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2008年08月29日
こんなに使える経済学―肥満から出世まで
■ 書籍情報
【こんなに使える経済学―肥満から出世まで】(#1317)
大竹 文雄 (編さん)
価格: ¥714 (税込)
筑摩書房(2008/01)
本書は、「現実のさまざまな社会問題を経済学の視点で一般の人にもわかるような記述方法で、紹介したもの」です。「経済学」に対する普通の人のイメージである、
・お金の儲け方を研究している。
・株価や景気の将来予測をしている。
などについて、「現実の経済とあまり関係なさそうな印象」があり、社会では、「経済学は役に立たない」と思われていることについて、「これは入門レベルの経済学の教育の仕方が悪かったのであって、経済学に責任があるわけではない」と述べた上で、「経済学の本質的な面白さは、社会の仕組みを考えることで、どうしたら人々が豊かになるかを考えること」だと述べています。
そして、経済学は、「制度設計や政策をけってしなければならない時に、無視をしてはいけないポイントを教えてくれて、大きな間違いを防いでくれるという意味で役に立つ」と述べています。
第1章「なぜあなたは太り、あの人はやせるのか」では、「肥満ややせ」が、「医学の問題として取り上げられるが、実は経済学の問題でもある」として、経済学では、「食べるのにかかるコスト(値段や時間)を、食べて得られる満足感から差し引いて考える必要」があり、「健康や容姿への悪影響といった肥満の不利益を、今のうちにどれだけ避けたいか」という「選好要因」も加わるとした上で、経済学では、「将来の1円を現在の1円に比べてどの程度割り引くか」を表す「時間割引率」で「せっかちさ」を図るが、「この値が高い、せっかちな人ほど、目先の満足感に対し肥満による将来の不利益を軽視するため、肥満度が上がるはず」だと述べ、実証調査でも裏付けられていると述べています。
また、「たばこを吸う人は不幸である」として、その不幸の大きさは、「驚くべきことに年収がざっと200万円減ったのと同じくらいになる」と述べ、このような「中毒財」と「中学生の時、夏休みの宿題をいつごろやりましたか」という「後回し行動の程度」の間に、正の相関があると述べています。
第2章「教師の質はなぜ低下したのか」では、教師の質の低下の原因として、「労働市場における男女平等の進展」を挙げ、労働市場に男女差別が根強く存在し、「一般のビジネスの世界では、女性は活躍できなかった」ため、「学業に優れた大卒女性は、教職についた」が、「男女差別が解消されてくると、優秀な女性は教師よりも給与が高い仕事、より魅力的な職種を選べるようになり、昔に比べて教師になる人は少なくなった」と解説しています。
第3章「セット販売商品はお買い得か」では、「企業の限界費用(商品の生産を1個増やすのにかかるコスト)が非常に小さく、多く売るほど儲かるようなものの場合、バンドリングする商品を増やすほど企業が有利になる」として、「商品の数を増やせば増やすほど、消費者の支払い意思額のバラツキは収束し、平均に近づく」と述べています。
また、「事故の利得を多少なりとも犠牲にして相手をさらに痛めつける『いじわる行動』」についての実験では、日本と上海、日米の比較では、「日本の被験者の方が『いじわる』であることを観測」したと述べ、「日本の多くの被験者はただ乗りをして相手に公共財を作らせようとするのだが、参加した被験者は、不参加者がいることを知ると、たとえ自己の利得が犠牲になろうとも、公共財の供給を控えようとする」ため、「相手はただ乗りの利得を得られない」が、「同じ実験を何度も繰り返す」と、「日本のほうがより多くの公共財を供給することになる」と述べ、「その背後には、『参加しなければ足を引っ張られる』という恐怖心が作用しているのかもしれない」と解説し、「従来の理論ではうまく説明できないアノマリー(変則)が数多く存在する」ことを指摘しています。
さらに、人間が、「自由意志に基づいて『いつ生むか』を選択している」かどうかについて、「できちゃった結婚」で生まれた赤ちゃんと、そうでない結婚で生まれた赤ちゃんを比較し、「結婚から子供を作るまでに十分時間のある親は、年度末の3月ではなく、4月か5月を『選んで』子供を生んでいる、もしくは1月ではなく年末の12月を『選んで』いる」と述べ、12月生まれが多い理由として「扶養控除」を、4月生まれが多い理由として、3月生まれと4月生まれでは、「同じ学年なのにほぼ1年の成長の差が出てしまう」という「相対年齢効果」への親の配慮を挙げています。
第4章「銀行はなぜ担保を取るのか」では、日本人が、「貯蓄好き(質素)」だといわれる主張について、「日本の家計貯蓄率は60~80年代半ばに限って15%を超えていただけで、日本人は必ずしも貯蓄好きとはいえない」と述べ、日本の貯蓄率の主たる決定要因として、「人口の年齢構成」を挙げています。
また、銀行が融資に際して、担保を取る理由として、借り手と貸し手の間との「情報の非対称性」を挙げ、「情報の非対称性により、企業が本来の目的であるプロジェクトの収益最大化を怠る」ような「モラルハザード」を避けるため、担保を取ることで、「企業が借入金の一部を着服する誘引」を削ごうとする契約形態であると述べ、「このように個別の誘引と全体の効率性向上が一致する状況を、経済学では『誘引両立的(incentive compatible)』と呼ぶ」と解説しています。
そして、グラミン銀行が無担保融資を行える理由として、貧しい村に拠点を作って借り手を発掘することで「情報の非対称性を最小化している」こと、「借り手の村人にグループを組ませ」、「村人同士が連帯責任を負えるだけの信用能力の高い相手を選ぶ『相互選抜』のメカニズムを働かせる」ことを挙げています。
第5章「お金の節約が効率を悪化させる」では、「景気が悪くなると、公共事業を増やして景気を刺激すべきという主張が出てくる」が、「不況下の公共事業の意味はできた物の価値だけなのに、国民所得にそれ以上の波及効果があると信じられ、その大小が問題にされる理由」として、「失業手当は国内総生産に計上されないが、公共事業費なら計上される」という、「国民経済計算の意味が正しく理解されていない」ことを挙げ、「乗数効果を根拠に不況時に何でもいいからたくさん公共事業をやればいい、というのは誤りである」と述べ、「経済学は、公共事業によるバラマキを肯定はしないし、すべてが無駄だと切り捨ててもいない。乗数効果への幻想を乗り越え、公共事業の是非は金額や波及効果ではなく、できた物やサービスの中身で判断すべきというごく当たり前の結論をしてしている」と述べています。
第6章「解雇規制は労働者を守ったのか」では、奈良県で話題になった「騒音おばさん」のケースを挙げ、「同じ問題を解決するのに、加害者がお金を支払う場合と被害者がお金を支払う場合が存在する」と述べ、その理由として、「事前に法的権利が確定していて、人々がコストなしに自由に交渉することができ、その取り決めをきちんと執行させることができれば、損害賠償に依存しなくてもパレート改善が達成できる」ことを示した「コースの定理」を挙げ、「コースの定理の面白さは、感情論に縛られず、最終目標を達成する方法を、私たちに考えさせてくれること」だと述べています。
また、「既存正社員の解雇規制という既得権の強化」が、「既得権を持たない労働者の不安定雇用を増加させる」ことを実証データで示した上で、「労働者を代表する人々にも経済学が突きつけるシビアな現実から目をそらさず、解雇の柔軟性をどこまで認めるべきなのか、真剣に考えて欲しい」と述べています。
本書は、誤解されがちな経済学のイメージを、身近の事例を取り上げながら変えてくれる一冊です。
■ 個人的な視点から
本書の執筆陣は、大阪大学社会経済研究所関係者となっていますが、同じ経済学者でもそれぞれ拠って立つ学術的立場の違いを反映して、相互に矛盾しているというわけではないですが、トーンというかニュアンスの違いが出ていて面白いです。
■ どんな人にオススメ?
・経済学はお金儲けを学ぶことだと思う人。
■ 関連しそうな本
大竹 文雄 『経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには』 2006年09月04日
ゲーリー・S. ベッカー, リチャード・A. ポズナー (著), 鞍谷 雅敏, 遠藤 幸彦 (翻訳) 『ベッカー教授、ポズナー判事のブログで学ぶ経済学』 2007年02月05日
スティーヴン・D・レヴィット/スティーヴン・J・ダブナー (著), 望月衛 (翻訳) 『ヤバい経済学』 2008年02月13日
佐藤 雅彦, 竹中 平蔵 『経済ってそういうことだったのか会議』 2005年06月26日
ティム・ハーフォード (著), 遠藤 真美 (翻訳) 『まっとうな経済学』 2008年02月15日
ロス・M・ミラー (著), 川越 敏司 (監訳), 望月 衛 (翻訳) 『実験経済学入門~完璧な金融市場への挑戦』 2007年01月17日
■ 百夜百マンガ
テレビのまねをした中学生が亡くなった事故か何かで、一時の早食いフードファイターブームは自粛されましたが、大食いタレントは相変わらずで、中には食べた皿の数を多くごまかす人も出てきたようです。普通なら少なめにごまかすものですが。
投稿者 tozaki : 2008年08月29日 07:00
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【喰いしん坊! 】