2008年06月14日

キャリアウーマン・ルールズ 仕事にフェロモン戦略は有効か?

■ 書籍情報

キャリアウーマン・ルールズ 仕事にフェロモン戦略は有効か?   【キャリアウーマン・ルールズ 仕事にフェロモン戦略は有効か?】(#1241)

  横江 公美
  価格: ¥1575 (税込)
  ベストセラーズ(2008/1/26)

 本書は、「新しいオンナの時代」を迎え、「すでに進化し第一線で活躍する素敵な女性の生態を分類し、進化のコツを探」るものです。
 第1章「オトコ社会で生き残る」では、「どの国でも、エリート女性は『オンナ』か『オトコ』に分類できる」として、いずれも「仕事の能力は超一級であり、一生懸命仕事をしていることは共通」だが、「アプローチ」の方法、「アピール」「パフォーマンス」など、「自己イメージの作り方が異なっている」と述べています。
 そして、ション所が、「好感度と手柄の配分力をキーワードに、本音ベースのオンナが出世する条件を探っていきたい」としています。
 著者は、「最後まで勝ち残っているオンナ・タイプ」が、
(1)「オンナ」との付き合い方
(2)自分の「フェロモン」
の2つの壁を超えているとして、「外のオンナと自分のオンナ(フェロモン)をうまく操ることが、オンナ・タイプが、生き残れるかどうかのカギ」であると述べています。
 一方、「仕事に関しては『絶対的平等』を目指しがち」なオトコ・タイプについても、
(1)頑張りすぎのコントロール
(2)上司との関係
の超えるべき2つの壁を挙げ、オンナ・タイプに比べると、要領が悪く、「下積みが長くなる」が、「本当に生き残ると強い。管理職としての能力がそれまでの仕事で身についているからだ」と述べています。
 また、「飛びぬけて出世した女性」に共通する点として、
(1)主業務に関する能力
(2)誰からも好かれていること
(3)職階があがればあがるほど、必要となる手柄の配分ができること
の3点を挙げ、「後者の2つが、本書がいうところの『アプローチ力』にあたる」と述べた上で、国際協力機構理事長の緒方貞子紙を「サクセス・ウーマンのシンボル」として紹介しています。一方で、ヒラリー・クリントン氏が、「ファースト・レディから上院議員、大統領候補者へと順調に駒を進めてきたが、その間に組織運営能力を磨く機会はなかった」ことを指摘し、「側近だけではなく、自分のために働く人々に、手柄の配分ができるかどうかが、今後、彼女のキャリアが突き抜けるかどうかのカギである」と述べています。
 さらに、オトコ・タイプの弱点として、
(1)フェロモンを活用することを恥ずかしいと思うほどの高いプライド。
(2)一人だけ仕事をやりすぎてしまったり、正論・原理主義に陥り、他の人たちから浮いてしまうこと。
(3)男性と同じかそれ以上の仕事をする、という姿勢のため、からだを壊してしまうこと。
の3点を挙げています。
 第2章「日本のオンナたち」では、ニュース・キャスターの安藤優子氏を取り上げ、「色気満々の安藤さんが、なぜ主婦層に受けるのか」について、「フェロモンのマイナスをカバーする方法も身につけている」として、「もはや、『わたしを見てほしいの』という甘えた雰囲気を越えて『こういうのが着たいの。見たければ見れば』という雰囲気」であると述べ、「50代になっても第一線で生き残るオンナ・タイプは、もはや、オンナの"敵"から"憧れ"に昇華している」と述べています。
 また、ダイエー副会長の林文子氏について、「社長として渡り歩ける能力、すなわち営業能力に加えて、卓越した好感度と手柄の配分力をもっている」として、「まさに最高峰の『オトコ・タイプ』」だと評価しています。
 さらに、丸川珠代参議院議員について、テレビ朝日のアナウンサー時代は、「ハードな報道姿勢を希望」した「オトコ・タイプ」だったが、「立候補を表明した瞬間から、『オトコ・タイプ』から『オンナ・タイプ』に舵を取った」として、「膝丈の赤のスーツか白のスーツを着込み、自信のなさそうな笑顔と目線。なんともしなやかな色気が漂っていた」と述べています。
 もう一人政界関係では、「総理の椅子に最も近い女性」として名前が挙がる小池百合子議員について、「オンナ・タイプの王道を歩んでいる」と述べ、「小池さんのすごいところは、贔屓されることに甘んじていないこと。ギブ・アンド・テイクを実行する。取り立ててもらえば、取り立ててくれた上司に徹底的に尽くす」、そして「潔い」、「ここぞ、という時には勝負に出る。そして、確実に勝利する。お世話になった相手でも、切るときはすっぱりと切る」と述べ、「潔さと徹底して上司に尽くすことは、オンナ・タイプの特徴である」と解説しています。
 そして、「永田町では、オンナ・タイプ政治家が幅を利かせるが、オトコ・タイプも生息する」として、川口順子氏、森山真弓氏、野田聖子氏、辻本清美氏、土井たか子氏などの名を上げています。
 さらに、経済財政政策担当相の大田弘子氏について、「おじさま受け」のよさは、ピカ一と言われ、そのすごいところとして、
(1)ポストに就いたあとの評判がよく、その後につなげていること。
(2)男性の噂がないこと。
の2点を挙げた上で、「おひとりさまの希望の星」と述べています。
 第3章「海外キャリア女性の素顔」では、ヒラリー・クリントン氏について、「クリントンが大統領になる前のヒラリーは、実力弁護士であるが、いけていないオバサンだった」、「当時の見た目はひどかった」が、「ファースト・レディになってから、日に日に美しくなった」と述べ、さらに、「センスも悪い」としながらも、「上院議員用の黒のパンツ・スーツを脱ぎ捨て、びっくりセンスの洋服を着るようになってから」好感度が上がっていることについて、「働く女性の立場から見ると『肝っ玉母さん・ファッション』であるが、裏を返せば、ワイドショーを見るお母さんたちにとっては、身近なおしゃれと映る」ことを指摘し、「ヒラリー人気の源は、オバサンと呼ばれる年代のお母さんたち」だと述べています。
 この他にも、コンドリーザ・ライス国務長官、CBSのイブニング・ニュース初の女性アンカーであるケーティ・クーリック氏、20年続くトーク・ショー番組を持つ「全米でもっとも影響力のある女性」であるオプラ・ウィンフリー氏などを取り上げた上で、「私が取材したトップをねらうアメリカの若きエリート女性たちは、いずれも媚びることを拒むオトコ・タイプだが、自分のための『セクシーさ』を必須アイテムとしていた」と述べ、「仕事から導かれる女性のセクシーは、女性が憧れるセクシーではあるが、今のところ、日本の男性に『もてる』ためのセクシーとは、異なるような気がする」と述べています。
 第4章「アメリカのキャリア・マナー」では、「アメリカでは、キャリア・ファッションにいくつかの決まり(ファッション・コード)が存在していた」ことに、数年取材していて気がつかなかったと述べた上で、「一言で表現すれば、アメリカのキャリア女性の職場ファッションは、日本に比べるとより機能的である」と述べています。
 そして、そして、ヲール・ストリートに存在する4種類の女性として、
(1)社交界コマンダー:キャリア2、3年で、裕福な家庭出身。人生の目的はなんといっても楽しむことであり、NYライフを満喫する。ボーイフレンドの回転率は速い。
(2)花婿探し:キャリア3年から5年で、NY均衡の裕福な家庭出身。仕事もパーティのホストもうまくこなす。ウォール・ストリートで働く最大の目的は両親が与えてくれた環境と同等かそれ以上の生活を約束してくれる男性を見つけ、結婚すること。
(3)アイビー・お局:キャリア20年から30年、地位も収入も手にしている。生活すべてを仕事に捧げ、ウォール・ストリートでもっとも不幸な種類の女といううれしくない称号をもっている。
(4)全方位型野心家:15年から20年のキャリアを持ち、アイビー・お局以上の地位と収入を持ち、夫と子どももいる。キャリア女性のNY的成功型は、結婚と仕事を両立させる管理職で、社会貢献への意欲がある、というイメージである。
の4種類を紹介しています。
 また、キャリア女性の「パワー・シンボル」として「上質なスーツとハイヒール」、そして「パワーカラーは赤である」と述べています。
 一方で、東海岸と西海岸のビジネス・ファッションのルールの違いについて、「西海岸でスーツを着ているのは弁護士やコンサルタントで、取引の意思決定に関係ない人」と理解され、「西海岸のホテルや会議の席では、スーツ姿ではなく、ネクタイをしていない人がもっとも権力がある人である」と述べています。
 さらに、「キャリア女性のアメリカン・ドリーム」として、「仕事と家庭を両立させ、いずれにもある程度満足して暮らすという女性像」を挙げ、「浮気の心配がなく、キャリア向上の助けになり、家庭に参加する男性が現代版スーパー・ハズバンド」だと述べています。
 第5章「できるオンナたちの新ルール」では、
・Rule 1:キャリアのピークを50代に設定:いままでの、かっこいいキャリア女性のイメージは20代後半から30代後半だった。
・Rule 2:オンナ・フェロモンを上手に使う:好感度が高い万能オンナ・フェロモン
・Rule 3:"愛嬌"を"にこやか"に進化させる:それには、時間と共に醸成される「信頼」と「上品」という要素が必要になる。
・Rule 4:手柄の配分を心がける:男女に関係なく仕事の不満の多くは、「手柄の配分」に関わるものだ。
・Rule 5:オンナ同士の悪口は言わない:オトコたちは赤提灯での「愚痴歴」が長い。愚痴の対処法を知っている。
・Rule 6:"性悪女"をのさばらせない:彼女たちをのさばらせないことは、これからのできる女の新しい任務なのかもしれない。
・Rule 7:オバサン・キャリアも戦略のひとつ:これからは植木等型サラリー・ウーマンが出てくるのかもしれない。
・Rule 8:結婚はしたほうが、お得:いまや、女性もダンナからの内助の功と「外助の功」が必要なのである。エリート女性を解剖するたびに、結婚しなきゃと焦ってくる。
・Rule 9:いい年したオンナのスッピンは罪である
・Rule 10:「身だしなみ」の世界標準を知る:ポジションにあった身だしなみをすることは、できるオンナの条件である。
・Rule 11:オンナを活かして起業する:女性ならではの、ビジネスやマーケットの第一人者になる、というキャリアのつくり方もある。
の11のルールを挙げています。
 本書は、もちろん女性のために書かれた本ですが、男性にとっても多くの教訓を与えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 著者の横江さんには、6年ほど前に仕事でご講演をお願いする機会があり、その時に初めてお会いしました。当時は、ヴォートジャパン(株)の社長を務められていましたが、その後も、次々に著書を出され、新聞などでコメントされ、日本の枠に収まらない活躍をされています。
 たまにホームパーティを主催されているのですが、本書を読んで、ホームパーティのホストにかける世界標準の気合いの一端を見てしまったような気がします。


■ どんな人にオススメ?

・「キャリアウーマン」というと30歳前後のキツそうなお姉さんをイメージしてしまう人。


■ 関連しそうな本

 横江 公美 『判断力はどうすれば身につくのか―アメリカの有権者教育レポート』 2005年07月13日
 横江 公美 『Eポリティックス』 2005年02月11日
 横江 公美 『第五の権力 アメリカのシンクタンク』 2005年06月13日
 脇坂 明, 冨田 安信 (編集) 『大卒女性の働き方―女性が仕事をつづけるとき、やめるとき』 2006年05月02日
 ロザベス・モス カンター (著), 高井 葉子 (翻訳) 『企業のなかの男と女―女性が増えれば職場が変わる』 2005年10月11日
 篠塚 英子 『女性リーダーのキャリア形成』


■ 百夜百音

TWIN BEST タイムボカン 名曲の夕べ【TWIN BEST タイムボカン 名曲の夕べ】 TVサントラ オリジナル盤発売: 1998

 タイムボカンシリーズといえば、善玉よりも悪玉が本当の主役と言われるだけあって、オープニングよりもエンディングの方が印象に残っているようなきがします。ただし、どれも同じメンバーなのでどの作品かは区別がつきませんが。


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2008年02月25日

役員ネットワークからみる企業相関図

■ 書籍情報

役員ネットワークからみる企業相関図   【役員ネットワークからみる企業相関図】(#1131)

  菊地 浩之
  価格: ¥2100 (税込)
  日本経済評論社(2006/12)

 本書は、「日本企業の役員兼任を分析し、そこから日本企業の役員及びそのネットワークの特徴を明らかにしていく」ものです。
 第1章「役員兼任を分類する」では、委員会等設置会社で望まれる社外役員が「個人の資質」出選ばれるのに対し、従来型の社外役員は、「企業間関係」を背景にして送り込まれるものであると述べています。
 そして、役員兼任を、
(1)企業グループ型
(2)株式所有型
(3)非上場企業型
(4)金融機関 株式所有型
(5)法曹・税務型
(6)その他
の6つのタイプに分類しています。
 また、日本の役員兼任が、1999年から2005年の間で流れが一変し、それまでの85%が株式所有で説明でき、42%が親子会社間で成立したものだったのに対し、企業間関係重視型の役員兼任が減少し、個人的資質重視型の役員兼任が増加したと述べています。
 第2章「企業集団における役員兼任」では、「三菱・三井・住友・芙蓉・三和・一勧」の六大企業集団について、それぞれの役員兼任ネットワークを分析し、
・三菱:(1)金融機関、(2)有力事業会社、(3)その他の事業会社の3階層から構成され、ガチガチ堅固な序列主義。
・三井:企業集団化のメリット・デメリットを計算し、使える場合は使うといった感が強く、人的結合もソロバンをはじく。
・住友:結束力は強いが、普段はそれ以上に独立心が強く、身内で固まらない。
・芙蓉:生命保険会社の株式所有が鍵となり、付き合いはカネ次第。
・三和:関西財界に点在する断片的な人的結合。
・一勧:実は古河グループの役員兼任。
等の点を挙げています。
 そして、企業集団における役員兼任の特徴として、
(1)個々の企業間関係を基盤にしたものが多く、役員個人の資質に頼ったものは少ない。
(2)その多くが株式所有を基盤にしている。
(3)企業集団の社長会メンバーは表面上対等であるが、実際には序列がある。
(4)役員兼任の充実度は企業集団によってかなり異なる。
の4点を挙げています。
 第3章「地域財界における役員兼任」では、中部財界の役員兼任の多くが、株式所有を背景にしておらず、「役員兼任ネットワークは東海銀行・松坂屋・中部電力・東邦瓦斯・岡谷鋼機・名古屋鉄道の6社が中核を成している」が、その間にはほとんど株式所有も見られず、重要な商取引も想像できないことから、それ以外の動機によって形成されていると述べ、「中部財界の役員兼任ネットワークの実体は、地域巨大企業の連合体」であり、「東海銀行・松坂屋・中部電力・東邦瓦斯・名古屋鉄道」の5社は、「名古屋5社」または「五摂家」と呼ばれ別格視されていると述べています。
 そして、岡谷鋼機のトップが役員兼任を担っているのは、「岡谷家という家系が中部財界で特別な地位を保っているから」であることから、「地域財界の役員兼任ネットワークの実態は地域巨大企業の連合体が資産家層と連結したもの」であると解説しています。
 また、資産家層の子孫たちが、「かつて先祖が支配していた企業にごく普通に就職し、あたかも一般の社員から選ばれたように役員に昇進し」、「自家と無関係な企業でも、同様に役員に選任されている」ことについて、上流階級のインナー・サークルが持つ、
(1)文化的資本:個性的なスタイルや価値観や教育資格認定書
(2)社会的資本:家柄から生み出される社交場のつながりのネットワーク
(3)経済的資本:個人保有の金融資産
の3つの特質を強めると述べています。
 さらに中部財界で展開される血縁的役員兼任の特徴として、
(1)血縁的役員兼任は通常の役員兼任を補完している。
(2)血縁的役員兼任は地域的な枠組みに留まらず、全国的に展開されている。
(3)血縁的役員兼任は通常の役員兼任と違い、移転や断絶が多く、修復されない。
の3点を挙げています。
 第4章「血縁的兼任ネットワーク」では、「血縁的役員兼任」を、「2つの企業の役員同士に血縁関係があるとき、それら企業間には血縁を通じての役員兼任が存在する」と定義し、血縁的兼任ネットワークが、
・企業集団・企業グループという枠を超え、多くの業種の企業が包括されている。
・環状に連結しており、中心になるべき点がない。
という特徴を持ち、「特定の企業や特定の家系を基点として拡がるものではなく、『層』(=階層)なのだ」と述べ、「この『層』の実態こそ、血縁を媒介とした上流階層に他ならない」としています。
 そして、東京銀行で血縁的役員兼任を担う役員が、「ほとんどすべて上流階級の子弟である」と述べ、「父親が横浜正金銀行の経営者であるケースが多く、役員の二世化を印象づける」としています。
 第5章「出身階層による分析」では、「専門経営者の二世化」が、「地域社会に限定した特性ではなく、日本を代表する企業集団にも及んでいることを実証する」として、三菱グループ役員の出身階層を対象に、「役員の4割は上流階層出身者である」ことを明らかにしています。そして、
(1)専門経営者が決して広範な階層から選ばれたものではなく、特定の階層(上流階層)から選ばれたエリートである。
(2)かれらは世襲傾向を強め、独自の階層として再生産を行なっている。
の2点を指摘しています。
 また、いわゆる「業界入社」について、「総合商社の役員子弟が就職先として選ぶのは、あくまで総合商社であって、それよりランクの劣る専門商社ではない」こと、「都市銀行の役員子弟が就職するのは、あくまで都市銀行であって、地方銀行や相互銀行(現第二地銀)を含む銀行業全般ではない」ことを指摘しています。
 さらに、三菱グループ企業の役員子弟が、「父がエライほど出世しやすい」ことを実証的に指摘しています。
 エピローグ「日本の役員ネットワーク」では、終戦後まもない日本企業の役員兼任が、「個人的資質によるものが多かった」のに対し、高度経済成長期には、「役員兼任も株式所有を基盤とする企業間関係重視型」に変わり、「20世紀後半の役員兼任は『強者が弱者に役員を送り込む』かたちで実現した」と指摘しています。
 そして、「強者の知恵を借りる」役員兼任を「代替して余りあるインフォーマルな人的結合の存在」として、学閥や閨閥であり、その典型が血縁的兼任ネットワークであると述べています。
 本書は、日本の格差社会を象徴するもう一つの端である上流階層の実態を伝えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 多くの人が、「育ちが違う人たち」が世の中に入ることを実感しながらも、建前としての「平等」に反論できずにいたのですが、同じように大学を卒業し、大企業に就職した人同士でも、すんなり出世して役員に収まる人と、ある程度までで頭打ちになる人とでは、単に本人の能力や努力以上に、生まれと育ちの違いが大きいということがわかります。
 ある意味では救いになる一冊なのかもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・「平等」は建前だけだと思っている人。


■ 関連しそうな本

 橘木 俊詔 『日本の経済格差―所得と資産から考える』 2006年02月10日
 苅谷 剛彦 『階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ』 2006年02月14日
 B.エーレンライク (著), 曽田 和子 (翻訳) 『ニッケル・アンド・ダイムド -アメリカ下流社会の現実』 2007年06月25日
 ポリー・トインビー (著), 椋田 直子 (翻訳) 『ハードワーク~低賃金で働くということ』 2006年03月08日
 三浦 展 『下流社会 新たな階層集団の出現』 2007年11月14日
 山田 昌弘 『希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』 2006年01月11日


■ 百夜百マンガ

Hunter X Hunter【Hunter X Hunter 】

 「作者急病のため」という理由での休載が多かったり、鉛筆で描いた「白い」回が多かったりと、マンガ家の悪い例のように言われることが多い作品ですが、なんだかんだでもう10年も続いているかと思うと驚きです。

投稿者 tozaki : 23:00 | コメント (0) | トラックバック

2008年02月12日

ワークライフバランス入門―日本を元気にする処方箋

■ 書籍情報

ワークライフバランス入門―日本を元気にする処方箋   【ワークライフバランス入門―日本を元気にする処方箋】(#1118)

  荒金 雅子
  価格: ¥1575 (税込)
  ミネルヴァ書房(2007/11)

 本書は、ワークライフバランス(WLB)の重要性を「さまざまな立場から理解、共有してもらうこと、そして、WLBの実践に向けて何から始めればよいのか、そのヒントを提供すること」を目的としたものです。
 第1章「今、なぜワークライフバランスなのか」では、「食べていくために、私たちは何をどのくらい犠牲にしなければならないのでしょうか」と考えたときに、「経済が右肩上がりの高成長期は『犠牲』に対する見返りが大きかった」が、今は、「ご褒美がもらえるかどうかわからない不安な状態での『犠牲』」であるを指摘し、「私たちが追及する『豊かさ』が変わったのですから、当然それに合うように経済・社会システムも変わらなければなりません」と述べています。
 そして、慢性的な長時間労働が、「労働者自身の健康、生産性、労働者の家族にマイナスの影響を与える可能性が高い」として、「長時間労働をはじめとする働き方を見直すことは、労働者の健康、企業の業績、そして家族関係、これらすべてを改善する鍵」となり、「それを実現させるために、ワークライフバランス(以下、WLB)という考え方や意義を皆で理解、共有していく必要がある」と述べています。
 また、ワークライフバランスの意義について、
(1)双方が得をするWin-Winの関係が築ける
(2)多様化に柔軟に対応できる
(3)暮らしのなかで高まるリスクに柔軟に対応できる
の3点を挙げています。
 第2章「企業経営とワークライフバランス」では、1990年代までの福利厚生施策が、「終身雇用制度を前提に『家族を支える男性社員とその家族』というくくりで成り立っており、世帯主である男性に手厚い施策」となっていたが、1990年代後半から、「少子高齢化や働く女性の増加、個人の価値観の多様化などを背景に、働くものすべての家庭責任に配慮し仕事と家庭の両立を支援するため、育児や介護に関する施策の充実が求められるように」なったことが解説されています。
 そして、企業がWLBを推進する本汁的な意義として、「社員が仕事と私生活のバランスをとりながら、もてる能力を最大限に発揮するようサポートすること」であると述べ、「実際にWLBを推進している企業は、働きやすい職場環境を提供することで、社員の満足度を高め、経験を積んだ優秀な人材を維持し続けることが可能となり、それによって業績向上につながるということを確信している」と述べています。
 また、「独創性やアイデアによって成長する知識創造型企業がますます重要視されるなか、生産性・競争力を測る指標は『時間や量」から、『仕事の質や成果』に変化」しているとした上で、「これまでの仕事の内容ややり方を見直し新しい働き方を構築するというプロセスが必要」となると述べ、仕事の再設計のポイントとして、
(1)仕事と理想的な社員像についての既存の価値観・規範を見直すこと
(2)習慣的な仕事のやり方を見直すこと
(3)仕事の効率と効果を向上させ、同時に仕事と私生活の共存をサポートすること
の3点を挙げています。
 第3章「企業のワークライフバランス取り組み実践例」では、中小企業で仕事と育児を両立しやすい要因として、
(1)「能力」を評価し、キャリアロスが少ない
(2)役職の階層がフラット
(3)職住接近の職場環境
(4)職場に子どもを連れてこられる雰囲気
(5)女性活用をめぐる多様性
の5点を紹介しています。
 そして、ワークライフバランス成功の秘訣として、
(1)会社の本気度が社員にみえていること
(2)社員の自律性を高める
(3)公平・公正な施策で処遇のアンバランスをなくす
(4)所得ロス・キャリアロスを生じさせない工夫を
の4点を挙げています。
 第5章「世界のワークライフバランス」では、諸外国における取り組みとして、
・アメリカ:企業主導型で、経営戦略として発展
・イギリス:企業主導から政府主導で柔軟な就労形態支援へ
・フランス:女性の両立支援を目的に家族政策として推進中
・ドイツ:国力を高めるという視点から家族に優しい環境作りを推進
・シンガポール:表彰制度で企業のWLB推進をバックアップ
などの紹介をしています。なかでも、ドイツについては、日本・イタリアと並ぶ「超少子化国」であるとして、この3国の共通点が、「子育ては母親が行うべきもの」という性別役割分担意識が社会の中に根強く残っていることを指摘しています。
 第6章「個人とワークライフバランスのあり方」では、「多様化」が、「多くの人に、人生の質を問うことの契機」となり、「生き方が多様になり、人とは違う自分独自の個性的な生き方を人々が求め始め」たとして、「QOL (Quality Of Life)」の視点が導入されたと述べています。
 (株)ワーク・ライフバランス社の小室淑恵社長のコラムでは、「企業内におけるワークライフバランスへの取組みが、決して国の少子化対策のためではなく、企業の生き残りをかけた戦略の一環として必要になってきた」とした上で、これから政府・企業に期待することとして、「男性の働き方の見直しであり、ここを根本的に改善するための、仕事の効率化を高める手段や政策、管理職の意識改革を行わないかぎり」、合計特殊出生率は「1.3をピークとして再降下をたどることになる」と指摘しています。
 第7章「父親にとってのワークライフバランス」では、WLBの観点から、「最もそのバランスが悪い集団」は、働き盛りといわれている20~40代の男性であるとして、「最もその特徴を現しているのが『長時間労働』」であると指摘したうえで、帰宅時間の日常的な遅延化が、
・精神的・肉体的な負担を強いり健康を根底から脅かす
・家族との時間を奪い、母親の育児を孤立させる
ことを指摘し、「男性のWLBを考えることは、子どもやパートナーあるいは家族や社会を考える大きな契機でもある」と述べています。
 そして、大きな社会変化を受けて「父親の存在や行き方も変化を遂げ」たとして、
(1)核家族の中で家族の役割自体が変化した
(2)経済社会の発展により家族内の機能が外注化され、その家族ごとに家族内機能と役割が複雑かつ多様化した
の2点を挙げ、「現代社会において絶対的な父親像が不在の時代である」と指摘しています。
 また、男性のWLBの意義として、「その社会の変化とともに男性の生き方を豊かにしていくこと」であり、「男性をエンパワーメントし、また男性を救うものとなる」と述べています。
 さらに、父親の育児参加がもたらす社会の変化として、
(1)子どもが豊かな価値観の中で育つ
(2)母親の育児不安や育児ノイローゼなどの解消につながる
の2点を挙げています。
 第8章「ワークライフバランスとキャリアデザイン」では、「WLBを実践するためには、マインド(思考)とともにスキルが必要」であるとして、
(1)ストレスマネジメント
(2)タイムマネジメント(時間管理)
(3)コミュニケーションスキル
の代表的な3つのスキルを挙げています。
 また、自分らしいWLBを実践していくための効果的な方法として、
(1)考え方を変える
(2)話し方を変える
(3)行動を変える
の3点を紹介しています。
 本書は、単なる理念や問題提起だけでなく、より具体的にWLBを考えるきっかけを与えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 内閣府にも「仕事と生活の調和推進室」が設けられ、ワークライフバランスも徐々に一般的な言葉になってきましたが、まだ抵抗や偏見をもつ人も少なくないのではないかと思います。
 そんな先入観を打ち破ってくれるようなスター級のビジネスマンと言うか、モデルになるような人の登場が望まれます。


■ どんな人にオススメ?

・ワークライフバランスは福利厚生だと思っている人。


■ 関連しそうな本

 小室 淑恵 『新しい人事戦略 ワークライフバランス―考え方と導入法―』 2007年08月22日
 大沢 真知子 『ワークライフバランス社会へ―個人が主役の働き方』 2006年07月24日
 佐藤 博樹, 佐藤 厚 (編集) 『仕事の社会学―変貌する働き方』 2005年12月01日
 佐藤 博樹 『変わる働き方とキャリア・デザイン』 2006年05月22日
 パク ジョアン・スックチャ 『会社人間が会社をつぶす―ワーク・ライフ・バランスの提案』 2006年10月13日
 小室 淑恵 『結果を出して定時に帰る時間術』


■ 百夜百マンガ

陽あたり良好【陽あたり良好 】

 わだち先生の初期のヒット作。少女漫画誌に連載されていたため、竹本孝之主演のテレビドラマで見た人が結構多いのではないかと思います。

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2007年09月04日

経験からの学習-プロフェッショナルへの成長プロセス-

■ 書籍情報

経験からの学習-プロフェッショナルへの成長プロセス-   【経験からの学習-プロフェッショナルへの成長プロセス-】(#957)

  松尾 睦
  価格: ¥3,360 (税込)
  同文舘出版(2006/6/23)

 本書は、「組織の中で働く人が経験から学ぶ際」に、関係してくる「経験」、「学ぶ力」、「組織」の3要因のうち、「『学ぶ力』が経験学習プロセスを解明する上で鍵を握る」と考え、「人は、健全な組織において、適正な信念を育むときに、経験から多くのことを学ぶことができる」というメッセージを持ったものです。
 序章『本書のアプローチ』では、本書が、「顧客に付加価値の高い製品・サービスを提案する上で重要な役割を担っている営業担当者、コンサルタント、プロジェクト・マネジャーに焦点を当て、彼らが以下に経験から学習しているかを明らかにすることを明らかにすること」を目的としていると述べています。
 著者は、本書の基本的な問いを、「企業における熟達者は、いかに経験から学んでいるのか」であると述べ、分析の視点として、
・経験そのものの特性
・学習する個人の特性
・学習を促進する組織特性
の3点を挙げています。
 第1章「熟達化の理論的研究」では、過去の研究について、
・知識の類型
・メタ知識
・信念の働き
・熟達化のプロセス
・実践による学習
・プロフェッショナリズム
の点からレビューしています。
 そして、過去の熟達研究から、「チェス、テニス、音楽、絵画といった分野において世界レベルの業績を上げるためには最低10年の準備期間が必要であることがわかっている」と述べ、「各領域における熟達者になるには最低でも10年の経験が必要である」、という「10年ルール」を紹介しています。
 また、「あるテーマについての関心や問題、熱意などを共有し、その分野の知識や技能を、持続的な相互交流を通じて深めていく人々の集団」である「実践コミュニティ」の概念を紹介しています。
 第2章「経験の実践的研究」では、経験を、「人間と外部環境との相互作用」であると定義した上で、外的経験の分類特性として、
(1)タスク(課題)の性質:不慣れな課題、変化を創出する課題、難易度の高い課題、短期的課題、苦難
(2)他者からの影響:上司、部下、同僚、取引先
(3)時期:キャリア上の初期・中期・後期
(4)場所:社内―社外
(5)直接―間接
の5点を挙げ、中でも、「タスク(課題)性質が最も学習に影響を与えているのに対し研修などの間接的経験の影響は小さい」と指摘しています。
 著者は、本章において、
(1)経験年数と業績の関係
(2)学習を促進する経験特性
(3)経験からの学習能力
の3分野に関する実証研究を整理しています。
 第3章「10年ルールの検証」では、「熟達研究で提唱されている10年ルールは、ビジネス分野においても適用できるのであろうか。また、このルールの背後には、どのようなメカニズムがあるのか」を問いかけています。
 そして、分析結果から引き出される理論的貢献として、
(1)自動車と不動産といった異なる領域における営業の熟達化にも、エリクソンの10年ルールが適用できることが明らかになった。
(2)従来の10年ルールが、高業績を上げる準備期間として10年が必要であることを示しているのに対し、営業担当者が有効なスキルを獲得するまでに約10年かかるということを示したという意味で、10年ルールの裏に隠されたメカニズムを説明している。
(3)領域によって鍵となる営業プロセスが異なっていた。。
(4)熟達した営業担当者は「顧客志向」のスキルと「目標達成志向」のスキルのバランスをとっているという点で共通していた。
の4点を挙げています。
 第4章「学習を促す経験」では、プロジェクト・マネジャーとコンサルタントの間で、「初期において『SEとしての部分的仕事』や『プロジェクトのサブリーダー』を経験することでコンピューターの基礎知識や業務知識といった『職務関連の知識』を獲得し、後期において『大規模プロジェクト』や『厳しい顧客』を経験することで高度な『顧客管理スキル』を獲得していた点」が共通していることを指摘しています。
 一方で、その経験学習のプロセスに関しては、「熟達プロセスにも領域固有性が存在する」として、「プロジェクト・マネジャーが、徐々にタスクの難易度を高める『段階的な学習パターン』をとるのに対し、コンサルタントは、中期において、『修羅場体験』とでもいうべき難易度の高いタスクに従事する『非段階的な学習パターン』をとっていた」ことを指摘しています。
 著者は、この学習パターンの違いを、「各職種における課題の性質と、核となる知識・スキル特性の違い」にあるとし、「プロジェクトマネジャーの育成において段階的な経験学習が適しているのは、彼らに要求される最も重要なスキルが『集団管理スキル』だからである」のに対し、「コンサルタントの育成において非段階的な経験学習が適しているのは、彼らに要求されている最も重要な能力が『概念スキル』だからである」と述べています。
 第5章「学習を方向づける信念」では、「自分の能力に対して自身を持ち、学習機会を追い求め、リスクをかえりみず挑戦し、状況に応じて柔軟に自分の行動や考え方を変えることができる人ほど、経験から学習する傾向にある」と述べたうえで、「仕事の信念は、経験学習の効果にどのような影響を及ぼすであろうか。また、領域が異なると、仕事の信念の内容は、どのように異なるだろうか」と問いかけています。
 そして、分析の結果から、「顧客志向の信念が高い人ほど、キャリアの初期・中期段階における経験が現在の業績と強く結びつく傾向が見られた」のに対し、「目標達成志向の新年は経験学習の効果に影響を与えていたものの、顧客志向の信念ほど明確な形で関係しているわけではなかった」ことを指摘しています。
 そして、自動車と不動産の営業において、「目標達成志向の信念が販売業績を高めていたのに対し、顧客志向の信念は販売業績と関係していなかった」ことについて、「自動車営業の分析では、顧客志向の信念が業績と結びつくまでに約10年の期間が必要であることが明らかになった」と述べています。
 著者は、「目標達成志向と顧客志向が密接に関係している」として、
(1)顧客志向における「信頼の重視」は、目標達成志向における「努力・挑戦」「情熱・熱意」と結びついている。
(2)目標達成志向における「目標設定」は、単に自身の売上・利益目標だけではなく、「経営者の思いの実現」や「顧客満足」であるというケースが見られ、数値的な目標を達成する手段としての顧客満足というよりも、顧客満足それ自体が目標となっていた。
(3)「顧客と一緒に成長する」「顧客から学ぶ」という考え方は、目標達成志向における学習目標と関連し、顧客との関係から学習することを重視するとき、顧客志向と目標達成志向が結びつく。
の3点が明らかになったと述べています。
 第6章「学習を支える組織」では、組織風土の定義として、「組織の方針、目標、慣行、手続についての共有された知覚」を挙げ、「組織風土は、組織において何が重要で、メンバーにどのような行動が期待されているかを伝えるシグナルを送ること」で、
(1)個人が直面する刺激を意味づける。
(2)行動選択の自由を制約する。
(3)特定の行動に報酬や罰を与え、個人の行動に影響を与えている。
であると述べています。
 そして、内部競争の営業所風土が、「経験の浅い営業担当者が持つ目標達成志向の信念を育てるが、彼らの顧客志向の信念を阻害するという意味で、諸刃の剣としての性質を持つ」と述べています。
 また、「顧客志向を基盤に、行動ベース・知識ベースの評価を重視し、財務業績ベースの評価を強調し過ぎない内部競争」を、「顧客主導のプロセス方内部競争」と名づけ、この競争が、
(1)内発的動機づけの高揚
(2)利他的利己主義に基づく利得構造の創出
(3)共通の判断基準の提供
(4)学習目標の促進
の4つの特性を持つために、知識創出を可能にしていると述べています。
 著者は、「諸刃の剣としての性質を持つ内部競争が、顧客思考と組み合わされることで、内部競争のネガティブな面が打ち消され、ポジティブな機能が強化される」点を興味深いと述べ、「『顧客志向と内部競争を連動させることが学習を促進する』という知見が、個人レベルの調査と、集団レベルの調査の双方から示された点」が、分析結果の妥当性が高いことを示していると述べています。
 第7章「理論的・実践的な示唆」では、本書の発見事実として、
(1)人がある領域において優れた知識・スキルを獲得するには約10年かかり、6~10年目の中期の経験が熟達の鍵を握る。
(2)人は主に挑戦的な仕事から学ぶが、領域が異なると挑戦の仕方も異なる。
(3)人は、目標達成志向と顧客志向の信念のバランスを保つとき、経験から多くのことを学習する。
(4)人が学習目標を持つとき、目標達成志向と顧客志向の信念が連動する。
(5)顧客を重視し、メンバーが知識や行動をめぐって競争している組織において、目標達成志向と顧客志向の信念が高まり、組織内の学習が促進される。
の5点を挙げています。
 そして、「組織における経験学習プロセスに関する仮説的モデル」を提示し、そのメッセージは、「経験学習の質は、所属する組織の特性と個人の信念によって決まる」であると述べています。
 本書は、外部からは見えにくい学習と成長のプロセスを明らかにしているという点で、研究者のみならず、経営者や管理職にもぜひ一読してほしい一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書が扱っている、経験や成長、顧客志向、信念などのテーマは、多くのビジネス書が扱っている分野であり、自らの経験をもとにした経営者やコンサルタントが百人百様の「持論」を展開しています。
 もちろん、個々の持論が価値のないものではないのですが、中には相互に主張が噛み合わなかったり、力点の置き方が異なるものもあり混乱を生む原因になっています。
 本書のような形で整理をすることは、多くのビジネス書で展開されている言説や、多くの人の経営論を聞く上で、わかりやすい座標を得ることができます。


■ どんな人にオススメ?

・「経験から学ぶ」ことを体系的に理解したい人。


■ 関連しそうな本

 中原 淳 (編集), 荒木 淳子, 北村 士朗, 長岡 健, 橋本 諭 (著) 『企業内人材育成入門』 2007年08月24日
 北村 士朗, 中原 淳 (編さん), 荒木 淳子, 松田 岳士, 浦嶋 憲明, 小松 秀圀 『ここからはじまる人材育成―ワークプレイスラーニング・デザイン入門』 2005年11月16日
 キャメルヤマモト 『稼ぐ人、安い人、余る人―仕事で幸せになる』 2005年05月24日
 金井 寿宏, 守島 基博(編著), 原井 新介, 須東 朋広, 出馬 幹也(著) 『CHO―最高人事責任者が会社を変える』 2005年08月23日
 金井 壽宏 『組織を動かす最強のマネジメント心理学―組織と働く個人の「心的エナジー」を生かす法』 2005年06月09日
 エティエンヌ・ウェンガー, リチャード・マクダーモット, ウィリアム・M・スナイダー, 櫻井 祐子 (翻訳), 野中 郁次郎(解説), 野村 恭彦 (監修) 『コミュニティ・オブ・プラクティス―ナレッジ社会の新たな知識形態の実践』 2005年08月25日


■ 百夜百マンガ

セキララ結婚生活【セキララ結婚生活 】

 現在では、お茶の間でおなじみの新聞の連載やテレビアニメで知られていますが、当初は、セキララな作品で知られていました。「あたしンち」もセキララなわけですが。

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2007年08月24日

企業内人材育成入門

■ 書籍情報

企業内人材育成入門   【企業内人材育成入門】(#946)

  中原 淳 (編集), 荒木 淳子, 北村 士朗, 長岡 健, 橋本 諭 (著)
  価格: ¥2,940 (税込)
  ダイヤモンド社(2006/10/20)

 本書は、「人を育てるための心理学、教育学の基礎理論」を簡潔に紹介する入門書です。ターゲットユーザとして、「人材育成部門への異動が決まった方、人材育成部門の十数年勤務し、そろそろ知識の整理を行いたい方」の他、「企業・組織で『人育て』に関わるすべての人々」を対象としています。
 序章「『企業は人なり』とは言うけれど」では、「理論的な裏づけなしに、誰もが語れる」という、従来の人材育成に付随するイメージが、「深刻なデメリットも生み出す」として、「『誰もが語れる』ことは、『なんでもあり(anything goes)』とは違うはず」であると指摘しています。
 そして、本書が、「ワークプレイスラーニングという視点から、ミクロレベルでの方法論のベースとなっている、心理学・認知科学・学習科学・教育学・教育工学の諸理論を商会」するものであると述べています。
 第1章「学習のメカニズム――人はどこまで学べるのか」では、学習に関する心理学的研究が、「わずか100年の歴史しかないが、それが人々にもたらしてきた影響は非常に大きい」として、
(1)行動主義:即時に「フィードバック=結果の知識(Knowleadge of Result:結果の知識)」を返すことで、「刺激と反応の組合せ」がアタマの中に構成される、と考える。
(2)認知主義:人間の知的なふるまいを「コンピュータの動作=コンピュータ内部で行われる情報処理のプロセス」になぞらえて考える。
(3)状況主義:人間が知的に振舞うためには、実際の環境の中でどのように振舞い、どういう相互作用を営むか、といったところに焦点を当てる。
の3つの考え方について解説しています。
 また、オトナのための教育論、「成人教育論」に関して、「P-MARGE」、すなわち、
・P: Learners are Practical.(大人の学習者は実利的である)
・M: Learner needs Motivation.(大人の学習者は動機を必要とする)
・A: Learners are Autonomous.(大人の学習者は自律的である)
・R: Learner needs Relevancy.(大人の学習者はレリーヴァンスを必要とする)
・G: Learners are Goal-oriented.(大人の学習者は目的志向性が高い)
・E: Learner has life Experience.(大人の学習者には豊富な人生経験がある)
の6点を示しています。
 さらに、「ある領域の仕事ができるようになっていくこと」である「熟達化」に関して、「ある領域での長期の経験に基づいて、まとまりのある知識・技能を修得し、有能さを獲得していくプロセス」と述べ、
(1)定型化熟達者(routine expert):決まった手続を、早く、正確に、自動的に行う。
(2)適応的熟達者(adaptive expert):変化しうる状況の中で、一定の手続がない課題に対して、柔軟に、確実に対処できる。
の2つのタイプがあることを解説しています。
 第2章「学習モデル――学び方で効果は変るのか」では、「近年、人材開発の分野において、レイヴとウェンガーに代表される状況論アプローチが、注目を集めている」として、その特徴の一つとして、「従来あまり意識されることのなかった『学習カリキュラム』と『教育カリキュラム』の違いを明確している点」を挙げ、学習を「日常の中で複合的・継続的に進行する組織・個人の行動や考え方が変化していくプロセス」であると述べています。
 また、クロス・ファンクショナル・チームに、「組織横断的なプロジェクト・チームである一方、"学習と仕事の境界線"を越えた人材育成の場でもある」という意味があることを指摘しています。
 第3章「動機づけの理論――やる気を出させる方法」では、マズローが、「複数の人間の欲求に段階があると考え」、
・生理的欲求
・安全の欲求
・親和の欲求
・自我の欲求
・自己実現の欲求
の5段階があるとする「欲求段階説」を唱えたことや、「X理論」と「Y理論」を唱えたマグレガーや「動機づけ・衛生理論」を唱えたハーズバーグが動機づけを経営手法と結びつけたことなどが解説されています。
 また、外発的動機づけと内発的動機づけの関係について、内発的動機づけが、「報酬のような外発的動機づけを与えることでかえって下がってしまう場合」があることを、デシが行った実験で観察された「アンダーマイニング現象」を紹介しながら解説しています。
 さらに、犬が「自分がコントロールできない状況に長く置かれると、受動的で無気力になってしまう」ことを発見したセリグマンらが、「学習性無力感(learned helplessness)」と呼んだことや、バンデュラが、人のやる気にとって、
・結果期待:自分の行動がある結果をもたらすという期待
・効力期待:その行動をうまく行うことができるという期待
の2つが重要であると考えたことなどが紹介されています。
 第4章「インストラクショナルデザイン――役に立つ研修をいかにつくるか」では、「教育を効果的、効率的に、設計・実施するための方法論」である「インストラクショナルデザイン(Instructional design: ID)」について、「教育活動の効果・効率・魅力を高めるための手法を集大成したモデルや研究分野、またはそれらを応用して教育支援環境を実現するプロセスのことを指す」という定義を紹介しています。
 また、「授業や教材を構成する指導過程を、学びを支援するための外側からの働きかけ(外的条件)」と捉えた「ガニエの9教授事象」として、
(1)学習者の注意を獲得する
(2)授業の目標を知らせる
(3)前提条件を思い出させる
(4)新しい事項を提示する
(5)学習の指針を与える
(6)練習の機会を作る
(7)フィードバックを与える
(8)学習の成果を評価する
(9)保持と転移を高める。
の9点を挙げています。
 第5章「学習環境のデザイン――仕事の現場でいかに学ばせるか」では、1990年にセンゲによって提唱された、「学習を個人のものとしてではなく組織のものとして捉える考え方」である「学習する組織(Learning Organization)」について解説しています。
 また、ウェンガーが提唱した「学習が行われる共同体」である「実践共同体(Community of Practice) 」について、
(1)領域(domain):メンバーが共有する問題やテーマ
(2)コミュニティ(community):メンバー同士の相互交流と関係性
(3)実践(practice):メンバーが共有する一連の枠組みやアイディアやツール、情報、様式、専門用語、物語、文書など
の3点により定義されるものであることなどを解説しています。
 さらに、野中らが提唱した「企業の知識創造の仕組み」である「SECIモデル」について、
・共同化(Socialization)
・表出化(Externalization)
・連結化(Combination)
・内面化(Internalization)
の4つの知識変換モードなどを解説しています。
 第6章「教育・研修の評価――何をどう評価するか」では、教育評価の目的と役割を、
(1)管理や運営の改善や方向づけのためのもの
(2)指導や教授の改善や方向づけのためのもの
(3)学習者自身の学習や努力の直接的方向づけのためのもの
(4)調査や研究のためのもの
の4つに分類して解説しています。
 また、ウェンガーが、これまでナレッジ・マネジメントが経験してきた3つの波として、
(1)テクノロジーの導入
(2)行動、文化、暗黙知といった問題への関心
(3)実践共同体への着目
の3点を挙げていることを紹介しています。
 第7章「キャリア開発の考え方――自分の将来をイメージさせる」では、ホールによるキャリアの定義である「一生涯にわたる仕事関係の経験や活動とともに個人がとる態度や行動の連なり」という定義を紹介した上で、この定義を前提とした「キャリア開発」を、「個人が仕事に対する自らの考え方や嗜好性を自覚し、それらに基づいて意欲的に仕事に取り組めるようにすること」と解説しています。
 また、個人のキャリア・デザインのヒントとして、シャインによって提示された、「キャリア・アンカー」と「キャリア・サバイバル」という概念を解説しています。
 さらに、キャリア開発における偶然性の活用を提唱したクランボルツの「計画された偶然(planed happenstance)」について、「偶然に出会いそれをうまく自分のキャリアに活かしていくため」に必要な、
(1)好奇心:新しい学習機会を探索すること
(2)粘り強さ:失敗に挫けず努力すること
(3)柔軟性:態度と環境を変えること
(4)楽観性:新しい機会を可能で到達できるものだとみなすこと
(5)リスク・テイキング:不確実な結果に直面しても行動をとること
の5つの行動について解説しています。
 第8章「企業教育の政治力学――人材教育は本当に必要か」では、学習の評価において、「組織や部門にとって何が"正当性を持つ(legitimate)行為"と見なされるか」が重要であり、「組織や部門にとって"正しい"行為や考え方を個人が身につけたときにのみ、学習と見なされる」と解説しています。
 終章「人材育成の明日」では、「人材育成という企業活動の専門性に対する認識が変ったとき、人材育成の専門家はどのような姿を見せるのだろうか」という問いに対して、「研修・セミナーの専門家」と「知的生産性向上の専門家」のどちらの意味での専門化が主流になるかについては、「人材育成というビジネスの現場に生きる一人ひとりの実務家が、自分なりの回答を見つけ出すべきだろう」と述べています。
 本書は、「人材育成」という活動に携わる専門家にとって、自らを振り返る機会を与えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 「人材育成」とか「マネジメント」、「若者」などの分野は、だれもが経験をもとにした一家言を持ちやすいジャンルなので、大量に出版され、その当たり外れも大きいですが、本書は「当たり」に属するものだと思います。


■ どんな人にオススメ?

・人材育成の基本を学びたい人。


■ 関連しそうな本

 北村 士朗, 中原 淳 (編さん), 荒木 淳子, 松田 岳士, 浦嶋 憲明, 小松 秀圀 『ここからはじまる人材育成―ワークプレイスラーニング・デザイン入門』 2005年11月16日
 キャメルヤマモト 『稼ぐ人、安い人、余る人―仕事で幸せになる』 2005年05月24日
 金井 寿宏, 守島 基博(編著), 原井 新介, 須東 朋広, 出馬 幹也(著) 『CHO―最高人事責任者が会社を変える』 2005年08月23日
 ウォルター ディック, ジェームス・O. ケアリー, ルー ケアリー (著), 角 行之 (翻訳) 『はじめてのインストラクショナルデザイン』
 金井 壽宏 『組織を動かす最強のマネジメント心理学―組織と働く個人の「心的エナジー」を生かす法』 2005年06月09日
 エティエンヌ・ウェンガー, リチャード・マクダーモット, ウィリアム・M・スナイダー, 櫻井 祐子 (翻訳), 野中 郁次郎(解説), 野村 恭彦 (監修) 『コミュニティ・オブ・プラクティス―ナレッジ社会の新たな知識形態の実践』 2005年08月25日


■ 百夜百マンガ

殺医ドクター蘭丸【殺医ドクター蘭丸 】

 「ブラックエンジェルス」に代表される、いわゆる「仕事人」系の作品です。わかっていてもやっぱり読んでしまうカタルシス感は、冒険せず安定した人気を取れるベテランならではといいますか。

投稿者 tozaki : 07:00 | コメント (0) | トラックバック

2007年08月20日

公務員、辞めたらどうする?

■ 書籍情報

公務員、辞めたらどうする?   【公務員、辞めたらどうする?】(#942)

  山本 直治
  価格: ¥756 (税込)
  PHP研究所(2006/12/16)

 本書は、「公務員の身分保障や官民人材流動化の問題」がクローズアップされる中で、「一部の公務員にのみ可能な『天下り』や『留学後転職』ではなく、公務員から転職して地道に活躍している人たちの姿を紹介することで、官民人材流動化や公務員の転職について社会に一つの問いかけを試みたい」という目的を持ったものです。著者自身が、旧文部省のキャリア組出身で、現在は人材スカウト行に従事する傍ら、転職支援サイト「役人廃業.com」http://www.yakuninhaigyo.com/を運営されています。
 第1章「公務員社会の現状はどうなっているのか」では、「安定した公務員の地位を捨てて民間に転出している人たちがそれなりにいる」ことを示した上で、「退職の背景の一つとなっている公務員の過酷な現実」として、内閣官房行政改革推進事務局が公表した「各府省の若手職員等に対するヒアリングの結果(概要)について」(平成13年)から「若手公務員が抱えるさまざまな不満や閉塞感」を紹介しているほか、幹部候補として採用された人に見られる問題として、「その人自身の能動的・主体的なキャリアデザイン(職務経歴・スキルの形成)に配慮した人事異動(配属)が行われているとはいいがたい」点を指摘しています。
 また、『霞が関残酷物語』から「辞めるか、死ぬか、諦めるか」の「地獄の三択」という言葉を紹介し、「働きすぎで倒れても役所は守ってくれないから自分の体調は自分で守れ」と教育されてきたと述べています。
 さらに、霞が関の若手職員からは、
(1)民間企業に進んだ大学時代の同級生との比較
(2)苛酷な勤務環境との不均衡
の2点で、「給与についての不満が多数聞かれる」ことが述べられています。
 著者は、「公務員の仕事に不満を持つ人にとっては、そんな仕事を後にして、颯爽と公務員を辞められたらどんなに気分のよいことだろうか」としながらも、多くの人にとって、「その地位の呪縛により、辞めたくても辞められない」ものであると述べ、「そんな足踏みをしている人たちに、公務員からでも転職したり、起業することができるという実例を紹介することで、現実的な選択肢を提供したい。一筋の光明を示したい」という思い出、「役人廃業.com」を開設したと述べています。
 第2章「私の『役人廃業』体験」では、官民の人材流動化が求められる中で、「公務員からの転職に関する社会の認識は、旧態依然としたまま」であると述べています。
 そして、著者が旧文部省からの転職に踏み切った動機として、「組織に特有の『省風』だったのかどうかわからないが、官庁の巨大な組織と堅い上下関係(意志決定過程)」を挙げ、「自分が最も力を発揮できる環境は、フラットで風通しがよい職場だろう」と結論付けたことが述べられています。
 また、著者が転職のための面接を受け、大苦戦を強いられた理由として、「仕事へのホスピタリティーは充分に感じられたが、ビジネスという観点からは物足りなさを感じた」というものであったことが紹介されています。
 第3章「それぞれの『役人廃業』――転職者五〇人の声」では、国家公務員から名門企業に転職した人の意見として、「役所時代は事務処理能力が中心でしたが、今の仕事ではこの他に、ゼロから物事を作り上げる能力が必要になります~役所はどうしても、下のものが発言することは、はばかられましたが、むしろ今は言わないほうがダメですね」という言葉を紹介しています。
 また、外務省キャリアから有名シンクタンクに転じた山中俊之氏の言葉として、「『公務員出身者は営業が苦手では』などと言われたこともありますが、私は、人と会うのが大好きなので、営業は楽しくて仕方ないのです。ですから、そのような周囲の声は、すぐに消えました」と紹介しています。
 さらに、『社会人から大学教授になる方法』の著者、鷲田小彌太氏の指摘として、「社会人から大学教師に転じた人で、かつての仕事に熱中できなかった人は、大学教師の仕事、研究や教育活動にも熱中できないという事実がある」ことを紹介しています。
 この他、Uターンなどの理由で、「地方自治体間で職員の移籍やトレードができるシステム」に対するニーズがあるが、「職員が自ら希望して任意の自治体に出稿し、そこに転籍できるような都合のよいシステムは現状では存在しない」ことを指摘しています。
 第4章「公務員からの転身術――民間企業転職編」では、公務員を辞めたいと考えている人に対して、
「あなたはなぜ公務員を辞めたいのですか? 公務員を辞めてまでやりたいことは何ですか?」
という質問を最初にしていると述べています。そして、
「公務員の仕事より楽な民間の仕事はそうそう存在しない」
「ただし、公務員以上にやりがいのある仕事も民間にはたくさんある」
ことを「心に刻んでおいていただきたい」と述べています。
 また、「自分が何をやりたいかよりも、自分の経験を活かせる転職先が民間にあるかということばかり気にする人が少なくない」ことを挙げ、著者が、「今の仕事にやりがいを感じないとおっしゃるのに、同じような事務仕事を希望されるのですか。そもそも公務員を辞めて転職する意味はあるのですか」と聞き返して絶句されてしまったことを紹介しています。
 さらに、「はっきりと公務員経験者を募集している数少ない求人」である、国内系・外資系のコンサルティングファームやシンクタンクへの転職については、「官公庁経験者を募集すると謳いながらも、実際のところは中央官庁のキャリア組以外の転職は難しい」ことを挙げ、面接においても、「論理的思考を問う事例式の口頭試問(ケーススタディ)が課され」、「とにかく頭の回転の速さと柔軟さが問われる」ため、「『地頭』がよく、それまでの業務経験で高度に知的訓練された人が残る」と述べています。
 著者は、公務員向けの求人情報が少ない理由として、
(1)公務員の多くが転職を見据えた能力開発を考えてこなかった。
(2)民間企業は公務員を転職をする意志のない人と認識していた。
(3)多くの民間企業は公務員のもつスキルを理解せず、活用可能性を考えてこなかった。
(4)多くの民間企業が公務員経験を求める求人を出していないのはそれが理由である。
(5)これまでの民間企業への転職者は、奇特な人で、よほど能力と適性があれば採用されていたに過ぎない。
の5点を挙げ、「公務員自身がもっと自己の能力開発を行い、また民間企業側も公務員の顕在・潜在スキルに着眼し、十分に掘り起こせば、その能力を活用できるチャンスは少なくない」と述べています。
 また、職務経歴書の書き方のポイントとして、
(1)アピールポイントはコミュニケーション能力、バランス感覚そして調整能力
(2)専門的知識をアピールする場合の書き方
(3)マネジメント・リーダー経験があれば必ず書く
(4)「やらされ仕事」以外も書ければ書く
(5)役所用語(略語を含む)は一般には通じない
(6)志望動機には「仕込み」が必要
(7)長くしすぎない
の7点を挙げています。
 さらに、「公務員が現に給与をもらいすぎかという議論はさておき、公務員から民間に転職した場合に年収を維持することは、通常ではかなり難しい」ことを指摘しています。
 第5章「公務員からの転身術――起業編」では、「かつての武士のように為政者側に属し、民間のビジネスの舞台から一歩引いたところにいる。世間一般からは、コスト感覚を疑われている」公務員が起業しても、現代版「武士の商法」となるのではないかという指摘に対して、「半分正解で、半分不正解」だと述べ、不利な点がある一方で、公務員向きの部分もあるとしています。
 また、副業規制に関して、公立学校の教員が、休日に結婚式の司会をやっていたことが発覚した事件を紹介し、「現行法規上、違反は違反」であるが、規制の趣旨上、「本当に法令で規制すべきものなのだろうか」と疑問を呈し、
・休日の結婚式の司会が職務専念義務に影響したといえるのか。
・公務の中立性に影響したか。
・信用失墜行為に当たるかどうか。
の3点を挙げ、「当たり前のように考えられてきた兼業規制も、見直されてよいのでは」と述べています。
 第6章「公務員の転職をめぐる重点問題」では、政府が進めている天下り対策である「早期退職慣行の是正とピラミッド型人事構成の見直し」に関して、
(1)勧奨退職させる代わりに専門スタッフ職として残すというが、それだけの仕事が役所にあるのか。
(2)天下り受け入れ団体の幹部登用に年齢制限を設けて流入を防がないと意味がないのではないか。
の2点の疑問を呈しています。そして、著者の考えとして、
「公務員が天下りに頼らず自力で転職できるように官民の人材流動性を向上させ、天下り不要の社会をつくっていくことが望ましい」
と述べています。
 また、留学費用の返還義務について、「早期退職を劇的に抑止する力はありそうにない」と述べ、「留学者を活用できない役所の組織運営・人事管理に問題はないか。あるいは、公務員の留学における専攻選び(特にMBA)は妥当なのか」と疑問を呈しています。
 第7章「『役人廃業』であなたは変わる、社会も変わる」では、「公務員からの転職・起業成功者に共通して見られる傾向」として、
(1)公務員退職理由とその後のキャリアプランが明確であり、徹底的に検証もした。
(2)公務員としてもそれなりの仕事をし、それなりのものを達成した自負がある。
(3)公務員であった過去を否定しない。
(4)「損して得とれ」の意識を持っている。
(5)周囲の理解がある。
(6)公務員時代から、公務員を辞めた後のキャリアを意識した行動をしてきた。
の6点を挙げています。
 本書は、こんな仕事辞めたいと思っている公務員はもちろん、「公務員は民間では使い物にならない」という「常識」に疑いを持たない人にもぜひお勧めの一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書の中で、『週刊東洋経済』2005年11月5日号の特集「公務員 史上最大の受難」が紹介されています。この号の「中堅若手公務員の本音トーク」という座談会のために東洋経済の会議室に行ったのですが、普段雑誌で読んでいる対談、座談会がどうやって行われているのかを見ることができて面白かったです。
 ただし、「誌上対談」という場合には、スケジュールを合わせることができず、1人ずつ収録することもあるようです。


■ どんな人にオススメ?

・公務員が辞めたら後はないと思っている人。


■ 関連しそうな本

 山中 俊之 『公務員人事の研究―非効率部門脱却の処方箋』 2006年06月08日
 福田 秀人 『成果主義時代の出世術―ほどほど主義が生き残る!』 2006年06月21日
 川手 摂 『戦後日本の公務員制度史 「キャリア」システムの成立と展開』 2005年12月29日
 早川 征一郎 『国家公務員の昇進・キャリア形成』 2006年04月20日
 稲継 裕昭 『日本の官僚人事システム』 2005年02月10日
 上山 信一, 梅村 雅司 『行政人材革命―"プロ"を育てる研修・大学院の戦略』 2005年04月16日


■ 百夜百マンガ

別れたら好きな人【別れたら好きな人 】

 すっかり環境エッセイストみたいになっちゃいましたが、軽い感じのコメディはまた描いてほしいです。

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2007年03月20日

「ニート」って言うな!

■ 書籍情報

「ニート」って言うな!   【「ニート」って言うな!】(#789)

  本田 由紀, 内藤 朝雄, 後藤 和智
  価格: ¥840 (税込)
  光文社(2006/1/17)

 本書は、
・いじめや憎悪が生まれる社会的なメカニズムを研究対象とする社会学者(内藤)
・通俗的な若者論に対する詳細な検証と批判をネット上で粘り強く続けている大学生(後藤)
・教育・労働・家族の関係について実証研究を行ってきた教育社会学者(本田)
の3人が、「それぞれの観点からそれぞれのやり方で、昨今の『ニート』言説のあり方を批判する意見」を表明し、本田氏のブログのコメント欄において、「一緒に『ニート』言説の問題性を提起する本を作ろうということ」に合意して生まれたものです。
 著者は、「ニート」という言葉が、「若者全般に対する違和感や不安をおどろおどろしく煽り立てるための、格好の言葉とし用いられる。『ニート』はやがて、本来の定義を離れてあらゆる『駄目なもの』を象徴する言葉として社会に蔓延する」と指摘しています。
 第1部「『現実』――『ニート』論という奇妙な幻影」(本田)
 第1章「『ニート』のイメージは間違っている」では、2004年の中頃から「絨毯爆撃のように」、「ニート」論の攻勢が始まり、2005年ごろからは、「政党や政府にも『ニート』に関する動き」が出始め、そこに共通する、「何らかの意味で『病んだ』状態にあるために仕事に向かって踏み出せない若者、というイメージ」があり、「『ニート』をめぐるこのような状況は、若者と仕事の現状に対する世の中の認識と、そうした現状への具体的な施策の方向性を大きく歪めるもの」であると述べています。
 そして、「最近年における絶対数という点でも、過去からの増え方という点でも、『ニート』に比べて若年失業者や『フリーター』の方が焦点を当てられるべき対象である」にもかかわらず、「なぜか2004年あたりから、『ニート』がものすごく強調され始めた」ことが、「とても不可解で腹立たしい」と述べています。
 著者は、「『ニート』は多様で、しかも大半はごくごく『普通の、まっとうな』若者たちであり、ただ現在はさまざまな事情や理由から働いていない、というだけ」なのに、「『ニート』のイメージが、非常にネガティヴなものになってしまった」ことについて、「不登校」や「ひきこもり」にかなり近いイメージが、当初から議論の中に埋め込まれ、「中心的な論者・研究者も、かなり無自覚なまま、それらのイメージを『ニート』に投影していた」点を指摘しています。
 また、「ニート」という言葉が日本に導入された段階で、「定義的に失業者が除外された」ことを「きわめて問題」とし、「もし『ニート』に当初から失業者が含まれていれば、現在はびこっているような『ニート』論は成立しなかったはず」であり、「失業者を論じる際には当然、『なぜ仕事のポストがないのか』、『なぜ企業は人を採ろうとしないのか』という問い、すなわち労働需要側(企業側)のあり方への問いにつながらざるをえない」と述べ、「『ニート』という言葉が流行り始める直前の時期には、若年就労問題の最大の表にはやはり労働需要側にあるという認識が、地歩を得つつあった」ことを残念だと述べています。
 著者は、「いまや、『ひきこもり』イメージをかぶせられた『ニート』という言葉が、あまりにも大きな影響力をもつようになってしまったこと」で、「若者の現実とかけ離れた議論や施策が世の中に蔓延し」、こうした状況に対して、もう歯止めをかけなければならない時期が来ていると述べ、「『ニート』という括り方ではない、より若者の実態に即した区分け線を用いながら、本当に有効な施策を講じていく必要がある」と主張しています。
 第2章「若者に対して新に必要な支援はなにか」では、企業の採用抑制の背景として、バブル経済崩壊後の長期不況の影響とともに、
(1)日本社会の人口構造という、いわば歴史的な要因
(2)若い女性が働き続ける確率が高まったこと
という「企業にとっていわば外側から偶然降りかかってきたともいえる」2つの要因に加え、
(3)グローバル経済競争の激化から来る人件費縮減の要請と、サービス経済化や生産サイクルの短期化から来る労働力の量的柔軟化の要請
という要因によって、「企業の新規学卒採用、すなわち『学校経由の就職』」が90年代半ば以降急激に縮小したにもかかわらず、「しくみとしては『学校経由の就職』が依然として若者の典型雇用(正社員)へのほぼ独占的な採用ルートであり続け」、その結果、「いったんこのルートから外れて『フリーター』などの『不安定層』になった若者が正社員になれるチャンスは、小さく閉ざされたままになった」ことを指摘しています。
 著者は、「学校経由の就職」をなくしてゆくべきと主張し、その理由として、
(1)「学校経由の就職」ルートで正社員の職に移行する新規学卒者と、それ以外の「不安定層」との間に、その後のキャリア展開の可能性に関して大きな格差があり、それを変えてゆくためには、「学校経由の就職」以外のルートの方が量的に支配的になってゆくことが不可欠。
(2)「学校経由の就職」では在学中に勉学と並行しながらあわただしく就職先を決めることになるが、そうした時間的な圧縮は、一方では学生にとっても企業にとっても大きなプレッシャーとなっており、適切なマッチングではない場当たり的な就職―採用につながる。
(3)「学校経由の就職」では、若者が在学している学校と企業との組織的で長期的な関係のあり方如何によって、若者の就職機会に格差が生じる。
の3点を挙げています。
 また、従来の日本の若年労働市場において、「『教育の職業的意義』を欠いたこれまでの『学校経由の就職』では、甲羅をもたずやわらかい生身のからだを剥き出しにしている蟹のような若者を学校がどんどん企業に送り出し、そして柔らかい若者たちを企業が粘土みたいにこねあげてその企業向きの人材に形作っていく」というパターンが大勢を占め、「個人はあたかも『甲羅のない蟹』のような存在として扱われてきた」と指摘しています。
 第2部「『構造』――社会の憎悪のメカニズム」(内藤)では、ニート問題にみる社会の不安と憎悪として、
(1)「青少年が凶悪化した」「ニート化した」「子どもがわからなくなった」と煽り立てるマス・メディア。
(2)青少年にネガティヴなイメージを抱き、彼らの何気ない振る舞いに疑惑の「しるし」を探し当てては、独特の不安と憎悪であふれる大衆。
(3)危機をことさら強調して、今までなら通らなかった反市民的な政策や法案(あるいは条例)を通すなどして、望みの社会状態を現出させるチャンスを狙う政治。
の3体の構造的なカップリングが生じていることを指摘し、「青少年に対する不安と憎悪がペストのように蔓延」していると述べています。
 そして、「凶悪化している」というマス・メディアの主張に反して、「統計を見る限り、現代の若者は凶悪化して」おらず、「それどころか、青少年が年々おとなしくなっている」として、現在を、「日本の長い歴史の中で若者がここへ来て急激に穏やかになり、肉食獣から草食獣に変化するような、ものすごい変化の時期である」にもかかわらず、「年配者たちは、正反対に、若者を凶暴な肉食獣の典型のよう」に描き、「多くの人が、穏やかになった若者の牙を恐れるようになった」ことを指摘しています。
 また、紋切り型の事件報道に表れる論調として、
(1)前代未聞の事件を最近の青少年一般の凶悪化傾向を示すものととらえて警鐘を鳴らす。
(2)最近は物が豊かになったが、その反面、人間性が本来の自然の姿から離れたという疎外論。
(3)学校が息苦しい閉鎖的な空間になっている。
(4)思春期は人間関係が過敏で不安定なものになり、過度にべたべたしたり残酷なことをしたりする。
(5)インターネットでは普通の生活では出ないような邪悪な面が増幅されてしまう。
(6)『バトル・ロワイアル』のような映像メディアが悪影響をもたらす。
(7)少子化により社会性が失われた。
(8)インターネットや映像メディアのような『本物』でない仮想世界と現実との境界があいまいになった。
の8つを挙げ、それぞれ解説しています。
 さらに、青少年ネガティヴ・キャンペーンの分析から、「青少年問題に限らず、何かを問題として流行させるキャンペーンの基本的なメカニズムを抽出」できるとして、「比較的不変の『いいがかり資源』を組み合わせて、新しい『ヒット商品』が、『先行ヒット商品』のイメージに上乗せする仕方で移り変わっていく」という理論モデルを提唱し、ニートの先行ヒット商品として、「パラサイト」と「ひきこもり」を挙げています。
 そして、「職場のひどい待遇で痛めつけられて働けなくなった人が、若者自立塾のようなところで、農本主義的な、文化大革命の下放・労働改造のような生活をさせられて、『なんだか心が良くなりました』と言わされるような状況」が現に起きているとして、「朝6時に起床し、2キロのジョギングと腕立て伏せ……肉体労働といった日常で、二段ベッドが置かれたクーラーのない4人部屋で10時消灯。携帯電話は禁止されており、決められた時間に公衆電話を使うことしかできない。2週間に一度の外出許可もなかなか下りない」という若者自立塾がモデルとした沖縄産業開発青年協会の内実を紹介しています。
 著者は、「ニーとは、青少年ネガティヴ・キャンペーンの連鎖の中で売りに出されては、次々と移り変わる軽佻浮薄なイメージ商品のうちのひとつ」に過ぎないと述べ、「ニートの流行は、それで名を売ったデマゴーグたちも含めて、くだらないあぶくのような存在」であるとし、「しばらくすると、まちがいなくニートという言葉は消えて」いくと述べています。
 第3部「『言説』――『ニート』論を検証する」(後藤)では、「多くの『ニート』論が、単に巷の青少年問題言説の焼き直しでしかなくなっている」ことを、各メディアの「ニート」論を比較検証し、現在流布している「ニート」論が、「パラサイト・シングル」論と「社会的ひきこもり」論の混合としての側面が強く、「収入のある『パラサイト・シングル』とは違い、収入がない点において、『ニート』は『パラサイト・シングル』以下と見なされる」ことを指摘しています。
 また、フジテレビの朝の情報番組『とくダネ!』の「ニート」特集に登場した24歳の男性が発言した「働いたら負けかなと思ってる」という言葉をきっかけに「2ちゃんねる」で起こった「ニート祭り」について言及し、「ニート」が「青少年をめぐる問題の新しいトピックスとしてマスコミの関心事」となり、同時に「ニート」という存在に、「自立していない若者」「自分勝手な若者」というイメージが与えられ、「本来の定義である『15-34歳で、就業もしていなければ、教育も受けておらず、また求職活動もしていない若年層」という意味から離れていったとし、「このような『ニート』という言葉自体の独自の『発展』が、結果として人々の視線を社会構造の問題からそらせていったこと」に注目すべきと述べています。
 本書は、「ニート」という流行語が辿った数奇な道筋を追うことで、一つの言葉に込められた様々な思惑を読み解く一冊です。


■ 個人的な視点から

 「ニート祭り」のきっかけとなった「働いたら負けかなと思ってる」は、一昨年のライブドア社の忘年会で歌われた「2ちゃんねる」発の替え歌「VIPSTAR」にも登場しています。当時の「ニート祭り」を知らないとなぜこの言葉が歌詞に使われているのか分かりませんが、なんとなく雰囲気は伝わるのが不思議です。
http://www.youtube.com/watch?v=hh7ur83Rups


■ どんな人にオススメ?

・ニートを2ちゃんねるに入り浸っている人たちのことだと思っている人。


■ 関連しそうな本

 本田 由紀 『若者と仕事―「学校経由の就職」を超えて』 2006年03月02日
 宮本 みち子 『若者が『社会的弱者』に転落する』 2005年05月04日
 玄田 有史 『仕事のなかの曖昧な不安―揺れる若年の現在 中公文庫』 2005年07月20日
 小杉 礼子, 堀有 喜衣 (編集) 『キャリア教育と就業支援』 2007年03月16日
 スチュアート タノック (著), 大石 徹 (翻訳) 『使い捨てられる若者たち―アメリカのフリーターと学生アルバイト』 2006年11月14日
 熊沢 誠 『若者が働くとき―「使い捨てられ」も「燃えつき」もせず』 2007年01月10日


■ 百夜百マンガ

水のともだちカッパーマン【水のともだちカッパーマン 】

 ネーミングが著しく安直に感じられるのは気のせいじゃない・・・・・・と信じたいです。『ターちゃん』でヒットを飛ばした後の鳴かず飛ばず状態はきつかったんじゃないんでしょうか。

投稿者 tozaki : 07:00 | コメント (0) | トラックバック

2007年03月16日

キャリア教育と就業支援

■ 書籍情報

キャリア教育と就業支援   【キャリア教育と就業支援】(#785)

  小杉 礼子, 堀有 喜衣 (編集)
  価格: ¥2415 (税込)
  勁草書房(2006/2/10)

キャリア教育と就業支援
 本書は、
(1)学校におけるキャリア教育の推進と実践的な職業能力形成の仕組みの導入
(2)ほとんどの都道府県が設置した「ジョブカフェ」での総合的な就業支援
を柱とする「新たな政策展開の最前線にある方々への情報提供を目的に編集」されたものであり、他の先進諸国に遅れてこの問題に取り組む我が国にとって重要な参考事例となるイギリス、アメリカ、ドイツ、sうぇーでんの4カ国での政策展開を紹介しているものです。
 序章「なぜ若者政策を国際比較するのか」では、フリーターやニート・失業者増加の背景にあるものとして、「産業界が正社員として雇用するのは、より高学歴で一定年齢以上の者」であり、「低学歴、10代の若者に対しては正社員としての雇用機会は著しく少なくなっており、そのために、正社員としての職を求め続ければ、失業し続けることになり、非正社員に雇用口を求めればフリーターとなり、さらに、求職活動をあきらめてしまえば、ニート状態に陥ることになる」と述べています。
 著者は、企業の新卒採用がこれだけ厳しくなった要因として、
(1)景気の低迷
(2)雇用慣行の変化
(3)産業構造の変化
の3点を指摘しています。
 第1章「イギリスのキャリア教育と就業支援」では、若年無業者対策として注目されているコネクションズ政策(Connexions)が、どのような背景と経緯で導入されたのか、その政策が学校内及び学校外で具体的にどのように営まれているかについてまとめています。
 また、1998年2月に教育雇用省が発表した緑書のなかで、16歳以降の学習システムの構築に向けた国家ビジョンとして、
(1)個々人の可能性を最大限に伸張するとともに、企業を繁栄させること。
(2)競争的環境を用意し、今後の経済の発展を十分に保障すること。
(3)家族との強い結びつきや、地域において社会への参加意欲を育むことにより、社会的統合を実現すること。
(4)学習における創造性、起業心、意欲を育むこと。
の4点が掲げられたことが述べられています。
 さらに、1998年にブレア政権が導入した「若年者向けニューディール政策」(NDYP)の経験において、
(1)若者が支援を利用するのを待つという姿勢を改め、支援を必要としている若者がどこにいるかを支援側が把握し、働きかけること。
(2)支援機関のネットワーク化を行い、就業だけではないさまざまな面からの包括的・統合的アプローチを行うこと。
(3)若者が無業の状態を経験する以前に無業化を予防すること。
(4)若者に利用される支援とするために若者の意見に基づいて支援を行うこと。
の4つの課題としてまとめられたことが述べられています。
 コネクションズの支援の特徴としては、
(1)地域における統合的・継続的サービスのために、進路追跡データベースを設置したこと。
(2)在学中からの早期の働きかけ。
(3)若者の関与の推進。
の3つの点が、これまでの若者支援政策と大きく異なると述べられています。
 著者は、イギリスの経験から得られるインプリケーションとして、
(1)若者の学校から職業への移行を支援するためのひとつの方策として、教育政策と労働政策との接合が図られた。
(2)義務教育に所属している段階において、学校及び学校外機関双方から働きかけている。
(3)キャリア形成支援のプログラムの目的の広さ。
(4)社会的に不利な立場に置かれた若者への配慮が常に意識されている。
の4点を挙げています。
 第2章「アメリカのキャリア教育と就業支援」では、「Twixters」と呼ばれる、「大学卒業後、年齢的には成人を迎えながら、職を転々と変え、結婚もせず、親と暮らし、享楽的とも思える生活を続ける若者たち」の記事を紹介したうえで、アメリカにおける移行支援制度・実践から得られる日本への示唆として、
(1)学校段階におけるキャリア教育・就業支援における中核的担当者の配置とその専門性
(2)職場における体験的学習の体系性と多様性
(3)ターゲット集団を特定した積極的キャリア教育と就業支援
(4)プログラム効果測定
の4点を指摘しています。
 第3章「ドイツのキャリア教育と就業支援」では、ドイツの教育・雇用システムの特色である、「青少年の7割程度が前期中等教育終了後に、定時性職業学校に通学しながら企業での職業訓練を行う『デュアルシステム』」について解説しています。このシステムでは、「企業が訓練生と一種の労働契約として訓練契約」を結び、「この契約を結ぶために訓練生希望者は企業の選抜を受け、『訓練席』を確保することが、『第一の労働市場』として機能」しており、デュアルシステムによる職業教育・訓練を試験に合格して修了することで、「『専門労働者』や『職人』といった職業資格を持った労働者」となる「第二の労働市場」が機能していることが解説されています。
 著者は、デュアルシステム型の職業訓練の課題として、
(1)国自身が例外としてではなく訓練席を提供するか、
(2)企業に訓練席を強制的に割り当てるか、
という政策を採らない限り、第一の労働市場での需要に対応することが困難であることを指摘しています。
 そして、企業を取り巻く環境が厳しくなり、企業が「職業訓練を外部へアウトソーシングし、労働者自身の負担による職業訓練を求めるようになる」点を日本とドイツに共通する課題として指摘しています。
 第4章「スウェーデンの若者政策」では、1990年代以降の若者政策の特徴として、1999年のユースレポートに掲げられた、
(1)自立:青年期の到達目標
(2)「現在及び将来において若者がメンバーとして社会に参画し影響力(発言する機会と決定への参画)を持つこと」
(3)「若者のコミットメント、創造性、批判的思考力を社会は資源として生かさなければならないこと」
の3つの大目標を紹介しています。
 第5章「日本の若年者就業支援策」では、新規学卒者の労働需給調整において、人材供給が一時的に集中するため、
(1)学校卒業時に失業状態になる者を出さず、
(2)企業が必要な人材を計画的に採用でき、
(3)就職活動ができるだけ学校教育の妨げにならないようにする、
という目標達成のため、効率的・効果的なシステムが必要となることなどが指摘されています。
 そして、20054年4月からスタートした、「企業の即戦力重視の姿勢の中で若者にとってのハンディキャップとなっている実務経験不足という問題に対応するため、座学と企業での実習を組み合わせる『日本版デュアルシステム』」について解説しています。
 終章「キャリア教育と就業支援」では、就業に関わる若者政策の課題として、
(1)多様な職業世界に若者を方向づける
(2)若者のエンプロイアビリティを高める
(3)職業生活への移行が難しい若者への対応
(4)若者を活性化する
(5)政策を評価し、有効性を高める
の5点を挙げています。
 本書は、若者の就業支援に携わる人にとっては基本的な考え方を整理させてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書は、独立行政法人労働政策研究・研修機構(特殊法人の実態を内部告発した『ホージンノススメ』の舞台となった組織。著者とは退職金やセクハラをめぐって裁判になり労働政策を専門とする研究機関でありながら、自ら一部敗訴するという失態を晒している)の研究報告書をベースにしているため、あくまで現状の労働政策を追認するという性格が強く、出版後2年持ったないうちに目新しさはなくなってしまっていますが、読みやすい資料を整理したものとしては便利な一冊ではないでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・若者向けの就労対策の現状を押さえたい人。


■ 関連しそうな本

 小杉 礼子 『フリーターという生き方』 2006年04月04日
 小杉 礼子 『フリーターという生き方』 2006年04月04日
 宮本 みち子 『若者が『社会的弱者』に転落する』 2005年05月04日
 本田 由紀 『若者と仕事―「学校経由の就職」を超えて』 2006年03月02日
 苅谷 剛彦 『階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ』 2006年02月14日
 熊沢 誠 『若者が働くとき―「使い捨てられ」も「燃えつき」もせず』 2007年01月10日


■ 百夜百マンガ

ジョーダンじゃないよ【ジョーダンじゃないよ 】

 マイケルの方ではなく、口の周りに泥棒ヒゲを生やしたビートたけしの顔を思い浮かべてしまうのは齢のせいでしょうか。

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