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2008年06月01日
ヨーロッパをさすらう異形の物語―中世の幻想・神話・伝説 (下)
■ 書籍情報
【ヨーロッパをさすらう異形の物語―中世の幻想・神話・伝説 (下)】(#1228)
サビン・バリング=グールド (著), 池上 俊一, 村田 綾子, 佐藤 利恵, 内田 久美子
価格: ¥2310 (税込)
柏書房(2007/09)
本書は、1875年に出版された『中世の奇妙な神話』の全訳の下巻で、「中世を代表する伝説たちが一堂に会している」もので、「古典的地位を保っている」とされています。
監訳者は、「古今東西の神話・伝説を自家薬籠中のものにして、つぎつぎ関連付けていくきらびやかな博識の本書は、翻訳者泣かせでもある」と述べています。
第14話「聖ウルスラと一万一千の乙女」では、「中世の伝説には美しいものもあれば、奇怪なものもあるし、不快に感じるものもある」としたうえで、「美しいのは見かけだけで、ちりと灰が詰まった異教の『ソドムのリンゴ』であることもよくあること」であると述べ、「この興味深い物語」が、「勘違いと捏造だらけだった」として、「こんな神話はほかに類を見ない」と述べています。
第15話「聖十字架伝説」では、「私個人としては、世界中の人々の間で存在していた従事が、いにしえの宗教の一部を作ったという考えに異論はない」と述べ、「十字は、命や水を通じての復活の象徴として世界中で扱われている。夜の時代である中世二十次が残して言った影、さまざまな国に落としていったその影は、私たちが考えているよりもずっと深いのかもしれない」と述べています。
第16話「シャミル」では、ソロモン王がつくった荘厳の神殿が、「神殿の建築は、石切り場でよく準備された石を用いて行われたので、建築中の神殿では、槌、つるはし、その他、鉄の道具の音はまったく聞こえなかった」とされていることについて、「祭壇をつくるときに鉄の道具を使うことが禁じられた理由は、ミシュナにある――鉄は命を削ってきた。祭壇は命をのばすもの」であると述べています。
そして、ソロモンの賢い部下たちは、「祭司長がつける裁きの胸当ての宝石」を彼に見せ、「宝石は、それよりも硬い何かで削られ磨かれていた。その何かとは、シャミルschamirといい、鉄の道具では無理なところも削っていた」と語り、ソロモンが精霊たちを呼び寄せ、シャミルのいる場所を尋ねたところ、「シャミルは大麦の粒ほどの大きさの虫だが、とても強力で、フリントでも歯が立たないほどだと」と告げられたことが述べられています。
また、「シャミルは命を与えるちからをもっている」という名神もあるとして、「これにはおそらく、鳥あるいはイタチが、不思議な草を使って死体を生き返らせたという物語が関係していて、これらは、中世にかなり広まっていた」と述べています。
さらに、北方に伝わる「栄光の手」について、「絞首刑になったものの手であり」、・人間の手首を死衣にくるんで、しっかり血抜きをする。
・完全に粉末状にした硝石、塩、インドナガコショウと一緒に陶器の中に入れる。
・二週間つけたままにして、よく乾燥させる。
・猛暑の時期の太陽にさらして、完全に乾かしきる。
・絞首刑になった者の脂肪、採りたての蜜蝋、ラップランド製のゴマでろうそくを作る。
という製造方法を解説し、このおそろしい手にまつわるいくつかの話が、ヘダーソンの『イングランド北方の民間伝承』に載っているとして、そのひとつを紹介しています。
著者は、「錠を吹き飛ばし、石を粉々にして、秘法がずっと隠されていた山を開かせる。あるいは、しびれさせ、魔法の眠りに誘い、命をよみがえらせる」というさまざまな物語が伝えていることはひとつであり、同じことを主題にしている、「それはつまり、稲妻である」と述べ、「鳥によって運ばれる、石を砕くシャミル、虫、小石」とは、「嵐雲だ」と述べています。
そして、「気まぐれな人間の心は、驚きをもたらすものを説明する理由を探して、次から次へと仮説を立てていった。そして、却下されていった説の数々は、神話として国々の記憶には残らず、神話の真意は忘れ去られてしまったのだ」と解説しています。
第17話「ハーメルンの笛吹き男」では、ゲーテの『魔王』や、「魔力のある歌声を持つ有名なセイレーンの物語』との類似点を指摘しています。
第18話「ハットー司教」では、飢えた貧しい人々を納屋に押し込め、納屋に火を放ち、「国に感謝してもらわねば、この絶望的なご時世に、穀物を食いつぶすネズミを退治したのだから」と言ったハットー司教が、翌日無数のネズミに食い殺された物語を紹介した上で、「これらの物語は、飢饉のときにキリスト教以外の信徒が人間の生贄をささげたことがもとになっている」と解説し、ハットー伝説は、「飢饉のときに指導者や王子を生贄にささげる風習と、その生贄をネズミに食わせることを伝えている。こうした供儀をおこなう理由が忘れられたときに、神の罰が下り、苦しむ人々によるむごい仕打ちや殺人、聖職者への暴力となって現れるが、これはなんら不思議なことではない」と述べています。
第19話「メリュジーヌ」では、森の中の泉のそばで出会った乙女、メリュジーヌを妻に迎えたレモンダンが、「毎週土曜日には彼女一人で私室にこもり、彼は絶対にそれを邪魔してはならない」という約束を破り、「彼女の下半身が、醜い魚もしくは蛇の尾に変わっていた」のを見てしまい、「この蛇女め、私の高貴な血筋を汚しおって!」と声を荒げたところ、「新たな城主が誕生するときには、あなたと、あなたの子孫は、この美しいリュジニャン城の上を飛び回る私を見るでしょう」といって、窓から飛び立ったという伝説を紹介しています。
第23話「サングリアル(聖杯)」では、「キリストが槍で刺されたとき、脇腹から血と水が流れ出た。アリマタヤのヨセフが、救世主が最後の晩餐で使った器でその血を受けた」として、42年もの間、地下牢につながれたヨセフは、「もっていた聖なる器から栄養と英気を与えられた」という伝説を伝えています。
また、テンプル騎士団が、偶像崇拝をとがめられた際、「香油を塗り、磨きこんだ頭部の像に、テンプルの騎士はまさに卑しむべき信頼を置き、厚い信仰を寄せている。その頭部の眼窩には、天空の輝きを持つ暗赤色の宝石がはめ込まれている」と述べられていたり、「彼らが所持する例の頭は、顔が人間のそれのように青白く、髪は黒く縮れ、首には金色の飾りを巻いている。彼らは、実のところどの聖人のものでもない頭の像を崇拝し、その前で祈りをささげる」と述べられていることを紹介した上で、「頭の像が崇拝されたのは、目的は不明だが生首を器に載せておこなった、ふるいドルイド教の儀式の名残かもしれない」と述べ、「敵の血まみれの頭はケルトの民族的象徴」であり、「ボイイ陣はその頭を神殿に運んで洗い、金で装飾を施して、祭事には聖なる器の代わりに使い、それで飲み物を振舞った」と解説しています。
本書は、無数の物語を通じて、中世ヨーロッパを生き生きと伝えている一冊です。
■ 個人的な視点から
「近代の目から見た中世」という意味では小泉八雲の『怪談』みたいなものでしょうか。文化を理解する、というのは、こういう「誰もが知っているストーリー」を知っているということを意味するのかもしれません。
■ どんな人にオススメ?
・ヨーロッパ人の共通するストーリーに迫りたい人。
■ 関連しそうな本
サビン・バリング・グールド (著), 村田 綾子 (翻訳) 『ヨーロッパをさすらう異形の物語 上―中世の幻想・神話・伝説』 2008年05月10日
小泉 八雲 『怪談・奇談』
高橋 友子 『路地裏のルネサンス―花の都のしたたかな庶民たち』 2006年11月03日
若桑 みどり 『フィレンツェ―世界の都市と物語』
高橋 友子 『捨児たちのルネッサンス―15世紀イタリアの捨児養育院と都市・農村』 2006年12月09日
甚野 尚志 『中世の異端者たち』
■ 百夜百音
【「渡る世間は鬼ばかり」サントラ盤】 羽田健太郎 オリジナル盤発売: 1996
泉ピンコが「三門マリ子」の芸名を持った牧伸二の弟子の漫談家であったということは有名なのかもしれませんが知りませんでした。
投稿者 tozaki : 2008年06月01日 23:00
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