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2007年12月04日
黒川温泉 観光経営講座
■ 書籍情報
【黒川温泉 観光経営講座】(#1048)
後藤 哲也, 松田 忠徳
価格: ¥777 (税込)
光文社(2005/2/16)
本書は、熊本県の黒川温泉「山の宿 新明館」の館主である後藤哲也氏から、旅行作家として全国の温泉を紹介している札幌国際大学観光学部教授の松田忠徳氏が、黒川温泉の景観造り、宿造り、人づくりの秘訣を引き出した対談を収めたものです。
第1章「黒川温泉はスゴかあ!」では、「日本一の活動をしとる」という黒川温泉の温泉組合がたった24軒の旅館で年間1億5千万円強の予算を組み、「全部が黒川の街造りに使われておる」から高い組合費にも文句が出ないと語られています。そして、露天風呂がない旅館には、組合が助け合って風呂を造り、土地がなければ土地の斡旋もし、「みんなで苦労を共にして、一緒に前進」した結果、「24軒全部に露天風呂が揃」ったと語っています。
後藤氏は、「お客さんは一度悪い印象を持ったら、もうなんもかんも悪いということになってしまう」ので、「駐車場に来られた時が、一つの勝負」だと語り、秋田の乳頭温泉郷の「鶴の湯」は、お客さんが「まずバスから降りたところで『うわあ、これはすごいなあ』と言う。それは、自分達の生活とはかけ離れた別世界だからでしょう。お客さんはすでに駐車場で感動しとるわけです。今そういう感動を与える旅館でなければ、全く経営にはならんのです」と語っています。そして、そのためには、「観光地全体が造り物に見えては絶対にいかん」ので、黒川に雑木を植えてきたのだと語っています。
後藤氏は、「旅館の雰囲気造りは、その場所で最高なことは何か、というところから考えていくもの」であるとして、「その場所、その場所で最高の感動は何かを考えて、解決した方がいい」と語り、「古い家をわざわざ改築するよりも、古いなら古いものの良さを出していったほうがずっといい」、宿の大きさも「小さいところの方が、本当にお客さんに喜んでもらえるサービスができ」、「工夫次第で、小さな部屋も結ったりを見せることはできる」と語っています。
また、黒川温泉のある経営者の言葉として、「ある株式会社が黒川温泉の経営をしている。お客さんは、それを廊下伝いでずっと回る。そういう雰囲気を造ろうじゃないか」と話したことを紹介しています。
第2章「後藤哲也はスゴかあ!」では、黒川温泉を日本一の温泉にした仕掛け人である後藤氏自身の生い立ちから迫ります。新明館の名物である洞窟風呂は、27歳のときに3年がかりで掘ったもので、「狭い土地で、お客さんに感動を与えられるのは何か」から考え、「何か感動を与えるものを造るとなると穴を掘るしかない」ということで始めたと語っています。
そして、「山の中の木を切って、その中に家を造ったのか」のように見えるという後藤氏の植栽の技術が、「自分が山に行って採ってきて植えた」ことで身につけたものであり、「その木がどういう種類でどういうような性質を持っているかということや木の気持ちまで」わかると語っています。
また、風呂造りのポイントとして、「露天風呂の場合は、できるだけ湯を少なめに入れて、広く見せるのが一つのコツですな。広く見せるとお客さんは喜びます。風呂はできるだけ広く、でも湯はあまりむだにならないように考えます」と語り、「狭い風呂では感動がない」こと、そして、「できるだけ自然に近いものにする」ことであると語っています。そして、露天風呂は毎日、必ず後藤氏自身が掃除をしており、「そうすると、風呂が喜んで元気が良くなります」と語っています。
さらに、17、8歳の頃から家業の旅館業に関わり、お客さんの送迎をしていた後藤氏が、「ここは料理が悪いな。温泉がようなかったら絶対ここには来ん」とお客さんが話していたのを聞き、親に言っても聞いてもらえず、だからこそ「自然に僕は風呂の方に力を入れてきた」という面もあると語っています。そして、温泉旅館の経営者にとって、「一番の勉強は、旅じゃなかですか。旅でよそのよさを学ぶことでしょう」、「それが一番自分の商売を成長させるコツじゃなかろうかと思います」と語っています。
第3章「現代人のための温泉論」では、「温泉造りには風景ではなく雰囲気が大切」であるとして、「これがわかっていない旅館が多い」と嘆いています。後藤氏は、景色がよいと「お客さんの気持が散る」と指摘し、「今の日本人にとって風呂とは何か」を考えると、「お客さんは、じっくり温泉を楽しみたい」ので、「とにかく温泉に入ったらよそに気が散らんように、じっくり温泉に集中して日頃のことは一切忘れたい」のだから、「これからはそういう造りにしないと、決して『温泉がよかった』とは言ってくれんでしょうな」と語っています。
また、経営者からアドバイスを求められると、「自分の守りをピシャッとしなさい。街の守りをせんとお客さんは来んよ」と語り、「都会の人は、自分の生活とは違うと感じられる雰囲気を求めているわけです。それに敏感に反応しなければ」と語っています。
第4章「公共温泉という矛盾」では、「温泉を知らない役所が本当に温泉を経営できるのか、ということが一番の問題」であると指摘し、「県の考え方、自治体の考え方は、まったくお客さんという存在を考えとらん」と語っています。
また、松田氏は、1年8ヶ月で全国2500湯を回った経験から、東北の湯治場と九州の共同浴場こそが、日本の温泉を支えている、そして、宿の面では「今の時代のセンスにあった宿」の6割は九州にあると語っています。
第5章「黒川温泉の現在」では、黒川温泉が全国に知れ渡った結果、団体が押し寄せてしまい、「満員の風呂に入られたお客さんの中から、『なんだこりゃあ、風呂に行ったような気が全然せんぞ』という声が聞こえてきた」ことを、「それは、ものすごく怖かった」と語り、一時的に団体バスで湯巡りに来るツアーを止めることにしたと語っています。そして、「昔は風呂がよかったが、もうこんな人の多いところなら行きたくない」というお客さんの風評が一番怖いと語っています。
本書は、お客さんが何を求めているのかを何十年も考え続けて黒川温泉を再興した後藤氏の哲学がつまった一冊です。
■ 個人的な視点から
お客さんにいかに感動を与えられるか、に徹底的にこだわって、雑木を植え、黒川温泉全体で感動を創造しようとする後藤氏と、とにかく温泉、それも源泉かけながしと共同温泉にこだわり続ける"温泉教授"こと松田氏の共通点は、いかに温泉に集中するか、という一点でしょうか。
■ どんな人にオススメ?
・温泉はどこも同じだと思っている人。
■ 関連しそうな本
後藤 哲也 『黒川温泉のドン後藤哲也の「再生」の法則』
宮本 和義 『和風旅館建築の美』 2007年09月30日
アレックス カー 『犬と鬼―知られざる日本の肖像』 2007年10月04日
高野 慎三 『つげ義春を旅する』 2007年10月07日
つげ 義春 『つげ義春旅日記』 2007年10月27日
■ 百夜百マンガ
涙を流す殺人者、という設定でグイグイ引きこむさすがの大御所です。後にギャグとしても真似される池上ワールドを堪能できる作品です
投稿者 tozaki : 2007年12月04日 21:00
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