« ワークライフバランス入門―日本を元気にする処方箋 | メイン | 観光を読む―地域振興への提言 »
2008年02月13日
ヤバい経済学
■ 書籍情報
【ヤバい経済学】(#1119)
スティーヴン・D・レヴィット/スティーヴン・J・ダブナー (著), 望月衛 (翻訳)
価格: ¥2100 (税込)
東洋経済新報社(2007/4/27)
本書は、「答はデータの中にある」という見方をすることで、「現代の日常の上っ面を1枚か2枚引っぺがしてその下に何があるかを見てみよう」とするものです。本書が取り上げるのは、
・麻薬の売人がそんなに儲けているのなら、彼らがいつまでも母親と住んでいるのはなぜ?
・銃とプール、危ないのはどっち?
・過去10年の間に犯罪発生率を大幅に引き下げたものは何?
・不動産業者は心からお客のために仕事をしている?
・黒人の親はどうして子どもの出世の見込みをぶち壊しにするような名前をつける?
・学校教師は一発大勝負のテストでインチキをしている?
・相撲界は腐敗している?
等の質問です。
著者は、「あらゆるものの裏側」では、「インセンティブは現代の日常の礎である」と述べ、「インセンティブを理解することが――おうおうにして壊してしまうことにもなるけれど――凶悪犯罪からスポーツの八百長、出会い系サイトまでどんな問題もほとんど解決できる鍵になる」と述べ、この「鍵」によって、
・通念はだいたい間違っている。
・遠く離れたところで起きたほんのちょっとしたことが原因で劇的な事態が起きることは多い。
・「専門家」は――犯罪学者から不動産屋さんまで――自分の情報優位性を自分の目的のために利用する。
・何をどうやって測るべきかを知っていれば込み入った世界もずっとわかりやすくなる。
など、日常の裏側を探検しています。
第1章「学校の先生と相撲の力士、どこがおんなじ?」では、「インセンティブの味付けは基本的に3つある」として、
(1)経済的
(2)社会的
(3)道徳的
の3点を挙げた上で、「インセンティブが何であれ、置かれた状況がどうであれ、インチキする連中はどんなことをしてでも人を出し抜こうとする」として、
・シカゴ教育委員会が導入した一発勝負のテストで、200クラス以上(約5%)の先生が生徒が書いた間違いを消して正解に書き直していた。
・本場所千秋楽で7勝7敗の力士の勝率は、力士たちの間での取引の成立を裏付けている。
などの分析を述べています。また、大相撲に関しては、11代大鳴戸らによる八百長の暴露事件を取り上げ、外国人記者クラブでの記者会見の直前に、告発者の2人が、「同日・同じ病院・同じ病気」で死亡した事件を紹介しています。
第2章「ク・クラックス・クランと不動産屋さん、どこがおんなじ?」では、「KKKに潜り込んで内部からぶっ潰した顛末」を描いた『KKKのフードを剥ぐ」を取り上げ、著者のステットソン・ケネディが、KKKが使っているさまざまな隠語やKKKの「聖典」の中身を、ラジオ番組『スーパーマンの冒険』のプロデューサーに教え、子どもたちの遊びのネタにしてしまい、「KKKの秘密主義を逆手にとり、貴重な知識をネタに変えて彼らを全米の笑いものにした」ことで、「KKKの集会にやってくる人は急に減り、入団希望者も激減した」ことを紹介し、「KKKは――政治家や不動産屋さんや株屋さんみたいに――情報を蓄え、出し惜しみすることで力を得ている集団だった」と解説しています。
第3章「ヤクの売人はどうしてママと住んでるの?」では、「最先端の武器と底なしの資金で武装している」と喧伝され、「アメリカで一番儲かる仕事」としてマスコミから描かれたドラッグの売人たちが、「ほとんどみんな団地に住んで」いて、「ほとんどがママと実家に住んでいる」という事実を、「なんとなくおかしい」と述べ、「答えは正しいデータを見つけられるかどうかにかかっている」が、「この疑問の答えを見つけるには、まず、本当に売人に囲まれて暮らし、そのうえ麻薬取引の秘密を知りながら生き延びられた人を見つけなければならない」として、実際に、社会学のフィールドワークで6年間ギャング達と一緒に暮らし、FBIの手入れを招き、組織に消される運命にあったギャングから帳簿を託されたスティール・ヴェンカテッシュの研究を紹介しています。そして、その「帳簿」がハーヴァード大学のソサイエティ・オブ・フェローズで出会った著者(レヴィット)によって、「それまで誰も踏み込んだことのない犯罪組織の分析」につながったと述べています。
そして、幹部3人と「歩兵」約30人を抱えるリーダーの月給が8500ドルであるのに対し、従業員全体に月で9500ドルしか払っておらず、幹部は月に700ドル、歩兵の時給は3.30ドルであり、彼らが、「ママの家に住むほかない」ことを解説しています。
著者は、彼らがこんな仕事を選ぶ理由を、「ウィスコンシンの農家のかわいい娘がハリウッドに行く」ことや「高校のクォーターバックが朝5時に起きて筋トレする」のと同じで、「彼らはみんな、ものすごく競争が激しいけれど、トップにたどり着けば大儲けできる」分野で成功したいと思っているからであると解説しています。
第4章「犯罪者はみんなどこへ消えた?」では、レクシスネクシスのデータベースから、犯罪現象の説明として挙げられているものを抽出した、
(1)画期的な取締まり戦略
(2)懲役の増加
(3)クラックその他の麻薬市場の変化
(4)人口の高齢化
(5)銃規制の強化
(6)好景気
(7)警官の増員
の7点を挙げた上で、それぞれについて解説しています。そして、このうち、(4)の人口の高齢化に関して、「予想がつかなかった、また長く表に出てこなかった、重要な点」として、1973年1月22日の「ロー対ウェイド」裁判に対する連邦最高裁判決をきっかけに中絶の合法化が一気に広がったことを挙げ、この裁判の結果をに乗じた可能性の高い女性が、「結婚していない、ティーンエイジャーだ、貧しい、あるいは3つ全部、そういう女性が多かった」と述べ、「子供時代の貧困と片親の家庭」は、「子供が将来犯罪者になるかどうかを予測できるもっとも強力な要因に数えられる」として、「アメリカで何百万人もの女性に中絶を決心させた要因は、そうした人たちの子供が、もしも産まれていたら不幸せな人生を送り、多分罪を犯していただろうと予測する要因そのものでもあるようなのだ」と述べています。そして、「ロー対ウェイド」裁判の後に生まれた最初の世代が10代後半になる頃に、犯罪発生率が下がり始めたと述べています。
第5章「完璧な子育てとは?」では、アメリカで1年間に家のプール1万1千個あたり子供が1人溺れているのに対し、銃の方は100万丁強あたり1人の子供が銃で死んでいることを指摘しています。
また、子供それぞれの事情と学校の成績の間の相関を分析した結果を、
・意味アリ:親の教育水準が高い。
・意味ナシ:家族関係が保たれている。
・意味アリ:親の社会・経済的地位が高い。
・意味ナシ:最近よりよい界隈に引っ越した。
・意味アリ:家に本がたくさんある。
・意味ナシ:ほとんど毎日親が本を読んでくれる。
のように、を対にして解説し、「本は本当は、知恵をくれるものじゃなくて知恵を映すもの」であるなど、「意味アリ」の項目は「親がどんな人か」であり、「意味ナシ」の項目は「親が何をするか」であることを解説しています。
第6章「完璧な子育て、その2」では、「ウィナー(勝ち馬)」と「ルーザー(負け犬)」と名付けた兄弟が、後に、ルーザーはニューヨーク市警の巡査部長に、ウィナーは犯罪常習者になってしまった例や、「テンペスト(Tempestt)」と名付けるつもりが「テンプトレス(Temptress 痴女)」と名付けられた女の子の例などを紹介し、彼らが皆黒人であることが、「単なる趣味の問題」か「名前と文化にかかわる、もっと大きな話につながる問題」なのかを論じています。
また、1961年以降にカリフォルニア州で生まれた子供全員の出生証明書のデータを元に、年代ごとの黒人と白人に多い名前を分析し、「高所得・高学歴の親の間ではやった名前が社会・経済のはしごを下へ伝っていく」という「はっきりしたパターンがある」と述べ、「名づけゲーム」を動かしているのは有名人ではなく、「ほんの数ブロック向こうのご家族、家が大きくて車が新しいおうちを見て動くものなのだ」と解説しています。
本書は、「経済学読み物」として楽しく読める一冊ですが、解説では経済学らしくインセンティブで解説していますが、社会学の読み物としても楽しめそうな一冊です。
■ 個人的な視点から
経済学で社会現象を解説する「経済学読み物」は、古くは、『ベッカー教授の経済学ではこう考える』がありますが、近年、だいぶ増えてきた感があります。
ただし内容的には、本書のようにデータの分析をベースにしたものもあれば、インセンティブでいろいろな現象を解説したもの、比較優位論をベースにしたものなどさまざまあり、さらに古くからある「~の経済学」の類の、給料や業界事情など単にお金にまつわる雑学を紹介するだけのものもあります。どれも面白いのですが、このうちのどれかをたまたま手にした人が、「これが経済学か!」と思ってしまうかもしれないかと思うとちょっと心配でもあります。
■ どんな人にオススメ?
・経済学はマジメな人のものだと思っている人。
■ 関連しそうな本
ティム・ハーフォード (著), 遠藤 真美 (翻訳) 『まっとうな経済学』
飯田 泰之 『経済学思考の技術 ― 論理・経済理論・データを使って考える』
大竹 文雄 『経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには』 2006年09月04日
ゲーリー・S. ベッカー, リチャード・A. ポズナー (著), 鞍谷 雅敏, 遠藤 幸彦 (翻訳) 『ベッカー教授、ポズナー判事のブログで学ぶ経済学』 2007年02月05日
ゲーリー・S. ベッカー, ギティ・N. ベッカー (著), 鞍谷 雅敏, 岡田 滋行 (翻訳) 『ベッカー教授の経済学ではこう考える―教育・結婚から税金・通貨問題まで』
佐藤 雅彦, 竹中 平蔵 『経済ってそういうことだったのか会議』 2005年06月26日
■ 百夜百マンガ
定番のマッドサイエンティストものなのですが、少年サンデーにはこういったオーソドックスな少年漫画がよく似合う気がします。
投稿者 tozaki : 2008年02月13日 06:00
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.pm-forum.org/MT3/mt-tb.cgi/1644
【どっきりドクター―Clinic comedy 】