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2008年01月07日

外注される戦争―民間軍事会社の正体

■ 書籍情報

外注される戦争―民間軍事会社の正体   【外注される戦争―民間軍事会社の正体】(#1082)

  菅原 出
  価格: ¥1680 (税込)
  草思社(2007/3/24)

 本書は、イラク戦争等で大いに注目された、「民間軍事会社(プライベート・ミリタリー・カンパミー=PMC)」について、その実態とPMCが注目を浴びるようになってきた経緯を解説しているものです。
 イラクやアフガニスタンなどの紛争地域で、政府職員の護衛や施設の警備などの治安維持任務についている、「彼らの多くは軍隊のエリート舞台や情報機関の出身者であり、その業務の内容も、危険地帯で要人を警護したり、政府の施設を警備したり、警察や軍隊を訓練したり、地雷や不発弾を処理したり、テロリストの収容施設で容疑者を尋問するといった、通常は国家の警察や軍隊が担うような」特殊な任務についていると述べたうえで、「米軍はもはや『PMCなしに活動することは不可能』とまで言われている」として、「もはや後戻りのできない、不可逆的な動き」であると述べています。
 第1章「襲撃された日本人」では、2005年5月に英国のPMC[ハート・セキュリティ」社のコンサルタントとして、イラクで物資輸送車両の警備を行っていた日本人、齋藤昭彦さんが、武装勢力に拘束された事件を取り上げています。
 第2章「戦場の仕事人たち」では、PMCが冷戦後に急発展した原因として、「冷戦の終結により世界中の軍隊が縮小化の方向へ進み、1990年代だけで世界中の軍隊で6百万人もの職が失われた」結果、「軍事的技能を身につけた膨大な個人が民間市場に流れ、安全ビジネス関連の企業に吸収されたり、元軍人たちによる新たな会社設立の動きにも拍車がかかった」ことを挙げています。
 そして、PMCの草分けである、ベトナム戦争におけるヴィネル社について、「冷戦時代のPMCのビジネスは、『政府が公然とできないことを民間企業が肩代わりをする』という、政府の外交・安全保障政策の延長線的な性格が強かった」として、「政治的に敏感な軍事支援や訓練など、政府が自国の軍隊を使えないときの最後の手段としてPMCが使われるという政治的側面が存在した」と解説しています。
 また、現代のPMCの定番サービスの一つとして、「誘拐人質解放交渉サービス」を挙げ、1986年にフィリピンで起きた三井物産マニラ支店の若王子支店長誘拐事件で活躍したコントロール・リスクス社を取り上げています。
 第3章「イラク戦争を支えたシステム」では、イラク戦争に関して、PMCバブルが発生した結果、「『ぽっと出』の一発屋PMCが数多く現われ、混乱の最中に大きな契約を獲得してしまうようなことが起き」、低レベル・低モラルのサービスが提供されてしまい、「このようなPMCの存在は、占領統治全体にも悪影響を与え、イラク国民の占領軍に対する反感を増大させることにつながったといわれている」と述べています。
 また、「武装した民間人」「軍服を着用していない戦闘員」であるPMCはジュネーブ条約上の取り扱いが微妙な位置にあり、「武器を持って戦ってしまうと、彼らはジュネーブ条約という重要な戦時国際法の定義に該当しない存在となってしまう恐れがある」と述べています。
 第4章「働く側の本音」では、PMCで働く請負人たちの多くが、「アメリカにおいてはレンジャー部隊、グリーンベレー、デルタフォースやシールズなどの特殊部隊に所属し、イギリスでは特殊空挺部隊(SAS)、特殊舟艇部隊(SBS)、海軍特殊部隊やSO14(ロンドン警視庁の王室関係者警備担当)など、軍や警察の中でも特殊訓練を受けた超エリート部隊の出身者」であることについて、通常の軍隊では個々の軍人は「全体を構成する歯車の一つ」にすぎないのに対し、特殊部隊は、「さまざまな状況に柔軟に対応するために、独自で判断し行動することが求められており、そのように訓練されている」ことを挙げています。
 一方で、民間市場における特殊部隊人気の影響で、欧米の特殊部隊が深刻な人材不足に陥っているとして、「若くて経験の少ない退院が指導的な地位に昇格するという事態も起きている」と指摘しています。
 そして、「請負人」たちの報酬が、警察顧問の仕事で、年間12万ドル(約1440万円)と、「非常に魅力的な金額」であるとした上で、「派遣される地域の危険度、業務の内容、請負人それぞれの計健也そのプロジェクトでの役割によって報酬は大きく異なってくる」と述べ、メディアからの高額批判に対しては、「文字通り命がけの仕事であることや、彼らが通常3ヵ月働いて1ヶ月休むというパターンで働いていることから考えると、べらぼうに報酬が高いとは決していえないだろう」と述べています。
 また、「イラクでもっとも危険な仕事の一つといわれるトラック輸送を請け負う『トラック野郎』たち」の言葉として、「イラクでの一番の思い出は使命感であり、一緒に与えられた使命のために働いた仲間たちだ。われわれは本当にこの使命感のために固い絆で結ばれた}と語っていることを紹介しています。
 さらに、イラクにおいて、フィリピンなどの発展途上国から、「事実上の人身売買を行なう悪徳業者」によって、「いっさいの保障なしで危険な任務につかされるという悲しい現実も存在する」と指摘しています。
 第5章「暗躍する企業戦士たち」では、「空前のPMCバブル」の中での、「PMC間の熾烈で過剰な競争が、本来最優先されなければならない『安全管理』を二の次にしてしまい、その結果悲惨な事故を招く例が後を絶たない」として、2004年にファルージャで起きたブラックウォーター社社員惨殺事件の例を挙げ、「本来契約の中に入っていた2台の防護車両もなく、6名のチームが4名に減らされており、脅威レベルを調べるための事前のリスク評価調査もなく、事前のルート調査やその他の関連情報も土地勘もなく、チームとしての結束や仲間意識もないまま、イラクでもっとも危険な場所ファルージャに派遣されたのである。無謀というほかない」と述べ、「起こるべくして起こった人災だった」と指摘しています。
 また、イラク戦争前の「フセインの大量破壊兵器の脅威」を過剰に宣伝したのが、PR会社や「戦争広告代理店」と呼ばれる広い意味のPMCであり、「生物、化学そして核兵器をフセインの命令で密かに地下の井戸に埋め、個人の別荘に隠し、病院の地下に隠した」という科学者アル・ハイデリの証言が「すべて作り話だった」と指摘しています。
 第6章「テロと戦う影の同盟者」では、「軍の民間活用よりも情報機関のほうが数歩先に進んでいる」といわれるCIA等の情報機関の民間活用について取り上げています。
 また、「安全保障政策」のカバーする範囲が、「伝統的な国防から、テロと戦いや平和維持活動、難民救済問題や市民社会の建設促進へと拡大していった」ため、「多国籍企業、圧力団体、NGOや市民運動などが、安全保障政策の実施に関与するようになり、国際的な規範やルールづくりに貢献する機会が増えていった」延長線上にPMCを位置づけることができると述べています。
 第7章「対テロ・セキュリティ訓練」では、著者自身が参加した、イギリスのPMCが提供しているジャーナリスト向けセキュリティ訓練のレポートが収められ、「イギリスやアメリカでは、メディア関係者やNGO、外務省職員や対外援助に関わる省庁の職員、さらに石油開発会社の従業員など、危険地域で仕事に従事する人は官民を問わずこのようなセキュリティ訓練を受けるのが普通になっている」と述べ、「それに日聞け、日本人の安全対策、危機管理に対する意識は、驚くほど低いといわざるをえない」と指摘しています。
 本書は、冷戦の終結後、大きく変化した戦争のあり方を伝えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 日本の自衛隊はイラクでPMCを使っていたのでしょうか。また、自衛隊出身者が自分でPMCを作ってしまう、ということも考えられなくはないかもしれません。なんだか「傭兵」のイメージから「天下り」のイメージになってしまいますが。


■ どんな人にオススメ?

・21世紀の戦争の形を目にしたい人。


■ 関連しそうな本

 松本 利秋 『戦争民営化―10兆円ビジネスの全貌』
 本山 美彦 『民営化される戦争―21世紀の民族紛争と企業』
 P.W. シンガー (著), 山崎 淳 (翻訳) 『戦争請負会社』
 ロバート・ヤング ペルトン (著), 角 敦子 (翻訳) 『ドキュメント 現代の傭兵たち』
 高木 徹 『ドキュメント 戦争広告代理店―情報操作とボスニア紛争』 2006年11月27日
 アンヌ・モレリ (著), 永田 千奈 (翻訳) 『戦争プロパガンダ 10の法則』 2007年11月01日


■ 百夜百マンガ

Monster【Monster 】

 この作者の作品は、大人向けシリアス路線と青年誌向けのライト路線との2つの流れがあるのですが、こちらは暗くて怖いほうです。

投稿者 tozaki : 2008年01月07日 05:00

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