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2008年01月21日
ブックガイド〈心の科学〉を読む
■ 書籍情報
【ブックガイド〈心の科学〉を読む】(#1096)
岩波書店編集部
価格: ¥1260 (税込)
岩波書店(2005/5/13)
本書は、哲学や生物学、作家など各界で活躍する10人の読み手が、「心の科学」を読むためのお勧めの本を紹介しているものです。
第1章「<心>とは何か」(黒崎政男)では、アリストテレスの『心とは何か(デ・アニマ)』を取り上げ、「この書物がミステリアスでしかもファンタジックなのは、アリストテレスが、魂が不死で永遠不滅であるかどうかを書いた決定的な箇所が破れていて、本人が何と書いたかわからず、しかも、この書物はアラビヤ経由で、ヨーロッパに中世中期に逆導入されたものであるということ」であると語っています。
第2章「『動物の心』+『ことば』+『ヒトの心』そしてぼくの心は?」(岡ノ谷一夫)では、「動物の心的体験について知りたいと思っていた」著者が、ドナルド・R・グリフィンの『動物に心があるか――心的体験の進化的連続性』に出会ったことで、「他種動物に心的体験を仮定するということは、何も別にそれら動物の骨格構造、神経系、抗体をわれわれのそれと比較することに比べて擬人的ではない」という言明が、「自分の目指す方向性を明るく照らし、勇気づけてくれた」と語っています。
第3章「思い続けることの不思議」(瀬名秀明)では、「<心の科学>についての多くの本が、デカルトの心身二元論に言及している」ことを挙げ、「いったいデカルトとはどんな人物で、実際のところ何を書いたのだろう」と本を手に取った著者が、たちまち「彼の考え方や生き方の魅力に惹かれてしまった」と語っています。
そして、デカルトの『方法序説』が、「心と体についての優れた考察であると同時に、人間がよく生きるためのいまなお輝きを失わないアドバイス集なのだ」と述べ、「おそらく今世紀には、デカルトの残したこのふたつが、<心の科学>として交わるのだと私は思う」と語っています。
また、もともとエンターテイメント小説を中心に読んでいた著者が、「十代の頃から難しい本をたくさん読んできた人に会う」と、「少し羨ましい気持ちになる」と語った上で、「だが焦ろうとは思わない。読みたいと思った瞬間こそが、多分もっともよい読書時期だからだ」と述べています。
第4章「意識の迷宮」(信原幸弘)では、心の科学や哲学で「クオリア」と呼ばれる「意識への現われ」について頭を悩ませていた著者が、ダニエル・C・デネットの『解明される意識』に出会い、「デネットは、わたしが頭を悩ませていたクオリアが実は存在しない」と主張し、「われわれがクオリアとして理解しているものは、混乱と矛盾に満ちており、そのような理解に当てはまるものは何もない」と主張していることに衝撃を受けたと語っています。
また、V・S・ラマチャンドランとサンドラ・ブレイクスリーの『脳のなかの幽霊』を取り上げ、手足を切断された人たちが、「その手足がまだあるかのように感じる」(幻肢)症状について、「われわれの脳はどうも夢見る脳らしい。それを覚ますのが外界からの刺激だ」と述べています。
第5章「『心を読む』心の科学」では、バロン=コーエンの代表的著作である『自閉症とマインド・ブライトネス』を挙げ、生物の適応能力の観点からの心を理解する心の仕組みとして、
(1)意図検出器:「自分で動く物」が目標や願望を持っているかどうかを判断するしくみ。
(2)視線方向検出器:眼または眼状刺激の存在を検出する心のしくみ
(3)共有注意の機構:他の人の視線を追っていったり、指差しをして人の注意を引いたり、物を他の人に示したりするような、自己、他者、他の物(者)の三者の間で成り立つ心のしくみ。
(4)心の理論の機構:他の人の心の状態についての知識に基づいて行動するための心のしくみ。
の4点を挙げています。
第6章「臨床神経心理学者が読む<心の科学>」(山鳥重)では、イスラエル・ローゼンフィールドの『記憶とは何か――記憶中枢の謎を追う』を取り上げ、「過去の出来事の貯蔵庫など、脳のどこにもない。脳には現在しかないし、過去の出来事の追想と思われるものも、実は現在の脳の働きそのものである。記憶と見えるものは現在の脳がただ今作り出しているものである。記憶は現在ただ今、絶え間なく展開し続けている脳による過去の概括である。つまり、記憶は創造(invention、原題の題名)である。われわれはなんとなく過去の記憶がどこかに『しまってある』と思いがちだが、そんなことはない。あるのは現在であり、現在ただ今の個体と環境の相互関係(文脈)だけである。脳は文脈をとらえるが、モノを個別にとらえたりはしない。大切なのは脈絡であり、脈絡の重なりであって、この脈絡には行為も組み込まれている。刺激(環境脈絡)―脳の神経ネットワーク―運動という脈絡が、環境を範疇化し、範疇化の重なりが意味や記憶を作り出すというのである。記憶と見えるものも、脳が今、現在の文脈に応じて、今、現在作り出している働きにほかならないという」と解説しています。
第7章「ことばから見た心」では、言葉が、「心の構造や機能の解明を目指す認知科学にとって非常に重要な意味合い」を持つ理由として、
(1)ことばはヒトに固有である。
(2)ことばはヒトに均一的である。
(3)ことばの表現形には一定の変異が許容されている。
の3点を挙げたうえで、「認知科学にとってことばが重要であるもう一つの理由」として、「生得的な基盤がことばに固有なものであるのかどうか」という「領域固有性の問題」を挙げています。
第10章「地面や空気から『心』について考えることもできる」では、「心の科学」を実践することの困難の理由として、
(1)長い間、心はもっぱら宗教や哲学の対象だったという歴史的な事情
(2)『心』は誰にでもあるので、皆それを自己流で考えて語り、『内省』に由来する理論が歯止めなく心の科学に参入した。
の2点を挙げ、「心の科学が最初から抱えてしまった二つの困難が克服されずにいる限り『危機』はこれからも何度も訪れるはずなのである」と述べています。
本書は、心を科学の目で見たい人にとってガイドラインを与えてくれる一冊です。
■ 個人的な視点から
「心の科学」と一口に言ってもいろいろな分野に及ぶので、どういう方向の本を読むかによって内容はぜんぜん違うのですが、本書のようなブックガイドは袋小路に行き詰ってしまうことをとどまらせてくれるのではないかと思います。
■ どんな人にオススメ?
・人間の心を科学の目で見てみたい人。
■ 関連しそうな本
マイケル・トマセロ (著), 大堀 壽夫, 中澤 恒子, 西村 義樹, 本多 啓 (翻訳) 『心とことばの起源を探る』
ジェフ・ホーキンス, サンドラ・ブレイクスリー (著), 伊藤 文英 (翻訳) 『考える脳 考えるコンピューター』 2005年12月17日
スティーヴ・グランド 『アンドロイドの脳 人工知能ロボット"ルーシー"を誕生させるまでの簡単な20のステップ』 2006年01月28日
オリヴァー サックス (著), 吉田 利子 (翻訳) 『火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者』 2006年03月26日
V.S. ラマチャンドラン, サンドラ ブレイクスリー (著), 山下 篤子 (翻訳) 『脳のなかの幽霊』 2006年09月03日
トール ノーレットランダーシュ (著), 柴田 裕之 (翻訳) 『ユーザーイリュージョン―意識という幻想』 2006年06月18日
■ 百夜百マンガ
鰯水じゃなくて岩清水の名せりふである「君のためなら死ねる」は元々は二葉亭四迷の訳文がネタ元のようです。
投稿者 tozaki : 2008年01月21日 22:00
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