« ヤクザに学ぶ組織論 | メイン | 「小さな政府」の落とし穴―痛みなき財政再建路線は危険だ »

2008年12月12日

官製ワーキングプアを生んだ公共サービス「改革」

■ 書籍情報

官製ワーキングプアを生んだ公共サービス「改革」   【官製ワーキングプアを生んだ公共サービス「改革」】(#1422)

  城塚 健之
  価格: ¥1995 (税込)
  自治体研究社(2008/08)

 本書は、「格差と貧困の問題をさらに深刻にするだけでなく、公共サービスの質にも影響を及ぼす」、「官製ワーキングプア」が大量に生み出されている状況を促進している、自治体構造改革、公務員制度改革、公務の市場化の進行の理由と、その問題を論じたものです。
 第1章「構造改革の柱としての『小さな政府』」では、「構造改革」を、「この国を多国籍企業奉仕型に変えていくために、政治経済をはじめとする国家社会のあらゆる仕組みをつくりかえていこうというもの」だと定義し、その根底に「新自由主義(ネオリベラリズム)」というイデオロギーがあることが、広く認識されるようになったと述べています。
 そして、わが国における新自由主義が、「開発主義国家」にて期待し、「小泉元首相が『ぶっつぶす』と叫んだ古い自民党」がこの象徴だと述べています。
 また、「地方分権」について、「その事務事業の実施リスクを自治体に押し付けるものであり、国のアウトソーシングに他ならない」と述べています。
 第2章「進行する公務の民間化」では、「小さな政府」かを進める様々な方策である、「ニューパブリックマネジメント」(New Public Management)について、「何か理論的にしっかりしたものがあるわけでもなさそう」で、「行政のコスト削減につながりそうなものを何でもかんでもひっくるめて、NPMと呼んでいるよう」だとし、「行政を民間企業と同様の経営主体とみなし、人件費などのコスト削減を第一の目標におく考え方・イデオロギーという理解でいい」と述べています。
 第3章「内部的民間化としての公務員制度改革」では、公務員制度改革の内容を、「一貫した『小さな政府』使用の公務員制度」だとして、2007年改正国公法が、
(1)能力実績主義の導入
(2)天下り自由化
の二本柱であると述べています。
 そして、「NPMに基づき行政組織のあり方それ自体を変えていくもの」として、
(1)行政評価、財政の枠予算化
(2)事務事業の集中化
などについて論じています。
 第4章「実施部門の外部化(公務の市場化)」では、財界が、公務の自由化を「金儲けの手段にしようと狙って」いるとして、、特に自治体が、「余剰資本の投下先」として、「市場規模が大きいということで魅力的」だと狙われていると述べています。
 そして、企業が参入したがる分野として、
(1)初期投資の要らない安全な参入分野
(2)PFIと結合させて施設設計・建設の段階から関与できれば大きな利潤が期待できる分野
の2つを挙げています。
 第5章「公務市場化の実際」では、2007年に自治労連が弁護団とともに実施した、
(1)愛知県高浜市
(2)京都府京丹後市
(3)広島県安芸高田市
の3つの自治体に対する実態調査の結果を紹介しています。
 そして、内閣府公共サービス改革推進室や総務省の解釈に、「偽装請負に限りなく接近して」くるなど、「多くの問題」があると指摘しています。
 また、「骨太2007」などを受けた独立行政法人の見直しによって、「独法の職員の賃金労働条件は悪化」していることを指摘しています。
 第6章「危機に立つ住民の権利」では、保育所の民営化に関して、「民間に委ねれば安上がりというのは、公務員の保育士よりも民間の保育しの方が人件費が安いということ」に他ならず、「安値競争が続けば、現場は疲弊していき、従前の保育の質が維持」できないと述べています。
 また、学校給食の民営化の帰結として、「1980年代の民営化をきっかけに急坂を転がるように質が落ち」、ファストフード形のメニューが主流となったイギリスの学校給食のショッキングな実態を紹介しています。
 第7章「公務市場化と労働者の権利」では、公務のアウトソーシングの結果、「受託企業では、パート、アルバイト、契約社員、派遣労働者といった有期・非典型・不安定雇用労働者が中心的な担い手となるでしょう」と述べ、「これらは、行政がみずからワーキングプアをつくり出すと言うことで、『官製ワーキングプア』と呼ばれて」いるとしています。
 そして、一部の自治体やNPOなどで使われている「有償ボランティア」が、「就労実態は非常に劣悪で、『官製ワーキングプア』と呼ぶべきケースが多いと思われます」と述べています。
 著者は、「公務が官製ワーキングプアによって担われていけば、これまで蓄積されてきた公務の専門性を維持することは困難」となると指摘しています。
 第8章「公務市場化への対抗軸」では、公務の市場化の弊害として、
(1)人権保障機能の低下
(2)民主的コントロールの低下
(3)労働権(労働者の権利)の軽視
の3点を挙げた上で、「公務の公共性」をどのように守っていくのかを、「住民がみずからの課題として考えることが必要」とした上で、「PPP(Public Private Partnership;公私協働)というお題目」は、「NPMのコロラリーであり、だいたい上から持ち込まれるもので、アウトソーシングを正当化するための方便に過ぎません。そこには民主主義の契機もなく、単なる自治体の責任放棄でしかない場合が多い」と述べています。
 第9章「どう運動を広げていくか」では、「公務の市場化の問題を考えていくと、今日の資本主義の最も根本的な部分を対峙することは避けられません」とした上で、「わが国では知識人躁が新自由主義にあまりにも無警戒で、官僚制度を打破すればバラ色の未来が広がるかのような幻想を抱いて、新自由主義に合流したり、利用されたりという事態が生じました」と述べています。
 本書は、公務の民間化に著者の鋭い視点で切り込んだ一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書が、迷いのない切れ味というかすっきりとしているのは、独善的というか、著者のイデオロギーに基づいて一刀両断というか問答無用に断じているところがあるからではないかと思います。
 話の内容が間違っているとかではなく、聞く耳持たない話の進め方に感じたので、この議論に入っていくのは疲れそうです。
 よく講演会などで、質問と称してそれまでの文脈に関係なく自説を長々と披露する人もいますが、イデオロギーの議論をそういうところで始めてしまうときりがないので、講師や司会者の仕切り方が問われる場面ではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・「公務」は神聖にして侵すべからずと思う人。


■ 関連しそうな本

 布施 哲也 『官製ワーキングプア―自治体の非正規雇用と民間委託』
 NPO法人地方自立政策研究所役割分担明確化研究会 (著), 穂坂 邦夫 『地方自治自立へのシナリオ―国と地方を救う「役割分担明確化」の視点』
 穂坂 邦夫 『自治体再生への挑戦―「健全化」への処方箋』
 上山 信一, 桧森 隆一 『行政の解体と再生』
 上山 信一, 大阪市役所 『行政の経営分析―大阪市の挑戦』
 鎌田 慧 『自律と協働、はたらきがいをもとめて―大阪市現業労働者の60年』 2006年01月18日


■ 百夜百マンガ

まあじゃんほうろうき【まあじゃんほうろうき 】

 名作ギャンブル漫画。強い者同志のバトルも緊張感がありますが、本当にハラハラするのは、ルールも知らないのにプロ雀士と卓を囲んでしまう素人でしょうか。


投稿者 tozaki : 2008年12月12日 06:00

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.pm-forum.org/MT3/mt-tb.cgi/1950

コメント

コメントしてください




保存しますか?