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2008年06月22日
食育のススメ
■ 書籍情報
【食育のススメ】(#1249)
黒岩 比佐子
価格: ¥893 (税込)
文藝春秋(2007/12)
本書は、明治期のベストセラー小説家、村井弦斎の代表作、『食道楽』を取り上げ、この小説に「食育」という言葉が登場することから、"食育"の先駆者としてと村井弦斎とその作品を紹介しているものです。
「はじめに――明治の大ベストセラー、小説『食道楽』」では、「道楽」という言葉は、仏教用語で、「道を究めて悟りを開き、それを楽しむ」ということが、「本来の『道楽』の意味」だと解説しています。
そして、村井弦斎を、「同時代の作家たちよりも幅広い人々に愛読され、単行本も何倍も売れていた人気作家だった」と述べています。
また、弦斎が、小説『食道楽』のなかで、すでに使っていたことについて、「百年以上経って、ようやく弦斎の名前が『食育の先駆者』として脚光を浴びるようになった」と述べています。
第1章「文明の生活をなさんものは文明の台所を要す」(春の巻)では、『食道楽』が4巻合わせて確実に十万部売れていたことについて、「いまでも、十万部以上売れれば立派なベストセラーですが、明治時代の小説で十万部を超えた本など、数えるほど」しかなく、「『食道楽』があまり爆発的に売れたため、一時は、市場から本のカバー用の紙と綴じ糸が消えてしまい、増刷が間に合わないほどだった」ことや、「お客さんからの注文を受けた本屋の店員たちは、印刷所から増刷された本が報知社に届くのを待ち構えていて、取っ組み合いの喧嘩をして本を奪い合った」というエピソードを紹介しています。
そして、『食道楽』の主人公、大原満は、「大食が原因で肥満していて、早い話が『デブ』」、その妻、お登和は、「美人で聡明な」女性として描かれ、この小説が、「お登和という一人の理想的な女性によって啓蒙されていく男性の話」として構想されたにちがいないと述べ、「作者の視点が、大原の誤った食生活の改善にある」という意味でも、「この小説は"食育小説"と呼ぶにふさわしい」と述べています。
まあ、弦斎が、「美食家というより、自分が食べるものにどんな栄養素が含まれていて、身体に対してどんな働きをするのか、ということの方に興味があった」と解説し、弦斎が、すでに百年前に、「わかりやすく、食事のカロリー計算と食餌両方の意味を説いていた」と述べています。
第2章「家庭料理の研究は夫婦和合の一妙薬」(夏の巻)では、主人公の許婚の「お代」が登場について述べた上で、明治期の結婚について、「離婚が非常に多かった」として、2006年の離婚率が、2.04であるのに対し、明治15年は2.62、明治20年は2.84、明治25年は2.76、明治30年が2.87など、現在大きく上回り、1898年に「明治民法」が施行されてからは離婚率が低下したと解説しています。
そして、『食道楽』の内容が、「食べ物や料理ばかりでなく、健康や病気の話題まで盛りだくさん」であり、文章が平易であったため、「読み書きの能力が低い読者にとっても非常に読みやすく、分かりやすく書かれて」いたと解説しています。
また、『食道楽』が、書かれた頃、「初めて食品関係の法律が登場した」が、「それまでは、文字通り"無法状態"」で、
・牛乳に水や米のとぎ汁を混ぜて売る。
・黒砂糖に木炭の粉を混ぜて着色して売る。
・牛肉に馬肉を混ぜて売る。
などの、「驚くべき話が残って」いると述べています。
第3章「身体の発達も精神の発達も根源は食物にある」(秋の巻)では、現代でも、「結婚相手の女性に対して、『料理上手』であることを一方的に求める男性は多い」が、「結婚前に自ら家庭料理を研究して、妻となる人の身体を大切にしよう、と考える男性がはたしてどれほどいるでしょうか」として、「弦斎の考え方がいかに進歩的だったか」と述べています。
そして、明治期の人々にとっては、「西洋料理は外で食べるもので、『値段が高い』というイメージが」あったが、お登和は、「それを否定して、赤茄子でも牛肉でも鶏肉でも魚でも何でも、安い材料を使って家庭で美味しく作ることができる」と語っていることを紹介しています。
また、弦斎が、「教育では智育が大切だ、体育が大切だというものの、そのどちらも根本は何を食べるかということにある。栄養的にバランスがとれていて、衛生的な食物を摂取しなければ、脳も発達しないし、身体も発達しない。だから、それよりも『食育』が大事なのだ」と主張していることを紹介しています。
第4章「何事にも程と加減を知ることが大事」(冬の巻)では、弦斎が、「20歳のときに、私費でアメリカへ渡って一年ほど過ごし」たが、「アメリカでの生活に適応できず、現在でいう鬱病のような状態になったために、1年で切り上げて帰国した」と述べています。
「おわりに――『食道楽』以後の村井弦斎 あくなき『食』の探求者として」では、『食道楽』以後に弦斎が様々な実験から体験的に到達した原則として、
・食物の原則
・料理の原則
・食事法の原則
の3つの原則を残していることを解説しています。
本書は、百年前の「食育」の思想を現代に伝えてくれる一冊です。
■ 個人的な視点から
当時の男の人は、大金持ちのお坊ちゃんだったりすると、「台所」というものを見たことさえなかったりすることも珍しくなかったそうです。
当時から見ると、『dancyu』なんて論外もいいところだったのでしょうか。だからこそ、ベストセラー作家の個性として際立ったのかもしれません。
■ どんな人にオススメ?
・「食育」とは子どものためのものだと思っている人。
■ 関連しそうな本
大久保 洋子 『江戸のファーストフード―町人の食卓、将軍の食卓』 2007年11月18日
原田 信男 『江戸の料理と食生活―ビジュアル日本生活史』
村井 弦斎 『食道楽 (上)』
村井 弦斎 『食道楽 (下)』
熊倉 功夫 『日本料理の歴史』
家森 幸男 『110歳まで生きられる!脳と心で楽しむ食生活』
■ 百夜百音
【雨音はショパンの調べ】 小林麻美 オリジナル盤発売: 2001
世代的に、この人は「ショパンの調べ」の人、という印象しかなかったのですが、資生堂の「マイ・ピュア・レディ」の人だったんですね。
投稿者 tozaki : 2008年06月22日 10:00
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