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2008年02月16日

紳士の国のインテリジェンス

■ 書籍情報

紳士の国のインテリジェンス   【紳士の国のインテリジェンス】(#1122)

  川成 洋
  価格: ¥735 (税込)
  集英社(2007/07)

 本書は、
・スパイ作戦自体がスパイによって遂行されたという痕跡をまったく残していないこと。
・実際の行為者であるスパイのカバー(偽装)や、その正体が暴露されていないこと。
の2つが完全にクリアされることで、その任務が終わる、という困難かつ命がけの任務につくスパイの「最先進国」の異名を持つイギリスのスパイについて、「祖国に尽くしたスパイ」と「祖国を裏切ったスパイ」を2部構成で紹介しているものです。
 
○第1部「祖国に尽くしたスパイ」
 第1章「フランシス・ウォルシンガム」では、「イギリス秘密情報部の父」といわれ、「部下のスパイにいろいろと指示をするスパイマスターとしての役割や、彼自らがその黒幕となって行う陰謀や策略といったスパイ活動そのもの」に真骨頂を発揮したことを紹介しています。
 そして、「イギリスの陰謀史に残る悪名高い『バビントン・プロット』の顛末」について、元フランス王妃で、スコットランド女王にして、敬虔なカトリック教徒のメアリ・スチュアートを陥れるために、25歳の青年貴族バビントンをそそのかし、エリザベス女王暗殺計画を持ち掛けさせ、その咎によりメアリの死刑執行を実現したことを解説しています。
 また、メアリの処刑をきっかけとした、スペインの「無敵艦隊」遠征の動きを事前に察知し、艦隊の全陣容の情報を入手し、130隻の艦隊のうちスペインに帰港できたのは3分の2に過ぎないという打撃を与えています。
 しかし、「エリザベス女王の危機を二度も見事に勝利に変えた」にもかかわらず、ウォルシンガムは、その秘密情報機関を私費で賄い、情報部を維持するために破産してしまっています。
 著者は、ウォルシンガムを、「冷静沈着にエリザベスの政敵を次々と倒し、常に聖職者のように黒衣をまとい、ときに特異の二枚舌や恫喝的な言辞を操っていた」ため、「暗い謎に満ち、危険と策略に長けた闇の人間」とみなされていたと述べ、「まさに情報機関のために生まれてきたうってつけの人間だった」と評しています。
 第5章「ポール・デュークス」では、革命期のソ連において、
・ソ連のパスポートを持つチェーカー(ソ連の秘密警察)の同志ピオツロヴィスキー
・手足の不自由な赤軍兵士
・髭面のプロレタリアート
・肺病の知識人
などの4種類の変装を見事にこなし、「その変装姿に応じて自在にロシア語を操る」ことができたMI6のポール・デュークスについて、「偵察する国の人間への変装と言語能力、さらに周囲を完全に騙す演技力、これこそスパイとしての理想的な武器に他ならない」と評しています。
 そして、デュークスがMI6の長官であった「C」ことマンスフィールド・カミング海軍大佐から要請を受けたデュークスが、スパイとしての訓練をほとんど受けぬまま、「2年間、ソ連におけるイギリス情報部の責任者として並々ならぬ能力を発揮」を発揮したとして、「彼は、勇敢で明晰な判断力を持ち、敏捷で、率先して事に当たる際にはとても大胆でありながら、身の危険に対しては非常に敏感だった。そのうえ、すでに述べたように、変装とロシア語の天才だった」ので、「他のイギリスのスパイが太刀打ちできるようなレベルではなかった」と述べています。
 第6章「サマセット・モーム」では、スパイらしからぬ風采と、世界的な作家という名声をカバー(偽装)にして、ほぼ30年間MI6の工作員を続けていたというサマセット・モームを紹介しています。
 そして、モームが、自らの唯一のスパイ小説の中で、スパイの仕事について、「もしきみが首尾よくやってくれても、きみは感謝の言葉一つもらえないし、また面倒な事態が起こっても、助けは望めない」と説明していることを紹介しています。
 また、モームが、1919年、20年、21年、23年に中国大陸や東南アジア諸国を訪れた際に、横浜や東京、長崎下関、神戸などを訪れたことについて、その目的は、「日清・日露戦争、そして第一次世界大戦に勝利し、それ以降急激に軍拡を重ねる日本の軍事力の現状を調査し、その南進政策の方向性を探ること」であり、「親日家の大作家」と日本で愛されていたモームが、「まぎれもない『反日派』の急先鋒」であったと解説しています。
 第8章「イアン・フレミング」では、フレミングが、第二次大戦中、最前線のドイツ軍の指揮を削いだブラック・プロパガンダ作戦の実践や、ナチ党副総裁のルドルフ・ヘスをイギリスへの無謀な単独飛行に突き動かすため偽りの占星術師を接近させたと言われていることを紹介しています。
 著者は、フレミングを、「実に神出鬼没、その作戦も自由自在。しかも、完全な失敗はほとんどない。まさにスパイの天才だった」と評しています。
 そして、「戦争が終わったらなにをするつもりか」とたずねられ、「いままでのあらゆるスパイ小説に止めを刺す」と答えたというエピソードを紹介し、このスパイ小説の映画『007』シリーズがヒットを重ね、全男性の羨望の的といわれるジェームズ・ボンドを生み出したことを紹介し、そのモデルは、フレミングが知っている数人のスパイを合成した人物と言われているほか、MI5の工作員ダスコ・ポポフという説があり、彼のコードネーム「トライシクル(三輪車)」は、「ワイン、女、そして歌」に熱中していたからとも、「一度に二人の女性をベッドに引き入れるからだ」とも言われていることを紹介しています。
 
○第2部「祖国を裏切ったスパイ」
 第9章「ジョージ・ブレイク」では、ブレイクが3件の国家安全法違反容疑で42年の懲役刑を受けた計算について、「彼の裏切りによってソ連で処刑されたイギリス人工作員が42人もいた」ために、「裏切られた工作員1人につき1年の懲役刑」という計算だったことを紹介しています。
 そして、判決から6年後、「独房の鉄製の窓格子を折り曲げ、屋根を滑り降りて地面に飛び降り、それから編み針を横木にしたナイロン製の梯子を使って刑務所の塀をよじ登り、外で待ち構える共謀者たちのいるところに飛び降りた」後、ソ連に渡り、90年にはロシアのテレビのインタビューに答えていることが述べられています。
 第12章「キム・フィルビー」では、「未来のC」と呼ばれたMI6の高官だったフィルビーが、ソ連に政治亡命し、KGBに大佐として迎えられ、「赤旗勲章」「レーニン勲章」を授与され、ソ連の記念切手にもなっていることが紹介されています。
 本書は、インテリジェンスの大国であるイギリスの闇の深さに少しだけ触れることができる一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書の出だしが、いきなり16世紀だったことに戸惑いを覚えたのですが、読み進めるうちにイギリスのインテリジェンスの伝統が脈々と続くものであることに驚きを覚えました。
 なかでも、ジェームズボンドの原型を生んだ第二次大戦期とともに、『ジョジョの奇妙な冒険』第一部の舞台となった19世紀のイギリスが、いかに冒険活劇の舞台として適切であったかが伝わってくる一冊でした。


■ どんな人にオススメ?

・スパイといえば007を思い出す人。


■ 関連しそうな本

 手嶋 龍一, 佐藤 優 『インテリジェンス 武器なき戦争』 2008年02月06日
 手嶋 龍一 『ウルトラ・ダラー』
 手嶋 龍一 『外交敗戦―130億ドルは砂に消えた』
 小谷 賢, 落合 浩太郎, 金子 将史 『世界のインテリジェンス―21世紀の情報戦争を読む』
 佐藤 優, コウ・ヨンチョル 『国家情報戦略』
 大森 義夫 『日本のインテリジェンス機関』


■ 百夜百音

モノノケダンス【モノノケダンス】 電気グルーヴ オリジナル盤発売: 2008

 久しぶりに再開した電気の皆さんは、相変わらずといえば相変わらずでした。その時々の風俗を妖怪にごった煮させてきた水木しげるの感性は電気の感性と近いのかもしれないと思います。

投稿者 tozaki : 2008年02月16日 08:00

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