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2008年01月09日

「あっ、忘れてた」はなぜ起こる―心理学と脳科学からせまる

■ 書籍情報

「あっ、忘れてた」はなぜ起こる―心理学と脳科学からせまる   【「あっ、忘れてた」はなぜ起こる―心理学と脳科学からせまる】(#1084)

  梅田 聡
  価格: ¥1260 (税込)
  岩波書店(2007/07)

 本書は、「しまった、すっかり忘れてた!」という経験について、その原因については「考えてもよく分からない」という、「記憶や意識の不思議な側面について、心理学や脳科学の立場から深く考えて」見ることを目的としたものです。
 第1章「いろいろなうっかりミス」では、まず、本書が取り上げる「あっ、忘れてた!」という経験を、「記憶として蓄えられている情報を思い出す債の失敗、すなわち想起の失敗」であると位置づけ、このタイプのエラーで対象とされる、「これからやろうとしている行為の記憶」が、専門的には「展望記憶」と呼ばれていることを解説しています。
 次に、「やろうと思った行為を実行し始めてからのエラー」、すなわち「し間違い」について、一般に「アクションスリップ」と呼ばれると解説しています。
 この他、3つ目のタイプとして、「過去の出来事に関する情報」が思い出せないエラーと、「過去に覚えた情報」、すなわち「知識になった情報」が思い出せないエラーである「ど忘れ」について解説しています。
 第2章「『し忘れ』とは何か」では、記憶には、
・記銘:必要な情報を覚えること(符号化)
・保持:その情報を頭に蓄えておくこと(貯蔵)
・想起:必要なときにその情報を思い出すこと(検索)
という3つの段階があり、このうち、タイミングが必要とされるのは、最後の「想起」段階であると解説しています。
 また、著者の調査では、「し忘れ」に関しては、「壮年者群より若年者群のほうが多かった」ことを挙げ、他の展望記憶の年齢差に注目した研究でも、「し忘れは若者に多い」という結果がいくつも報告されている理由について、「スキル化された記憶」という言葉を挙げ、展望記憶の能力は、他者とのコミュニケーションにおいて必要不可欠であるため、社会生活の中で「タイミングよく思い出すスキル」が獲得されると述べ、壮年者が、「今度あったときには、きちんとお礼をしなければ」ということを即座に思い出せる「あいさつの記憶スキル」にすぐれているという例を挙げています。
 第3章「『し忘れ』を実験的に再現する」では、「し忘れ」のメカニズムを実験的に調べようとすると意外に難しい理由として、「日常場面においてそういった失敗が起こったとしても、それは人が複数の作業を同時に進めている状況で多く観察されるために、各作業に対して向けられている注意の程度などが不明であるという点」を挙げ、「どんなときに記憶の失敗が起こるのか、その原因を特定することが非常に難しい」こと、また、「もう一つの理由として、『入力内容が特定できない』という点」を挙げています。
 そして、1990年に認知心理学者のアインシュタインとマックダニエルが考案した「並列型課題」という方法を、「展望記憶を調べる典型的な課題として広く用いられている」として紹介しています。そして、この課題が、「われわれが日常的に経験する『し忘れ』や『あっ、忘れてた!』というような現象を、本当に再現しているのかという批判」があることを紹介しています。
 また、「『やろう』としていたことを実行するために必要とされるもっとも基礎的な能力」である、「『やろう』という意図そのものを覚えておく能力」について、「意図再任の能力」と名づけています。そして、次に必要となるプロセスとして、
(1)存在想起:想起しなければならないときに、「何かやらなければいけないことがある」ということをタイミングよく思い出すこと。
(2)内容想起:実際にやらなければいけないことを何かを思い出すこと。
の2点を挙げています。
 第4章「『し忘れ』を生み出す脳」では、本書が取り上げている記憶をはじめ、言語、学習、注意、情動、問題解決などの高次認知機能の研究には、
(1)神経心理学:脳損傷や精神神経疾患を対象とした臨床的な支店による学問分野であり、脳における各部位がどのような認知処理を担っているのかを知る上で、必要不可欠なアプローチ
(2)脳機能画像法:いずれかの脳画像技術を用いて、実際に活動している脳の働きを調べる方法
の2つのアプローチがあると述べています。
 そして、日常的な「し忘れ」は誰にでも起こることであるが、「それが単なる行為のし忘れではなく、意図そのものを忘れてしまったことが原因で起きているのであれば、それは病的な「し忘れ」の危険信号である可能性が高くなる」と述べています。
 また、「人があることを意識する前から、脳ではそれを予測するような活動が見られる」ことがすでに明らかにされているとして、「ある意図を自発的にタイミングよく想起するためには、それを可能にする脳活動が事前に行われていると考えるのが妥当である」と述べています。
 さらに、記憶障害に対するリハビリテーションの方法として、
(1)環境調整法:記憶障害をもつ人にとって負担となるような生活環境自体を改善する
(2)外的記憶補助法・外的方略法:手帳やメモなどの補助を用いる
(3)手がかり漸減法:その人の記憶可能範囲を考慮し、訓練によってその範囲を徐々に広げていく
(4)誤りなし学習法:誤りが起きない程度のレベルの学習を適度な頻度で行なうことで、訓練を受けるものの動機付けの低下を防ぐ
の4つの方法を紹介しています。
 第5章「『し忘れ』を防ぐ」では、加齢に伴なう日常的な記憶力低下を補う上で大切な点として、
(1)正確なセルフモニタリング(自らの記憶を少し上の次元(メタレベル)から客観的に理解すること)
(2)記憶に対する正確な自己効力感を持つこと
の2点を挙げています。
 また、し忘れ防止のヒントとして、「予定が発生したら、なるべく具体的にそれを実行する時刻を定めておく」ことで、「実際にその時刻に近づいたときに、無意識的な存在想起のメカニズムが働き、補助的に作用する可能性が高まる」と解説しています。
 さらに、「同じ情報を覚える場合でも、将来にそれを行なうことを意図した場合のほうが、後で思い出されやすい」という「意図優位性効果」についての知識を持っておくことも、し忘れ防止に有効であると述べています。
 本書は、意識していないからこそ、研究が難しい「し忘れ」についての理解の手がかりを与えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 この本を読みながら、風呂に入ろうと思ってお湯を張っていたのですが、うっかり栓をするのを忘れてしまっていました。これは、本書でいえば「タイプB」のエラー、すなわち「し間違い」に当たるわけですね。


■ どんな人にオススメ?

・どうして忘れてしまうのかを知りたい人。


■ 関連しそうな本

 井上 和臣 『認知療法の世界へようこそ―うつ・不安をめぐるドクトルKの冒険』 http://tinyurl.com/2f2ppu
 中尾 政之 『失敗は予測できる』 
 けいはんな社会的知能発生学研究会 (著), 瀬名 秀明, 浅田 稔, 銅谷 賢治, 谷 淳, 茂木 健一郎, 開 一夫, 中島 秀之, 石黒 浩, 國吉 康夫, 柴田 智広 『知能の謎 認知発達ロボティクスの挑戦』 2006年04月09日
 ベンジャミン・リベット (著), 下條 信輔 (翻訳) 『マインド・タイム 脳と意識の時間』 2006年11月11日
 ジェフ・ホーキンス, サンドラ・ブレイクスリー (著), 伊藤 文英 (翻訳) 『考える脳 考えるコンピューター』 2005年12月17日
 ニコラス ハンフリー (著), 垂水 雄二 (翻訳) 『喪失と獲得―進化心理学から見た心と体』 2006年4月15日


■ 百夜百マンガ

逆境ナイン【逆境ナイン 】

 「逆境とは、すべてが思いどおりにいかない不運な境遇のことをいう!!」
 ちょっと前に実写で映画化されたおかげで再発されました。初期の頃の勢いと、中堅マンガ家としての話のうまさがちょうど良くミックスされた感じの作品です。

投稿者 tozaki : 2008年01月09日 22:00

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