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2007年12月26日

歴史人口学で見た日本

■ 書籍情報

歴史人口学で見た日本   【歴史人口学で見た日本】(#1070)

  速水 融
  価格: ¥714 (税込)
  文藝春秋(2001/10)

 本書は、「近代国勢調査以前の不完全なデータを基礎にしながら、人口学の手法を用いてそれを分析する学問」である「歴史人口学(historical demography)」という耳なじみのない学問分野について解説しているものです。
 第1章「歴史人口学との出会い」では、ポルトガルのリスボン大学とベルギーのゲント大学に学んだ著者が、「教区簿冊」(parish register)の分析によって「歴史人口学」として確立したルイ・アンリの著作に出会い、著者自身が慶應義塾大学の助手時代に「宗門改帳」の整理をした経験を持っていたことから、「日本の資料(「宗門改帳」)に彼の方法を適用すれば大変な成果になるということ」に気づいたことを語っています。
 第2章「『宗門改帳』という宝庫」では、帰国した著者が、普通のカメラやマイクロフィルム撮影機を持ってあちこちの「宗門改帳」を撮影して回ったことを語っています。
 また、「少なくとも室町時代まではよき中華世界秩序の一員」であった二本が、江戸時代の鎖国令によって、「ヨーロッパあるいはキリスト教を拒否することを建てにしながら、実は中華世界秩序から抜け出して独立することを意味した」のではないかと述べ、17世紀末には自国の暦を作っていることを挙げ、「鎖国令とともに始まった宗門改めの制度も、そうやって自立した日本の、一つの基本方針として行われたというふうにいっていいのではないか」と述べています。
 一方で、「宗門改帳」が、「日本に固有の、すぐれた資料」であるが、全国200くらいに分かれていたそれぞれの地域で、「宗門改帳」だけでなく、いろいろな資料の作り方について統一性がない上、残り方もばらばらなので、「これを使った全国を対象とする研究は非常にやりにくい状況にある」と述べています。
 第3章「遠眼鏡で見た近世――マクロ資料からのアプローチ」では、享保6(1721)年に8代将軍吉宗が始めた全国の国別人口調査を元に、享保期の日本の人口は、3千万人ちょっと位ではなかったかと推定しています。
 また、享保6(1721)年から弘化3(1846)年の間の、「高死亡率期」と呼ばれる危機を挟む時期(危機年)の全国人口の変動を国別に地図に落とすことで、「その危機のときにどこで、いかに人口が減ったかということが全国的に明らかになる」として、「平常年、危機年、あるいは地域別に整理してみると、ダイナミックな人口変動の本質が出てくる」と述べ、「大雑把に言えば、『西高東低』型の人口変動が見られた」と指摘し、「江戸時代(後半)の日本の人口は停滞していたという俗説はとんでもない間違いだ」と述べています。
 さらに、江戸初期の人口を「千2百万人プラスマイナス2百万人くらい」と推計した上で、17世紀中(元禄期より前)に、日本に大変な人口増大があったと述べています。
 第4章「虫眼鏡で見た近世――ミクロ資料からのアプローチ」では、諏訪藩の資料から、「17世紀に一種の人口爆発ともいうべき急上昇があり、それが享保5年頃(村によって違うが、元禄13=1700年から寛永寛延3=1750年くらいにかけて)に頭打ちになって横ばいに転じ、文政3~天保元(1820~30)年頃から再増大して明治に至るという線が引けた」と述べています。著者は、17世紀に人口増大が怒った理由として、「この時期に世帯の規模・構造が大きく変化」し、「一つの世帯に15人とか20人いる大規模な世帯」である「合同家族世帯」が、「直系家族世帯」あるいは「核家族世帯」へと「ばらばらに分解」していった中で、結婚率が上がり、みなが結婚するようになって出生率が上がることにより「人口爆発」が起こったと解説しています。
 また、効率の低い伝統型の農業がだんだん変わり、「諏訪では村あたりの世帯規模が4.5人という数字になると、もうそれ以下にはならない」安定した数字になることについて、「その村の農業生産がだいたい小規模になり、家族単位になった証拠」であると述べ、「百年くらいのうちにがらりと変わって、日本全体が家族経営になって」しまった江戸時代は、「ひじょうに大きな変化が起こったのだといっていい」と述べています。
 また、日本の村で、人の数と家畜(ここはほとんど馬)の数の比率が大きく変化し、「人口は増えるが馬の数は減っている」という変化について、「畜力から人力へというエネルギーの代替」が起こったと述べ、「この変化は、ヨーロッパ型の農業発展とは全く逆」であるが、この時代の農民の生活水準は上がっていることを、「勤勉革命」(industrious revolution)と名づけ、労働資本比率において、労働部分が相対的に増える変化であると解説しています。そして、「勤労とソフト面でのいろいろな発明・応用によって、江戸時代の農業生産性というのはかなり上がった。おそらく単位面積あたりの生産量は世界でも最高の水準までいっていたと思われる」と述べています。
 さらに、出稼ぎ奉公の人口学的意味について、「出稼ぎ先で死亡する者が多いことから、過剰になった人口を減らすという意味」があるとともに、それ以上に、「出稼ぎ方向にいったものが帰村しても結婚年齢が遅れ、その結果、生まれる子供の数が減るということ」、しかも階層的には圧倒的に小作層が多いことを指摘し、小作層の絶家と地主や自作の分家の組み合わせによって、「地理的移動と、社会的移動あるいは階層間移動というものが見事に組み合わさっている」ことを指摘しています。
 第5章「明治以降の『人口』を読む」では、日本における人口統計の確立者として、緒方洪庵の適塾に学んだ杉亮二を挙げ、幕臣としてオランダ語の本を読む中で統計書に出会い、「統計がいかに大事か、統計を通じてその国の状態を知るということがいかに重要か」を知ったことを紹介しています。そして、杉が、明治維新のさなかに静岡県下のいくつかの町で国勢調査をやったことや、明治政府の元で、のちの『日本統計年鑑』の元になる『政表』の編成を始めた琴などについて述べ、「自ら戸籍によらない統計をつくり、さらに国勢調査を実施する人たちを育てた杉という人物は、もっと認められていいのではないか」と語っています。
 また、脚気や結核等の病気にもかかわらず、明治になったときに3千5百万人くらいだった日本の人口が、日清戦争のときに4千万人、関東大震災の頃に5千数百万人、昭和10年頃には7千万人を超えるくらいと、「明治・大正期の日本の人口が等比級数的に増大していった」と述べています。そして、このように、「近代以前の社会の、出生率も死亡率も高い状態から、出生率も死亡率も低い、今の日本のような状況に変わっていくこと」を「人口転換」と呼び、「明治期というのは、長期的に見て死亡率が下がりだす、まさに日本の『人口転換』の時期だった」と解説しています。
 さらに、歴史人口学で、「出生率よりも死亡率のほうが高いような時期」を「高死亡率危機」(mortality crisis)と呼ぶことを紹介し、天明の飢饉の時期や、天保の飢饉の時期を挙げ、大正5年から8年にかけ、死亡率が急に上がり、「明治期にせっかく下がった死亡率が一挙に元へ戻ってしまった」大正中期を「大正高死亡率危機」と名づけています。
 第6章「歴史人口学の『今』と『これから』」では、著者が平成7(1995)年に立ち上げた「EAPプロジェクト(ユーラシア人口家族史研究プロジェクト)」について、その目標を、「イギリスやフランスではあまり使われてこなかった住民台帳型の資料を使った研究を行なうこと」にあると述べ、その特徴として、
・住民台帳型の資料を利用したこと
・高度な人口学や統計学の方法を適用したということ
の2点を挙げています。
 また、歴史人口学の意義として、
(1)対象とするのは「個人」ではなく、個人行動にまで観察の焦点を絞りうる人口集団であり、個人・夫婦・家族・世帯を認知しうるものである。
(2)対象とする人口集団を人口学や統計学の方法を用いて分析することができる。
(3)その界面が非常に広い研究分野である。
の3点を挙げたうえで、このような特徴から、「歴史人口学は、個人ですべてをカバーするより、何人かが集まって行なう、分業と協業によるプロジェクト型の研究に向いている」と述べています。
 さらに、「宗門改帳」で家族や人口のあり方を見ると、「大きく東北日本、中央日本、西南日本の3つのタイプに分けて考えることができる」と述べ、
・東北日本:早く結婚するけれど子供の数が少なく、直系家族を構成する。
・中央日本:結婚年齢は比較的遅いが子供はたくさん産み、核家族か直系家族を構成する。
・西南日本:結婚年齢は遅いが、結婚前に子供を産むことがあり、離婚も多く、一つの結婚と次の結婚との間に子供を産むこともある。傍系の夫婦まで一緒に住む合同家族と直系家族を構成する。
の3つのタイプを挙げ、このような違いが生じた理由として、「それぞれの地域に住み着いた人々が、元来持っていた価値観・風習などをずっと維持してきたことによるのではないか」と述べ、
・東北日本――アイヌ・縄文時代人
・中央日本――渡来人・弥生文化
・西南日本――海洋民
の3つのタイプについて解説しています。著者は、「江戸時代の『宗門改帳』は、かなり同化・混血が進んだとはいえ、今だ近代の法的強制力を持った改変以前の社会、特に家族のあり方を的確に示してくれる資料である」と述べています。
 本書は、人口や統計という切り口から日本社会のあり方とダイナミックな変化を伝えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 高度成長期以降の日本社会の変質に対する反省から、昭和初期や明治、江戸時代の農村の生活を見直す人が増えていますが、そういった世界に対するノスタルジーもすでにリアリティを失ってきてバーチャルなものに画一化しているのではないかという気がします。本書が示しているように、村の暮らしや家族のあり方は地域によって大きく特色があるものですし、300年間変化が少ないと思われがちな江戸時代の暮らしもダイナミックに変化しています。


■ どんな人にオススメ?

・江戸時代は変化に乏しい時代だと思っている人。


■ 関連しそうな本

 速水 融 『歴史人口学の世界』
 速水 融 『歴史人口学と家族史』
 鬼頭 宏 『人口から読む日本の歴史』
 田中 圭一 『百姓の江戸時代』 2007年09月16日
 田中 彰 『幕末維新の社会と思想』 2007年08月13日
 高橋 敏 『博徒の幕末維新』 2007年10月18日


■ 百夜百マンガ

巨娘【巨娘 】

 「巨大な娘」だから「小娘」ならぬ「巨娘」という設定も一発モノっぽいですが、だんだん設定がエスカレートしていく様子はまるでジャンプのマンガのようでした。

投稿者 tozaki : 2007年12月26日 08:00

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