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2008年06月24日
なぜ、改革は必ず失敗するのか-自治体の「経営」を診断する
■ 書籍情報
【なぜ、改革は必ず失敗するのか-自治体の「経営」を診断する】(#1251)
木下 敏之
価格: ¥1995 (税込)
WAVE出版(2008/6/16)
本書は、前佐賀市長である著者が、「佐賀市役所の改革の一例とともに、その後の地方自治体経営の研究やビジネス経験で見えてきた、今後の自治体経営のあるべき方向」を描いたものです。著者は、本書執筆の動機について、「このままでは次世代に申し訳ない」、「今、自治体経営が大きく方向を変えていけば、多少は幸福な未来になるのではないか。そのために私たちはどうすればいいのだろうか」という気持ちから、書き始めたと語っています。
第1部「ある自治体『経営者』の挑戦」、第1章「バブルの残滓を除去する」では、1999年に佐賀市長に当選した著者が、「何からはじめるべきか」という優先順位に悩んだ結果、
(1)採算性のない事業の廃止・縮小
(2)市役所の体質改革(人口減少と高齢化の時代に合わせた大幅行革と都市計画等の見直し)
(3)産業振興策と子育て支援、教育の充実
の3つの重点課題に、優先的に取り組むことにしたと述べ、結論として、「1期目の4年間は、(1)に重点を置き、2期目に、(2)と(3)について、最大限の努力をする、という大まかな方針」を立てたと述べています。
第2章「経営刷新は人事からはじまる」では、給料では大した差がつかない役人は、「自分のポストがどうなるか」を非常に気にするため、「大部分の役人は、ポストでコントロールできる。つまり、人事がすべて」だと述べ、3月16日の就任直後の「4月1日人事を止める」という決断をした狙いについて、
(1)管理職は実力のある人だけに絞りたかったので、能力を見きわめる時間が欲しかった。
(2)人事権が誰にあるのか、それを職員に強烈に見せつけたかった。
の2点を挙げています。
また、佐賀市役所では、人事評価が行われておらず、市役所内の色々な派閥、グループで人事が動いていた実態にメスを入れ、人事評価の基準を細かく作って評価制度を動かしたこと、そして、「職員の退職後の就職先として市役所が準備していたポストを大幅に削減し、そのポストを市民からの公募に切り替えるということ」をしたことを述べています。
一方で、最初の助役「人事」をめぐっては、「守旧派にきれいにはめられて」しまったとして、選挙中から相談していた議員に呼ばれて割烹に行くと、「最大会派の保守系の人たちが何人も座っている」という席に座らされてしまった、という苦い経験を語り、「政治家は清濁を併せ飲まねばといわれますが、一度、清濁の『濁』を飲み込んでしまうと、『濁』のパワーに染まってしまうような気がして、これ以後も、どうしてもそのようにできませんでした」と語り、「『濁』を飲みながら軸足を『清』に置き続けるには、まだまだ修行が足りなかった」と述べています。
第3章「経営効率化のための公共資産売却」では、市長就任後に、「何か象徴的なものを廃止しよう」と考え、「黒塗りの市長専用車・セルシオ」と、「職員が2人にアルバイトが配置され」、「これまで職員や議員が上京した際の休憩や便利な案内係として機能」していた東京事務所を廃止したと述べ、「現実には何も困ることはなかった」としています。
また、不必要な資産の「民間売却の基本方針」として、
(1)市役所が行う必要のない事業は廃止する。
(2)市役所が行う必要がある事業であっても、極力、民間委託を検討する。
(3)市の職員が行った方がよい事業であっても、徹底した効率化を考える。
(4)困難なテーマであっても効果の大きなものから先に取り組む。
の4点を挙げ、佐賀市営のガス事業を民間に33億円で売却したが、市営バス事業は、著者が落選したために「いまも市営」だと述べています。
第4章「談合体質と向き合う」では、公共事業の入札において、「ともかく談合を減らす工夫」をしてきたとして、岐阜県の希望社という建設会社と、「CM(コンストラクション・マネジメント)契約」を結び、小学校の改築プロジェクトを行ったと述べ、「入札の結果として落札率の低下にだけ関心を持つことは間違っている」こと、「価格と品質のバランスが重要で、それまでの安ければいいではないか、という認識の間違いに気づかされ」他と述べています。
そして、「はじめに談合ありきの世界」である建設業の世界の問題以上に、「行政側に『いいものを安く作る』という発想がなかったことが問題」だと指摘しています。
また、談合防止に手を尽くしていた著者に、「闇の勢力から圧力がかかってきた」経験として、「妻の父が2回襲われた」ことを明かし、「資格を厳しくすればするほど、業者が限られ、いわゆるブラックな勢力は入札に参加できなくなる」ことが、気に入らなかったために、「私ではなく、妻の父を襲った」のではないかと語っています。著者は、「改革を実行すればするほど、特定の人たちから大きな恨みを買うことに」なり、「改革派首長たちは、少なからず、何らかの嫌がらせを受け、家族、親族に迷惑をかけてしまう。それは悲しい事実です」と語っています。
第5章「実を結んだ経営改革」では、11%の人員削減や談合防止の結果の落札率の低下(98%→91%)などのほか、「情報公開や住民参加も同時に積極的に推進」した結果、「日経行政革新度ランキング」で、2006年には全国10位、九州では1位にランキングされたことについて、「私が行った佐賀市の一連の改革が評価された」と述べています。
第6章「市街地の活性化と産業振興対策」では、中心市街地が衰えた理由について、「もっとも大きな理由は、日本の都市計画」だとして、「政治的には農村部出身の議員の意見が強」いため、「郊外の開発の抑制」が非常に困難であること、「街中心部に集まっていた公共施設が、郊外に分散して立地してしまったこと」を指摘しています。
著者は、日本政策投資銀行の藻谷浩介参事役との出会いをきっかけに、「拡散した市街地をもう一回コンパクトにしよう」という対策を打ち、「6000人の人に、町を歩かせよう」という具体的な目標の達成のためには、
・働く人を増やす
・住む人を増やす
・遊びに来る人を増やす
の3点を「同時並行で進めていかなければ」ならないと述べています。
また、市長時代に、「自分自身にもっとも限界を感じた」こととして、「建設業に代わる産業をどうやって育てればいいのか?」という課題を挙げ、「長期的に日本の人口が減少し、高齢化が進む」なかで、「財政は悪化し、公共事業は減少」するので、「建設業の代わりに、どのような仕事で食べていくのか」が「地域最大の課題」であると述べています。そして、「傑出した産業はなく、今後、これから伸びていくという確信の持てる産業も」ないため、「いくつかの企業を応援してみて、そのうちどれかが成長するかもしれないという『雑木林』作戦をとること」にしたと述べています。さらに、2005年9月に小糸製作所の誘致に成功した決め手として、「市役所側の意思決定の早さが大きな要因だった」として、「企業側の工場進出の意思決定から現実の稼動開始までの期間がますます短くなってきている」なか、「そのスピードから遅れないように、市役所側の意思決定もできるだけ一日以内にするように」したと述べています。
第7章「乗り越えられなかった壁」では、「県と市の関係では分権はなかなか進まないのが実態」だったとして、「佐賀市の職員は県庁に対しても上下意識を持つ傾向」があったことや、下水処理上建設の際に、ドイツで実用化されている「リンボーシステム」を、「現場を知らない県庁職員」は補助対象事業にすることに了解せず、「いろいろと『難癖』をつけてきた」が、「国の職員は技術論で了解すると、話は早」く、「県庁よりも国のほうが柔軟なことが多い」ことなどを挙げています。
また、地方の人材不足について、その根底には、「地方の学校教育における、偏差値の高い大学に入学し、一流企業に就職するのが『人生の成功』という考え方がある」と述べ、「優秀な人材を都心に供出するだけで、地元には戻ってこない構造になっている」ことを指摘しています。
「おわりに」では、2005年10月23日の選挙で著者が敗れた理由について、「行革に反対する社民党が候補を立て、そこに、公共工事が減り、談合もしにくくなった現状に不満な層が乗る。さらに公務員の既得権益保護の立場から、実質応援のため共産党は独自候補を立てない」という枠組みを理由として挙げています。
そして、「既得権益を次から次にはがしていく」という「改革」の利益は、「特定の層に集まることはなく、薄く広く配分される」ため、「強力な味方」ができるはずがなく、一方で、「徐々に強力な反対票が形成されていくこと」を、「改革というものが本来的にかかえる厳しさ」だと述べています。
第2部「自治体経営の未来へ」、第1章「夕張市財政破たんの教えるもの」では、夕張の道を自動車で走っていた著者が、「穴の開いた道路の補修のために、アスファルトの代わりに道路の穴に」銀色のビニール袋の土嚢が埋められているのを見て、「市役所が破産するということは、こういうことなのだ。それが身に染みてわかった」と語っています。
そして、夕張市の人口推移や財政再建計画について解説した上で、「いま、いうことができるのは、財政の厳しいといわれている自治体の経営幹部や住民は、税収や人口の減少以上に、職員やサービスの削減をしなくてはならないということを、夕張の貴重な教訓として受け止めなければならない」と述べています。
第2章「自治体『再生』はありえない」では、「これから先は、昔に戻す『再生』ではなく、人口構造の変化を前提として、新たにどのような地域を形成していくかを考えた対策を打たなくてはならない」として、「日本の人口構成の今後の変化を考えれば、『再生』という言葉はもはや使わない方がよい」と述べています。
また、世の中では、「人口減少と少子高齢化」などと、「人口減少」「少子化」「高齢化」という3つの現象を、「ひとまとめにした表現」が多いことを、「問題を見誤らせる危惧を感じ」ると述べ、「これらはそれぞれ別の現象であり、その理由も対策も違う」として、
(1)人口減少はどのように進むのか
(2)働く世代の人口はどのように変化するのか
(3)高齢化はどのように進むのか
(4)少子化はどのように進むのか
という「基礎データを把握するのが、自治体経営を考える上での出発点」となると指摘しています。
著者は、「市町村ごとに、どのように人口が推移するのかを住民に伝えていくことは自治体運営の基本」であるとして、「自助努力の必要性を理解してもらうためにも、予測をわかりやすく、かつ、何度も住民に伝えていかなければならない」と主張しています。
第3章「首都圏に埋められた時限爆弾」では、「首都圏ではこれから急速に高齢化が進」むにもかかわらず、「各都道府県の人口一人当たりの老人福祉施設の数を比較する」と、「東京や神奈川等、首都圏の自治体の整備が、ほかの地域と比べどれだけ少ないかがおわかりになるのではない」かと指摘しています。
第5章「自治体経営のコストカット」では、現在、省エネのベンチャー企業の経営に携わっている著者が、「ノウハウをうかつにしゃべるとすぐにマネされてしまう恐れがある」ことを「役所と違うな」と感じるのに対し、「役所の世界はまったく別」で、「無料でノウハウを提供してもらえるのに、また、他の自治体の優良事例が雑誌などで頻繁に掲載されるのに、まったくマネをしようとは」しないことを指摘し、「自分の自治体の将来を考えると、役所もマネをどんどんするべき」だと述べています。
第6章「富を生み出す仕組みを作るために」では、1955年からの長期間のジニ係数の推移を見ると、「近年の各都道府県における一人当たりの県民所得の上位を占めるのは三大都市圏にある都府県で、下位県は地方圏にある県ですが、長期的に見ると、所得格差は縮小している」ことを指摘し、「これまで、何十年も地方に所得移転を続け、膨大な量の公共事業を実施してきたにもかかわらず、どうして多くの地方が自立できないのか。建設業以外の産業が育たないのか。その理由を分析しないままに地方に財源を移転し、公共事業を増やしたとしても、現状は何も変わ」らないと述べています。
そして、地方の「本質的課題」として、「地方の『人材格差』の是正」を挙げ、「この問題に手をつけない限り、決して地方は豊かになることはありません」と述べた上で、
(1)首長・公務員の産業拡大や業務のスピードについての能力不足
(2)若者への教育における差
(3)地方の企業で働く人の人材不足
の3点を指摘しています。
そして、「資産も名声もある企業経営者の方に、損得抜きで政治の世界に入って来て欲しい」と述べ、「倒産企業の再建で地獄を見た方や、新しい事業を起こして、富を生み出した方など」が、「培った経営者としての能力を、自治体経営に役立てていただきたい」と述べ、「国政で活躍する国会議員は、さまざまな組織の経営や地方自治体の首長を経験した後で立候補すべき」だと主張しています。
本書は、自治体を「経営する」ということの大変さとやりがいとを、自身の経験を元に分析的に解説した一冊です。
■ 個人的な視点から
本書の中でもさらりと書いてありますが、ショッキングだったのは、著者の義理のお父さんが「ヒットマン」に狙われたことでしょうか。刃渡り37センチの「鎧通し」にもひるまず、回し蹴りで反撃したという空手の達人ぶりは、映画のシーンのようですが、「改革」の難しさの本質の一つには、既得権の維持を図ろうとする勢力との本当の意味での命がけの対峙があるからではないかと思います。
■ どんな人にオススメ?
・「改革」という言葉がきれいごとだと冷めて見る人。
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■ 百夜百マンガ
「演技」を格闘技さながらの命がけの戦いにしてしまった作品。勝新みたいな人も出てきましたが、基本的な構造はジャンプ・トーナメント的なインフレーションする敵との戦いではないかと思います。
投稿者 tozaki : 2008年06月24日 06:00
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