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2007年12月27日

世界の〈水道民営化〉の実態―新たな公共水道をめざして

■ 書籍情報

世界の〈水道民営化〉の実態―新たな公共水道をめざして   【世界の〈水道民営化〉の実態―新たな公共水道をめざして】(#1071)

  コーポレート・ヨーロッパ・オブザーバトリ, トランスナショナル研究所 (編さん), 佐久間 智子 (翻訳)
  価格: ¥1680 (税込)
  作品社(2007/04)

 本書は、「国際的に沸き起こっている水に関する議論に一役買うことを目的と」したものです。本書は、「公共による水供給の画期的・刷新的な例を多数紹介して」おり、そのきっかけは、「こうした試みが成功をおさめているにもかかわらず、世間の注目を十分に集めていない」からであり、「これらは水の供給という分野を超えて、新自由主義的な企業主導のグローバル化に抗するオルタナティブの共通のヒントと見ることができる」と述べています。
 序章「水道民営化の失敗と、代替策に取り組む各国の動き」では、「今世界の各地では、民営化をめぐって驚くほど共通点の多い、同様の経験が積み重ねられている」と述べ、共通点として、
・民営化が失敗であったこと
・民営化に反対する運動が拡大していること
・過去の公共セクターの欠点についても批判があること
・これまでの「北」の公共セクターのモデルと、最近の「南」における参加型民主主義の形態の、それぞれの長所から導き出された新たな形態が構築されつつあること
などを挙げています。
 そして、1990年代の「水道民営化の10年」が、「明らかに失敗」であり、「民営化によって、効率化が進み、料金が安くなり、特に途上国地域に多額の投資が行なわれ、水道に接続されていない貧しい人々に上下水道が提供されるようになる」と期待されていたが、実際はそれとは異なり、「当初の約束とは違った結果がもたらされた経験」によって不評を買うようになったと述べています。
 第1部「成功している公営水道」では、インド・ケータタ州オラヴァナ村の事例を挙げ、、「オラヴァナの成功は、上水道セクター全体の民営化に抗する強力な武器である」と述べ、「世界銀行のモデルは、オラヴァナから数々の重要な教訓を得て修正され」、「いまや世界銀行が支援するプロジェクトにおいてさえも、飲料水は人びとの所有となっている」と解説しています。
 また、「参加型の自治体水道運営のモデルを実現」した例として、スペイン・コルドバ水道公社の事例を取り上げ、「コルドバで、質の高い、市民主体の水道サービスが実現したのは、参加と政治的意思によるものであった」と述べています。そして、「市民が参加する公営サービス事業を通じて、都市水道及び都市の水循環を管理しているコルドバ市の事例は、民間事業者よりも質が高く効率的なサービスを実現している公共機関が存在することを示している」と述べています。
 さらに、米国の事例を通じて、「公共事業体を民主化するということは、事業体の所有を公とするのか、私とするのか、という単純な問題ではない。民主主義とはプロセスであり、所有形態の話ではないからだ」と述べ、「公共事業体が民間企業に所有されている地域において、民主化を追及する人々は、公営化を要求するだけで満足してはならないだろう」として、「市民が規制プロセスにおいて公営事業体をコントロールし、行政トップに影響力を行使すること」も可能であることを解説しています。
 コラム<ヨーロッパの二重基準>では、ヨーロッパの多くの国で、「上下水道のすべて、または、ほとんどが公営である」にもかかわらず、EUが、「水道部門を世界貿易機関(WTO)の貿易協定の対象とするよう求めている急先鋒」であり、欧州委員会(EC)が、「自由化推進に固執し、自由化こそ途上国が本当に必要としている政策であるとさえ主張している」と述べています。
 第2部「新たな公共水道を目指して」では、ボリビア・コチャバンバの事例を取り上げ、1999年9月にコチャバンバ市営上下水道(SEMAPA)が民営化され、「世界銀行の圧力の下、不透明な入札プロセスを経て、アグアス・デル・トゥナリ社に売却された」が、その年末には、「水道料金は跳ね上がり、地域共同体が所有する水道は取り上げられ」るなどのトゥナリ社の横暴なやり方に、「コチャバンバの住民が抗議行動を開始」し、2000年4月には1週間に及ぶゼネストがコチャバンバ市を機能停止に追い込み、政府による激しい弾圧で17歳の少年が死亡し、最終的に「政府は2000年4月11日に敗北を認め、アグアス・デル・トゥナリ社」が去ることで「水戦争」が終結したことを解説しています。著者は、今回の変化が、「社会運動の連合や市民社会組織(CSO)の手で実現されたという意味」で大きなものであるとともに、より効果的な結果をもたらすためには、「運営管理の民主化が十分に制度化され、組織内部と職員の間でよく理解されることがどうしても必要である」と述べています。そして、「公営事業体と地域社会の共同運営を実施しているSEMAPAの基本原則」を、「効率を高めるためには社会による管理と住民の参加が不可欠であり、効率化と民主化は同時に進められなければ、どちらも達成できないという考え方」であると解説しています。
 また、アルゼンチンの事例では、ブエノスアイレス州において、米国企業のエンロンが、現地法人のアズリックス・ブエノスアイレスを通じて、「同社に好都合な条件でサービス供給契約を獲得」し、事業運営後、1年もたたないうちに、「これらの企業にはほとんど実体がないこと、そして、本当に必要とされる投資が行なわれず、契約にかかった費用を最も早く回収する方法が模索されているに過ぎないことが明らかに」なり、「エンロンには事業自体への関心がなかったため、水の生産と供給及び下水の回収と処理に深刻な問題が生じた。水道網は汚染され、浄水場は甚大な被害を受けた。汚水の回収・処理を行う施設は機能しなくなった。設備と技術に対する投資は行なわれず、重要なサービスが外部委託に切り替えられた」と述べています。そして、「現地の言語を話さず、既存の技術を知らず、基礎的な業務に十分な予算を割り当てないアズリックスと、問題の緊急な解決を求める利用者からの圧力という現実を前に、アズリックスと州政府の関係は険悪になって」いき、契約開始から2年もたたないうちに、親会社のエンロンが倒産したことで、「アズリックスは契約上の重要な約束を果たすことなく撤退することとなった」と述べています。
 第3部「公共の水道を求める人々の闘い」では、イタリアの水道で、「慢性的に漏水が起き」、「供給される水が漏水で失われる割合は平均で39%にもなる」とともに、実際乗せたいあたりの水道使用料も多いため、「欧州諸国の中で一人当たりの水消費量がもっとも多い」だけでなく、「持続不可能な水準に達している」と述べています。
 また、南アフリカでは、政府が、「世界銀行、国際通貨基金(IMF)、および欧米諸国の政府の新自由主義の理論に基づいた助言にしたがい」、「地方自治体や地方議会への助成金や補助金を大幅に削減し、公共サービスの民営化に向けた資金調達手段の開発に協力した」ため、数多くの地方自治体が、「多国籍水企業との『パートナーシップ』契約を結び、水道事業を民営かまたは企業化するように」追い込まれたと述べています。
 さらに、フィリピン・マニラの事例を元に、民間事業者に取って代わろうとする公営事業体が満たすべき要件として、
(1)運営の実施可能性:もっとも貧しい地域への水道の拡張と、最も破損の激しい、あるいは破損する可能性の高い水道網の修復を重点化した、明確な資本支出計画に当てる資金が用意できること。サービスに関して義務づけられた目標を達成する組織的能力があること。
(2)有用な政策環境及び法的枠組み:ミレニアム開発目標及び一般的な貧困削減目標に沿って、全世帯への水道普及を実現するための広範な国家政策を掲げること。業績に関する基準や、そのような基準を満たさなかった場合の罰則など、公共水道事業体に適用される法規則を制定すること。
(3)正統性及び説明責任:水に関する責任、権利、義務について合意を形成し、それを実施に移すための社会的な準備、教育、対話を継続すること。公営水道事業体の技術的及び財務的プロセスの透明性の確保。責任と説明責任が明確に連鎖されていること。
(4)財務的持続可能性:内部補助及び料金調整。
(5)独立した、実効性ある規制システム
の5点を挙げています。
 中国に関しては、中国政府が、「水を商品化し、水道を民営化することによって、淡水の供給不足の問題が解決すると主張している」と述べています。
 第4部「これからを考える」では、「人びとを中心とする多様な公営水道が成功」するためのもっとも重要な要件として、「その地域に十分な水資源があることや、行政にサービスを提供する能力があることなどが挙げられるが、決定的な要素として、国家や国際機関、地方政府、政党などから政治的な支援を得られるかどうか」を挙げています。
 また、公営水道サービスが、いくつもの矛盾を抱える可能性があるとして、「新自由主義のイデオロギーが、公営及び民営の水道運営を非常に問題のある形に収束させつつあるという問題」を挙げ、「新自由主義に基づくビジネスと経営のモデル(NPM:新公共経営論と呼ばれている)によって商業化が進められていることは、前述した公共サービスの精神に完全に反している」と指摘しています。
 さらに、1990年代に南の国々を襲った民営化の波場、「公営水道が支配的である米国、カナダ、日本、そして特に(西)ヨーロッパに襲いかかりつつある。すなわち、来たの国々の市民社会が大きな試練を迎えている」と指摘しています。
 本書は、世界的な潮流である「水道民営化」の負の側面を示してくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書は、グローバリズムに対抗する立場から、水道民営化の失敗事例と、経営に成功している、または、成功に向けて取り組んでいる公営水道の事例を集めたものですが、逆の立場の人からは、経営の悪い公営水道と民営化の成功事例を集めた事例集を作れそうです。
 ポイントは、いかに適切にガバナンスするかで、本書は、市民参加と民主主義のプロセスによるガバナンスを主張しているものと捉えることができます。


■ どんな人にオススメ?

・水道事業の経営形態は以下にあるべきかを考えたい人。


■ 関連しそうな本

 高寄 昇三 『近代日本公営水道成立史』 2007年05月15日
 宮脇 淳 , 眞柄 泰基 『水道サービスが止まらないために―水道事業の再構築と官民連携』 2007年11月28日
 国際調査ジャーナリスト協会(ICIJ) (著), 佐久間 智子 (翻訳) 『世界の"水"が支配される!―グローバル水企業(ウオーター・バロン)の恐るべき実態』
 ロビン クラーク, ジャネット キング (著),沖 大幹, 沖 明 (翻訳) 『水の世界地図』
 持続可能な水供給システム研究会 (編さん) 『水供給―これからの50年』
 ジェフリー ロスフェダー (著), , 古草 秀子 (翻訳) 『水をめぐる危険な話―世界の水危機と水戦略』

■ 百夜百マンガ

キーチ!!【キーチ!! 】

 常識外れのスケールの大きい人生を描こうと、幼稚園児の時代から始まる作品ですが、この先どこまで続くんでしょうか。幼少時から登場する作品といえば『六三四の剣』なんかが思い浮かびますが、このまま成人するまで描き続けられれば、著者の代表作になりそうです。
 ところで、主人公の名前が「輝一」というと、時の首相から名前を取った「宮沢熹一」が思い出されます。

投稿者 tozaki : 2007年12月27日 07:00

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