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2008年07月09日
美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史
■ 書籍情報
【美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史】(#1266)
西田 宗千佳
価格: ¥1890 (税込)
講談社(2008/2/22)
本書は、「家電の雄・ソニーをゲーム業界に参入させ、デジタル家電と半導体の世界に、計り知れない影響を及ぼした人物」である、久夛良木健に率いられた、「美学」を追求する「ロマンの会社」ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の15年間の歴史と、「久夛良木健は何を見て、何を感じ、どう考えてきたのか? 彼と夢を共有し、その美学を支えてきたチーム久夛良木のメンバーは、どういうもの作りをしてきたのか?」を追ったものです。
第1章「『久夛良木健』ができるまで」では、1992年6月24日、当時のソニー社長、大賀典雄が久夛良木を前にして叫んだ、「実現できるかどうか、証明してみろ! DO it!」の一言から、「リスクの大きい家庭用ゲーム機への本格的参入」が決まったこと、そして、久夛良木には、「任天堂のプラットフォームの盲点をソニー流に革新していけば、十分に勝機がある」という「革新ともいえるほどの自信があった」ことが述べられています。
また、久夛良木が、「液晶」からキャリアをスタートした、「ソニーには珍しい『デジタルの人』であった」ことが、「大きな自信」になっていたと述べています。
第2章「任天堂の逆を張れ!」では、1993年11月にソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)の子会社として設立されたSCEに、「『アンチソニー』とはいわないまでも、『ソニー何するものぞ』みたいな勢い」があったとして、SCEで設立以来一貫して宣伝戦略を統括する佐伯雅司が、
「俺たちは、『金太郎飴』になる必要なんてない。むしろ、一人一人とがった『金平糖』になろう」
を宣伝スタッフの合言葉にしていたと述べています。
また、久夛良木が、「ボタンを押せばすぐ反応する即応性、すなわち『リアルタイム性』」にこだわり、その条件を、ソニーが持っていた「システムG」という技術を使うことで、「三次元CGでもできる限り実現すること」が久夛良木の狙いだったと解説しています。
さらに、クリエーターにとってのプレイステーションの魅力が、「三次元CGと、CD-ROMを両方採用していたこと」によって、「リアルなCGに、CDと同等の音質のサウンドを重ね、リッチなゲームを作り上げることが可能となった」ことを挙げ、スーパーファンミコン向けの人気ゲーム「ファイナルファンタジー」がプレイステーションを選択したのは、「まさに、三次元CGとCD-ROMがあったからだ」と解説しています。
そして、久夛良木が、1992年の任天堂との交渉決裂の日に、「都内に戻る新幹線の中」で、「任天堂の逆を行こう」と決断し、その象徴が、「CD-ROMの採用」であったと述べています。
第3章「『インテル』を凌ぐビジネスモデル」では、プレイステーションの成功を受けたプレイステーション2(PS2)の開発に当り、「PS2は、発売から5年間は現役ということになるだろう。ならが、今から見て、10年後にも見劣りしない技術をぶち込もう」とぶち上げられ、その一つは、「ゲーム内の世界をすべて計算で生成するところまで行きたい」として、「人の手でなくコンピュータが生成したもので、人の感情を揺さぶるような作品」を生み出す「感情生成」(エモーショナル・シンセシス)がコンセプトとされ、そのCPUは「エモーショナル・エンジン」、グラフィックチップは、「グラフィック・シンセサイザー」と命名されたことが述べられています。
また、家電やパソコンとは異なる「『専用コンピュータ』として最適な設計を追及することが製品の魅力につながり、そして製品の販売量と製品寿命が、最適設計にかかるコストを支える」という「真理」が久夛良木の「ビジネスモデルの根本」であったと解説しています。そして、その根拠は、「インテルのビジネスを支え、サムスン電子を世界最大のメモリーメーカーに押し上げた必勝の法則」である、「ムーアの法則」と呼ばれる、「半導体の集積度は、およそ18ヶ月で倍になる」という半導体に関する経験則であったと述べています。
著者は、
「ハードで黒字化しない限り、健全なビジネスになんかならないんです。ゲーム機の歴史において、ハードで黒字を出せなかったところは、みんな失敗していきましたよ」
という久夛良木の言葉を紹介し、プレイステーションのビジネスモデルが、「ハードウェアの赤字の期間をいかに短くするかにより、ハードとソフトの両方から収益を得る」構造であると解説しています。
さらに、久夛良木が、
「僕が入社した頃のソニーには、やんちゃな人間が多かった。でも、最近はおとなしい」
というコメントを紹介し、「おそらく久夛良木は、ソニーから距離を置いたSCEで、『自分が理想とするソニー』を作り上げようとしていたのではないだろうか」と述べています。
第4章「ソニー×SCE」では、「ウェブとは違うテレビのためのインターネットを創造すること」を狙った「PS2、第二の誕生」と意気込んだPSBBが、「プロバイダーが決済し、PSBBの機材は決済プロバイダーから提供される」という複雑なビジネスモデルのため、「結果的に大きな失敗に終わった」ことを解説しています。
また、「エモーショナル・エンジンとグラフィック・シンセサイザーを使えば、ゲーム機並みのユーザーインターフェースを備えた、ハイレベルなデジタル家電ができる」という目論見で投入されたPSXが、「久夛良木たちSCEチームの『もの造りのスピード感』に、ソニー本体のチームがついていけなかった」という、開発スタイルの違いから、「開発は難航し、短時間での開発にともなう不具合修正や機能の積み残しをカバーするため、発売後にソフトを書き換えて対応するという状況」に陥り、DVDへの書き込み速度が「四倍速」から「二倍速」に落ちたことも、「消費者にとって不手際と解釈され、販売不調の原因となった」と解説しています。
第5章「手の平サイズ・スーパーコンピュータ」では、PS3向けプロセッサ開発が、エモーショナル・エンジン、グラフィック・シンセサイザーの製造・開発をともにした東芝に加え、「圧倒的に計算が速いプロセッサ」を作るために不可欠な「マルチプロセッサ」のトップレベルの技術を持っていた「第三の企業」IBMが登場したと述べ、その開発会議は、「四方の壁面はすべてホワイトボード」になっている会議室で行われたため、「会議室に入って、まず度肝を抜かれましたよ」というものであり、半年にわたる「濃密な会議の結果、強烈なコンセプトが生み出され、それから実作業にかかる」という「IBMのカルチャー」で進められたことで「非常にうまくいった」と述べられています。
そして、「CELL Broadband Engine」(通称「CELL」(セル))と名付けられた次世代PS用プロセッサとPS3の開発が、「SCE技術陣にとって、『リアルタイムに動き、高度な演算を行えるコンピュータにとって、理想的な姿は何か』を追及する場であった」ため、久夛良木は、「エンジニアの意見を殺してしまわず、皆が適切と納得できるものを考え続けること」ができる場を作ることを目指したのではないかと述べています。
第6章「逆を張られたSCE」では、「最初は70人弱から始めた」SCEのスタッフが、「いつの間にか2000人を超え、PS1を立ち上げた頃の、挑戦者だったときのことを知らない人間」が多くなったことで、「いかにPS3を売るのか」に「チャレンジする気持ちを失いつつある」のではないかとの苦悩が語られています。
また、400ドル程度と予想されたPS3が、「高くならざるを得なくなった」理由として、
(1)ブルーレイ・ディスクに使われる半導体レーザー・ダイオードが、思ったほど低価格にならなかった。
(2)「エンターテインメント・コンピュータ」として完全なものとするため、ハードディスクを標準搭載することを決めた。
ことなどを挙げています。
そして、2006年12月1日、久夛良木がSCEの代表取締役社長兼CEOから会長兼CEOに「昇格」した人事について、「新型ゲーム機立ち上げの時期に製品そのもののコンセプトを作った人物が、主導権を握る立場ではなくなった」ことに、
「久夛良木は、ソニーから更迭された。PS3立ち上げ失敗の責任を取らされたのだ」
とゲー業界内で噂されたと述べ、ソニー会長兼CEOのストリンガーが、
「ケン(久夛良木)の知見は、得難い重要なものだ。彼がソニー・グループにとって不要などということは決してない。でも、ケンはケンでありすぎるんだ」
という「意味深なコメント」を残していることを紹介しています。
また、久夛良木は、プレイステーションに、「コンピュータ・エンターテインメントを追求する機械」という「おぼろげな姿」を込めたが、「市場はそれをゲーム機と受け止めていた」と述べています。
第7章「ソニーから消えるセル」では、久夛良木が去った後のSCEについて、「新しいSCEと以前のSCEの違い」が、「一極集中から合議制へ」の「一言に集約される」と述べています。
また、2007年3月22日のアップデートで追加された、「米スタンフォード大学が主導で行なっている医療向けのタンパク質構造解析プロジェクト」である「Folding@Home」(F@H)について、「分散コンピューティング」という手法について、F@Hに参加している常時25万台のコンピュータのうち、PS3が占める割合は、約16%にすぎないが、「PS3が生み出す演算能力は、全体の80パーセントを占める」ことで、「セルの演算能力が、F@Hの処理速度を劇的に高めたのは、疑いようのない事実」であると述べています。
本書は、単なるゲームの開発ストーリーにとどまらず、イノベーションと組織について深く考えるきっかけを与えてくれる一冊です。
■ 個人的な視点から
個人的にはゲームをしないので、ソニーにも任天堂にも肩入れする気はないのですが、本書を読むと、プレステを所有したい気がしてきます。ゲーム機を入口に培われた技術が生活を変えていくことが楽しみです。
■ どんな人にオススメ?
・プレステは誰が創ったのかを知りたい人。
■ 関連しそうな本
麻倉 怜士 『久多良木健のプレステ革命』
多根 清史 『プレステ3はなぜ失敗したのか?』
浜村 弘一 『ゲーム産業で何が起こったか?』
前田 圭士 (著), 桝田 省治 (監修) 『ゲームデザイナーの仕事 プロが教えるゲーム制作の技術』
サイトウ アキヒロ, 小野 憲史 『ニンテンドーDSが売れる理由―ゲームニクスでインターフェースが変わる』
細川 敦 『なぜ大人がDSにハマルのか?』
■ 百夜百マンガ
二世モノ・続編モノ流行のなか、こういう荒唐無稽なストーリーのほうが、話が広げやすいのかも知れません。ロシア軍の北海道侵攻なんかは、人間だと生々しすぎて楽しめないのかもしれませんが、犬の話だとストーリーに入り込めるのかもしれません。
投稿者 tozaki : 2008年07月09日 23:00
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