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2008年05月27日

噂の拡がり方―ネットワーク科学で世界を読み解く

■ 書籍情報

噂の拡がり方―ネットワーク科学で世界を読み解く   【噂の拡がり方―ネットワーク科学で世界を読み解く】(#1223)

  林 幸雄
  価格: ¥1470 (税込)
  化学同人(2007/7/20)

 本書は、「最新のネットワーク科学の観点から、広範囲で素早い噂の伝播の仕組みについて、具体的な事例や社会心理、経済学の経験則を駆使して解説」しているものです。
 第1章「世間は意外と狭い!」では、私たちが誰とでも、「平均すると6人程度で結びつく」とい「6次の隔たり(six degrees of seperation)」について、「普段はあまり意識しませんが、地域、職業、年齢など複数の『社会的つながり』のなかに私たちは埋め込まれている」と解説しています。
 また、「ケビン・ベーコン数」や「たけし数」、「エルデシュ数」等を挙げた上で、「日本人の1人あたりの知人数」が、「200から300人程度」であるのに対し、アメリカ人は「1500から2000人程度」である理由について、「ホームパーティなどを日常的に行なうフレンドリーな国民性に加えて、顔見知り程度でも維持している方が転職などに有利なことなどによる意識の違いが関係しているよう」だと述べています。
 第2章「噂はどのように広がるのか?」では、1973年の豊川信用金庫事件を取り上げ、「女子高生の会話を大人が誤解したことから生じた」伝播ルートについて解説しています。
 また、噂が単なる伝言と異なる点として、「あらかじめ決まった内容を伝えるわけではなく、通常は曖昧な部分が多い話であるために、伝えられていく過程で内容が新しくつくられること」を挙げ、その主な傾向として、
・平準化:情報が短く要約されて平易化すること。
・強調:情報の中からある要素が選び出されて誇張されること。
・同化:話し手や聞き手がもっている知的あるいは感情的な状況や解釈で情報が歪められること。
の3点を挙げ、噂では、「『伝えたい、あるいは知りたいもの』を人々が話し合うなかで内容が新しくつくられ、様々な情報や知識を寄せ集めて状況を解釈しようとする行為が重要」であると述べています。
 また、噂の伝わりやすさについて、「不安さ、曖昧さ、信用度」の3つの要因が強く関係するようだと述べています。
 第3章「時空を超える伝達メディア」では、日本の中世や江戸における噂の役割について論じています。
 そして、中世においては、「『国内風聞』という証言が現在の物証にも匹敵するほど重要な役割を果たして」おり、「各地に点在する一国内で多くの人々が噂している事実と、それを聞き及んでいる証人がいることが非常に重要で、今日私たちが認識する客観的な記述や科学的な証拠よりも、驚くべき速さで伝わる噂の神秘な力に信用や真実を見出していた」と述べています。
 また、江戸時代の、「風刺・嘲笑・批判の意を込めた匿名の和歌として表現された落首(らくしゅ)と呼ばれる落書」を取り上げ、「騒然とした世情における言論統制下で、人々の抑えきれない信条が落書による情報伝達をとめどなく拡大したもの」であると述べています。
 著者は、私たちの祖先が、「さまざまな時代背景の中で、口頭伝承をベースに絵や表などのマルチメディアも駆使して、噂の情報伝達を活用してきたこと」がうかがえるとして、「そこには、権力に屈せず生き抜く庶民の力強さと、ユーモアあふれる知性すら感じられ」ると述べています。
 第4章「インターネットの威力」では、「現代では電子メールや携帯電話の普及によって」、「手書きや口伝え」を「超越する速さで想像以上の大きな範囲に広がって」しまうと述べています。
 また、「インターネット上で口コミの担い手となるのは、通常の購買行動における『オピニオンリーダー』とは少し異なる」として、「複数の商品カテゴリーや小売店などについて熟知し、多くの分野の情報を持つ『市場の達人』の役割が増大した」と述べています。
 第5章「蔓延するウイルス」では、「ネットワーク科学」と呼ばれる新分野の知見から、「意外に単純な原理から複雑なネットワークができうることや、不慮の故障や悪質な攻撃に対する強さと弱さ、さらに電子メールの送受信関係から示唆される恐るべき伝播速度と、ウイルスの蔓延に対する効果的な防御策などについて紹介」しています。
 そして、マーケティングにおけるハブの役割として、
・通常のハブ:ある商品カテゴリーにおいて、情報や影響力を与える人々。
・メガ・ハブ:通常のハブのように多くの双方向リンクを持ち、さらにマスメディアを通じて、一方的にメッセージを聞く人々へもリンクする人々。
・エキスパート・ハブ:特定の分野で顕著な知識があって、その分野の権威として質問される人々。
・社会的ハブ:カリスマ的に仲間から信頼を得て社会的な活動をしている人々。
の4種類のハブの役割を挙げています。
 また、「次数分布がべき乗則に従うネットワーク」である「スケールフリー」について、
(1)従来のランダムな結合構造における代表的なスケールに相当する次数が存在しない。
(2)グラフのある部分を拡大しても裾野が長い同じような曲線になっている。
の2つの性質に由来すると解説した上で、その基本的な生成原理として、「金持ちはより金持ちになる法則」に従うことで、こうした構造ができてしまうと述べています。
 さらに、スケールフリーネットワークが、「もっとも経済的かつ効率的なネットワークとして、すなわち、できるだけ少ないリンク総数で連結しつつ、お互いのノード間の距離(ステップ数やパス長と同義語)も短くなるようにすると、スケールフリー構造がつくりだされ」ると述べています。
 著者は、「現実のネットワークでは、『ハブを除去するとバラバラに分断され、逆に、ハブが機能すると伝播が急激に拡大する』ということ」が分かるとして、「ウイルスなどの感染拡大を抑えたいときには、ハブを機能させないようにする、すなわち重点的にハブを免疫化することが効果的」であると述べています。
 第6章「世界的交通網の拡大がもたらすもの」では、「噂や口コミに対する興味や関心に基づく伝達力の強弱とウイルスの感染力の強弱、また、体面や電子メールでの接触機械による伝承や感染のプロセスなどには類似する点が多く、ネットワーク上で伝播が拡大していく振る舞いは基本的には同じと考えられ」ると述べています。
 そして、「ペストやインフルエンザの感染経路が示唆すること」として、
・対面の咳やくしゃみ、飲料水や食物などを介した風土病→陸海空路の発達にしたがって、ウイルスの運び屋も大移動
・中世や近代までの口頭伝承→電子メールや携帯電話、国際的なすばやい情報伝播
という対応関係の変化から、「共通した世界規模の伝播拡大メカニズムが類推」されると述べた上で、「ネットワーク科学の知見はつい数年前の世紀末に人類が初めて得たもので、現代の私たちの世代になってやっと本質的な原理から、実際の現象を理解できるようになった」と述べています。
 そして、「高架的なショーとカットの高架」として、「地理的な空間上にスケールフリーネットワークを構築する方法」の代表的なモデルとして、
・ランダムアポロニアン(RA):多角形領域を三角形で分割したある初期構成から、毎時刻にランダムに三角形を一つ選んで、その内部に追加した新ノードと選択した三角形の拡張点とをリンクすること(三角形の細分割)を、ノード総数Nまで繰り返す。
・ドロネー三角分割(DT):毎時刻にランダムに選んだ三角形の細分割を一時的に施した後に、任意の三角形ペアからなる菱形に対角変形操作を全域的に(どのペアを選んでもそれ以上は鋭角が大きくならなくなるまで)行なうことを、同様に繰り返す。
・ドロネー風スケールフリー(DLSF):毎時刻にランダムに選んだ三角形の細分割を一時的に施した後に、選択した三角形の頂点で新ノードから一番近いものとの距離を半径として、その円内で対角変形操作を行なってリンクを張ることを同様に繰り返す。
の3つを挙げ、「任意のノード間の最短距離のパス」が、
・DT:短いリンクによるステップ数の多いジグザグ経路
・RA:ステップ数は少ないが長いリンクもたまに含まれる
・DLSF:それらの中間的な性質を持つ
という傾向があり、「どれも平均ステップ数がlogN程度の『小さな世界』」となると解説しています。
 また、交通網にたとえて、「平面上の一般道路や鉄道網に、その上を横断する高架の高速道路や航空網を少しだけ追加したようなネットワーク」について、「高速道路や立体交差があると、より短い距離で移動できるだけでなく、不慮の故障や悪意あるテロ攻撃に、より強いネットワークが地理的な空間上に構築」できるという特性が、「つい最近発見された」と解説しています。そして、「地理的に近いノード同士のつながりに、遠いノード間の結合になるかも知れないショートカットを本の少し加えるだけで、より強固なネットワークが出来上がり、途中で中継が切れても他に迂回路が存在するために、全体への情報伝達が可能で噂も蔓延しやすくなる」と解説しています。
 第7章「ネットワーク科学からのメッセージ」では、「世の中に溢れる膨大な情報や知識をもはや個人レベルですべて知りうる時代ではないことからも、ネットワークを考える必要性がますます増大して」いると述べています。
 そして、「口コミの割合が大きいほど、ニュースは速く伝わる傾向が見られることから、新聞やテレビなどのマスメディア以外から得る情報がかなり重要である」ことから、「噂や口コミを盛り上げるのも下げるのも、初めの頃が肝心」であるとして、「『蛙飛び』によって発火点となり得るハブに、情報をいかに速く伝えるかが鍵となる」と述べています。
 また、「金持ちはより金持ちになる」原理が、「交通網や情報通信網の発達によって、物資や情報が大量迅速にやり取りできるようになった結果、そこに自然に出来上がったネットワークの社会的な影響力が非常に増大した」と述べています。
 さらに、「構造上は、分散化してつかみどころがなくなる一方で、一極集中化していく諸々の社会問題に対しては、科学技術を批判しても、逆に科学万能的に楽観視しても、何の解決にも」ならないという社会構造を理解した上で、「私たち一人ひとりがよりよい社会について考える、ネットワーク科学はそうした機会を与えた」と述べた上で、「少数派のショートカットやハブの全体への影響が意外にも大きいことは、小さな存在である私たち個々人を勇気づけ」るとのべています。
 本書は、最新のネットワーク科学を用いて、身近な噂の問題を分かりやすく解説した一冊です。


■ 個人的な視点から

 「噂」は社会学の典型的なテーマだったと思いますが、ネットワーク科学の発展によって、いきなり人文系のテーマから、「ちゃんとした」というと語弊がありますが、ハードな科学の分野に持ち込まれたような気がします。


■ どんな人にオススメ?

・噂の拡がり方に不思議を感じる人。


■ 関連しそうな本

 スティーヴン・ストロガッツ (著), 蔵本由紀, 長尾力 (翻訳) 『SYNC』 2006年04月10日
 アルバート・ラズロ・バラバシ (著), 青木 薫 (翻訳) 『新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く』 2005年10月24日
 ダンカン ワッツ (著), Duncan J. Watts (原著), 栗原 聡, 福田 健介, 佐藤 進也 (翻訳) 『スモールワールド―ネットワークの構造とダイナミクス』 2006年03月22日
 ダンカン ワッツ (著), 辻 竜平, 友知 政樹 (翻訳) 『スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法』 2005年09月28日
 ポール ホフマン (著), 平石 律子 (翻訳) 『放浪の天才数学者エルデシュ』 2005年11月06日
 川上 善郎 (編集), 高木 修 『情報行動の社会心理学―送受する人間のこころと行動』 2005年11月19日


■ 百夜百マンガ

妖精事件【妖精事件 】

 すいません。「こうがゆん」ではなく「たかがわゆん」だと思っていました。「リンかけ」がネタ元だと知って納得です。

投稿者 tozaki : 2008年05月27日 23:00

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