« 鉛筆と人間 | メイン | モハようございます。 あの人はなぜ、鉄道にハマるのか? »
2008年07月05日
ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ―ハイテク海洋動物学への招待
■ 書籍情報
【ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ―ハイテク海洋動物学への招待】(#1262)
佐藤 克文
価格: ¥882 (税込)
光文社(2007/08)
本書は、日本の研究グループが先導的役割を果たしている「バイオロギングサイエンス」という生物研究のフロンティアを紹介してるものです。これは、日本初のハイテク機器である「データロガー」という小型化した記録計を動物に直接取り付けることで、「これまで人々が直接観察できなかった水中の動物について、色々調べられるようになった」新しい学問分野です。
第1章「カメが定温動物でトリが変温動物」では、「自然環境下を自由に泳ぎまわる動物たちから、体温や経験水温を連続的に記録したところ」、「爬虫類は変温動物。鳥類は定温動物」という常識を「ひっくり返すような結果が得られてしまった」と述べ、著者自身、「はじめから水中に大きなフロンティアがあると確信していたわけではなかった」が、「図らずも陸上動物の大原則に反するデータを目の当たりにして、否応なしにこの世界に引き込まれていった」と語っています。
そして、ウミガメにとって、「体温を外部水温よりも高くある程度一定に保つメリット」として、「潜水する際に、水温の一時的低下を経験する」が、「これに対して体温が一定に保たれるのはウミガメにとって嬉しいはずだ」と述べています。
一方ペンギンが、「せっかく暖かく保っている体温」を――水中に下げてしまう理由として、「いったん水の中に入ると、えらを持たない彼らは息を止めている必要がある」ため、「潜水中の体温を下げてしまうという戦略」を選択した結果、「腹腔内の温度は一時的に下がったところで特に困ることはない」として、「結果的に10度以上も腹腔内の温度が下がっていることがわかった」と解説しています。
第2章「浮かび上がるペンギンと落ちていくアザラシ」では、水中を泳ぐペンギンに加速度計をつけることで、「世界で初めて得られた加速度データ」を見て、「ペンギンが前ひれを動かさずに浮上する間、背中に取り付けた装置で測定した遊泳速度が、秒速2メートルから3メートル近くまで加速していたこと」について、「ペンギンが水面に向って浮上を開始すると、今度はいったん圧縮された空気は、水面に近づき圧力が低下していくのにともなって膨張していく」と述べ、「体内の空気が膨張すると、ペンギンの体が押しのける海水の体積は大きくなる」ことが、「水面が近づくほど速度が大きくなるという現象をうまく説明できるような気がした」と解説しています。また、ペンギンがななめに浮上することで、「飛ぶ鳥と同じように羽を広げて下向きに揚力を生みだしているのではないだろうか」と仮定しています。
そして、「ペンギンが体内に蓄えた空気によってもたらされる浮力を使って、前ひれを動かすことなくグライディングによって水面まで浮上していく」のに対し、「ウェッデルアザラシは逆に、重力を使って水面から落下するように潜降していた」と述べています。
著者は、「動物搭載型の加速度計が生み出されたことによって、野外実験が可能となった水棲動物の遊泳行動研究は、今後大きな成果が期待される研究分野である」と述べています。
第3章「研究を支えるハイテクとローテク」では、動物搭載型の記録計である「データロガー」について、「この新しい装置がいかに生まれ、そして発展してきたかといった手法論について紹介する」としています。
そして、データロガー以前には、「機械式に記録フィルムを巻き取り、センサーに連動した極小針がその上に線を刻んでいくアナログ式の装置であった」として、「精密に組み合わされた微小な歯車や振り子が動く様子は、あたかも高級時計のごとき機能美を有していた」と解説しています。
第4章「アザラシは何のために潜るのか?」では、母アザラシのデータを解析した結果、100メートル以上深くまでの潜水の他に、「5メートル前後の浅い潜水も長時間行っていること」もわかり、「同時に得られている子供の深度時系列データと、重ねて表示してみた」結果、「ぴたりと一致した」ため、母アザラシの背中に後ろ向きにカメラを装着すると、「プロのカメラマンでも無理だろうと思えるほどの完璧な構図で、母親の後ろを泳いで付いてくる子どもの様子が映っていた」ことから、「母アザラシは、子供と一緒に浅いところを泳いでいた」という予感は的中したと語っています。
また、「太陽光は普通表層200メートルまでしか到達しないので、200メートルより浅いところにこそ、高次捕食動物の餌となるオキアミや小型の魚類などの小動物が数多く生息していると考えれていた」が、「アザラシカメラによって得られた画像から把握された餌の鉛直分布」から、「予想とは反対に、250メートルよりも深いところに餌が多くなる傾向が得られてしまった」として、「当初私たちが思っていたよりも、南極海の生態系は複雑であるようだ」と述べています。
第5章「ペンギンの潜水行動を左右するもの」では、ペンギンが「水の中に入るタイミングと、出てくるタイミングがぴたりと一致している」理由について、「食われる可能性のある弱い動物ほど、よく群れることが知られている。集団となって一糸乱れぬ行動をしているときは、捕食者にとって襲い難いようである」と推測しています。
また、野生動物の潜水生理学における、2つの大きな謎として、
(1)アザラシやペンギンといった肺呼吸動物が、どうやって長時間潜っていられるのだろうか。
(2)動物たちはそんなに深く潜って大丈夫なのか。
の2点を挙げています。
第6章「ペンギンたちはなぜ一列になって歩くのか?」では、ペンギンたちの後を歩いていった著者が、「表現にはあちこちに割れ目があり、その上に雪が積もっていると、どこに割れ目があるのか一目見ただけでは分からない」ため、「前の者が歩いた後を忠実になぞ」っていくのが、安全は方法であるからではないかと述べています。
第7章「教科書のウソとホント」では、データロガーで動物の速度を観測しているうちに、「どうもすべての動物が同じ速さで泳いでいるような気がする。その場合、推進力を得るためのひれの動きの頻度は、どうなっているのだろうか?」という疑問をもった著者が、同じデータロガーを使う研究者たちに、データ提供を提案し、「最大は30トンのマッコウクジラ、宰相は500グラムの海鳥まで、合計25種類の動物のデータ」が集まり、哺乳類と鳥類の遊泳速度を見たところ、予想通り秒速1メートルから2メートルの間に収まっており、体サイズによって左右されないという結果」になったことや、「遊泳時のひれの動きの頻度を調べたところ、大きな動物ほどゆっくりと低周波で動かす傾向があり、平均的な周波数が体重のマイナス0.29乗に比例するという結果になった」と述べています。
また、「バイオロギング bio-loging」という言葉について、「データロガーを対象動物に取り付けるやり方で、動物の行動や整理、それを取り巻く環境を調べるといった研究が、さまざまな動物を対象に進められていた」が、「そのやり方を用いる研究者の数は少なかった」ので、「いっそデータロガーを使った研究者で集まってはどうか」ということで、シンポジウムを実施し、シンポジウム後には、「バイオロギング科学とは、人の視界や認識限界を超えた現場において、動物自身やそれを取り巻く周辺環境の現象を調べるものではなかろうか」という定義が、「ひかえめに記述された」と解説しています。
そして、「できたてほやほやの新しい分野で研究を進めていく過程では、困難を前に窮する自体が頻発する」としたうえで、未来の研究者たちに、
「求む男女。ケータイ圏外。わずかな報酬。極貧。失敗の日々。絶えざるプレッシャー。就職の保証なし。ただし、成功の暁には、知的興奮を得る」
と呼びかけています。
本書は、新しい生物学のフロンティアを分かりやすく解説した一冊です。
■ 個人的な視点から
本書の最後の呼びかけ部分のネタ元は、
「求む男子。至難の旅。わずかな報酬。極寒。暗黒の長い日々。絶えざる危険。生還の保証なし。成功の暁には名誉と称賛を得る」
"Men wanted for Hazardous Journey. Small wages, bitter cold, long months of complete darkness, constant danger, safe return doubtful. Honour and recognition in case of success."
というアーネスト・シャクルトンが1900年に南極探検隊員を募集したときの新聞広告です。
このときには5千人の応募があったそうですが、本書の呼びかけには何人の人が応えてくれたのでしょうか。
■ どんな人にオススメ?
・ペンギンとアザラシが好きな人。
■ 関連しそうな本
エドマンド・ブレア ボウルズ (著), 中村 正明 (翻訳) 『氷河期の「発見」―地球の歴史を解明した詩人・教師・政治家』 2007年02月04日
リチャード・ドーキンス (著), 垂水 雄二 (翻訳) 『祖先の物語 ~ドーキンスの生命史~ 上』 2007年06月30日
リチャード・ドーキンス (著), 日高 敏隆, 岸 由二, 羽田 節子, 垂水 雄二 (翻訳) 『利己的な遺伝子』 2006年09月26日
スティーヴン・ジェイ グールド 『ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語』 2007年03月03日
アンドリュー・パーカー (著), 渡辺 政隆, 今西 康子 (翻訳) 『眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く』 39312
ユージン・カプラン (著), 土屋 晶子 (翻訳) 『奇妙でセクシーな海の生きものたち』 39611
■ 百夜百音
【NHKむしまるQゴールド 水の中の小さなクマ】 TVサントラ オリジナル盤発売: 2002
「はっぴいえんど」好きの人には聞いていて心地よいサウンドというか、こういう風にリスペクトされるのはうれしいんじゃないかと思います。
投稿者 tozaki : 2008年07月05日 06:00
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.pm-forum.org/MT3/mt-tb.cgi/1790