« なぜ日本人は賽銭を投げるのか―民俗信仰を読み解く | メイン | 「粉もん」庶民の食文化 »

2007年11月09日

実践!自治体の人事評価―「評価される側」からのアプローチ

■ 書籍情報

実践!自治体の人事評価―「評価される側」からのアプローチ   【実践!自治体の人事評価―「評価される側」からのアプローチ】(#1023)

  中村 圭介
  価格: ¥2000 (税込)
  ぎょうせい(2007/04)

 本書は、地方公務員の「働きぶり、仕事で発揮する能力を評価するためには、どのような制度がふさわしいのだろうか」、つまり、「地方公務員にふさわしい評価制度」を探ることを目的としたものです。
 第1章「評価の必要性」では、著者が前著『変わるのはいま――地方公務員改革は自らの手で』で指摘した地方公務員の人事管理の問題点として、
(1)管理職の選抜に当たって、人事評価を使う自治体は民間と比べて少ない。
(2)長期間休まず規則を破らず、ただ勤務していれば、仕事ぶりにかかわらず、誰でも同じように毎年給料が上がる。
(3)3年から5年で職場を異動し、しかも、相互に関連のない職場を異動する。
の3点を挙げ、「個々の職員について、どんな知識、スキルが不足しているのか、どのような能力を開発していくべきなのか、どのような仕事に向いているのかを知る必要」があり、そのために人事評価が必要であると述べています。
 そして、「民間のような人事管理は自治体には適さない」という声に対し、「良質な行政サービスを効率的に提供していくためには、マーケット・メカニズムに変わる、何らかの工夫が必要となる」として、その一つとして「適切な人事管理」を挙げ、「自治体では、民間以上に人事管理が重要となる」と述べています。
 また、評価制度の設計に当たっては、「職場の目線を大事にしたい」と述べ、その理由として、
(1)評価される側の納得を得たいから。
(2)評価する側の負担も軽くなるから。
の2点を挙げています。
 第2章「職員の意識」では、自治労福岡県本部に所属する組合員30,580人を対象に実施したアンケート調査に対して、42.2%にあたる16,242人から得た回答について解説しています。
 まず、人事評価制度導入に対しては、10人中6人と予想以上に高く、その理由として、「現在の人事処遇への不満」が背景にあると述べています。
 そして、「積極派、慎重派、反対派」を分かつものとして、「現状の人事管理への不満」を挙げ、「積極派の4分の3、慎重派の3分の2は人事管理に不満を持ち、これに対して反対派は2人に1人となる。不満があるからこそ、積極派になるし、あるいは慎重派になる」と解説しています。さらに、人事評価制度がうまく機能していくためには、「フィードバックの仕組みを作ること、評価者訓練を行うこと」を挙げた人が覆いと述べています。
 第3章「職場の目線(1)――一般職」では、「県の出先機関、市町村そして県」の順序で、著者が分類し、概念化した職場の目線を、その根拠となった発言とともに述べています。
 県の出先機関については、「仲間の働きぶりや能力を見る目線を分類し概念化」したものとして、
(1)法令に関する知識
(2)顧客である市民への対応力
(3)個々の市民が置かれている状況を推理、分析し、的確な判断を下す能力
(4)仕事への積極性
(5)仲間たちとの協調性
の5点を挙げ、発言からは抽出されなかったが、
(6)業務に関する知識
を加えても良いかもしれない、と述べています。
 つぎに、市町村で働く一般職については、「多くの仕事に共通のものと、特定の部署の仕事だけに限られる固有のものとがある」として、前者については、
(1)法令に関する知識
(2)業務に関する知識
(3)仕事への積極性(ただし、県の出先機関で指摘されたものと違うものも含まれる)
(4)仲間たちとの協調性
の4点を挙げ、部署に固有の目線である後者については、
(1)企画立案能力
(2)顧客である市民への対応力
の2点を挙げています。
 さらに、県庁で働く一般職については、市町村の一般職と異なる点として、
(1)窓口で市民と直接、応対するような仕事がない。
(2)県の出先機関、市町村の指導、監督といった仕事がある。
(3)迅速に仕事をこなしていくことが特に求められる。
(4)議会対応が仕事の中で大きな比重を占める。
の4点を挙げ、多くの仕事に共通する目線として、
(1)法令に関する知識
(2)業務に関する知識
(3)仕事への積極性
(4)仲間たちとの協調性
(5)仕事の迅速性
の5点を挙げた上で、特定の仕事に固有の目線として、
(1)企画立案能力
(2)指導監督の対象となる出先機関、市町村の関係部署とのコミュニケーション能力
の2点を挙げています。このうち、「仕事のへの積極性」の中では、「アンテナを高く張っている人とそうでない人がいる」として、「そういう情報って自分で探さないと、降ってくるものじゃない」という発言を紹介しています。
 さらに、市町村、県の本庁、出先機関で働く一般職が、「どのような目線で、係長や課長などの働きぶりや能力を見つめているか」について、「一般職は、管理職の働きぶりや能力を、まずは、同僚と同じ目線で見る」上で、管理職固有の目線として、
(1)リーダーシップ
(2)部下に対する信頼
(3)責任
の3点、さらに県庁だけは、
(4)議会対応力
が加わると述べています。
 第4章「職場の目線(2)――現業職」では、「現業職は決して『単純労務職』ではない」と述べ、「単純労務」という言葉から一般的にイメージされる、「体を動かすだけで、知的な判断業務も必要とせず、かつ、技も不要であるような仕事」とは、現業職の実像は「大きくかけ離れている」と指摘しています。
 まず、県の道路技術員については、道路の維持管理業務に必要な知識と能力として、
(1)担当している道路の状況、その周辺環境についての知識
(2)天候や道路の状況に応じて、監視する対象を絞り込む、点検の目線を集中する能力
の2点を挙げ、「この2つの能力をあわせて以上の早期発見能力とでも言えようか。点検目線を絞り込み、道路に見られるわずかな兆候を見逃さずに、以上を早期に発見できるかどうか」が求められると述べています。
 次に、農業技術員に必要な能力としては、
(1)作業の立案能力(段取り能力)
(2)各作業の適切な時期を判断していく能力
(3)質の異なる土をうまく耕作し、農作物をうまく栽培していく技術
などを挙げています。
 次に、学校給食調理員については、仕事がうまくいったかどうかは、「おごちそうさまという声が聞こえた時」や「残滓とかが少なかった時」という正直な結果が還ってくることが述べられています。
 次に、清掃・し尿処理作業員については、「数台ある清掃車、バキューム・カーに、どの区域を担当させれば、もっとも効率的にごみ収集、し尿処理ができるだろうか」という「パズルを解かなければ、配車計画は立てられない」と述べ、「このパズルを解いているのは、清掃・し尿処理作業員自身である」ことについて、「プロジェクト班(収集ルートを策定している)を現業がもっているから、直営でやっていける。当局側に渡してしまったら、くみ取るだけの仕事になる」という発言にプライドが現れると述べています。
 著者は、これらの抽出した項目について、「抽出した諸項目こそが、現業職場における目線である」と述べ、「ここに概念化されている言葉を、現実に即して理解すること」が重要であると述べています。
 第5章「人事評価制度案」では、グループ討議から抽出した職場の目線をもとに、人事評価制度案を述べています。その概要として、
(1)一般職員を初級、中級、上級の3クラスに分け、その上に、係長を持ってくる。
(2)このクラスごとに、クラスごとに具体的な評価基準を作る。
の手順を挙げ、評価基準作成の方法として、
(1)職員個々人が保有する知識、能力などを質的、量的に把握し、かつ表現することが比較的容易な評価項目
(2)職員個々人が保有する知識、能力などを質的、量的に把握することは比較的容易だが、それを直接、表現することが比較的難しい評価項目
(3)仕事への積極性、企画立案能力については、積極性を向ける対象、企画立案する事業計画や条例案などの難易度
(4)協調性については、チームの中で果たすべき役割
(5)よりよい市民サービスを提供するという姿勢
の5点を挙げています。
 その上で、注意すべきこととして、
(1)実際に自分達の職場で求められている具体的な知識を念頭において、評価を下すこと。
(2)仕事への積極性や企画立案能力については、求められている知識、能力等を、クラスごとに具体的に確定しておくこと
の2点を挙げています。
 第6章「自治体が変わる」では、著者が、「人事評価制度は自治体の人事管理を変え、そればかりでなく、自治体そのものを変える」という思いから、地方自治体の人事管理、人事評価制度を調査研究してきたと述べています。
 本書は、職員自身の言葉から自治体職員の仕事と能力を拾い出した一冊です。


■ 個人的な視点から

 自治労のアンケートがベースになっているだけに、市町村から県までの幅広い職種の職員を対象にしている点が本書の強みでしょうか。ただし、実際の評価制度の構築部分は、残念ながら概論レベルで終わっている点があります。
 これは、研究者というスタンスの限界ということもあり、ここから先は、実際の実務担当者がどれだけ取り組めるかにかかってくる部分なので、研究者にこれ以上を求めるのは酷ではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・人事評価の仕組みに不満がある人。


■ 関連しそうな本

 山本 直治 『公務員、辞めたらどうする?』 2007年08月24日
 稲継 裕昭 『日本の官僚人事システム』 2005年02月10日
 稲継 裕昭 『人事・給与と地方自治』 2005年12月09日
 川手 摂 『戦後日本の公務員制度史 「キャリア」システムの成立と展開』 2005年12月29日
 早川 征一郎 『国家公務員の昇進・キャリア形成』 2006年04月20日
 山中 俊之 『公務員人事の研究―非効率部門脱却の処方箋』 2006年06月08日


■ 百夜百マンガ

宇宙海賊キャプテンハーロック【宇宙海賊キャプテンハーロック 】

 「ヤマト」や「999」に比べて通好みのする作品ですが、作者の男のロマンと美学をこれほど表した作品とキャラクターはありません。

投稿者 tozaki : 2007年11月09日 21:00

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.pm-forum.org/MT3/mt-tb.cgi/1546

コメント

コメントしてください




保存しますか?