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2008年08月05日
会計とコントロールの理論―契約理論に基づく会計学入門
■ 書籍情報
【会計とコントロールの理論―契約理論に基づく会計学入門】(#1293)
シャム サンダー (著), 山地 秀俊, 松本 祥尚, 鈴木 一水, 梶原 晃 (翻訳)
価格: ¥3150 (税込)
勁草書房(1998/04)
本書は、ほとんどの会計研究が、「狭く限定された領域での会計の特定の機能にのみ、集中して焦点を当てよう」としていることに対し、「会計の多様な機能を1つの一貫した構図の中に統合する」ことを試みた一冊です。
第1章「会計とコントロールの理論序説」では、組織における会計とコントロールを理解するために中心となる考え方として、
(1)あらゆる組織は、個人または個人からなる集団の間の契約の集合である。
(2)契約当事者間で共有された情報が蓄積されると、契約を設計して履行することが容易になる。
(3)組織におけるコントロールは、その組織に関係する個人や集団の利害間の持続的なバランスあるいは均衡である。それは組織のコントロールとは区別されなければならない。
の3点を挙げています。
著者は、会計理論を、「会計行為のあらゆる重要な側面を、ある統合された枠組みの中に包含しなければならない」と述べ、組織の契約モデルを、「このような単純ではあるが、包括的な枠組みを提供する」と述べています。
第2章「会計と企業の契約モデル」では、「会計を理解するためには、企業自体が理解されなければならない」として、会計の役割を分析するのに役立ちうる企業のモデルの起源として、バーリとミーンズ、コース、バーナード、サイモン、そしてサイアートとマーチの研究を挙げています。
そして、「会計を理解するために、企業を合理的なエイジェント間の契約の集合と見なすこともできる」として、「エイジェントが提供し受け取る資源の形態、量および時点は、エイジェント間の交渉の題材となる。ここでは、資源請求権、インセンティブ及び誘因という用語と、エイジェントが受け取るか受け取ると期待する資源に対して互換的に用いる」としています。
また、会計が、「企業を構成する契約を履行し強制するのに役立つ」として、企業を活動させるために、
(1)企業の資源プールに対する各エイジェントのインプットを測定する。
(2)各エイジェントの契約上の資源請求権を決定し、それを分配する。
(3)他のエイジェントがその契約上の義務を果たし、受け取った資源請求権がどのくらいであったかを、関連エイジェントに知らせる。
(4)契約上の地位や生産要素の保有者によって供給される生産要素のための市場の流動性を維持するのに役立つ。
(5)多様なエイジェント契約が定期的に再交渉されるので、監査済み情報についての共有知識のプールは、交渉と契約の成立を容易にするために、すべての関係者に対して提供される。
の5つの機能を遂行するとしています。
さらに、会計が、「公への開示という形を取る情報という共通の基盤を共有することによって、契約当事者間の情報の非対称性を減少させるためのいくつかの事前の約束を含む」として、「合衆国やその他の多くの国々の証券諸法は、公開企業による公的な開示を要求している」と述べています。
第3章「経営管理者の技能のための契約」では、経営管理者の特徴が、「会計とコントロールにおける彼等の役割を理解するための基礎となる」として、
(1)経営管理者の富は人的資本の形態をとり、企業に対する経営管理者のサービスはこの資本ストックから流出する。
(2)経営管理者のサービスのフローの質と量の測定は困難であり、この困難性は経営管理層のレベルが高くなるほど大きくなる。
(3)経営管理者は他のエイジェントと絶えず接触しており、しかも同時に2つ以上の競合する企業または組織のために経営管理者の資格で働くことは認められていない。
の3点を挙げています。
そして、経営管理者が、「他のエイジェントともに、計画し、調整し、再交渉し、実行し、そして予想外の事象が生じたときには、計画の再調整を行う」と述べ、「経営者は、その調整という役割のために、企業の運営上の構造の中心に位置する」と解説しています。
第4章「経営者と会計意思決定」では、企業の経営者が、「組織形態によって定義される境界の枠内」で、「会計とコントロールの詳細を具体化する」として、「経営者は自分の選択が他のエイジェントに与える影響を考慮しなければならない」と述べています。
また、「予算編成やその他の意思決定におけるあらゆる参加」には、
(1)より多くの情報を提供された状態で意思決定が行われるという形で具現することによる、参加者から収集された情報の価値。
(2)参加者が共有しても良い情報の選択を通じて、参加者に好ましい意思決定が行われにくくなること。
との間のトレード・オフが見られると述べています。
第5章「利益とその操作」では、「企業の様々なエイジェントの生ずるあらゆる利益のうち、株主に生ずる利益に固有のもの」として、
(1)株主は、他のすべてのエイジェントの資源請求権が支払われるか、あるいは解消された後に残った資源を請求する権利を有している。
(2)株主以外のすべてのエイジェントの資源請求権は、契約上の詳細な条件に従って移転される。
(3)株主資本に対する利益は、他の生産要素に対する利益ほど正確かつ確実には測定することができない。
の3点を挙げています。
そして、「会計利益は株主資本のコストを控除しないで測定される」ことについて、「非割引会計利益保存の法則」と述べるとともに、「残余利益を産出することは、株主資本の帳簿価格に基づく資本コストを会計利益から控除することによって、容易に割引計算の形に修正できる」ことを、「割引残余利益保存の法則」と解説しています。
また、利益操作の手段として、
(1)取引の裁量的会計処理
(2)会計原則の選択
(3)会計上の見積の調整
(4)移転価格
(5)実際の経済的意思決定
の5点を挙げています。
第6章「投資家と会計」では、「株主の側から企業活動へ積極的に参加しないことや、その相対的な理解不足は、ほとんど必然的である」として、「大半の部主は、経営者や他のエイジェントの業績を個人的に監視するために、時間や努力を費やしたくない」ため、「企業間の投資ポートフォリオを多様化すること、個人的努力の節約、投資に関する専門知識の必要性から解放されることで得られる相当の利得と、企業の直接的コントロール権の喪失とを交換することになる」と解説しています。
また、債権者は、「企業に対して永久的に資本参加することはない。期間、安全性、そして分散が、債務者の会計とコントロールへの関与を規定する債権者の3つの特質である」と述べています。
さらに、投資家が「企業の会計意思決定に影響を与える」段階として、
(1)企業の設立
(2)資本市場での取引
(3)決議案への投票
(4)社会政治制度を通して
の4点を挙げています。
著者は、「エイジェントの一集団として、投資家は企業において特別の地位を占めている」として、「彼らは企業に対して資源を事前委託し、企業からの資源の分け前に授かるまでに、比較的長期、ひいては無期限の期間が経過することに同意する」と解説しています。
第7章「会計と株式市場」では、「株式の市場価値は、将来の配当(それともキャッシュ・フローないしは利益)の水準とその不確実性に対する投資家の期待に由来する。ここの取引者の期待が市場機構によって集約される。市場の価値は、将来の配当についての投資家個人の信念と、他の投資家の信念に対する信念に依存する」と述べた上で、
(1)会計は将来予測に投入される重要なインプットとして役立つ時系列の財務報告を提供する。
(2)将来の配当は、一企業の現在の物的資源と、その契約及びその契約が富を生み出すためにどれほど有効に利用されるか、ということに依存する。
(3)企業の物的資源を保全することは重要ではあるが、将来の配当を生み出すことにとっては全く十分とは言えない。
(4)企業の契約集合は、エイジェント間に相互依存関係を引き起こす。
(5)各階系システムはまた、劣った経営者と優れた経営者とをいかに有効に区別するか、に関しても差がある。
の5点を挙げています。
第8章「監査人と企業」では、「監査人の企業に対する最大の寄与は、企業のシステムの検証にある」としたうえで、「監査報酬は監査人と取締役会の非経営取締役による委員会との間で、つまり会計システムの外で交渉される」と解説しています。
また、監査人を雇う上での障害として、
(1)エイジェンシー・コストの削減幅が、監査人にその業務を実施させるのに必要な報酬と、少なくとも同程度でなければならない。
(2)2人のエイジェンシー関係への第3のエイジェントの参入は、最初の2人の間の関係に変更をもたらすのみならず、2つの新たな関係を生じさせ、以前には存在しなかった付随エイジェンシー・コストを生じさせる。
の2点を挙げています。
さらに、「監査手続きの標準化は、業務の品質の相互監視と監査人を訓練するコストを節約する」一方で、「一定のリスクと追加的コストをもたらす」として、
(1)標準化された手続きになれた監査人が、不正及び隠蔽の革新的手法を識別する可能性は少ない。
(2)標準化された実務を、変動する環境と技術に合うように調整することはより高くつく。
の2点を挙げています。
第9章「コンベンションと分類」では、「会計には特別な辞書がある」として、会計関係者自身も、
・コンベンション(convention)
・公準(postulate)
・原則(principle)
・主義(doctrine)
という概念について「統一した見解を有していない」と述べています。
そして、コンベンションについて、「2人あるいはそれ以上の人々の間でのゲームの調整手段である」とか移設しています。
また、「会計行為の期間性の多くは2つの理由から生じる」として、
(1)固定資産を利用すること
(2)定期的報告書を作成するために会計帳簿を日々記録紙、締め切り、要約し、監査するための固定費があるということ
の2点を挙げています。
第10章「意思決定の基準と機構」では、「社会的に望ましい意思決定を定義」するための基本的なアプローチとして、
(1)パレート基準
(2)社会的費用-便益基準
の2点を挙げています。
第11章「会計の標準化」では、エディとバクスターによる会計基準の類型として、
(1)開示や会計方針の説明のための基準
(2)財務諸表の様式や表示の統一のための基準
(3)特定の事実や不確実性の開示のための基準
(4)会計測定のための基準
の4類型を挙げています。
また、社会的な選択機構を、
(1)慣習法
(2)市場
(3)国民投票
(4)立法
(5)裁判
(6)官僚制
の6つの範疇に分類しています。
著者は、会計規則や基準を、「さまざまなエイジェントに対して他者が期待するように行動するよう誘うインセンティブとして理解できる」と述べ、「基準の設定と実施の利点をそれらが社会に課すコストや他の既決と比較考量する必要がある」と解説しています。
第12章「政府、法そして会計」では、政府が、「少なくとも1つ、あるいはそれより多くの契約上の地位を企業の中で占める」とした上で、「税金の徴収はこれらの役割の中で、最もよく知られており、最も嫌がられているものである」と述べています。
そして、「たいていの企業では、政府は、徴税者、顧客、販売者といった主要な契約エイジェントとしての役割を果たしている」とした上で、「こうした役割では、政府が企業の会計とコントロールの設計に重要な影響を与えている」と述べています。
第13章「公共財組織の会計」では、「個人や他の組織が持分請求権を有する組織のことを営利的な、商業的なあるいは公開企業と呼ぶ」と述べ、持分請求権を取り引きする権利は、株主の権利に含まれると述べた上で、営利企業の特徴である「残余利益請求権の存在と、それらを有する株主からの残余利益請求権の譲渡可能性」に対して、「譲渡可能な残余利益請求権」を有しない「無残余利益請求権組織(NRIO: Non-Residual Interest Organization)」を取り上げています。
また、「勘定を基金と呼ばれるいくつかのクラスに分けることは、NRIOの会計とコントロールの特徴である」として、「各基金はその組織の業務規定に含まれた特定の公共財やサービスと関連している」と解説しています。
著者は、「公共財を生産する組織あるいは自然独占の状態でして機材を生産する組織のコントロールに必要なものは、競争的な条件のもとで私的材を生産・販売する組織のそれとは根本的に異なる」と述べています。
本書は、「会計」についてのより深い理解へのきっかけを与えてくれる一冊です。
■ 個人的な視点から
「会計学」というと、ひたすらルールを暗記し、瑣末な解釈についてあれこれ議論を積み重ねるという点で、経済学部にあって法学部的な分野という先入観を持つ人が少なくないんじゃないかと勝手に想像しますが、会計がどのような機能をもっているか、という観点から分析すると、これほどエキサイティングな分野はないのかもしれません。
問題は、この本を教科書にしてくれる大学(科目)がどこにあるのか、ということでしょうか。
■ どんな人にオススメ?
・会計学は解釈ばかりでつまらないと思う人。
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■ 百夜百マンガ
同じ作者の『BB』の続編という位置づけですが、青春スポーツ路線から、裏社会~傭兵へと「暴走」(もちろん漫画的醍醐味としては素晴らしい)していった『BB』に比べて正統派ともいえる展開だったのではないかと思います。
投稿者 tozaki : 2008年08月05日 21:00
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