2008年08月19日

公会計改革―ディスクロージャーが「見える行政」をつくる

■ 書籍情報

公会計改革―ディスクロージャーが「見える行政」をつくる   【公会計改革―ディスクロージャーが「見える行政」をつくる】(#1307)

  公会計改革研究会
  価格: ¥1,890 (税込)
  日本経済新聞出版社(2008/02)

 本書は、「公会計改革とディスクロージャーを車の両輪として、地方自治のいっそうの充実を進めて」いくことを目的としたものです。
 第1章「公会計改革の視点」(神野直彦)では、「『改革(reformation)』とは本来の姿に戻すこと」であるとして、「『公会計改革』も本来の目的を問い、公会計の本来の姿を追求していく必要がある」と述べています。
 そして、「政府にとって決算の意味は、社会の構成員の決定どおりに執行したことの承認を得て、予算の執行責任を解除してもらうことにある」として、「決算の意義は、決算を審議することで明らかにされた事実について、政治的責任を選挙などで問うことができるようにすることにある」と述べています。
 また、「企業の財務会計で発生主義を採用し、減価償却を実施するのは、利潤を確定することにある」が、政府は「利潤を確定する必要はない」ため、「政府という経済主体では、発生主義を導入して利潤を確定することには意味がない」が、「それにもかかわらず現金主義では財政状況が的確に把握できず、公会計に発生主義を導入すべきだと主張される背景には、政府機能の拡大に伴い租税という市場を通さない収入ではなく、市場を通した収入が増加していることがある」ことを指摘しています。
 第2章「自治体の経営改革を統括する」(上山信一)では、「筆者自身の官民双方における実体験をもとに、行政が企業経営にどこまで学べるのか、またその際に評価とディスクロージャーがどういう役割を果たすのか」を考えるとしています。
 そして、わが国のNPMが、「1990年代半ば以降に主に自治体に導入され、実践されてきた」、「3人の首長によって日本でもNPMが始まった」として、
・94年11月:逢坂誠二・ニセコ町長(現衆議院議員)
・95年4月:北川正恭・三重県知事(現早稲田大学大学院教授)
・95年4月:増田寛也・岩手県知事(現総務大臣)
の3人を挙げ、「いずれも従来型の与野党相乗り型選挙とは一線を画した選挙を経て当選した」共通点を指摘しています。
 また、2005年から2007年にかけての関市長時代の大阪市の行政改革について、
(1)徹底した情報公開
(2)改革の方針を具体的に公文書に記述した
(3)個別具体の事業の中身が民間企業の経営分析手法を使って解明された
(4)財政問題について単年度収支だけでなく、負債と資産のバランスを視野に入れた財政再建策を立てた。
の4つの要素を挙げています。
 著者は、これからの自治体経営にとって重要になる課題として、
(1)これからは積極的な情報公開が改革を進めるパワーソースとなる。
(2)改革にあたって公開すべき情報の中身を進化、あるいは深化させなければならない。
(3)行政情報を外から評価する"情報市場"の整備が必要である。
の3点を挙げています。
 第3章「都市・自治体マネジメントの創造」(大住荘四郎)では、自治体のマネジメントの意思形成に共通するアプローチ手法として、
(1)マーケティング的アプローチ:組織の外部環境に着目し、住民のニーズや外部の期待を正確に抽出することで、地域・都市マネジメントからみたビジョン(将来像)や公共サービスの設計を目指す。
(2)戦略的アプローチ:組織を取り巻く外部環境の変化を組織のミッションとの関係で把握し、組織のあるべき姿(ビジョンとゴール)を導き、それらを実現するための施策体型へのリンケージを図る。
(3)組織論的アプローチ:急激な環境変化に適応できる柔軟で活力ある組織づくりを目指す。
の3つのアプローチを紹介しています。
 また、「地域の潜在的な人材・地域の資源を活かし、地域の発展や公共サービスの確保のための多元的な都市・地域マネジメント像」の潮流を、「NPS(New Public Service=ニュー・パブリック・サービス)」と呼ぶこともあることを紹介しています。
 第5章「公会計改革と総務省方式改訂モデル」(森田祐司)では、
「自治体経営に必要な情報は、現金主義や発生主義で表される財務情報だけではない」として、「過去情報と将来情報」、「財務情報と非財務情報」の2つの切り口によって、
・行政評価(過去情報・非財務情報)
・マニフェスト・総合計画(将来情報・非財務情報)
・財務諸表(過去情報:財務情報)
・予算・財政計画(将来情報:財務情報)
の4つに分類しています。
 第7章「自治体がディスクロージャーをする意義」(石原俊彦)では、「自治体の行政経営改革における会計(学)の重要性を、事務事業評価と管理会計、ディスクロージャー(情報開示)、ならびに、財務会計の視点から考察する」としています。
 そして、わが国の自治体で採用されている事業別予算の克服すべき欠点として、
(1)事業別予算が、人件費を含めたフルコストの事業予算になっていない。
(2)事業別予算における「事業」を、財政計画上の事業名としているケースがほとんどで、財政計画上の事業名と総合計画から演繹された実施計画の事業名に必ずしも関連していない。
(3)「目」の下で個別の事業名が設定されている関係で、款・項・目を跨いだ複数の事業を統合した事業レベルでの予算額を集計することが困難になっている。
の3点を挙げています。
 また、「自治体の行財政改革を積極的に展開する際の『足かせ』」として、「各自治体の財政か職員の意識改革の遅れ」を挙げた上で、「バランスシートを作成する目的は、ほぼ財政課職員しか理解できていない自治体の財政構造を、民間企業流の決算書で整理し、それを住民に公表することで、より積極的な情報公開を行うことにある」と述べています。
 第8章「情報公開と市民参加の自治体経営」(福島浩彦)では、「これまでの公共は『官が支配する公共』だった」とした上で、「これからは地域のコミュニティの中で、公共を担う民の主体を限りなく豊かにすることによって、公共はより充実させ大きくしながら、役所はより効率的で小さなものにしていく、という視点が大切」だと述べています。
 そして、議会の役割は、「市民の合意を作り出すこと」と「行政の監視」の2つがあるが、「多くのいj地帯議会は、市民の合意形成の仕事は首長(執行部)に任せ、議会は要望と最後の決定だけを行っている」ことを指摘し、「この『市民の合意を作り出すこと』は、立法機関としての議会の最も重要な仕事だ」と述べています。
 第10章「求められる地方自治体のアニュアルリポート」(小林麻理)では、米国において、「公会計基準審議会(GASB)」が設定した、「地方政府の財務報告に関する基本原則」にならい、わが国においても、「統一的な財務報告モデルとして自治体アニュアルリポートのフォームを確立し、アカウンタビリティを履行することが喫緊の課題である」と述べ、「自治体財政の透明性の実現のみならず、すべてのユーザーに対して、期間比較、相互比較、標準比較を行なって企業の財務分析をするのと同じ環境を自治体財政について提供すること、比較可能性を高めるとともに情報共有の有用なメディアとして機能することにこそ意義がある」と述べています。
 本書は、テクニカルな会計論にとどまらず、自治体のガバナンスそのものを考えるきっかけを与えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 こういう「~研究会」名義の共著ものの場合、人によって言っていることが180度違ったり、逆に同じような論調過ぎてつまらなかったりと、結構当たり外れが大きいものですが、本書は、公会計を軸に、さまざまな論調が適度に分かれていてお買い得ではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・地味ではある公会計が実は重要だということを知ってしまった人。


■ 関連しそうな本

 桜内 文城 『公会計革命―「国ナビ」が変える日本の財政戦略』 2005年02月28日
 山本 清 『政府会計の改革―国・自治体・独立行政法人会計のゆくえ』 2007年04月24日
 石原 俊彦 『地方自治体の事業評価と発生主義会計―行政評価の新潮流』
 石原 俊彦, INPMバランススコアカード研究会 『自治体バランス・スコアカード』 2005年11月01日
 ポール・R. ニーヴン 『行政・非営利組織のバランス・スコアカード―卓越した組織へのロードマップ』 2006年07月12日
 ロバート・S. キャプラン, デビッド・P. ノートン (著), 吉川 武男 (翻訳) 『バランス・スコアカード―新しい経営指標による企業変革』


■ 百夜百マンガ

赤胴鈴之助【赤胴鈴之助 】

 第1回目だけは『イガグリくん』の福井英一が書いていますが、売れっ子の多忙がたたった福井の急逝によって、作者が交代しています。
 最近では、『代打屋トーゴー』で知られる、たかもちげんの死後、アシスタントが連載を引き継いだ例があります。


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2008年06月24日

なぜ、改革は必ず失敗するのか-自治体の「経営」を診断する

■ 書籍情報

なぜ、改革は必ず失敗するのか-自治体の「経営」を診断する   【なぜ、改革は必ず失敗するのか-自治体の「経営」を診断する】(#1251)

  木下 敏之
  価格: ¥1995 (税込)
  WAVE出版(2008/6/16)

 本書は、前佐賀市長である著者が、「佐賀市役所の改革の一例とともに、その後の地方自治体経営の研究やビジネス経験で見えてきた、今後の自治体経営のあるべき方向」を描いたものです。著者は、本書執筆の動機について、「このままでは次世代に申し訳ない」、「今、自治体経営が大きく方向を変えていけば、多少は幸福な未来になるのではないか。そのために私たちはどうすればいいのだろうか」という気持ちから、書き始めたと語っています。
 第1部「ある自治体『経営者』の挑戦」、第1章「バブルの残滓を除去する」では、1999年に佐賀市長に当選した著者が、「何からはじめるべきか」という優先順位に悩んだ結果、
(1)採算性のない事業の廃止・縮小
(2)市役所の体質改革(人口減少と高齢化の時代に合わせた大幅行革と都市計画等の見直し)
(3)産業振興策と子育て支援、教育の充実
の3つの重点課題に、優先的に取り組むことにしたと述べ、結論として、「1期目の4年間は、(1)に重点を置き、2期目に、(2)と(3)について、最大限の努力をする、という大まかな方針」を立てたと述べています。
 第2章「経営刷新は人事からはじまる」では、給料では大した差がつかない役人は、「自分のポストがどうなるか」を非常に気にするため、「大部分の役人は、ポストでコントロールできる。つまり、人事がすべて」だと述べ、3月16日の就任直後の「4月1日人事を止める」という決断をした狙いについて、
(1)管理職は実力のある人だけに絞りたかったので、能力を見きわめる時間が欲しかった。
(2)人事権が誰にあるのか、それを職員に強烈に見せつけたかった。
の2点を挙げています。
 また、佐賀市役所では、人事評価が行われておらず、市役所内の色々な派閥、グループで人事が動いていた実態にメスを入れ、人事評価の基準を細かく作って評価制度を動かしたこと、そして、「職員の退職後の就職先として市役所が準備していたポストを大幅に削減し、そのポストを市民からの公募に切り替えるということ」をしたことを述べています。
 一方で、最初の助役「人事」をめぐっては、「守旧派にきれいにはめられて」しまったとして、選挙中から相談していた議員に呼ばれて割烹に行くと、「最大会派の保守系の人たちが何人も座っている」という席に座らされてしまった、という苦い経験を語り、「政治家は清濁を併せ飲まねばといわれますが、一度、清濁の『濁』を飲み込んでしまうと、『濁』のパワーに染まってしまうような気がして、これ以後も、どうしてもそのようにできませんでした」と語り、「『濁』を飲みながら軸足を『清』に置き続けるには、まだまだ修行が足りなかった」と述べています。
 第3章「経営効率化のための公共資産売却」では、市長就任後に、「何か象徴的なものを廃止しよう」と考え、「黒塗りの市長専用車・セルシオ」と、「職員が2人にアルバイトが配置され」、「これまで職員や議員が上京した際の休憩や便利な案内係として機能」していた東京事務所を廃止したと述べ、「現実には何も困ることはなかった」としています。
 また、不必要な資産の「民間売却の基本方針」として、
(1)市役所が行う必要のない事業は廃止する。
(2)市役所が行う必要がある事業であっても、極力、民間委託を検討する。
(3)市の職員が行った方がよい事業であっても、徹底した効率化を考える。
(4)困難なテーマであっても効果の大きなものから先に取り組む。
の4点を挙げ、佐賀市営のガス事業を民間に33億円で売却したが、市営バス事業は、著者が落選したために「いまも市営」だと述べています。
 第4章「談合体質と向き合う」では、公共事業の入札において、「ともかく談合を減らす工夫」をしてきたとして、岐阜県の希望社という建設会社と、「CM(コンストラクション・マネジメント)契約」を結び、小学校の改築プロジェクトを行ったと述べ、「入札の結果として落札率の低下にだけ関心を持つことは間違っている」こと、「価格と品質のバランスが重要で、それまでの安ければいいではないか、という認識の間違いに気づかされ」他と述べています。
 そして、「はじめに談合ありきの世界」である建設業の世界の問題以上に、「行政側に『いいものを安く作る』という発想がなかったことが問題」だと指摘しています。
 また、談合防止に手を尽くしていた著者に、「闇の勢力から圧力がかかってきた」経験として、「妻の父が2回襲われた」ことを明かし、「資格を厳しくすればするほど、業者が限られ、いわゆるブラックな勢力は入札に参加できなくなる」ことが、気に入らなかったために、「私ではなく、妻の父を襲った」のではないかと語っています。著者は、「改革を実行すればするほど、特定の人たちから大きな恨みを買うことに」なり、「改革派首長たちは、少なからず、何らかの嫌がらせを受け、家族、親族に迷惑をかけてしまう。それは悲しい事実です」と語っています。
 第5章「実を結んだ経営改革」では、11%の人員削減や談合防止の結果の落札率の低下(98%→91%)などのほか、「情報公開や住民参加も同時に積極的に推進」した結果、「日経行政革新度ランキング」で、2006年には全国10位、九州では1位にランキングされたことについて、「私が行った佐賀市の一連の改革が評価された」と述べています。
 第6章「市街地の活性化と産業振興対策」では、中心市街地が衰えた理由について、「もっとも大きな理由は、日本の都市計画」だとして、「政治的には農村部出身の議員の意見が強」いため、「郊外の開発の抑制」が非常に困難であること、「街中心部に集まっていた公共施設が、郊外に分散して立地してしまったこと」を指摘しています。
 著者は、日本政策投資銀行の藻谷浩介参事役との出会いをきっかけに、「拡散した市街地をもう一回コンパクトにしよう」という対策を打ち、「6000人の人に、町を歩かせよう」という具体的な目標の達成のためには、
・働く人を増やす
・住む人を増やす
・遊びに来る人を増やす
の3点を「同時並行で進めていかなければ」ならないと述べています。
 また、市長時代に、「自分自身にもっとも限界を感じた」こととして、「建設業に代わる産業をどうやって育てればいいのか?」という課題を挙げ、「長期的に日本の人口が減少し、高齢化が進む」なかで、「財政は悪化し、公共事業は減少」するので、「建設業の代わりに、どのような仕事で食べていくのか」が「地域最大の課題」であると述べています。そして、「傑出した産業はなく、今後、これから伸びていくという確信の持てる産業も」ないため、「いくつかの企業を応援してみて、そのうちどれかが成長するかもしれないという『雑木林』作戦をとること」にしたと述べています。さらに、2005年9月に小糸製作所の誘致に成功した決め手として、「市役所側の意思決定の早さが大きな要因だった」として、「企業側の工場進出の意思決定から現実の稼動開始までの期間がますます短くなってきている」なか、「そのスピードから遅れないように、市役所側の意思決定もできるだけ一日以内にするように」したと述べています。
 第7章「乗り越えられなかった壁」では、「県と市の関係では分権はなかなか進まないのが実態」だったとして、「佐賀市の職員は県庁に対しても上下意識を持つ傾向」があったことや、下水処理上建設の際に、ドイツで実用化されている「リンボーシステム」を、「現場を知らない県庁職員」は補助対象事業にすることに了解せず、「いろいろと『難癖』をつけてきた」が、「国の職員は技術論で了解すると、話は早」く、「県庁よりも国のほうが柔軟なことが多い」ことなどを挙げています。
 また、地方の人材不足について、その根底には、「地方の学校教育における、偏差値の高い大学に入学し、一流企業に就職するのが『人生の成功』という考え方がある」と述べ、「優秀な人材を都心に供出するだけで、地元には戻ってこない構造になっている」ことを指摘しています。
 「おわりに」では、2005年10月23日の選挙で著者が敗れた理由について、「行革に反対する社民党が候補を立て、そこに、公共工事が減り、談合もしにくくなった現状に不満な層が乗る。さらに公務員の既得権益保護の立場から、実質応援のため共産党は独自候補を立てない」という枠組みを理由として挙げています。
 そして、「既得権益を次から次にはがしていく」という「改革」の利益は、「特定の層に集まることはなく、薄く広く配分される」ため、「強力な味方」ができるはずがなく、一方で、「徐々に強力な反対票が形成されていくこと」を、「改革というものが本来的にかかえる厳しさ」だと述べています。
 第2部「自治体経営の未来へ」、第1章「夕張市財政破たんの教えるもの」では、夕張の道を自動車で走っていた著者が、「穴の開いた道路の補修のために、アスファルトの代わりに道路の穴に」銀色のビニール袋の土嚢が埋められているのを見て、「市役所が破産するということは、こういうことなのだ。それが身に染みてわかった」と語っています。
 そして、夕張市の人口推移や財政再建計画について解説した上で、「いま、いうことができるのは、財政の厳しいといわれている自治体の経営幹部や住民は、税収や人口の減少以上に、職員やサービスの削減をしなくてはならないということを、夕張の貴重な教訓として受け止めなければならない」と述べています。
 第2章「自治体『再生』はありえない」では、「これから先は、昔に戻す『再生』ではなく、人口構造の変化を前提として、新たにどのような地域を形成していくかを考えた対策を打たなくてはならない」として、「日本の人口構成の今後の変化を考えれば、『再生』という言葉はもはや使わない方がよい」と述べています。
 また、世の中では、「人口減少と少子高齢化」などと、「人口減少」「少子化」「高齢化」という3つの現象を、「ひとまとめにした表現」が多いことを、「問題を見誤らせる危惧を感じ」ると述べ、「これらはそれぞれ別の現象であり、その理由も対策も違う」として、
(1)人口減少はどのように進むのか
(2)働く世代の人口はどのように変化するのか
(3)高齢化はどのように進むのか
(4)少子化はどのように進むのか
という「基礎データを把握するのが、自治体経営を考える上での出発点」となると指摘しています。
 著者は、「市町村ごとに、どのように人口が推移するのかを住民に伝えていくことは自治体運営の基本」であるとして、「自助努力の必要性を理解してもらうためにも、予測をわかりやすく、かつ、何度も住民に伝えていかなければならない」と主張しています。
 第3章「首都圏に埋められた時限爆弾」では、「首都圏ではこれから急速に高齢化が進」むにもかかわらず、「各都道府県の人口一人当たりの老人福祉施設の数を比較する」と、「東京や神奈川等、首都圏の自治体の整備が、ほかの地域と比べどれだけ少ないかがおわかりになるのではない」かと指摘しています。
 第5章「自治体経営のコストカット」では、現在、省エネのベンチャー企業の経営に携わっている著者が、「ノウハウをうかつにしゃべるとすぐにマネされてしまう恐れがある」ことを「役所と違うな」と感じるのに対し、「役所の世界はまったく別」で、「無料でノウハウを提供してもらえるのに、また、他の自治体の優良事例が雑誌などで頻繁に掲載されるのに、まったくマネをしようとは」しないことを指摘し、「自分の自治体の将来を考えると、役所もマネをどんどんするべき」だと述べています。
 第6章「富を生み出す仕組みを作るために」では、1955年からの長期間のジニ係数の推移を見ると、「近年の各都道府県における一人当たりの県民所得の上位を占めるのは三大都市圏にある都府県で、下位県は地方圏にある県ですが、長期的に見ると、所得格差は縮小している」ことを指摘し、「これまで、何十年も地方に所得移転を続け、膨大な量の公共事業を実施してきたにもかかわらず、どうして多くの地方が自立できないのか。建設業以外の産業が育たないのか。その理由を分析しないままに地方に財源を移転し、公共事業を増やしたとしても、現状は何も変わ」らないと述べています。
 そして、地方の「本質的課題」として、「地方の『人材格差』の是正」を挙げ、「この問題に手をつけない限り、決して地方は豊かになることはありません」と述べた上で、
(1)首長・公務員の産業拡大や業務のスピードについての能力不足
(2)若者への教育における差
(3)地方の企業で働く人の人材不足
の3点を指摘しています。
 そして、「資産も名声もある企業経営者の方に、損得抜きで政治の世界に入って来て欲しい」と述べ、「倒産企業の再建で地獄を見た方や、新しい事業を起こして、富を生み出した方など」が、「培った経営者としての能力を、自治体経営に役立てていただきたい」と述べ、「国政で活躍する国会議員は、さまざまな組織の経営や地方自治体の首長を経験した後で立候補すべき」だと主張しています。
 本書は、自治体を「経営する」ということの大変さとやりがいとを、自身の経験を元に分析的に解説した一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書の中でもさらりと書いてありますが、ショッキングだったのは、著者の義理のお父さんが「ヒットマン」に狙われたことでしょうか。刃渡り37センチの「鎧通し」にもひるまず、回し蹴りで反撃したという空手の達人ぶりは、映画のシーンのようですが、「改革」の難しさの本質の一つには、既得権の維持を図ろうとする勢力との本当の意味での命がけの対峙があるからではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・「改革」という言葉がきれいごとだと冷めて見る人。


■ 関連しそうな本

 木下 敏之 『日本を二流IT国家にしないための十四ヵ条―佐賀市「電子自治体」改革一年の取り組みから』 2006年10月18日
 鬼島 紘一 『「談合業務課」 現場から見た官民癒着』 2006年03月15日
 桑原 耕司 『談合破り!―役人支配と決別、命がけの攻防記』 2007年09月25日
 桑原 耕司 『公共事業を、内側から変えてみた』 2006年02月22日
 伊関 友伸 『まちの病院がなくなる!?―地域医療の崩壊と再生』 2007年12月12日
 村上 智彦 『村上スキーム 地域医療再生の方程式』


■ 百夜百マンガ

THE STAR【THE STAR 】

 「演技」を格闘技さながらの命がけの戦いにしてしまった作品。勝新みたいな人も出てきましたが、基本的な構造はジャンプ・トーナメント的なインフレーションする敵との戦いではないかと思います。

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2008年05月09日

入札激震―公共工事改革の衝撃

■ 書籍情報

入札激震―公共工事改革の衝撃   【入札激震―公共工事改革の衝撃】(#1205)

  
  価格: ¥1,470 (税込)
  日経BP社(2004/12)

 本書は、公共工事の入札をめぐる制度の変遷を克明にたどり、「それが公共工事や建設産業にどんな影響を与えてきたのかを様々な実例やデータを基に検証したもの」です。
 第1章「大胆に設計段階から施工者に任せる」では、2004年7月27日に入札公告が行なわれた「東京国際空港(羽田空港)D滑走路建設外工事」について、「設計・施工一括発注方式」に始まって、「維持管理費込みでの発注」、「総合評価落札方式」、「異工種JV」、「出来高部分払い」など、「これまでの公共工事の入札では考えられないほど多様な入札・契約制度を併用」したものである上、「工事の受注者には施工だけでなく、その前の設計段階から任せる『設計・施工一括発注方式』を採用した点」を、特に注目すべきであると述べています。そして、「設計・施工一括発注方式」が、「工事の受注者が持っている施工のノウハウや独自の施工技術を設計に反映しやすい」と述べています。
 また、「D滑走路工事の入札におけるもう一つの目玉」として、「国交省が求めた場合は完成後30年間の維持管理も設計・施工を担当したJVが担う点」を挙げています。
 第2章「民間の見積もり合わせを導入」では、「民間企業のように複数の建設会社と交渉して有利な条件で工事の発注ができないものか」という問題意識から国土交通省が、「公共事業コスト構造改革プログラム」に、「提案と対話による技術力競争を重視した調達方式の試行」を盛り込んだことを、「国交省版の『交渉方式』である」と述べています。
 そして、中部国際空港の事業費削減の事例に関して、事業費削減の成功要因としての契約手続きに関して、
(1)公共事業の予定価格に相当する「制限価格」を設定しながら、その価格に上限拘束性をもたせずに参考価格としたこと。
(2)中部国際空港が独自に調査した資材単価を使って制限価格を設定したこと。
(3)受注希望者が提出した見積価格が制限価格を下回った場合、最低の価格を提示した企業と契約すること。
の3点を挙げています。
 第3章「一般競争入札の導入前夜」では、「国の機関の入札・契約を制約する会計法や、自治体の入札・契約を制約する地方自治法において、指名競争入札は実は例外扱い」であり、「90年代前半までほとんど使われなかった『一般競争入札』が、法的には実は原則なのである」と述べています。
 そして、指名競争入札においては、「発注者の『恣意性』が問題になること」が多く、受注者にとっては、「受注調整、いわゆる談合をするうえでは、都合のいい仕組み」である一方、発注者にとっても、「指名される側の建設会社よりも、優位な立場に立ちやすい」上、「指名によってある程度の施工実績のある建設会社を選んでおけば、施工途中で工事を放棄されたり、手抜き工事をされたりといった心配は少なくなる」という、「それなりにメリットの大きな方式」であったと述べています。
 しかし、93年に「ゼネコン汚職事件」が置き、入札・契約制度の改革が続いたことに加え、80年代後半以降、「建設市場の国際化の流れ」から、「ガイアツ」という名の改革を求める圧力がかかっていたと解説しています。
 第4章「ゼネコン汚職事件で本格化した改革」では、「ヤミ献金疑惑」が明らかにあった直後の93年4月に、米国から「日本の建設会社は政治献金などを通じて、入札で優遇される一方、海外の建設会社は入札で不当に差別されている」地の指摘があり、同年6月の日米建設協議で、「米国が指名競争入札の廃止と一般競争入札の導入を求めたほか、さらなる独禁法の強化」を求めたとして、「入札・契約制度の改革を求める圧力はさらに強まってきた」と解説しています。
 そして、93年12月にまとまって中建審の入札・契約制度の改革案が、一般競争の入札の導入を目玉に、「今日に至るまで続いている日本の入札・契約制度改革のキーワード」である、「透明性」と「客観性」、「競争性」の3つのキーワードがすべて盛り込まれていたことを指摘しています。
 第5章「相次ぐ不祥事が情報公開へ突き動かす」では、1998年2月に中建審が、「予定価格を入札の後で公開する『事後公表』の取組に踏み切るべき」だと建議したと述べた上で、「予定価格の公表では自治体の方が先行している」として、「都道府県と政令市の約8割が予定価格の事前公表に踏み切った」と述べています。
 そして、「予定価格を事後公表した直後に落札率が低下した事実は、全国紙でも取り上げられるほどの話題となった」と述べたうえで、「予定価格や最低制限価格を事前公表するメリット」として、
(1)透明性の向上
(2)競争性の確保
(3)役所の職員が予定価格を探ろうとする不正行為に巻き込まれにくくする
の3点を挙げ、特に「不祥事をきっかけにして事前公表を急ぐ自治体」では、(3)を重視しているところが多いと述べています。
 第6章「コスト削減の切り札登場」では、「技術の裏づけもなく、単に過当競争の結果として落札価格が下がったのだとすれば、『安かろう、悪かろう』の構造物を生み出すことにつながりかねない」と述べ、90年代後半から、「民間企業の技術力を生かしてコストを下げる『VE(バリュー・エンジニアリング)方式』」が注目され始めたと解説しています。
 そして、VE方式のバリエーションとして、実施のタイミングによって、
(1)設計VE方式
(2)入札時VE方式
(3)契約後VE方式
の3種類の方式があると解説しています。
 一方で、課題として、
(1)設計内容が完全に固まった段階で施工方法だけを見直す入札時VE方式や契約後VE方式は、設計そのものを見直す設計VE方式に比べて制約条件が大きく、コストダウンの効果を得にくい。
(2)施工者から技術提案を受けるケースは少ない。
の2点を挙げています。
 第7章「価格競争の激化で超安値落札が急増」では、「制度改革に専攻して取り組んだ自治体」から「落札価格の大幅な下落が表面化した」とした上で、「良質な工事をする能力のない入札者を、てい入札価格調査で排除するのは難しかった」が、「かといって制度改革で品質が著しく低下したかというと、そうともいえない」と述べています。
 そして、「利益が上がるとは思えないような安値で落札するケースが後を絶たない」理由として、「価格競争をせずに"話し合い"で受注できる市町村発注の指名競争入札があるからだ」とする「建設会社の元幹部」の証言を紹介しています。
 第8章「増える技術競争を競う入札」では、「発注者が施工方法を限定する範囲を少なくし、民間企業から幅広く技術提案を受け付ける」ことで、「構造物に必要な機能や品質を確保しながら、一方で事業のコスト削減も図れる」と述べた上で、「民間の技術力を活用する代表的な入札・契約方式」として、
(1)設計・施工一括発注方式
(2)性能規定発注方式
(3)総合評価落札方式
の3点について解説しています。
 そして、「総合評価落札方式」が、「技術提案の優劣と入札価格の安さとをどのように勘案するかによって、仕組みが変わってくる」として、
・除算方式:技術提案による特典を入札価格で割る
・加算方式:技術提案と入札価格の得点を足す
の2つの方式を挙げ、前者はさらに、
・総合評価管理費計上型:標準案との差を定量評価
・標準加算点型:定量評価の「数値方式」のほか、定性評価の「判定方式」、「順位方式」がある
の2つに分けることができると解説し、「標準加算型の導入によって、発注者は騒音値の低減や工期の短縮日数などといった技術提案の評価の対象となる『評価項目』の検討に力を注ぎやすくなった」と述べています。
 また、自治体でも、東京都や神奈川県、埼玉県、兵庫県などが総合評価落札方式を導入し始め、「国交省が使っていない方式」である「加算方式」を「試行し始めた自治体も出てきている」と述べています。
 第9章「入札・契約制度改革は第二幕へ」では、改革の3本柱のうち、「透明性や客観性の2つの観点から見れば、かなり改善されてきたといえるかもしれない」としながらも、「競争性の視点から見ると、これまでの入札・契約制度改革が十分であったかいなかの判断は難しいところだ」と指摘しています。
 そして、「今後の入札・契約制度の行方にも大きく影響しそうな法案が、2004年10月に始まった秋の臨時国会に次々と提出された」として、
・独占禁止法の改正案
・「公共工事の品質確保の促進に関する法律案(品質確保法)」
の2つを挙げ、解説しています。このうち、後者については、「談合によって落札価格を一定水準に保つことによって、公共工事の品質が確保されてきた面がある。談合がなくなって価格競争が激しくなれば、落札価格は下がり、手抜き工事などが横行する」という主張が建設業界の一部にあるとして、「品質確保という誰もが反対しにくい"大義"を前面に押し出しているものの、最大の狙いは、行き過ぎた価格競争に歯止めをかけることにある」と述べています。
 さらに、桐蔭横浜大学の鈴木教授による、「地元企業を育成する立場と、調達者としての立場とのバランスに悩んでいる自治体も多いようだ」との分析を紹介しています。
 本書は、ここ15年ほどの入札制度改革の動きをおさらいする上で便利な一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書は、さすがに専門紙の記事を基にしているだけあり、読み手も基本的には建設関係者を中心に捉えているのではないかと思われます。しかし、一般書籍として販売するのに十分な判りやすさも備えていて、建設関係者以外にも安心してオススメできる一冊です。


■ どんな人にオススメ?

・公共工事なんて全部談合だ、と思っている人。


■ 関連しそうな本

 桑原 耕司 『談合破り!―役人支配と決別、命がけの攻防記』 2007年09月25日
 桑原 耕司 『公共事業を、内側から変えてみた』 2006年02月22日
 桑原 耕司 『「良い建築を安く」は実現できる!―建築コストを20%も削減するCM方式』 2006年04月12日
 武田 晴人 『談合の経済学―日本的調整システムの歴史と論理』
 加藤 正夫 『談合しました―談合大国ニッポンの裏側』
 鬼島 紘一 『「談合業務課」 現場から見た官民癒着』 2006年03月15日


■ 百夜百マンガ

カスミ伝【カスミ伝 】

 忍者漫画ならではの楽しみ方というか、お約束を踏まえて見せるという点では、「サル漫」に近い部分もあるような気もします。ゆうきまさみの短編集にも似たようなくの一漫画があったような。

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2008年02月26日

社会が変わるマーケティング――民間企業の知恵を公共サービスに活かす

■ 書籍情報

社会が変わるマーケティング――民間企業の知恵を公共サービスに活かす   【社会が変わるマーケティング――民間企業の知恵を公共サービスに活かす】(#1132)

  フィリップ コトラー/ナンシー リー (著), スカイライトコンサルティング (翻訳)
  価格: ¥2520 (税込)
  英治出版(2007/9/4)

 本書は、「半世紀以上にもわたって民間企業で顧客満足を高め、売り上げと利益を上げるために使われてきた『マーケティング』を、社会に変革をもたらすために活用することを提案している」物です。著者は、本書執筆の動機を、「市民ニーズの充足と公共機関のパフォーマンスの改善の間の明らかな相関を発見し、それを活用するにはどうすればよいのか」と述べ、「この目標を達成するために、基本的かつ実証されているマーケティングの原理と手法をどのように活用するか」が本書の中心テーマであると述べています。
 第1章「市民の要望にこたえる」では、「政府の仕事は企業の仕事とは本質的に異なる」と主張し、「政府機関の活動をもっと効率的、効果的、革新的なものにしてもらいたいという市民の願いは夢想だという」考えに対し、「これを非効率、浪費の言い訳に使ってはいけない」と主張し、オズボーン=ゲーブラーの『行政革命』を挙げています。
 そして、「公共部門で働く人たちにもっとも見過ごされ、誤解されてきた分野の一つ」がマーケティングであるとして、「広告」と誤解されがちであることを述べた上で、「マーケティングは、市民のニーズを満たし、本当の価値を届けたいと願う公共機関にとって、最善の計画を作成するための基本概念である」と述べています。
 第2章「マーケティングの考え方を理解する」では、マーケティングの基本原理として、
(1)顧客中心主義に徹する:あなたの顧客が常に「私に何の得があるのか」と問いかけているのだと想像する。
(2)市場を細分化し、ターゲットを定める:市場の細分化によって、サイズが大きく質的ばらつきを持った市場を、より小さな同質のセグメントに分割することで、セグメントごとの独自ニーズに適した製品やサービスをより効率的、効果的に見つけ出すことができる。
(3)競争相手の特定:競争相手を特定するときの秘訣は「近視眼的マーケティング」を避けることである。
(4)マーケティングの4Pを利用する:理想的なマーケティング計画のシナリオでは、プロモーションの決定は、プロモーションされるべきもの(製品、価格及び流通チャネル)の決定が済むまでは、検討されることもない。
(5)活動をモニタリングし、修正を加える:目的と目標を明確に理解して初めてスタートできる。
の5点を挙げています。
 第3章「サービスを創造する」では、「まず公共機関における製品の定義とその要素について説明」し、「公共部門にとってもっとも重要な製品マネジメントの機能である『プログラムとサービスの開発とその品質の向上』に焦点を合わせる」としています。
 そして、「マーケティング的なものの見方、特に『物事を改善しようという意識』が大きく貢献すること」を示したものとして、英国の有名シェフが、「英国の学校食堂で出される脂っこく、塩辛い、加工された、甘すぎる食事」を、「天然素材や果物、(目立たないように工夫した)野菜をたくさん使った、調理したての、栄養価の高い食事に替えたい」として始めた「もっとましなものを食べさせて(フィード・ミー・ベター)」プロジェクトが、「質の悪い食生活を送り、運動不足で太り始め、不健康になってきた国民の関心を引いた」と紹介しています。
 また、マーケティング論が、製品を、
・核:製品としての本質
・形態:外見からはっきりとわかるもの
・付随機能:顧客の期待を超える付加価値のある特徴やサービスを付け加えた製品
の3つのレベルに分けていることを論じています。
 第4章「魅力ある価格設定とは?」では、米国運輸省外局の国家道路交通安全局による自動車事故による死傷者と経済的損失現象のための「クリック・イット・オア・チケット」キャンペーンを取り上げています。
 そして、マーケティング戦術としてのインセンティブについて、
・金銭的インセンティブ:期待する行動のコストを引き下げる。
・金銭的負のインセンティブ:競合する行動のコストを増加させる。
・非金銭的インセンティブ:期待する行動の知覚価値を高める。
・非金銭的負のインセンティブ:競合する行動の近く価値を減少させる。
の4つの戦術を紹介しています。
 第5章「流通チャネルと最適化する」では、「商品を届けるために使う手段であり、市民がその商品に接する手段」である「流通チャネル」について、「マーケティング・ミックスの中では、これはPlaceのPであり、担当者が直面するもっとも重要な意思決定の一つと考えられている」と述べ、ネパールにおけるコンドームの流通改善の事例を紹介しています。
 第6章「ブランドを創造する」では、「公共機関がプログラムの望ましいブランド・イメージを作り出し、維持するためには何をすべきかについて考えていく」としています。
 そして、米国環境保護庁が「地球を守る」ブランドである「エナジースター」というプログラムを創設し、住宅市場において、「強力なブランド戦略が、政府と産業界のもっとも成功した協力関係を築くのに、重要な役割を果たした」と述べています。 著者は、「公共機関も、見込み客の心の中にある希望の場所を確保するためにブランディング戦略を利用すべきである」と述べ、「米国の森林保護官であると同時に、世界で最も認知度の高い想像上のキャラクターの一つ」である「スモーキーベア」や、「米国人に『犯罪に立ち向かおう』と呼びかけ、その方法を教えるために使われたブランド」である犯罪防止犬「マクグラック」等の例を紹介しています。
 第7章「効果的なコミュニケーションを行なう」では、コミュニケーションについて、「望ましいポジショニングとブランド・アイデンティティをしかるべき場所に、釘を打ち付けて固定する、いわば金槌の役割を果たすツールである」と述べています。
 そして第4の「P」であるプロモーションについて、特に「説得力のあるコミュニケーション」という意味で使われると解説しています。
 また、マーケティング・コミュニケーションの中核となるメッセージ作成の出発点として、
・何を知らせたいか
・何を信じてもらいたいか
・何をしてもらいたいか
の3つの質問を挙げています。
 さらに、メッセージを伝えるスポークスマン起用の例とて、2005年に日本で行われた「冷房温度を上げてエネルギーの節約を呼びかける全国的なキャンペーン」(クール・ビズ)において、「半袖シャツにノーネクタイ姿の小泉純一郎首相の写真が新聞広告に掲載された」例を挙げています。
 第8章「顧客満足度を高める」では、「マーケティングの原理とテクニックをどのように使えば、顧客サービスを改善し、顧客満足を高めることができるのか」をテーマとしています。
 そして、「水のタンクを持った平和維持軍」フェニックス消防署の例を挙げ、「サービス提供のあり方を決める主な要因が顧客のニーズや認識、感情」であり、「結局、ビルや家屋に投票権はない。投票するのは人間なのだ」というブルナチーニ署長の言葉を紹介しています。
 また、顧客満足を高める実践活動として、
(1)優れたサービスをする従業員を支援する
(2)社会基盤とシステムが障壁になっていないか確認する
(3)顧客管理システムを検討、改善する
(4)総合的品質管理によるベネフィットを発見する
(5)期待度と満足度を追跡し、評価する
の5点を挙げています。
 第9章「ソーシャル・マーケティング」では、「健康改善、傷害事故防止、環境保護、地域貢献に影響を与える活動に対して特に用いられている」理論であると解説した上で、フィンランドの「ファットからフィットへ」運動などの事例を紹介しています。
 そして、「ソーシャル・マーケティング」を、「マーケティングの原理と手法を使って、個人やグループ、社会全体のベネフィットのために、ターゲット・オーディエンスに影響を及ぼして、ある『行動』を自発的にとらせたり、拒否させたり、修正させたり、放棄させることである」と定義し、その目的は、「生活の質を向上させることにある」と解説しています。
 そして、成功に近づけるための原理として、
(1)過去のキャンペーンの成功例を活用する
(2)行動する準備ができている市場から始める
(3)一度に一つ、簡単で実行可能な行動を促す
(4)行動の変化を妨げる障害を取り除く
(5)本当のベネフィットを目の前に差し出す
(6)競合する行動のコストをあきらかにする
(7)目に見えるモノやサービスを勧める
(8)非金銭的インセンティブ(評価や報償)を与える
(9)メッセージにユーモアをこめる
(10)意思決定のタイミングに合わせたメディア・チャネルを使う
(11)公約や誓約を取りつける
(12)持続させるために注意を喚起する
の12点を紹介しています。
 第10章「戦略的連携関係を結ぶ」では、「官民双方にとってメリットのある提携関係」を扱い、「最善のパートナーを見つける鍵を握るのがマーケティングの発想である」と述べています。
 そして、企業の「コーズ・プロモーション」のための提携関係や「コーズ・リレーテッド・マーケティング」のために提携関係の事例を紹介しています。
 著者は、「公共機関を待ち受けている落とし穴」として、
(1)単独の場合に比べて「時間」がかかる
(2)成功の一因は「妥協」であるようだ
(3)相手の民間企業や非営利組織が、たとえ些細な逸脱行為であっても信用を失墜する、つまり「マイナスの評判」を立てられる可能性がある
等の点を指摘しています。
 第11章「情報をいかに集めるか」では、マーケティング・リサーチを、「組織が直面している特定の問題に関するデータを収集し、分析し、報告すること」と定義した上で、「データ」や「市民からの情報」、「市民からの意見」の有用性を解説しています。
 また、マーケティング・リサーチの実施時期に関して、
・フォーマティブ・リサーチ:戦略を形成するときに使われる調査
・トライアル調査:本格的な製造や施策実施の前に戦略と戦術をテストするために行う調査
・モニタリング調査:当初の目標や目的と成果を比較するための調査
の3点について解説しています。
 第12章「施策をきちんと評価する」では、パフォーマンス測定の対象として、
・アウトプット(市民への出力)
・アウトカム(市民の反応)
・インパクト(反響)
の3つのカテゴリーを挙げて解説しています。
 第13章「説得力のあるマーケティング計画を作成する」では、2003年4月にブルームバーグ市長がニューヨーク市のチーフ・マーケティング・オフィサーにジョセフ・ペレーロを任命したことについて、「ニューヨークはマーケティング部という部署とチーフ・マーケティング・オフィサーという職位を持つ世界最初の都市になった」と紹介しています。
 本書は、マーケティングという言葉になじみを持たず、「コトラー」という名前を聞いたことがないような公共部門の人間にも、事例を交えてわかりやすく解説している一冊です。


■ 個人的な視点から

 コトラー先生の新境地?と思って期待して買ったマーケティングの世界の人にとっては、当たり前すぎて、人によっては期待はずれに感じる人もいるかもしれません。
 しかし、本書は、マーケティングの「マ」の字にも縁がない(と言われている)公共部門の読者を想定したものであるので、そういう人たち向けには、基本的なマーケティングの概念を、なじみのある公共部門の事例を使って解説した本書はわかりやすい一冊になっているのです。
 その意味では、本書の内容が簡単すぎると思うようなた人が、「コトラー」の名前で中身を良く確かめずに買ってしまったところに原因があるのではないかと思います。マーケティングの基本中の基本なのかもしれませんが。


■ どんな人にオススメ?

・公共部門にマーケティングは関係ないと思う人。


■ 関連しそうな本

 フィリップ コトラー, エデュアルド L. ロベルト (著), 井関利明(監訳) 『ソーシャル・マーケティング』 2005年02月14日
 フィリップ・コトラー, ナンシー・リー (著), 早稲田大学大学院恩藏研究室 (翻訳) 『社会的責任のマーケティング―「事業の成功」と「CSR」を両立する』 2008年01月24日
 フィリップ コトラー 『非営利組織のマーケティング戦略』 
 玉村 雅敏 『行政マーケティングの時代―生活者起点の公共経営デザイン』 
 井関 利明, 藤江 俊彦 『ソーシャル・マネジメントの時代―関係づくりと課題解決の社会的技法』 
 デビッド オズボーン, テッド ゲーブラー 『行政革命』 2005年01月22日


■ 百夜百マンガ

プ~ねこ【プ~ねこ 】

 1年間連載してても単行本1冊に満たないペースですが、長いこと連載が続いています。スーパーのレジ打ちにも精通しているのは内緒です。
 そう言えば、『スカタン天国』の翻訳版を台湾で入手したことがありますが、猫も台湾で受けているのでしょうか?

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2008年02月07日

市民が主役の自治リノベーション―電子自治体2.0

■ 書籍情報

市民が主役の自治リノベーション―電子自治体2.0   【市民が主役の自治リノベーション―電子自治体2.0】(#1113)

  須藤 修, デジタルコミュニティズ推進協議会
  価格: ¥2000 (税込)
  ぎょうせい(2007/07)

 本書は、「沈滞しつつある電子自治体がやがて水面上にその姿を現し、自治体の改革を推進していく原動力になるという確信を持って執筆されたもの」です。
 第1章「これから求められる情報化社会と電子自治体構築の現状」では、「時間的、空間的な制約を克服することが情報化社会を実現する要件の一つである」としながらも、「付加価値を生み出すことができない地域社会は、ネットワークにぶら下がった消費地に過ぎなくなり、人口流出が続き淘汰されていく」 と述べています。
 そして、業務別のオンライン化状況について、「「住民に最も近い行政サービス分野からオンライン化が進んでいることが改めてわかる」と述べています。
 また、前佐賀市長の木下敏之氏の著書を引用し、「行政改革や電子自治体を進めていくことは、力強いトップダウンと縦割りの弊害を取り除いていかないと進まない」と指摘しています。
 さらに、電子自治体の構築は、「単なる電子化の推進だけでは実現できない」ものであり、「業務フローを見直し、ムダを徹底して排除することと人員の配置を見直し、新規に必要となる業務に対して大胆に人員の再配置を行なっていくことが重要である」と述べています。
 第2章「電子自治体の実態と課題」では、佐賀市がメインフレームからのダウンサイジングに成功した要因として、
(1)メインフレームからサーバへのダウンサイジングによりハードのコストダウンを図る。
(2)ソースコード公開により地元業者参入可能な競争環境を構築することで、運用保守のコストダウンと地元業者の育成を図る。
の「2つの明確な目標を掲げて市長をはじめとする強力なリーダシップの元にプロジェクトが遂行されたこと」を挙げています。
 また、IT投資によって税収や収入を増やすという考え方として、
(1)地元企業育成による税収増加:地元企業による保守・運用(佐賀市)
(2)システムの貸与による収入確保:自ら開発したシステムを他自治体に貸与し、使用料金を徴収する(横須賀市の電子入札システム)
(3)システムの販売による収入確保:自ら開発したシステムの販売(千葉県の人事給与等申請システム)
(4)経済政策の一環としてのシステム開発:(札幌市コールセンター)
などの手法を紹介しています。
 さらに、電子自治体の3つの目的として、
(1)行政経営にITを活かす
(2)市民との新たな関係構築にITを活かす
(3)地域経営にITを活かす
の3点について、「目的が達成されたとはいいがたい状況である」と検証しています。
 著者は、「行政経営の仕組み(NPM)がインプリメントされていなければ、手段としてのITを戦略的に使う(BPR)ことができない」と指摘し、「困難に立ち向かうだけの動機づけとなる目標値もなければ、目標達成によって得られるものも示されていなければ誰も行動しない。この目標値や報酬を明確に示し、職員の動機づけを行なうものが行政経営に他ならない」と述べています。
 第3章「全国各地で始まった自治体CIO体制―中小自治体の現状と課題―」では、「一部を除く多数の自治体、特に中小自治体においては、その組織体制、関係者の意識及び情報化への対応能力(専門知識・能力のレベル)が必要な水準に達していない場合が多く、ITの有効活用による業務改革や効率化・合理化は思うようには進んでいないのが実情である」と指摘し、「このような状況から脱却するためには、『組織体制の整備と関係者の意識改革』及び『情報化対応能力(専門知識・能力)の確保』が緊急の課題となる」と述べています。
 そして、電子自治体推進の鍵は、「『自治体CIO体制の確立』とそれを有効に機能させるための『自治体CIO補佐の活用』」であると述べています。
 第4章「自治体の電子化に求められる基盤の整備―市民と行政の連携―」では、「いかに自治体の電子化を進めるのか」という課題の解決法の一つとして、「行政と市民の『接点』の整備、とりわけ行政の広聴制度の充実」について論じ、「一見電子化とは遠いところにあるような広聴制度にこそ、電子化推進の鍵が隠されている」と述べています。
 そして、広聴制度を、想定する参加者の方に注目して、
(1)参加者流動型:インターネット広聴、パブリック・コメント、コールセンター、懇談会・座談会・ミーティング・出前講座・トーク、施設広聴、窓口相談、調査広聴、提案箱、提言・提案はがき、模擬議会
(2)参加者固定型:モニター制度、市民会議
に分けて解説しています。
 著者は、「まず市民と以下に行政が付き合うのか。自治体の電子化が進んでも、この課題は常に解決を迫られるだろうし、その課題を解決しない限り、電子は進んでいかない」と指摘しています。
 第5章「市民が主役の電子政府・電子自治体とは」では、北川正恭早稲田大学大学院教授(前三重県知事)と須藤修東京大学大学院教授が、「市民が主役となるような電子政府・電子自治体のあり方」をテーマに行なった対談を収録しています。
 そして、「今後の電子政府で一番重要となるのは、国民や企業の満足度を高めること」であるとしたうえで、「今後問題になるのは、トップリーダーがどこで立ち位置を変えるのかということ」であるとして、「行政は、官が『してあげる』というサプライサイドの発想からデマンドサイド、つまり生活者の起点に立って、自由に申請が行えるというユビキタスな社会を実現するという発想へと思い切って発想方法を切り替える必要がある」と語っています。
 また、「権力者が作ってきたあらゆるバリアを取り払わないと、ユビキタスな社会は機能しない」が、「権力者が作った秩序を壊すものだから、権力者もなかなか変えたがらない」と指摘しています。
 第6章「電子自治体推進のための考え方と手法」では、「中小自治体にとって特に重要でかつ緊急度の高い」問題点として、
(1)「基幹系システム更改の際にベンダーから提示された新機種の見積り金額」への対応の問題
(2)「庁内情報システムの全体像の不明確化」に関わる問題
(3)「EA、レガシー連携、共同アウトソーシングなどの潮流への対応」に関わる問題
の3点を挙げています。
 「おわりに」では、行政の改革を、「市民の視点を取り入れて『(行政が)これまで当たり前でやってきたおかしいこと』を指摘することから始めなければならない」と述べています。
 本書は、電子自治体が技術的には「夢」から「現実」に迫ってきたことで見えてきた現実の重さを考えさせてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 一時のバラ色の電子自治体ブームと言うか、「ITゼネコン」が盛り上がったe-JAPANの時代が去った後、さて自治体は実際のところどう変わったのか、これからどう変わっていくのかというところをフォローしてくれるのは大変ありがたいことではないかと思います。実際、ブームに浮かれていたところ、きちんと歩を進めたところ、何もしなかったところで相当の差が出た数年間だったのではないかでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・「電子自治体」という言葉にリアリティを感じない人。


■ 関連しそうな本

 榎並 利博 『電子自治体―パブリック・ガバナンスのIT革命』 2005年04月21日
 木下 敏之 『日本を二流IT国家にしないための十四ヵ条―佐賀市「電子自治体」改革一年の取り組みから』 2006年10月18日
 金子 郁容, 藤沢市市民電子会議室運営委員会 『eデモクラシーへの挑戦―藤沢市市民電子会議室の歩み』 2005年10月21日
 横江 公美 『Eポリティックス』 2005年02月11日
 岩崎 正洋(編著) 『eデモクラシー』 2005年05月02日
 小林 隆 (著), 自治体議会政策学会 (監修) 『インターネットで自治体改革―市民にやさしい情報政策』


■ 百夜百マンガ

怪奇版画男【怪奇版画男 】

 版画で漫画って路線はさすがに追随が難しいみたいで、なかなか版画で描いている人という話は聞きません。

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2008年01月11日

県庁を変えた「ひとり1改革運動」―みんなで改革・大きな成果

■ 書籍情報

県庁を変えた「ひとり1改革運動」―みんなで改革・大きな成果   【県庁を変えた「ひとり1改革運動」―みんなで改革・大きな成果】(#1086)

  静岡県, 静岡総合研究機構
  価格: ¥2520 (税込)
  時事通信出版局(2007/10)

 本書は、「新しい行政マネジメントの手法(ニュー・パブリック・マネジメント:NPMと呼称)を他県に先駆けて構築して、10数年にわたり推進してきた」静岡県の行政改革に「魂を入れている」、「全員参加の改革運動、『ひとり1改革運動』」で提案された優秀事例を紹介しているものです。
 第1章「『ひとり1改革運動』と静岡県の新公共経営(NPM)」では、「ひとり1改革運動」が、「職員一人ひとりが身近な業務を見直して、改革改善の行う運動」であり、そのスローガンは、
・「速く」(Speed):仕事を処理する工夫をします。
・「ムダなく」(Cost):作業量や書類などを少なくします。
・「いい仕事」(Quality):県民の視点に立った質の高い仕事をします。
の3点であること、平成10年度の運動開始から平成18年度までの累計では75,789件の取組みがあり、平成16~18年度の3年間の累計では全国1位であることなどを紹介しています。
 そして、運動の秘訣として、
(1)楽しむ
(2)手間をかけない
(3)仕事を楽にする
(4)マネ・パクリ大歓迎
(5)褒める
(6)後押しする
の6点を挙げています。
 また、「改革のヒント」として、「弓桁の6ヶ条」として、当時企業局西遠事務所湖西出張所長だった弓桁氏がまとめた、
(1)改革することは面白い
(2)感じて見つける改革
(3)自分の立場で発想しよう
(4)県民の立場で考えよう
(5)もっと気楽に考えよう
(6)アイデアは真面目と不真面目の間にある
の6ヶ条を紹介しています。
 さらに、「ひとり1改革運動」が成果を挙げている要因として、静岡県では1980年代前半にも「QCA (Quality Control of the Administration)」という呼び名で、QC手法を現場に導入する運動をした経験があり、その反省から、
(1)パソコンを使って提案の手間を最小化した
(2)他の部署や職員のマネ・パクリを推奨した
(3)自分の仕事を楽にする改革・改善に焦点を当てている
(4)表彰と発表機会を設けて取り組みへのインセンティブを高めている
(5)毎年重点テーマや表彰項目を変え、新味を出すことに努めている
の5点を挙げています。
 第2章「『ひとり1改革運動」の取り組み事例」では、過去9年間に表彰された約200件の事例の中から代表的な63件の事例を紹介しています。これらは、
(1)顧客志向(利用者の立場から考える)
(2)新しい発想(前例に捉われない斬新なアイデア)
(3)情報発信(工夫して伝える)
(4)協働(セクションを越えた連携を考える)
(5)合理化(やめる・へらす・かえる)
という考案者の発想の視点による5つのカテゴリーで分類されています。そして、「ひとり1改革運動」が、「野球にたとえれば、一発ホームランを狙うのではなく、シングルヒットからコツコツと得点を狙うようなアプローチ」であると解説しています。
 まず、「顧客志向」の発想による事例としては、浜松財務事務所納税第2課が、滞納の原因を分析したところ、「平日に銀行に行くことができない若年単身者や日本語が分からない外国人に滞納が多いこと」が判明したことから、
・夜間納税相談窓口を月末に定期開設
・ポルトガル語と英語のチラシを作成
等の取り組みを行なった結果、平成16年10月末の夜間窓口開設から平成19年6月までに、298件、1,433万円が納付され、自動車税の滞納額も、平成17年度、18年度と減少を続けていることが紹介されています。
 次に、「新しい発想」の事例としては、大井川橋を渡ってすぐの交差点で右折車を原因とする渋滞が起こっていたことに対し、通常の対策である右折レーンの設置では、橋の拡幅工事が必要となり、多くの工事費と工事機関が必要となるため、「右折車両をいったん左折させ、回転広場で方向転換させる」という試みを実施し、橋梁工事では15億円かかるところを、4,600万で実現、1日でもっとも混む時間帯の通過時間を14分58秒から7分30秒に短縮させたことが紹介されています。
 「情報発信」では、東海地震等の大規模災害時の災害情報の発信にあたり、静岡県のインターネット用の設備は静岡県内に設置されていて、災害時に使用できなくなる恐れがあり、県外に設置する場合には多額の費用がかかるため、ヤフーと協定を結び、全国に分散して設備を利用した情報発信を可能にしたことが紹介されています。しかも、利用料はヤフーの好意により無料となっているため、新たに設備を設置した場合にかかる1億2,000万円の初期費用と、年間2,000万円の設備維持費を節減できたと述べています。
 また、農業振興のための情報を報道機関に積極的に提供した結果、どれだけの広報効果があったかを広告料に換算し、職員全員に周知を図ったことが紹介されています。
 さらに、話題になった「振り込め詐欺」防止のための大阪弁の女性3人の「それ詐欺やで」のCMでは、放送を開始した平成16年12月の県内の被害件数が8件と初めて1ケタ台に減少し、マスコミでも大きく取り上げられたため、CM料金に換算すると1億円以上の露出があったことを紹介しています。
「オレオレ詐欺の防止」CM
http://bb.pref.shizuoka.jp/player/player.asp?con_id=137&play_flg=bb
 「協働」の事例では、肥えた土が必要な茶園区画整理工事現場から出た硬い土と、硬く締め固まる土が必要な林道整備工事現場で発生した肥えた赤土を相互に利用することで、発生土の処理費用など2,300万円の事業費の縮減に成功したことが紹介されています。
 「合理化」の事例では、「本庁の電話回線に単独事務所の開戦を追加する契約に変更すること」でNTTの大型割引サービスである「ワリマックス」を受けられるようにした事例や、県立大学で外部資金研究費を管理するに当たって、振込み手続をインターネットバンキングで行なうことで振込手数料を年間66万円節約した事例を紹介しています。
 本書は、1件1件は地味な取組みが、継続され積み重なることで、派手さはなくても大きな成果を挙げることができることを教えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 「お役所仕事」と揶揄される県庁や市役所の職場でも、小さな改善を毎年積み重ねて毎年毎年前に進んでいます。そうした姿をこういった形で一冊の本にまとめることは、紹介された人たちにとってものすごく励みになったのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・お役所仕事はいつまでも進歩がないと思う人。


■ 関連しそうな本

 福山 嗣朗 『NPM実務の考え方・進め方―効率的・効果的な政策形成・実施・評価改善』 2007年09月21日
 大住莊四郎 『ニュ-・パブリック・マネジメント  理念・ビジョン・戦略』 2005年01月23日
 大住 荘四郎 『パブリック・マネジメント―戦略行政への理論と実践』 2005年05月06日
 石井 幸孝, 上山 信一 『自治体DNA革命―日本型組織を超えて』 
 若松 茂美, 織山 和久, 上山 信一 『変革のマネジメント―明るい「リストラ」を考える』 2005年08月10日
 南 学, 上山 信一 『横浜市改革エンジン フル稼動 中田市政の戦略と発想』 2005年04月13日


■ 百夜百マンガ

キャッツ・アイ【キャッツ・アイ 】

 泪・瞳・愛の三姉妹で幅広い好みに対応するヒロイン設定のやり方は、数が増えまくったモー娘。だったり、いつの間にかセーラームーンみたいになっていたプリキュアだったりと様々なバリエーションを持っています。

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2008年01月07日

外注される戦争―民間軍事会社の正体

■ 書籍情報

外注される戦争―民間軍事会社の正体   【外注される戦争―民間軍事会社の正体】(#1082)

  菅原 出
  価格: ¥1680 (税込)
  草思社(2007/3/24)

 本書は、イラク戦争等で大いに注目された、「民間軍事会社(プライベート・ミリタリー・カンパミー=PMC)」について、その実態とPMCが注目を浴びるようになってきた経緯を解説しているものです。
 イラクやアフガニスタンなどの紛争地域で、政府職員の護衛や施設の警備などの治安維持任務についている、「彼らの多くは軍隊のエリート舞台や情報機関の出身者であり、その業務の内容も、危険地帯で要人を警護したり、政府の施設を警備したり、警察や軍隊を訓練したり、地雷や不発弾を処理したり、テロリストの収容施設で容疑者を尋問するといった、通常は国家の警察や軍隊が担うような」特殊な任務についていると述べたうえで、「米軍はもはや『PMCなしに活動することは不可能』とまで言われている」として、「もはや後戻りのできない、不可逆的な動き」であると述べています。
 第1章「襲撃された日本人」では、2005年5月に英国のPMC[ハート・セキュリティ」社のコンサルタントとして、イラクで物資輸送車両の警備を行っていた日本人、齋藤昭彦さんが、武装勢力に拘束された事件を取り上げています。
 第2章「戦場の仕事人たち」では、PMCが冷戦後に急発展した原因として、「冷戦の終結により世界中の軍隊が縮小化の方向へ進み、1990年代だけで世界中の軍隊で6百万人もの職が失われた」結果、「軍事的技能を身につけた膨大な個人が民間市場に流れ、安全ビジネス関連の企業に吸収されたり、元軍人たちによる新たな会社設立の動きにも拍車がかかった」ことを挙げています。
 そして、PMCの草分けである、ベトナム戦争におけるヴィネル社について、「冷戦時代のPMCのビジネスは、『政府が公然とできないことを民間企業が肩代わりをする』という、政府の外交・安全保障政策の延長線的な性格が強かった」として、「政治的に敏感な軍事支援や訓練など、政府が自国の軍隊を使えないときの最後の手段としてPMCが使われるという政治的側面が存在した」と解説しています。
 また、現代のPMCの定番サービスの一つとして、「誘拐人質解放交渉サービス」を挙げ、1986年にフィリピンで起きた三井物産マニラ支店の若王子支店長誘拐事件で活躍したコントロール・リスクス社を取り上げています。
 第3章「イラク戦争を支えたシステム」では、イラク戦争に関して、PMCバブルが発生した結果、「『ぽっと出』の一発屋PMCが数多く現われ、混乱の最中に大きな契約を獲得してしまうようなことが起き」、低レベル・低モラルのサービスが提供されてしまい、「このようなPMCの存在は、占領統治全体にも悪影響を与え、イラク国民の占領軍に対する反感を増大させることにつながったといわれている」と述べています。
 また、「武装した民間人」「軍服を着用していない戦闘員」であるPMCはジュネーブ条約上の取り扱いが微妙な位置にあり、「武器を持って戦ってしまうと、彼らはジュネーブ条約という重要な戦時国際法の定義に該当しない存在となってしまう恐れがある」と述べています。
 第4章「働く側の本音」では、PMCで働く請負人たちの多くが、「アメリカにおいてはレンジャー部隊、グリーンベレー、デルタフォースやシールズなどの特殊部隊に所属し、イギリスでは特殊空挺部隊(SAS)、特殊舟艇部隊(SBS)、海軍特殊部隊やSO14(ロンドン警視庁の王室関係者警備担当)など、軍や警察の中でも特殊訓練を受けた超エリート部隊の出身者」であることについて、通常の軍隊では個々の軍人は「全体を構成する歯車の一つ」にすぎないのに対し、特殊部隊は、「さまざまな状況に柔軟に対応するために、独自で判断し行動することが求められており、そのように訓練されている」ことを挙げています。
 一方で、民間市場における特殊部隊人気の影響で、欧米の特殊部隊が深刻な人材不足に陥っているとして、「若くて経験の少ない退院が指導的な地位に昇格するという事態も起きている」と指摘しています。
 そして、「請負人」たちの報酬が、警察顧問の仕事で、年間12万ドル(約1440万円)と、「非常に魅力的な金額」であるとした上で、「派遣される地域の危険度、業務の内容、請負人それぞれの計健也そのプロジェクトでの役割によって報酬は大きく異なってくる」と述べ、メディアからの高額批判に対しては、「文字通り命がけの仕事であることや、彼らが通常3ヵ月働いて1ヶ月休むというパターンで働いていることから考えると、べらぼうに報酬が高いとは決していえないだろう」と述べています。
 また、「イラクでもっとも危険な仕事の一つといわれるトラック輸送を請け負う『トラック野郎』たち」の言葉として、「イラクでの一番の思い出は使命感であり、一緒に与えられた使命のために働いた仲間たちだ。われわれは本当にこの使命感のために固い絆で結ばれた}と語っていることを紹介しています。
 さらに、イラクにおいて、フィリピンなどの発展途上国から、「事実上の人身売買を行なう悪徳業者」によって、「いっさいの保障なしで危険な任務につかされるという悲しい現実も存在する」と指摘しています。
 第5章「暗躍する企業戦士たち」では、「空前のPMCバブル」の中での、「PMC間の熾烈で過剰な競争が、本来最優先されなければならない『安全管理』を二の次にしてしまい、その結果悲惨な事故を招く例が後を絶たない」として、2004年にファルージャで起きたブラックウォーター社社員惨殺事件の例を挙げ、「本来契約の中に入っていた2台の防護車両もなく、6名のチームが4名に減らされており、脅威レベルを調べるための事前のリスク評価調査もなく、事前のルート調査やその他の関連情報も土地勘もなく、チームとしての結束や仲間意識もないまま、イラクでもっとも危険な場所ファルージャに派遣されたのである。無謀というほかない」と述べ、「起こるべくして起こった人災だった」と指摘しています。
 また、イラク戦争前の「フセインの大量破壊兵器の脅威」を過剰に宣伝したのが、PR会社や「戦争広告代理店」と呼ばれる広い意味のPMCであり、「生物、化学そして核兵器をフセインの命令で密かに地下の井戸に埋め、個人の別荘に隠し、病院の地下に隠した」という科学者アル・ハイデリの証言が「すべて作り話だった」と指摘しています。
 第6章「テロと戦う影の同盟者」では、「軍の民間活用よりも情報機関のほうが数歩先に進んでいる」といわれるCIA等の情報機関の民間活用について取り上げています。
 また、「安全保障政策」のカバーする範囲が、「伝統的な国防から、テロと戦いや平和維持活動、難民救済問題や市民社会の建設促進へと拡大していった」ため、「多国籍企業、圧力団体、NGOや市民運動などが、安全保障政策の実施に関与するようになり、国際的な規範やルールづくりに貢献する機会が増えていった」延長線上にPMCを位置づけることができると述べています。
 第7章「対テロ・セキュリティ訓練」では、著者自身が参加した、イギリスのPMCが提供しているジャーナリスト向けセキュリティ訓練のレポートが収められ、「イギリスやアメリカでは、メディア関係者やNGO、外務省職員や対外援助に関わる省庁の職員、さらに石油開発会社の従業員など、危険地域で仕事に従事する人は官民を問わずこのようなセキュリティ訓練を受けるのが普通になっている」と述べ、「それに日聞け、日本人の安全対策、危機管理に対する意識は、驚くほど低いといわざるをえない」と指摘しています。
 本書は、冷戦の終結後、大きく変化した戦争のあり方を伝えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 日本の自衛隊はイラクでPMCを使っていたのでしょうか。また、自衛隊出身者が自分でPMCを作ってしまう、ということも考えられなくはないかもしれません。なんだか「傭兵」のイメージから「天下り」のイメージになってしまいますが。


■ どんな人にオススメ?

・21世紀の戦争の形を目にしたい人。


■ 関連しそうな本

 松本 利秋 『戦争民営化―10兆円ビジネスの全貌』
 本山 美彦 『民営化される戦争―21世紀の民族紛争と企業』
 P.W. シンガー (著), 山崎 淳 (翻訳) 『戦争請負会社』
 ロバート・ヤング ペルトン (著), 角 敦子 (翻訳) 『ドキュメント 現代の傭兵たち』
 高木 徹 『ドキュメント 戦争広告代理店―情報操作とボスニア紛争』 2006年11月27日
 アンヌ・モレリ (著), 永田 千奈 (翻訳) 『戦争プロパガンダ 10の法則』 2007年11月01日


■ 百夜百マンガ

Monster【Monster 】

 この作者の作品は、大人向けシリアス路線と青年誌向けのライト路線との2つの流れがあるのですが、こちらは暗くて怖いほうです。

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2007年12月27日

世界の〈水道民営化〉の実態―新たな公共水道をめざして

■ 書籍情報

世界の〈水道民営化〉の実態―新たな公共水道をめざして   【世界の〈水道民営化〉の実態―新たな公共水道をめざして】(#1071)

  コーポレート・ヨーロッパ・オブザーバトリ, トランスナショナル研究所 (編さん), 佐久間 智子 (翻訳)
  価格: ¥1680 (税込)
  作品社(2007/04)

 本書は、「国際的に沸き起こっている水に関する議論に一役買うことを目的と」したものです。本書は、「公共による水供給の画期的・刷新的な例を多数紹介して」おり、そのきっかけは、「こうした試みが成功をおさめているにもかかわらず、世間の注目を十分に集めていない」からであり、「これらは水の供給という分野を超えて、新自由主義的な企業主導のグローバル化に抗するオルタナティブの共通のヒントと見ることができる」と述べています。
 序章「水道民営化の失敗と、代替策に取り組む各国の動き」では、「今世界の各地では、民営化をめぐって驚くほど共通点の多い、同様の経験が積み重ねられている」と述べ、共通点として、
・民営化が失敗であったこと
・民営化に反対する運動が拡大していること
・過去の公共セクターの欠点についても批判があること
・これまでの「北」の公共セクターのモデルと、最近の「南」における参加型民主主義の形態の、それぞれの長所から導き出された新たな形態が構築されつつあること
などを挙げています。
 そして、1990年代の「水道民営化の10年」が、「明らかに失敗」であり、「民営化によって、効率化が進み、料金が安くなり、特に途上国地域に多額の投資が行なわれ、水道に接続されていない貧しい人々に上下水道が提供されるようになる」と期待されていたが、実際はそれとは異なり、「当初の約束とは違った結果がもたらされた経験」によって不評を買うようになったと述べています。
 第1部「成功している公営水道」では、インド・ケータタ州オラヴァナ村の事例を挙げ、、「オラヴァナの成功は、上水道セクター全体の民営化に抗する強力な武器である」と述べ、「世界銀行のモデルは、オラヴァナから数々の重要な教訓を得て修正され」、「いまや世界銀行が支援するプロジェクトにおいてさえも、飲料水は人びとの所有となっている」と解説しています。
 また、「参加型の自治体水道運営のモデルを実現」した例として、スペイン・コルドバ水道公社の事例を取り上げ、「コルドバで、質の高い、市民主体の水道サービスが実現したのは、参加と政治的意思によるものであった」と述べています。そして、「市民が参加する公営サービス事業を通じて、都市水道及び都市の水循環を管理しているコルドバ市の事例は、民間事業者よりも質が高く効率的なサービスを実現している公共機関が存在することを示している」と述べています。
 さらに、米国の事例を通じて、「公共事業体を民主化するということは、事業体の所有を公とするのか、私とするのか、という単純な問題ではない。民主主義とはプロセスであり、所有形態の話ではないからだ」と述べ、「公共事業体が民間企業に所有されている地域において、民主化を追及する人々は、公営化を要求するだけで満足してはならないだろう」として、「市民が規制プロセスにおいて公営事業体をコントロールし、行政トップに影響力を行使すること」も可能であることを解説しています。
 コラム<ヨーロッパの二重基準>では、ヨーロッパの多くの国で、「上下水道のすべて、または、ほとんどが公営である」にもかかわらず、EUが、「水道部門を世界貿易機関(WTO)の貿易協定の対象とするよう求めている急先鋒」であり、欧州委員会(EC)が、「自由化推進に固執し、自由化こそ途上国が本当に必要としている政策であるとさえ主張している」と述べています。
 第2部「新たな公共水道を目指して」では、ボリビア・コチャバンバの事例を取り上げ、1999年9月にコチャバンバ市営上下水道(SEMAPA)が民営化され、「世界銀行の圧力の下、不透明な入札プロセスを経て、アグアス・デル・トゥナリ社に売却された」が、その年末には、「水道料金は跳ね上がり、地域共同体が所有する水道は取り上げられ」るなどのトゥナリ社の横暴なやり方に、「コチャバンバの住民が抗議行動を開始」し、2000年4月には1週間に及ぶゼネストがコチャバンバ市を機能停止に追い込み、政府による激しい弾圧で17歳の少年が死亡し、最終的に「政府は2000年4月11日に敗北を認め、アグアス・デル・トゥナリ社」が去ることで「水戦争」が終結したことを解説しています。著者は、今回の変化が、「社会運動の連合や市民社会組織(CSO)の手で実現されたという意味」で大きなものであるとともに、より効果的な結果をもたらすためには、「運営管理の民主化が十分に制度化され、組織内部と職員の間でよく理解されることがどうしても必要である」と述べています。そして、「公営事業体と地域社会の共同運営を実施しているSEMAPAの基本原則」を、「効率を高めるためには社会による管理と住民の参加が不可欠であり、効率化と民主化は同時に進められなければ、どちらも達成できないという考え方」であると解説しています。
 また、アルゼンチンの事例では、ブエノスアイレス州において、米国企業のエンロンが、現地法人のアズリックス・ブエノスアイレスを通じて、「同社に好都合な条件でサービス供給契約を獲得」し、事業運営後、1年もたたないうちに、「これらの企業にはほとんど実体がないこと、そして、本当に必要とされる投資が行なわれず、契約にかかった費用を最も早く回収する方法が模索されているに過ぎないことが明らかに」なり、「エンロンには事業自体への関心がなかったため、水の生産と供給及び下水の回収と処理に深刻な問題が生じた。水道網は汚染され、浄水場は甚大な被害を受けた。汚水の回収・処理を行う施設は機能しなくなった。設備と技術に対する投資は行なわれず、重要なサービスが外部委託に切り替えられた」と述べています。そして、「現地の言語を話さず、既存の技術を知らず、基礎的な業務に十分な予算を割り当てないアズリックスと、問題の緊急な解決を求める利用者からの圧力という現実を前に、アズリックスと州政府の関係は険悪になって」いき、契約開始から2年もたたないうちに、親会社のエンロンが倒産したことで、「アズリックスは契約上の重要な約束を果たすことなく撤退することとなった」と述べています。
 第3部「公共の水道を求める人々の闘い」では、イタリアの水道で、「慢性的に漏水が起き」、「供給される水が漏水で失われる割合は平均で39%にもなる」とともに、実際乗せたいあたりの水道使用料も多いため、「欧州諸国の中で一人当たりの水消費量がもっとも多い」だけでなく、「持続不可能な水準に達している」と述べています。
 また、南アフリカでは、政府が、「世界銀行、国際通貨基金(IMF)、および欧米諸国の政府の新自由主義の理論に基づいた助言にしたがい」、「地方自治体や地方議会への助成金や補助金を大幅に削減し、公共サービスの民営化に向けた資金調達手段の開発に協力した」ため、数多くの地方自治体が、「多国籍水企業との『パートナーシップ』契約を結び、水道事業を民営かまたは企業化するように」追い込まれたと述べています。
 さらに、フィリピン・マニラの事例を元に、民間事業者に取って代わろうとする公営事業体が満たすべき要件として、
(1)運営の実施可能性:もっとも貧しい地域への水道の拡張と、最も破損の激しい、あるいは破損する可能性の高い水道網の修復を重点化した、明確な資本支出計画に当てる資金が用意できること。サービスに関して義務づけられた目標を達成する組織的能力があること。
(2)有用な政策環境及び法的枠組み:ミレニアム開発目標及び一般的な貧困削減目標に沿って、全世帯への水道普及を実現するための広範な国家政策を掲げること。業績に関する基準や、そのような基準を満たさなかった場合の罰則など、公共水道事業体に適用される法規則を制定すること。
(3)正統性及び説明責任:水に関する責任、権利、義務について合意を形成し、それを実施に移すための社会的な準備、教育、対話を継続すること。公営水道事業体の技術的及び財務的プロセスの透明性の確保。責任と説明責任が明確に連鎖されていること。
(4)財務的持続可能性:内部補助及び料金調整。
(5)独立した、実効性ある規制システム
の5点を挙げています。
 中国に関しては、中国政府が、「水を商品化し、水道を民営化することによって、淡水の供給不足の問題が解決すると主張している」と述べています。
 第4部「これからを考える」では、「人びとを中心とする多様な公営水道が成功」するためのもっとも重要な要件として、「その地域に十分な水資源があることや、行政にサービスを提供する能力があることなどが挙げられるが、決定的な要素として、国家や国際機関、地方政府、政党などから政治的な支援を得られるかどうか」を挙げています。
 また、公営水道サービスが、いくつもの矛盾を抱える可能性があるとして、「新自由主義のイデオロギーが、公営及び民営の水道運営を非常に問題のある形に収束させつつあるという問題」を挙げ、「新自由主義に基づくビジネスと経営のモデル(NPM:新公共経営論と呼ばれている)によって商業化が進められていることは、前述した公共サービスの精神に完全に反している」と指摘しています。
 さらに、1990年代に南の国々を襲った民営化の波場、「公営水道が支配的である米国、カナダ、日本、そして特に(西)ヨーロッパに襲いかかりつつある。すなわち、来たの国々の市民社会が大きな試練を迎えている」と指摘しています。
 本書は、世界的な潮流である「水道民営化」の負の側面を示してくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書は、グローバリズムに対抗する立場から、水道民営化の失敗事例と、経営に成功している、または、成功に向けて取り組んでいる公営水道の事例を集めたものですが、逆の立場の人からは、経営の悪い公営水道と民営化の成功事例を集めた事例集を作れそうです。
 ポイントは、いかに適切にガバナンスするかで、本書は、市民参加と民主主義のプロセスによるガバナンスを主張しているものと捉えることができます。


■ どんな人にオススメ?

・水道事業の経営形態は以下にあるべきかを考えたい人。


■ 関連しそうな本

 高寄 昇三 『近代日本公営水道成立史』 2007年05月15日
 宮脇 淳 , 眞柄 泰基 『水道サービスが止まらないために―水道事業の再構築と官民連携』 2007年11月28日
 国際調査ジャーナリスト協会(ICIJ) (著), 佐久間 智子 (翻訳) 『世界の"水"が支配される!―グローバル水企業(ウオーター・バロン)の恐るべき実態』
 ロビン クラーク, ジャネット キング (著),沖 大幹, 沖 明 (翻訳) 『水の世界地図』
 持続可能な水供給システム研究会 (編さん) 『水供給―これからの50年』
 ジェフリー ロスフェダー (著), , 古草 秀子 (翻訳) 『水をめぐる危険な話―世界の水危機と水戦略』

■ 百夜百マンガ

キーチ!!【キーチ!! 】

 常識外れのスケールの大きい人生を描こうと、幼稚園児の時代から始まる作品ですが、この先どこまで続くんでしょうか。幼少時から登場する作品といえば『六三四の剣』なんかが思い浮かびますが、このまま成人するまで描き続けられれば、著者の代表作になりそうです。
 ところで、主人公の名前が「輝一」というと、時の首相から名前を取った「宮沢熹一」が思い出されます。

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2007年12月21日

道路の経済学

■ 書籍情報

道路の経済学   【道路の経済学】(#1065)

  松下 文洋
  価格: ¥735 (税込)
  講談社(2005/5/19)

 本書は、「ヒト・モノ・カネという限られた資源をどのように使ったら豊かな暮らしができるか、それについて国民や市民みんなが納得するためにはどんな説明が求められているか、ということを、道路を通して考えて」いるものです。
 第1章「なぜに本の高速道路は有料で世界一高いのか?」では、日本の高速道路の料金が「非常に高い」ことを、
・ドイツ:無料
・イタリア:1キロ当たり7~8円
・日本:1キロあたり27~30円
とで比較し、「これほど突出して高い」理由を、道路公団発足の歴史から説明しています。1956年に日本道路公団がスタートした当時、日本はまだ貧しく、「高速道路のような贅沢な道路」を建設する財源がなかったため、「やむをえず世界銀行などから借金をして建設し、完成後は借金を返す(償還する)ため、利用者から通行料金を徴収するという方法をとり」、当時は、「一般庶民は自家用車などもてないから大して困らないだろうと考えられて」いたと述べています。そして、建設省ではなく「公団」を設立した理由として、
(1)公団をいったん廃止したため、戦中戦後の統制経済を仕切ったエリート官僚たちの再雇用の受け皿が再び必要であった。
(2)「クロソイド曲線」と呼ばれるカーブや、「インターチェンジ」の建設などに特殊