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2008年06月28日

集合住宅デモクラシー―新たなコミュニティ・ガバナンスのかたち

■ 書籍情報

集合住宅デモクラシー―新たなコミュニティ・ガバナンスのかたち   【集合住宅デモクラシー―新たなコミュニティ・ガバナンスのかたち】(#1255)

  竹井 隆人
  価格: ¥1995 (税込)
  世界思想社(2005/07)

 本書は、「集合住宅を基点とする政治学研究」の重要性や可能性についてまとめたものです。
 著者は、本書で訴えたい点として、
(1)住宅は人間にとって生活の基盤であり地域政治との接点となるにもかかわらず、これまで政治的思考の対象とならなかったことに対して、住宅の中でもとりわけ集合住宅については、そこに居住する人間同士のかかわりが不可欠な場であることから、政治学の視点から看過すべきでない重要性を有するということ。
(2)究極の地方分権として、集合住宅における住民自治に注目することが、わが国民に巣くう貧弱な政治意識を変革する一助たりうるということ。
(3)政治学研究は一般の方々からは難解と思い込まれ敬遠されがちなことに対して抵抗を試みたい。
の3点を挙げています。
 序論「デモクラシーの模索」では、本書において、「集合住宅と政治がどういった点で結びつき、それを関連づけて思考することがなぜ重要なのか」を解明するとしています。
 そして、本書における「集合住宅」が、「共同住宅の定義とはやや異なる、いわば共同所有及び管理を前提とした多世帯住宅」であると述べ、こうした「集合住宅」には、「民主的政治的システムを伴なった住民自治組織の存在が前提となっている」として、「アメリカではこの住民自治組織が、ある局面では明確に『政府』、とりわけ公的政府と対比する意味での『私的政府(プライベート・ガバメント)』としてとらえられている」と述べています。
 また、「集合住宅における私的政府も多様な統治機関のひとつであることに着目すれば、これまでの既存政府との関わり合いを含めた『マクロ・ポリティクス』にも影響を及ぼしうること」を指摘したいとしています。
 第1章「私的政府によるプライベートピア」では、アメリカの郊外の戸建住宅群を中心として形成される居住区について、「広場、公園、街路はもちろんのこと、時には遊歩道、湖沼、丘陵、テニスコート、プール、ゴルフコース等」にまで及ぶ「コモン」について、「CID(Common Interest Developement)」と称され、「わが国では、このCIDの視覚的あるいは物理的な観点から、ある種の憧憬にも似た、いたずらに礼讃する向きが見受けられる」が、「CID体制()CID regeme)」が、「わが国とは著しく相違する法律や金融の諸制度を含めた社会構造に立脚する」とともに、「その背景にはアメリカにおける政治意識、あるいは民主主義の成熟に負うところも大きい」と指摘しています。
 そして、「CID体制」の前提となる「CIDの権利態様」について、「その集合住宅のうち個人が特定の住宅を所有、利用する一方で、共用領域であるコモンは居住者全員が共同で所有、利用することが原則となる」が、「個別の住宅やコモンを所有、利用するための権利態様」については、
(1)コンドミニアム
(2)PUD
(3)コウオプ
(4)コミュニティ・アパートメント
の4つに類型化できるとしています。
 第2章「プライベートピアの課題」では、プライベートピアが、「田園都市に物理的には相似して、郊外で緑に囲まれた都市として存在するものの、制限約款によって『望ましくない隣人』を排除し、白人の中流以上の階層に限定されたユートピアと成り果ててしまった」ため、「富裕層が社会全体の利益の増進を図り経済的公正さを追及する責任を放棄し、過密都市を置き捨てにした帰結」として批判されていることを紹介しています。
 第4章「保安の探求」では、アメリカで、1980年代以降の犯罪の増加に伴ない、「より簡便に保安(セキュリティ)心理を満たすことが求められた」として、「CIDでももっとも先鋭化した形態、すなわち居住区全体を外壁で囲い込み、いわば要塞化する『ゲーテッド・コミュニティ(gated community)』と呼称される居住区が登場し、見る間に急増していった」と述べ、その数は、全米で約2万箇所、約800万人が居住しているとして、「そのうちの3分の1が富裕層のための高級居住区であり、もう3分の1は退職者向けで、さらに残りの3分の1は中流階層向け」であると述べています。
 著者は、「わが国の戸建住宅団地において『制限』の受容や私的政府の存立を阻んできたのは『当事者意識』の欠如であり、『お上』への依存心でもある」と指摘し、「自分たちで管制(コントロール)することを厭い、他律を好む傾向はわが国の『お上』意識に通じている。居住区という自らの領域内にある街路や公園等を、各個人とは別ものの『お上』の所有物と捉えてしまえば、あとはまったく関わらなくて済むという意識である」と述べています。
 第5章「もう一つの集合住宅」では、「コウオプの利用上の制限において注目すべき」点として、「市場価格で自由に売買できるコンドミニアムに比べると、売買が厳しく制限される点」を指摘し、「富裕層向けの高級コウオプでは人種、社会階層、収入等の同質性と社会的ステイタスとの保持のため、売買の対象者が厳しく制限される」と述べ、「とくに高級コウオプの場合には、居住者は入退居(株式の売買)の際に、理事会による入居審査を経て承認を得ることが必須であり、入居を希望する際は有力者から推薦状をとっておくことが無難とさえいわれている」と解説しています。
 そして、わが国におけるコーポラティブ方式について、「その発端が分譲マンションへのアンチテーゼだったものの、その基調をなす区分所有制という法的構成は否定されずにむしろその亜流として存立してきた」ため、「このようなわが国の代物は、アメリカでの概念からすればコウオプではなく、単なるコンドミニアムとして整理されるのみである」と指摘しています。
 第6章「コミュニティからガバナンスへ」では、「もて囃される傾向にある」、わが国における「サステイナブル・コミュニティ」の紹介の仕方に欠落しているものとして、「この居住区を成立させるソフト面の要素」を挙げ、「サステイナブル・コミュニティはこれまで述べてきたCID(コモンを有する居住区)の明らかに延長線上にある」と述べ、「サステナブル・コミュニティとみなされる集合住宅は、同時にゲーテッド・コミュニティである場合も多い」ことを指摘しています。
 著者は、「かつての職住いったいの村落共同体にも通じる復古的で情念的なコミュニティとは異なり、職住が一体でない人間関係の希薄な都市社会においても通用するコミュニティとは何だろうか」という問題について、パットナムが、「社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)」として重視した「規範(ノーム)」を挙げ、「個々人の権利や自由は大切に扱うものの、集団として確保すべき利益に沿うために個々人の自由や権利をどこまで『制限』するか合意するのが現代の自由民主性を前提とする政治なのである」と述べ、「この『制限』について合意するための政治過程には個人の『参加』が求められ、それは個人主義が進展し、人間同士の紐帯が減退してきた現代社会ではますます重要性を増している」と主張しています。
 第7章「集合住宅と『公共性』」では、「集合住宅に『公共性』が備わる可能性があるとするならば、そこでの私的政府の存立は『マクロ・ポリティクス』において退嬰しつつある自由民主制を挽回させる切り札足りうる」と述べています。
 そして、「まずは集合住宅の民主主義的な統治(ガバナンス)をとおして『自立化』が養われることで、より大きな課題(国防、福祉、経済政策など)に対処すべき国家や地方公共団体の集団的意思決定へ参加する市民としての成熟を育む」と述べています。
 結語「集合住宅からデモクラシーを考える」では、わが国で、「その欧米で台頭してきた背景を抜きにして共同体主義(コミュニタリアニズム)や社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)など言説を無闇に取り入れんとする向きのあること」を「いささか滑稽にさえ思う」と述べています。
 著者は、「集合住宅における『制限』を前提とした私的政府の成立こそが、都市政治の未来を拓く端緒になると信じている」という言葉で本書を結んでいます。
 本書は、日本では「民主主義」という言葉と直ちに結びついてイメージされにくい「集合住宅」における「民主主義」重要性を指摘した一冊です。


■ 個人的な視点から

 2007年に出版され話題になった『集合住宅と日本人』と基本的なテーマは共通していますが、あとから出たほうが、より読みやすく、整理されたかたちで再編集されたもののように感じます。
 かといって、本書の方が、学術的な掘り下げが深いかと言えば、それほどの学術的な方向に傾斜しているわけでもなく、言ってみれば、『集合住宅と日本人』の習作的な位置づけなのかもしれません。
 しかし、同じテーマについて、同じ著者が書いたものを複数読むことは、著者の主張により近づくことができますので、『集合住宅と日本人』を読んで、もっと深く知りたいと思った人にはお奨めできます。


■ どんな人にオススメ?

・「集合住宅」と「民主主義」が結びつかない人。


■ 関連しそうな本

 竹井 隆人 『集合住宅と日本人―新たな「共同性」を求めて』 2008年06月13日
 エドワード・J. ブレークリー, メーリー・ゲイル スナイダー (著), 竹井 隆人 (翻訳) 『ゲーテッド・コミュニティ―米国の要塞都市』
 エヴァン マッケンジー (著), 竹井 隆人, 梶浦 恒男 (翻訳) 『プライベートピア―集合住宅による私的政府の誕生』
 ジグムント バウマン (著), 奥井 智之 (翻訳) 『コミュニティ 安全と自由の戦場』 2008年01月12日
 山岡 淳一郎 『あなたのマンションが廃墟になる日――建て替えにひそむ危険な落とし穴』 2008年06月02日
  『』


■ 百夜百音

アクマイザー3【アクマイザー3】 水木一郎 オリジナル盤発売: 1975

 「アニキ」の熱唱が冴えるばかりでなく、鬼のようなベースもたまらない曲。当時のテレビのスピーカーではきっとほとんど聞こえなかったんじゃないかと思いますが。

『水木一郎 ベスト・オブ・アニキング-赤の魂-』水木一郎 ベスト・オブ・アニキング-赤の魂-

投稿者 tozaki : 2008年06月28日 21:00

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