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2008年05月17日

ウェブ人間論

■ 書籍情報

ウェブ人間論   【ウェブ人間論】(#1213)

  梅田 望夫, 平野 啓一郎
  価格: ¥714 (税込)
  新潮社(2006/12/14)

 本書は、『ウェブ進化論』で知られる梅田望夫氏と、『日蝕』で芥川賞を受賞した小説家の平野啓一郎氏が、ウェブ世界の現状と未来について語った対談です。
 第1章「ウェブ世界で生きる」では、「インターネットが人間を変えるのであればどのように変えるのだろう」というテーマを持っていた平野氏が、『ウェブ進化論』から刺激を受け、一方、同時多発テロ後、「自分の生き方を変えようとしていた」梅田氏が、平野氏の『葬送』を読んで、「自分よりも年下の人、それも1970年以降に生まれた若い人たちと過ごす時間を積極的に作ることで時代の萌芽を考えていきたい」と決断したと、お互いに影響を語り合っています。
 また、平野氏は、2004年当時のパリにネットカフェができたときに、「誰も口を利かずに隣の人でなく何千キロ、何万キロと離れた場所の人とずっとやりとりしている」という光景を挙げ、「世界中どこでも、本当にコミュニケーションの際の『時空』の把握の仕方が変わってきているなという印象を強く受け」たと語っています。
 さらに、梅田氏は、アマゾンの「なか見!検索」について、「これからすべての書物はデータベース化されて検索可能となる方向へシフトする」と述べ、「ここまでは主にそれが理系のところで起きたけれども、次の十年は文系の方までその波が及んでくる」と語っています。
 そして、梅田氏がブログではなく『ウェブ進化論』という本を書いたことについて、「考えを一つの構造にまとめるのに適したメディアはやはり本しかない」と述べ、「ブログの本当の意味」は、「ブログを書くことで、知の創出がなされたこと以上に、自分が人間として成長できたという実感がある」と語っています。
 第2章「匿名社会のサバイバル術」では、平野氏が、「都市部と地方とでは、ネットによる恩恵の実感ってかなり差があるんじゃないか」として、東京のような大都市では、「一個人の中のいろんな面を引き受けてくれる、いわば受け皿がある」と語っているのに対し、梅田氏が、「ネットの魅力の感じ方って、リアルな空間での自分の恵まれ度に反比例する」と答えています。
 また、平野氏は、「ネットでブログをやっている人の意識」を、
(1)リアル社会との間に断絶がなく、ブログも実名で書く人。
(2)リアル社会の生活の中では十分に発揮できない自分の多様な一面が、ネット社会で表現されている場合。
(3)一種の日記。
(4)リアル社会の規則に抑圧されていて、語られることない内心の声、本音といったものを吐露する場所としてネットの世界を捉えている人たち。独白的なブログ。
(5)一種の妄想や空想のはけ口として、ネットの中だけの人格を新たに作ってしまっている人たち。
の5種類に分けられると語っています。
 さらに、梅田氏は、「リアルに戻ってこないと本当に大きくは稼げないし、社会に変化をもたらせない」として、「マクロで見ると、匿名でできることの集積というのは案外小さいという予感」があると述べています。
 第3章「本、iPod、グーグル、そしてユーチューブ」では、「世界中の本を全部スキャンして、ネット上に公開するというプロジェクト」の進行について、平野氏が、「表現者はもはや、守られるべき弱者ではないか」と述べているのに対し、梅田氏は、「出版をめぐる仕組みも、表現者が金を稼ぐ仕組みも、これから大きく変化していく」として、「その新しい流れと、どう折り合いを付けていくかという問題」だと応え、出版社側にも、「中身が検索できるように公開した方がビジネスとして得かもしれない」という論理が出来始めているとして、「ベストセラーは中身検索ができないほうがいいが、ロングテールの部分、本の少ししか売れない本については中身検索できた方が、出版社、著者、読者三方にとっていいのではないかというコンセンサスがこれから確実に生まれていく」と語っています。
 また、梅田氏が、本とCDの一番の違いとして、「本はプレイヤーがいらないスタンドアローンなメディア」であることを挙げ、「紙という『材質としての価値』がプレイヤーという機能として本に付随している」ことを指摘しています。
 さらに、梅田氏が株式会社「はてな」の取締役になるための「通過儀礼」として、「われわれの議論の中には、必ずアナロジーが出てくるから、一緒に経営をやってく上でこれを全部見てくれないと共通理解ができない」ため、『スター・ウォーズ』のDVDを全部見ることと言い渡されたというエピソードが紹介されています。
 第4章「人間はどう『進化』するのか」では、将棋の羽生氏が、「将棋の場合でも、とにかく情報量が圧倒的になっている」として、「情報の量がいずれ必ず質に転化する」という仮説を持ち、「シャワーのように情報を浴びて刺激を受けていて、しかもインプットの質が圧倒的によくなっている」ので、「頭がよくなるに決まっているじゃない」と語っていることを紹介しています。
 また、平野氏は、「人間の変容という観点に絞ってみれば、やっぱり多くの人が自分で自分を言語化してゆくようになった」ことが圧倒的に大きく、「その中で、自分が今までよりもよく分かったり、逆に自分を錯覚してしまったり、固定化してしまったりする」と語っていることに対し、梅田氏は、「アイデンティティが固定化されると、同じことを考えている人との共振があって、趣味や専門の『島宇宙』化していって、そのコミュニティの充足を目指していく」ことを、「今までよりもずいぶん幸せな選択なのではないか」と肯定しています。
 本書は、ネットによって人間がどう変わっていくかを、小説家の目で照らしながら、考えるきっかけを与えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書で面白いのは、『ウェブ進化論』でネットで変わる社会を楽天的に見据えることのできる視点を提供した梅田氏のカラッとした前向きさに、小説家である平野氏が、ときどき着いていけなくなりそうになるなるところではないかと思います。来るべき未来の危機感をあおりながらも、楽天的な解決策(提案)を示すのがコンサルタントであるのに対し、時代の変化を前にした人間内面を描いていく小説家の仕事は、この部分では対照的なのかもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・ウェブは人間をどう変えるか、が気がかりな人。


■ 関連しそうな本

 梅田 望夫 『ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる』
 平野 啓一郎 『日蝕』
 平野 啓一郎 『葬送』
 ピーター モービル (著), 浅野 紀予 (翻訳) 『アンビエント・ファインダビリティ―ウェブ、検索、そしてコミュニケーションをめぐる旅』 2007年11月26日
 ジェームズ・スロウィッキー 『「みんなの意見」は案外正しい』 2006年08月29日
 佐々木 俊尚 『グーグル―Google 既存のビジネスを破壊する』 2007年11月20日


■ 百夜百音

タモリ【タモリ】 タモリ オリジナル盤発売: 1977

 今ではすっかり「笑っていいとも」の人という印象しかないかもしれませんが、元々は、昼間の番組はおろか、深夜番組以外は登場させてはいけないような、アングラな「芸人」というか「面白い人」です。最近は、場を盛り上げる「芸人」は増えましたが、「面白い人」というのは減ったような気がします。

『ラジカル・ヒステリー・ツアー』ラジカル・ヒステリー・ツアー

投稿者 tozaki : 2008年05月17日 21:00

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