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2008年05月10日

ヨーロッパをさすらう異形の物語 上―中世の幻想・神話・伝説

■ 書籍情報

ヨーロッパをさすらう異形の物語 上―中世の幻想・神話・伝説   【ヨーロッパをさすらう異形の物語 上―中世の幻想・神話・伝説】(#1206)

  サビン・バリング・グールド (著), 村田 綾子 (翻訳)
  価格: ¥2310 (税込)
  柏書房(2007/09)

 本書は、「中世ヨーロッパに流布していた代表的な伝説をほとんど網羅し、それを時代と民族、あるいは作家の個性が加工して、それぞれ魅惑的なヴァリエーションを創っていったことを指摘」するとともに、「著者の知識と感性を総動員して、融通無碍に時空を超えた『比較神話学』へと連なっている」ものです。
 第1話「さまよえるユダヤ人」では、「中世に生まれたあらゆる神話の中で、このユダヤ人の伝説は群を抜いている」と述べた上で、この神話が、「人間の生命という、永遠に解けない謎、想像の源泉から生まれている」という「大いなる神秘を起源にしている」と述べています。
 第2話「プレスター・ジョン」では、「プレスター・ジョン伝説は、東宝におけるネストリウス派の目覚しい繁栄から生じたと思われる」と述べたうえで、「ローマについて語るときの見下した口調は、西洋人の心情を表しているとは思えない」として、「どう見ても、ヨーロッパ人の捏造したものではない」と指摘しています。
 第3話「占い棒(ダウジング)」では、「中世は迷信や俗説の時代だった。占い棒には埋蔵されている財法、貴重な鉱石や水脈、泥棒や殺人犯を探し出す力があると信じられていた」と述べ、棒占いの驚異的な力がヨーロッパ中の関心を集めるきっかけとなったジャック・エマールのエピソードを紹介しています。
 第4話「エペソスの眠れる七聖人」では、エペソスの「眠れる七聖人」が、「その望みどおりにエペソスの地で安らかな眠り」につくことができず、「聖遺物が黄金や宝石よりも価値のあった時代に、そっとしておいてもらえるはずもなかった」として、「今もサン・ヴィクトル修道院付属教会に安置されている」と述べています。
 そして、「西暦250年ごろ、7人は当時のローマ皇帝デキウスのもとで迫害されて、前に述べた洞窟に埋められたのではないだろうか。そして479年、テオドシウスの治世下で、彼らの遺骸が発見され、移送されて、眠れる七聖人の伝説が生まれた」とする考えを、「ただの憶測ではなく、じゅうぶんに考えられる話だ」と述べています。
 第5話「ウィリアム・テル」では、「古典を研究する者にとって、できることなら避けたいつとめのひとつ」として、「人々が事実だと思っている話をでたらめだと暴き、史実とされている出来事がただのつくり話にすぎないと証明すること」だと述べています。
 第6話「忠犬ゲラート」では、この物語が、「インドからヨーロッパにもたらされた。伝播の道筋も明らかになっている」として、「『ゲスタ・ロマノールム』によって、ヨーロッパ中に伝わり、ウィリアム・テル伝説と同じく、国や地域ごとの色合いをまとい、語り継がれていった」と述べた上で、「国や世紀によってさまざまな変化が生じても、物語の土台は変わらない」として、「人間が動物や鳥と友情を育んでいる。人の言葉を話せない動物は、自分のやりかたで主人に尽くす。だが主人はその行動を誤解して、命の恩人を殺してしまう」という筋書きを解説しています。
 第8話「反キリストと女教皇ヨハンナ」では、「女教皇ヨハンナの伝説は完全なつくり話で、その土台には歴史的事実は一切存在しない。おそらく、ローマ・カトリック教会の聖職位階制(ヒエラルキー)に不信を抱かせる目的で、ギリシア人がつくりだしたものだろう」と指摘しています。
 第10話「ヴィーナスの山」では、ヴェーヌスベルクの物語の根源を、
「地下にいる人々が、人間と結ばれようとする。
 α.男性が彼らの住処へ誘い込まれ、地下に住む種族の女性と結婚する。
 β.男性が地上に戻ることを望み、逃げ出す。
 γ.男性がふたたび地下の世界へ舞い戻る」
という構造をもつとして、「現存する民間伝承集の中には、この根源に基づいた物語が必ずと言っていいほど入っている」と述べています。
 そして、「中世に形作られた伝説は、新興宗教と既存宗教のせめぎあいを如実に物語っている」として、「タンホイザーの物語が本当に伝えているのは、キリスト教徒とは名ばかりで、実際には異教の心を持つひとりの男が、異教の魅力に惑わされていくさま」であると解説しています。
 第13話「聖ゲオルギオス」では、各地の神話を比較した上で、「謎めいた素性をもつ聖ゲオルギオスを、キリスト教化されたセム人の神と認めないわけにはいかない。転化していく上で、必要に応じてほんのわずかな脚色が加えられた」と解説し、「聖ゲオルギオスが何度も死んでしまうのは、見方を変えれば、太陽が一日で姿を消すことを意味している」と述べています。
 また、「ドラゴンとの戦いは、アーリア人の神話すべてに共通するもの」として、「ドラゴンに捧げようとした乙女とは、大地である。ドラゴンは、嵐の雲。ドラゴンと戦う英雄は、太陽。英雄が持っている輝く剣は、稲妻の光。英雄が勝つことで、大地は危機を脱する」として、この物語が、「その風土ごとにアーリア人が感じ取る天候の特色に合わせられている」と解説しています。
 本書は、ヨーロッパ人ならば当たり前に知っている数々の神話や伝説のルーツを読み解くことで、民族の歴史の一端を垣間見せてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 ヨーロッパ人の書くいろいろな文章の端々には、古典とともに、古い伝説があちこちに引用されることが多く、翻訳で読む日本人には、なかなかニュアンスというかその背景が伝わりづらい点がありますが、本書は、その一助になるものではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・ヨーロッパ人の理解を深めたい人。


■ 関連しそうな本

 サビン・バリング=グールド (著), 池上 俊一, 村田 綾子, 佐藤 利恵, 内田 久美子 『ヨーロッパをさすらう異形の物語―中世の幻想・神話・伝説 (下)』
 甚野 尚志 『中世の異端者たち』
 高橋 友子 『路地裏のルネサンス―花の都のしたたかな庶民たち』 2006年11月03日
 若桑 みどり 『フィレンツェ―世界の都市と物語』
 高橋 友子 『捨児たちのルネッサンス―15世紀イタリアの捨児養育院と都市・農村』 2006年12月09日
 アルフレッド・W・クロスビー (著), 小沢 千重子 (翻訳) 『数量化革命』 2006年11月18日


■ 百夜百音

30-35 vol.7 「イカ天」特集【30-35 vol.7 「イカ天」特集】 オムニバス オリジナル盤発売: 2006

 これだけはっきりターゲット年齢層を絞ってくると痛快です。たしかに、土曜の深夜にイカ天を一生懸命見ていた世代となると限定されてくると思います。

『バンド天国』バンド天国

投稿者 tozaki : 2008年05月10日 12:00

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