き起こしている」実態を、保健社会学者である著者が、一軒一軒住民宅を回り、千キロ以上もダンプカーに同乗して聞き取りを行った、精力的な調査によって明らかにしたものです。
山砂の輸送は、「馬車が通っていた狭い砂利道」に1日4千台のダンプカーがひしめき、「ダンプカーバ巻き上げる砂ほこりで、民家もダンプカーも見えなくなり、日中でもダンプカーはライトをつけ、住民は戸を閉めて電灯をともす日々が6年も続いた。道路は要約舗装されたが、今度は、ダンプカーの荷台からこぼれ落ち、そのタイヤで細かくすりつぶされた山砂の粉じん(=塵)や、排気ガスによる黒い粉じんが、激しい風圧を伴なって沿道を覆うという状態」が続いていることが紹介されています。
そして、全国にある多数の「ダンプ街道」の中で、本書が扱う君津市は、「参考にした他の都府県のいくつかのダンプ街道と比べても、とりわけ問題が多い」と指摘しています。
第1章「狙われた山砂――千葉県君津市」では、千葉県君津市を中心とする一帯からの山砂の採取量が、「昭和48年は3773万立方メートルであり、これは全国の山砂採取量の実に72パーセントを占める」と述べ、1年間だけで、「縦・横・高さがそれぞれ100メートルのサイコロ」が37個分、この地方から運び出され、その多くは、東京神奈川の埋め立てに使用されたことが解説されています。その累計は、昭和48年から57年までの10年間で、約1億7000万立方メートルに上り、それ以前を含めると、約2億立方メートルに達するだろうこと、さらに、これら「採取量」は、商品として運び出された他に、表土なども採掘されていて、これらを含めた「認可量」は、「実に3億立方メートルを超える」こと、すなわち100メートル角のサイコロ300個分の山が削られたと指摘し、これだけの山を削り取って、「よく房総半島が持ち上がらないものだ」と述べています。
沿道の住民の被害については、採取場近くの住民が、「朝は2時ごろから行列するダンプカーのエンジンやラジオの音にまず安眠を妨げられた。小櫃地区では、朝の4時ごろ、走るダンプカーに両手を広げて立ちはだかり、運転手に抗議する主婦も現れた。商店街では、自家用車で来たお客が、店の前に停車したといってダンプカー運転手に怒鳴られ、ついには殴られた。バスの運転手や荷積みをしていた人、電線の工事をしていた人、園児送迎バスの運転手らも同様であった。幅5メートルほどの砂利道に幅2.5メートルのダンプカーが疾走し、すれ違うのだから、沿道の住民との間にトラブルが起きて当然であったが、そのような摩擦が続くうちに、住民はだんだんと泣き寝入りするようになった」と述べています。
また、道自体も、「砂利道にはダンプカーによって深さ50センチもあるかと思われるほどの穴ぼこやわだちが出現」し、側溝がダンプの重みで潰され、荷台から落ちた砂で埋まったため、雨が降ると一面水浸しになり、おしるこ状になった泥が凄まじい勢いで跳ね上げられたため、民家は昼間も雨戸を閉め、通行人は泥はね用と雨よけ用の2本の傘が必要になったと述べています。
昼間の砂ぼこりも凄まじく、民家への訪問客が縁側で茶飲み話をして帰ると、くっきりと茶碗の跡が残ったことが紹介されています。
第2章「ダンプ公害を検証する」では、君津市出身で東大で保健社会学を研究していた著者が、同窓会で革新系の市会議員である榎沢正雄氏から、「生まれ故郷で、ちっとやってみる気はねえかえ?」「こっだけ住民が来るしんでっだもん、学問にもなるはずだけどな……」と声をかけられたことをきっかけに、山砂ダンプとのかかわりがはじまったことが述べられています。
榎沢氏に案内されて、学生と一緒に山砂採取の現場を回った著者は、「先生、これこそ保健学のテーマじゃないですか。ダンプがいっぱい走っていて、うるさくて、ほこりがあって、人が死んで……」という学生のつぶやきを紹介しています。昭和51年6月に、初めての住民への訪問調査が行われ、その年の10月に行われた日本公衆衛生学会の発表では、「千葉県や君津市などの行政機関が、被害を受けている住民の救済にどのように対処しているか」という質問が出され、「行政は住民の被害を軽く見ているせいか、警察がたまに取り締まる程度である」と回答したと述べています。
この他、著者らは騒音と振動、粉じんの測定を行っていますが、粉じん測定のときには、住民が「見たこともない」という散水車がやってきて調査ができず、同行した市の職員に「どこかで業者に通じているなという疑惑が一瞬去来した」と述べています。
第3章「『ダンプ野郎』たちの言い分」では、木更津市の千葉県ダンプカー協会木更津支部(「君津支部」の誤りか?)を訪れた著者が、採取業者から、「ダンプの運転手というのは、、タクシーも、平ボテつまり普通の大型トラックもつとまらない者が多い。計算が苦手で、月々の売上も満足に把握していない者もいる。そのうえ過当競争で、自分のことばかり考えるから買い叩かれてしまう」と解説を受け、ダンプカー運転手の名簿など存在しないことを聞かされます。著者はやむなく、赤信号で停まったダンプにチラシを配り、運転手の溜まり場で睨み付けられながら調査を依頼したことを述べています。著者は、「口数が少なく眼に凄みのある木枯らし紋次郎のような男」に、個人名は出さず、ダンプが苦しいことを書くことを条件に、助手席に乗せてもらい、長時間労働で、1000万円する新車の月賦や燃料費に追われて苦しいことなどの話を聞いています。この"紋次郎"氏は、「朝は4時半に起きて軽く朝食をとり、5時には握り飯をニ食分持って自家用車で家を出る。5時半に採取場に着き、前の日に積荷を済ませてあるダンプに乗ってすぐ港に向かう。世帯持ちだから弁当を持参できるが、独身者などはろくなものを喰っていない」と語っています。
また、ダンプ宿舎に泊まりこみ、早朝3時半に出発する北国出身の52歳のTさんのダンプに同乗し、「本当はネ、こんなに早く走りたくないのサ……~年よりは年寄りなりに車のいない夜のうちに、こうやって走るのサ」という言葉を紹介しています。
さらに、東北からの出稼ぎのNさん(29歳)が、採取場から港の岸壁までの一日中のピストン輸送の「レース」で肝臓を壊して入院した話を紹介し、新車の月賦25万円を抱え、1回4500円の売上を1日8往復して3万6000円の中から燃料費1万2000円かかり、保健、修理代などを計算すると、実収入は月15万円程度しかなく、事故をやったり注文の少ない時期には赤字になってしまう実情を紹介しています。そして、出稼ぎの人は、知らない土地で仕事をするために「親」を通すことが多く、一匹狼では事故のときに負けてしまい、一旦にらまれたら他のダンプに意地悪されてしまうので「親の庇護が必要となる」うえ、新車を買うにも、よそ者はディーラーに吹っかけられるので、親のカオや頭金を借りなければならず、親には「子」は「毎月の売上の三分から八分を手数料として、親に支払わねばならない」ことが紹介されています。
著者は、「ダンプ野郎」たちの生活を、「労働時間は非常に長く、12時間程度が6割、15時間以上が2割もいる。10時間以下は2名しかいない。月当たり労働日数は平均25日である。食事は極めて不規則で、朝食なしのうえ、昼食もインスタント物で済ませ、二食とも満足に取らない者が4分の1である」と紹介しています。さらに、健康状態に異常がある者が約7割(胃腸障害4割、腰痛3割、痔1割)いて、肝臓障害のある3名中2人は最近入院していると述べ、「ダンプカー運転手は、20年近くもあまりかわらない低運賃と過当競争、長時間労働などのために、その3分の2は体を壊し、沿道住民への公害を気にするどころか、みな赤字の脅威におびえ、借金で破産・転落が目前の者が多数いる」と解説しています。
第4章「舞う粉じん、住民の肺へ」では、昭和54年春に、訪問調査と、騒音・振動・粉じんの測定結果を「山砂を運搬するダンプカーによる住民被害」とまとめ『日本公衆衛生雑誌』に掲載したが、資料集めにいった千葉県庁で、調査報告書を引用した住民からの陳情書を突きつけられ、「こりゃあんたか。なぜマイナス面だけを強調するのか。公害がなくても騒ぐのが今の風潮だ。世の中は"相身互い"ではないか」とたしなめられた(何様?)ことが述べられています。
昭和56年3月に実施した住民対象のじん肺検診では、「受信者の約半数に、初期のじん肺所見があり、要治療者も15名いる」というショッキングなものであったため、住民への個人通知は「じん肺」という言葉を避け「慢性気管支炎」という表現を用いたことが述べられています。
しかし、検診結果の発表直後、地元君津市は、「君津市の住民の症状は、じん肺ではなく慢性気管支炎と考える。じん肺と認めるかどうかは、今後千葉県と協議する」と千葉県に下駄を預け、昭和56年6月には環境庁が千葉県に被害調査を命じ、「住民健康問題調査専門委員会」が設置されたことが述べられています。しかし、県専門委員会から著者らへは一度も問い合わせはないまま、「じん肺はゼロ。ダンプ粉じんと人体影響との因果関係は不明」と記者会見し、著者らの診断を全面的に否定した上、著者らに対する報告は全くなかったことが述べられています。さらに、採取業者は、千葉県予防衛生協会に依頼して従業員264名のじん肺検診を実施し、「全員異常なし」という、一部従業員に対して検診した著者らの所見と全く異なる結果を公表したことが述べられています。
著者は、汚染地区の粉じん量が桜島の火山灰に匹敵する量であると解説した上で、「県専門委員会による『じん肺ゼロ、因果関係不明』という発表は、これらをすべてもみ消すことになり、採取業者はこれによって大いに元気付けられ」たため、ダンプも水平積み、シート掛けをやめ、シートを掛けずに自由な過積載にもどったと述べています。
第5章「深刻な被害が浮き彫りに」では、地域においては少数派である被害住民の意見がほとんど反映されない「山砂公害対策協議会」が立ち上げられ、著者も理事に就任したが、その理事会の席で山砂組合の理事長から新規の採掘への承諾書へのハンコを求められ、これに反対してからは理事会に招かれなくなり、しかも、当時の沼田武・千葉県知事が「じん肺問題もあり、当分は新規の採掘認可をしない」と言明した矢先に、その採掘が始められてしまい、著者は理事を辞職したことが述べられています。
また、家の中にダンプが飛び込んでくることもたびたびあり、粉じんや排ガスにまみれ、交通事故死が頻発し、付近には交通事故死の供養柱が絶えないことが紹介されています。
第6章「各地のダンプ街道を見る」では、神奈川県中井町でダンプ公害をなくしたという「神奈川方式」の産みの親である高橋巡査に会い、街宣車やいやがらせ電話にも負けず、少年院を出たばかりの荒くれ者も多い運転手に向かって上着を脱いで"決闘"を挑み、腕相撲では誰にも負けず、体当たりで徹底した取り締まりをした一方で、「組合も何もないダンプ業界の改革に着手」し、「運転手に組合を作らせ、組合員でないダンプには、採取会社が砂を売らないよう」にさせ、厳しい組合の規則を作り、「組合化してダンプ運転手の統制をとり、運賃を一定にすれば、生活も安定し、事故も減るのだ」と説得を続けたことを紹介しています。この結果、「昭和51年ごろにはダンプ公害がほぼ解消し、運転手の採算状況も安定してきた」ことが述べられています。
高橋巡査は、「捕らえるだけではイジメッ子だ。彼らの生活を考え、メリットを与えてやらなければだめだ」と語り、協力者の一人である骨材協同組合の石田専務は、「採取会社さえその気になれば、ダンプ公害などは必ず改善される」と語っています。
第7章「どこまで続く、ダンプ公害」では、著者が、君津の山砂がどの事業に消費されているかの資料を求め、ダンプカー協会や千葉県君津支庁商工労政課に足を運んだが、「国家的な貢献が大で、膨大な資源を動かしている山砂産業ではあるが、その統計資料となるとあまり整備されていなかった」と述べ、採取場関係者の言葉として、
・公害研究者には口が固くなる
・転々と流通するのでその過程が明らかにならない
・業者間でもお互いの手の内は明かさない
という理由を紹介しています。
さらに、「山砂採取業者と国会議員、県会議員、市会議員との関係は密接である」として、
・採取業界の長老は、故水田三喜男代議士など、有力な国会議員の後援会長を長年続けてきた。
・ハマコーこと浜田幸一代議士は、かつて小糸地区の採取会社第一号である鎌滝建材の役員であった(「東京タイムズ」記事より)。
・その浜田派に属する渡辺二夫県議が千葉県ダンプカー協会君津支部長である。
など、山砂採取業者と政界の密接な関係を指摘しています。
本書は、20年以上の昔に出版されたものですが、現在に至るまで問題は根本的に解決されておらず、常に悲劇の再来をはらんだ、現代に通じる一冊です。
■ 個人的な視点から
中学の時の先生が、鬼泪山を削って山砂を取る計画に反対して、一度削ってなくしてしまったら、伝説のある山は二度と戻ってこないんだ、ということを切々と訴えていましたが、当時は子供だったからなのか、そういう時代だったからなのか、その意味が分かりませんでした。山が無くなって、景色が変わってしまう、ということに現実味が無かったのかもしれません。
■ どんな人にオススメ?
・東京湾は何で埋められたのかを知りたい人。
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『』
■ 百夜百マンガ
千葉というか房総半島には縁の深い漫画家さんです。とりあえず、この本を持って太海の漁師町をウロウロしてみたいものです。
投稿者 tozaki : 2007年10月03日 22:00
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