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2007年10月09日

地方崩壊再生の道はあるか

■ 書籍情報

地方崩壊再生の道はあるか   【地方崩壊再生の道はあるか】(#992)

  日本経済新聞社
  価格: ¥1680 (税込)
  日本経済新聞出版社(2007/06)

 本書は、日本経済新聞で「分権のデザイン」というタイトルで特集された自治体改革の動きや、夕張市の動向を詳報した「窮迫地方財政」等の記事をもとに、地域再生の方向性について提言しているものです。
 プロローグ「都市サービスが止まる日」では、近い将来、地方都市が破綻し、中心市街地への住民の移住策が進められるが、住民が地域の中心築ではなく福祉サービスが手厚い大都市に向かう「逆疎開」の人口移動が加速し、都市部の自治体が破綻する・・・というシミュレーションを紹介しています。
 第1章「ドキュメント『夕張破綻』」では、再建計画を策定した夕張市の後藤前市長が、再出馬への周囲の期待にもかかわらず、引退した理由について、「再建計画に沿って自己破産させた観光関連の第三セクター、夕張観光開発が地元信用金庫かr借りていた5千6百万円について、後藤氏は個人保証していた。一括弁済を求められた場合、自信が自己破産する可能性がある」という理由も挙げられると述べています。
 また、夕張市が行っていた「一時借入金を用いた会計間での年度をまたがる不適正な会計処理」について、自治体に許された「出納整理期間」を悪用し、「前年度と新年度が混在している二ヶ月の間に、複数会計にわたる前年度の資金不足を新年度の資金で穴埋めし、赤字を単年度の決算では表面化させなかった」と解説しています。
 そして、「議会のチェック機能の不全」に加え、「監督者」であるべき道にも明確な戦略はなく、「道と市は自治体としては対等関係にあり、道は市に対し、あくまで助言しかできない」という「原則論」に囚われ続けていたと述べられています。
 また、再建計画策定に当たっては、「実際の策定作業に取り組んだのはもちろん市当局だが、道庁が派遣した職員が実務を取り仕切り、実質的な調整を進めたのは総務省と道だった」と述べ、徐々に総務省主導の色が濃くなったと解説しています。
 本書では、財政破綻の原因を突き詰めていくと、「強烈な行動力を持ち膨張路線を突き進んだ元市長の故・中田鉄治氏の責任に行き着く」として、「『炭鉱から観光へ』を合言葉に、豊富なアイデアで観光施設を着想。強烈なリーダーシップで大規模な投資を推進し、一時は『全国一のアイデア市長』の名をほしいまま」にし、「同時に、市に膨大な負債を残した人物」であると評するとともに1990年には「ふるさと創生資金」を使って、第1回の国際映画祭を開催し、「同年には、旧自治省から『活力あるまちづくり優良地方公共団体』として自治大臣表彰を受けて」おり、「あるときまでは国にとっての『優等生』だった事実は忘れてはならない」と述べています。
 また、仲田氏をめぐる政治情勢については、「政治力があり、構想力もある中田氏に、保革相乗りで産炭地の危機打開を託した」という実情があり、「そこにはチェック機能の不在という落とし穴も潜んでいた」と分析した上で、中田氏がこうした支持基盤の下、「フリーハンドで拡大路線を突き進」み、「前半の3期12年を選挙の審判なしに市長の座を守り続けた」と述べています。著者は、中田市政の24年間の政治構造を、「保革相乗りと中田氏の手腕への過度な期待が、地方自治の『ガバナンス(統治)』を機能しない状態に陥らせた」と分析し、「その意味では、中田氏だけでなく、議会や中田氏に投票した多くの市民の責任を免れない」と述べています。
 再建開始後の夕張市政については、「職員の基本給を平均3割減らし、職員数を3年で半減以下にする」という再建計画の枠組みのなか、初年度の退職者は全体の半数に達し、「部長職12人と次長職11人は全員退職し、課長職でも32人のうち29人が去った。市長部局は5部17課30係を7課20係に縮小した」と、市役所の「崩壊」を解説しています。また、医療に関しては、夕張市立病院が診療所と老人保健施設へ縮小されたが、地域医療そのものは残り、「北海道出身で地域医療の第一人者として知られる医師、村上智彦氏の手に委ねられることになった」ことを紹介し、村上氏が、医療法人「夕張希望の杜」を設立し、「市が土地・建物を保有する市立診療所と老健施設の運営を受託」したことを解説しています。
 しかし、夕張市の再建計画に関しては、353億円もの赤字を18年かけて解消するという大変厳しいものであり、近隣の市町村の首長からは、「途中で再建計画が頓挫し、国や道からの財政支援を得た上で、周辺市町村と合併し『夕張』は消滅するのではないか」という声も漏れていることも紹介されています。
 補論「前代未聞の『自治体再生実験』」では、再建計画では、歳出面では、「全国で最も効率的な水準となるよう徹底した行政のスリム化と事務事業の抜本的な見直しを図る」と強調している一方で、歳入面では、「様々な分野で住民負担の増加を求め」、市税は「法令上の上限の税率を基本とする」と謳い、「入湯税の新設、施設使用量の50%引き上げ、下水道使用料や各種交付手数料の引き上げ、ゴミ処理の有料化」等の負担税を求めていることを解説しています。一方で、この再建計画自体が、「歳出削減と歳入確保に向けた対策をフル活用」したものであり、「想定が少し狂うだけで計画の実現性そのものが崩れかねない」と述べ、「『のりしろ』が小さく、弾力性に乏しい伸びきったゴムのような計画。成功させるためには、ほんの少しのズレすら許されない」として、人口動向などの不確定要素を挙げています。
 第2章「改革の荒海のなかで――変わる自治制度」では、三位一体改革について、「国が地方に配分する国庫補助負担金(補助金)を削減し、その分の国税の一部を地方税へと移し(税源移譲)同時に自治体の財源不足を補う地方交付税の見直しを進めること」であると解説し、小泉政権が、「4兆円程度の補助金削減と3兆円程度の税源移譲を実施」したが、「実際には改革に合わせて不要と判断された補助事業が廃止されたため、補助金の削減額は4兆7千億円に上り、期間中に交付税も5兆円減った」と述べています。
 また、道州制を巡る議論や東京都心部の政府直轄化案などを受け、「都と区の間で、二十三区の再編を含めた東京の自治のあり方の議論が始まっている」と述べ、その理由として、
(1)都民の生活圏、経済圏と二十三区の区域に大きなずれが生じている。
(2)二十三区間の人口や財政力の格差の問題。
(3)区の権限の小ささの問題。
の3点を挙げた上で、歴史的には、1943年に東条英機内閣の下で、東京府と東京市が廃止されて東京都が誕生した経緯を紹介し、「現在も緊急避難的な戦時体制が続いている」ことを指摘しています。
 また、2006年5月に、鳥取県日野町で開催された、「財政危機にあえぐ町村長6人」が集まった「小規模町村破たん回避サミット」を取り上げ、「負け組みの会合」だという影山亨弘町長の言葉を紹介しています。
 そして、財政を硬直化させる三大要因として、
・J:一般財源の4割弱を占める人件費。
・F:生活保護などの扶助費
・K:地方債償還などに充てる公債費
の3点を挙げ、「JFK」という言葉を紹介しています。
 さらに、自治体の会計制度である公会計について、「明治中期から百年以上、大きな変更はない。その基本は現金の出入りだけの記録集めた税金を行政サービスという形で還元していた自治体にとって、会計制度はこれで十分だった」と述べた上で、この制度では一時借入金や第三セクターも含め負債の全体像は見えないことを指摘し、福岡県福津市や群馬県太田市、大分県臼杵市などでのバランスシート作成の事例を紹介しています。
 著者は、日経新聞者が2006年9月に実施した全国調査をもとに、
・全国の市のうち、約1割が地方自治体の事実上の倒産に当たる「財政再建団体」転落への懸念を抱いている。
・その3分の1は3年以内に転落の恐れがあるとしている。
等の結果を紹介しています。
 第3章「広がる格差――行政サービス調査から」では、2006年に実施した「行政サービス調査」から、少人数学級、介護保険料等のサービスや負担の格差を取り上げ、県庁所在地の自治体に関して言えば、4分の3が「高サービス・財政悪化型」に分類できると指摘しています。
 第4章「自治体再生への挑戦――破綻の連鎖を防ぐ」では、行政コストを切り詰めた分を、子育て世帯の誘致に戦略的に投資し、村の人口と出生率を向上させた長野県下条村や、日本初のPFI刑務所を誘致した山口県美祢市、市役所の仕事のうち民間にできることを外部委託するサービス会社を設立した愛知県高浜市、「ごっくん馬路村」など村を丸ごとブランド化した高知県馬路村等の事例を紹介しています。
 また、道州制の議論に関しては、2006年2月に地方制度調査会がまとめた答申のポイントとして、
(1)都道府県を廃止し、全国を10程度に再編した広域ブロックに国の出先機関の機能を統合する。
(2)道や州や地方自治体とする。
(3)道や州の長(知事)や議員は住民の直接選挙で選び、知事は多選を禁止する。
の3点を挙げ、道州制になることによって、
・道路のトラブルが減る
・公立で小中高一貫教育
・警察の捜査がスムーズに
・九州はアジアの基地に
・関西は医薬の拠点に
等の未来図が可能になるとしています。
 そして、道州制が政治課題に浮上した背景として、l
・国と地方の二重行政を改称し、行政を大幅にスリム化する必要がある。
・「平成の大合併」で3200あった市町村が1800程度に減り、市町村が力をつけた結果、広域自治体である都道府県の役割が低下した。
等の点を挙げたうえで、今後、道州制の議論を進める上で、
(1)中央省庁の再編案とセットで検討すること
(2)市町村が強くなり、住民が便利になる制度にすること
の2点が大事な点であると述べています。
 本書は、自治体の破綻と再生の現在の動きについて、コンパクトに知ることができる一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書にも登場する夕張市立総合病院の経営を引き継いだ村上智彦さんが格闘する様子は、10月1日にNHKスペシャル「地域の医療はよみがえるか ~夕張からの報告~」で紹介されています。また、それ以前にもETV特集で続けて取り上げられており、全国に切実な「村上ファン」を増やしているのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・市役所はつぶれないと思っている人。


■ 関連しそうな本

 保母 武彦 『夕張破綻と再生―財政危機から地域を再建するために』 2007年08月08日
 松本 武洋 『自治体連続破綻の時代』 2007年01月04日
 吉富 有治 『大阪破産』 2006年10月20日
 白川 一郎 『自治体破産―再生の鍵は何か』 2006年10月30日
 橋本 行史 『自治体破たん・「夕張ショック」の本質―財政論・組織論からみた破たん回避策』 
 肥沼 位昌 『図解 よくわかる自治体財政のしくみ』 


■ 百夜百マンガ

もやしもん―TALES OF AGRICULTURE【もやしもん―TALES OF AGRICULTURE 】

 納豆菌は熱湯消毒ができないため、杜氏は納豆を口にすることがないそうです。ということは茨城県人は日本酒作りには向いていないということか?
 杜氏さんはイカ納豆やキムチ納豆をつまみにできないかと思うとちょっとかわいそうです。

投稿者 tozaki : 2007年10月09日 21:00

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