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2009年01月07日

地域医療を守れ―「わかしおネットワーク」からの提案

■ 書籍情報

地域医療を守れ―「わかしおネットワーク」からの提案   【地域医療を守れ―「わかしおネットワーク」からの提案】(#1448)

  平井 愛山, 秋山 美紀
  価格: ¥2310 (税込)
  岩波書店(2008/01)

 本書は、千葉県立東金病院を舞台に、「地域医療をつくるプレーヤーは、医療者だけではない。住民も行政もみな一人ひとりが大切なプレーヤーだ。自らの問題として現実を受け止め、知恵を絞り、自らは何ができるのかを考える。地域が自前で解決していく力を育てる必要がある」という思いを伝えることを目的としたものです。著者は、「千葉県山武地域で起きていることは、今、日本のあちこちで起きている問題である」として、「地域医療が直面している危機的状況に対して、医療の担い手、行政、住民はどう考え、どう動いていけばよいのか、本署が紹介する取り組みが、皆さんの地域での問題解決の一助となることを願っている」と語っています。
 第1章「病院から医師がいなくなる」では、「3つの公立病院と、4カ所の民間病院、90あまりの診療所が地域の医療を担ってきた」千葉県山武地域で、2004年に入って、「医師不足に追い討ちをかけるように、病院から医師が次々と辞めていき、地域医療の崩壊が始まった」と述べ、2996年9月下旬には、東金病院の内科医は平井院長を含めて「たった二人の体制」になり、「診療は連日深夜まで続き、そのまま当直をして入院患者を診て、次の日も朝から診療に当たるしかなかった」として、平井は、「野戦病院のようだった。本当にしんどくて、何度も逃げ出したいと思った」と語っています。
 そして、「当直をした翌日も、外来患者や入院患者の診察など、日常業務に当たる」という現状が、「全国の救急医療の現場では、決してめずらしいことではない」として、社団法人日本病院会の調査で、医師不足の要因としても、「苛酷な労働環境」と答えた人が61.0%で最も多かったことを紹介し、「このようなことが許されている」理由として、「医師の当直は、労働基準法とその施行規則では労働時間としてカウントされない」ことを挙げ、法規上の当直は、「常態としてほとんど労働する必要がない勤務」と定義されていることと、「わずかな仮眠しか取れずに働き通しの実態とは乖離している」ことを指摘しています。
 また、「2004年からの新医師臨床研修制度の導入を契機として、わが国に戦後から存続してきた医局制度のもとでの医師教育が崩壊し、医師供給システムが大きく変わった」として、この大改革が、「歴史にたとえれば、幕末から明治への大きな時代の変化に匹敵する」と述べています。
 第2章「医師不足」では、「これまで大学の医局が地域への医師派遣を調整する機能を担ってきた」が、2004年からの新医師臨床研修制度をきっかけに、「これまで毎年一定数であった医局の入局者が激減し、各地の大学病院では2年間ゼロになってしまう医局も出てきた」ため、「大学病院では病棟勤務を始めとする大学病院の診療を支える医師の確保が困難」になり、「人手不足となった大学病院の医師確保のために、関連病院へ派遣した医師を引き上げはじめた」ことが医師引き上げの「第一波」であり、さらに、「各地で2年間の初期臨床研修を終えた研修医の多くは、大学関係者の予想を裏切り大学の医局には戻って」こず、「引き続き後期研修についても、大学以外の研修病院でレジデント医として研修することを選択」したため、「大学病院の日々の診療を維持していくためには、派遣先の病院からさらに多くの医師を引き上げなければならなくなった」この「引き上げ第二派」が、「山武地区を含む全国各地の医療に大きな打撃を与えた」と解説しています。
 そして、「これからは『病院で』、『地域で』医師を育てる時代になったことを自覚し、臨床研修病院として教育機能を充実させることが、地域中核病院として生き残る必須用件だ」として、平井は、「地域として教育能力を上げ、キャリアパス(仕事と人生の将来設計)を提供していくことが地域医療再生のカギとなる」と語っています。
 また、平井が、「新医師臨床研修制度は医師引き上げのきっかけではあったものの、そもそも今日の医療崩壊の新の原因だとは思っていない。日本の医療を取り巻く制度や社会にあった歪みが、これまで長い間にわたって増大し、すでに崩壊寸前の臨界点に達していたと考えている」ことを紹介した上で、「破綻した自治体病院の過程を見ていくことで、今日の医療崩壊を招いた問題の本質が見えてくる」として、舞鶴市民病院、阿賀野市立水原郷病院、江別市立病院・市立敦賀病院など、「全国で相次いだ自治体病院の崩壊過程」を挙げ、「医師の大量辞職の背景には、医療現場と行政、そして住民の間の医療に対する意識のギャップが指摘できる」と指摘しています。
 さらに、「病院の医師不足、医療崩壊の本質」として、「地域医療の最前線で、苛酷な労働環境の下で、ぎりぎりの人数で業務をこなし、何とかして地域医療を支えてきた、特に中堅クラスの病院勤務医の心の支えがぽっきりと折れたこと」を挙げ、「その根底には、地域住民と医師の間のコミュニケーションの断絶があった」と述べています。
 第3章「『点』から『面』へ」では、10年前に平井が東金病院に赴任した当時、「すっかり時代に取り残されたような病院だった。地域に閉ざされた病院で、診療技術も遅れていて、チーム医療と呼べるものはなく、サービスなんてあったもんじゃなかった」だけでなく、「職員のための病院になってしまっていてそこには住民貢献の視点も医療向上の視点もなかった。もちろん学術的なことはゼロ」だったと語っています。
 さらに、「平井が東金病院に着任してから知ったショッキングな事実」として、「山武地域は千葉県下で医療費も最低だが、平均寿命も最低ということ」を挙げ、特に「糖尿病が悪化し下肢を切断する『糖尿病性壊疽』の割合が全国平均の5倍にも上る」ことについて、「こんなひどい状態まで放置されている人がいるのか!」という「千葉大では見たこともないようなひどい状態の患者が次々やってくる」ことが、「後に地域ぐるみで糖尿病の治療に力を入れて取り組むきっかけとなった」と述べています。
 そして、「生活習慣病などの患者は診療所に多く、大きな病院だけでは治験が停滞し、よい新薬を早く患者の元へ届けることが難しい」が、「山武郡市医師会と山武郡市薬剤師会が全面的にバックアップすることで、多くの被験者を必要とする治験に地域として取り組むことが可能に」なり、後に、地域医療ネットワーク「わかしおネットワーク」へと発展することになったと述べています。
 また、2001年11月から実証実験が始まった「わかしおネットワーク」が、
(1)地域共有電子カルテを中核とした病診連携システム
(2)病院、診療所、保健調剤薬局を電子カルテで結ぶオンライン服薬指導システム
(3)生活習慣病の診療ガイドラインのオンライン配信を軸とする診療支援システム
(4)インスリン自己注射患者の自己血糖値測定結果のオンライン共有を軸とする在宅糖尿病患者支援システム
(5)被験者匿名化により個人情報を保護する遺伝子診療システム
の5つのシステムから構成されると解説した上得、医師同士だけでなく、「保健調剤薬局や保健所、訪問介護ステーションまでが、一つのネットワークに参加し、日常的に治療において情報共有してきたケースは全国的にも例がない」と述べています。
 第4章「地域で医師を育てる」では、全国でもあまり例のない「病院群方式」の臨床研修プログラムについて、「研修医が1~数カ月ごとに各病院をローテーションで回ることにより、一つの病院では学べない高度専門医療や地域医療をバランスよく学べる」として、「この臨床研修プログラムには、内科、リハビリ医療、外科、救急、小児科、産婦人科、精神科、地域医療、地域保健といった科目があり、これらを8つの病院で分担して受け持つ」と解説しています。
 また、千葉県の状況について、平井が講演などで、「千葉県には房総半島を縦断する医師育成の分水嶺がある」と説明しているとして、千葉市以東で初期臨床研修を行っている病院は3ヵ所しかなく、県北東部の旭中央病院と、南房総の亀田総合病院の「二つの大規模病院の間の空白地帯にポツンと一ヵ所ある小さな臨床研修病院が、県立東金病院だ」と述べています。
 そして、「充実した医師研修に魅力を感じた若手医師が、東金病院に集まりはじめた」として、東金病院に移ってきた医師が、「この地域は地域医療連携に先進的に取り組んでおり、患者さんを地域で診ていくという取り組みを全国に先駆けてやっている。全国的にも先駆けであまり例がないので、ぜひここで経験を積みたいと思ってやってきた」と語っていることを紹介しています。
 第5章「医師が来てくれる地域をつくる」では、2007年4月から、「東金病院とNPO法人『地域医療を育てる会』が一緒になって」始めた「医師育成サポーター制度」について、活動の中心となっている東金市内の主婦、藤本晴枝が、「若い医師が『ここにいたい』と思う地域をつくるために、住民に何かできないかと考えたときに、コミュニケーション研修のサポーター制度を思いついた」と述べています。
 また、藤本が、千葉県の病院分布の資料を見て、「初期研修を受ける研修医がいる千葉県内の病院を示した地図」と、「各種学会の教育病院、あるいは教育関連病院の認定を受けた病院」の一覧が、「頭の中でぴたりと一致することに気づき」、「この地域の病院が、学会の教育病院あるいは教育関連病院の認定を受ければ、資格を取りたい和解医師が集まってくるかもしれない」という情報を、「ぜひ地元の人々に広く知らせたい」と思い、平井院長に相談したことをきっかけに、「東金病院で働いてみようかと考えている医師が奄美大島にいる」ということで、奄美に飛んだことが紹介されています。
 そして、奄美でインタビューした古垣斉拡医師が、「若手医師の多くが市中の一般病院で実際の診療経験を積み、専門医になりたい傾向」があり、「そのために若手医師に選ばれる病院とは、『そこで働くことで、自分のキャリアが上がるところ』、つまり学会の認定医・専門医といった資格を取ることができる病院である」上に、若手医師が、職場選びのために、「積極的に病院を見学」し、医師同士で自分の体験をインターネットで伝え合っていると語っていることを紹介しています。
 第6章「政争に翻弄されるな」では、2006年3月27日に合併によって登場した山武(さんむ)市の市長選の最大の争点が、「仮称『山武地域医療センター』の建設計画をめぐる地域医療の問題だった」と述べたうえで、2004年度の地方公営企業法の全部適用などで、「県立病院全体としては経営に対して以前よりは機動的・積極的な取り組みができるようになったとはいえ、各病院の院長には職員人事や給与についての裁量権はない」ため、「医療の責任者でありながら経営権限のない院長として、病院の現場と県上層部との板ばさみに苦悩することもあった」と述べています。
 そして、「地域医療をめぐって紛争している他地域の事例を学ぶ中で、さまざまな課題が見えてきた」として、それを教えてくれた、インターネット上のオピニオンリーダーとして、城西大学経営学部准教授の伊関友伸氏のサイトなどを挙げた上で、2007年3月3日には伊関氏を招いての講演会を開催し、「地域住民、行政関係者、地域を越えた医療関係者ら220人』が集まり、病院を新築する場合には、「地域において必要とされる医療を明確にすること、病院建築のコストを最小限にすることが必要」であるとして、「吹き抜けロビーのある新築病院から医師がいなくなる」という法則があることや、「医師が来てくれるには、『寝られます』が一番効く」と語ったことなどを紹介しています。
 第7章「地域医療を再構築する」では、ある自治体病院で、「当直医師は一睡もできない状況が続いて」いて、「家族とクリスマスイブを過ごす約束も反故にしてまで病院から頼まれた2日連続の当直勤務中、深夜2時に救急でやってきた患者が『1ヵ月前から水虫が気になっていて、クリニックに行ったら夜間でもいいから病院にいくように言われた』といった」ことが引き金となって、この医師が「地域医療を支える虚しさから退職を決意した」ことを紹介しています。
 そして、平井が、2004年度に、総務省の地域情報化に関する検討会の住民サービスワーキンググループのメンバーを務め、「地域から湧き上がるエネルギーを有効に活用するための重要な要素」として、
・インセンティブ:「地域を変えたい、良くしたい」という強い医師、地域への愛情、やりがい、といった取り組むの発端になるもの。
・トラスト:インセンティブを共有する主体相互間の信頼関係。
・コネクター:地域の中の多様な主体、そして地域の中と外をつなぐ機能。
の3つの要素が浮かび上がってきたとして、「地域の発生かには不可欠な要素」であるこの3要素の頭文字をとって、「イトコ」の法則というと述べています。
 また、「地域に入り、地域を見て、地域を知る」ことが必要だと考える平井の発案で、「東金病院の生活習慣病療養指導室をはじめとする病院スタッフ」が、2004年の秋から「東金病院巡回市民講座」という手作りイベントを2ヶ月に1回程度開催していることを紹介し、声帯模写や物まねなど、糖尿病療養指導室の外口徳美室長の漫談が、この巡回講座の目玉プログラムになっていると述べています。
 終章「わが国の医療はどこへいく」では、「どこに住んでいても、誰でも、病気やけがをしたときには、必要な医療が安価に受けられる」という、「日本の医療の質は世界最高水準だという見方をされてきた」が、「アクセス、コスト、質の3つすべては選べない。国民が質の高い医療を求めるのであれば、医療機関へのアクセスを自制するか、あるいは医療費を増やすことを考えるべきだろう」と述べています。
 そして、山武地域の現在進行形の取り組みから浮かび上がった「地域医療を守るための処方箋」として、
(1)地域ぐるみの医師育成システムの構築
(2)地域医療システムの再構築
(3)住民参加型の医療システムの構築
の3点を挙げています。
 本書は、地域医療の崩壊を目の前にした必死の取り組みを描いた多くの示唆を与えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書には、元埼玉県職員で、現在は城西大学の教員の伊関さんが登場しますが、4年ほど前に伊関さんが千葉県の県立病院の話をヒアリングに千葉に来た際に、同席して話を聞く機会がありました。いまでは自治体病院問題の第一人者になっていて、先見性というか、視点の鋭さに感心するばかりです。


■ どんな人にオススメ?

・便利で安くて質のいい医療が受けられて当たり前だと思っている人。


■ 関連しそうな本

 平井 愛山 『千葉「わかしおネット」に学ぶ失敗しない地域医療連携―広域電子カルテとヒューマン・ネットワークが成功の鍵』
 村上 智彦 『村上スキーム 地域医療再生の方程式』
 伊関 友伸 『まちの病院がなくなる!?―地域医療の崩壊と再生』 2007年12月12日
 小松 秀樹 『医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か』 2008年01月08日 06:00
 永田 宏 『貧乏人は医者にかかるな!―医師不足が招く医療崩壊』 2008年04月09日
 杉元 順子 『自治体病院再生への挑戦―破綻寸前の苦悩の中で』 2008年05月26日


■ 百夜百マンガ

ダブル・フェイス【ダブル・フェイス 】

 表の顔は金融業に勤めていて、裏には別の顔、という設定は昔の『太郎』を彷彿とさせますが、この作品も入念な取材に基づいているのでしょうか。


投稿者 tozaki : 2009年01月07日 06:00

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