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2007年12月05日

夕張問題

■ 書籍情報

夕張問題   【夕張問題】(#1049)

  鷲田 小彌太
  価格: ¥777 (税込)
  祥伝社(2007/04)

 本書は、2007年3月6日、政府に財政再建計画を認められ、財政再建団体に移行した夕張市について、「政府や道庁あるいはマスコミとは違った視点で、夕張市の固有な歴史にまでさかのぼって考察」し、解答を見出すことを目指したものです。著者は、今回の再建計画を「夕張市財政の救済=健全化策ではあるが、夕張市と住民が抱えているもっとも困難で基本的な問題にほとんど答えていない」と指摘するとともに、調べれば調べるほど、「自治体に共通な要素、役人仕事のいい加減さと無能さと無責任さが判然としてくる」とともに、「他の自治体と比べて桁外れであるということもはっきりしてくる」と述べ、「これほどの杜撰さが数十年にわたってまかり通ったのだという事実、それが夕張の特異性の一つでもある」と述べています。
 第1章「ダイヤ型=心臓の形をし、Y字型に伸びる旧石炭の町・夕張」では、夕張が「衰弱しつつある石炭=心臓」に代わる、新しい心臓である「観光」を移植する手術と行い、「タンコウからカンコウへ」という中田鉄治の「夢」に乗った「多くの商工業者をはじめとする夕張市民がいたことも事実だ」と述べています。
 第2章「『財政破綻』か、『市破綻』か? リストラは可能か?」では、再建計画案を一瞥した著者が、当初は「居直り」じゃないかと思ったが、よくよく読んでみると、「1万人余サイズの町で、ごく普通の生活がはじまるだけなのである」と述べ、「問題は5~10万人サイズの財政で生きてきた夕張市民にとっては、生活全般をダウンサイズさせるのは大変である」ということであることを履き違えないほうがいい、と述べています。
 そして、市破綻の遠因と真因、そしてこれらを座視してきた「近因」として、
「遠因 あいつぐ廃坑と補助」
「真因 観光とバブル」
を挙げ、「夕張には、石炭を『人質』に国費を引き出し、石炭産業の『衰減』とひきかえに観光や不動産業で『成功』した実例がすでにあった」と述べた上で、
「近因 死に体のまま放置された夕張」
を挙げています。
 一方で、「もうひとつの夕張」として、「石炭にも観光にも、国にもそして夕張市役所にも依拠しない、文字通り、夕張のメロン生産者と生産組合の長年にわたる、試行錯誤に満ちた真摯な努力によって成長してきた」夕張のメロン生産を挙げています。
 第3章「夕張の繁栄と衰退」では、「消し去ることのできない栄光の歴史をもっている」夕張の、「現局面だけで夕張を語ることは、夕張の一部をさして『裁断』、すなわち、『有罪判決』をするに等しい」と述べ、「歴史に実在する夕張の姿を直視し、その上で夕張の『いまある危機』の深度を測ってみたい」として、夕張の歴史を振り返っています。
 そして、夕張人の多くが取ったコースである「炭鉱から観光」は、「炭鉱≪から≫観光」ではなく、「炭鉱≪の≫観光」であったことを指摘し、「これでは、炭鉱も観光も廃れる、いわゆる『廃墟(ゴーストタウン)への道』である。しかも、『市』が企画・運営した事業で、役人の、役人による、役人のための事業である」と述べています。著者は、「私企業が手を出さない観光事業を、市がはじめた。集客増はあったが、頭打ちになり、進出した私企業でさえ撤退してゆく。かくして丸ごと市の事業である」と述べ、「そもそも夕張市が観光事業に手を出さなかったら、今日の破産を迎えることはなかった」と断言しています。
 また、「過疎地がどうして忌み嫌われなければならないのか?」と投げかけ、「夕張程度の、歴史も伝統もないところからはじまった炭鉱町が、廃坑になり、人口が流出して、一万人を切る。しかし、その町の歴史はようやく100年を超えたのだ。わずかだが、残るべきものは残った。残すべきものだってある」、「だが、夕張が好きで、そこで厳しくとも楽しく生きていくことができる人は、数千人単位で存在するのだ」と述べ、中田市長らが言った、「過疎化を押しとどめなければならない、夕張は瓦礫の山と化す」と、人口流出を無理に押しとどめようとしたことが間違いの根源であり、「夕張に住んで、素敵だ、好きだという心」、愛郷心が、「夕張人の手からこぼれ落ちてしまったんじゃないの?」と述べています。
 第4章「夕張再生のシナリオ 10のテーゼ」では、
「現実的で最善のシナリオ・困難な道」
として、「夕張の再生は、財政を再建すると同時に、自前の努力で政治経済的に生きてゆく生産と消費の基盤を確保する道を作ることである」と述べ、
・テーゼ1 石炭にパラサイトできない夕張が大前提
・テーゼ2 市政の一新を図る
・テーゼ3 高齢者対策には「仕事を!」を
・テーゼ4 農業で立つ、夕張
の4つを挙げています。
 そして、「現実的な道であり、再建は十分可能」であるが、「再生の道」ではなく、「この道をたどれば、遠からず夕張は終焉する」という、
「現実的で次善の策・夕張『終焉』の道」
として、
・テーゼ5 財政再建しても、自立できない
・テーゼ6 夕張市は終焉しても、「夕張」には残るものがある
・テーゼ7 市財政再建案は夕張「終焉」策である
の4点を挙げています。
 最後に、夕張の財政再建と再生を阻む道である「イージーゴーイング(easy going)」の道として、「夕張市がパラサイト性向を変えることができない可能性」も大いにある、
「最悪のシナリオ・衰減の道」
として、
・テーゼ8 国に依存(パラサイト)する
・テーゼ9 住民が現在のサービス維持を要求する
・テーゼ10 衰減の道は自滅の道
の3点を挙げています。
 第5章「夕張、その可能性の条件=哲学」では、日本の居住地の寿命が、「およそ30~50年で一変する」という持論を紹介した上で、故郷を失うのは、
(1)過疎化し、故郷が衰減すること
(2)過密化して大変貌を遂げることで家郷の実体が消滅すること
の2種があると述べ、「いずれが『辛い』かは必ずしも簡単ではない」と語っています。
 本書は、夕張問題に、財政や経済の視点だけでない、別の視点を与えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 著者は、元々は哲学・倫理学の教授なのですが、評論活動として大量の著書を持ち、中でも決め手になったのは、自身が過疎地で生活していて、『過疎地で快適に暮らす。』という著書まであることだったのではないかと思います。「過疎地がどうして忌み嫌われなければならないのか?」、「「ごく普通の生活がはじまるだけ」という著者の言葉は、過疎地での生活に裏付けられた、著者の実感ではないでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・北海道の中での夕張の意味を知りたい人。


■ 関連しそうな本

 鷲田小彌太 『過疎地で快適に暮らす。』
 保母 武彦 『夕張破綻と再生―財政危機から地域を再建するために』 2007年08月08日
 松本 武洋 『自治体連続破綻の時代』 2007年01月04日
 吉富 有治 『大阪破産』 2006年10月20日
 白川 一郎 『自治体破産―再生の鍵は何か』 2006年10月30日
 日本経済新聞社 『地方崩壊再生の道はあるか』 2007年10月09日


■ 百夜百マンガ

少女ファイト【少女ファイト 】

 女子バレーボールという一部熱狂的なファンの多い題材を扱いながら、シリアスに走り過ぎない展開は今風のスポーツマンガなのでしょう。

投稿者 tozaki : 2007年12月05日 06:00

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