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2008年01月08日
医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か
■ 書籍情報
【医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か】(#1083)
小松 秀樹
価格: ¥1680 (税込)
朝日新聞社(2006/05)
本書は、「研究でも評論でもない。第三者的意見ではなく、現場の医師としての立場の意見」として、「危険な状況にある日本の医療を分析し、崩壊させないための対策を提案」しているものです。
著者は、日本の医療機関がさらされている「医療費抑制と安全要求」という2つの強い圧力について、「相矛盾する圧力のために、労働環境が悪化し、医師が病院から離れ始めた」と訴えています。
第1章「何が『問題』なのか」では、「医療とはどういうものか」について、か「患者と医師の間で考え方に大きな齟齬がある」として、「患者は医師が万能であり病気はすぐ発見され、たちどころに治療できると思っている」のに対し、「意志は医療には限界があるばかりか、危険なものであることを知っている。また、多忙な業務の中で、優先順位をつけて行動せざるをえない」ため、「この齟齬が社会問題にまでなっている」と指摘しています。
そして、医療は不確実なものであり、「人間の生命の複雑性、有限性、各個人の多様性、医学の限界に由来する。医療行為は政体に対する侵襲を伴ない、基本的に危険である」と述べています。
また、患者側の弁護士として活躍してきた加藤良夫弁護士が、「医療事故被害者の願い」として、
(1)原状回復
(2)真相究明
(3)反省謝罪
(4)再発防止
(5)損害賠償
の5項目を挙げていることについて、「これは医師の問題ではなく、互いが自己の主張を尽くすという民事裁判制度の原因がある」と指摘しています。
さらに、医事紛争の患者側当事者のパターンとして、
(1)本当の医療事故被害者
(2)クレーマー・過度安心希求型
(3)自己中心型
(4)金目当て型
の4パターンを挙げています。
第2章「警察介入の問題」では、「現在、医療過誤の担当官庁は厚労省ではなく、実質的に警察庁になっている」と述べ、「医療を正面から取り締まるには警察は明らかに能力不足である。専門知識がなさ過ぎる。また、その司ではない。医療を暴力で取り締まると、当然医療側に影響が出てくる」と指摘し、「医療現場は死や傷害が日常的に起こっている」のであり、「医療を取り締まるのが正しいかどうか考えずに、とにかく、警察に訴えのあったものについては、現行法に則ってできるだけ犯罪を立証するのが警察の役目とするのも危険である」と述べています。
第3章「社会の安全と法律」では、千葉県にある「医事紛争研究会」という有志の研究会を紹介した上で、「一般的な法律家の考え方に対する違和感」を覚えるとともに、「今まで理解できなかった裁判官の判断の由来が、ストンと腑に落ちた」として、「法曹人は彼らが自覚しているより、はるかに強く、結果違法説に支配されていた」と指摘しています。
第4章「事件から学ぶこと」では、慈恵医大青戸病院事件を取り上げ、「警察とメディアが一体となって人格攻撃を行なった代表的事件」であると紹介した上で、事件の最大の原因が、「新しい医療技術をやみくもに取り入れようとする慈恵医大自体の強い願望であり、さらに、その願望の制禦ができていないことである」と指摘しています。
第5章「安全とコスト」では、「費用という現実そのものを無視した議論で責任を負わされることに、医療従事者は絶望している」と述べています。
そして、「個人開業医の収入は多く、病院勤務医の収入は少ない。労働時間は逆である。社会が構造的に病院医療を攻撃しはじめると、病院から医師が離れるのは当然である」と述べています。
また、医療への攻撃が強まるなか、「自分の責任を限りなく小さくしようとする開業医がいるのも事実である」と指摘し、「日本医師会は、開業医の役割を大きくし、引き受けるべき責任を大きくすることをもっと主張するべきではなかろうか」と主張しています。
第6章「イギリス医療の崩壊」では、イギリスの医師が大量に海外に移住している現状を指摘し、イギリス医療の崩壊の理由として、
(1)医療費抑制政策
(2)NHSの組織の巨大化、官僚化
(3)NHSの制度改革に職員が改革疲れをしている
(4)医療従事者の士気の低下(もっとも重要なポイント)
の4点を挙げています。
第7章「立ち去り型サボタージュ」では、「勤務医が、厳しい労働条件の中で、じっと我慢して患者のために頑張ることを放棄し始めた」と述べ、この現象を「立ち去り型サボタージュ」と名づけ、「社会からの攻撃に対する医師の消極的対抗手段」といえなくもないと述べています。
第8章「大学・大学院・医局の問題」では、大学そのものの特性が医療に与える影響として、
(1)教授会支配
(2)研究至上主義
の2点を挙げています。
また、医局制度について、「医局は自然発生的運命共同体であり、対外的には人事システムとして意味を持つ」と述べ、その問題点として、
(1)その内部の規律が、現代社会で正しいとされる考え方と一致しない
(2)他の医局と交流がないこと
の2点を指摘しています。
第9章「厚生労働省の問題」では、厚生労働省の行動原理が、「リスクはあってはならないこととして、実行不可能な非現実的規則で医療機関をしばっている」と指摘したうえで、「官僚にすべてのことができるわけではない。適切な手続を踏んだ判断が、後から見て遅かったり、早すぎたり、方向がずれていたりすることはないわけではない。官僚が無謬であり続けることは不可能である」と述べ、「官僚にもそれなりの免責がなければ、行政が適切に動かないことは間違いない」にもかかわらず、厚生労働省の官僚が、「メディアの攻撃をいいことに、自分の判断とイニシアチブを放棄して、責任回避に走りすぎている」と指摘しています。
第10章「医療の崩壊を防ぐために」では、「日本の医療の崩壊を防ぐためには、医療事故・紛争に関して現状を改革し、医療への過剰な攻撃を抑制する必要がる」として、
(1)医療事故の防止
(2)紛争の処理・解決
(3)適切な社会思想の醸成
の3点を対策として挙げています。
なかでも(3)に関しては、「とりわけ重要なものは死生観である。私は日本人の死生観がおかしくなっていると思っている。誰にも避けられない死を、意識の彼方に追いやらずに、正面から認識する必要がある。生老病死が人生に不可避のものであることを常に意識する必要がある」と述べています。
本書は、相次ぐ病院の診療科目閉鎖問題に対して、理解の足がかりをつけさせてくれる一冊です。
■ 個人的な視点から
本書を読んで感じたのは、病院の医療、特に高度医療に関しては、典型的な「共有地の悲劇」の情況を呈しているということです。元々、高度医療が公共財としての性質を持っているからこそ、公立病院で扱われることが多いのですが、公共財の供給方法としては他に考えられる方法はないのでしょうか。
■ どんな人にオススメ?
・医師がなぜ病院を辞めるのかを知りたい人。
■ 関連しそうな本
伊関 友伸 『まちの病院がなくなる!?―地域医療の崩壊と再生』 2007年12月12日
兪 炳匡 『「改革」のための医療経済学』 2006年12月05日
小松 秀樹 『医療の限界』
小松 秀樹 『慈恵医大青戸病院事件―医療の構造と実践的倫理』
真野 俊樹 『入門 医療経済学―「いのち」と効率の両立を求めて』
西村 周三, 田中 滋, 遠藤 久夫 『医療経済学の基礎理論と論点 講座 医療経済・政策学』
■ 百夜百マンガ
独特な緊張感のある絵が特徴的な作品です。特に目が怖い。テンションが上がってくるとどんどん目が怖くなるのが引き込まれます。
投稿者 tozaki : 2008年01月08日 06:00
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