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2008年05月30日

日本の地方政治―二元代表制政府の政策選択

■ 書籍情報

日本の地方政治―二元代表制政府の政策選択   【日本の地方政治―二元代表制政府の政策選択】(#1226)

  曽我 謙悟, 待鳥 聡史
  価格: ¥5040 (税込)
  名古屋大学出版会(2007/12)

 本書は、日本の地方政府が持つ最大の制度的特徴である、「首長と議員の双方が別個に公選される『二元代表性』」に注目し、「二元代表性の下での政治過程および政策選択という観点から、戦後日本の地方自治に関する通時的分析を提示」しているものです。そして、「二元代表制についての理論的検討に基づいて、日本の地方政治を比較の中に位置づけることを横糸として、またほぼ一定期間ごとにその様相を大きく変えてきた首長と議会における政党間関係の変化や部門間関係の変化と、それがもたらした政策選択の変容を縦糸として、日本の地方政治の実態を織りなしていくことを狙いとする」としています。
 著者は、本書の特徴として、
(1)文脈叙述、計量データ分析、事例分析という政治学における実証手法の3つの柱が、1つの理論によって束ねられ有機的に結びつくこと。
(2)理論的関心、地方政治の通史への関心、計量データ分析への関心、あるいは事例への関心の、いずれか1つがあれば読むに値する成果になること。
等を挙げています。
 第1章「地方政府の比較政治学」では、「地方政府の制度分析から導かれる部門間関係や政党間関係の重要性にまず着目しつつも、それぞれの時代において地方政治を取り巻く文脈的ないし外生的要因に対しても、従来の研究とは異なった強い注意が払われる」として、「社会経済状況を反映した自治省(総務省)や与党を中心とした中央政府の意向と法制度上の誘導、地方自治を論じる各時代の行政学者や経済学者の支配的見解、さらには政策争点への態度や政党支持という形で表明される有権者の動向が、地方レヴェルの政治的要因によって政策が規定される程度と、政治的要因の内部で首長と議会のいずれがより大きな意味を持つかという点の双方に対して、無視できない影響を与えると述べ、「地方政治要因の文脈依存的効果論」と名付けています。
 また、基本仮説として、
・基本仮説1:歳入に関する政策選択においては、中央政府による制度化の程度が強いため、地方政府の政治変数が影響を持たない。
・基本仮説2:歳出に関する政策選択のうち、総額すなわち政府規模に関心を持つのは、知事のみである。
・基本仮説3:歳出に関する政策選択のうち、個別の政策領域に関心を持つのは、議会のみである。
の3つの仮説を立てています。
 第2章「戦後日本の知事と議会」では、「戦後の都道府県知事と議会について、それぞれの変化および両者の関係の変化を明らかにする」としています。
 そして、知事を、
(1)自民単独知事
(2)自民・中道知事
(3)保革相乗り知事
(4)民主系知事
(5)非自民保守系知事
(6)革新・中道知事
(7)革新単独知事
(8)無党派知事
の8つに類型化しています。
 また、「知事の党派的構成の時系列変化」として、
(1)革新系知事の隆盛――1960年代から70年代前半
(2)保守回帰と相乗りの時代――1970年代から80年代
(3)無党派知事の台頭――1990年代以降
とに分けたうえで、「大きな1つのサイクルの始まりとその帰結までをまとめて捉えるために、本書では各章の分析を、15年間という通常とは異なる単位で行う」と述べています。
 著者は、「都道府県レヴェルにおける戦後日本の地方政治は、約15年を1つのサイクルとして意外なほど大きく変動を続けてきた」として、「このような知見は、従来からも多くの論者によって直感的には認識され、指摘されてきた」が、「本章は知事の支持政党データと議会の政党別議席データを組み合わせることにより、直感に実証的な基礎を与え」、「政治変動の時期区分としては10年よりも15年が適切であること、1970年代の革新自治体の隆盛よりも90年代の無党派首長の登場がより大きな変動であることなど、個別事例の観察や直感によっては見落とされがちな点について、いくつかの指摘を行なうことも可能となった」と述べています。
 第3章「財政と政策の長期的変化」では、「戦後日本の地方政府が行なってきた政策選択には、政治変動と同じく、時代ごとの特徴が刻まれている」とした上で、都道府県ごとの差異が、「1970年代前半までは歳出面で、70年代後半から80年代には財政再建の手法」で生じ、「90年代以降は歳入と歳出が同時に都道府県ごとの違いを強める方向で作用している」と述べています。
 第4章「革新自治体隆盛期の政策変化」では、「戦後日本の革新勢力における戦略なき観念論の優位」が、「特定の政党や人物に起因すると言うよりも、日本の政治イデオロギーとしての『革新』が全体として有する傾向だった」と述べ、「その一因が、マルクス主義への過剰なまでの傾倒にあったことには、疑いの余地がない」として、「マルクス主義が理論的で体系的な社会批判や分析のツールとして、とりわけ戦後のある時期までは独占的な地位を占めていた」と述べています。
 そして、地方政治における革新系首長の登場基盤として、
(1)二元代表制の下では、地方に強固な基盤を持たず、議会では少数派にとどまる革新系政党であっても、特に首長選挙では魅力的な候補を擁立することで勝利を収められる可能性が高まったこと。
(2)地方政治では国政野党間の提携の生涯が少なかったこと。
の2点を挙げています。
 また、本書の分析モデルである「地方政治要因の文脈依存的効果論」が、「知事と議会の党派的構成を主たる独立変数としつつ、外生変数にも十分な注意を払おうとする」として、
(1)有権者の政策選好
(2)地方政府が置かれた社会経済環境や中央―地方関係といった、地方政府にとっては操作しがたい環境的要因
の2つの外生変数を挙げています。
 さらに、「民生費に表れる福祉政策と土木費となって登場する開発政策が、この時期の地方政治にとって大きな政策選択の争点であった」と述べ、「これら2つの政策領域には、知事と議会の双方が関心を寄せる」ため、「知事と議会の単独変数モデルよりも交差項モデルにおいて、より明確にこのような傾向が現れると予測される」としたうえで、「革新系知事と保守多数議会という組合せの下での民政費をめぐる対立は、保革対立と知事―議会間対立が重合した、二元代表制政府に特徴的な争点構造をとった」と述べています。
 著者は、この時期の革新系知事のバックグラウンドを、
(1)東京都の美濃部亮吉に代表される大学教授など、いわゆる進歩派文化人出身者
(2)北海道の横道孝弘に代表される革新系政党所属議員や労働組合幹部からの転身者
(3)岡山県の長野士郎、滋賀県の武村正義などの自治官僚出身者
の3つに分けています。
 そして、東京都の美濃部知事が、「住民を意思決定に参画させるとかえって当事者間の利害対立が先鋭化し、事態が前に進まないケースが増え始めた」として、「住民の反対がある限りは開発事業を行わないという『橋の哲学』や、低所得高齢者医療の無料化による『病院の老人クラブ化』への批判と結び付けて語られ、少数の人々の要求に甘すぎる政治として、反対派によって半ば意図的にではあるが、革新都政の負のイメージを形成することになった」と述べる一方、滋賀県の武村知事については、「県庁改革と住民参加の延長線上に、第2期の80年に制定された有リン合成洗剤使用を禁じる『琵琶湖条例』など、環境保護において先進的とも評される成果が生まれた」と述べています。
 また、計量データ分析から、「革新系知事が保守系知事に比べて福祉政策を中心とした再分配を優先する傾向」が明確に示され、「同じ革新系でも議会は開発政策に否定的ではなく、補助金の配分などに関して中央政府は革新系知事を要する都道府県を冷遇した」と述べています。
 第5章「保守回帰期の政策変化」では、1970年代後半から80年代の大きな社会経済環境の変化が、「地方政治における主要な争点を大きく変えた」として、
(1)財政状況の悪化への対応
(2)財政状況と連関する公共セクターの改革
(3)脱物質的な価値を追求するような政策への転換
の3点を挙げています。
 そして、この時期の知事と議会の政策選好について、
(1)地方政治の主たる争点は『開発か福祉か」ではなくなった。
(2)知事は財政の健全化に主に関心を寄せるようになった。
(3)教育政策については、新たに議会による党派の違いが歳出水準の違いをもたらすようになった。
の3点を挙げています。
 著者は、1970年代後半から80年代の地方政治の政策選択の特徴として、
(1)政治的な選択が歳出と歳入の水準を変化させることが少なくなった。
(2)商工費に加えて土木費にも、革新系知事がその削減を図るような傾向が見られなくなり、主に議会で歳出水準が決定される政策領域へと変化した。
(3)保革対立的な争点として、議会における衛生費に加えて教育費が新たに議会での対立的政策領域となった。
(4)歳出総額について自民・中道知事は総額抑制効果を持つ。これに対して、議会革新勢力が強い場合と保革相乗り知事の場合に増えるという傾向が見られる。
の4点を挙げています。
 第6章「無党派知事期の政策変化」では、「無党派知事の登場は、しばしば有権者の『既成政党離れ』という消極的な選択の結果として語られる」が、「その選択の背景には、有権者が望ましいと考える政策や重要だと考える政策や重要だと考える対立軸の変化もまた存在したはずである」と述べています。
 そして、「ナショナルミニマムの達成という目標が実現した後」の地方交付税制度が、「80年代後半のバブル景気に際して、あるいみでの『延命措置』がとられた」として、自治省が、「地方債の許可方針を緩め、その補填を交付税により行なった」ことを指摘し、起債方針の緩和が、「地方債の発行により財政規模を拡大するか、それを抑制して長期的な財政の県税を保つかという選択の余地を、地方政府に与えた」という限定的な意味で「歳入の自治」を得た、と述べています。
 また、1990年代以降の無党派知事が、「しばしば政党からの支援を和えて受けないことを前面に出して当選を果たした点が特徴的である」として、「知事側の判断によって生まれた無党派知事を、とくに主体的無党派知事」と名付けています。
 著者は、「各政策領域がどのような知事―議会関係の下に置かれたか」について、
(1)特に知事が歳入と歳出の選択に関与を強めたことで、ふたたび多くの歳出項目が政治化したこと。
(2)政治化した歳出項目は、衛生費とポークバレル的な政策領域の多くとの二種類に分かれること。
(3)歳入については知事だけが関与していること。
の3つの特徴を挙げています。
 そして、東京都の「二人の異なる主体的無党派知事の違い」として、青島幸男と石原慎太郎を取り上げ、石原と知事が、「人事と広報を知事専属の業務」として、都庁官僚を戦略的に活用させるようになったと述べています。
 また、「財政運営上の困難が大きくなったことと、無党派知事の登場を最大の特徴とする1990年代の地方政治において生じた」現象として、
(1)政府規模に関する選択が、日本の地方政治にも現実的な課題として登場するようになった。
(2)個別項目では、政治化された領域が著しく増大した。
(3)無党派知事の下では従来の政党間対立とは異なった構図が、地方政策過程に生じている可能性が指摘できる。
の3点を挙げています。
 終章「結論と展望」では、地方政府の制度構造を、「日本の戦後改革において最も大きな変化がもたらされた領域であった」としたにもかかわらず、「多くの地方自治論は地方政府の無力さを語ってきた」ことについて、「地方自治論とは、中央―地方関係論あるいは地方行政論であり、地方政府における政策過程のダイナミクスを体系的に把握しようとする関心には乏しかった」ことを指摘しています。
 そして、本書における実証分析の知見として、
(1)戦後日本の地方政治における時期区分はおよそ15年を一区切りとするものであり、それは政治変動と政策変化の両方について該当するということ。
(2)政治変動と政策変化の間に存在する因果連関を解明したこと。
の2点に集約されるとしています。
 さらに、本書の検討が、「たしかに現行制度がモラルハザードを生みだしている面があるにしても、それが常に地方政府の財政規律を失わせることに直結しているわけではないことも明らかにした」として、1980年代と90年代後半以降の二度にわたり、地方政府が財政再建に本格的に取り組み、その過程では、「主として自民系知事や無党派知事がマクロ財政運営に関心を持つことにより、一定の成果を収めた都道府県も少なくない」ことを指摘しています。
 本書は、「地方政府」の政治的な性質の積極的な解明を試みた一冊です。


■ 個人的な視点から

 曽我氏の前著『ゲームとしての官僚制』も意欲的な一冊でしたが、本書も、やや乱暴かな、と思わなくもないですが、いずれにせよ切れ味の良い一冊ではないかと思います。
 せっかくなら市町村を分析してくれたら面白いとは思いますが、合併があったり何やらで個別の団体ごとの差異が大きいのではないかと思います。
 また、10年ではなく15年単位というのも、首長と議員の任期が4年単位であることを考えると、なんとなく納得できるような気がします。


■ どんな人にオススメ?

・「地方政府」の政治に触れたい人。


■ 関連しそうな本

 曽我 謙悟 『ゲームとしての官僚制』 2006年02月24日
 赤井 伸郎, 山下 耕治, 佐藤 主光 『地方交付税の経済学―理論・実証に基づく改革』 2005年01月27日
 加藤 寛 『入門公共選択―政治の経済学』 2005年03月13日
 村松 岐夫, 伊藤 光利 『地方議員の研究―日本的政治風土の主役たち』 2005年02月21日
 金井 利之 『自治制度』 2007年10月24日
 西尾 勝 『地方分権改革』 2008年04月01日


■ 百夜百マンガ

ぱじ―Momo‐chan's grandfather【ぱじ―Momo‐chan's grandfather"Paji" 】

 おじいちゃんモノの漫画はギャグマンガであったとしても常に死の影がちらつくのですが、そんなハラハラした緊張感が4コマには合うのかもしれません。

投稿者 tozaki : 2008年05月30日 22:00

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