2007年10月24日
自治制度
■ 書籍情報
【自治制度】(#1007)
金井 利之
価格: ¥2730 (税込)
東京大学出版会(2007/05)
本書は、「現代日本の自治制度およびその改革について、それを規定する傾向性あるいは拘束性の観点から、自治制度の主宰者としての自治制度官庁にも焦点を当てつつ、分析」しているものです。ここで、本書独自の用語の使われ方として、
(1)「自治制度」:一定の地域ごとの自治に関する側面に着目するため、「地方制度」あるいは「地方自治制度」という用語を使用しない。
(2)「自治制度官庁」:日本の全国政府の特徴である「制度官庁」と呼ばれる一群の官庁が概念化されていることを反映し、「自治制度」を所管する国の機関を一括して捉える。
(3)「自治体」:「自治制度官庁」は、「自治制度」を介して、個々の「自治体」という組織と向かい合う点が特徴である。
という用語が使われています。著者は、本書で扱うのは、「『自治制度官庁』『自治制度』『自治体』の『自治制度改革』をめぐる相互作用の動態と、にもかかわらず、それらに通底して存在するかもしれない拘束性・傾向性である」と述べています。
第1章「2000年分権改革」では、2000年4月に実施された「第一次分権改革」において、自治体が、「地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うもの」と規定されたことについて、「『自主的』とは、"自己決定権の拡充"を意味することと理解できるから、分権改革にとっては、当然の規定である」が、「『総合的』とは、必ずしも"分権"とは直結する内容を持つものでは」なく、「むしろ、『総合的』であることをアプリオリに制度化することは、"分権化"とは相容れない可能性がある」と指摘しています。そして、2000年改革が、「自治体に、『総合的』と両立する限りでの『自主性』を制度化しようとした」ものであり、「『総合性』に違背しない『自主性』を期待しているものなのである」と述べ、「2000年改革の性格は、『総合性』を要求するところに最も顕著に現れている」と指摘しています。
著者は、本章において、「2000年改革の性格として、"分権"=『自主性』の影に隠れてあまり注目はされないが、法制自身が総括的に表明している"総合性"に関して、戦後日本の自治制度改革における特定の傾向性という視角から、行政学的に観察する」としています。
そして、自治制度の記述枠組として、提唱されてきた軸として、
(1)集権―融合の軸
(2)融合―分離の軸
(3)集中―分散の軸
(4)分立―統合の軸
の4つの軸を挙げ、このうち、(2)と(4)に注目し、この2つの軸の組合せから、
(ア)分離・分立路線
(イ)分離・統合路線
(ウ)融合・分立路線(=現状維持)
(エ)融合・統合路線
の4つの方向性が存在しうると述べ、2000年改革では、(エ)融合・統合路線が採用され、残りの路線は棄却されたと指摘し、「国からの関与が否定されなかったことが重要である」と述べ、「『緩やかな融合』へと変化した」としています。
また、融合・分立路線と融合・統合路線のうち、後者が選択された理由として、
(1)業界――首長・議長・総務系部局職員
(2)政界――「普通の政治家」の不在
(3)官界――主導官庁
の「政官業」という戦後日本の政策決定の傾向性から理解することができると解説しています。
著者は、「2000年改革は、分権・融合・統合路線を選択するものであり、戦後日本の自治制度を一定程度は、分権化へ向けて再編するものであった」としながらも、「既存の融合体制に手をつけずに、自治体の事務量・活動量を最大限に維持したもの」であり、「既存の集権・融合・分立体制と強制することも可能な路線」であり、さらに「融合・統合的であることを、自治体の『自主性』にもかかわらず、自治体に対して集権的に要請するものでもある」と指摘しています。
第2章「永遠に未完の分権改革」では、行政学者の西尾勝が、分権改革に関する講演・論説集に「未完の分権改革」という意味深長なタイトルを付けたことについて、
(1)明治維新・戦後改革につづく「第三の改革」としての分権改革は、ベースキャンプ構築に過ぎない未完のものという視点。
(2)2000年改革のテーマは、「未完の戦後改革」以来の残された課題が多かったともいえる。
等の視点を含意するものであると述べています。
そして、制度改革の過程について、分権改革の「永遠に未完」な特質が、
(1)改革構造:意思決定の構造と、それに由来する決定の傾向性
(2)改革反動:制度改革は、運用段階に入り不具合が発生することは不可避であり、改革後の一定期間を置いてから、実体論・現実論からの反動が発生する。
(3)改革波及:一つの制度改革は、関連する制度改革を次々に引き起こすことがある。
の3つの要因に由来していると解説しています。このうち、(1)に関しては、自治制度官庁が、戦後改革に際して、「内務省解体のトラウマ」を抱えたため、「『総合性』を制度的に確保することに、セクショナリスティックに固執してきた」ことを指摘し、「他の制度官庁以上に、自己保存のためには、『制度設計に情熱を傾け』」て、常に制度改革を課題としてきたと解説しています。そして、自治制度官庁が、「国の政府部内では他省庁に対して"分権"化を求めて行動するが、自治体に対しては"集権"的に振舞う」という「カメレオン体質」と呼ばれていると述べています。
また、自治制度改革の言説に着目するときに、分権改革の「永遠に未完」な特質が、
(1)横断的制度と個別政策の関係
(2)責任言説
の2つの要因に由来すると述べ、「分権化言説も集権化言説も常に存在しうる。そもそも、絶対的な集権・分権度合いがない以上、現状が『集権過ぎる』のか『分権過ぎる』のかは、水掛け論」であり、「『適切』な集権・分権のバランスなどというものも不明であるから、両言説は、常に一応の説得力を持って存在する」と指摘しています。
第3章「市町村合併と道州制」では、「市町村合併・同州制を、区域問題の一つとして、区域問題に見られる構造的要因・現象的要因が反映しているものとして、検討を加」えるとしています。
そして、現行体制の元では、「自治体の区域に関しては、問題認定のベクトルと解決困難のベクトルがともに作用するため、区域問題は浮遊する」と指摘し、その典型として道州制問題を挙げ、「道州制論は、現行府県の区域よりも広い区域が必要であるという問題認定と、現行府県区域よりも広い区域に新たな自治体である道州を設置するという解決方式との組合せ」であると規定し、現行体制が、「道州制という解決を困難にするベクトルを育んでもきた」として、
(1)府県の総合性にとって大きな脅威である。
(2)現行体制のもとで、都道府県は執行保障がされてきた。
(3)現行体制はすでに「大きな地方政府」になっており、道州を新たに設置することは、省庁縦割を反映して現実的な選択肢とはなってこなかった。
(4)既存府県は、現行体制の結節点の位置にあり、市区町村以上に、各種の制度・組織との相互関連性が深い。
の4点を挙げています。
また、都道府県が「中二階」の「中間団体」として、中核事務の不在・空洞化を指摘されてきたが、「基礎的自治体」にも「基礎となる中核的事務が実はない」として、敢えていえば、「住民登録・印鑑登録などの住民把握・窓口公証事務であるかもしれない」と述べ、「このような市町村の空洞化」が、「事務量の維持による存在証明を、これまで以上に必要と」し、「このような大量の事務を『核心的自治事務』として抱えるためには、『基礎自治体』の事務処理能力としての『受け皿』整備が必要」となり、大規模化が求められたと述べています。
さらに、道州制が、「議論だけはあっても実現したことはなかった」ことについて、道州制の場合には、「自治制度官庁が自ら触媒者とならなければならない」が、調整に失敗する危険が高いため、「制度官庁として『手を汚す』ことの危険を回避する限りにおいて、道州制の実現は促進されにくい。逆に、道州制の制度官庁が内閣府などに別に設置され、自治制度官庁としてではなく、『下請け機関』としての総務省自治行政局に『成り下がる』のであれば、道州制にも触媒者が生じることになる」と述べています。
第4章「大都市自治制度」では、「『府県』事務と『市町村』事務の総量一定の下でのゼロ・サム・ゲームとして大都市自治制度を観察」し、「この垂直的なゼロ・サム・ゲームは、府県と大都市とが、それぞれ『総合性』を追及することから生じる構造的な性格を持っている」と述べています。
また、政令指定都市制度について、「特別市制の自壊現象を回避するには、『薄皮一枚』でもよいから、『特別市』とは別の『府県』の層を維持することが賢明である。これができるのは政令指定都市制度である」と述べ、政令指定都市制度が、「普遍主義的自治制度のもとで、実質的な『特別市』を達成するための、巧妙に開発された制度である」と解説しています。
第5章「基礎的自治体の諸類型」では、近代日本の基礎的自治体において、「『昇格』への指向性が観察される」として、
(1)村は町へ、町は市への「昇格」が、基本的な発展段階の経路である。
(2)旧六大市の展開した特別市制運動は挫折したとはいえ、かなり有力に展開された「昇格」運動であった。
(3)市は事務権限によって「格付け」られているため、個別法令による事務権限委譲によって「昇格」していく。
の3点を挙げています。
そして、「これまでは、一旦、上位累計へ『昇格』されると、『降格』はないという制度運用が採られてきた」ため、「上位類型に属する自治体は数は増え、しかも、内実としては、相応の人口規模を持たない自治体をも抱えることになる」として、「市が特にインフレを起こし」、「町村でも相応の人口を持たない小規模町村も存在してきた」ことを指摘しています。
また、三都および少数の一般市から出発した市が、「明治自治制度のもとでは特例的な存在であった」が、「市と町村の差異が希釈化されていった」とともに、「郡部町村も、人口増加・都市化あるいは市への吸収合併により、市に組み込まれていった」ことから、「市は『格付けインフレ』を起こしていった」ことを述べた上で、「新たな差別化への動き」として、三都に名古屋市・横浜市・神戸市の新興三市を加えた六大市が「戦前の特例的な大都市として登場してきた」と述べています。そして、政令指定都市制度が、「法制上の要件が有意味ではなく、その後、個別的・場当たり的に拡大したため、政令指定都市の定義は不明確になった」ため、「指定された大都市から、逆に実質的な運用基準を推定するしかない」と述べ、政令指定都市制度が、「政令指定都市らしくない政令指定都市」が加わることで「内側から希釈化していった」として、代表的な事例として「千葉市への懸念・疑念」の事例を挙げています。
著者は、「市町村という類型から出発した戦後日本の基礎的自治体制度」が、「都市特例制度の差別化と希釈化の結果、都市4類型、市区6類型(都市の4類型に、特別区と行政区)が発生した」が、その類型区分は「破綻状態」であると指摘しています。
第6章「特区制度」では、「規制緩和も地方分権も、『中央政府の統制を弱める』という観点で共通性を持ってきた」として、「『脱中央』や『小さな中央政府』という観点で、『民間化』と『地方化』は共通する」と述べています。
また、戦後日本の自治制度に、「普遍主義と特例主義の2つの系譜」があり、おおまかには、「法制的には特例主義は未熟であり、財政的には特例主義は成熟している」として、「自治制度は全体としては普遍主義が強く、自治財政制度は、財政的な特例主義と制度的な普遍主義との妥協と棲分けを図るものとなっている」と解説しています。
さらに特区制度が、「規制改革と分権改革が共存しているように見えて、規制改革が集権化を帰結することもある」ことを指摘し、「特区制度官庁(内閣官房特区推進室)には、そのような指向性が存在しないわけではない」と述べています。著者は、「分権改革と規制改革の交錯である構造改革特区制度の仕掛」が、単純な分権改革ではなく、「集権的要素が不可避的に存在しており、分権改革との関係では両義的である」として、「構造改革特区制度は、≪集権による分権≫であるとともに≪分権による集権≫である」と述べています。
著者は、構造改革特区制度において、自治体が、「国に受け入れられる特区提案を巡る競争をする」ことから、「国(内閣官房・推進本部)と『お気に入り』自治体」の連合が成立すると述べ、この推進本部=『お気に入り』自治体連合が、「一方では、国の規制を維持しようとする省庁に対抗して、推進本部=『お気に入り』自治体連合の望む方向へ、規制改革を求める」ため、「自治体の意向によって規制省庁の規制改革が進むという意味では、『地方分権化の実験場』として分権的である」が、この連合が、「お気に召さない」自治体とも退治することになるため、「国(内閣官房・推進本部)の望む方向でしか自治体の政策提案は活きないという意味では、集権的である」ことを指摘しています。さらに、この制度が、「国無答責・自治体答責の原理」に基づいており、「特例措置の結果責任は、自治体が集約して負う形になっている」点について、自治体が「住民に対して説明責任を果たすよりも、まずもって、国に対して説明責任を果たす必要がある」点において、「集権的であるという解釈も成り立つ」と述べています。
そして、構造改革特区制度が、「第一次分権改革の延長であるとともに、それに対する反動でもある」として、
(1)≪集権による分権≫の営みという側面では、延長という色彩が強い。
(2)そのアプローチは特例主義を出発点としており、特例主義的なインセンティブを前提にしている。
(3)≪分権による集権≫という仕掛けが埋め込まれている点で、戦後日本の地方自治の集権・融合・分立体制の有様そのものの再現であり、第一次分権改革への国レベルでの反動でもある。
(4)法制での特例主義という難しい仕掛けを含んでいたため、中期的には特例主義になじむ財政面の地域再生特区に変質していった。
の4点を挙げています。
本書は、読み始めこそ「自治制度官庁」などの聞き慣れない用語使いに戸惑いますが、それに慣れてしまえば却ってすっきりと理路整然と読むことができる一冊です。
■ 個人的な視点から
第6章の特区制度の解説の部分で、構造改革特区推進室のオリジナルメンバーだった福島伸亨さんの言葉が引用されていたことに驚きました。福島さんは非常に熱い人なのですが、こういうガチガチの学術書でお目にかかれるとは嬉しい限りです。
■ どんな人にオススメ?
・日本の「自治制度」を理解したい人。
■ 関連しそうな本
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西尾 勝 『地方分権改革』
西尾 勝 『未完の分権改革―霞が関官僚と格闘した1300日』 2007年04月09日
■ 百夜百マンガ
アネモネとイモトモネで姉妹という設定が安易でいて作品の雰囲気をよく表しているのではないかと思います。
こういうときには「県」という設定はいいですね。
投稿者 tozaki : 2007年10月24日 22:00
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【フラン県こわい城 】