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2008年06月02日
あなたのマンションが廃墟になる日――建て替えにひそむ危険な落とし穴
■ 書籍情報
【あなたのマンションが廃墟になる日――建て替えにひそむ危険な落とし穴】(#1229)
山岡 淳一郎
価格: ¥1890 (税込)
草思社(2004/3/26)
本書は、これまで「デザイン的な『個人の趣味』、もしくは天空から見下ろす『都市計画論』のような『ますの観点』で語られることが多かった」住宅について、「その間に横たわる『社会的な構造』」を掘り下げたものです。
プロローグ「奇妙な法改正」では、2002年の8月に行なわれた「法制審議会」での2人の「参考人」、すなわち、「マンション建て替え推進を強硬に主張してきた財界と学会の代表選手」である森ビル社長・森稔と政策研究大学院教授・福井秀夫を迎えて議論された「区分所有法」の改正に当たっての、「『建て替え決議』に求められる『客観的要件』をいかに合理的で明快なものにするか」の議論を取り上げています。
そして、「地価神話」崩壊後、「容積率を上げて建て替え、新しく増えた十個を販売して再建費を捻出するという従来の手法」が「非現実的になりつつある」ためにマンションの建て替えが行き詰ったことについて、小泉内閣が、「住民がコミュニティの将来を決める手続きや義務、権利の行使を定めた区分所有法を改正することによって、老朽化から『建て替え』への『筋道』をつけようとした」と述べ、老朽化による建て替えの要件とされていた「五分の四決議」が、「立替を希望する住人にとっては資産価値を高める早道と映るが、そのまま住み続けたい人にすれば生命財産を守るはずの住居を喪う引き金になる。両者の溝は容易には埋められない」として、「五分の四決議は、住民にとっていわば『諸刃の剣』なのである」と解説しています。
著者は、「マンションは単なる『商品』の集合体ではない。住人の自治を掟とするコミュニティだ」と述べています。
第1章「さまよう老朽団地」では、1968年に分譲された千葉市稲毛の「稲毛海岸三丁目団地」を取り上げ、「誕生からわずか20年で、壊して超高層マンションに再建する『建て替え問題』が浮上」し、「以後、十数年の歳月をかけて、建て替え問題が話し合われ、住民の合意形成が行なわれたが、二転三転、紆余曲折の連続。『数の論理』では解決できない多くの壁に突き当たった」と述べた上で、「日本全国で、今、高度成長期に産声を上げた『新しいふるさと』が、時の波間に漂流している」とし、「その根底には、二hんの住宅が、コンクリート造の集合住宅を含めて建築後30年少々で壊されてきた事実が、厳然と横たわっている」と解説しています。
そして、バブル期の不動産価格高騰の中で、「等価交換方式」による、「無償で広さは五割増し」という団地の建て替え計画が頓挫し、デベロッパーは手を引き、後には、建て替えを前にして、十分な維持補修を行なってこなかった老朽化した団地が残った経緯を解説しています。
また、マンションが、「鉄筋コンクリート本来の特性が担保されていれば、『地震と火事の国』日本とはいえ、たかだか30年で物理的な老朽化に悩まされはしなかっただろう」が、「『高度成長』を境に、それ以前の建物の方が頑丈で、それ以後の建物は脆いという一般的傾向があるのだとすれば、建設業界の技術的『進化』を阻むほど大きな『老朽化圧力』が社会的に働いたと考えざるを得ない」と指摘しています。
著者は、「『30年サイクル』でのマンション建て替えは、経済的にも、コミュニティの維持といった側面からも、困難になってきている」として、立替が進まず、「老朽化を抱え込んだままのマンションの『使用期間』」が延びていくことは、「真の再生とはほど遠い、『スラム化』『廃墟』といった『終末の危うさ』と背中合わせの延命でしかない」と述べています。
第2章「誰が『30年寿命』にするのか」では、短期間で繰り返される「スクラップ&ビルド」を推し進めてきた力として、
(1)度を越した土地の「商品化」による「地価の高騰」
(2)地価高騰に対して「都市計画」がまったく機能していない
(3)「住宅供給」を景気刺激策として利用してきた政官財の人的ネットワーク
の3点を挙げ、「これら3つの要因をはびこらせた根本には、官僚主導の都市づくりにおける『住宅軽視』の悪弊がある」と指摘した上で、「スクラップ&ビルドの『日本的システム』」が戦後の復興期から高度成長期に固められたプロセスを、田中角栄という「水先案内人」を立てて解説しています。
そして、「小学校卒」と信じられてきた田中角栄が、上京後、神田一ツ橋の私立「中央工学校(夜間)」で土木、建築、機会、製図などを学び、田中が建築に関する知識を振る活用して、「今日の建設行政の根幹をなす法律づくり」を行い、「在職中に手がけた議員立法33本、関与した法律総数120」という数は、「二度と破られない『記録』だとされる」と延べています。
そして、1950年に、「郵便貯金や簡易保険積立金を『財政投融資資金』として運用する『住宅金融公庫法』」が、田中の強烈なバックアップで成立、51年には、田中が議員立法した「公営(都道府県営、市町村営)住宅法』が成立」し、「地方公共団体が、国の補助を受けて低所得者層に賃貸住宅を提供する仕組みができた」と述べています。
また、首都圏において、「公営住宅」の建設が父として進まなかった理由として、「『行政区域』が大きな『壁』となって立ちはだかっていた」ことを挙げ、大規模な集合住宅の建設に伴なう、上下水道や学校等の生活基盤整備にかかる費用を負担する財政的余裕がなかった千葉県や埼玉県などの周辺自治体が、「東京で働き、東京の財産をふやす労働者のために、なぜ家を提供しなければならないのか」と反発したことを解説しています。そして、日本住宅公団が、表向きには、
(1)住宅不足の著しい地域の勤労者のための住宅建設
(2)耐火性能を有する集合住宅の建設
(3)大規模かつ計画的な宅地開発
(4)行政区域にとらわれない広域圏での住宅建設
の4点を新設の理由としていたが、(4)の「広域圏での住宅建設」こそが、「公団設立の『真意』」であったと解説しています。
さらに、区分所有権法案づくりに当たって、「分譲アパートがいったい『誰のモノか』という素朴かつ根本的な問い」が俎上に上がったこと、「法律の背骨は『区分所有権』という『私権』の確立」であったこと等を解説した上で、「区分所有法によって、「持ち家」に手が出ない層にも家を持たせたことは、結果論であり、「他に選択肢がないから、皆、これが当たり前だと飛びついた」と述べています。
第3章「被災マンション建て替え問題」では、建て替えを迫る要因として、「老朽化」と「大災害」とを挙げ、「一見、両者はかけ離れているようだが、建物とともにコミュニティが『解体』される点は共通している」として、阪神淡路大震災で被災した「六甲グランドパレス高羽」を取り上げています。
そして、建て替えをめぐる住民同士の裁判で、区分所有法の「補修費用の過分性」が争点となり、建て替えを進めたい勢力にとって、「『費用の過分性』という客観的要件の存在自体が、とてつもない生涯として立ちふさがっている」ことが明らかになったとし、「被災マンションの建て替えと、平時の老朽化によるマンション建て替えを結びつけるのは、スクラップ&ビルドによって景気が上向くと信じて疑わない、土地神話時代につくられた『信仰』である」と指摘しています。
第4章「住み慣れた住居とともに」では、「老いを受け入れつつ、ハードと人々の絆を保つ手段」が求められるとして、京都にある「全管連(全国マンション管理組合連合会)」と、「リファイン建築」を手がける建築家、青木茂を取り上げています。
そして、全管連が、「いいマンション、いいコミュニティに長く暮らしたい」という思いから集まり、「年々、その情報発信力、影響力は強まっている」と述べ、「マンションは建てっぱなしでは長く持たない。維持管理を適切に行い、建物の寿命を延ばしながら、コミュニティを保つ仕組みを確立する必要がある」が、この「集住の掟」が、「日本のマンションではすっぽり抜け落ちていた」と指摘しています。
また、全管連が、1991年に、バージニア州に本部を置く「CAI (Community Association Initiative)」という民間の非営利団体を訪ね、「対決型の運動の結果、何が変わりましたか?」という問いかけをきっかけに、全管連のあり方を「対決型」から「パートナーシップ」「共通の利益」に変革していく過程を追っています。そして、全管連の中心となってきた「管対協(京滋マンション管理対策協議会)」というNPO法人の別働隊であるNPO「マンションセンター京都」が行なう「京都方式」のコンサルティングの具体的な手法の要点として、
・徹底した建物調査で劣化の状況とその原因を把握する。
・劣化対策と予防措置の正しい選択をする。
・よい工事とは何か、具体的に見て知っておく。
・よい職人と現場責任者に関する情報を知っておく。
・工事費と工事の室について正確な情報を収集する
の5つの条件に基づいて修繕工事を行い、「管理組合が自信を持ってマンションの管理を行えるようになったか」「コミュニティの成熟度が高まったか」「住人が管理に関心を持つようになったか」が、「その工事全体を通した評価基準」になると解説しています。
さらに、「老朽化したコンクリート建造物をいったん、基本的な骨組み(構造躯体)にまで、余分なものを削ぎ落とす『部分解体』を行い、耐震補強をした後に『増・改築』する」手法である「リファイン建築」について、「ユーザーから好評を持って迎えられる」一方で、「その『改革性』ゆえに建設業界内での風当たりは強い」と述べ、リファイン建築が世に知られるきっかけとなった「八女市他世代交流館」事業において、「計画段階から守旧勢力に激しくバッシングされ」、
(1)市長の手足となって動く職員の「固定観念」
(2)「議会」
(3)地元の建設業者たちが、意図的に落札しなかった
の「3つの壁」を突き破らなければならなかった、と述べています。
また、「『政官財』の生々しい癒着ぶり、腐敗ぶり」を、元建設官僚で、NPO法人「住宅生産性研究会」理事長の戸谷英世が、
「部課長(本章から各県に出航した官僚)は、選挙が始まると管下の建設業教会をまわって厳しく業者を締め付けることになる。表向きは、選挙が始まっているが、選挙にかまけないで、公共事業をしっかりやってほしいと訓示や挨拶をして廻るが、その際の出席者の名簿を集め、誰が出席したかを確かめ、選挙結果の分析には大きな意味を持たせることになる。部長に随行する課長たちは、出席者全員と目を合わせるようにせよと指示される」
という「体験したものにしか書けない筆致」であると紹介しています。
第5章「いい建物を永く使う」では、著者が、「なぜ日本の『鉄筋コンクリート』マンションは30年少々で壊されてしまうのか」という素朴な疑問から始まった一連の取材を、「老朽マンション建て替えの厳しい現場、震災復興の過重な負担に粉砕されたコミュニティを渡り歩く、反映の裏に隠された現代の『胎内くぐり』であった」と述べ、「建物を短期間に壊し、新築して経済を活性化させようとする『日本的メカニズム』が、土地神話の崩壊とともに根拠を失ったにもかかわらず、なおかつ幻影にすがりつき、幻影から復讐されて『悲鳴』が上がるのを聞き取る作業でもあった」としています。
著者は、「ニュータウンの名で親しまれてきたあまたの団地は『再生への選択肢』を求めて、もがき、苦しんでいる」として、その「再生モデル」として、「苛酷な自然環境の中で住宅を大切に使ってきた」スウェーデンを訪れています。
そして、スウェーデンが一般労働者用のアパートの供給に力を入れだした1930年代には、「海を隔てた隣国・ロシアで起きた『社会主義革命』の波が及ぶのを防ぐという婉曲的な意味も込めて『光あふれ、空気の清澄な場所』を選んで労働者用のアパートを造っている」ことなどを紹介しています。
著者は、「都市の主役は『住人』なのだ。あるいは『生活』と還元してもいい」と述べ、「『再生』という言葉を『再開発』の代名詞ではなく、人間を核にした暮らしと環境の『維持循環』へとシフトしてゆく技術が求められる」として、「『諸刃の剣』は、慎重に慎重を記して期かれねばなるまい」と述べています。
本書は、分譲マンションに住む人はもちろん、住宅とコミュニティについて考える上で、大きな問題意識を与えてくれる一冊です。
■ 個人的な視点から
例えば、1台のバスを20人なり30人で共同で所有したら、と考えると、マンションを見ず知らずの人たちと共同で所有する、ということがいかにリスクが高いかが理解できます。
エンジンの調子が悪くても整備工場に持っていくのを嫌がる人が出てきたり、傷が付いたから修理したいという人と、ちょっとくらいの傷は気にしないという人がいたりを考えるとかなり面倒です。ましてや、古くなったから全員でお金を出し合って買い換えるか、そのまま乗るか、ということの意見がまとまるには、全損にでもなって動かなくならなければとても絶望的です。
そう言えば、筒井康隆の小説で、団地がスラム化した近未来を描いた作品がありましたが、まさしくこれからそうなるわけですね。
■ どんな人にオススメ?
・分譲マンションに住んでいる人。
■ 関連しそうな本
藤木 良明 『マンションにいつまで住めるのか』
筒井 康隆 (著), 熊倉 隆敏 『三丁目が戦争です』
山岡 淳一郎 『マンション崩壊 あなたの街が廃墟になる日』
中谷 ノボル, アートアンドクラフト 『みんなのリノベーション―中古住宅の見方、買い方、暮らし方』
平松 朝彦, 井上 和雄, サスティナブルマンション研究会 『マンションが破綻する理由―内配管から外配管方式に』
村上 佳史 『マンション建替え奮闘記』
■ 百夜百マンガ
子供の頃に「ジャンプ」でこの作品を読んだ40代のお父さんが、今ではゴルフ雑誌で『インパクト』を読んでいる、という構図でしょうか。小さい頃に読んだ漫画の嗜好は何歳になっても大きく変わらないのかもしれません。
投稿者 tozaki : 2008年06月02日 22:00
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