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2008年06月19日

ゲーム理論で読み解く現代日本

■ 書籍情報

ゲーム理論で読み解く現代日本   【ゲーム理論で読み解く現代日本】(#1246)

  鈴木 正仁
  価格: ¥2940 (税込)
  ミネルヴァ書房(2007/10)

 本書は、日本社会について、「われわれはどこから来て、どこに行こうとしているのか」を、山岸俊男などのゲーム理論の研究者の知見も用いながら論じているものです。
 第1章「日本の社会はいま」では、「高度成長期の時代の流れを<農村型社会から都市型社会へ>という文脈で捉え、それ以降バブル期までの時代の流れを<都市型社会から高度都市型社会へ>という文脈で、そして現在の流れを<都市型社会から高度都市型社会へ>という文脈で、そしえて現在の流れを<格差型社会へ>と捉えることにする」と述べています。
 また、高度成長期とそれ以降の生活諸領域の変化について、
・職場と学校に共通する「振り落とし競争の前倒し」および「二局化の進行」
・地域と家庭に共通する「集団機能の外注化」
の2つの変化に成立すことができ、これらを「人間関係の原理の変化」として捉えると、
・前者:「協調的競争」の崩壊と「格差」の拡大
・後者:「拘束的依存」の崩壊
という変化が帰結すると論じています。
 第2章「経済はどう変わったか」では、高度成長~安定成長~バブル経済とその崩壊~「失われた十年」~規制緩和・構造改革の進展といった日本経済の流れを追った上で、「『規制緩和』『構造改革』の負の遺産として、経済格差が拡大した」と指摘し、「こうした『結果の不平等』は、世代間で継承される教育格差をつうじて、『機会の不平等』へと転化しつつあるとも考えられる」と述べています。
 第3章「社会構造はどう変わったか」では、日本社会の社会変動によってもたらされたものとして、「各種の生活共同体を構成する人間関係の変容ないし衰退」であり、「職場と学校、地域と家庭」などの「生活の場」において、「それらの共同体が従来果たしてきた社会的・文化的機能が失われ、そこに一種の『空白』が生まれた」と指摘しています。
 また、高度成長期の企業における、「課長昇進まではほぼ同期同時昇進の形がとられ、それ以降だんだん昇進差をつけていくというかたち」の、「昇進競争が時間によって平等から振り落とし競争に転調する」ものであり、「将来、同期の一人がエリートになり、自分が一般組織メンバーにとどまっても、それを『おれたち同期の誉れ』と考える、いわゆる『代表移動』のメカニズムが作動しやすい」点について、竹内洋の「『強調的競争』といってもよいだろう」と述べています。
 そして、「高度成長期以降の新しいかたちの都市化と核家族化によって、地域と家庭いずれの場においても、生活ニーズの充足は、労力交換による相互扶助的なかたちから、金銭による外部委託的なかたちへと大きく転換した」ことで、「集団機能の遂行を軸とする、これまでの拘束と依存の人間関係(支配)が崩れることとなった」と指摘しています。
 著者は、「日本の社会は貧しさの共有による調和の世界を必要としなくなり、豊かさを目指す競争の世界へと大きく転換した」と述べ、「豊かさの達成とともに、従来の『貧しさの文化』は有効性を失って空洞化し、そのあとを新しく『豊かさの文化』ならぬ『文化の空白』が支配するようになった」と指摘しています。
 第5章「新しい流れ?」では、ネットメディアの利用が、
(1)「コクーン(繭つくり)」機能:既存の人間関係の維持・強化
(2)「出会い」機能:新たな人間関係の創出機会の提供
の2つの機能をもたらすとした上で、『出会い」機能に関して、「新たな質の人間関係やネット空間が形成される」として、
・「インティメント・ストレンジャー」
・「パーソナルネットワーク」
の2点を挙げています。
 第6章「社会性のゆくえ」では、「現代における『社会性』の成否や存立をめぐる病巣」に迫るとして、従来の社会学的分析の中心を占めてきた「『社会化』とその不全をめぐる『社会心理学的』アプローチ」であったが、「近年ではそれに加えて『秩序』や『信頼』の分析というかたちで、『合理的選択理論』による『ゲーム論的』なアプローチが、この問題について目覚しい成果をあげている」と述べています。
 そして、「現代の日本社会において、『社会性』をめぐる最大の病理は、社会を形成する能力それじたいの」衰退にあるように思えてならない」と論じています。
 第7章「『信頼』のゆくえ」では、「必要に応じて経済学の領域にまで踏み込んで、『信頼』もしくは『信用』をめぐる現状とその課題を分析してみたい」と述べています。
 そして、「経済領域を中心に現在の日本において『信用の劣化』が進み、それがごく最近まで加速し続けたことを明らかにした」と延べ、「『信頼』を確保して裏切りあいの泥沼から抜け出すための3つの方式」である、
・「人質」方式
・「コミットメント」方式
・「統制」方式
のいずれも、「バブルの崩壊とそれへの不適切な対処のなかで有効に機能しなくなり、むしろ『信頼』ないし『信用』を劣化させる方向へとそのメカニズムを逆回転させた」ことを指摘しています。
 第8章「『安心」のゆくえ」では、犯罪検挙率の低下や来日外国人犯罪の急増などを指摘した上で、山岸の議論として、「集団主義社会における『安心』の確保の議論から始まって、オープン市場型社会への移行にともなって起こる『安心の崩壊』の問題」などを紹介しています。
 そして、「集団内部の裏切りの可能性ないし社会的不確実性を除去する、『集団主義社会』のやり方が有効性を失うことは、同時に、これまで確保されてきた集団内部での『安心』が失われてしまうことを意味する」と指摘しています。
 また、人類が、「社会的ジレンマ」の解決のために、「進化の過程で獲得してきた行動原理」として、「みんなが原理」や「互恵性原理」を挙げ、「品減が進化の過程で遭遇した課題ごとに、その都度それを解決する単純な情報処理に特化した『モジュール(基本単位)』が形成されてきた」と述べ、その一つに、「人間社会に普遍的に存在する『社会的ジレンマ』の解決に特化した、『社会的交換モジュール』の存在が推定される」ことを紹介しています。
 著者は、「『国際化』や『規制緩和』や『構造改革』など、われわれにとって自明とも思える口当たりのよりスローガンの背後に潜む"罠"の存在」を指摘し、「われわれはそうした美辞麗句に酔いしれることなく、それらがもたらしうる様々な可能性に冷静に思いをめぐらせ、慎重にことを運ぶ必要がある」と述べています。
 第9章「『怒り』はどこに」では、「平和国家」と「商人国家」という日本の「二大支柱が、ここにきて揺らぎはじめ」ていると述べ、「平和国家・日本」の問題を、「タカ―ハト・ゲーム」の理論で、「商人国家・日本」の問題を、「コミットメント問題」の解決をめぐる最近のゲーム理論を用いて論じています。
 そして、「『タカ―ハト・ゲーム』および『抑止問題』として表現されうる国際紛争において、その解決の鍵となる『怒り』という感情のはたらきにたいして、外からは『絶対平和主義』が、また内からは『純粋経済主義』がブレーキをかけて、われわれを敗北へ導く」ことを、「『平和国家・日本』と『商人国家・日本』が複合することによって生じた、現代日本の国家経営のアキレス腱」であると述べています。
 本書は、社会評論として読む分にはうなづける点も多い一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書は、タイトルを読むと、ゲーム理論の本ではないかと、また、著者の肩書き(滋賀大学経済学部教授)を見ると、経済学の本ではないかと思って手に取る人が多いのではないかと思いますが、基本的には社会学の本というか、新聞の社説とか論説の類が一冊にまとまったもののようなニュアンスで考えておくとイメージがつかめるのではないかと思います。
 著者自身が、「あとがき」で、ゲーム理論については「五十の手習い」と言及していますが、ゲーム理論がメインで出てくるのは、第9章の「タカ―ハト・ゲーム」の部分で、あとの部分は、「現代日本の社会が直面する課題にゲーム理論で切り込む」、というよりも、「ゲーム理論を用いた研究の知見を紹介しながら、日本社会を語る」というスタンスが近いのではないかと思います。
 とりあえず、ゲーム理論そのものに関心がある人は、一度書店で手にとって目次や参考文献リストを確認してから読むかどうかを決めた方がいいのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・日本社会に疑問と不安を感じている人。


■ 関連しそうな本

 山岸 俊男 『安心社会から信頼社会へ―日本型システムの行方』
 大浦 宏邦 『人間行動に潜むジレンマ―自分勝手はやめられない?』 2008年05月19日
 鈴木 光男 『社会を展望するゲーム理論―若き研究者へのメッセージ』 2008年03月17日
 R. アクセルロッド (著), 松田 裕之 (翻訳) 『つきあい方の科学―バクテリアから国際関係まで』 2005年12月20日
 リチャード・ドーキンス (著), 日高 敏隆, 岸 由二, 羽田 節子, 垂水 雄二 (翻訳) 『利己的な遺伝子』 2006年09月26日
 鈴木 光男 『ゲーム理論の世界』 2005年08月02日


■ 百夜百マンガ

星のカービィ【星のカービィ 】

 もともとはゲームボーイ用のキャラクターだったのですが、コミック化、アニメ化もされました。それにしても、ゲームの派生漫画が、1992年の連載開始以来、いまだに連載が続いているということ自体が驚きです。

投稿者 tozaki : 2008年06月19日 22:00

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