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2008年02月26日
社会が変わるマーケティング――民間企業の知恵を公共サービスに活かす
■ 書籍情報
【社会が変わるマーケティング――民間企業の知恵を公共サービスに活かす】(#1132)
フィリップ コトラー/ナンシー リー (著), スカイライトコンサルティング (翻訳)
価格: ¥2520 (税込)
英治出版(2007/9/4)
本書は、「半世紀以上にもわたって民間企業で顧客満足を高め、売り上げと利益を上げるために使われてきた『マーケティング』を、社会に変革をもたらすために活用することを提案している」物です。著者は、本書執筆の動機を、「市民ニーズの充足と公共機関のパフォーマンスの改善の間の明らかな相関を発見し、それを活用するにはどうすればよいのか」と述べ、「この目標を達成するために、基本的かつ実証されているマーケティングの原理と手法をどのように活用するか」が本書の中心テーマであると述べています。
第1章「市民の要望にこたえる」では、「政府の仕事は企業の仕事とは本質的に異なる」と主張し、「政府機関の活動をもっと効率的、効果的、革新的なものにしてもらいたいという市民の願いは夢想だという」考えに対し、「これを非効率、浪費の言い訳に使ってはいけない」と主張し、オズボーン=ゲーブラーの『行政革命』を挙げています。
そして、「公共部門で働く人たちにもっとも見過ごされ、誤解されてきた分野の一つ」がマーケティングであるとして、「広告」と誤解されがちであることを述べた上で、「マーケティングは、市民のニーズを満たし、本当の価値を届けたいと願う公共機関にとって、最善の計画を作成するための基本概念である」と述べています。
第2章「マーケティングの考え方を理解する」では、マーケティングの基本原理として、
(1)顧客中心主義に徹する:あなたの顧客が常に「私に何の得があるのか」と問いかけているのだと想像する。
(2)市場を細分化し、ターゲットを定める:市場の細分化によって、サイズが大きく質的ばらつきを持った市場を、より小さな同質のセグメントに分割することで、セグメントごとの独自ニーズに適した製品やサービスをより効率的、効果的に見つけ出すことができる。
(3)競争相手の特定:競争相手を特定するときの秘訣は「近視眼的マーケティング」を避けることである。
(4)マーケティングの4Pを利用する:理想的なマーケティング計画のシナリオでは、プロモーションの決定は、プロモーションされるべきもの(製品、価格及び流通チャネル)の決定が済むまでは、検討されることもない。
(5)活動をモニタリングし、修正を加える:目的と目標を明確に理解して初めてスタートできる。
の5点を挙げています。
第3章「サービスを創造する」では、「まず公共機関における製品の定義とその要素について説明」し、「公共部門にとってもっとも重要な製品マネジメントの機能である『プログラムとサービスの開発とその品質の向上』に焦点を合わせる」としています。
そして、「マーケティング的なものの見方、特に『物事を改善しようという意識』が大きく貢献すること」を示したものとして、英国の有名シェフが、「英国の学校食堂で出される脂っこく、塩辛い、加工された、甘すぎる食事」を、「天然素材や果物、(目立たないように工夫した)野菜をたくさん使った、調理したての、栄養価の高い食事に替えたい」として始めた「もっとましなものを食べさせて(フィード・ミー・ベター)」プロジェクトが、「質の悪い食生活を送り、運動不足で太り始め、不健康になってきた国民の関心を引いた」と紹介しています。
また、マーケティング論が、製品を、
・核:製品としての本質
・形態:外見からはっきりとわかるもの
・付随機能:顧客の期待を超える付加価値のある特徴やサービスを付け加えた製品
の3つのレベルに分けていることを論じています。
第4章「魅力ある価格設定とは?」では、米国運輸省外局の国家道路交通安全局による自動車事故による死傷者と経済的損失現象のための「クリック・イット・オア・チケット」キャンペーンを取り上げています。
そして、マーケティング戦術としてのインセンティブについて、
・金銭的インセンティブ:期待する行動のコストを引き下げる。
・金銭的負のインセンティブ:競合する行動のコストを増加させる。
・非金銭的インセンティブ:期待する行動の知覚価値を高める。
・非金銭的負のインセンティブ:競合する行動の近く価値を減少させる。
の4つの戦術を紹介しています。
第5章「流通チャネルと最適化する」では、「商品を届けるために使う手段であり、市民がその商品に接する手段」である「流通チャネル」について、「マーケティング・ミックスの中では、これはPlaceのPであり、担当者が直面するもっとも重要な意思決定の一つと考えられている」と述べ、ネパールにおけるコンドームの流通改善の事例を紹介しています。
第6章「ブランドを創造する」では、「公共機関がプログラムの望ましいブランド・イメージを作り出し、維持するためには何をすべきかについて考えていく」としています。
そして、米国環境保護庁が「地球を守る」ブランドである「エナジースター」というプログラムを創設し、住宅市場において、「強力なブランド戦略が、政府と産業界のもっとも成功した協力関係を築くのに、重要な役割を果たした」と述べています。 著者は、「公共機関も、見込み客の心の中にある希望の場所を確保するためにブランディング戦略を利用すべきである」と述べ、「米国の森林保護官であると同時に、世界で最も認知度の高い想像上のキャラクターの一つ」である「スモーキーベア」や、「米国人に『犯罪に立ち向かおう』と呼びかけ、その方法を教えるために使われたブランド」である犯罪防止犬「マクグラック」等の例を紹介しています。
第7章「効果的なコミュニケーションを行なう」では、コミュニケーションについて、「望ましいポジショニングとブランド・アイデンティティをしかるべき場所に、釘を打ち付けて固定する、いわば金槌の役割を果たすツールである」と述べています。
そして第4の「P」であるプロモーションについて、特に「説得力のあるコミュニケーション」という意味で使われると解説しています。
また、マーケティング・コミュニケーションの中核となるメッセージ作成の出発点として、
・何を知らせたいか
・何を信じてもらいたいか
・何をしてもらいたいか
の3つの質問を挙げています。
さらに、メッセージを伝えるスポークスマン起用の例とて、2005年に日本で行われた「冷房温度を上げてエネルギーの節約を呼びかける全国的なキャンペーン」(クール・ビズ)において、「半袖シャツにノーネクタイ姿の小泉純一郎首相の写真が新聞広告に掲載された」例を挙げています。
第8章「顧客満足度を高める」では、「マーケティングの原理とテクニックをどのように使えば、顧客サービスを改善し、顧客満足を高めることができるのか」をテーマとしています。
そして、「水のタンクを持った平和維持軍」フェニックス消防署の例を挙げ、「サービス提供のあり方を決める主な要因が顧客のニーズや認識、感情」であり、「結局、ビルや家屋に投票権はない。投票するのは人間なのだ」というブルナチーニ署長の言葉を紹介しています。
また、顧客満足を高める実践活動として、
(1)優れたサービスをする従業員を支援する
(2)社会基盤とシステムが障壁になっていないか確認する
(3)顧客管理システムを検討、改善する
(4)総合的品質管理によるベネフィットを発見する
(5)期待度と満足度を追跡し、評価する
の5点を挙げています。
第9章「ソーシャル・マーケティング」では、「健康改善、傷害事故防止、環境保護、地域貢献に影響を与える活動に対して特に用いられている」理論であると解説した上で、フィンランドの「ファットからフィットへ」運動などの事例を紹介しています。
そして、「ソーシャル・マーケティング」を、「マーケティングの原理と手法を使って、個人やグループ、社会全体のベネフィットのために、ターゲット・オーディエンスに影響を及ぼして、ある『行動』を自発的にとらせたり、拒否させたり、修正させたり、放棄させることである」と定義し、その目的は、「生活の質を向上させることにある」と解説しています。
そして、成功に近づけるための原理として、
(1)過去のキャンペーンの成功例を活用する
(2)行動する準備ができている市場から始める
(3)一度に一つ、簡単で実行可能な行動を促す
(4)行動の変化を妨げる障害を取り除く
(5)本当のベネフィットを目の前に差し出す
(6)競合する行動のコストをあきらかにする
(7)目に見えるモノやサービスを勧める
(8)非金銭的インセンティブ(評価や報償)を与える
(9)メッセージにユーモアをこめる
(10)意思決定のタイミングに合わせたメディア・チャネルを使う
(11)公約や誓約を取りつける
(12)持続させるために注意を喚起する
の12点を紹介しています。
第10章「戦略的連携関係を結ぶ」では、「官民双方にとってメリットのある提携関係」を扱い、「最善のパートナーを見つける鍵を握るのがマーケティングの発想である」と述べています。
そして、企業の「コーズ・プロモーション」のための提携関係や「コーズ・リレーテッド・マーケティング」のために提携関係の事例を紹介しています。
著者は、「公共機関を待ち受けている落とし穴」として、
(1)単独の場合に比べて「時間」がかかる
(2)成功の一因は「妥協」であるようだ
(3)相手の民間企業や非営利組織が、たとえ些細な逸脱行為であっても信用を失墜する、つまり「マイナスの評判」を立てられる可能性がある
等の点を指摘しています。
第11章「情報をいかに集めるか」では、マーケティング・リサーチを、「組織が直面している特定の問題に関するデータを収集し、分析し、報告すること」と定義した上で、「データ」や「市民からの情報」、「市民からの意見」の有用性を解説しています。
また、マーケティング・リサーチの実施時期に関して、
・フォーマティブ・リサーチ:戦略を形成するときに使われる調査
・トライアル調査:本格的な製造や施策実施の前に戦略と戦術をテストするために行う調査
・モニタリング調査:当初の目標や目的と成果を比較するための調査
の3点について解説しています。
第12章「施策をきちんと評価する」では、パフォーマンス測定の対象として、
・アウトプット(市民への出力)
・アウトカム(市民の反応)
・インパクト(反響)
の3つのカテゴリーを挙げて解説しています。
第13章「説得力のあるマーケティング計画を作成する」では、2003年4月にブルームバーグ市長がニューヨーク市のチーフ・マーケティング・オフィサーにジョセフ・ペレーロを任命したことについて、「ニューヨークはマーケティング部という部署とチーフ・マーケティング・オフィサーという職位を持つ世界最初の都市になった」と紹介しています。
本書は、マーケティングという言葉になじみを持たず、「コトラー」という名前を聞いたことがないような公共部門の人間にも、事例を交えてわかりやすく解説している一冊です。
■ 個人的な視点から
コトラー先生の新境地?と思って期待して買ったマーケティングの世界の人にとっては、当たり前すぎて、人によっては期待はずれに感じる人もいるかもしれません。
しかし、本書は、マーケティングの「マ」の字にも縁がない(と言われている)公共部門の読者を想定したものであるので、そういう人たち向けには、基本的なマーケティングの概念を、なじみのある公共部門の事例を使って解説した本書はわかりやすい一冊になっているのです。
その意味では、本書の内容が簡単すぎると思うようなた人が、「コトラー」の名前で中身を良く確かめずに買ってしまったところに原因があるのではないかと思います。マーケティングの基本中の基本なのかもしれませんが。
■ どんな人にオススメ?
・公共部門にマーケティングは関係ないと思う人。
■ 関連しそうな本
フィリップ コトラー, エデュアルド L. ロベルト (著), 井関利明(監訳) 『ソーシャル・マーケティング』 2005年02月14日
フィリップ・コトラー, ナンシー・リー (著), 早稲田大学大学院恩藏研究室 (翻訳) 『社会的責任のマーケティング―「事業の成功」と「CSR」を両立する』 2008年01月24日
フィリップ コトラー 『非営利組織のマーケティング戦略』
玉村 雅敏 『行政マーケティングの時代―生活者起点の公共経営デザイン』
井関 利明, 藤江 俊彦 『ソーシャル・マネジメントの時代―関係づくりと課題解決の社会的技法』
デビッド オズボーン, テッド ゲーブラー 『行政革命』 2005年01月22日
■ 百夜百マンガ
1年間連載してても単行本1冊に満たないペースですが、長いこと連載が続いています。スーパーのレジ打ちにも精通しているのは内緒です。
そう言えば、『スカタン天国』の翻訳版を台湾で入手したことがありますが、猫も台湾で受けているのでしょうか?
投稿者 tozaki : 2008年02月26日 22:00
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