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2008年03月24日
日本の貧困研究
■ 書籍情報
【日本の貧困研究】(#1159)
橘木 俊詔, 浦川 邦夫
価格: ¥3360 (税込)
東京大学出版会(2006/09)
本書は、「日本において、貧富の格差が拡大している」として、この「深刻な社会問題」である「貧困層の増大」に焦点を当てて、「包括的に分析するもの」です。
第1章「日本の貧困の歴史」では、「戦争による貧困がいかに人々の生活を悲惨なものにしたか」について、1945年の国民1人当りの栄養摂取量が1,793カロリーで必要摂取量の83%であったものが、47年にはそれが47%まで低下したことを挙げ、「当時の日本人は絶対的貧困の中にいたし、その深刻さも並外れたものだった」と述べています。
そして、高度成長期とそれ以降の安定成長起因は、「貧困が世の中から消えたと思わせるほどに、貧困率は低下した」と述べ、「それにつれて貧困研究も冬の時代を迎えることとなった」理由として、
(1)高度成長経済は大半の国民の所得を上昇させたので、所得で定義される貧困線以上の所得を稼ぐ人の数が増加し、逆に貧困ライン以下の所得しか稼げない人の数が減少することは、自然のことである。
(2)高度成長の時期は所得分配の平等化が進行した。
(3)この時期は日本の社会保障制度が飛躍的に発展した。
(4)それまでの日本の貧困研究が絶対的貧困を中心になされていたとともに、貧困を生む1つの要因である社会の階層化が、高成長によって鮮明でなくなり、階層化論から貧困を研究することもなくなった。
の4点を挙げています。
第2章「先進国の貧困」では、「貧困率が突出して高い」国としてアメリカと日本を挙げ、次いで南欧諸国とアングロ・サクソン諸国が続くと述べる一方で、「中欧諸国の貧困率は平均よりもやや低く、最も低い貧困率は北欧諸国で示される」と述べています。
また、「イギリスで最初に最も影響力のある貧困研究として現れた」Rowntreeについて、「後の世において『絶対的貧困』と呼ばれる貧困の定義の提唱者」であると述べています。
さらに、スウェーデンとデンマークの国民の間に自由と平等の思想が強固である理由として、
(1)協同組合の創生と発展。
(2)参加型の経営が基本になっている。
(3)共同体で生きることの意味をよく心得ている。
(4)国民の間で社会民主党の政治への信頼が強い。
(5)もともと国民の間に階級社会という顔がさほどなかった。
(6)政治家を含めた知的指導者、さらに経済学者、思想家、実務家の役割も無視できない。
(7)公共部門と国民の間の信頼感が強い。
(8)民間部門が福祉を担当すると、サービスの提供にゆがみが生じる、という危惧を国民は恐れている。
の8点を挙げています。
第3章「日本の貧困」では、「90年代以降における日本の貧困の推移に焦点をあて」、
・なぜ貧困は増加しているのか
・貧困に陥っている世帯にはどのような特徴がみられるのか
・貧困の削減に向けてどのような方策が有効であろうか
等の諸問題に対する分析を試みるとしています。
そして、現在の日本の姿について、「相対的貧困の概念で貧困を定義してもかなり貧困ラインは低く設定されている」として、「低い貧困ラインであるにもかかわらず、およそ6世帯に1世帯が貧困ライン以下にある」ことを指摘しています。
また、「核家族世帯や三世代世帯において世帯主の労働所得しか稼得所得がないケースでは、貧困になる確率が相当上昇する」と述べています。
著者は、分析結果より、「90年代半ば以降、多くの貧困指標において貧困レベルに上昇が見られ、日本の貧困が全体として拡大中であることが確認された」と述べています。
第4章「生活保護制度の貧困削減効果」では、「労働力人口として働くことが可能な年代の人に、生活保護受給がほとんどなされていない理由」として、
(1)働く場所のない失業者には、雇用保険制度からの失業給付があるので、次の職が見つかるまでの所得保障制度は用意されている、との認識が世間一般にあること。
(2)身体も精神も健常で働くことの可能な年代の人に対しては、たとえ生活保護受給の申請があったとしても、「まずは仕事を見つけなさい」と説得を重ねて、当局が申請を受理・認可しないケースがある。
(3)生活保護制度は、家族・親族からの経済支援を受けることが可能な人を排除している。
の3点を挙げています。
そして、本章において、「家計が最低限度の生活水準を満たすための収入額を世帯類型別に貧困ラインとして設定し、貧困を絶対的に定義することを試みる」としています。
また、わが国の捕捉率が非常に低い理由として、
(1)相当厳格な資格審査、所得調査、資力調査(ミ-ンズ・テスト)が課される。
(2)家族・親族に経済支援の能力があれば、生活保護の受給資格が認定されない。
(3)そもそも生活保護制度に対する十分な情報を低所得世帯が入手できておらず、そのことで申請に二の足を踏んでいる可能性が高い
(4)恥の文化によるのか、なかなか権利を行使しない人が多い。
の4点を挙げています。
著者は、公的扶助の効率性について、カナダ、ドイツ、スウェーデン、イギリス、アメリカとの比較において、「日本は6か国中最も低い効率性である」と指摘しています。
第5章「"貧困との戦い"における最低賃金の役割」では、「住宅特別扶助を生活保護支給額に組み入れた場合、生活保護支給額が最低賃金額を上回っているケースがあること」について、この事実が、
(1)生活保護制度による支給額は、人が最低生きていけるだけの生活費保障を念頭にして算出されているが、最賃が生きていくだけの生活費を支給していないと理解することが可能である。
(2)最低賃金を受け取る人は労働をしているのに対して、生活保護を受けている人は労働をしていない人が圧倒的に多い。
の2点から異常であると指摘しています。
また、最低賃金が賃金分布に与える影響として、「最低賃金を10%上昇させた場合は貧困世帯のうちの約5%、15%上昇させた場合は約6.5%が貧困ラインを脱出できる」と試算しています。
第6章「人々は貧困をどのように捉えているのか」では、「人々の『貧困』に対する考え方にどのような特徴がみられるかの検証をアンケート調査を用いて」行ない、「人々の『貧困』に対する考え方は、所得分配をどのような公正概念で理解しているか、論点とも密接なつながりをもつと考えられる」と述べています。
そして、「経済的資源や経済活動の成果をいかに分配するかという判断基準」として、
(1)貢献に応じた分配
(2)必要に応じた分配
(3)努力に応じた分配
の3点を紹介しています。
著者は、本章において明らかになった点として、
・分布内における自分自身の位置に関する情報があらかじめ明示されていないケースでは、最も恵まれない人の利益を最大にするような分配を望ましいと判断するロールズ型の倫理基準に支持が強かった。
・相対的貧困回避型の倫理時基準に対する支持が、絶対的貧困回避型を上回った。
等を挙げています。
第7章「所得格差の拡大と貧困」では、「グループ内所得格差が小さい大手企業、官公庁の方が、グループ内所得格差の大きな自営業よりも富裕層である割合が高い」ことを指摘し、「いわば、大手企業、官公庁は、90年代においては、他の世帯業態と比べてローリスク・ハイリターンの特徴を持っていた」と述べています。
また、「母子世帯、世帯主が非正規労働者の世帯、世帯主が無職の世帯などで、90年代半ば以降、自らの集団と上位集団との所得格差が拡大している」ことや、「就労世代の単身世帯、若年世帯においては、95年から01年にかけて自らの集団と上位集団との所得分布の重なりの程度は、わずかではあるが増加した」ことなどを明らかにしています。
第10章「岐路に立つ日本社会」では、実証結果より、「所得という金銭上の問題だけでなく、住宅の質、家族や社会との関係が、人々の満足度に影響があるという事実」等を明らかにしたと述べています。
本書は、格差拡大をめぐる議論が盛んななか、見えにくくなった「貧困」を見つめる目を与えてくれる一冊です。
■ 個人的な視点から
日本は、終戦直後のどん底の貧困をあらゆる階層が経験しているためか、「豊かになった、あの頃よりましだ」という思いを共有できてきたために、貧困が大きな問題にならなかったのでしょうか。
その意味では、戦後の貧困を知らない世代が社会の大半を占めるようになった現在、貧困や格差の深刻さに今更ながらに気がつかされた、ということなのでしょうか。
■ どんな人にオススメ?
・自分は貧しくないと思っている人。
■ 関連しそうな本
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橘木 俊詔 『現代女性の労働・結婚・子育て―少子化時代の女性活用政策』 2006年08月18日
橘木 俊詔, 森 剛志 『日本のお金持ち研究』 2006年06月13日
■ 百夜百マンガ
ちょっとヘビーなSF作品の連載が長く続いてしまったためか、初心に帰ったような恋愛モノにちょっとだけ戻ってきました。読み切りのときの「変」の衝撃は大きかったです。
投稿者 tozaki : 2008年03月24日 22:00
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