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2008年05月12日

自治体財政のツボ―自治体経営と財政診断のノウハウ

■ 書籍情報

自治体財政のツボ―自治体経営と財政診断のノウハウ   【自治体財政のツボ―自治体経営と財政診断のノウハウ】(#1208)

  小西 砂千夫
  価格: ¥1995 (税込)
  関西学院大学出版会(2007/12)

 本書は、「財政という観点で、住民が役所を監視するためのノウハウをお伝えすること」を通じて、「住民本位の行政運営の実現」に貢献することを目的とするものです。著者は、「財政の世界は自治体の職員であっても畑が違えば親しみがないというほど、専門化された世界」であるとして、「住民の目線で、どうすれば自治体の財政がわかるか」を自らへの課題としたと述べています。
 第1章「住民はどうやれば自治体の暴発をチェックできるか」では、「財政再建団体になれば楽になれる」という「誤解」に対して、「再建団体の職員の主な仕事」は、「政策を考えることではなく、できるだけ人件費を節約して、税金の取り損ねを少なくすることだという位置づけになって」しまい、「自治を支える自治体職員のモティベーション(士気)は下がり気味になりがち」であると指摘しています。
 そして、夕張市を例に挙げ、「他団体と比較して、異常なほどの貸付金と回収金があった」という状態が「4年間続いていた」として、「どうも尋常ではない財政運営が行われているのではないか、と見ることが」できると述べています。「116%」という経常収支比率についても、「自治体では経常費に宛てるための借金はできませんから、116%ならば100%を超える16%分の財源はどこから持ってきたのだ、という疑問が生まれます」として、「経常収支比率が116%などという数字は、赤字地方債が出せない以上は、単に財政状況が悪化しただけではたたき出せません」と指摘しています。
 第2章「自分たちの税金がなにに使われているか(1) 初級編」では、予算書について、「誰の決裁で何に何円まで使えるか」を表している、と述べ、「公権力の暴走を避けるために予算による縛りを重視し、事後ではなく事前の監視を重視している」点を、「企業との一番の違い」であると解説しています。
 そして、「役所の建前主義を乗り越えて、住民とともに懸案を考えようとする姿」として、「事業別予算」を上げ、日本の事業別予算書のさきがけとして、北海道ニセコ町の「もっと知りたいことしの仕事」を紹介しています。
 第3章「自分たちの税金が何に使われているか(2) 上級編」では、「これまで外部委託をしていた庁内の清掃を職員が行なうようになった結果、たとえば年間3000万円のコストを引き下げたといった成果を強調するケース」について、「一見すると、努力しているよう」に見えるが、「職員の時間単価を考えると、どうみても外部委託のほうが安い」と指摘し、「職員の時間単価はイクラで、清掃の外部委託とどれだけ違うか、というコスト感覚があれば、職員に清掃をしてもらうことが効率的という判断はできない」と述べています。
 また、事業別予算と総合計画との関係について、「総合計画と予算の事業区分に整合性がないと、たいへん困ったこと」が起きる、すなわち、「総合計画の進捗管理ができない」ことを指摘しています。
 第4章「自治体の財政診断(1) 初級編」では、「自治体の財政比較で使われるデータは、すべて決算統計に基づいてなされるものであり、簡易版である決算カードにすべて載って」いるとして、「決算統計・決算カードは決算分析資料として最重要」であると述べています。
 そして、「起債制限比率」について、「毎年の返済額のしんどさを表現していますが、借金の残高の重さは量れません」と述べています。
 また、「わが国の地方自治の特徴」として、「規模が小さくても、基礎自治体としての行政任務は規模にかかわらず決して小さくないこと」を指摘しています。
 さらに、「あと○○年で財政再建団体に陥ると訴えている」自治体があることについて、「まったく行政改革を行わないで、このままの放漫な財政運営を続けていくと、いずれは実質収支(実質単年度収支の累積額)の赤字幅が財政調整基金や減債基金の残高を上回り、その差額が標準財政規模の20%を超えるのが○○年後である」と説明されているが、「歳入予測をわざと過大にしてむざむざ赤字を出したり」、「夕張市のように決算報告そのものに手を入れてしまうような団体」もあるが、ほとんどの団体にとっては、「財政が厳しいというのは、否応なしに行革せざるを得ない状態をさしているのであって、『モラルハザードを起こさない限りは再建団体などになることはない』というのが自治体の財政運営の置かれた定め」であると解説しています。
 また、「自力で再建をするくらいならば再建団体になったほうがむしろ楽であるという実感」は、「首長が無責任で、財政再建に向けての厳しい判断を下すことから逃げ回っているというような状況が見え隠れ」すると述べています。
 著者は、「複数の財政指標をつくることはよいとしても、それを最後には償還能力と資金繰りの2つに集約することが有効である」と述べ、「資金繰りでは実質単年度収支」、「償還能力では公債費を除く経常収支比率」をとることによる分析の実例を示しています。
 第5章「自治体の財政診断(2) 上級編」では、「財政の持続可能性の分析は、1年間のキャッシュ不足が起きないかという『資金繰り』の観点と、長期にわたって債務償還ができる見通しがあるかという『償還能力』の観点からアプローチすべき」であると述べています。
 そして、財政力指数と起債制限比率の関係について、「財政力指数の低い団体ほど、逆に起債制限比率が高い」、つまり、「分不相応の起債をしてしまって、その償還に身動きが取れなくなっている団体が、財政力の低い小規模団体を中心に相当多い」と指摘しています。
 また、地方交付税削減の影響についても、「地方交付税が圧縮されても、すべての団体が体力以内の木際にとどまっておれば、特に税源に乏しいから困るということ」はないが、「体力異常に起債している団体の場合には、そのショックは倍増されて」しまうとして、「体力以上に起債している団体は、小規模団体に圧倒的に多いので、小規模団体ほど、交付税削減の影響が大きいという図式」になると指摘しています。
 著者は、「地方財政制度はどんどん変わっていき、多面的な分析が必要」になるとして、「今後は赤字地方債の発行さえ、想定できないわけでは」ない、中で、「債務償還能力の診断をできない自治体は、健全な財政運営のあり方について十分な見識をもてない」ことになると指摘し、「財政分析のあり方は、従来の資金繰りを中心とした分析から新たな手法による局面に入った」と述べています。
 第6章「バランスシート(財務諸表)の持つ意味」では、「自治体の決算統計とは、まさに内部管理のためのデータ」であり、「一般の住民に財政状況を分かってほしいという気持ちで作っているものではない」と述べています。
 第7章「地方財政制度の今後と財政見通し」では、地方財政制度について、「国が地方に法令等で行政任務を規定しており、いわばあなたの仕事はこれですよと規定していますので、それに相応しい財源を、(1)総額として確保するために地方財政計画を策定し、(2)個別の自治体に対しても財源が保障されるように地方交付税などで財政調整を行なうもの」であると解説し、「地方財政制度の根本にあるのは、行政任務に相応しい財源保障という形で、全国どこに住んでいても一定水準の行政サービスが保障される仕組みを通じて内政の安定を図るという『国家統治』の観点」であると述べています。
 そして、「地方団体はひとつひとつで単立なのではなく、全体として一つのかたまりであって、相互に扶助しあうという『連帯』の形をとっている」と述べ、「国家統治と相互扶助を通じた共同体の思想という地方財政の制度の特徴は、正規が変わった頃から吹き荒れている地方財政制度への批判や改革の動きの中で、筆者から見てあまり正当に評価されているようには思えません。むしろ、それとは対極にある至上主義的な動きの方が勢いを増して」いると述べています。
 第8章「自治体財政で何を改革しなければならないか」では、「成果主義的な考え方を取り入れた行政運営への民間的手法の応用」と考えられてきた「NPM(ニュー・パブリック・マネジメント)」について、「かなり功罪があるよう」に見えると述べています。
 そして、三重県が、「NPMという理論に沿って改革をしたわけではなく、改革の過程を後で振り返ってみればNPMといわれているものに近かった」というものであり、「三重県が行なったことと同じ仕組みを導入し、形をまねたところで、それがもたらす効果は、三重県で起きたことと決して同じではない」と述べています。
 一方で、「自治体批判を煽るようなスキャンダルも頻発」しているが、「大切なのは、自治体をけっしてみおろしてはいけない、ということ」であるとして、「おまえたちは民間に比べコスト意識がない、何度言っても役人はちゃんとやらない、役人のいうことなんか菊に値しない、そのような心根から出た批判の言葉は、けっして改革を進めるエネルギーにはなりません」と述べています。
 本書は、自治体を監視する側の住民にとっても、監視される側の自治体にとっても、わかりやすく地方財政を解説した一冊です。


■ 個人的な視点から

 著者の研究されている分野自体は、研究者だけに結構マニアックでついていくのが大変な部分もあるのですが、本書で主張されている骨の部分は、普段、勉強会などで自治体職員にお話しされている部分に共通する部分が多いような気がします。
 その意味でも、本当の意味で本書の内容に付いていこうと思ったら、それなりに勉強する必要があるのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・自分の住んでいる(または勤めている)自治体の財政状況を理解したい人。


■ 関連しそうな本

 小西 砂千夫 『地方財政改革論―「健全化」実現へのシステム設計』 2008年04月02日
 小西 砂千夫 『地方財政改革の政治経済学―相互扶助の精神を生かした制度設計』 2008年04月04日
 赤井 伸郎, 山下 耕治, 佐藤 主光 『地方交付税の経済学―理論・実証に基づく改革』 2005年01月27日
 吉富 有治 『大阪破産』 2006年10月20日
 松本 武洋 『自治体連続破綻の時代』 2007年01月04日
 肥沼 位昌 『キーワードでわかる自治体財政』 2008年05月08日


■ 百夜百マンガ

サクラ大戦漫画版【サクラ大戦漫画版 】

 広井王子と言えば数々の原作漫画をこけさせたことで有名ですが、ゲームにかかわるきっかけも、ドラマティックと言えばドラマティックです。

投稿者 tozaki : 2008年05月12日 22:00

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