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2007年12月31日

音の不思議をさぐる―音楽と楽器の科学

■ 書籍情報

音の不思議をさぐる―音楽と楽器の科学   【音の不思議をさぐる―音楽と楽器の科学】(#1075)

  チャールズ テイラー (著), 佐竹 淳, 林 大 (翻訳)
  価格: ¥3780 (税込)
  大月書店(1998/03)

 本書は、1989年から1990年にイギリス王立研究所で行なわれた「クリスマス講演」を再現したもので、生徒たちが科学に興味を抱くように促すために、科学と音楽の結びつきについて実験つきで講演したものです。
 第1章「音楽とは何か」では、
(1)聴衆が講演を聴こうとして階段行動に入ってくるときの音
(2)シンフォニー・オーケストラがメンデルスゾーンのバイオリン・コンチェルトの第一楽章を終えるときの音
(3)シンフォニー・オーケストラがコンサートの前に音合わせをしているときの音
の3つの波形を示し、みんな同じに見えるが、1、2秒聞けば音の種類が分かることについて、「私たちがこの3つの音のどれを聴くときでも、とても精確な情報を受け取っているという事実」を指摘しています。そして、この3つの音の波形のトレースが、「一本の線だけでできている」ことが、「音を記録するマイクロフォンの前で変化する圧力を表しているのですから、これは予想されることです。圧力は急速に変わるとしても、どの時点でも各点で一つの値しか持ちません」とした上で、音源が一つだけではないことが即座に分かり、少し練習すれば楽器を聞き分けられることができることを、「人間の脳は驚くべきもので、この離れ業をやってのけるだけでなく、信じられないほどすばやくやる」と述べています。
 また、「第一族の楽器」として、「それぞれの音に対して別々の振動する装置が使われて」いる楽器として、ハープ、チェレスタ、オルガン、ピアノなどを挙げています。
 さらに、「いくつくかの音の組合せが『心地よい』か『耳障り』かを何人の人たちに判断してもらう」という音響テストをした際に、「新たな組み合わせの音をはじめて聞くとき、脳は未知の音の正体を特定しようと」するが、「二度目にその組合せを聞くとき、脳は即座に、その音を前に聞いたことのあるものだと認識」し、「この実験をおこなうという行為そのものによって、実験をしている被験者が変わってしまう」ことを解説しています。
 この他、「可聴領域全体にわたって、音楽的に等しいと判断された音程は実際に、等しい周波数比に対応していると暗黙のうちに仮定」していたが、「領域の上の端と下の端では、この法則からのずれのあること」について、「領域の上の端では、ピッチの変化は普通、この単純な法則が予測するより小さく判断され」ると述べ、このことから、「客観的に測れる量との関連で主観的な量を測定しようとしているときはいつも、私たちの驚異的な脳が考慮に入れるさまざまな変数があまりにも多いので、正確にどんな条件で測定が行なわれているのかを明確に述べるのはきわめてむずかしい」と指摘しています。
 第2章「楽器の本質」では、「第二族の楽器」として、「振動装置が一つだけ、あるいは、わずかな数だけしかない楽器で、何らかの方法で振動体を変化させて、ピッチを変え」ると述べ、木管楽器やバイオリン、チェロ、ギターなどを挙げています。
 また、「第三族の楽器」として、倍音を使用する楽器を挙げ、「厳密に言えば、第三族の楽器は信号ラッパとポスト・ホルンだけ」であると述べています。
 さらに、楽器を識別する上で、「エンベロープは全体が極めて大切」とした上で、「その中でも格別に重要な部分」として、「アタック」あるいは「立ち上がり」と呼ばれるはじまりの部分を挙げ、「脳が楽器を識別するプロセスでそれぞれの音のはじまりがいかに重要であるか」と述べています。
 第3章「科学、弦楽器、シンフォニー」では、悪いバイオリンとよいバイオリンを区別する上で、問題点として、「名演奏家が持つと、よいバイオリンはほとんど演奏者の肉体の一部のようになって」しまい、「弓は腕の延長になり、脳、演奏者の腕の運動神経と筋肉、神経信号の間には信じられないほど複雑な相互作用が生じ」るため、「こうした演奏家は反応の大きな違いを補正してひくことができ」、悪いバイオリンでも、「超一流の演奏家が手にすれば、実に見事な音を」出すと述べています。
 また、ピアノの弦が「太くてかたいため、現の振動は他の弦楽器の軽くて細い弦のように単純」ではなく、「特に上音が、基音の整数倍からかなりずれて」いると述べ、「正確な倍音でピアノの音を電気的に合成すると、ピアノの音らしく聞こえず、あまり心地よくない音に」なり、「現実のピアノと同じように倍音からずれた上音を合成すると、音楽家がよく『暖かさ』と呼んでいる性質を帯びた音」になるという現象を紹介しています。
 第4章「テクノロジー、トランペット、曲」では、フルート、オーボエ、クラリネットなどの楽器にある孔の基本的な目的が、「音のピッチを変えるために、振動する空気柱の長さを変えることにある」のはもちろんだが、「孔には楽器の演奏でこれとほとんど同じくらい重要な役割を果たす機能」が他にもあるとして、「楽器から放射される音のエネルギーの放射のされ方を調節すること、そして、楽器の開いた端で反射されるパルスの反射のされ方を調節することによって振動パターンを保つのを助けること」を挙げ、指孔のはっきりとした機能として、
(1)ある音のピッチを決めること
(2)管の中の振動を保ち、レシピをコントロールすること
(3)音の放射をコントロールすること
の3点を挙げています。
 また、初期のトランペットとホルンが、倍音列に属する音しか出せなかったため、「バッハ時代のトランペットは高音域でしか演奏することが」できなかったが、「ヴァルヴの開発がもたらした直接的結果の一つは、作曲家が、あらゆる音域の音を含んだトランペットようの曲を書くことができるようになった」ことであると述べています。
 さらに、人間の声が、「同一のシステムのパラメーターを変えることによって必要なピッチをすべて出せる」ので「第二族の楽器」に属したものであり、主要な音源は声帯で、「声は、明らかにリード楽器の仲間ですが、関わる空洞――のど、口、副鼻腔など――の形は、もっとずっと複雑で、通常の楽器よりはるかに多くの変化を作り出すこと」ができると解説しています。そして、「ホルマントのはっきりしたタイプとして、考えなくてはならないもの」として、
(1)その人の話し声に特徴的な、ほとんど変動しないもの
(2)意図的に声の質を変えることができる、制御可能なホルマント
(3)母音の性質を決める、制御可能なホルマント
(4)話し声を歌声に変えると言われるホルマント
の4点を挙げています。
 第5章「音階、シンセサイザー、サンプラー」では、「最初にはっきりさせておくべき点」として、「音楽が先で、音階は後だということ」を挙げ、「音階は言語の文法のようなもの」であり、「一生涯、文法を理解しないまま、ことばを話し続けるということ」が間違いなくありえるように、「音楽家、特に民俗音楽の流れを組む人々は、音階の構造を意識せずに曲を書き、演奏し、歌うこと」ができると述べています。
 また、「鍵盤楽器以外の楽器の演奏者は純正律と平均律のどちらで演奏しているか」という問題について、「いささか異端的なことを言う覚悟」を表明した上で、「演奏する曲の性質、あるいは関わっている楽器や声の性質によって、その時々で違う」と述べ、「私の見るところでは、演奏者は本能的に状況に応じた『正しい音』で演奏しているのであり、少なくとも部分的には、どの音階を使っているかを意識していないかもしれません」と述べています。
 さらに、シンセサイザーの発展には、「互いに重なり合いがちではあっても、独立した4つの流れを見ること」ができるとして、
(1)アナログ合成:20世紀のかなり早くに始まり、実現はしなかったが、理論という点でさきがけとなったのは、カーヒルの「テルハーモニウム」である。
(2)ミュージック・コンクレート:テープレコーダーを利用し、現実の音を合成する。
(3)デジタル合成
(4)電圧制御の考えに始まるアナログシンセサイザー
の4点を挙げています。
 第6章「反射、残響、リサイタル」では、音響設計を難しいものにしている主な原因として、
(1)ホールの使用目的について依頼主からはっきりした説明をえるのが、大変難しい場合が多い。
(2)どれか一つの目的を達成するのに理想的な音響効果を実現しようとすると費用が極端に高くなってしまう。
(3)依頼主、音響コンサルタント、会計士の間で、ある設計に決まっても、設計図から建物が完成するまでの間に、いろいろなミスが起こる可能性があること
の3点を挙げています。
 本書は、多くの人にとって馴染み深い「音楽」と、多くの人にとってはなじみの薄い「科学」(特に物理学)とをつないでくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 今年のクリスマスに、娘がサンタさんからボンゴをもらったのですが、縁のところを叩いていると結構な倍音が鳴ってかわいい音がするのが楽しいです。こういう些細なことでも、その背景に科学があることを意識するかどうかで楽しみ方も違ってくるような気がします。


■ どんな人にオススメ?

・「音楽」は好きでも「理科」は苦手な一。


■ 関連しそうな本

 安藤 由典 『新版 楽器の音響学』
 早坂 寿雄 (著), 電子情報通信学会 (編集) 『楽器の科学』
 N,H. フレッチャー, T.D. ロッシング (著), 岸 憲史, 吉川 茂, 久保田 秀美 (翻訳) 『楽器の物理学』
 チャールズ・E. スピークス (著), 荒井 隆行, 菅原 勉 (翻訳) 『音入門―聴覚・音声科学のための音響学』
 小方 厚 『音律と音階の科学―ドレミ…はどのようにして生まれたか』
 ジャック ライアルズ (著), 今富 摂子, 菅原 勉, 荒井 隆行 (翻訳) 『音声知覚の基礎』


■ 百夜百マンガ

燃えよペン【燃えよペン 】

 マンガ家がいかに体を張り、命を削る仕事であるかは、手塚治虫や藤子・F・不二雄先生を見ても分かるかと思いますが、「神様」と同じ名前を持つ作者も命を削ってマンガを書いている様子が伝わってくる作品です。

投稿者 tozaki : 2007年12月31日 23:00

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