« 破産する未来 少子高齢化と米国経済 | メイン | 日本辺境ふーらり紀行 »
2008年03月19日
「説得上手」の科学
■ 書籍情報
【「説得上手」の科学】(#1154)
内藤 誼人
価格: ¥1,575 (税込)
日本経済新聞社(2005/11)
本書は、「説得学における基本的な知識やデータを取り上げて紹介」したもので、中でも「日常場面ですぐに応用できるような実践的な技法については、現在まで明らかにされているすべての技法を紹介」います。著者は、どんな学問にもある「これだけは絶対にしておいた方がいい」という"核"の部分の知識をきちんと説得学を学びたい読者に理解してもらうことを目的としています。
第1章「説得がうまくいくための基本条件」では、私たちの感情が、感染しあうものであり、こちらが相手に思う感情が、「そのまま相手から返ってくるもの」であるとする「ミラー・イメージ効果」について解説し、「概して、人に惚れっぽく、人の良いところを探すのが上手な人ほど、交渉に向いている」と述べています。
そして、私たちが、「鏡を見ると、なぜか自分の意見、感情、本音などに敏感になり、イヤなことをきちんとイヤだと主張するようになる」ため、「説得されにくく」なることをあわせて解説しています。
また、「母親が、子どもに厳しいしつけをすればするほど、子どもは親が命令したこととは、まるっきり正反対のことをするようになる」という「ブーメラン効果」を紹介しています。
さらに、「単純に接触回数が増えるだけで、私たちは、その相手に好意を感じるもの」であると述べ、「自分が嫌われているのではないかと思われたときの最善の解決法」として、「今まで以上に頻繁に相手に会いに行く」ことを挙げています。
この他、「あえて『主張しない』ことで、相手の行動を変化させる」という技法として、「単純に事実をフィードバックするにとどめる」という「フィードバック法」を取り上げ、部下のやる気を高めるときにも、優れた上司は口うるさく説教などせず、「ただ、相手の仕事ぶりに対して、正確なフィードバックを心がける」ものであると述べています。
第2章「相手の心をぐっと動かす説得の『技法』」では、交渉の定番技法である、
(1)「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」(踏み込み法):小さな要求を飲ませてから、大きな要求を持ちかける。
(2)「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」(門前払い法):わざと大きな要求をして拒絶させてから、小さな要求を切り出す。
(3)「ローボール・テクニック」:いったん要求を飲ませてから、偶然を装って、不利益を追加していく。
の3つの技法を紹介した上で、この3つの中では、(3)→(2)→(1)の順、すなわち、ローボールが一番効果が大きかったという実験結果を紹介しています。
この他、「ほんの少しでもお願いできませんか?」と「相手の善意につけこむやり方」である「イーブン・ア・ペニー・テクニック」等を紹介しています。
第3章「すぐれた説得者に共通する『資質』」では、優れた説得者の資質として、
・笑顔を絶やさない
・信頼される瞬時の反応(クイック・レスポンス)
・相手と似ている(類似性の原理)
等を挙げ、それぞれに関する研究を紹介しています。
第4章「人はこんなことで説得されてしまう」では、「説得が一番うまくいく時間帯」として、「お昼から夕方くらい」、つまり、「2時から4時くらいまでが、相手に何かモノを頼むのに絶好の時間帯である」と述べています。
また、「女性が男性、女性が女性、あるいは、男性が女性にタッチングするのは、それなりに効果があった」が、「男性が男性にタッチングしても、あまり効果がない」ことなどを解説しています。
第5章「説得をさらに水増しするための技法」では、私たちが、「相手の服装を見て、その人の注文に従うかどうかを決めている」として、「とりわけ、制服を着た人に対しては、言うことを聞いてしまう」こと、「なるべくフォーマルな印象を出した方が、説得はうまくいくこと」等を解説しています。
また、相手の権威性、専門性を打ち破るためのカウンター法として、
(1)「あなたは、"すべての"専門家の意見を知っているのですか?」と聞くこと。
(2)絶対に答えられない質問をすること(「どうして人間は結婚するのですか?」等の抽象的な質問など)。
(3)科学的なデータが頼りにならないことを示すこと。
(4)「その研究は、他の研究者に追認されていますか?」と聞くこと。
の4つの方法を挙げ、「この4つの方法を使えば、相手が権威や専門性によってあなたを説得しようとしてきても、かなり効果的にカウンターを食らわせることができるだろう」と述べています。
一方で、肩書きや地位が上の人に対して、「"弱さ"を武器にする戦術」として、「徹底的に弱い立場であることをアピールし、必要なら、涙を流したりもして、哀願」する「アンダードッグ効果」(川に落ちた犬)について解説しています。
第6章「こんな話し方をすれば説得できる」では、「説得をするときには、早口を心がけるとうまくいく」として、「単位時間あたりの情報量が増える」だけでなく、「早口で話すと、語り手の信頼性が15%高まる」とという実験結果を紹介しています。また、よどみなく話す「スムーズさが、相手を信頼させる効果をもたらすらしい」こと、「早口で話したほうが、自信に満ち溢れているようなイメージを与える」ことなどを解説しています。
また、「少し、大きすぎるかもしれない」と思えるくらいの大きな声で話をすることや、おしゃべりが得意でない人は、「冗長な表現をなるべく排除するような話し方を身につけ」、「短文ぶつ切り表現を身につける」ことでパワフルさを感じさせることができること等を解説しています。
さらに、相手からのきわどい質問をかわす方法として、
(1)質問を無視する方法:サッチャー元首相はこのテクニックがお気に入りだった。
(2)質問者へ攻撃を加える方法:「その質問は、仮定の話にすぎない」「その質問は、誤った前提に立っている」「その質問は不正確である」「その質問は、今の状況に関係ない」など攻撃することで、その質問がくだらないもので、答える価値もないことをアピールする。
(3)相手の質問を遮る方法:「私は、まだ発言中です、質問は後にしてください」
(4)相手の質問に、こちらの質問をかぶせていく方法:「もっと明確におっしゃってください、その質問ではお答えできません」
(5)以前の自分の回答を繰り返す方法:「ですから、先ほども申し上げたように……」
等の方法を紹介し、「相手の質問には、絶対に答えなければならない、というわけでもない」と述べています。
第7章「相手の性格タイプ別説得法」では、内気なタイプには、「かけられるだけの時間をかけるとよい」こと、権威主義的な人には「権威」を持ち出すのが有効であることなどを解説しています。
また、心理学では「タイプA」と呼ばれている、「性格的にせっかちで、他人がゆっくりしているのを見ると、『もっと早くやれ』と急かしてくる人、のんびり構えることができず、何かに駆り立てられているように行動する人」、「部下が何かの報告をしようとすると、『結論から言え、結論を』と、急き立てる上司」は、「説得するのは非常に難しい」と述べ、「せっかちな人は、相手に対する共感性が薄く、その話をあまり受け入れないようである。彼らは、たえずイライラしていて、自分以外の人に対しては、敵意を感じている」と解説しています。
<付録>「売れるセールスマンを心理分析する」では、売れるセールスマンの特性として、
・外交的である。
・我慢強い。
・会社の利益でなく、お客の利益を考える。
・挑戦意欲に燃えている。
・じっくりとお客の話に「耳を傾ける」。
等を挙げた上で、これらの中には、「運命論的に決定されているものではなく、経験によって積み重ねられていくもの」もあると述べています。
本書は、読んだからといって直ちに説得の達人になれるというものではありませんが、日々の生活の中の説得の実体験やそれに基づく「持論」に裏づけを与えてくれるものです。
■ 個人的な視点から
書店にはビジネス本コーナーに「説得上手」になるためのハウツー本が溢れてますし、そういったセミナー(結構高い!)も数多く開催されています。こういうのはどんな人が買っているのでしょうか? やはりセールスマンなど、「人を説得する」ことを商売にしている人なのではないかと想像するのですが、実は、こういうことにお金を出すように「説得されやすい」人たちなのではないかと思ってしまいます。
■ どんな人にオススメ?
・人を説得したい人。
■ 関連しそうな本
ロバート・B・チャルディーニ (著), 社会行動研究会 『影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか』 2006年02月16日
榊 博文 『説得と影響―交渉のための社会心理学』 2006年02月23日
マックス H・ベイザーマン (著), マーガレット A・ニール (著), 奥村 哲史 『マネジャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋』 2005年07月04日
フランク・ベトガー (著), 土屋 健 『私はどうして販売外交に成功したか』 2006年11月17日
印南 一路 『ビジネス交渉と意思決定―脱"あいまいさ"の戦略思考』 2005年6月28日
鈴木 有香 (著), 八代 京子(監修) 『交渉とミディエーション―協調的問題解決のためのコミュニケーション』 2005年09月30日
■ 百夜百マンガ
「あすなろ」と聞くと「明日は檜の木になろう」を思い出してしまうのですが、恋愛ドラマの定番に似つかわしくないような。そう言えばなんでこんなタイトルなんでしたっけ?
投稿者 tozaki : 2008年03月19日 19:00
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.pm-forum.org/MT3/mt-tb.cgi/1679
【あすなろ白書 】