« 報道危機―リ・ジャーナリズム論 | メイン | 地方分権改革 »

2008年03月31日

実は悲惨な公務員

■ 書籍情報

実は悲惨な公務員   【実は悲惨な公務員】(#1166)

  山本 直治
  価格: ¥798 (税込)
  光文社(2008/03)

 本書は、「世の中にはお役所の実像と虚像の区別がつかず、独り歩きしたイメージのみを信じて公務員に憧れる人もいれば、批判している人もいる」という現状を乗り越えるべく、「お役所に対して植えつけられたイメージの『虚実』を明らかにするための材料」を提示しようとするものです。
 著者は、これまでマスメディアや一般国民が、「終わりの見えないお役所の不祥事に接するたびに、お役所のダメさ加減にほとほとあきれつつ、北風のようにきびしくバッシングする態度をとって」きたことを、「まさに"北風思考"」であると述べ、「幾度のバッシングを経ても、不祥事はとどまる様子を」見せない理由として、「この態度は、公務員の指揮を落とすばかりで、実は不祥事をなくしてよりよい行政活動を進めるうえで逆効果になっているのではないか」と指摘しています。
 第1章「給与・福利厚生 お役人の待遇は本当にオイシイのか」では、結婚を機に公務員宿舎に入ろうと考えている部下に、上司が、「悪いことはいわん。新婚早々公務員宿舎に入ることだけは止めておけ。下見にでも行けば奥さんに泣かれるぞ」と賃貸住宅を薦める上司の言葉を紹介し、公務員宿舎の4割前後は、築30年以上であるばかりか、トイレや風呂などの水周りの貧弱さ、そして、台所には「昔ながらの瞬間湯沸かし器」を入居時に自分でつけ、退去時にはそれを撤去しなければならないことの理不尽さを伝えています。
 また、官民人事交流などで、一時的にお役所で働いた経験のある民間企業の人の話として、「公務員の給料って安すぎる」といわれている話を取り上げ、「そこまで話のブレが生じる原因」は、「たかだか『公務員』という三文字が共通するというだけの約372.5万人の多種多様な労働者をついつい一緒くたに扱い、しかも平均値というラフな数字に引きずられて議論してしまっているからでは」内科と指摘しています。 そして、お役所における中途採用が難しい背景として、「実はお役所の待遇が民間より低いために、民間から優秀な人材を採用しにくいという実態もあることはあまり知られて」いないと述べています。
 第2章「天下り問題 ケシカラン天下りを徹底検証」では、「民間と比べて公務員の待遇が高いか低いかという話は、『大手企業などから見れば公務員の給与は安く、中小企業や地方の地場産業から見れば公務員の給与はうらやましい』ということ」が言えそうだと述べています。
 そして、「世の中には悪い天下りと、許される天下りがあるはずだ」と述べ、許されない天下りの要素として、
(1)歪んだ競争・市場を作り出している。
(2)不適材不適所となっている。
(3)過分な待遇を与えられている。
の3点を挙げ、この1つ以上に当てはまる場合としています。
 さらに、民間企業も、マスメディアなどはそれ自身が「天下り天国」であることを指摘した上で、「市場競争の中で消費者(法人も含みます)に選択されることで社会から承認されている民間企業と違って、お役所とその外郭団体については、社会で本当に必要なものごとにお金が使われているのかどうか、市場原理の中では判断」されないと述べています。
 そして、「天下りに頼らず、積極的な理由で民間に飛び出そうとする公務員」に対して、「偏見を持ち罵声を浴びせ、民間へのソフトランディングを阻もうとする考えこそ、『北風思考』」であり、「俺なんか、お役所から民間に移っても通用するわけないよな」と、「彼らはお役所内の待遇や天下りにいっそう強くしがみつくことになる」と述べています。
 第3章「勤務実態 『グータラなくせにクビがない税金泥棒』の実像」では、「政治主導」「官邸主導」の流れのなか、「内閣官房や内閣府に『○○本部』『××会議』といったものが増設・強化」された結果、「タダでさえ留学などで省外にいて手薄な各省庁の若手(課長補佐・係長クラス)が、こうした本部などの事務局スタッフとしてかき集められ」た結果、「霞が関が外部の戦力に頼らざるを得ない状況」になり、「地方自治体や外郭団体などから相当数のスタッフを『中央官庁で業務研修を受けさせる』という名目で、派遣元が人件費を負担するかたち」で派遣させ、「実際には戦力として日々の業務を手伝ってもらっている」(正しくは「使役している」または「酷使している」が実態)のが現実だと述べています。
 また、「公務員はクビにならない」という話の引き合いに出される「民間で離職率の激しい会社」についても、「歩合制報酬とノルマ達成への厳しい突き上げに耐えかねて大量の離職者が出ることを織り込んで、毎年大量の新卒者を採用し続けるビジネスモデルの会社」や、「外資系コンサルティング会社などのように、後輩に追い抜かれたり社内でプロジェクトから外されたりして、いたたまれなくなって辞めざるをえない会社」のような、「ビジネスモデルや組織設計思想がお役所とまったく異なる」物を比較して、「公務員の安定がうらやましいとかケシカランとかいうこと自体、必ずしも的を射ていない」と指摘しています。
 第4章「コスト感覚 お役所はなぜ税金をムダ遣いするのか」では、「予算は余らせるな、使い切れ」という発想が、お役所が「計画経済の発想」で動いていて、その発想自体に限界があると指摘しています。
 また、通商産業省を舞台にした城山三郎作『官僚たちの夏』のなかで、「無定量・無際限に働く」という表現が使われていることについて、「この文脈にこそ、お役所仕事の本質が隠されている」と述べ、「『やればやっただけ日本がよくなる』系統の企画立案仕事こそ、むしろ曲者」であり、「『世の中のためになる』という前提で、いくらでも仕事をする材料が掘り起こされて」いくとして、「お役所では労働コストが正確かつ十分にカウントされていない点」を指摘し、「作業時間と作業内容(いわば品質)のあいだである程度の折り合い」をつけようとしないと述べています。
 第5章「無責任体質 リスクや責任をとらない理由」では、異動が多い官公庁では「それまでまったく経験のない部署から別の部署に移ってくることは少なく」ないなかで、「ときんは、古くから手をつけられていないしがらみや不祥事が澱のように溜まっている部署に配属されること」があり、新しいポストの仕事に慣れるに従い、「この部署(ポスト)は、目の前にパンドラの箱が置かれた状態であるということ」に気づくとして、「お役所に限らず、民間の不祥事も長年たなざらしになる背景は、こういうことにある」のではないかと述べています。そして、「自分の在任中、『臭いもの』を隠し通せば」大変な対処に追われずにすむうえに、「フタを開けた人は、問題が発覚したときの責任者だったという理由により、相当な確率で出世競争上、回復困難なダメージを受け」るため、「普通の人ならフタを開けずに逃げ切りたい」と思うようになると述べています。
 また、「お役所の施策・事業には中長期的なものが多い」ため、「施策の継続中に変更や撤退などを決断した/しなかったことに対する責任については、、特定するのが難しい」として、「中央官庁のキャリア組のように、早いところだと1~2年ごとに人事異動が行われるので、"責任のバトン・リレー"が起きてしまう」と述べています。
 さらに、著者自身が、文部科学省で、宇宙開発を担当する部署に在籍していた経験を述べた上で、「日本人がリスクに耐えられないのではないか」という懸念を示し、「お役所のリスク感覚は、マスメディアや国民が持っている感覚(リスク許容性)に依存している、いわば『役所は国民の映し鏡だ』」と述べています。
 第6章「マスメディア TVもダメ、新聞もヘン?」では、「バッシングにも動と静があります」として、「当初は激しいもののしぼんでいくのも早い一時的なバッシングよりも、穏やかだがしぶとく真綿で首を絞めるように、そして理性的に行政への監視を続けたほうが、実は所期の目的を達成できるのではないでしょうか」と述べています。
 また、公務員による不祥事を、
(1)公務員という立場(環境)が作用して起きた不祥事
(2)当事者(犯罪者・容疑者)がたまたま公務員だった不祥事
の2つに大きく分け、両者の違いを、「その不祥事に『公務員性(あるいはお役所性)』があるかないか」であると分類しています。
 そして、「何かあればすぐ『公務員なのになんであんなことをするのか』『国民(市民)の代表たる公務員が……』『不祥事を起こしたアイツと同じ組織の人間はみなケシカラン』『どうせみんな一緒だ』と、当事者以外の公務員にまでレッテルを貼ることが建設的なのかどうかを、今一度考えていただきたい」と述べています。
 第7章「クレーマー 国民からの苦情窓口としてのお役所」では、行政に対する苦情電話を、
(A)当事者型苦情電話
(B)一般型苦情電話
(C)豹変型(または目的混在型)電話
(D)自分の話を聞いてほしい電話
の4つに類型化したうえで、「こうした苦情電話を含めた一般からのお役所への連絡・問い合わせ電話全般」に対応するため、日本ではじめて市役所内にコールセンターを開設した札幌市役所の例を挙げ、これを主導した職員の北川憲司さんが、「玉子酒の作り方を教えてほしい」「香典はいくらぐらい包んだらいいんでしょうか」等の行政への問い合わせとは無関係の問い合わせもコールセンターにかかってくると明かしていることを紹介しています。
 また、「お気楽公務員」の常識を覆す「激務」として、「セイホの仕事」(生活保護を扱うケースワーカー業務)を挙げ、「実は福祉系の勉強をしてきた人ほど、学問や理想と現実のあまりのギャップに悩み、辞めてしまう人もいる」と述べています。
 「エピローグ」では、「これまでの『古い』お役所バッシングを卒業し、公務員のモチベーションを損なわず、むしろ奮起させるような適度な緊張感を持った『新しい』お役所バッシングに変えていくため」に必要なものとして、
(1)短期は損気。どやしつけずにまずは冷静に考えること
(2)お役所の改革・改善を見守る根気を持とう
(3)怒りも根気を持って
の3点を挙げています。
 本書は、「お役所」や「公務員」を、本当の意味で自分達の役に立つものとして使うためにはどうしたらいいかを考えさせてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 「北風と太陽」の話は、公務員バッシングの目的が、ストレス発散の矛先を向けることにあるのか、自分が住む社会をより良くしていくことにあるのか、の違いにあるような気がしてならないです。その意味で、本書で著者が理性的に整理していることは意味があると思います。


■ どんな人にオススメ?

・公務員は恵まれていると思う人。
・公務員は悲惨だと思う人。


■ 関連しそうな本

 山本 直治 『公務員、辞めたらどうする?』 2007年08月24日
 末弘 厳太郎 (著), 佐高 信 (編集) 『役人学三則』 2005年12月12日
 新しい霞ヶ関を創る若手の会 (編集) 『霞ヶ関構造改革・プロジェクトK』 2005年12月22日
 宮崎 哲弥, 小野 展克 『ドキュメント平成革新官僚―「公僕」たちの構造改革』 2006年04月13日
 テリー伊藤 『お笑いニッポン公務員―アホ役人「殲滅計画」』 2006年03月16日
 西村 健 『霞が関残酷物語―さまよえる官僚たち』 2007年09月05日


■ 百夜百マンガ

巌窟王【巌窟王 】

 アレクサンドル・デュマ・ペールの『モンテ・クリスト伯』を、舞台を変えてアニメ化した作品を元にしたコミカライズ作品(ややこしい)。マンガとしても独特の雰囲気のある絵がよいです。

投稿者 tozaki : 2008年03月31日 07:00

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.pm-forum.org/MT3/mt-tb.cgi/1691

コメント

コメントしてください




保存しますか?