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2007年11月22日
「社会を変える」を仕事にする 社会起業家という生き方
■ 書籍情報
【「社会を変える」を仕事にする 社会起業家という生き方】(#1036)
駒崎弘樹
価格: ¥1470 (税込)
英治出版(2007/11/6)
本書は、「病児保育」という社会問題を解決する事業型NPO「フローレンス」を経営する社会起業家(ニューズウィーク日本版の『世界を変える社会起業家100人」の1人)である著者が、「食えない」業界だった病児保育の世界にイノベーションを起こし、自分達の街を、そして、「社会を変える」ことを仕事にすることができる時代を切り拓いていく過程を語ったストーリーです。
第1章「学生でITベンチャー社長になっちゃった」では、学生ITベンチャーの社長をしながらも、「自分は何がしたいのか」に悩んだ著者が、高校受験、アメリカの田舎への留学、異国から見た日本、と回想を重ねる中で、「日本社会の役に立ちたい」という言葉に出会った瞬間を、
「ノートにその言葉が記されたとき、僕は誰もいないにもかかわらず周りをきょろきょろ見回した。まるで自分が書いた字ではないような気がした。すぐに斜線を引いて黒く塗りつぶしたが、また同じ言葉をその下に書いてみた。
日本社会の役に立ちたい。」
「もう一度自分の書いた言葉を見た。迷いなくそこに寝そべっている言葉を、僕は汗をかいて狼狽しながら、にらみつけた。」
と語っています。実は、ここが本書の一番の山場です。
第2章「『社会を変える仕事』との出会い」では、ボランティア団体と同じようなものと思っていたNPOが、アメリカでは、ビジネス界からの人材やノウハウの流入によって、「事業によって社会問題を解決する」方向にシフトしていること、そして、事業によって社会問題を解決する「社会起業家」という言葉に出会った驚きを、
「これならば、2年の間会社経営に身を費やしてきた僕にもできる、いや僕だからこそできる『日本社会の役に立つ』方法ではないだろうか」
と語っています。
そして、ベビーシッターをしている母親から、子どもの看病で会社を休んだためにクライアントが会社をクビになってしまった話を聞いたことを思い出し、親が子どもの看病をするという「当たり前のことをして職を失う社会」という「社会問題」に気づきます。また、著者自身が、子ども時代に同じ団地の「松永さん」に預かってもらっていたことを思い出し、今の下町を見て、「松永さんは、もういないんだ」という言葉を口に出すことで、「俺がやってやるさ」と、この問題を「社会問題、という抽象的な言葉ではなく、血の通って、手のすぐ届くところにいる気に食わない野郎のよう」に見据えています。
第3章「いざ、『社会起業家』!」では、「子どもが病気になったときの預け先がない」という問題には、「病児保育問題」という名前がついていたこと、凄腕の社会起業家だったナイチンゲールのファーストネームにあやかって「フローレンス」という組織名を決めたこと、助成金をめぐって魑魅魍魎あふれるNPO業界の暗部を目にしたこと、商店街のおじさんから衆議院議員、公務員までさまざまな人種とさまざまな言語を交わしたことを語っています。
そして、「ニーズあるところにマーケットありき」というビジネスの原則にもかかわらず、病児保育の施設は僅かしかなく、その原因が、事業者に赤字を強いる行政の補助金の仕組みにあり、「全国の9割の病児保育施設が赤字」という状況にあることを知り、「経済的に成り立つモデル」を模索し始めます。
第4章「大いなる挫折」では、「商店街の空き店舗を使って病児保育事業をする」というアイデアの実現のため、商店街の世界の顔役に気に入られ、行政を説得し、物件を見つけ、小児科医のバックアップを取り付けた著者が、頼みの綱にしていた中小企業庁の補助金を、「NPOが嫌い」だという区長のストップをかけられ、事業の頓挫を余儀なくされます。そこに、企業からは助成金を返せと言われ、プライベートでは失恋するという追い討ちをかけられ、「心が折れた」状態に陥ってしまいます。
著者は、活動を支援してくれた、「仙人」というあだ名を持つETIC.の宮城代表に「もうやめます」と告白に行きますが、仙人からの、
「君さ、本当は何がしたかったんだっけ?」
「病児保育の問題解決のために、新しい『病児保育の施設』が必要なのだね?」
という問いかけに答えているうちに、
「施設をつくることだけが病児保育問題を解決する手段ではない」
と気づき、また走り出します。
第5章「世の中のどこにもないサービスを始める」では、病児保育の問題は、「『預かる場所』が少ないということ」だとノートに書き付けた著者が、自宅で預かってくれる「松永のおばちゃんを、大量生産すればいいんじゃないか?」というアイデアにたどり着きます。著者は、「松永のおばちゃんは医療のプロではない」が、「医師と提携して、預かっているときにアドバイスをもらえる体制を構築すればいい!」という「脱施設モデル」を発展させ、定額制が当たり前になっているインターネットの世界をヒントに、「保険共済型課金システム」を採用することで、財務モデルを成立させています。
さらに、世論形成とネットワーキングのために、「子育てにイノベーションを」と題したシンポジウムを開催したことをきっかけに、同じ問題意識を持つ、マーケティング・コンサルタントや弁護士などのプロフェッショナルが、フローレンスの活動に「プロボラ」(プロフェッショナル・ボランティア)として参加してくれるようになります。
また、「こどもレスキュー隊員」となってもらう、「子育てのベテランで、病気の子供でも預かろう、っていう気合の入った人」を探すうちに、「最も頼みたくない人物」である(勘当されている)自分の母親に頭を下げ、「地域に埋もれた、志を持つ、子育て経験者という宝」を捜し求めています。
第6章「『地域を変える』が『社会を変える』では、2005年4月のサービスインに向け、説明会を重ねた他、大手メディアでフローレンスの取組みが紹介された裏には、フローレンスの広報アドバイザー的な役割を果たしてくれるマスコミの記者から、「ソーシャルベンチャーの唯一の武器は、明確な社会性」であり、「言葉が認識を生んで、認識がアクションを生むの。アクションが変化を生む」とハッパをかけられ、プレスリリースのイロハを叩き込まれた成果であることが語られています。
また、弁護士や大手企業の人事のプロ、行政マンがプロボラとしてバックアップしてくれたほか、学生インターンたちが銀行の内定等を蹴ってフローレンスへの就職を希望したことについて、「世の中は変わり始めている、確実に。」と語っています。
そして、フローレンスのオフィスのある「Z区」の区役所の係長から、「はっきり言って、迷惑なんですよね」と厭味を言われたことを、「無関心な国民が生み出した無数のばかげた状況の、単なる一個の象徴だ」、「敵は彼のような象徴ではなく、いままさに日本がかかっている『無関心のくせに依存する』病気。日本人の精神性そのものではないだろうか」と語っています。
また、厚生労働省の官僚が、1回のインタビューと研修マニュアルを元に、フローレンスのシステムをパクって自分たちの政策にしてしまったときには、激怒していろいろな人に愚痴っていますが、介護業界のパイオニアである「NPO法人ケア・センターやわらぎ」の石川治江氏から、
「国にパクられて一人前」
「あんたがしたいことって、何さ?」
「病児保育問題を解決するんだったら、国にパクられたほうがいいじゃないか。そのほうが全国で取組みが始まるんだもの」
とたしなめられ、己の器の小ささを恥じています。
ところが、国のモデルは、ノウハウもなく、補助金が切れたら自立できない仕組みになっていたため、全国の事業者からのSOSや視察が来るようになり、「病児保育を始めようという全国の事業者をサポートする仕組みづくり」に取り組み、「参入する事業者が増え、育ち、活躍することによって、つまり市場が創出されることによって、『点』としての問題解決にとどまらず『面』としての問題解決が可能になるのではないか」と考え、「病児保育を『当たり前の社会インフラ』として日本に根づかせることができる」と述べています。
著者は、社会起業家が行なうソーシャルビジネスを、「氷砕船」にたとえ、「クリエイティブな解決方法をあらゆる方法でプロモーションし、政策化をあと押しする」として、「氷砕船」が作った新航路を、「タンカーや豪華客船である国や自治体や参入企業は、その後ろを通っていって、規模の大きな仕事をすればいい」と語っています。
そして、「政治家や官僚だけが世の中を変えるのではない」、ソーシャルベンチャーやプロボラのような「『気づいた個人』が事業を立ち上げ、社会問題を解決できる時代になっているのだ」、「『社会を変える』を仕事にできる時代を、僕たちは迎えている」と語っています。
本書は、「社会を変えたい」と悶々としている人に、一歩踏み出す勇気を与えてくれる一冊です。
■ 個人的な視点から
著者の駒崎さんや、本書に登場する「仙人」こと宮城さんとは、一昨年にアメリカから社会起業家をサポートするアショカ財団とREDFを呼んだ研究会でご一緒させていただきました。そのため、フローレンスの事業展開はNEC社会起業塾やマスコミなどでチェックさせていただいていましたが、本書で一番面白いと思ったのは、ITベンチャーの学生社長をしていた著者が温泉宿にこもって、「自分は何がやりたいのか」を自問する第1章です。駒崎さんの若さと目標の高さとがまぶしいほど輝いています。
■ どんな人にオススメ?
・社会の役に立ちたいと思っている人。
■ 関連しそうな本
デービッド・ボーンスタイン (著), 井上英之 (監修), 有賀 裕子 (翻訳) 『世界を変える人たち―社会起業家たちの勇気とアイデアの力』 2007年08月28日
渡邊 奈々 『チェンジメーカー 社会起業家が世の中を変える』 2005年08月11日
町田 洋次 『社会起業家―「よい社会」をつくる人たち』 2005年02月16日
斎藤 槙 『社会起業家―社会責任ビジネスの新しい潮流』 2005年06月01日
谷本 寛治, 田尾 雅夫 (編著) 『NPOと事業』 2005年01月28日
シルヴァン・ダルニル, マチュー・ルルー (著), 永田 千奈 (翻訳) 『未来を変える80人 僕らが出会った社会起業家』 2007年03月28日
■ 百夜百マンガ
作者の野球に対する思いがつまった作品です。パ・リーグ的雰囲気が好きな人にはお奨めです。
投稿者 tozaki : 2007年11月22日 23:00
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