2009年03月24日
公務員クビ!論
■ 書籍情報
【公務員クビ!論】(#1524)
中野 雅至
価格: ¥777 (税込)
朝日新聞社(2008/2/13)
本書は、「全種類の公務員を経験したことが少し自慢のタネ」である著者が、
(1)「公務員の未来予想図」を示すこと。
(2)公務員には少なくとも3種類いて、それぞれが抱えている問題は違うのだということを示すこと。
(3)公務員の仕事は世間が思っているほど簡単ではないこと、少なくとも、真面目に仕事をしている何割かの公務員は、複雑化する仕事を前にして苦悩していることを示すこと。
の3点を意図して著したものです。
第1章「公務員はいかにして公務員になるのか──公務員のしられざる世界」では「親が子供に就かせたい職業ナンバーワン」といっても、日本の就業者の「10人に1人弱が公務員」であり、「その仕事の中身は千差万別」だとして、「今後、公務員はおいしい商売とは必ずしも言えない」と述べています。
第2章「キャリア官僚受難の時代──実は苦悩しているエリート達」では、「霞ヶ関に勤務する官僚の憂鬱」として、
(1)セクショナリズムの横行:調整に時間がかかり、その過程で大胆な政策が当たり障りのない政策に変質してしまう。
(2)政治への意味のない従属:役人を怒鳴りつけるのが政治主導だと思っている傲慢な政治家への不満と事務局の負担が増える内閣主導体制への不満。
(3)雑用の増加(知的業務の現象):定員削減と業務量増大に追われ、政策を考えたり勉強する余裕がない。
(4)世間からの厳しい目:マスコミや世論は、時と都合に応じて、「官僚は優秀」「官僚は能力がない」という両極端な評価を使い分けているように映る。
の4点を挙げ、「霞ヶ関のキャリア官僚は日々式を低下させている」ことは、
・これまでとは比較にならないくらいに多くの人が役所を辞めるようになったこと。
・志願者数が減少していること。
・国費流学者の退職者が増加していること。
・政治家への転身者が増加傾向にあること。
などの指標を挙げています。
そして、中央官庁で頻繁に使われる、「こんな国会答弁で持つのか」「こんな資料をマスコミに差し出して持たないんじゃないか」という「持つか」「持たないか」という表現について、「世間からの支持あってこその官僚」であることを、「役所も官僚もよく分かって」いて、「それだけ世論に敏感」だと述べています。
また、「戦後日本の官僚像は戦後の55年体制の確立期を境」に、
(1)国士型官僚:「俺達官僚こそ国家を動かすのだ」という強烈なエリート意識を持った官僚。
(2)調整型官僚:さまざまな利害を調整して、関係者のコンセンサスを得ながら仕事を進めるスタイルをとり、官僚に初めて接する人の多くは、東大卒の官僚の「腰の低さ」に驚く。
の2つのタイプに分けられるとした上で、「政策を主体的に進めることで得られる満足感と、利害調整に伴うコストが釣り合わなくなった」ため、「利害調整に嫌気がさす官僚が激増して」いるとして、「調整型官僚像というモデルもそろそろ限界に来ている」と述べています。
第3章「追いつめられる普通の『ノホホン公務員』」では、「最近はキャリア、ノンキャリア、地方公務員を問わず、公務員全体に対する批判が強くなって」いる背景として、
(1)度重なる不祥事
(2)少子高齢化
(3)財政赤字の累積
(4)長引く経済不況
(5)官民の労働条件の大きな乖離
(6)グローバリゼーションや市場主義の影響
の6点を挙げ、「キャリア官僚のような『特権階級』でもないノンキャリアや地方公務員、官公労がこれほどまでに批判されるようになった」理由としては、「市場主義やグローバリゼーションの影響が大きい」と述べています。
そして、2005年度の人事院勧告で、「これまでの給料体系に思い切ってメスが入れられ」た結果、
(1)年功給的要素の縮小
(2)役所によって給料が異なるようになる可能性
(3)勤務地ごとでも給料が増減する可能性
の3点で大きな変化が生じる可能性があると述べ、
第4章「格差が広がる地方公務員」では、「地方自治体間の財政運営の優劣」が、今後相当はっきりしてくる理由として、
(1)財政運営の優劣は、知事や市町村長などのトップリーダーの力量に大きく依存する。
(2)06年度以降「地方自治体が自由に借金できる」ようになった。
(3)地方自治体の借金の多くを民間銀行が引き受ける時代に突入する。
の3点を挙げ、「地方自治体の組織パフォーマンスに差がつけば、労働条件が地方自治体ごとに多様化するのも避けられない」と述べています。
また、民営化を急速に進めたイギリスの例を挙げ、「日本においても今後は、官業ビジネスで巨大化する会社が現れる可能性」はあるとして、
(1)指定管理者制度
(2)PFI(Private Finance Initiative)
(3)民間委託
(4)市場化テスト
の4つの民営化を通じて、「地方公務員は今以上に大きな波に晒される」そちえ、「公務員という身分がないとできない仕事とは何か」について、「今以上に活発な議論が展開される」と述べています。
さらに、総務省が、「これまでのように地方自治体を『画一的に扱い』『上から指導する』という役割から、『地方自治体が競争しながら個性を発揮する仕組みを考える』『地方自治体のパフォーマンスを監視する』という役割に巧みに方向転換している」として、「旧自治省とは違った形で、地方自治体に対する影響力を温存することができるように」なると述べ、「旧自治省のライバルで、地方自治体のリストラを進めようとする財務省(旧大蔵省)と対抗するのにも有効」だと指摘しています。
第5章「世界標準は『官民統一』」では、OECD各国の公務員数は、「多くの国で公務員が減っている」にもかかわらず、「公務員が減ったにもかかわらず、財政赤字は縮減して」いないとして、「財政赤字の要因=公務員の人件費」というのは「濡れ衣」だったと述べ、その背景には、「NPM(New Public Management)」(新公共経営)と呼ばれる、「民間企業で採用される経営アプローチを役所にも導入し、役所仕事の効率化・成果の改善を図ろうとする考え方」があるとして、その特徴として、
(1)市場メカニズムの活用
(2)顧客主義
(3)業績評価による組織運営
の3点を挙げています。
そして、イギリスを例に、「公務員制度をドラスティックに改革している国では、相当の地殻変動が起きて」いることから、「改革の影響はかなり大きく」、「日本では公務員制度改革の掛け声はかかるものの、実行に移されること」はなかったと述べています。
また、「たとえ改革が部分的にしか進まないとしても、方向性は一つしかない」として、「官民統一」から「官民流動化」への流れを挙げ、処遇の多様化は、「真面目に成果を出そうとする、やる気のある公務員にとってはチャンス」だとして、「大学教授に転職する地方公務員などが相当増える」とともに、「活躍する公務員は他の役所や組織に引き抜かれるように」なると述べています。
第6章「市場万能時代、公務員はどれだけ努力しても民間に勝てない?」では、「公務員になるような人の大半は真面目な人たち」なのに、非効率的になる理由として、
(1)役所は民間とは違った価値基準に従わなければならないから。
(2)そもそも官とは宿命的な「赤字産業」だから。
の2点を挙げています。
そして、「役所や公務員が非効率的になる理由を、議会など衆人環視の場で示し、公務員の仕事が非効率になる理由をみんなで考えるような仕組みを作るべき」であり、「公務員のコストと事業の関係を明確な形で国民の前に示すべき」だと述べています。
第7章「格差社会における行政サービス──三極化するニーズに公務員は対応できるか?」では、「富裕層・中間層・貧困層に三極化」する格差社会の進展が、分厚い中間層を前提にした、「お役所の大量生産ビジネスモデルの前提をひっくり返す可能性」があると述べています。
そして、「格差社会の到来と歩調を合わせるように、地域ごとの色分けがずいぶんと行われる」ようになったとして、「貧困層地域」とレッテルを貼られた地域の公務員が、
(1)地域イメージの回復
(2)貧困層を生み出す現況である格差社会そのものに対して、公務員が無力である。
の「2つの難しい問題に直面する」と述べています。
そして、「貧困化・高齢化・過疎化が三位一体で進めば、歳出要素が増える一方で税収が極端に減り」、「高齢者の多くが必要とする医療、福祉、交通手段の確保などは市場ベースでは調達」できないため、「江戸幕府の天領と同じ発想で、都道府県内の特定区域だけ『政府の天領』とするような発想」も出てくると述べ、「天領になりたい地方自治体」と「構造改革を自分の力で進めたい地方自治体」に分かれた結果、「もはや行政技術や公務員論で議論する範疇を超え」、「国民に真実を説き、必要な構造改革を断行し、不利益配分と福祉の維持・向上をどのように両立させるのか」という高度な政治の力量が問われると述べています。
さいごに「公務員冬の時代、『ひきぬかれる公務員』になれ」では、「公務員は『親方日の丸』の職業ではない」が著者の結論だとして、これから、「公務員は世間の厳しい風にさらされ」ると述べ、「役所には無駄が多い」が、「民間企業の方にはぜひ『どうして役所には無駄が多くなるのか』ということも考えて欲しい」として、「役所には無駄が発生せざるを得ない」「役所は赤字にならざるを得ない」という部分も確実に存在することを知って欲しいと述べています。
本書は、公務員の未来像を予言してくれるかもしれない一冊です。
■ 個人的な視点から
一口に「公務員」と言っても、なかなか一括りにできないということが、本書を読むと理解できるのではないかと思います。それにしても、著者ほどいろいろな公務員を体験した人も少ないのではないでしょうか。
■ どんな人にオススメ?
・「公務員」というと市役所の窓口と報道されるキャリア官僚しか思い浮かばない人。
■ 関連しそうな本
中野 雅至 『はめられた公務員』 2005年05月26日
中野 雅至 『間違いだらけの公務員制度改革―なぜ成果主義が貫けないのか』 2007年04月06日
川手 摂 『戦後日本の公務員制度史 「キャリア」システムの成立と展開』 2005年12月29日
城山 英明, 細野 助博, 鈴木 寛 『中央省庁の政策形成過程―日本官僚制の解剖』 2007年03月30日
末弘 厳太郎 (著), 佐高 信 (編集) 『役人学三則』 2005年12月12日
宮崎 哲弥, 小野 展克 『ドキュメント平成革新官僚―「公僕」たちの構造改革』 2006年04月13日
■ 百夜百マンガ
スポーツ新聞といえばこのオットセイを思い浮かべる人が少なくないのではないかと思います。亡くなるまで描き続けた偉大な作品としてファンも多いようです。
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2009年02月01日
創造都市・横浜の戦略―クリエイティブシティへの挑戦
■ 書籍情報
【創造都市・横浜の戦略―クリエイティブシティへの挑戦】(#1473)
野田 邦弘
価格: ¥1995 (税込)
学芸出版社(2008/08)
本書は、「人の創造性に注目し、それにより都市を発展させようという考え方」である「創造都市」を目指した横浜市の取り組みに関して、「文明が都市を生み、都市が文明を生む。そして文明の骨格を形成するのが文化である」という基本認識に立ち、「芸術・文化の想像性と都市の関係について考察」したものです。
第1章「都市横浜の誕生と創造的遺伝子の懐胎」では、横浜でかつて「三重苦」と言われた、
(1)関東大震災
(2)戦災
(3)米軍による接収
の3点を挙げ、さらに、
(4)人口急増と都市問題の深刻化
を加えた上で、1963年に飛鳥田一雄市長による革新市政が誕生したと述べています。
そして、飛鳥田が、「旧社会党左派にふさわしくイデオロギッシュな政治家という印象」を持たれるが、「飛鳥田の真骨頂は、イデオロギッシュな面ではなく、実は横浜の都市の骨格を大胆にデザインし、それを着実に実現した点にこそある」と述べ、「接収などで遅れている都市計画も急ぐ必要」があったため、環境開発センターのスタッフであった田村明が「国際都市」というコンセプトで出した提案をもとに、
(1)都心部強化
(2)金沢地先埋立
(3)港北ニュータウン
(4)高速道路
(5)地下鉄
(6)ベイブリッジ
の「6大事業」として、市の政策となり、「それを実行するために田村は市職員となった」と述べています。
また、飛鳥田時代の市政が、「横浜からの情報発信を重視」し、「世界で初と言えるか」「アジアで初と言えるか」「日本で初と言えるか」と、「常に外から横浜がどう見えるかを気にしていた」と述べています。
第2章「文化事業から文化政策へ」では、「戦後から創造都市政策が始まるまでの横浜市の文化政策を概観する」として、「そこに見られる前衛芸術の重視、オールターナティブスペースの活用、民間活力導入といった特徴を紹介し、それらがクリエイティブシティ政策へとつながっていく様子を描き出したい」と述べています。
第3章「創造都市政策が生まれた背景」では、「創造都市政策が誕生する背景を素描したい」として、「そこには、横浜市にとって旧市街地の衰退をどうにか食い止めなければいけないという切実な危機意識があり、そこから大胆な政策が生まれた」と述べています。
そして、飛鳥田時代に市長の側近だった幹部職員の一部が、「市長交代以後は冷遇」され、「飛鳥田を支えた田村明は法政大学へ、鳴海正泰は関東学院大学へ転出した。他にも市の幹部職員で『飛鳥田派』と見なされた人物は不遇の人事に甘んじなくてはならなかった」として、「飛鳥田時代を通じて市職員の間で芽生え始めていた『市民の方を向いて仕事をしよう』という脱官僚主義の『改革志向』マインドが萎縮して行った」と述べています。
また、2002年の中田宏市長の誕生による成果に関して、「大きな成果をあげてきた」一方で、「問題と言わざると得ない政策も散見される」として、
・ネーミングライツの推進
・横浜私立大学の改革
等を指摘しています。
第4章「文化芸術都市創造政策の誕生」では、「創造都市政策が始まる時期」に焦点をあわせ、「『文化芸術と観光振興による都心部活性化検討委員会』の設置、及び委員会の提言内容、文化芸術都市創造事業本部の設立」などを紹介しています。
そして、2004年に委員会が、「文化芸術創造都市─クリエイティブシティ・ヨコハマの形成に向けて」と題した提言を提出し、そこでは、「文化芸術創造都市─クリエイティブシティ・ヨコハマの実現に向けた基本的方向と目標」として、
(1)アーティスト・クリエーターが住みたくなる創造環境の実現
(2)創造的産業クラスターの形成による経済活性化
(3)魅力ある地域資源の活用
(4)市民が主導する文化芸術創造都市づくり
の4点が示されたと述べています。
また、提言が、「横浜市の新しい都市ビジョン」として「創造都市」を掲げ、
(1)創造人材(創造界隈形成)
(2)創造産業(映像文化都市)
(3)創造空間(ナショナルアートパーク)
の3つのフェーズから政策を形成し、創造都市づくりを推進する組織の整備を提言したと述べています。
第5章「創造界隈形成の起爆剤BankART1929」では、都市部活性化検討委員会の提言が、「クリエイティブコア(創造界隈)の形成」を馬車道近辺で展開すべきと述べたことを受けて、「横浜都心部歴史的建築物文化芸術活用実験事業」が構想されたと述べています。
そして、横浜市が、「BankART1929を高く評価する一方で、横浜市自身も含めた今後の課題として、市民参加型のプログラムの構築、世界へ向けての情報発信、交流の場の更なる拡大、施設の立地性や特長を生かした効果的活用、活動拠点の確保と創造的産業の誘導、更なる効果的効率的運営を経済的自立をあげた」と述べています。
第6章「創造都市への躍動」では、「創造界隈形成のためのリーディングプロジェクトBankART1929が周辺地域に影響を与え、様々な創造拠点が新たに形成されてきたこと、また、BankART1929の成功をその後の政策展開に連結させてきた横浜市の創造都市政策の発展過程を概観したい」としています。
そして、「歴史的建築物文化芸術活用事件事業=BankART1929」が、「予想以上の成果をあげ、それにより周辺地域に多くの創造拠点が形成され」、「その結果、横浜市は創造界隈のエリアを関内地区から周辺地区まで拡大した」と述べています。
また、「映像都市を標榜する都市は当時全国に数多く見受けられたが、これを創造産業の一環として、より大きな位置づけの中で捉え、総合的な政策として展開したのは横浜市だけであった」と述べています。
第7章「創造都市政策の検証」では、「2004年から始まった横浜市の創造都市政策についての検証を行う」として、その特徴として、
(1)従来のような局のようなタテワリを超えた総合政策として位置づけられ、取り組まれている。
(2)事業手法の転換。
(3)セクター間の協働の推進。
の3点を挙げています。
そして、「総合都市政策を掲げて以降、横浜市は一層注目を浴びるように」なり、2004年のみなとみらい線の開通により、「横浜への観光客は増加した」と述べています。
また、創造都市へ懐疑的な立場の人から、創造産業の経済的規模の小ささや欧米の創造都市モデルがわが国には妥当しないなどの批判があるとしたうえで、
(1)創造産業は世界の先進国で間違いなく成長する分野であり、この分野をどのように経済政策の中で位置づけていくかは、今後重要になる。
(2)創造都市政策の意義を経済効果のみに矮小化してはならない。
の2点を指摘しています。
第8章「創造都市論と行政のイノベーション」では、創造都市論が、
(1)創造階級論:優秀であると同時に、組織や機関の指示に従わせられることを嫌い、伝統的な集団的規範に反抗し、多様性と開放性を求める。
(2)創造産業論:産業構造の変化を背景にイギリス政府により提起されたコンセプト。
(3)創造都市論:都市内部にイノベーションシステムが組み込まれており、それが進化していく知識基盤社会型の都市発展モデル。
の「3つの理論が重なることで成立する概念」だと述べています。
本書は、「創造都市」の名にふさわしく絶え間なく改革と再生を繰り返す横浜市の強さの秘密を伝えてくれる一冊です。
■ 個人的な視点から
本書の著者の野田さんとは、数年前、野田さんがまだ横浜市の職員だったころに、田村明さんの勉強会でお会いしました。本書の中でも触れられていますが、野田さんの世代に飛鳥田市政と田村さんに憧れて横浜市に入ってきた人が多く、その人たちが、中田市政になって生き生きと活躍している、というお話をされていました。
歴史は繰り返すというか、じっと耐えてきた人たちが花を開くときがくるというのは嬉しい話です。
■ どんな人にオススメ?
・横浜はなぜ創造的なのかと思う人。
■ 関連しそうな本
田村 明 『都市ヨコハマをつくる―実践的まちづくり手法』 2005年07月27日
田村 明 『まちづくりの実践』 2005年7月29日
田村 明 『まちづくりの発想』
田村 明 『現代都市読本』
横浜市広告事業推進担当 『財源は自ら稼ぐ!―横浜市広告事業のチャレンジ』 2007年10月10日
南 学, 上山 信一 『横浜市改革エンジン フル稼動 中田市政の戦略と発想』 2005年04月13日
■ 百夜百音
【denim-ed soul(2】 EAST END×YURI オリジナル盤発売: 1995
なまじヒットしちゃったばかりにパクリ元からすっかり訴えられちゃったわけですが、そういえば当時はポケベルが普通で携帯電話は貴重品でした。
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2009年01月28日
行政の解体と再生
■ 書籍情報
【行政の解体と再生】(#1469)
上山 信一, 桧森 隆一
価格: ¥2730 (税込)
東洋経済新報社(2008/7/24)
本書は、「これからのわが国の『公共(public)』のあり方についての問題提起」であり、「『政府』を会えて主役の座から外し、向こう20年のわが国の『公共』の姿とそこに至る過程」を描いたものです。著者は、「『壊す改革』の時代は終わった。これからの改革には『創る』ことも必要だ。創るべきは新しい『公共』の担い手である。これまで間が独占してきた仕事を企業、NPO、市民団体などが担っていく。そして新たな官民の役割分担を構築する。そのことを通じて、同時に官も再生させる」と述べています。
序章「なぜ今『行政の解体と再生』なのか」では、「これまでの官主導の社会の弊害は明白だ」として、「政府(各省庁)が既得権益集団やOBと結託して税金を自分たちの組織の温存とその利益追求のために使う。そして間接的にNPOの成長も阻害してきた」ことを指摘した上で、「官主導から民主導への転換の中身」として、
(1)官の氏名や倫理の明確化
(2)官と民の役割分担による公益の追求
(3)民はまず利益追求に徹するべき
(4)公務員の民間への転換には社会全体の支援が必要
の4つの課題を挙げています。
第1章「資産の流動化と公共施設の見直し」では、「現代においては、資本も設備も人材もすべてが流動化しつつある」ため、「行政の解体と再生」は「歴史の必然」であり、「『市場』という"海"がこれまでの社会の中核を構成してきた『組織』という"島"を浸食する現象」だと述べたうえで、「政府による直営の施設はその存在自体にイノベーションを否定する仕組みがビルトインされている」と指摘しています。
第2章「公立文化施設の経営刷新」では、「全国で進行中の公立文化施設の経営改革」のパターンとして、
(1)館長に有能な人材、それも多くは民間企業の元経営者か海外のミュージアムで活躍した人材を登用し、その人物に多くを委ねるパターン。
(2)指定管理者制度の導入を機に民間企業の参画を得て経営の刷新を図ろうというもの。
(3)経営形態の見直しには至っていないが、行政評価や包括外部監査をきっかけに経営改革が始まるパターン。
の3つを挙げた上で、(1)のパターンには再現性がなく、(2)については第4章で、(3)については本章で解説するとして、
・川崎市市民ミュージアム改善委員会
・横浜市立動物園のあり方懇談会
・静岡県立美術館「評価委員会」
の3つの事例を取り上げています。
そして、これら3つの事例が、「いずれも民間の第三者による委員会が評価を行った点が特徴的である」として、「役所の事務局にデータと情報の提供は求めたものの分析や報告書の執筆も委員が手分けして行った。提言の内容も事務局に素案の作成を求めずすべて委員会が自ら決めた」上、評価対象は施設の経営にとどまらず、
設置者、つまり出資者、スポンサーとしての自治体の関与の仕方も調査した」と述べています。
第3章「民間への管理委託の先行事例」では、2003年の地方自治法の改正による「指定管理者制度」の創設以前に、「事実上、施設の管理委託を民間事業者にゆだねて一定の成果をあげていた例」として、太田房江知事の時代の大阪府の事例として、
(1)リゾートホテル:大阪府立青少年海洋センターファミリー棟
(2)キャンプ場:紀泉わいわい村
(3)スポーツセンター:大阪府立臨海スポーツセンター
の3つの事例を挙げ、「公務員の多くは民間委託をすれば人件費が公務員より安くなるからペイすると考えがち」だが、実は、「民間事業者が役所よりも長けているのはコスト管理だけではない。むしろ施設の稼働率の向上、つまり固定費の回転率の向上なのである。そのことで収入を増やし、同時にコストも下げる。両者が相まって収支が改善する」ことなどを指摘しています。
そして、「この手法が万能といえるわけではない」として、
(1)施設の保守や修繕を誰がやるかという問題がある。
(2)そもそもこれらの施設を大阪府が所有し続ける必要があるのかという根本的な疑問がある。
(3)果たして個々の施設ごとの民間委託が正しいかどうか疑問がある。
の3点を指摘しています。
第4章「指定管理者制度」では、官業の民間開放の動きとして、
・PFI法(1999年)
・構造改革特区(2002年)
・指定管理者制度(2003年)
・市場化テスト(2006年)
・道交法改正による駐車違反取締りの民間委託(2006年)
等を挙げた上で、「指定管理者制度の影響の大きさは群を抜く」として、
・全国の自治体の既存のすべての施設が対象となること。
・それらの施設が地域住民に身近な存在であること。
・企業だけでなく市民に身近な町内会・自治会やNPOなどの団体が指定されることもあること。
等を挙げ、「この制度は市民一人一人が行政の解体と再生を実感できる制度でもある」と述べています。
そして、指定管理者制度のねらいとして、
(1)経費の節減
(2)地方分権における自己責任
の2点を挙げています。
また、この制度のリスクとして、指定管理者に関しては、全国30箇所の施設の指定管理者になっているアクティオ株式会社が、
(1)本当に民間企業の参入を望んでいるか。
(2)自社のノウハウが活きる案件か。
(3)適正な収益を確保できるか。
の3原則に沿って指定管理者の応募案件を慎重に選んでいる例を挙げた上で、「民間企業が、適正な収益を確保できるかどうかには、指定期間によってかなり左右される」として、現在の大勢を占める3年から5年では「おそらく短すぎる」として、「施設の運営に習熟し、新たに雇用した人材の育成も終わってその成果を享受するには、10年はかかる」と述べるとともに、自治体にとってのリスクとして、
・倒産のリスク
・撤退のリスク
等を挙げています。
さらに、指定管理者に関してしばしば発せられる疑問として、
(1)民間企業は営利優先で公共サービスがおろそかになったり値上げをしたりするのではないか→民間企業に限った問題ではない。達成すべきサービス水準と価格を明確にした上で、情報の透明性を確保し、さらにモニタリングなどの監視が必要。
(2)地方に民間企業は本当に来てくれるのか→「全国規模のパブリックビジネス参入企業」や「専門企業」は確かに案件選択は身長であるが、「ビルメンテナンス企業」や「地元企業」は全国各地に存在し、また無理に民間企業に任せず、NPOや地縁団体に積極的にチャンスを与えた方がよい。
等に答えています。
第5章「行政機関の外注管理」では、「行政解体の形態は様々』だとして、
(1)民営化
(2)独立行政法人化
(3)廃止
(4)外注
の4点を挙げた上で、(4)について、外注管理があまり話題にならないが、「外注管理のプロセス全体の良し悪しを論じるべき」だと述べ、外注の成否を決める要素として、
(1)事業や業務のどの部分を外注するかの見極め
(2)相手の選択
(3)外注した相手に効率的かつ質の高い仕事をしてもらうための契約条件やその他の環境づくり
の3点を挙げています。
そして、企業において、「自分の仕事を外注するかどうかの見きわめ」である、「メイク・オア・バイ」(make or buy)の判断に悩む業界が多いとした上で、行政機関の外注管理のあり方として、
(1)都市部と地方ではかなり違う。
(2)役所の外注管理能力の問題。
(3)業務によってはすべてを外注してしまわずに一部を手元においておく。
(4)地元大学や企業と連携する。行政の仕事はますます高度化する。
の4点を挙げています。
第6章「企業と社会の新たな関係」では、最近、「企業は様々な社会責任を果たすべきだ。それはまた企業の存続の根幹にかかわる事項であり不可欠だ」という考え方に変わったとして、この考え方を象徴する「サステナビリティ(Sustainability)」について、
(1)経営サステナビリティ:企業が事業を継続するために必要な外部の環境を自ら努力して保持するということ。
(2)環境サステナビリティ:企業が自社の外に目を広げ、地球環境を保全し人類の生活が持続できるような社会全体のあり方作りに協力する。
の2つのことを意味すると述べています。
第7章「社会企業とその出現の背景」では、2006年のノーベル平和賞受賞者の、ムハマド・ユヌス氏(バングラデシュのグラミン銀行の創始者)のように、「ビジネスを通じて社会改革に取り組む人たち」が増えているとして、「社会企業」や「社会起業家」という言葉を紹介した上で、著者が、社会企業が持つ、「その経営戦略における先進性と成長のパワー」にお注目すると述べています。
そして、社会起業家の定義として、米国のアショカ財団による、「社会の最も差し迫った社会問題に対し革新的な解決策を持つ個人」という定義と、スイスのシュワブ財団による、「新しい発明や従来と異なる方法を用いたり既存の技術や戦略を使いこなすことにより、あるいはこれらの組合せ技により、大規模かつ体系的で持続可能な社会変化を引き起こす現実的な夢想家」とする定義を紹介した上で、社会起業家の類型として、
(1)職業訓練&自立支援型
(2)フェアトレード型
(3)環境配慮商品提供型
(4)社会投資促進型
(5)オルタナティブバンク型
の5つを挙げています。
また、国内の事例として、
(1)ビッグイシュー
(2)スワンベーカリー&ヴィ王子
の2つを挙げ、(2)については、元ヤマト運輸株式会社会長の小倉昌男氏が障がい者の共同作業所を訪れ、月額7000~8000円という月給を知り、「障がい者の労働が報われないのは、作業所の運営者に『経営』という観念が足りないためだ」と考え、全国で「小規模作業所パワーアップセミナー」を開き、経営ノウハウを講義するとともに、「福祉施設を事業体に脱皮させるという発想」で、株式会社スワンベーカリーを設立したと述べ、その優位性として、
(1)障がい者が持つ優しさや笑顔といった人間性に根ざした価値を顧客に伝えている。
(2)お客の側にもパンを買うという日常の消費を通して社会貢献ができるという満足感を与える。
(3)他の企業や団体による支援。
の3点を挙げています。
さらに、これらの事例の共通点として、
(1)一見無縁な2つのものを結び付けてビジネスに仕立て上げている。
(2)顧客に対して「ハンディを抱えた人のための就業支援をしている」と明示している。
(3既にビジネスで成長し実績と信用を持つプロによる支援。
(4)単にビジネス面のみならず社会問題としてのホームレスと知的障がいに対する洞察を持った専門スタッフの関与。
の4点を挙げた上で、「真の社会企業は企業という形態が持つイノベーション創出力というパワーを社会問題の解決に向けてフルに発揮する」と述べています。
第8章「社会企業としてのオルタナティブバンク」では、オルタナティブバンクが、「貸す側、借りる側の意思をマッチングしながら、お金を回していく」者であり、「もともと、公共性の高い事業をやるときに通常の金融機関からの融資だけでまかなえない場合に、志ある人たちが集まって始めた」ものだと解説しています。
そして、欧州の「ソーシャルバンク」の例として、
・倫理銀行(イタリア)
・トリオドス銀行(オランダ):「トリオドス」とは、社会的、倫理的、金融的の3つのアプローチを表す。
の2つを挙げるとともに、米国の「コミュニティ開発金融機関」(CDFI, Community Development Financial Institution)を紹介しています。
また、わが国におけるオルタナティブバンクの例として、
(1)企業と連携して資金集めをするNPO法人:北海道グリーンファンド
(2)広く市民から出資を募っている社会企業:株式会社市民風力発電
(3)欧州のソーシャルバンクに似た活動をするNPOバンク:市民バンクなど
の3つを挙げ、通常の金融ビジネスに対する優位性として、
(1)融資意思を反映した融資を行うことで資金調達がやりやすくなる。
(2)貸し倒れのリスクが低い。
(3)今までにはない形での新たな信用創造ができる。
の3点を挙げています。
さらに、政府系金融機関の中で、オルタナティブバンクから発展したものがあるとして、「商工中金」を挙げ、「政府の信用に裏打ちされた資金調達力のみならず、さらに融資の効果を高める仕組みを持っている」として、
(1)全国の支店で通常の銀行業務をやっている。
(2)全国をくまなくカバーする99カ所の店舗。
(3)組合に対する融資という形態をとること
等の特徴を挙げています。
第9章「行政解体とNPO法人」では、一般に言われているNPO法人のほかに、「法人格を持たない非営利団体」として、町内会、PTA、地域婦人協議会、子ども会などの地域・地縁団体を挙げ、「いわば法人格を持たない『古いNPO』であり、地域によっては最近できた法人形態の『新しいNPO』と競合する」と述べたうえで、NPOが、「政府のフットワークの悪さを補い、あるいは先行して社会・公共問題を解決する」として、米国のエイズ対策のケースを例に挙げています。
また、1998年に施行されたNPO法の意義として、
(1)NPOが政府や企業と同じく社会運営の重要な担い手だと認知された。
(2)行政との連携関係の構築。
(3)NPO法人側に実務能力が備わってきた。
の3点を挙げる一方で、現状に対する懸念として、
(1)過半の収入を行政機関の委託業務から得ると行政の外郭団体化する。
(2)抽象的な理念や思いつき、あるいは自分たちの趣味が先に立ち、現実の社会問題やサービスの受け手のニーズをきちんと捉えていない団体がまだまだ多い。
(3)持続安定的に経営するための事業基盤と組織能力の不足。
の3点を挙げています。
そして、NPO法人にも評価が必要な理由として、
(1)企業のように売り上げや利益といったわかりやすい業績指標がない。
(2)社会性のチェックのため。
(3)役所と仕事をするうえで評価報告が必要になるという現実的理由。
(4)資金と人材を外から得る上で評価結果を開示する必要がある。
の4点を挙げた上で、「評価や情報公開の手法は主に米国で発達してきた」が、米国には、「所詮、評価には限界がある」という割りきりがあると指摘しています。
さらに、「社会全般のありようを変えていく力」をNPOが発揮できるために、
(1)"ノン・プロフィット"の呪縛から自らを解放する必要がある。
(2)政府に対する"破壊力"を期待したい。
(3)わが国の行政機関が要する豊富な人材を民間の世界で活用する場として極めて大きな可能性を秘めている。
の3点が必要だとしています。
終章「個人の公共性と職業としての公務員」では、NPOと個人の問題について、
(1)人はなぜ公共の分野に興味を持ち、貢献しようと思うのか。
(2)個人が社会貢献に費やす時間や労力は、どのような形で報われるべきか。
(3)多くの人は、本業を別に持った上で社会貢献をする。どうやって両立させるのか。
の3つの問いを通じて「個人の公共性」について考えるとしています。
そして、行政解体が進むと、
(1)公務員の数が減る。
(2)雇用形態の流動化が進む。
(3)外部からの人材の流入が進む。
の3点を挙げ、「従来のような軍隊型の強固なピラミッド型の行政組織は崩壊していく」と述べています。
また、これからの時代の公務員の仕事が、「裏方に回ってプロデューサー的な機能、あるいはホテルの今シェル中のような周辺補佐機能を果たすのではないか」と述べています。
本書は、単なる行政の解体にとどまらず、その後を実証を挙げながらわかりやすく解説した一冊です。
■ 個人的な視点から
今まで、行政の世界は、インクリメンタリズム(増分主義)で拡大してきて行っただけに、成長が止まり、「行政改革」をやるといっても、各分野から同じ割合で予算を減らしていって、「痛み分け」とする、「減分主義」とでもいうべきやり方しかできず、その典型が「シーリング」という手法なわけですが、必要なのは、外来語になった「首切り」を意味する「リストラ」ではなく、解体と再構築という本来の意味の「リストラクチャリング」をどのように行われるか、ということを本書は示しているのではないでしょうか。
■ どんな人にオススメ?
・今の行政に手詰まり感をもっている人。
■ 関連しそうな本
上山 信一 『「政策連携」の時代―地域・自治体・NPOのパートナーシップ』 2005年03月28日
上山 信一 『だから、改革は成功する』 2005年11月02日
上山 信一, 伊関 友伸 『自治体再生戦略―行政評価と経営改革』 2005年4月30日
上山 信一, 稲葉 郁子 『ミュージアムが都市を再生する』 2006年02月09日
上山 信一, 梅村 雅司 『行政人材革命―"プロ"を育てる研修・大学院の戦略』 2005年04月16日
ダニエル ピンク (著), 池村 千秋 (翻訳), 玄田 有史 『フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか』 2005年02月02日
■ 百夜百マンガ
今ではすっかり「番長」というキャラで定着してしまい、とても「くん」がつくような印象は持たれていませんが、こういう時代もあったのだということでしょうか。
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2009年01月15日
監獄ビジネス―グローバリズムと産獄複合体
■ 書籍情報
【監獄ビジネス―グローバリズムと産獄複合体】(#1456)
アンジェラ・デイヴィス (著), 上杉 忍 (翻訳)
価格: ¥2415 (税込)
岩波書店(2008/09)
本書は、「現代アメリカの監獄制度の肥大化のメカニズムを解明し、歴史的産物としての近代監獄制度そのものが既に『時代遅れ』になっていると断じ、その廃止の展望を模索したもの」です。
第1章「監獄改革か、監獄廃止か」では、「死刑のない社会を思い浮かべることはそれほど難しくはない」が、「監獄は、われわれの社会生活には不可避で永久になくならないものだと思われている」として、「ほとんどの人には監獄を廃止することなど想像すらできない」と述べた上で、「この本に込めた願い」として、「監獄についてのこのような既成概念に対して読者が疑問を抱いてくれること」だと述べています。
そして、合衆国の人口が、「全世界の5%以下しか占めていない」にもかかわらず、「監獄人口では全世界の20%以上を占めている」ことを指摘し、エリオット・カーリが、「主要な戦争を除けば、大量投獄は現代のもっとも完全に執行された政府の社会計画だった」と述べていることを紹介しています。
また、「軍産複合体の台頭を思い起こさせるほどの規模で、監獄建設とその運営が、建設業から食品、保険医療設備にいたる巨額の資本をひきつけるようになった」ことを、「産獄複合体」と名づけたと述べています。
著者は、「今日われわれが挑戦しなければならないもっとも困難で緊急の課題は、司法の新しい地平を創意を持って切り開くこと」であり、「その地平の向こうには、監獄がもはや主要なブレーキ装置としての役割を与えられていない社会が生まれる」と述べています。
第2章「奴隷制・公民権・監獄問題」では、人種差別制度解体のための歴史的努力の具体例を挙げた上で、「これらの出来事が監獄とその監獄廃止に関するわれわれの議論と直接的な関係がある」と述べ、「その関係を究明すれば、現在の懲罰産業のおかれた状況に新たな展望を見出せるかもしれない」としています。
そして、「もしわれわれが、奴隷制あるいは囚人貸出制度や人種隔離制度といまだに格闘していた」ことを想像することで、「われわれは監獄がどういう深刻な結果を社会にもたらしているかについて」推測できるとしています。
第3章「監獄と改革」では、監獄自体は、「より良い懲罰制度を確立しようとする各界の努力の産物だった」とした上で、監獄への収監が、「ヨーロッパでは18世紀、合衆国では19世紀になって主要な懲罰形式として採用」され、「植民地支配の重要な手段としてアジア、アフリカに輸出された」と述べ、「この時代には、資本主義制度確立のために必要不可欠な工業労働を担う自己規律化された労働者階級の形成が求められていたが、この時代の要請こそが、新しい懲罰形態を可能にした」ことを指摘しています。
第4章「ジェンダーに規定された監獄制度」では、「収監が懲罰の主要な形態として登場してきた18世紀の末以来、有罪とされた女性は同じように有罪判決を受けた男性とは本質的に異なったものとみなされてきた」として、「男らしい犯罪性は、女性の犯罪性よりも常に『正常』なものと見なされてきた。その不品行によって公に国家によって罰せられた女性は、男性犯罪者よりもより常軌を逸し、より社会に脅威を与える存在だとみなされる傾向が常にあった」と述べ、「女性囚人は立ち直りようのない、堕落した救済不能な女性だとの見方が支配的」で、「男の罪人が社会契約を犯しただけの公的個人だとみなされていたとすれば、女の罪人は女性としての基本的な道徳的基準の一線を越えてしまった存在だとみなされていた」と指摘しています。
また、「女性監獄における抑圧の度合いが高まり、また、逆説的なことなのだが家庭内懲罰体制が後退するにつれて、家庭内暴力と同様、女性に対する私的な懲罰のもう一つの要素である性的陵辱が、監獄内の懲罰の重要な構成要素となった」として、「世界中の女性囚人に関する研究によれば、性的陵辱は、公然と認めらているわけではないが、監獄に収監された不幸な女性たちが受けなければならない昔から長く続いてきた懲罰の形態である」と述べています。
そして、「女性監獄で広く性的陵辱が行われていることを認識することは、われわれを監獄は意思に導くラディカルな分析にとってきわめて重要な意義を持っている」と述べています。
第5章「産獄複合体」では、株式会社による囚人労働の搾取が、「株式会社と政府、監獄関係者、メディアを結び付けている一連の諸関係の一局面である」として、「われわれが産獄複合体と呼んでいるものは、このような諸関係によって構成されている」と述べたうえで、「軍産複合体と産獄複合体の関係を共生的な関係と呼べば、より説得力がある」として、「この二つの複合体はお互いに支えあい、促進しあっている」ことを指摘しています。
そして、「18世紀と19世紀の人々が監獄という懲罰制度を新しくかつ大変素晴らしい改革だとして歓迎した」が、「もし、いまではこれほど多くの人間が監獄に入ったままになっていることを知ったら、当時の人々は一体、どのような反応を示すだろうか」と述べています。
また、監獄の民営化について、「民営監獄は合衆国ではまだほんののわずか」だが、「多くの国々で急激に懲罰施設設立の主流になろうとしている」として、民営監獄会社が、「合衆国だけでなく世界中で女性集感謝が増えていることに便乗しようとしてきた」ことを指摘し、「一般消費者によく知られている数多くの株式会社が、自分たちの商品を監獄に売り込んで大きな利益を上げる新しいチャンスを獲得した」と述べています。
著者は、「グローバルな産獄複合体に対する根源的な批判者」が、「民主主義の発展を目指す運動を拡大するうえで反監獄運動は決定的に重要な運動だとみなしている」と述べています。
第6章「監獄のない世界へ」では、監獄は意思の展望について考える際に、「われわれをしばしば思考停止状態に陥れてしまう厄介な問題」として、「もし留置所や刑務所が廃止されるなら、では、何がそれにとって代わるのか」という問いを挙げた上で、「現行の収監制度に対する単一の対案を抗争しようと努力するのではなく、われわれは、われわれの社会の様相を根本から変えるような一連の対案を構想すべき」だと述べています。
そして、「この脈絡の中でこそ、麻薬使用の非犯罪化を検討することの意味が理解できる」として、いわゆる「麻薬との戦争」が、「膨大な数の有色人を監獄に送り込む際に大きな役割を果たしてきた」と述べた上で、「麻薬使用の非犯罪化の提案を、各地域の無料麻薬対策プログラムと結合させる必要がある」としています。
また、「監獄に対する対案を構想する新しい概念的領域を切り開くためには、なぜ『犯罪者』が一つの階級、すなわち、他の人に与えられている市民権や人権を与えるに値しない階級とみなされるのかを検討するイデオロギー的作業が必要である」と述べたうえで、「これらのより広い視野から提起された廃止主義者の対案を背景にして考えてみれば、現行の刑事裁判制度の根本的な変革を提言することの意味が理解できる」と述べています。
本書は、多くの人が当たり前の存在だと考えている「監獄」が、必ずしも単一の解決策ではない可能性を教えてくれるとともに、大量監獄によって生まれた産業が大きな力を持っていることを気づかせてくれる一冊です。
■ 個人的な視点から
本書の内容自体には、「グローバリズム」という言葉はそれほど大きな意味を持っていないのですが、邦題に書かれているのは、どういう人にこの本を買ってほしいのか、という意味でわざとミスリーディングを誘うようなタイトルをつけたのではないか、という気がしてなりません。
■ どんな人にオススメ?
・監獄はあって当たり前だと思う人。
■ 関連しそうな本
ジグムント バウマン (著), 奥井 智之 (翻訳) 『コミュニティ 安全と自由の戦場』 2008年01月12日
菊田 幸一 『日本の刑務所』 2007年12月28日
クリスチャン ウルマー 『折れたレール―イギリス国鉄民営化の失敗』 2006年08月03日
飯尾 潤 『民営化の政治過程―臨調型改革の成果と限界』
野田 由美子 『民営化の戦略と手法―PFIからPPPへ』 2006年01月30日
菅原 出 『外注される戦争―民間軍事会社の正体』 2008年01月07日
■ 百夜百マンガ
今ではすっかり刑務所マンガの第一人者になってしまった感じがしますが、また、本来のファンタジーでも注目されてほしいです。
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2009年01月09日
シティマネージャー制度論―市町村長を廃止する
■ 書籍情報
【シティマネージャー制度論―市町村長を廃止する】(#1450)
佐々木 信夫, 金井 利之, 工藤 裕子, 土岐 寛, 牛山 久仁彦, 穂坂 邦夫
価格: ¥1500 (税込)
埼玉新聞社(2008/12)
本書は、住民自治を確立し、民主主義を保障する合理的で効率的な地方行政制度の設計が必然的な時代の要請として強く求められている」なか、世界の政治制度や地方自治制度を比較し、制度の長所・短所を様々な角度から分析したものです。
第1章「我が国と主要国の地方制度に関する比較」では、「世界的にみると、すべての地方自治体の長について、直接公選することを憲法で規定しているのは、我が国独特の制度」であり、「諸外国では、議会が議員の中から首長を選ぶ議院内閣制型、立法機関と執行機関をかねる評議会(理事会)を設置する評議会(理事会)型など、多様な統治形態」があり、「これらの制度を地方自治体が選択できるようになっている場合もある」と述べています。
第2章「わが国における自治制度の検証」では、日本の首長制度について、
(1)政治家である首長が、人事・予算を握る。政治優位の仕組である。
(2)首長と議会は、それぞれ住民から直接選挙される二元的代表制であるが、現実には首長の力が議会より圧倒的に大きい。
(3)教科書的には執行機関多元主義と呼ばれ、各種の委員会・委員がおかれているが、現実には、首長に総合調整権があるため、基本的には、首長が全行政の統合を担う。
の3つのポイントを挙げた上で、首長に強い権力が集中することを想定した戦後日本の首長制は、市支配人制度とは「水と油」のようなものであることを指摘した上で、アメリカで市支配人制度を必要とした理由が、
(1)政治の過剰な優位
(2)各分野の過剰な分立傾向
であることに鑑みると、「住民から直接選挙される首長以上に、各分野を統合できる正統性のある主体は想定できない」ため、(2)の観点からの市支配人制度の導入は「あまり意味がない」とした上で、「権力は集中しているが、十分な賢慮をすることのできない首長は、膨大な行政分野に実際には配慮することはできず、結果的に、『気まぐれ』あるいは『人気取り』で、政策・事業をつまみ食いする可能性も増えている」という点では、「市支配人制度には意味が見出せよう」と述べています。
第3章「シティマネージャー制度の紹介と実態調査」では、米国のシティマネージャー制について、「日々の市の政策運営を行うために市議会によって雇用された行政経営の専門家」とする定義を紹介した上で、国際シティマネージャー協会(ICMA)によるシティマネージャーに求められる資質として、
(1)分析と総合の能力
(2)社会哲学
(3)優先順の決定
(4)イニシアティブ
(5)組織的指導
(6)よき公共関係
(7)専門的知識
(8)職業的精神
の8点を挙げつつ、今後の課題として、
(1)シティマネージャーの能力
(2)いかに政治的に中立を保とうと思っても、政策判断が政治家の意見と異なる場合、すぐれた政策であっても、それを遂行することが難しい場合もある。
の2点を挙げています。
また、英国の地方自治体について、2006年現在では、「リーダーと内閣制度」と「公選首長と内閣制度」の2つのない武功増も出るに分かれているとした上で、「従来の『委員会制度』に近い『リーダーと内閣制度』を採用する自治体が圧倒的に多く、これらの自治体については、従来型のチーフ・エグゼクティブが活躍すること考えられる」と述べています。
さらに、イタリアの地方自治制度について、1997年のバッサニーニ法が、「補完性の原理に基づいて、国から州、県、コムーネへ、権限・事務、税源、人員の移譲を実施した」ことを、一般に、『行政的連邦主義』といわれるとした上で、この一連の地方分権改革を2001年憲法改正が完成させたとして、
(1)コムーネ、大都市圏、県、州を、国と相互に対等な関係にある自治体として明確に位置づけた。
(2)立法権は、国と州に帰属するとした。
(3)地方自治体の財政自主権が規定されているが、この規定は地方自治体の財政は自主財源によりまかなうことを意味すると理解されている(財政連邦主義)都道時に、担税力の乏しい地方自治体のために均衡化基金の設置が規定された。
の3点を挙げています。
さらに、日本でシティマネージャー制度が比較的評価を受けているのは、「知らないから受けているという点もある」ことを指摘したうえで、シティマネージャーにとって一番重要なことは、「人当たりが柔らかい」ことで、「日本流に言うと根回しのうまい人が、シティマネージャーには多い」と述べています。
第4章「日本型シティマネージャー制度の導入」では、「代議員制度が適正に機能しているとすれば『住民参加』の必要性は考えられない」が、「二元制の実態を検証すると随所にその必要性が生じる」として、「一般市民の多くは負担とサービスの関係を理解すると、個々の利害を超えて全体の利益や市民の連帯を考えることができるため、政策決定における住民の参加が必要不可欠ともなる。本末転倒とも言えるがこれが実態である」と述べています。
そして、我が国の二元制が持つ大きな矛盾として、
(1)首長と議員の双方に政策機能が付与されていること。
(2)首長は一人を選出するが議員は複数であるという異質な選出方法
の2点を挙げたうえで、「首長は政治と行政的な機能のみならず行政活動と永続的に展開するための財政規律機能も同時的に発揮して経営責任を果たさなければならない」一方で、二元制のもう一つの柱である議会には、「予算編成権や執行権を持たないだけでなく、縮小された政策機能だけを行使することになる」と述べ、このような矛盾が、「地方と国の集権的関係の中では顕在化しなかったが、分権化が加速することによって様々な問題が顕在化した」と指摘しています。
また、市支配人制度の要素として、
(1)公選=政治機関は市支配人とは別にあり、その高専機関からの選任・解任・監督を受ける
(2)市支配人は独任制である
(3)市支配人は行政運営の様々な権限(特に、人事権、予算編成兼など)を持つ
(4)市支配人は、公選でないのは勿論であるが、政治的任用ではなく、中立的に成績主義に基づいて資格任用されるものである。
の4つの革新的要素を挙げたうえで、「既存の制度の中にも、市支配人的制度での運用は可能なものもある」が、「それが市支配人的に運用されない」とすれば、「その原因は、制度そのものではなく別の要因にある」として、「同一組織内での終身職としてのジェネラリストの内部昇進という日本型人事慣行」を指摘しています。
第5章「多様な地方制度のあり方について」では、埼玉県志木市が、2003年から2005年にかけて、計4回「市町村長の必置規定の廃止」を提案したが、構造改革特区推進室は、憲法第93条に抵触するとして「対応不可」としたと述べたうえで、「地方制度の抜本的な改革によって、住民の行政参加が加速して、行政経費の削減が進み、住民負担が軽減されるとすれば国民にとって、痛みを伴わない改革が実現し、多大な利益を還元することができる」おして、「住民自身が様々な自治制度を選択することによって、住民自治は確かなものとなり、財政規律も回復して、小規模自治体におけるコミュニティも再生する」と述べています。
本書は、日本における地方自治のあり方と課題をシティマネージャーという切り口から論じた一冊です。
■ 個人的な視点から
本書の面白さは、現場の人と学者との温度差でしょうか。現場からの問題意識は、シティマネージャー制度の導入を目的にしているわけではなくそれを切り口にして改善の糸口を見つけたい、というところにあるのではないかと思いますが、研究者はまじめなので既存のシティマネージャー制度について詳細に分析していて、その部分の温度差というか、向いている方向の違いに本書を読んだ人は戸惑うのではないかと思います。
■ どんな人にオススメ?
・地方自治体の長は公選が常識だと思っている人。
■ 関連しそうな本
NPO法人地方自立政策研究所役割分担明確化研究会 (著), 穂坂 邦夫 『地方自治自立へのシナリオ―国と地方を救う「役割分担明確化」の視点』
穂坂 邦夫 『教育委員会廃止論』 2006年01月26日
穂坂 邦夫 『市町村崩壊 破壊と再生のシナリオ』
埼玉新聞社 (編集) 『生き生きまちづくり 埼玉県志木市の挑戦』 2005年04月17日
小滝 敏之 『アメリカの地方自治』 2006年02月02日
■ 百夜百マンガ
架空のプロ野球チームという設定はマンガの世界では定番ですが、そういえばドラマではなかなか見かけない気がします。スポンサーとかの制約がきついのでしょうか。
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2008年12月25日
戦争民営化―10兆円ビジネスの全貌
■ 書籍情報
【戦争民営化―10兆円ビジネスの全貌】(#1435)
松本 利秋
価格: ¥798 (税込)
祥伝社(2005/08)
本書は、「これまで語られてきた戦争の歴史を『戦争ビジネス』という視点からもう一度洗い直し、傭兵とと平気ビジネスの実態から、戦争のもうひとつの側面を描こうとしたもの」です。
第1章「身近になった戦争ビジネス」では、「もっとも有名な傭兵部隊」とされ、「民間軍事会社の重要な人材供給源になっている」フランス外人部隊について、1970年代の体験談として既に契約書にサインを済ませたにもかかわらず、、三週間まで留まることができるが、「この三週間の間に出て行きたいと思う者がいたら、汽車の駅まで案内する。そして、フランス国内のどこへでも行きたいところまでの切符を渡す。この件についてはまったく処罰の対象にはならない。そして、お前たちの外人部隊での記録は存在しないことになる」と言い渡されたことを紹介しています。
そして、2005年におきたフランス外人部隊に所属していた日本人、斉藤昭彦さんがイラクで殺害された事件に関して、「対テロ戦闘のスペシャリストとして、特別に訓練を受けた軍人のエリートたちが民間の軍事会社に入り、こうした民間軍事会社が約60社がイラクで行動している」と述べています。
第2章「古代から戦争はビジネスチャンス」では、「古代世界において、国軍と傭兵団は明確な線引きをすることは難しい」とした上で、カルタゴの名将ハンニバルが、「傭兵たちには戦士としてのプロ意識を訴え、協力して戦う教育に専念し、奴隷であった者たちには、戦闘に勝ったら自由を与えることを約束した」と述べています。
また、「ローマ教皇を含む数多くの王朝が、自分の身を守るための私的なガードマンとして、険しいスイス山岳地帯の土着人を雇っていた」ことについて、「地元の民は様々な政治的状況によって動くが、外国人はそのような政治的な状況とは関係なく職務をまっとうできる」ため、「外国の優れた警護人を雇うほうが理にかなっている」と述べています。
さらに、日本においても、足利幕府末期には、「戦争ビジネスは口入屋や故買屋などの民間企業家の独壇場であった。傭兵隊長はこれら戦争企業家が兼ねていたのである」として、豊臣秀吉や蜂須賀小六などは、「『足軽』と呼ばれた食い詰め農民から、戦争ビジネスの世界に飛び込んだものたちであった」と述べています。
第3章「紛争地に戦争ビジネスあり」では、アメリカが、アンゴラ内戦に、「武器とともにベトナム戦争経験者を中心とした傭兵を大量に送り込んだ」として、そのなかで、「もっとも果敢に戦った傭兵の一人」として、ジョージ・ベーコン3世を取り上げています。
また、1960年代のキューバ危機に関して、「当時の世界を壊滅の危機に追い込み、ケネディ、フルシチョフの対決を激化させ、東側の盟主ソ連の首相を失脚させる、そもそもの原因となった亡命キューバ人傭兵団」として、「アルファ66」を紹介しています。
さらに、「1980年代になって傭兵の新しい市場が生まれ、新種の傭兵集団が参入してくるようになった」として、コロンビアの麻薬組織、カリ・カルテルが集めた傭兵集団を取り上げています。
第4章「アジアの歴史を変えた戦争請負屋」では、1940年代に、「表向きはあくまでも中立国の立場を守ろう」としていたアメリカが、中国を支援し、「日本の南進により支障をきたす援蒋ルートの保護を秘密裏に行うこと」を任務としてた傭兵航空団「フライング・タイガー」を生んだとして、「この傭兵航空団の特徴は、飛行機の期待のノーズにタイガー・シャーク(虎鮫)を描き、鋭い目でにらみつけたようになっていたこと」を挙げています。
そして、中東においても、「先進諸国の超最新鋭兵器の輸出」が、「政治的にも不安定な中東諸国の軍事的バランスを一挙に突き崩し、戦争の要因を作っていた」として、ベトナム戦争の終結による政治的圧力によって、1972年5月にはニクソン大統領が、「大統領自らセールスマンになって」イランにアメリカ製兵器を売り込んだいたと述べています。
また、「日本人にとって、『平和の象徴』というイメージが強い国連であるにもかかわらず、武器輸出大国の『死の商人』が、国連の方向を決定する力を持っている」と指摘しています
さらに、湾岸戦争が、「旧ソ連製の武器を中心にしたイラク軍に対して、特にアメリカ製のハイテク兵器が、西側の圧倒的な強さを見せ付けた」として、「湾岸戦争はアメリカ製兵器の、またとないデモンストレーションの場となった」と述べています。
著者は、「軍拡が緊張を引き起こし、さらなる軍拡を招くという悪循環を起こした、その原因は、国家と密接な関係を持ち、政治的・経済的に優位に立とうとする武器輸出国と、死の商人たちのあくなき利益追求の結果である」と述べています。
第5章「現代の戦争ビジネス組織」では、「現代の戦争にビジネスとして参加している企業」は、
(1)軍へのサービスや、戦争後の復旧作業に従事する純粋なサービス・建設企業など
(2)それらの企業を護衛し、情報収集や場合によってはテロリストの襲撃に対する軍事的な防衛作戦を実行する役割の企業
の2種類に分けられるとしています。
そして、軍事請負企業の中で「群を抜いて大きい」物として、アメリカのMPRI(Military Professionals Resources inc.)とイギリスのアーマーグループを挙げた上で、軍事請負会社の市場規模が、全世界でおよそ1000億ドルに上ると述べています。
また、「軍の事業を民営化していく新しい軍運用モデルを作り、同時に民間企業に新たなビジネスチャンスと、市場を提供した究極の民営化推進者」であったチェイニー氏と関わりが深いとされるケロッグ・ブラウン&ルーツ(KBR)社について、ペンタゴンのレポートによれば、KBR社が提供しているイラク駐留軍向け食料がは「汚すぎる」とする声が多く、「給食を調理しているKBR社のキッチンは『床は血だらけ、汚れたフライパン、汚れたグリル、汚いサラダバー、腐った野菜』というありさまだった」と述べた上で、「米軍当局にとっては、KBR社と契約することのメリットは、その労働対価にある」として、「工兵隊の仕事を、兵士の給料の数分の一で請け負い、現地の労働者を雇用して、民生安定にも役立つ仕事をしていると評価が高い」と述べています。
さらに、「日本企業も含めて、巨額でかつ長期にわたるであろうイラク復興事業を、世界の企業が不況脱出のためのビジネスチャンスとみなし、事業に参加しようとしてしのぎを削る状況が、今後も続くことは間違いない」と述べています。
本書は、大きく姿を変えていながらも、ビジネスチャンスという点では変わらない戦争の姿を描いた一冊です。
■ 個人的な視点から
軍隊が民営化される、という話を聞くと、どうしても筒井康隆の「通いの軍隊」を思い出さずにいられませんが、実際には「民間企業」の軍人の方が苛酷な環境にいたようです。
■ どんな人にオススメ?
・軍と企業は相容れないものだと思う人。
■ 関連しそうな本
菅原 出 『外注される戦争―民間軍事会社の正体』 2008年01月07日
本山 美彦 『民営化される戦争―21世紀の民族紛争と企業』
P.W. シンガー (著), 山崎 淳 (翻訳) 『戦争請負会社』
ロバート・ヤング ペルトン (著), 角 敦子 (翻訳) 『ドキュメント 現代の傭兵たち』
高木 徹 『ドキュメント 戦争広告代理店―情報操作とボスニア紛争』 2006年11月27日
アンヌ・モレリ (著), 永田 千奈 (翻訳) 『戦争プロパガンダ 10の法則』 2007年11月01日
■ 百夜百マンガ
戦記ものの第一人者としても知られている作者ですが、リアリティあふれる戦記というよりも「男」とは何か、にこだわった感じを受けます。おいどんしかり。
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2008年12月14日
公務改革の突破口―政策評価と人事行政
■ 書籍情報
【公務改革の突破口―政策評価と人事行政】(#1424)
村松 岐夫
価格: ¥2940 (税込)
東洋経済新報社(2008/03)
本書は、「日本の政治行政におけるガバナンスの改善」に問題意識を置いて、新公共経営(NPM)の諸改革について論じたものです。
著者は、「諸改革が地方から始まったのは自然であった」とする理由として、「地方自治体には問題を切り開いていく何らかの理念や理屈、それに手法が必要であった。NPMという考え方は絶好の視点であり、格好の枠組みであった」と述べています。
そして、NPMが日本において、
(1)NPMは、新自由主義の上に立って財政削減を目的としている。
(2)NPMを主張する議論の中に日本では、それが、「行政再建」の実践理論だと見る視点もある。
の2つの使命を持っていると述べています。
第1章「世界と日本のNPM」では、NPMの背景について、「政府財政の赤字拡大、高齢化等の新規行政需要への対応、政府への信頼低下、既往の行政システムの制度疲労」などを挙げ、「理論的には新制度は経済学と経営管理学の双方が組み合わさって発展したものといえる」と述べています。
そして、NPMの「消費者的な市民像」が、「対話・参加型の民主主義に対立し、また、構成への配慮が不足していると当初から指摘されていた」ことを挙げた上で、「必要なのは音楽総監督が公演の際、指揮者の任命(政策)、演奏会での曲目構成(施策と事務事業)、オーケストラの構成(資源の投入・組合せ)、また、観衆の相互作用(社会との関係)、スポンサーの獲得と収支管理(資源の獲得・調達、財務管理)、優秀な演奏者の育成と継続及び施設の確保(人事管理と施設管理)という一連の行為を使命の達成に向けて的確に決定し実施すること(経営モデルの選択と実施)を参照することである」と述べたうえで、「NPMは活用できるが万能ではないから、上手に効果を発揮できる環境に適合した運用をすべき」だと述べています。
第2章「NPM型改革における『経営』と『政策助言』」では、NPM型の行政改革の新しい管理方式として、
(1)組織内部管理においては、一定の目標を達成すること、また、その達成における効率性の確保に重点が置かれ、手続きの遵守という側面は薄れていく。
(2)独立行政法人と母体となる省庁の間といった組織間関係の重要性が増す
(3)行政資源の使い方に関して、個別のチェックを行うということではなく、総枠で管理するという方向が支配的になる。
(4)次善のチェックから事後のアウトプットに着目する管理方式へ移行する。
(5)「数値による管理」が多用される。
の5つの方向性を挙げています。
そして、本章における結論として、
(1)NPM型とは対照的な日本の行政システムにおいて「経営」を確立するには、人事、組織編制、予算・会計の各サブシステムにわたるトータルな改革を実施しなければならない。
(2)政府内部における「経営」の確立に向けた改革は、従来の「政策助言」の昨日に基盤を置いたシステムとの間に齟齬を生じさせる可能性がある。
の2点を挙げています。
第3章「新しい公共経営と人材育成・人事評価」では、「新公共経営の流れ」が、従来からの人材育成システムに再考を求めつつあるとして、
(1)「組織が求める能力」が変容しつつある。
(2)個々の職員の側からの異動希望の声が強くなる。
の2点を挙げた上で、「日本の公務員制度は、NPMをはじめとする劇薬を振り掛けられて、大きな転機に差し掛かっている」と述べています。
第4章「NPMと評価のインパクト」では、NPMのインパクトとして、「二重の意味で行政管理責任者に組織の『マネジメント』構築を迫ったことにある」として、
(1)行政組織の運営にマネジメントの概念を持っているかを問い、マネジメントの思想を持てと主張する。
(2)NPMの諸主張のなかの一部を採用せよという。
の2点を挙げています。
そして、後者について、「日本の行政運営で従来聞かれなかった成果主義、顧客主義、組織のフラット化、評価などの導入を主張していること」にインパクトがあると述べています。
第5章「国における政策評価」では、「政策評価という手段(ツール)は、国の機関において、活用されれば大きな意味のあるものだと考えている」が、「問題はそれが正しく活用されているか否か」だと述べた上で、「本来、政策評価は、施策の妥当性の有無を結論づけるもの」ではなく、「施策導入時に提示された『仮説』を検証し、今後の施策導入時における政策分析の質を高めることにつながる」と述べています。
そして、政策評価が改革しようとしているものについて、「『外科手術』ではない。むしろ、行政の仕事の進め方を風土、体質から改善する漢方薬のようなもの」だと述べています。
第6章「公共事業評価」では、「費用便益分析が万能薬ではないということを認識する必要がある。評価として提示される数字の限界を理解していないと、実際に使う段階で大きな失敗をもたらすことになる」として、不確実性下での評価の限界について指摘し、「費用便益分析の限界を認識した上で、公共事業の評価を行う必要がある」と述べています。
第7章「規制影響評価を日本に定着させるには」では、「規制影響評価(Regulatory Impact Assessment, RIA)」について、「規制を導入したり、改廃したりする際に、代替案も含めて、その規制が社会に与えるプラスとマイナスの影響をできるだけ包括的、かつ定量的に予測して事前に示すことであり、またそうした手続き全体のこと」だと述べています。
そして、RIAの後発国である日本が、「各国で実施されているRIAの事例、ガイドライン、計算手法などを豊富に参照できる」という「後発の利益を享受」できるにもかかわらず、「質の高いRIAを作成しようとするインセンティブは全くなく、施行段階のRIAにおける定量化や代替案の乏しさにも納得できる」と述べています。
第8章「地方における政策評価」では、「地方自治体においては、一時期急速に広まった事務事業評価を見直そうという考えや、行政評価導入を保留してその意義について見極めようという考えがあって、政策評価のために人・モノ・カネを積極的に投資するという姿勢はなくなってきているのではないか」と述べ、地方自治体で政策評価の積極的な取り組みが進まない原因として、「支出カット目的の評価」の行き詰まりを挙げています。
第9章「自治体評価の意義」では、2006年3月に国内の自治体を対象として実施した調査結果をもとに、自治体における行政評価の実像を明らかにするとしています。
第10章「地方自治体のNPM改革の現状と課題」では、「NPM改革を先取した英国と1990年代後半から一気に取り組みを始めたわが国とどこが異なっているのか、類似するのかを整理することは、わが国の今後のNPM改革の理解のために一定の意義があろう」と述べています。
第11章「NPMにおいていかなる『責任』を実現するか」では、「わが国で政策評価を導入しようとするところではすべて、アカウンタビリティの実現をその導入目的に掲げていた」理由として、「20世紀末、日本人がアカウンタビリティを『発見した』直後に政策評価が登場したことがその理由であろう」と述べています。
そして、「政策評価を実施した現場で、多くの課題が出現した原因」として、
(1)政策評価の本質を看過したこと
(2)わが国固有の行政文化の伝統を変えないままで単にテクニックを模倣するアプローチであったこと
(3)ミス・キャストが原因となって発生した4つの勘違い
(4)行政を取り巻く過剰な効率主義、あるいは安易なコスト削減が蔓延したこと
(5)政策評価を導入して行政を現代化する運動が進められた時期に、この運動の意気込みをくじく過誤行政が発生し、それらが悪影響を及ぼしたこと
(6)政策評価が効率化や過誤行政の摘発などすべての病気に即効性を持つ万能薬であると錯覚されたこと
(7)理論の欠如
の7点を挙げています。
第12章「日本にNPMは定着したか?」では、「NPMが多くの海外の識者の予想に反して急速に広がった、あるいは普及したという意見は多い」が、「これは正しい認識なのか考えてみたい」としています。
そして、「制度設計そのものが重要なのではなく、NPMが目指した目的が実現されているかどうか、イノベーションによる生産性の向上、顧客主義に基づく業績/成果志向のマネジメントが実践できているかどうか、が本質ではないか」として、「日本型NPMは、制度設計は進んだが、マネジメント・スタイルの実践がなされているとは到底言えない」と指摘しています。
また、「日本型NPMは『ニュー』であるかどうかという以前に『マネジメント』ではない」と述べています。
本書は、日本でNPMがどのように受け入れられ、どのように変質していったのかを概括した一冊です。
■ 個人的な視点から
「NPM」という言葉も業界の流行語としてはすっかり過去のものになった感がありますが、どうして日本で評価ブームが起こったか、とか、日本におけるNPM改革のインパクトとか、NPMの光と影、とかというテーマの研究は、むしろ、これからの方が内容的には充実してくるような気がしますし、これこそがまさに評価の評価でしょう。
ただし、本として売れるかどうかは定かではありませんが。
■ どんな人にオススメ?
・NPMはブームだったと思う人。
■ 関連しそうな本
大住莊四郎 『ニュ-・パブリック・マネジメント 理念・ビジョン・戦略』 2005年01月23日
大住 荘四郎 『パブリック・マネジメント―戦略行政への理論と実践』 2005年05月06日
大住 荘四郎, 玉村 雅敏, 上山 信一, 永田 潤子 (著) 『日本型NPM―行政の経営改革への挑戦』 2005年04月26日
上山 信一 『だから、改革は成功する』 2005年11月02日
福山 嗣朗 『NPM実務の考え方・進め方―効率的・効果的な政策形成・実施・評価改善』 2007年09月21日
Ewan Ferlie, Lynn Ashburner, Louise Fitzgerald, Andrew Pettigrew 『The New Public Management in Action』
■ 百夜百音
【断絶】 井上陽水 オリジナル盤発売: 1972
A面の最後の「人生が二度あれば」を聞いていた子供の頃は、自分の親がこの歳になるとは想像もしていませんでしたが、そろそろ陽水自身もこの歳になってきたと思うと感慨深いものがあります。
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2008年12月12日
官製ワーキングプアを生んだ公共サービス「改革」
■ 書籍情報
【官製ワーキングプアを生んだ公共サービス「改革」】(#1422)
城塚 健之
価格: ¥1995 (税込)
自治体研究社(2008/08)
本書は、「格差と貧困の問題をさらに深刻にするだけでなく、公共サービスの質にも影響を及ぼす」、「官製ワーキングプア」が大量に生み出されている状況を促進している、自治体構造改革、公務員制度改革、公務の市場化の進行の理由と、その問題を論じたものです。
第1章「構造改革の柱としての『小さな政府』」では、「構造改革」を、「この国を多国籍企業奉仕型に変えていくために、政治経済をはじめとする国家社会のあらゆる仕組みをつくりかえていこうというもの」だと定義し、その根底に「新自由主義(ネオリベラリズム)」というイデオロギーがあることが、広く認識されるようになったと述べています。
そして、わが国における新自由主義が、「開発主義国家」にて期待し、「小泉元首相が『ぶっつぶす』と叫んだ古い自民党」がこの象徴だと述べています。
また、「地方分権」について、「その事務事業の実施リスクを自治体に押し付けるものであり、国のアウトソーシングに他ならない」と述べています。
第2章「進行する公務の民間化」では、「小さな政府」かを進める様々な方策である、「ニューパブリックマネジメント」(New Public Management)について、「何か理論的にしっかりしたものがあるわけでもなさそう」で、「行政のコスト削減につながりそうなものを何でもかんでもひっくるめて、NPMと呼んでいるよう」だとし、「行政を民間企業と同様の経営主体とみなし、人件費などのコスト削減を第一の目標におく考え方・イデオロギーという理解でいい」と述べています。
第3章「内部的民間化としての公務員制度改革」では、公務員制度改革の内容を、「一貫した『小さな政府』使用の公務員制度」だとして、2007年改正国公法が、
(1)能力実績主義の導入
(2)天下り自由化
の二本柱であると述べています。
そして、「NPMに基づき行政組織のあり方それ自体を変えていくもの」として、
(1)行政評価、財政の枠予算化
(2)事務事業の集中化
などについて論じています。
第4章「実施部門の外部化(公務の市場化)」では、財界が、公務の自由化を「金儲けの手段にしようと狙って」いるとして、、特に自治体が、「余剰資本の投下先」として、「市場規模が大きいということで魅力的」だと狙われていると述べています。
そして、企業が参入したがる分野として、
(1)初期投資の要らない安全な参入分野
(2)PFIと結合させて施設設計・建設の段階から関与できれば大きな利潤が期待できる分野
の2つを挙げています。
第5章「公務市場化の実際」では、2007年に自治労連が弁護団とともに実施した、
(1)愛知県高浜市
(2)京都府京丹後市
(3)広島県安芸高田市
の3つの自治体に対する実態調査の結果を紹介しています。
そして、内閣府公共サービス改革推進室や総務省の解釈に、「偽装請負に限りなく接近して」くるなど、「多くの問題」があると指摘しています。
また、「骨太2007」などを受けた独立行政法人の見直しによって、「独法の職員の賃金労働条件は悪化」していることを指摘しています。
第6章「危機に立つ住民の権利」では、保育所の民営化に関して、「民間に委ねれば安上がりというのは、公務員の保育士よりも民間の保育しの方が人件費が安いということ」に他ならず、「安値競争が続けば、現場は疲弊していき、従前の保育の質が維持」できないと述べています。
また、学校給食の民営化の帰結として、「1980年代の民営化をきっかけに急坂を転がるように質が落ち」、ファストフード形のメニューが主流となったイギリスの学校給食のショッキングな実態を紹介しています。
第7章「公務市場化と労働者の権利」では、公務のアウトソーシングの結果、「受託企業では、パート、アルバイト、契約社員、派遣労働者といった有期・非典型・不安定雇用労働者が中心的な担い手となるでしょう」と述べ、「これらは、行政がみずからワーキングプアをつくり出すと言うことで、『官製ワーキングプア』と呼ばれて」いるとしています。
そして、一部の自治体やNPOなどで使われている「有償ボランティア」が、「就労実態は非常に劣悪で、『官製ワーキングプア』と呼ぶべきケースが多いと思われます」と述べています。
著者は、「公務が官製ワーキングプアによって担われていけば、これまで蓄積されてきた公務の専門性を維持することは困難」となると指摘しています。
第8章「公務市場化への対抗軸」では、公務の市場化の弊害として、
(1)人権保障機能の低下
(2)民主的コントロールの低下
(3)労働権(労働者の権利)の軽視
の3点を挙げた上で、「公務の公共性」をどのように守っていくのかを、「住民がみずからの課題として考えることが必要」とした上で、「PPP(Public Private Partnership;公私協働)というお題目」は、「NPMのコロラリーであり、だいたい上から持ち込まれるもので、アウトソーシングを正当化するための方便に過ぎません。そこには民主主義の契機もなく、単なる自治体の責任放棄でしかない場合が多い」と述べています。
第9章「どう運動を広げていくか」では、「公務の市場化の問題を考えていくと、今日の資本主義の最も根本的な部分を対峙することは避けられません」とした上で、「わが国では知識人躁が新自由主義にあまりにも無警戒で、官僚制度を打破すればバラ色の未来が広がるかのような幻想を抱いて、新自由主義に合流したり、利用されたりという事態が生じました」と述べています。
本書は、公務の民間化に著者の鋭い視点で切り込んだ一冊です。
■ 個人的な視点から
本書が、迷いのない切れ味というかすっきりとしているのは、独善的というか、著者のイデオロギーに基づいて一刀両断というか問答無用に断じているところがあるからではないかと思います。
話の内容が間違っているとかではなく、聞く耳持たない話の進め方に感じたので、この議論に入っていくのは疲れそうです。
よく講演会などで、質問と称してそれまでの文脈に関係なく自説を長々と披露する人もいますが、イデオロギーの議論をそういうところで始めてしまうときりがないので、講師や司会者の仕切り方が問われる場面ではないかと思います。
■ どんな人にオススメ?
・「公務」は神聖にして侵すべからずと思う人。
■ 関連しそうな本
布施 哲也 『官製ワーキングプア―自治体の非正規雇用と民間委託』
NPO法人地方自立政策研究所役割分担明確化研究会 (著), 穂坂 邦夫 『地方自治自立へのシナリオ―国と地方を救う「役割分担明確化」の視点』
穂坂 邦夫 『自治体再生への挑戦―「健全化」への処方箋』
上山 信一, 桧森 隆一 『行政の解体と再生』
上山 信一, 大阪市役所 『行政の経営分析―大阪市の挑戦』
鎌田 慧 『自律と協働、はたらきがいをもとめて―大阪市現業労働者の60年』 2006年01月18日
■ 百夜百マンガ
名作ギャンブル漫画。強い者同志のバトルも緊張感がありますが、本当にハラハラするのは、ルールも知らないのにプロ雀士と卓を囲んでしまう素人でしょうか。
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2008年12月01日
ブレアのイギリス―福祉のニューディールと新産業主義
■ 書籍情報
【ブレアのイギリス―福祉のニューディールと新産業主義】(#1411)
舟場 正富
価格: ¥690 (税込)
PHP研究所(1998/09)
本書は、「労働組合の既得権の擁護からではなくて国民全体の視野に立った産業と生活体系の構図を提起」して政権に就いたブレア政権の誕生とその政策をまとめたものです。
著者は、ニュー・レイバーが、「過去の社会主義的な2つのドグマをかなぐり捨てて出発した」として、
(1)高福祉高負担を肯定するケインズ主義的な福祉国家戦略
(2)生産手段の公有化が国民経済の水準を高めることができるという幻想
の2点を挙げ、「それは国民に仕事をするための能力と意欲を持たせ、技術革新と教育を重視する『新産業主義』の理念に基づくものといってよい」と述べています。
第1章「ブレアの登場とニュー・レイバー」では、ブレアが一貫して主張していることとして、「国民一人一人が働く機会をもち、その成果を享受できる社会システムをつくることであり、それを実現するためにすべての社会組織体が協力するような政治的リーダーシップをとれる党をつくろうということ」だと述べています。
そして、ニュー・レイバーが、「労働組合の組織的な支援を受け、その利益を政治的に主張する閉鎖的・硬直的なオールド・レイバーと手を切り、広く国民の付託に応える政党へと脱皮していった」と述べ、「レイバー・マニフェスト'97」が、「これまでのレイバーが尻尾にくっつけてきた、教条的な左翼思想を直接政策につなげていく青臭い発展途上社会型の社会主義をかなぐり捨てたもの」であり、「1980年代のイギリスで進行した脱工業化と民営化、市場原理の浸透などによる産業システムと国民生活の変化を鋭く見抜いて、成熟社会における政治社会変革が如何にあるべきかを国民に提示し、その信頼を問うことに成功した」と述べています。
第2章「新産業主義への道」では、サッチャー政権が進めてきた産業政策として、「それまで制度的に確立していたイギリスの国内産業振興の方向を完全に転換させようとするもの」だとして、
(1)不況産業地域などの既存産業への支援を通じて地域格差の拡大を防止する政策を取りやめた。
(2)ロンドンを含む東南部イングランドの過密問題と、地方における衰退地域の共存問題に対して採用されていた首都機能の分散に見られるような地域格差の縮小政策をロンドンの衰退を招くということで取りやめることとなった。
の2点を挙げて今しう。
そして、イギリス経済が好調な理由が、「サッチャー時代の置き土産」である面はあるが、「ブレア率いる新しい政権が打ち出した21世紀へのビジョンが国民の支持を得て、軌道に乗り始めたところが大きいのではないか」と述べ、ニュー・レイバーが選挙で、「何よりもイギリス人の持つプライドと能力、そして自立への自信の回復」を訴えたと述べています。
また、「公共セクターの市場化を進めてきたトーリーの政策」に対し、ブレアは、「重要なことは国民の利益である。カウントされるべきは公共セクターの市場化がどれだけ役に立つかだ」として、「役に立つ市場化を進めることは否定しないという、従来のレイバーの考え方とは異なる見解を表明」したと述べています。
第3章「教育大改革と社会再生への挑戦」では、選挙期間中に、ブレアが演説の最後を、「エデュケーション、エデュケーション、エデュケーション」と3回絶叫して結んだとした上で、「教育を改革するのは時間がかかる、しかし、それなしにはイギリス国民にとって未来はない、という認識をブレアは国民に対して訴えた」と述べ、ニュー・レイバーの主張は、「公立学校優先」というオールド・レイバーの「かつての価値観への忠誠を守ることではなくて、良い学校をつくり、既存の学校の質を向上させ、教室での基本的な学力の指導に対するインセンティブをいかにつくっていくかであった」と述べています。
そして、「マニフェスト'97」での政策公約として、
(1)統一学力テストで成績の改善が見られなかった学校への制裁措置
(2)教育の停滞に対する責任追及
(3)グラント・メインテッド・スクール=オプトアウト校(教育省直接補助維持学校)への対応
(4)教師に関する新しい基準づくり
の4点を挙げ、「ブレア政権の教育に対する執念は、それがイギリスの新しい産業社会の命運を握っているという確信に基づいているといってよい」として、サッチャー時代との違いは、「教育のターゲットをどこにおいているか」であると述べています。
また、イギリスにおける大学教育の財政システムが、「これまでの教育の社会的な役割に関する位置づけとしての『無料の原則』を取り払おうとしている」背景として、「社会の限られたコストの一部分をエリート育成に集中して振り向けるという従来の教育の役割が変化したこと、情報化を始め、教育の内容そのものも変化して、コストが上がってきていること」を挙げています。
第4章「福祉のニューディール」では、ニュー・レイバーが提起した福祉が、「過去の福祉国家や失業者の減少を目指すマクロな景気刺激」でも、「福祉の対象者に対する手厚い保護を財政的に講じるような『大きな政府』志向の高福祉・高負担経済の再現」でもなく、「自ら『福祉のニューディール』と呼んでいるものであり、国民の自立心と意欲を引き出して、公共と民間の諸階層のパートナーシップを発揮して意向というものである」と述べています。
そして、レイバーの「ウェルフェア・ツー・ワーク」のプログラムについて、「失業を減らして、社会保障経費のスパイラル的な増大を打ち破るもの」だとした上で、「全国に100万人いるシングル・マザー等に対するウェルフェア・ツー・ワーク計画が、「さまざまな波紋を投げかけた」として、「彼女たちに対する生活支援や児童手当を廃止する代わりに仕事に就かせるようにするという基本方針は出されたが、その具体化は容易ではない」と述べています。
また、「福祉のニューディール」のもともとのねらいとして、「ウェルフェア・ツー・ワークの推進を通じて給付型の福祉の受給者に対して仕事ができる能力をつけ、働く機会を保証して、福祉給付依存の生活をとめるようにすること」だったとして、「教育雇用省の側で、失業中の若者やシングル・マザーに対するさまざまなメニューを用意して対策を講じて行った」と述べています。
第5章「地方分権の推進とロンドン市の再生」では、「地方自治体が住民のニーズで出発させてきた福祉事業や制度を国に認めさせ、全国的な制度にすることによって補助金を引き出す、あるいは集権的な福祉にしていくという経過」がイギリスでも見られたとしたうえで、「『先取り福祉』や『上乗せ福祉』が争点となり、中央政府にそれを受け止める財源があるときには、地方自治と福祉の向上は両立する」が、「イギリスでは、NHS(国民医療サービス)を始めとして、多くの給付型の福祉は中央に集権化され、地方自治はそうした制度をつくるための手段となり、受益と負担の関係が切れてしまった中での高福祉高負担への批判がサッチャーの登場を促したことの一因」だと述べています。
また、1986年以来、サッチャー首相時代の法律改正で、ロンドン市が廃止されたことについて、「首都のあり方をめぐるサッチャーとレイバー自治体の間のビジョンの違いが、こうした荒療治を生んだ」と述べています。
そして、新しいGLA(Greater London Authority=大ロンドン市)の設置計画が、1997年7月にニュー・レイバーによって、「ロンドン市実現への新しい方向──大ロンドン市に対する政府の提案」として提出され、1998年5月7日のレファレンダム(住民投票)の結果、71%の得票を得て、「ロンドン市は近代イギリスの歴史上初めての直接公選市長を持つことが決まった」と述べています。
「むすび」では、「イギリスにおけるブレア政権の成立とその後の展開を解明」する中で強調したい点として、
(1)ニュー・レイバーが、福祉国家や企業国家、社会主義国家といった20世紀の壮大な社会システムに対して、個人や社会のそれぞれのグループの自立心、自己責任とその連携を対置し、人々が自分たちでできること、明日からできることを見出せるような筋道をつけたこと。
(2)技術革新、とくに情報化時代に突入していく時代の流れを鋭くキャッチして、それに対応できる国をつくらなければならないという強烈な問題意識。
(3)ブレア政権の教育の再生への取り組みを解明したこと。
(4)「福祉のビッグバン」、あるいは「福祉のニューディール」として開始されたウェルフェア・ツー・ワーク(仕事のための福祉)。
(5)地方自治の確立問題について、多くの懸案課題を一挙に解決するような取り組みを見せたこと。
の5点を挙げています。
本書は、約10年間のブレア時代がスタートしたときのイギリスの期待の大きさと熱気を伝えてくれる一冊です。
■ 個人的な視点から
さすがに、ブレア政権誕生直後に書かれただけあって、ブレア時代を総括するような内容にはなっていませんが、本書を読むとブレアに対する期待の大きさを感じることができます。
その意味では、『シャッチャー時代のイギリス』の続編を目指した『ブレア時代のイギリス』(2005)をあわせて読む必要があるのかもしれません。
■ どんな人にオススメ?
・ブレアに対する期待の大きさを感じてみたい人。
■ 関連しそうな本
山口 二郎 『ブレア時代のイギリス』
アンソニー ギデンズ (著), , 佐和 隆光 (翻訳) 『第三の道―効率と公正の新たな同盟』 2007年11月16日
ジェフリー・W. メイナード (著), 新保 生二 (翻訳) 『サッチャーの経済革命』 2005年08月04日
ポリー・トインビー (著), 椋田 直子 (翻訳) 『ハードワーク~低賃金で働くということ』 2006年03月08日
アンソニー ギデンズ (著), 今枝 法之, 干川 剛史 (翻訳) 『第三の道とその批判』
小堀 真裕 『サッチャリズムとブレア政治―コンセンサスの変容、規制国家の強まり、そして新しい左右軸』
■ 百夜百マンガ
いつの間にか20年以上の長期連載となってしまった作品。長い間には原作者の急逝による連載中止、再開などを経ています。主人公も歳をとってもいいはずなのですがその辺りは少しゆっくりなようです。
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2008年08月19日
公会計改革―ディスクロージャーが「見える行政」をつくる
■ 書籍情報
【公会計改革―ディスクロージャーが「見える行政」をつくる】(#1307)
公会計改革研究会
価格: ¥1,890 (税込)
日本経済新聞出版社(2008/02)
本書は、「公会計改革とディスクロージャーを車の両輪として、地方自治のいっそうの充実を進めて」いくことを目的としたものです。
第1章「公会計改革の視点」(神野直彦)では、「『改革(reformation)』とは本来の姿に戻すこと」であるとして、「『公会計改革』も本来の目的を問い、公会計の本来の姿を追求していく必要がある」と述べています。
そして、「政府にとって決算の意味は、社会の構成員の決定どおりに執行したことの承認を得て、予算の執行責任を解除してもらうことにある」として、「決算の意義は、決算を審議することで明らかにされた事実について、政治的責任を選挙などで問うことができるようにすることにある」と述べています。
また、「企業の財務会計で発生主義を採用し、減価償却を実施するのは、利潤を確定することにある」が、政府は「利潤を確定する必要はない」ため、「政府という経済主体では、発生主義を導入して利潤を確定することには意味がない」が、「それにもかかわらず現金主義では財政状況が的確に把握できず、公会計に発生主義を導入すべきだと主張される背景には、政府機能の拡大に伴い租税という市場を通さない収入ではなく、市場を通した収入が増加していることがある」ことを指摘しています。
第2章「自治体の経営改革を統括する」(上山信一)では、「筆者自身の官民双方における実体験をもとに、行政が企業経営にどこまで学べるのか、またその際に評価とディスクロージャーがどういう役割を果たすのか」を考えるとしています。
そして、わが国のNPMが、「1990年代半ば以降に主に自治体に導入され、実践されてきた」、「3人の首長によって日本でもNPMが始まった」として、
・94年11月:逢坂誠二・ニセコ町長(現衆議院議員)
・95年4月:北川正恭・三重県知事(現早稲田大学大学院教授)
・95年4月:増田寛也・岩手県知事(現総務大臣)
の3人を挙げ、「いずれも従来型の与野党相乗り型選挙とは一線を画した選挙を経て当選した」共通点を指摘しています。
また、2005年から2007年にかけての関市長時代の大阪市の行政改革について、
(1)徹底した情報公開
(2)改革の方針を具体的に公文書に記述した
(3)個別具体の事業の中身が民間企業の経営分析手法を使って解明された
(4)財政問題について単年度収支だけでなく、負債と資産のバランスを視野に入れた財政再建策を立てた。
の4つの要素を挙げています。
著者は、これからの自治体経営にとって重要になる課題として、
(1)これからは積極的な情報公開が改革を進めるパワーソースとなる。
(2)改革にあたって公開すべき情報の中身を進化、あるいは深化させなければならない。
(3)行政情報を外から評価する"情報市場"の整備が必要である。
の3点を挙げています。
第3章「都市・自治体マネジメントの創造」(大住荘四郎)では、自治体のマネジメントの意思形成に共通するアプローチ手法として、
(1)マーケティング的アプローチ:組織の外部環境に着目し、住民のニーズや外部の期待を正確に抽出することで、地域・都市マネジメントからみたビジョン(将来像)や公共サービスの設計を目指す。
(2)戦略的アプローチ:組織を取り巻く外部環境の変化を組織のミッションとの関係で把握し、組織のあるべき姿(ビジョンとゴール)を導き、それらを実現するための施策体型へのリンケージを図る。
(3)組織論的アプローチ:急激な環境変化に適応できる柔軟で活力ある組織づくりを目指す。
の3つのアプローチを紹介しています。
また、「地域の潜在的な人材・地域の資源を活かし、地域の発展や公共サービスの確保のための多元的な都市・地域マネジメント像」の潮流を、「NPS(New Public Service=ニュー・パブリック・サービス)」と呼ぶこともあることを紹介しています。
第5章「公会計改革と総務省方式改訂モデル」(森田祐司)では、
「自治体経営に必要な情報は、現金主義や発生主義で表される財務情報だけではない」として、「過去情報と将来情報」、「財務情報と非財務情報」の2つの切り口によって、
・行政評価(過去情報・非財務情報)
・マニフェスト・総合計画(将来情報・非財務情報)
・財務諸表(過去情報:財務情報)
・予算・財政計画(将来情報:財務情報)
の4つに分類しています。
第7章「自治体がディスクロージャーをする意義」(石原俊彦)では、「自治体の行政経営改革における会計(学)の重要性を、事務事業評価と管理会計、ディスクロージャー(情報開示)、ならびに、財務会計の視点から考察する」としています。
そして、わが国の自治体で採用されている事業別予算の克服すべき欠点として、
(1)事業別予算が、人件費を含めたフルコストの事業予算になっていない。
(2)事業別予算における「事業」を、財政計画上の事業名としているケースがほとんどで、財政計画上の事業名と総合計画から演繹された実施計画の事業名に必ずしも関連していない。
(3)「目」の下で個別の事業名が設定されている関係で、款・項・目を跨いだ複数の事業を統合した事業レベルでの予算額を集計することが困難になっている。
の3点を挙げています。
また、「自治体の行財政改革を積極的に展開する際の『足かせ』」として、「各自治体の財政か職員の意識改革の遅れ」を挙げた上で、「バランスシートを作成する目的は、ほぼ財政課職員しか理解できていない自治体の財政構造を、民間企業流の決算書で整理し、それを住民に公表することで、より積極的な情報公開を行うことにある」と述べています。
第8章「情報公開と市民参加の自治体経営」(福島浩彦)では、「これまでの公共は『官が支配する公共』だった」とした上で、「これからは地域のコミュニティの中で、公共を担う民の主体を限りなく豊かにすることによって、公共はより充実させ大きくしながら、役所はより効率的で小さなものにしていく、という視点が大切」だと述べています。
そして、議会の役割は、「市民の合意を作り出すこと」と「行政の監視」の2つがあるが、「多くのいj地帯議会は、市民の合意形成の仕事は首長(執行部)に任せ、議会は要望と最後の決定だけを行っている」ことを指摘し、「この『市民の合意を作り出すこと』は、立法機関としての議会の最も重要な仕事だ」と述べています。
第10章「求められる地方自治体のアニュアルリポート」(小林麻理)では、米国において、「公会計基準審議会(GASB)」が設定した、「地方政府の財務報告に関する基本原則」にならい、わが国においても、「統一的な財務報告モデルとして自治体アニュアルリポートのフォームを確立し、アカウンタビリティを履行することが喫緊の課題である」と述べ、「自治体財政の透明性の実現のみならず、すべてのユーザーに対して、期間比較、相互比較、標準比較を行なって企業の財務分析をするのと同じ環境を自治体財政について提供すること、比較可能性を高めるとともに情報共有の有用なメディアとして機能することにこそ意義がある」と述べています。
本書は、テクニカルな会計論にとどまらず、自治体のガバナンスそのものを考えるきっかけを与えてくれる一冊です。
■ 個人的な視点から
こういう「~研究会」名義の共著ものの場合、人によって言っていることが180度違ったり、逆に同じような論調過ぎてつまらなかったりと、結構当たり外れが大きいものですが、本書は、公会計を軸に、さまざまな論調が適度に分かれていてお買い得ではないかと思います。
■ どんな人にオススメ?
・地味ではある公会計が実は重要だということを知ってしまった人。
■ 関連しそうな本
桜内 文城 『公会計革命―「国ナビ」が変える日本の財政戦略』 2005年02月28日
山本 清 『政府会計の改革―国・自治体・独立行政法人会計のゆくえ』 2007年04月24日
石原 俊彦 『地方自治体の事業評価と発生主義会計―行政評価の新潮流』
石原 俊彦, INPMバランススコアカード研究会 『自治体バランス・スコアカード』 2005年11月01日
ポール・R. ニーヴン 『行政・非営利組織のバランス・スコアカード―卓越した組織へのロードマップ』 2006年07月12日
ロバート・S. キャプラン, デビッド・P. ノートン (著), 吉川 武男 (翻訳) 『バランス・スコアカード―新しい経営指標による企業変革』
■ 百夜百マンガ
第1回目だけは『イガグリくん』の福井英一が書いていますが、売れっ子の多忙がたたった福井の急逝によって、作者が交代しています。
最近では、『代打屋トーゴー』で知られる、たかもちげんの死後、アシスタントが連載を引き継いだ例があります。
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2008年06月24日
なぜ、改革は必ず失敗するのか-自治体の「経営」を診断する
■ 書籍情報
【なぜ、改革は必ず失敗するのか-自治体の「経営」を診断する】(#1251)
木下 敏之
価格: ¥1995 (税込)
WAVE出版(2008/6/16)
本書は、前佐賀市長である著者が、「佐賀市役所の改革の一例とともに、その後の地方自治体経営の研究やビジネス経験で見えてきた、今後の自治体経営のあるべき方向」を描いたものです。著者は、本書執筆の動機について、「このままでは次世代に申し訳ない」、「今、自治体経営が大きく方向を変えていけば、多少は幸福な未来になるのではないか。そのために私たちはどうすればいいのだろうか」という気持ちから、書き始めたと語っています。
第1部「ある自治体『経営者』の挑戦」、第1章「バブルの残滓を除去する」では、1999年に佐賀市長に当選した著者が、「何からはじめるべきか」という優先順位に悩んだ結果、
(1)採算性のない事業の廃止・縮小
(2)市役所の体質改革(人口減少と高齢化の時代に合わせた大幅行革と都市計画等の見直し)
(3)産業振興策と子育て支援、教育の充実
の3つの重点課題に、優先的に取り組むことにしたと述べ、結論として、「1期目の4年間は、(1)に重点を置き、2期目に、(2)と(3)について、最大限の努力をする、という大まかな方針」を立てたと述べています。
第2章「経営刷新は人事からはじまる」では、給料では大した差がつかない役人は、「自分のポストがどうなるか」を非常に気にするため、「大部分の役人は、ポストでコントロールできる。つまり、人事がすべて」だと述べ、3月16日の就任直後の「4月1日人事を止める」という決断をした狙いについて、
(1)管理職は実力のある人だけに絞りたかったので、能力を見きわめる時間が欲しかった。
(2)人事権が誰にあるのか、それを職員に強烈に見せつけたかった。
の2点を挙げています。
また、佐賀市役所では、人事評価が行われておらず、市役所内の色々な派閥、グループで人事が動いていた実態にメスを入れ、人事評価の基準を細かく作って評価制度を動かしたこと、そして、「職員の退職後の就職先として市役所が準備していたポストを大幅に削減し、そのポストを市民からの公募に切り替えるということ」をしたことを述べています。
一方で、最初の助役「人事」をめぐっては、「守旧派にきれいにはめられて」しまったとして、選挙中から相談していた議員に呼ばれて割烹に行くと、「最大会派の保守系の人たちが何人も座っている」という席に座らされてしまった、という苦い経験を語り、「政治家は清濁を併せ飲まねばといわれますが、一度、清濁の『濁』を飲み込んでしまうと、『濁』のパワーに染まってしまうような気がして、これ以後も、どうしてもそのようにできませんでした」と語り、「『濁』を飲みながら軸足を『清』に置き続けるには、まだまだ修行が足りなかった」と述べています。
第3章「経営効率化のための公共資産売却」では、市長就任後に、「何か象徴的なものを廃止しよう」と考え、「黒塗りの市長専用車・セルシオ」と、「職員が2人にアルバイトが配置され」、「これまで職員や議員が上京した際の休憩や便利な案内係として機能」していた東京事務所を廃止したと述べ、「現実には何も困ることはなかった」としています。
また、不必要な資産の「民間売却の基本方針」として、
(1)市役所が行う必要のない事業は廃止する。
(2)市役所が行う必要がある事業であっても、極力、民間委託を検討する。
(3)市の職員が行った方がよい事業であっても、徹底した効率化を考える。
(4)困難なテーマであっても効果の大きなものから先に取り組む。
の4点を挙げ、佐賀市営のガス事業を民間に33億円で売却したが、市営バス事業は、著者が落選したために「いまも市営」だと述べています。
第4章「談合体質と向き合う」では、公共事業の入札において、「ともかく談合を減らす工夫」をしてきたとして、岐阜県の希望社という建設会社と、「CM(コンストラクション・マネジメント)契約」を結び、小学校の改築プロジェクトを行ったと述べ、「入札の結果として落札率の低下にだけ関心を持つことは間違っている」こと、「価格と品質のバランスが重要で、それまでの安ければいいではないか、という認識の間違いに気づかされ」他と述べています。
そして、「はじめに談合ありきの世界」である建設業の世界の問題以上に、「行政側に『いいものを安く作る』という発想がなかったことが問題」だと指摘しています。
また、談合防止に手を尽くしていた著者に、「闇の勢力から圧力がかかってきた」経験として、「妻の父が2回襲われた」ことを明かし、「資格を厳しくすればするほど、業者が限られ、いわゆるブラックな勢力は入札に参加できなくなる」ことが、気に入らなかったために、「私ではなく、妻の父を襲った」のではないかと語っています。著者は、「改革を実行すればするほど、特定の人たちから大きな恨みを買うことに」なり、「改革派首長たちは、少なからず、何らかの嫌がらせを受け、家族、親族に迷惑をかけてしまう。それは悲しい事実です」と語っています。
第5章「実を結んだ経営改革」では、11%の人員削減や談合防止の結果の落札率の低下(98%→91%)などのほか、「情報公開や住民参加も同時に積極的に推進」した結果、「日経行政革新度ランキング」で、2006年には全国10位、九州では1位にランキングされたことについて、「私が行った佐賀市の一連の改革が評価された」と述べています。
第6章「市街地の活性化と産業振興対策」では、中心市街地が衰えた理由について、「もっとも大きな理由は、日本の都市計画」だとして、「政治的には農村部出身の議員の意見が強」いため、「郊外の開発の抑制」が非常に困難であること、「街中心部に集まっていた公共施設が、郊外に分散して立地してしまったこと」を指摘しています。
著者は、日本政策投資銀行の藻谷浩介参事役との出会いをきっかけに、「拡散した市街地をもう一回コンパクトにしよう」という対策を打ち、「6000人の人に、町を歩かせよう」という具体的な目標の達成のためには、
・働く人を増やす
・住む人を増やす
・遊びに来る人を増やす
の3点を「同時並行で進めていかなければ」ならないと述べています。
また、市長時代に、「自分自身にもっとも限界を感じた」こととして、「建設業に代わる産業をどうやって育てればいいのか?」という課題を挙げ、「長期的に日本の人口が減少し、高齢化が進む」なかで、「財政は悪化し、公共事業は減少」するので、「建設業の代わりに、どのような仕事で食べていくのか」が「地域最大の課題」であると述べています。そして、「傑出した産業はなく、今後、これから伸びていくという確信の持てる産業も」ないため、「いくつかの企業を応援してみて、そのうちどれかが成長するかもしれないという『雑木林』作戦をとること」にしたと述べています。さらに、2005年9月に小糸製作所の誘致に成功した決め手として、「市役所側の意思決定の早さが大きな要因だった」として、「企業側の工場進出の意思決定から現実の稼動開始までの期間がますます短くなってきている」なか、「そのスピードから遅れないように、市役所側の意思決定もできるだけ一日以内にするように」したと述べています。
第7章「乗り越えられなかった壁」では、「県と市の関係では分権はなかなか進まないのが実態」だったとして、「佐賀市の職員は県庁に対しても上下意識を持つ傾向」があったことや、下水処理上建設の際に、ドイツで実用化されている「リンボーシステム」を、「現場を知らない県庁職員」は補助対象事業にすることに了解せず、「いろいろと『難癖』をつけてきた」が、「国の職員は技術論で了解すると、話は早」く、「県庁よりも国のほうが柔軟なことが多い」ことなどを挙げています。
また、地方の人材不足について、その根底には、「地方の学校教育における、偏差値の高い大学に入学し、一流企業に就職するのが『人生の成功』という考え方がある」と述べ、「優秀な人材を都心に供出するだけで、地元には戻ってこない構造になっている」ことを指摘しています。
「おわりに」では、2005年10月23日の選挙で著者が敗れた理由について、「行革に反対する社民党が候補を立て、そこに、公共工事が減り、談合もしにくくなった現状に不満な層が乗る。さらに公務員の既得権益保護の立場から、実質応援のため共産党は独自候補を立てない」という枠組みを理由として挙げています。
そして、「既得権益を次から次にはがしていく」という「改革」の利益は、「特定の層に集まることはなく、薄く広く配分される」ため、「強力な味方」ができるはずがなく、一方で、「徐々に強力な反対票が形成されていくこと」を、「改革というものが本来的にかかえる厳しさ」だと述べています。
第2部「自治体経営の未来へ」、第1章「夕張市財政破たんの教えるもの」では、夕張の道を自動車で走っていた著者が、「穴の開いた道路の補修のために、アスファルトの代わりに道路の穴に」銀色のビニール袋の土嚢が埋められているのを見て、「市役所が破産するということは、こういうことなのだ。それが身に染みてわかった」と語っています。
そして、夕張市の人口推移や財政再建計画について解説した上で、「いま、いうことができるのは、財政の厳しいといわれている自治体の経営幹部や住民は、税収や人口の減少以上に、職員やサービスの削減をしなくてはならないということを、夕張の貴重な教訓として受け止めなければならない」と述べています。
第2章「自治体『再生』はありえない」では、「これから先は、昔に戻す『再生』ではなく、人口構造の変化を前提として、新たにどのような地域を形成していくかを考えた対策を打たなくてはならない」として、「日本の人口構成の今後の変化を考えれば、『再生』という言葉はもはや使わない方がよい」と述べています。
また、世の中では、「人口減少と少子高齢化」などと、「人口減少」「少子化」「高齢化」という3つの現象を、「ひとまとめにした表現」が多いことを、「問題を見誤らせる危惧を感じ」ると述べ、「これらはそれぞれ別の現象であり、その理由も対策も違う」として、
(1)人口減少はどのように進むのか
(2)働く世代の人口はどのように変化するのか
(3)高齢化はどのように進むのか
(4)少子化はどのように進むのか
という「基礎データを把握するのが、自治体経営を考える上での出発点」となると指摘しています。
著者は、「市町村ごとに、どのように人口が推移するのかを住民に伝えていくことは自治体運営の基本」であるとして、「自助努力の必要性を理解してもらうためにも、予測をわかりやすく、かつ、何度も住民に伝えていかなければならない」と主張しています。
第3章「首都圏に埋められた時限爆弾」では、「首都圏ではこれから急速に高齢化が進」むにもかかわらず、「各都道府県の人口一人当たりの老人福祉施設の数を比較する」と、「東京や神奈川等、首都圏の自治体の整備が、ほかの地域と比べどれだけ少ないかがおわかりになるのではない」かと指摘しています。
第5章「自治体経営のコストカット」では、現在、省エネのベンチャー企業の経営に携わっている著者が、「ノウハウをうかつにしゃべるとすぐにマネされてしまう恐れがある」ことを「役所と違うな」と感じるのに対し、「役所の世界はまったく別」で、「無料でノウハウを提供してもらえるのに、また、他の自治体の優良事例が雑誌などで頻繁に掲載されるのに、まったくマネをしようとは」しないことを指摘し、「自分の自治体の将来を考えると、役所もマネをどんどんするべき」だと述べています。
第6章「富を生み出す仕組みを作るために」では、1955年からの長期間のジニ係数の推移を見ると、「近年の各都道府県における一人当たりの県民所得の上位を占めるのは三大都市圏にある都府県で、下位県は地方圏にある県ですが、長期的に見ると、所得格差は縮小している」ことを指摘し、「これまで、何十年も地方に所得移転を続け、膨大な量の公共事業を実施してきたにもかかわらず、どうして多くの地方が自立できないのか。建設業以外の産業が育たないのか。その理由を分析しないままに地方に財源を移転し、公共事業を増やしたとしても、現状は何も変わ」らないと述べています。
そして、地方の「本質的課題」として、「地方の『人材格差』の是正」を挙げ、「この問題に手をつけない限り、決して地方は豊かになることはありません」と述べた上で、
(1)首長・公務員の産業拡大や業務のスピードについての能力不足
(2)若者への教育における差
(3)地方の企業で働く人の人材不足
の3点を指摘しています。
そして、「資産も名声もある企業経営者の方に、損得抜きで政治の世界に入って来て欲しい」と述べ、「倒産企業の再建で地獄を見た方や、新しい事業を起こして、富を生み出した方など」が、「培った経営者としての能力を、自治体経営に役立てていただきたい」と述べ、「国政で活躍する国会議員は、さまざまな組織の経営や地方自治体の首長を経験した後で立候補すべき」だと主張しています。
本書は、自治体を「経営する」ということの大変さとやりがいとを、自身の経験を元に分析的に解説した一冊です。
■ 個人的な視点から
本書の中でもさらりと書いてありますが、ショッキングだったのは、著者の義理のお父さんが「ヒットマン」に狙われたことでしょうか。刃渡り37センチの「鎧通し」にもひるまず、回し蹴りで反撃したという空手の達人ぶりは、映画のシーンのようですが、「改革」の難しさの本質の一つには、既得権の維持を図ろうとする勢力との本当の意味での命がけの対峙があるからではないかと思います。
■ どんな人にオススメ?
・「改革」という言葉がきれいごとだと冷めて見る人。
■ 関連しそうな本
木下 敏之 『日本を二流IT国家にしないための十四ヵ条―佐賀市「電子自治体」改革一年の取り組みから』 2006年10月18日
鬼島 紘一 『「談合業務課」 現場から見た官民癒着』 2006年03月15日
桑原 耕司 『談合破り!―役人支配と決別、命がけの攻防記』 2007年09月25日
桑原 耕司 『公共事業を、内側から変えてみた』 2006年02月22日
伊関 友伸 『まちの病院がなくなる!?―地域医療の崩壊と再生』 2007年12月12日
村上 智彦 『村上スキーム 地域医療再生の方程式』
■ 百夜百マンガ
「演技」を格闘技さながらの命がけの戦いにしてしまった作品。勝新みたいな人も出てきましたが、基本的な構造はジャンプ・トーナメント的なインフレーションする敵との戦いではないかと思います。
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2008年05月09日
入札激震―公共工事改革の衝撃
■ 書籍情報
【入札激震―公共工事改革の衝撃】(#1205)
価格: ¥1,470 (税込)
日経BP社(2004/12)
本書は、公共工事の入札をめぐる制度の変遷を克明にたどり、「それが公共工事や建設産業にどんな影響を与えてきたのかを様々な実例やデータを基に検証したもの」です。
第1章「大胆に設計段階から施工者に任せる」では、2004年7月27日に入札公告が行なわれた「東京国際空港(羽田空港)D滑走路建設外工事」について、「設計・施工一括発注方式」に始まって、「維持管理費込みでの発注」、「総合評価落札方式」、「異工種JV」、「出来高部分払い」など、「これまでの公共工事の入札では考えられないほど多様な入札・契約制度を併用」したものである上、「工事の受注者には施工だけでなく、その前の設計段階から任せる『設計・施工一括発注方式』を採用した点」を、特に注目すべきであると述べています。そして、「設計・施工一括発注方式」が、「工事の受注者が持っている施工のノウハウや独自の施工技術を設計に反映しやすい」と述べています。
また、「D滑走路工事の入札におけるもう一つの目玉」として、「国交省が求めた場合は完成後30年間の維持管理も設計・施工を担当したJVが担う点」を挙げています。
第2章「民間の見積もり合わせを導入」では、「民間企業のように複数の建設会社と交渉して有利な条件で工事の発注ができないものか」という問題意識から国土交通省が、「公共事業コスト構造改革プログラム」に、「提案と対話による技術力競争を重視した調達方式の試行」を盛り込んだことを、「国交省版の『交渉方式』である」と述べています。
そして、中部国際空港の事業費削減の事例に関して、事業費削減の成功要因としての契約手続きに関して、
(1)公共事業の予定価格に相当する「制限価格」を設定しながら、その価格に上限拘束性をもたせずに参考価格としたこと。
(2)中部国際空港が独自に調査した資材単価を使って制限価格を設定したこと。
(3)受注希望者が提出した見積価格が制限価格を下回った場合、最低の価格を提示した企業と契約すること。
の3点を挙げています。
第3章「一般競争入札の導入前夜」では、「国の機関の入札・契約を制約する会計法や、自治体の入札・契約を制約する地方自治法において、指名競争入札は実は例外扱い」であり、「90年代前半までほとんど使われなかった『一般競争入札』が、法的には実は原則なのである」と述べています。
そして、指名競争入札においては、「発注者の『恣意性』が問題になること」が多く、受注者にとっては、「受注調整、いわゆる談合をするうえでは、都合のいい仕組み」である一方、発注者にとっても、「指名される側の建設会社よりも、優位な立場に立ちやすい」上、「指名によってある程度の施工実績のある建設会社を選んでおけば、施工途中で工事を放棄されたり、手抜き工事をされたりといった心配は少なくなる」という、「それなりにメリットの大きな方式」であったと述べています。
しかし、93年に「ゼネコン汚職事件」が置き、入札・契約制度の改革が続いたことに加え、80年代後半以降、「建設市場の国際化の流れ」から、「ガイアツ」という名の改革を求める圧力がかかっていたと解説しています。
第4章「ゼネコン汚職事件で本格化した改革」では、「ヤミ献金疑惑」が明らかにあった直後の93年4月に、米国から「日本の建設会社は政治献金などを通じて、入札で優遇される一方、海外の建設会社は入札で不当に差別されている」地の指摘があり、同年6月の日米建設協議で、「米国が指名競争入札の廃止と一般競争入札の導入を求めたほか、さらなる独禁法の強化」を求めたとして、「入札・契約制度の改革を求める圧力はさらに強まってきた」と解説しています。
そして、93年12月にまとまって中建審の入札・契約制度の改革案が、一般競争の入札の導入を目玉に、「今日に至るまで続いている日本の入札・契約制度改革のキーワード」である、「透明性」と「客観性」、「競争性」の3つのキーワードがすべて盛り込まれていたことを指摘しています。
第5章「相次ぐ不祥事が情報公開へ突き動かす」では、1998年2月に中建審が、「予定価格を入札の後で公開する『事後公表』の取組に踏み切るべき」だと建議したと述べた上で、「予定価格の公表では自治体の方が先行している」として、「都道府県と政令市の約8割が予定価格の事前公表に踏み切った」と述べています。
そして、「予定価格を事後公表した直後に落札率が低下した事実は、全国紙でも取り上げられるほどの話題となった」と述べたうえで、「予定価格や最低制限価格を事前公表するメリット」として、
(1)透明性の向上
(2)競争性の確保
(3)役所の職員が予定価格を探ろうとする不正行為に巻き込まれにくくする
の3点を挙げ、特に「不祥事をきっかけにして事前公表を急ぐ自治体」では、(3)を重視しているところが多いと述べています。
第6章「コスト削減の切り札登場」では、「技術の裏づけもなく、単に過当競争の結果として落札価格が下がったのだとすれば、『安かろう、悪かろう』の構造物を生み出すことにつながりかねない」と述べ、90年代後半から、「民間企業の技術力を生かしてコストを下げる『VE(バリュー・エンジニアリング)方式』」が注目され始めたと解説しています。
そして、VE方式のバリエーションとして、実施のタイミングによって、
(1)設計VE方式
(2)入札時VE方式
(3)契約後VE方式
の3種類の方式があると解説しています。
一方で、課題として、
(1)設計内容が完全に固まった段階で施工方法だけを見直す入札時VE方式や契約後VE方式は、設計そのものを見直す設計VE方式に比べて制約条件が大きく、コストダウンの効果を得にくい。
(2)施工者から技術提案を受けるケースは少ない。
の2点を挙げています。
第7章「価格競争の激化で超安値落札が急増」では、「制度改革に専攻して取り組んだ自治体」から「落札価格の大幅な下落が表面化した」とした上で、「良質な工事をする能力のない入札者を、てい入札価格調査で排除するのは難しかった」が、「かといって制度改革で品質が著しく低下したかというと、そうともいえない」と述べています。
そして、「利益が上がるとは思えないような安値で落札するケースが後を絶たない」理由として、「価格競争をせずに"話し合い"で受注できる市町村発注の指名競争入札があるからだ」とする「建設会社の元幹部」の証言を紹介しています。
第8章「増える技術競争を競う入札」では、「発注者が施工方法を限定する範囲を少なくし、民間企業から幅広く技術提案を受け付ける」ことで、「構造物に必要な機能や品質を確保しながら、一方で事業のコスト削減も図れる」と述べた上で、「民間の技術力を活用する代表的な入札・契約方式」として、
(1)設計・施工一括発注方式
(2)性能規定発注方式
(3)総合評価落札方式
の3点について解説しています。
そして、「総合評価落札方式」が、「技術提案の優劣と入札価格の安さとをどのように勘案するかによって、仕組みが変わってくる」として、
・除算方式:技術提案による特典を入札価格で割る
・加算方式:技術提案と入札価格の得点を足す
の2つの方式を挙げ、前者はさらに、
・総合評価管理費計上型:標準案との差を定量評価
・標準加算点型:定量評価の「数値方式」のほか、定性評価の「判定方式」、「順位方式」がある
の2つに分けることができると解説し、「標準加算型の導入によって、発注者は騒音値の低減や工期の短縮日数などといった技術提案の評価の対象となる『評価項目』の検討に力を注ぎやすくなった」と述べています。
また、自治体でも、東京都や神奈川県、埼玉県、兵庫県などが総合評価落札方式を導入し始め、「国交省が使っていない方式」である「加算方式」を「試行し始めた自治体も出てきている」と述べています。
第9章「入札・契約制度改革は第二幕へ」では、改革の3本柱のうち、「透明性や客観性の2つの観点から見れば、かなり改善されてきたといえるかもしれない」としながらも、「競争性の視点から見ると、これまでの入札・契約制度改革が十分であったかいなかの判断は難しいところだ」と指摘しています。
そして、「今後の入札・契約制度の行方にも大きく影響しそうな法案が、2004年10月に始まった秋の臨時国会に次々と提出された」として、
・独占禁止法の改正案
・「公共工事の品質確保の促進に関する法律案(品質確保法)」
の2つを挙げ、解説しています。このうち、後者については、「談合によって落札価格を一定水準に保つことによって、公共工事の品質が確保されてきた面がある。談合がなくなって価格競争が激しくなれば、落札価格は下がり、手抜き工事などが横行する」という主張が建設業界の一部にあるとして、「品質確保という誰もが反対しにくい"大義"を前面に押し出しているものの、最大の狙いは、行き過ぎた価格競争に歯止めをかけることにある」と述べています。
さらに、桐蔭横浜大学の鈴木教授による、「地元企業を育成する立場と、調達者としての立場とのバランスに悩んでいる自治体も多いようだ」との分析を紹介しています。
本書は、ここ15年ほどの入札制度改革の動きをおさらいする上で便利な一冊です。
■ 個人的な視点から
本書は、さすがに専門紙の記事を基にしているだけあり、読み手も基本的には建設関係者を中心に捉えているのではないかと思われます。しかし、一般書籍として販売するのに十分な判りやすさも備えていて、建設関係者以外にも安心してオススメできる一冊です。
■ どんな人にオススメ?
・公共工事なんて全部談合だ、と思っている人。
■ 関連しそうな本
桑原 耕司 『談合破り!―役人支配と決別、命がけの攻防記』 2007年09月25日
桑原 耕司 『公共事業を、内側から変えてみた』 2006年02月22日
桑原 耕司 『「良い建築を安く」は実現できる!―建築コストを20%も削減するCM方式』 2006年04月12日
武田 晴人 『談合の経済学―日本的調整システムの歴史と論理』
加藤 正夫 『談合しました―談合大国ニッポンの裏側』
鬼島 紘一 『「談合業務課」 現場から見た官民癒着』 2006年03月15日
■ 百夜百マンガ
忍者漫画ならではの楽しみ方というか、お約束を踏まえて見せるという点では、「サル漫」に近い部分もあるような気もします。ゆうきまさみの短編集にも似たようなくの一漫画があったような。
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2008年02月26日
社会が変わるマーケティング――民間企業の知恵を公共サービスに活かす
■ 書籍情報
【社会が変わるマーケティング――民間企業の知恵を公共サービスに活かす】(#1132)
フィリップ コトラー/ナンシー リー (著), スカイライトコンサルティング (翻訳)
価格: ¥2520 (税込)
英治出版(2007/9/4)
本書は、「半世紀以上にもわたって民間企業で顧客満足を高め、売り上げと利益を上げるために使われてきた『マーケティング』を、社会に変革をもたらすために活用することを提案している」物です。著者は、本書執筆の動機を、「市民ニーズの充足と公共機関のパフォーマンスの改善の間の明らかな相関を発見し、それを活用するにはどうすればよいのか」と述べ、「この目標を達成するために、基本的かつ実証されているマーケティングの原理と手法をどのように活用するか」が本書の中心テーマであると述べています。
第1章「市民の要望にこたえる」では、「政府の仕事は企業の仕事とは本質的に異なる」と主張し、「政府機関の活動をもっと効率的、効果的、革新的なものにしてもらいたいという市民の願いは夢想だという」考えに対し、「これを非効率、浪費の言い訳に使ってはいけない」と主張し、オズボーン=ゲーブラーの『行政革命』を挙げています。
そして、「公共部門で働く人たちにもっとも見過ごされ、誤解されてきた分野の一つ」がマーケティングであるとして、「広告」と誤解されがちであることを述べた上で、「マーケティングは、市民のニーズを満たし、本当の価値を届けたいと願う公共機関にとって、最善の計画を作成するための基本概念である」と述べています。
第2章「マーケティングの考え方を理解する」では、マーケティングの基本原理として、
(1)顧客中心主義に徹する:あなたの顧客が常に「私に何の得があるのか」と問いかけているのだと想像する。
(2)市場を細分化し、ターゲットを定める:市場の細分化によって、サイズが大きく質的ばらつきを持った市場を、より小さな同質のセグメントに分割することで、セグメントごとの独自ニーズに適した製品やサービスをより効率的、効果的に見つけ出すことができる。
(3)競争相手の特定:競争相手を特定するときの秘訣は「近視眼的マーケティング」を避けることである。
(4)マーケティングの4Pを利用する:理想的なマーケティング計画のシナリオでは、プロモーションの決定は、プロモーションされるべきもの(製品、価格及び流通チャネル)の決定が済むまでは、検討されることもない。
(5)活動をモニタリングし、修正を加える:目的と目標を明確に理解して初めてスタートできる。
の5点を挙げています。
第3章「サービスを創造する」では、「まず公共機関における製品の定義とその要素について説明」し、「公共部門にとってもっとも重要な製品マネジメントの機能である『プログラムとサービスの開発とその品質の向上』に焦点を合わせる」としています。
そして、「マーケティング的なものの見方、特に『物事を改善しようという意識』が大きく貢献すること」を示したものとして、英国の有名シェフが、「英国の学校食堂で出される脂っこく、塩辛い、加工された、甘すぎる食事」を、「天然素材や果物、(目立たないように工夫した)野菜をたくさん使った、調理したての、栄養価の高い食事に替えたい」として始めた「もっとましなものを食べさせて(フィード・ミー・ベター)」プロジェクトが、「質の悪い食生活を送り、運動不足で太り始め、不健康になってきた国民の関心を引いた」と紹介しています。
また、マーケティング論が、製品を、
・核:製品としての本質
・形態:外見からはっきりとわかるもの
・付随機能:顧客の期待を超える付加価値のある特徴やサービスを付け加えた製品
の3つのレベルに分けていることを論じています。
第4章「魅力ある価格設定とは?」では、米国運輸省外局の国家道路交通安全局による自動車事故による死傷者と経済的損失現象のための「クリック・イット・オア・チケット」キャンペーンを取り上げています。
そして、マーケティング戦術としてのインセンティブについて、
・金銭的インセンティブ:期待する行動のコストを引き下げる。
・金銭的負のインセンティブ:競合する行動のコストを増加させる。
・非金銭的インセンティブ:期待する行動の知覚価値を高める。
・非金銭的負のインセンティブ:競合する行動の近く価値を減少させる。
の4つの戦術を紹介しています。
第5章「流通チャネルと最適化する」では、「商品を届けるために使う手段であり、市民がその商品に接する手段」である「流通チャネル」について、「マーケティング・ミックスの中では、これはPlaceのPであり、担当者が直面するもっとも重要な意思決定の一つと考えられている」と述べ、ネパールにおけるコンドームの流通改善の事例を紹介しています。
第6章「ブランドを創造する」では、「公共機関がプログラムの望ましいブランド・イメージを作り出し、維持するためには何をすべきかについて考えていく」としています。
そして、米国環境保護庁が「地球を守る」ブランドである「エナジースター」というプログラムを創設し、住宅市場において、「強力なブランド戦略が、政府と産業界のもっとも成功した協力関係を築くのに、重要な役割を果たした」と述べています。 著者は、「公共機関も、見込み客の心の中にある希望の場所を確保するためにブランディング戦略を利用すべきである」と述べ、「米国の森林保護官であると同時に、世界で最も認知度の高い想像上のキャラクターの一つ」である「スモーキーベア」や、「米国人に『犯罪に立ち向かおう』と呼びかけ、その方法を教えるために使われたブランド」である犯罪防止犬「マクグラック」等の例を紹介しています。
第7章「効果的なコミュニケーションを行なう」では、コミュニケーションについて、「望ましいポジショニングとブランド・アイデンティティをしかるべき場所に、釘を打ち付けて固定する、いわば金槌の役割を果たすツールである」と述べています。
そして第4の「P」であるプロモーションについて、特に「説得力のあるコミュニケーション」という意味で使われると解説しています。
また、マーケティング・コミュニケーションの中核となるメッセージ作成の出発点として、
・何を知らせたいか
・何を信じてもらいたいか
・何をしてもらいたいか
の3つの質問を挙げています。
さらに、メッセージを伝えるスポークスマン起用の例とて、2005年に日本で行われた「冷房温度を上げてエネルギーの節約を呼びかける全国的なキャンペーン」(クール・ビズ)において、「半袖シャツにノーネクタイ姿の小泉純一郎首相の写真が新聞広告に掲載された」例を挙げています。
第8章「顧客満足度を高める」では、「マーケティングの原理とテクニックをどのように使えば、顧客サービスを改善し、顧客満足を高めることができるのか」をテーマとしています。
そして、「水のタンクを持った平和維持軍」フェニックス消防署の例を挙げ、「サービス提供のあり方を決める主な要因が顧客のニーズや認識、感情」であり、「結局、ビルや家屋に投票権はない。投票するのは人間なのだ」というブルナチーニ署長の言葉を紹介しています。
また、顧客満足を高める実践活動として、
(1)優れたサービスをする従業員を支援する
(2)社会基盤とシステムが障壁になっていないか確認する
(3)顧客管理システムを検討、改善する
(4)総合的品質管理によるベネフィットを発見する
(5)期待度と満足度を追跡し、評価する
の5点を挙げています。
第9章「ソーシャル・マーケティング」では、「健康改善、傷害事故防止、環境保護、地域貢献に影響を与える活動に対して特に用いられている」理論であると解説した上で、フィンランドの「ファットからフィットへ」運動などの事例を紹介しています。
そして、「ソーシャル・マーケティング」を、「マーケティングの原理と手法を使って、個人やグループ、社会全体のベネフィットのために、ターゲット・オーディエンスに影響を及ぼして、ある『行動』を自発的にとらせたり、拒否させたり、修正させたり、放棄させることである」と定義し、その目的は、「生活の質を向上させることにある」と解説しています。
そして、成功に近づけるための原理として、
(1)過去のキャンペーンの成功例を活用する
(2)行動する準備ができている市場から始める
(3)一度に一つ、簡単で実行可能な行動を促す
(4)行動の変化を妨げる障害を取り除く
(5)本当のベネフィットを目の前に差し出す
(6)競合する行動のコストをあきらかにする
(7)目に見えるモノやサービスを勧める
(8)非金銭的インセンティブ(評価や報償)を与える
(9)メッセージにユーモアをこめる
(10)意思決定のタイミングに合わせたメディア・チャネルを使う
(11)公約や誓約を取りつける
(12)持続させるために注意を喚起する
の12点を紹介しています。
第10章「戦略的連携関係を結ぶ」では、「官民双方にとってメリットのある提携関係」を扱い、「最善のパートナーを見つける鍵を握るのがマーケティングの発想である」と述べています。
そして、企業の「コーズ・プロモーション」のための提携関係や「コーズ・リレーテッド・マーケティング」のために提携関係の事例を紹介しています。
著者は、「公共機関を待ち受けている落とし穴」として、
(1)単独の場合に比べて「時間」がかかる
(2)成功の一因は「妥協」であるようだ
(3)相手の民間企業や非営利組織が、たとえ些細な逸脱行為であっても信用を失墜する、つまり「マイナスの評判」を立てられる可能性がある
等の点を指摘しています。
第11章「情報をいかに集めるか」では、マーケティング・リサーチを、「組織が直面している特定の問題に関するデータを収集し、分析し、報告すること」と定義した上で、「データ」や「市民からの情報」、「市民からの意見」の有用性を解説しています。
また、マーケティング・リサーチの実施時期に関して、
・フォーマティブ・リサーチ:戦略を形成するときに使われる調査
・トライアル調査:本格的な製造や施策実施の前に戦略と戦術をテストするために行う調査
・モニタリング調査:当初の目標や目的と成果を比較するための調査
の3点について解説しています。
第12章「施策をきちんと評価する」では、パフォーマンス測定の対象として、
・アウトプット(市民への出力)
・アウトカム(市民の反応)
・インパクト(反響)
の3つのカテゴリーを挙げて解説しています。
第13章「説得力のあるマーケティング計画を作成する」では、2003年4月にブルームバーグ市長がニューヨーク市のチーフ・マーケティング・オフィサーにジョセフ・ペレーロを任命したことについて、「ニューヨークはマーケティング部という部署とチーフ・マーケティング・オフィサーという職位を持つ世界最初の都市になった」と紹介しています。
本書は、マーケティングという言葉になじみを持たず、「コトラー」という名前を聞いたことがないような公共部門の人間にも、事例を交えてわかりやすく解説している一冊です。
■ 個人的な視点から
コトラー先生の新境地?と思って期待して買ったマーケティングの世界の人にとっては、当たり前すぎて、人によっては期待はずれに感じる人もいるかもしれません。
しかし、本書は、マーケティングの「マ」の字にも縁がない(と言われている)公共部門の読者を想定したものであるので、そういう人たち向けには、基本的なマーケティングの概念を、なじみのある公共部門の事例を使って解説した本書はわかりやすい一冊になっているのです。
その意味では、本書の内容が簡単すぎると思うようなた人が、「コトラー」の名前で中身を良く確かめずに買ってしまったところに原因があるのではないかと思います。マーケティングの基本中の基本なのかもしれませんが。
■ どんな人にオススメ?
・公共部門にマーケティングは関係ないと思う人。
■ 関連しそうな本
フィリップ コトラー, エデュアルド L. ロベルト (著), 井関利明(監訳) 『ソーシャル・マーケティング』 2005年02月14日
フィリップ・コトラー, ナンシー・リー (著), 早稲田大学大学院恩藏研究室 (翻訳) 『社会的責任のマーケティング―「事業の成功」と「CSR」を両立する』 2008年01月24日
フィリップ コトラー 『非営利組織のマーケティング戦略』
玉村 雅敏 『行政マーケティングの時代―生活者起点の公共経営デザイン』
井関 利明, 藤江 俊彦 『ソーシャル・マネジメントの時代―関係づくりと課題解決の社会的技法』
デビッド オズボーン, テッド ゲーブラー 『行政革命』 2005年01月22日
■ 百夜百マンガ
1年間連載してても単行本1冊に満たないペースですが、長いこと連載が続いています。スーパーのレジ打ちにも精通しているのは内緒です。
そう言えば、『スカタン天国』の翻訳版を台湾で入手したことがありますが、猫も台湾で受けているのでしょうか?
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2008年02月07日
市民が主役の自治リノベーション―電子自治体2.0
■ 書籍情報
【市民が主役の自治リノベーション―電子自治体2.0】(#1113)
須藤 修, デジタルコミュニティズ推進協議会
価格: ¥2000 (税込)
ぎょうせい(2007/07)
本書は、「沈滞しつつある電子自治体がやがて水面上にその姿を現し、自治体の改革を推進していく原動力になるという確信を持って執筆されたもの」です。
第1章「これから求められる情報化社会と電子自治体構築の現状」では、「時間的、空間的な制約を克服することが情報化社会を実現する要件の一つである」としながらも、「付加価値を生み出すことができない地域社会は、ネットワークにぶら下がった消費地に過ぎなくなり、人口流出が続き淘汰されていく」 と述べています。
そして、業務別のオンライン化状況について、「「住民に最も近い行政サービス分野からオンライン化が進んでいることが改めてわかる」と述べています。
また、前佐賀市長の木下敏之氏の著書を引用し、「行政改革や電子自治体を進めていくことは、力強いトップダウンと縦割りの弊害を取り除いていかないと進まない」と指摘しています。
さらに、電子自治体の構築は、「単なる電子化の推進だけでは実現できない」ものであり、「業務フローを見直し、ムダを徹底して排除することと人員の配置を見直し、新規に必要となる業務に対して大胆に人員の再配置を行なっていくことが重要である」と述べています。
第2章「電子自治体の実態と課題」では、佐賀市がメインフレームからのダウンサイジングに成功した要因として、
(1)メインフレームからサーバへのダウンサイジングによりハードのコストダウンを図る。
(2)ソースコード公開により地元業者参入可能な競争環境を構築することで、運用保守のコストダウンと地元業者の育成を図る。
の「2つの明確な目標を掲げて市長をはじめとする強力なリーダシップの元にプロジェクトが遂行されたこと」を挙げています。
また、IT投資によって税収や収入を増やすという考え方として、
(1)地元企業育成による税収増加:地元企業による保守・運用(佐賀市)
(2)システムの貸与による収入確保:自ら開発したシステムを他自治体に貸与し、使用料金を徴収する(横須賀市の電子入札システム)
(3)システムの販売による収入確保:自ら開発したシステムの販売(千葉県の人事給与等申請システム)
(4)経済政策の一環としてのシステム開発:(札幌市コールセンター)
などの手法を紹介しています。
さらに、電子自治体の3つの目的として、
(1)行政経営にITを活かす
(2)市民との新たな関係構築にITを活かす
(3)地域経営にITを活かす
の3点について、「目的が達成されたとはいいがたい状況である」と検証しています。
著者は、「行政経営の仕組み(NPM)がインプリメントされていなければ、手段としてのITを戦略的に使う(BPR)ことができない」と指摘し、「困難に立ち向かうだけの動機づけとなる目標値もなければ、目標達成によって得られるものも示されていなければ誰も行動しない。この目標値や報酬を明確に示し、職員の動機づけを行なうものが行政経営に他ならない」と述べています。
第3章「全国各地で始まった自治体CIO体制―中小自治体の現状と課題―」では、「一部を除く多数の自治体、特に中小自治体においては、その組織体制、関係者の意識及び情報化への対応能力(専門知識・能力のレベル)が必要な水準に達していない場合が多く、ITの有効活用による業務改革や効率化・合理化は思うようには進んでいないのが実情である」と指摘し、「このような状況から脱却するためには、『組織体制の整備と関係者の意識改革』及び『情報化対応能力(専門知識・能力)の確保』が緊急の課題となる」と述べています。
そして、電子自治体推進の鍵は、「『自治体CIO体制の確立』とそれを有効に機能させるための『自治体CIO補佐の活用』」であると述べています。
第4章「自治体の電子化に求められる基盤の整備―市民と行政の連携―」では、「いかに自治体の電子化を進めるのか」という課題の解決法の一つとして、「行政と市民の『接点』の整備、とりわけ行政の広聴制度の充実」について論じ、「一見電子化とは遠いところにあるような広聴制度にこそ、電子化推進の鍵が隠されている」と述べています。
そして、広聴制度を、想定する参加者の方に注目して、
(1)参加者流動型:インターネット広聴、パブリック・コメント、コールセンター、懇談会・座談会・ミーティング・出前講座・トーク、施設広聴、窓口相談、調査広聴、提案箱、提言・提案はがき、模擬議会
(2)参加者固定型:モニター制度、市民会議
に分けて解説しています。
著者は、「まず市民と以下に行政が付き合うのか。自治体の電子化が進んでも、この課題は常に解決を迫られるだろうし、その課題を解決しない限り、電子は進んでいかない」と指摘しています。
第5章「市民が主役の電子政府・電子自治体とは」では、北川正恭早稲田大学大学院教授(前三重県知事)と須藤修東京大学大学院教授が、「市民が主役となるような電子政府・電子自治体のあり方」をテーマに行なった対談を収録しています。
そして、「今後の電子政府で一番重要となるのは、国民や企業の満足度を高めること」であるとしたうえで、「今後問題になるのは、トップリーダーがどこで立ち位置を変えるのかということ」であるとして、「行政は、官が『してあげる』というサプライサイドの発想からデマンドサイド、つまり生活者の起点に立って、自由に申請が行えるというユビキタスな社会を実現するという発想へと思い切って発想方法を切り替える必要がある」と語っています。
また、「権力者が作ってきたあらゆるバリアを取り払わないと、ユビキタスな社会は機能しない」が、「権力者が作った秩序を壊すものだから、権力者もなかなか変えたがらない」と指摘しています。
第6章「電子自治体推進のための考え方と手法」では、「中小自治体にとって特に重要でかつ緊急度の高い」問題点として、
(1)「基幹系システム更改の際にベンダーから提示された新機種の見積り金額」への対応の問題
(2)「庁内情報システムの全体像の不明確化」に関わる問題
(3)「EA、レガシー連携、共同アウトソーシングなどの潮流への対応」に関わる問題
の3点を挙げています。
「おわりに」では、行政の改革を、「市民の視点を取り入れて『(行政が)これまで当たり前でやってきたおかしいこと』を指摘することから始めなければならない」と述べています。
本書は、電子自治体が技術的には「夢」から「現実」に迫ってきたことで見えてきた現実の重さを考えさせてくれる一冊です。
■ 個人的な視点から
一時のバラ色の電子自治体ブームと言うか、「ITゼネコン」が盛り上がったe-JAPANの時代が去った後、さて自治体は実際のところどう変わったのか、これからどう変わっていくのかというところをフォローしてくれるのは大変ありがたいことではないかと思います。実際、ブームに浮かれていたところ、きちんと歩を進めたところ、何もしなかったところで相当の差が出た数年間だったのではないかでしょうか。
■ どんな人にオススメ?
・「電子自治体」という言葉にリアリティを感じない人。
■ 関連しそうな本
榎並 利博 『電子自治体―パブリック・ガバナンスのIT革命』 2005年04月21日
木下 敏之 『日本を二流IT国家にしないための十四ヵ条―佐賀市「電子自治体」改革一年の取り組みから』 2006年10月18日
金子 郁容, 藤沢市市民電子会議室運営委員会 『eデモクラシーへの挑戦―藤沢市市民電子会議室の歩み』 2005年10月21日
横江 公美 『Eポリティックス』 2005年02月11日
岩崎 正洋(編著) 『eデモクラシー』 2005年05月02日
小林 隆 (著), 自治体議会政策学会 (監修) 『インターネットで自治体改革―市民にやさしい情報政策』
■ 百夜百マンガ
版画で漫画って路線はさすがに追随が難しいみたいで、なかなか版画で描いている人という話は聞きません。
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2008年01月11日
県庁を変えた「ひとり1改革運動」―みんなで改革・大きな成果
■ 書籍情報
【県庁を変えた「ひとり1改革運動」―みんなで改革・大きな成果】(#1086)
静岡県, 静岡総合研究機構
価格: ¥2520 (税込)
時事通信出版局(2007/10)
本書は、「新しい行政マネジメントの手法(ニュー・パブリック・マネジメント:NPMと呼称)を他県に先駆けて構築して、10数年にわたり推進してきた」静岡県の行政改革に「魂を入れている」、「全員参加の改革運動、『ひとり1改革運動』」で提案された優秀事例を紹介しているものです。
第1章「『ひとり1改革運動』と静岡県の新公共経営(NPM)」では、「ひとり1改革運動」が、「職員一人ひとりが身近な業務を見直して、改革改善の行う運動」であり、そのスローガンは、
・「速く」(Speed):仕事を処理する工夫をします。
・「ムダなく」(Cost):作業量や書類などを少なくします。
・「いい仕事」(Quality):県民の視点に立った質の高い仕事をします。
の3点であること、平成10年度の運動開始から平成18年度までの累計では75,789件の取組みがあり、平成16~18年度の3年間の累計では全国1位であることなどを紹介しています。
そして、運動の秘訣として、
(1)楽しむ
(2)手間をかけない
(3)仕事を楽にする
(4)マネ・パクリ大歓迎
(5)褒める
(6)後押しする
の6点を挙げています。
また、「改革のヒント」として、「弓桁の6ヶ条」として、当時企業局西遠事務所湖西出張所長だった弓桁氏がまとめた、
(1)改革することは面白い
(2)感じて見つける改革
(3)自分の立場で発想しよう
(4)県民の立場で考えよう
(5)もっと気楽に考えよう
(6)アイデアは真面目と不真面目の間にある
の6ヶ条を紹介しています。
さらに、「ひとり1改革運動」が成果を挙げている要因として、静岡県では1980年代前半にも「QCA (Quality Control of the Administration)」という呼び名で、QC手法を現場に導入する運動をした経験があり、その反省から、
(1)パソコンを使って提案の手間を最小化した
(2)他の部署や職員のマネ・パクリを推奨した
(3)自分の仕事を楽にする改革・改善に焦点を当てている
(4)表彰と発表機会を設けて取り組みへのインセンティブを高めている
(5)毎年重点テーマや表彰項目を変え、新味を出すことに努めている
の5点を挙げています。
第2章「『ひとり1改革運動」の取り組み事例」では、過去9年間に表彰された約200件の事例の中から代表的な63件の事例を紹介しています。これらは、
(1)顧客志向(利用者の立場から考える)
(2)新しい発想(前例に捉われない斬新なアイデア)
(3)情報発信(工夫して伝える)
(4)協働(セクションを越えた連携を考える)
(5)合理化(やめる・へらす・かえる)
という考案者の発想の視点による5つのカテゴリーで分類されています。そして、「ひとり1改革運動」が、「野球にたとえれば、一発ホームランを狙うのではなく、シングルヒットからコツコツと得点を狙うようなアプローチ」であると解説しています。
まず、「顧客志向」の発想による事例としては、浜松財務事務所納税第2課が、滞納の原因を分析したところ、「平日に銀行に行くことができない若年単身者や日本語が分からない外国人に滞納が多いこと」が判明したことから、
・夜間納税相談窓口を月末に定期開設
・ポルトガル語と英語のチラシを作成
等の取り組みを行なった結果、平成16年10月末の夜間窓口開設から平成19年6月までに、298件、1,433万円が納付され、自動車税の滞納額も、平成17年度、18年度と減少を続けていることが紹介されています。
次に、「新しい発想」の事例としては、大井川橋を渡ってすぐの交差点で右折車を原因とする渋滞が起こっていたことに対し、通常の対策である右折レーンの設置では、橋の拡幅工事が必要となり、多くの工事費と工事機関が必要となるため、「右折車両をいったん左折させ、回転広場で方向転換させる」という試みを実施し、橋梁工事では15億円かかるところを、4,600万で実現、1日でもっとも混む時間帯の通過時間を14分58秒から7分30秒に短縮させたことが紹介されています。
「情報発信」では、東海地震等の大規模災害時の災害情報の発信にあたり、静岡県のインターネット用の設備は静岡県内に設置されていて、災害時に使用できなくなる恐れがあり、県外に設置する場合には多額の費用がかかるため、ヤフーと協定を結び、全国に分散して設備を利用した情報発信を可能にしたことが紹介されています。しかも、利用料はヤフーの好意により無料となっているため、新たに設備を設置した場合にかかる1億2,000万円の初期費用と、年間2,000万円の設備維持費を節減できたと述べています。
また、農業振興のための情報を報道機関に積極的に提供した結果、どれだけの広報効果があったかを広告料に換算し、職員全員に周知を図ったことが紹介されています。
さらに、話題になった「振り込め詐欺」防止のための大阪弁の女性3人の「それ詐欺やで」のCMでは、放送を開始した平成16年12月の県内の被害件数が8件と初めて1ケタ台に減少し、マスコミでも大きく取り上げられたため、CM料金に換算すると1億円以上の露出があったことを紹介しています。
「オレオレ詐欺の防止」CM
http://bb.pref.shizuoka.jp/player/player.asp?con_id=137&play_flg=bb
「協働」の事例では、肥えた土が必要な茶園区画整理工事現場から出た硬い土と、硬く締め固まる土が必要な林道整備工事現場で発生した肥えた赤土を相互に利用することで、発生土の処理費用など2,300万円の事業費の縮減に成功したことが紹介されています。
「合理化」の事例では、「本庁の電話回線に単独事務所の開戦を追加する契約に変更すること」でNTTの大型割引サービスである「ワリマックス」を受けられるようにした事例や、県立大学で外部資金研究費を管理するに当たって、振込み手続をインターネットバンキングで行なうことで振込手数料を年間66万円節約した事例を紹介しています。
本書は、1件1件は地味な取組みが、継続され積み重なることで、派手さはなくても大きな成果を挙げることができることを教えてくれる一冊です。
■ 個人的な視点から
「お役所仕事」と揶揄される県庁や市役所の職場でも、小さな改善を毎年積み重ねて毎年毎年前に進んでいます。そうした姿をこういった形で一冊の本にまとめることは、紹介された人たちにとってものすごく励みになったのではないかと思います。
■ どんな人にオススメ?
・お役所仕事はいつまでも進歩がないと思う人。
■ 関連しそうな本
福山 嗣朗 『NPM実務の考え方・進め方―効率的・効果的な政策形成・実施・評価改善』 2007年09月21日
大住莊四郎 『ニュ-・パブリック・マネジメント 理念・ビジョン・戦略』 2005年01月23日
大住 荘四郎 『パブリック・マネジメント―戦略行政への理論と実践』 2005年05月06日
石井 幸孝, 上山 信一 『自治体DNA革命―日本型組織を超えて』
若松 茂美, 織山 和久, 上山 信一 『変革のマネジメント―明るい「リストラ」を考える』 2005年08月10日
南 学, 上山 信一 『横浜市改革エンジン フル稼動 中田市政の戦略と発想』 2005年04月13日
■ 百夜百マンガ
泪・瞳・愛の三姉妹で幅広い好みに対応するヒロイン設定のやり方は、数が増えまくったモー娘。だったり、いつの間にかセーラームーンみたいになっていたプリキュアだったりと様々なバリエーションを持っています。
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2008年01月07日
外注される戦争―民間軍事会社の正体
■ 書籍情報
【外注される戦争―民間軍事会社の正体】(#1082)
菅原 出
価格: ¥1680 (税込)
草思社(2007/3/24)
本書は、イラク戦争等で大いに注目された、「民間軍事会社(プライベート・ミリタリー・カンパミー=PMC)」について、その実態とPMCが注目を浴びるようになってきた経緯を解説しているものです。
イラクやアフガニスタンなどの紛争地域で、政府職員の護衛や施設の警備などの治安維持任務についている、「彼らの多くは軍隊のエリート舞台や情報機関の出身者であり、その業務の内容も、危険地帯で要人を警護したり、政府の施設を警備したり、警察や軍隊を訓練したり、地雷や不発弾を処理したり、テロリストの収容施設で容疑者を尋問するといった、通常は国家の警察や軍隊が担うような」特殊な任務についていると述べたうえで、「米軍はもはや『PMCなしに活動することは不可能』とまで言われている」として、「もはや後戻りのできない、不可逆的な動き」であると述べています。
第1章「襲撃された日本人」では、2005年5月に英国のPMC[ハート・セキュリティ」社のコンサルタントとして、イラクで物資輸送車両の警備を行っていた日本人、齋藤昭彦さんが、武装勢力に拘束された事件を取り上げています。
第2章「戦場の仕事人たち」では、PMCが冷戦後に急発展した原因として、「冷戦の終結により世界中の軍隊が縮小化の方向へ進み、1990年代だけで世界中の軍隊で6百万人もの職が失われた」結果、「軍事的技能を身につけた膨大な個人が民間市場に流れ、安全ビジネス関連の企業に吸収されたり、元軍人たちによる新たな会社設立の動きにも拍車がかかった」ことを挙げています。
そして、PMCの草分けである、ベトナム戦争におけるヴィネル社について、「冷戦時代のPMCのビジネスは、『政府が公然とできないことを民間企業が肩代わりをする』という、政府の外交・安全保障政策の延長線的な性格が強かった」として、「政治的に敏感な軍事支援や訓練など、政府が自国の軍隊を使えないときの最後の手段としてPMCが使われるという政治的側面が存在した」と解説しています。
また、現代のPMCの定番サービスの一つとして、「誘拐人質解放交渉サービス」を挙げ、1986年にフィリピンで起きた三井物産マニラ支店の若王子支店長誘拐事件で活躍したコントロール・リスクス社を取り上げています。
第3章「イラク戦争を支えたシステム」では、イラク戦争に関して、PMCバブルが発生した結果、「『ぽっと出』の一発屋PMCが数多く現われ、混乱の最中に大きな契約を獲得してしまうようなことが起き」、低レベル・低モラルのサービスが提供されてしまい、「このようなPMCの存在は、占領統治全体にも悪影響を与え、イラク国民の占領軍に対する反感を増大させることにつながったといわれている」と述べています。
また、「武装した民間人」「軍服を着用していない戦闘員」であるPMCはジュネーブ条約上の取り扱いが微妙な位置にあり、「武器を持って戦ってしまうと、彼らはジュネーブ条約という重要な戦時国際法の定義に該当しない存在となってしまう恐れがある」と述べています。
第4章「働く側の本音」では、PMCで働く請負人たちの多くが、「アメリカにおいてはレンジャー部隊、グリーンベレー、デルタフォースやシールズなどの特殊部隊に所属し、イギリスでは特殊空挺部隊(SAS)、特殊舟艇部隊(SBS)、海軍特殊部隊やSO14(ロンドン警視庁の王室関係者警備担当)など、軍や警察の中でも特殊訓練を受けた超エリート部隊の出身者」であることについて、通常の軍隊では個々の軍人は「全体を構成する歯車の一つ」にすぎないのに対し、特殊部隊は、「さまざまな状況に柔軟に対応するために、独自で判断し行動することが求められており、そのように訓練されている」ことを挙げています。
一方で、民間市場における特殊部隊人気の影響で、欧米の特殊部隊が深刻な人材不足に陥っているとして、「若くて経験の少ない退院が指導的な地位に昇格するという事態も起きている」と指摘しています。
そして、「請負人」たちの報酬が、警察顧問の仕事で、年間12万ドル(約1440万円)と、「非常に魅力的な金額」であるとした上で、「派遣される地域の危険度、業務の内容、請負人それぞれの計健也そのプロジェクトでの役割によって報酬は大きく異なってくる」と述べ、メディアからの高額批判に対しては、「文字通り命がけの仕事であることや、彼らが通常3ヵ月働いて1ヶ月休むというパターンで働いていることから考えると、べらぼうに報酬が高いとは決していえないだろう」と述べています。
また、「イラクでもっとも危険な仕事の一つといわれるトラック輸送を請け負う『トラック野郎』たち」の言葉として、「イラクでの一番の思い出は使命感であり、一緒に与えられた使命のために働いた仲間たちだ。われわれは本当にこの使命感のために固い絆で結ばれた}と語っていることを紹介しています。
さらに、イラクにおいて、フィリピンなどの発展途上国から、「事実上の人身売買を行なう悪徳業者」によって、「いっさいの保障なしで危険な任務につかされるという悲しい現実も存在する」と指摘しています。
第5章「暗躍する企業戦士たち」では、「空前のPMCバブル」の中での、「PMC間の熾烈で過剰な競争が、本来最優先されなければならない『安全管理』を二の次にしてしまい、その結果悲惨な事故を招く例が後を絶たない」として、2004年にファルージャで起きたブラックウォーター社社員惨殺事件の例を挙げ、「本来契約の中に入っていた2台の防護車両もなく、6名のチームが4名に減らされており、脅威レベルを調べるための事前のリスク評価調査もなく、事前のルート調査やその他の関連情報も土地勘もなく、チームとしての結束や仲間意識もないまま、イラクでもっとも危険な場所ファルージャに派遣されたのである。無謀というほかない」と述べ、「起こるべくして起こった人災だった」と指摘しています。
また、イラク戦争前の「フセインの大量破壊兵器の脅威」を過剰に宣伝したのが、PR会社や「戦争広告代理店」と呼ばれる広い意味のPMCであり、「生物、化学そして核兵器をフセインの命令で密かに地下の井戸に埋め、個人の別荘に隠し、病院の地下に隠した」という科学者アル・ハイデリの証言が「すべて作り話だった」と指摘しています。
第6章「テロと戦う影の同盟者」では、「軍の民間活用よりも情報機関のほうが数歩先に進んでいる」といわれるCIA等の情報機関の民間活用について取り上げています。
また、「安全保障政策」のカバーする範囲が、「伝統的な国防から、テロと戦いや平和維持活動、難民救済問題や市民社会の建設促進へと拡大していった」ため、「多国籍企業、圧力団体、NGOや市民運動などが、安全保障政策の実施に関与するようになり、国際的な規範やルールづくりに貢献する機会が増えていった」延長線上にPMCを位置づけることができると述べています。
第7章「対テロ・セキュリティ訓練」では、著者自身が参加した、イギリスのPMCが提供しているジャーナリスト向けセキュリティ訓練のレポートが収められ、「イギリスやアメリカでは、メディア関係者やNGO、外務省職員や対外援助に関わる省庁の職員、さらに石油開発会社の従業員など、危険地域で仕事に従事する人は官民を問わずこのようなセキュリティ訓練を受けるのが普通になっている」と述べ、「それに日聞け、日本人の安全対策、危機管理に対する意識は、驚くほど低いといわざるをえない」と指摘しています。
本書は、冷戦の終結後、大きく変化した戦争のあり方を伝えてくれる一冊です。
■ 個人的な視点から
日本の自衛隊はイラクでPMCを使っていたのでしょうか。また、自衛隊出身者が自分でPMCを作ってしまう、ということも考えられなくはないかもしれません。なんだか「傭兵」のイメージから「天下り」のイメージになってしまいますが。
■ どんな人にオススメ?
・21世紀の戦争の形を目にしたい人。
■ 関連しそうな本
松本 利秋 『戦争民営化―10兆円ビジネスの全貌』
本山 美彦 『民営化される戦争―21世紀の民族紛争と企業』
P.W. シンガー (著), 山崎 淳 (翻訳) 『戦争請負会社』
ロバート・ヤング ペルトン (著), 角 敦子 (翻訳) 『ドキュメント 現代の傭兵たち』
高木 徹 『ドキュメント 戦争広告代理店―情報操作とボスニア紛争』 2006年11月27日
アンヌ・モレリ (著), 永田 千奈 (翻訳) 『戦争プロパガンダ 10の法則』 2007年11月01日
■ 百夜百マンガ
この作者の作品は、大人向けシリアス路線と青年誌向けのライト路線との2つの流れがあるのですが、こちらは暗くて怖いほうです。
投稿者 tozaki : 05:00 | コメント (0) | トラックバック
2007年12月27日
世界の〈水道民営化〉の実態―新たな公共水道をめざして
■ 書籍情報
【世界の〈水道民営化〉の実態―新たな公共水道をめざして】(#1071)
コーポレート・ヨーロッパ・オブザーバトリ, トランスナショナル研究所 (編さん), 佐久間 智子 (翻訳)
価格: ¥1680 (税込)
作品社(2007/04)
本書は、「国際的に沸き起こっている水に関する議論に一役買うことを目的と」したものです。本書は、「公共による水供給の画期的・刷新的な例を多数紹介して」おり、そのきっかけは、「こうした試みが成功をおさめているにもかかわらず、世間の注目を十分に集めていない」からであり、「これらは水の供給という分野を超えて、新自由主義的な企業主導のグローバル化に抗するオルタナティブの共通のヒントと見ることができる」と述べています。
序章「水道民営化の失敗と、代替策に取り組む各国の動き」では、「今世界の各地では、民営化をめぐって驚くほど共通点の多い、同様の経験が積み重ねられている」と述べ、共通点として、
・民営化が失敗であったこと
・民営化に反対する運動が拡大していること
・過去の公共セクターの欠点についても批判があること
・これまでの「北」の公共セクターのモデルと、最近の「南」における参加型民主主義の形態の、それぞれの長所から導き出された新たな形態が構築されつつあること
などを挙げています。
そして、1990年代の「水道民営化の10年」が、「明らかに失敗」であり、「民営化によって、効率化が進み、料金が安くなり、特に途上国地域に多額の投資が行なわれ、水道に接続されていない貧しい人々に上下水道が提供されるようになる」と期待されていたが、実際はそれとは異なり、「当初の約束とは違った結果がもたらされた経験」によって不評を買うようになったと述べています。
第1部「成功している公営水道」では、インド・ケータタ州オラヴァナ村の事例を挙げ、、「オラヴァナの成功は、上水道セクター全体の民営化に抗する強力な武器である」と述べ、「世界銀行のモデルは、オラヴァナから数々の重要な教訓を得て修正され」、「いまや世界銀行が支援するプロジェクトにおいてさえも、飲料水は人びとの所有となっている」と解説しています。
また、「参加型の自治体水道運営のモデルを実現」した例として、スペイン・コルドバ水道公社の事例を取り上げ、「コルドバで、質の高い、市民主体の水道サービスが実現したのは、参加と政治的意思によるものであった」と述べています。そして、「市民が参加する公営サービス事業を通じて、都市水道及び都市の水循環を管理しているコルドバ市の事例は、民間事業者よりも質が高く効率的なサービスを実現している公共機関が存在することを示している」と述べています。
さらに、米国の事例を通じて、「公共事業体を民主化するということは、事業体の所有を公とするのか、私とするのか、という単純な問題ではない。民主主義とはプロセスであり、所有形態の話ではないからだ」と述べ、「公共事業体が民間企業に所有されている地域において、民主化を追及する人々は、公営化を要求するだけで満足してはならないだろう」として、「市民が規制プロセスにおいて公営事業体をコントロールし、行政トップに影響力を行使すること」も可能であることを解説しています。
コラム<ヨーロッパの二重基準>では、ヨーロッパの多くの国で、「上下水道のすべて、または、ほとんどが公営である」にもかかわらず、EUが、「水道部門を世界貿易機関(WTO)の貿易協定の対象とするよう求めている急先鋒」であり、欧州委員会(EC)が、「自由化推進に固執し、自由化こそ途上国が本当に必要としている政策であるとさえ主張している」と述べています。
第2部「新たな公共水道を目指して」では、ボリビア・コチャバンバの事例を取り上げ、1999年9月にコチャバンバ市営上下水道(SEMAPA)が民営化され、「世界銀行の圧力の下、不透明な入札プロセスを経て、アグアス・デル・トゥナリ社に売却された」が、その年末には、「水道料金は跳ね上がり、地域共同体が所有する水道は取り上げられ」るなどのトゥナリ社の横暴なやり方に、「コチャバンバの住民が抗議行動を開始」し、2000年4月には1週間に及ぶゼネストがコチャバンバ市を機能停止に追い込み、政府による激しい弾圧で17歳の少年が死亡し、最終的に「政府は2000年4月11日に敗北を認め、アグアス・デル・トゥナリ社」が去ることで「水戦争」が終結したことを解説しています。著者は、今回の変化が、「社会運動の連合や市民社会組織(CSO)の手で実現されたという意味」で大きなものであるとともに、より効果的な結果をもたらすためには、「運営管理の民主化が十分に制度化され、組織内部と職員の間でよく理解されることがどうしても必要である」と述べています。そして、「公営事業体と地域社会の共同運営を実施しているSEMAPAの基本原則」を、「効率を高めるためには社会による管理と住民の参加が不可欠であり、効率化と民主化は同時に進められなければ、どちらも達成できないという考え方」であると解説しています。
また、アルゼンチンの事例では、ブエノスアイレス州において、米国企業のエンロンが、現地法人のアズリックス・ブエノスアイレスを通じて、「同社に好都合な条件でサービス供給契約を獲得」し、事業運営後、1年もたたないうちに、「これらの企業にはほとんど実体がないこと、そして、本当に必要とされる投資が行なわれず、契約にかかった費用を最も早く回収する方法が模索されているに過ぎないことが明らかに」なり、「エンロンには事業自体への関心がなかったため、水の生産と供給及び下水の回収と処理に深刻な問題が生じた。水道網は汚染され、浄水場は甚大な被害を受けた。汚水の回収・処理を行う施設は機能しなくなった。設備と技術に対する投資は行なわれず、重要なサービスが外部委託に切り替えられた」と述べています。そして、「現地の言語を話さず、既存の技術を知らず、基礎的な業務に十分な予算を割り当てないアズリックスと、問題の緊急な解決を求める利用者からの圧力という現実を前に、アズリックスと州政府の関係は険悪になって」いき、契約開始から2年もたたないうちに、親会社のエンロンが倒産したことで、「アズリックスは契約上の重要な約束を果たすことなく撤退することとなった」と述べています。
第3部「公共の水道を求める人々の闘い」では、イタリアの水道で、「慢性的に漏水が起き」、「供給される水が漏水で失われる割合は平均で39%にもなる」とともに、実際乗せたいあたりの水道使用料も多いため、「欧州諸国の中で一人当たりの水消費量がもっとも多い」だけでなく、「持続不可能な水準に達している」と述べています。
また、南アフリカでは、政府が、「世界銀行、国際通貨基金(IMF)、および欧米諸国の政府の新自由主義の理論に基づいた助言にしたがい」、「地方自治体や地方議会への助成金や補助金を大幅に削減し、公共サービスの民営化に向けた資金調達手段の開発に協力した」ため、数多くの地方自治体が、「多国籍水企業との『パートナーシップ』契約を結び、水道事業を民営かまたは企業化するように」追い込まれたと述べています。
さらに、フィリピン・マニラの事例を元に、民間事業者に取って代わろうとする公営事業体が満たすべき要件として、
(1)運営の実施可能性:もっとも貧しい地域への水道の拡張と、最も破損の激しい、あるいは破損する可能性の高い水道網の修復を重点化した、明確な資本支出計画に当てる資金が用意できること。サービスに関して義務づけられた目標を達成する組織的能力があること。
(2)有用な政策環境及び法的枠組み:ミレニアム開発目標及び一般的な貧困削減目標に沿って、全世帯への水道普及を実現するための広範な国家政策を掲げること。業績に関する基準や、そのような基準を満たさなかった場合の罰則など、公共水道事業体に適用される法規則を制定すること。
(3)正統性及び説明責任:水に関する責任、権利、義務について合意を形成し、それを実施に移すための社会的な準備、教育、対話を継続すること。公営水道事業体の技術的及び財務的プロセスの透明性の確保。責任と説明責任が明確に連鎖されていること。
(4)財務的持続可能性:内部補助及び料金調整。
(5)独立した、実効性ある規制システム
の5点を挙げています。
中国に関しては、中国政府が、「水を商品化し、水道を民営化することによって、淡水の供給不足の問題が解決すると主張している」と述べています。
第4部「これからを考える」では、「人びとを中心とする多様な公営水道が成功」するためのもっとも重要な要件として、「その地域に十分な水資源があることや、行政にサービスを提供する能力があることなどが挙げられるが、決定的な要素として、国家や国際機関、地方政府、政党などから政治的な支援を得られるかどうか」を挙げています。
また、公営水道サービスが、いくつもの矛盾を抱える可能性があるとして、「新自由主義のイデオロギーが、公営及び民営の水道運営を非常に問題のある形に収束させつつあるという問題」を挙げ、「新自由主義に基づくビジネスと経営のモデル(NPM:新公共経営論と呼ばれている)によって商業化が進められていることは、前述した公共サービスの精神に完全に反している」と指摘しています。
さらに、1990年代に南の国々を襲った民営化の波場、「公営水道が支配的である米国、カナダ、日本、そして特に(西)ヨーロッパに襲いかかりつつある。すなわち、来たの国々の市民社会が大きな試練を迎えている」と指摘しています。
本書は、世界的な潮流である「水道民営化」の負の側面を示してくれる一冊です。
■ 個人的な視点から
本書は、グローバリズムに対抗する立場から、水道民営化の失敗事例と、経営に成功している、または、成功に向けて取り組んでいる公営水道の事例を集めたものですが、逆の立場の人からは、経営の悪い公営水道と民営化の成功事例を集めた事例集を作れそうです。
ポイントは、いかに適切にガバナンスするかで、本書は、市民参加と民主主義のプロセスによるガバナンスを主張しているものと捉えることができます。
■ どんな人にオススメ?
・水道事業の経営形態は以下にあるべきかを考えたい人。
■ 関連しそうな本
高寄 昇三 『近代日本公営水道成立史』 2007年05月15日
宮脇 淳 , 眞柄 泰基 『水道サービスが止まらないために―水道事業の再構築と官民連携』 2007年11月28日
国際調査ジャーナリスト協会(ICIJ) (著), 佐久間 智子 (翻訳) 『世界の"水"が支配される!―グローバル水企業(ウオーター・バロン)の恐るべき実態』
ロビン クラーク, ジャネット キング (著),沖 大幹, 沖 明 (翻訳) 『水の世界地図』
持続可能な水供給システム研究会 (編さん) 『水供給―これからの50年』
ジェフリー ロスフェダー (著), , 古草 秀子 (翻訳) 『水をめぐる危険な話―世界の水危機と水戦略』
■ 百夜百マンガ
常識外れのスケールの大きい人生を描こうと、幼稚園児の時代から始まる作品ですが、この先どこまで続くんでしょうか。幼少時から登場する作品といえば『六三四の剣』なんかが思い浮かびますが、このまま成人するまで描き続けられれば、著者の代表作になりそうです。
ところで、主人公の名前が「輝一」というと、時の首相から名前を取った「宮沢熹一」が思い出されます。
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2007年12月21日
道路の経済学
■ 書籍情報
【道路の経済学】(#1065)
松下 文洋
価格: ¥735 (税込)
講談社(2005/5/19)
本書は、「ヒト・モノ・カネという限られた資源をどのように使ったら豊かな暮らしができるか、それについて国民や市民みんなが納得するためにはどんな説明が求められているか、ということを、道路を通して考えて」いるものです。
第1章「なぜに本の高速道路は有料で世界一高いのか?」では、日本の高速道路の料金が「非常に高い」ことを、
・ドイツ:無料
・イタリア:1キロ当たり7~8円
・日本:1キロあたり27~30円
とで比較し、「これほど突出して高い」理由を、道路公団発足の歴史から説明しています。1956年に日本道路公団がスタートした当時、日本はまだ貧しく、「高速道路のような贅沢な道路」を建設する財源がなかったため、「やむをえず世界銀行などから借金をして建設し、完成後は借金を返す(償還する)ため、利用者から通行料金を徴収するという方法をとり」、当時は、「一般庶民は自家用車などもてないから大して困らないだろうと考えられて」いたと述べています。そして、建設省ではなく「公団」を設立した理由として、
(1)公団をいったん廃止したため、戦中戦後の統制経済を仕切ったエリート官僚たちの再雇用の受け皿が再び必要であった。
(2)「クロソイド曲線」と呼ばれるカーブや、「インターチェンジ」の建設などに特殊な技術が必要だったが、未知の技術だったので、政府が行なうよりも専門の特殊会社に任せたほうが効率が高いと期待された。
(3)最初に建設すべきルートは誰が考えても東海道、東北道、中国道となるので、ルート選択において間違いの起きる可能性も少なかった。
の3点を挙げています。
第2章「アクアライン通行料は800円でよい」では、アクアラインの開通が、地元の経済に対し、「貢献どころか千葉県の商業を壊滅状態に陥れている」として、「千葉県の若者、富裕層は横浜や東京に買物に出かけるようになり、千葉県の商業が打撃を受けるという『ストロー現象』が起き」、JR木更津駅前からは、そごう、ダイエー、西友などが撤退し、中心市街地の富士見商店街は「シャッター通り商店街」となってしまったことや、10万人規模の人口増加を見込んで進められた土地区画整理事業1000ヘクタールも「買い手不在で販売はストップしたまま」といわれていると述べています。
著者は、アクアラインの開通前に、「MEPLAN(ミープラン)都市総合分析モデル」(MEPLAN東京圏モデル)を使ってアクアラインの交通量を予測し、
・4000円という高い料金では建設省予想の1日3万3000台には届かず、1日1万1000台にとどまる。
・1000円に値下げすれば、利用台数は1日2万5000台前後に上昇する。
との結論を得て専門誌で発表し、改行1年記念のテレビ番組でも、「産業競争力を高め、地域経済を再生するためにも大幅な値下げが必要。1000円にすれば1日約1000万円の減収となるが、逆に1日1億円の経済効果が生まれる」と訴えたと述べています。また、木更津商工会議所の招きで講演し、この講演がきっかけに2001年1月に「アクアライン通行料金研究会」が立ち上がり、2003年3月には、「アクアライン800円実現化100万人署名活動推進協議会」として、仲間から市議会議員も当選し、運動が広がりをみせていると述べています。
著者は、1000円に値下げしたときの効果について、
(1)経済性:アクアライン単体の収支で判断するのではなく、首都圏全体の利益から判定する必要がある。
(2)環境:アクアラインの利用増加は東京・千葉県幹線道路の交通量を減少させるだけではなく、加えて車の平均移動距離を短縮しているので、主要な路線の速度を向上させている。
(3)社会的な公平性:高い料金がネックになって使えなかった中間所得層、中小運輸業者などが利用頻度を高めることができる。
の3つの視点から分析しています。
第3章「『経済性』をどう評価するか」では、道路建設の経済効果は、
(1)建設中の効果(需要創出効果)
(2)完成後にその道路を利用することで発生する効果
の二つに分けられるが、前者に関しては、「ケインズの乗数効果」を持ち出して、「都合のいい数字をはじき出すことで、予算をとることができる」役所と政治家が、「実際は役所や政治家のエゴのために公共投資が使われている」にすぎず、「公共投資の効果をはかるとき、現状ではケインズ理論を使うことはおすすめできません」と述べています。後者に関しては、さらに、
(1)道路を利用する利用者利益(ユーザー・ベネフィット)
(2)土地利用の変化、雇用の増加など
の2つに分け、これらをはかるうえでの「客観的基準」として、「費用対効果分析(COBA)」について解説しています。また、投資分析の世界で常識になっている「DCF」(ディスカウント・キャッシュフロー)という考え方について、「投資の全期間を視野に入れて考え、同時に将来の利益を現在の価値に計算し直して(割引=ディスカウントして)分析」すると述べています。
また東京湾アクアラインが、計画時には、1日6万台の通行を見込み、その前提条件は、「橋の完成によって神奈川県から千葉県(木更津)に10万人が移住し、毎日橋を使って神奈川県側に通勤するという荒唐無稽なシナリオ」が描かれ、「千葉県側では小売業やサービス業が爆発的に増え、木更津市などの地域経済は大きく発展するとされ、そのシナリオに沿って試算すると周辺市町村は年率30~50%という驚異的なスピードで成長すること」になっていたことを紹介し、「さすがにこの数字については、計算した学者でさえおかしいと思った」が、与えられた前提条件ではこの数字になってしまい、「これで利用料5000円(普通車・片道)で1日6万台が利用するというでたらめな事業計画ができ、建設にゴーサインが出された」と述べています。
さらに、日本の高速道路の建設費をイギリスと比較し、1車線あたりの純粋の建設費では、日本の圏央道は1キロ・1車線あたり43.5億円となっているのに対し、ロンドンのM25環状高速道路は、1キロ・1車線あたり2.1億円で、「日本の圏央道はM25環状高速道路の20倍もかかっている」と述べ、その背景には、「公共事業から甘い汁を吸おうとする業者たちの姿勢」があると指摘しています。
第4章「環境への影響をどう評価するか」では、交通渋滞によって、「東京都だけで年間4兆9000億円」の損失が発生していると述べ、「日本の大都市は世界一渋滞による損失が大きいのではないでしょうか」と述べています。
第5章「持続可能な成長と交通政策の転換」では、「持続可能な成長」の要素として、「経済性、環境、そして公平性のバランスをとっていくことが重要」だと述べています。
また、「MEPLAN都市分析モデル」について、「1950年代後半から急速に進歩した都市研究や交通輸送に関する工学的モデル、近代経済学の理論を統合したもので、土地利用と交通計画を関連づけて分析する手法」であると解説しています。
第6章「本当の民営化とは」では、改革しようとするリーダーが、「民営化によってどんなメリットが国民に生まれるのかを明らかにしなければ」ならないとして、イギリスでは、
(1)政府が建設・運営するよりも民間が手がけた方が安くできるならば、その差額が国民の利益だと見なされる。
(2)資金負担が減り、財政にゆとりが生まれる。
(3)競争原理が働いて、より安い通行料金やサービスの質の向上が期待できる。
(4)政府の保有する非効率な資産を民間に売却することも、財政建て直しの有効な選択肢となる。
の4点が明快に示されたと述べています。
著者は、「なぜ民営化なのか」の問いに対し、「財政を立て直すと同時に、限られた予算の中で、民間の活力を導入することによって、よりやすく質の高いサービスを提供するため」と同時に、「肥大化し、自己目的化した『官』の力を削ぎ、適正なものにする」という目的があると述べています。
本書は、道路をいかに有効に活用できるかを、わかりやすく解説した一冊です。
■ 個人的な視点から
作ってしまったアクアラインは、梶井厚志『故事成語でわかる経済学のキーワード』でも「奇貨居くべし」に絡めて、、「過去の責任問題は追求しなければならないが、これらは済んでしまったことである。現在考える必要があるのは、いったん居かれてしまった奇貨をいかに活用するかという戦略のはずだ」として、騒音や環境問題の点からも、「適切な交通量に増加するまで段階的に料金を引き下げるべき」という指摘がされています。
問題は、これが「やったもの勝ち」の前例になってしまうことなんでしょうか。今でも十分「やったもの勝ち」の状態であるようにも見えます。
■ どんな人にオススメ?
・道路にこれほどお金と権力がつぎ込まれるのはなぜかを知りたい人。
■ 関連しそうな本
梶井 厚志 『故事成語でわかる経済学のキーワード』 2007年09月10日
加藤 秀樹, 構想日本 『道路公団解体プラン』 『この高速はいらない。―高速道路構造改革私案』
猪瀬 直樹 『道路の権力 道路公団民営化の攻防1000日』 2006年06月05日
猪瀬 直樹 『日本システムの神話』 2006年06月14日
『』
■ 百夜百マンガ
赤塚ギャグの世界を煮詰めに煮詰めた蒲焼のタレみたいな作品。とはいえ甘くなく万人受けでもない、こういう作品を出せちゃうところに当時の勢いを感じます。
投稿者 tozaki : 06:00 | コメント (0) | トラックバック
2007年12月11日
自治体倒産時代
■ 書籍情報
【自治体倒産時代】(#1055)
樺嶋 秀吉
価格: ¥840 (税込)
講談社(2007/9/21)
本書は、夕張市の財政再建団体転落をきっかけに、国民の関心が集まっている自治体の財政問題に関して、「住民の自治能力」、すなわち「主権者である住民一人一人が自治に関わっていく能力」である「住民力」が試される時代がやってきたことを、夕張牛をはじめ全国の自治体財政を取り巻くさまざまな状況を報告しながら論じているものです。
第1章「ルポ・夕張市――財政破綻の町を歩く」では、「在職し続けても、ただ働きのような状態になる」退職金カットを怖れて、「あたかも、沈み行く泥船から逃げ出すように」、夕張市の職員があわただしく退職していった様子を述べています。
また、「これからの夕張再生を考える上で欠かすことのできない」キーマンとして、
(1)経営破たんした三セク施設の運営を引き受けている夕張リゾートの西田吏利社長
(2)全国ブランドとなった夕張メロンを生産する夕張市農協の長沼誠一組合長
の2人の話を紹介し、「結局のところ、夕張を本当の意味で変えていけるのは、こうした人たちなのかもしれない」と述べています。
第2章「どこでもなりうる『第二の夕張市』」では、2006年度の地方債の協議制への移行に伴ない、新たに導入された、「自治体財政に占める借金返済の割合」を示す指標である「実質公債費比率」について解説し、この比率が、33.3%と、起債制限比率(11.1%)の3倍になった長野県王滝村を取り上げ、20077年6月に成立した自治体財政健全化法によって、「住民の目に触れていない『隠れ借金』が今後、次々とあぶりだされてくるだろう。自治体の借金の全体像が明らかになったとき、王滝村のような住民の反乱が各地で起きることは間違いない」と述べています。
また、自治体財政悪化の背景にある、1990年代の地方単独事業について、「その事業費を捻出するために利用を推奨」された「地域総合整備事業債」(地総債)を挙げ、「どの事業にどの種類の地方債が使えるかを図表・写真をふんだんに使って百数十ページにわたって説明」した『地方単独事業事例集』が、「市町村長さんと議員さんの知恵袋」と題した「隠れたベストセラー」になっていたことを紹介しています。そして、「全国の自治体はこの地総債を使って文化施設や運動施設といったハコモノを競うように建てた」と述べ、保守王国の群馬県では65の市町村で防災関係以外で469の事業が行われ、なかでも、「福田、中曽根両元首相が激しい地盤争いをしたことで知られる衆議院旧群馬3区の大票田・高崎市(合併前)」では、25もの事業が行われたと述べています。
著者は、「結局のところ、自治体の借金を強いて地方単独事業を行わせた国の政策は、地域間の所得格差を一時的に解消したものの、地域経済を根本的に活性化させることはできなかった。しかも、その借金の返済が終わらないうちに、小泉純一郎内閣が三位一体改革として地方交付税の削減を行なった」ため、「財政力の弱い自治体がその衝撃をもろに受け、財政悪化が一気に進んだ」と述べています。
第3章「破綻を回避する『もう一つ』の選択肢」では、全国に先駆けて、「市町村合併をしない宣言」をした福島県矢祭町の「もったいない図書館」の取り組みや、2003年2月に、自立を模索する46人の首長と600人以上の自治体関係者を集めて、「小さくても輝く自治体フォーラム」を開いた長野県栄村の「田直し」事業などを取り上げています。
そして、栄村の高橋村長が、財政上の数字以上に、「コミュニティの再生」を重視し、今は、「役場が集落でなく、住民一人ひとりを対象に行政をしている」行政をしているので、「行政体である役場が合併によって遠くへ行ってしまうと、集落はたちまち崩壊してしまう」が、「逆に、コミュニティがしっかりすれば、合併しようがしまいが、頑張っていける」、「村としての自立以前の『集落の自立』ということを考えている」と語っていることを紹介しています。
第4章「平成の大合併で住民サービスは変化したか」では、合併特例債という「アメ」がばら蒔かれた結果、「基盤整備を名目に各地で『合併バブル』と呼ばれるほどのハコモノ建設が行なわれ」たことを紹介した上で、「合併を期に住民サービスの充実に取り組んだ」市町村は全体の約77%に過ぎず、その内容も、「住民の暮らしが飛躍的によくなったと感じられるものは少ない」と指摘し、「平成の大合併が住民生活にもたらしたメリットはこの程度のものかと失望してしまう」と述べています。そして、「将来的には合併特例債の返済や地方交付税の削減などが自治体財政を圧迫していくことは必至であり、住民サービスの低下や住民負担の増加が懸念される」と述べています。
また、過疎化に悩む地方の自治体が熱心に取り組んでいる「IJU(移住)ターン」と呼ばれる都市住民の呼び込み策について、「自治体が移住策を進める一番の狙いは、その経済波及効果にある」と述べ、「地域が輝いていたことを知っている最後の世代でもある団塊世代には、都会で学んだ技術、経験、ノウハウ、それに年金と退職金をもって、過疎化、高齢化、都市間格差などたくさんの問題を抱えているふるさとへ帰り、もう一度地域から日本を変えてほしい」というふるさと回帰支援センターの高橋公氏の言葉を紹介しています。
第5章「住民にやさしい自治体」では、豊かな財政力に支えられている大都市部も、将来には「老齢人口の増加」という大きな不安を抱えていると延べ、「首都圏の自治体が若い世代の流入を促進するために優遇措置を講じる背景には、こうした問題もあることを忘れてはならない」と述べています。
第6章「やっぱい『最後の頼み』は核マネー」では、高レベル放射性廃棄物の最終処分場建設地の選定をめぐる全国の動きを紹介した上で、「核マネーは、一度はまると抜け出せない麻薬のようなものでもある」と述べています。
第7章「自治体倒産時代に備える」では、夕張市の一時借入金を用いた不適切な会計操作について、「実質的な赤字として露見しにくかったが、さまざまな決算資料を目にすることができた市議らに気づけなかったはずはない。気づいたのに放置していたのであれば市民に対する背信行為であり、気づかなかったのであれば職責の放棄と言っていい」と指摘し、「いったい、夕張市の議員は何をしてきたのか」と述べています。そして、「決算委員会でも分厚い決算書を渡されてべらべらっと説明が進む。質問なんてできないのさ。土地公社やら三セクやらゴチャゴチャだった」という元・現議員のホンネを紹介しています。
また、官製談合の悪弊の原因として、首長選挙のあり方を指摘し、前ニセコ町長の逢坂誠二氏が、当選が有力視された北海道知事選への出馬を土壇場で辞退した理由として、「当選した後の政治的な色合いが、お金を出した方に縛られるのは当然のこと。2年経ち、3年経ち、そろそろ任期も終わりが近いというときに、そのことが色濃く出てくる」と、著者が代表理事を務めていたNPO法人コラボ主催のシンポジウムの講演で語っていたことを紹介し、「選挙に潜む恐ろしさを垣間見た思いがしたものだ」と語っています。
さらに、地方議会の機能麻痺の改善が見込めないのであれば、「将来的には別の形の自治体運営を考えることも必要になってくる」として、「議会から業務を委任された支配人が専門家として自治体の『経営』にあたる『シティ・マネジャー制』の導入が本格的に検討されてもいいのではないか」と述べています。
最後に、2007年に成立した「自治体財政健全化法」について、自治体の財政状況を把握するために、
・実質赤字比率
・実質公債費比率
・連結実質赤字比率
・将来負担比率
の4つの指標により、「政府が政令で定める基準をクリアできない場合は、まず第1段階として財政健全か計画の策定が義務づけられて自主的な改善をめざし、それでも財政状況が好転しない場合は第二段階として財政再生団体となる」ものであると解説しています。
本書は、夕張の財政破綻で現実のものとなった「自治体倒産」の姿を、専門家向けではなく、わかりやすく解説している一冊です。
■ 個人的な視点から
著者は、「ジャーナリスト」と肩書きにあるように、元新聞記者で、決して財政の専門家ではありませんが、それゆえに、本来は専門家であるはずの行政関係者でもなかなか理解できない複雑な地方財政の仕組みを、一般読者向けに分かり易く橋渡しをして解説しているのではないかと思います。
一方で、本書の内容は、オリジナリティという点では弱く、新聞や雑誌で集められるような内容が中心となったことや、「夕張ショック」の衝撃も一段落し、対策もまとまった頃に出されたものであることから、派手なタイトルと比してインパクトは弱いところがあります。
しかし、対策がある程度でたところでまとめたことで、消化しやすくなったことは事実ではないかと思います。
■ どんな人にオススメ?
・「夕張ショック」の全体像を俯瞰したい人。
■ 関連しそうな本
樺嶋 秀吉 『採点!47都道府県政』
樺嶋 秀吉 『知事の仕事―一票が地域と政治を変える』
樺嶋 秀吉 『日本全国発 知って呆れるチホウ自治ニュース』
鷲田 小彌太 『夕張問題』 2007年12月05日
白川 一郎 『自治体破産―再生の鍵は何か』 2006年10月30日
日本経済新聞社 『地方崩壊再生の道はあるか』 2007年10月09日
■ 百夜百マンガ
作者は誰に対して「反逆」ののろしを上げたのでしょうか。ゴールデン・ラッキーのリベンジなのでしょうか。
投稿者 tozaki : 07:00 | コメント (0) | トラックバック
2007年11月28日
水道サービスが止まらないために―水道事業の再構築と官民連携
■ 書籍情報
【水道サービスが止まらないために―水道事業の再構築と官民連携】(#1042)
宮脇 淳 , 眞柄 泰基
価格: ¥3360 (税込)
時事通信社(2007/08)
本書は、重要なインフラである水道事業について、
(1)社会基盤としての施設の老朽化
(2)事業体たる地方自治体、地方公営企業の人的資源の減少
(3)事業主体たる地方自治体、地方公営企業の財政状況の悪化
などの課題を挙げ、「国民の生活や社会活動に不可欠な水道水を供給する水道事業の持続性を確保することを目指して、水道事業の仕組みについて水道法、地方公営企業法、地方財政と官民連携と地方公営企業における政策決定から考え、その上で水道事業の現状を水道事業ガイドライン(社団法人 二本水道協会規格)の業務指標を活用しつつ水道施設や水道経営について明らかにする」ものです。
第1章「水道事業の仕組み」では、平成17年度末時点の水道事業等の数は
・水道法に基づく認可を受けている水道事業・・・9,396(うち簡易水道事業7,794)
であり、「市町村合併や事業の統合により簡易水道事業の数は減少し続けている」と述べています。
また、水道事業が抱える経営課題として、
(1)今後集中的に到来する施設の更新への対応
(2)水需要の減少傾向
(3)事業執行体制のあり方(PFI、アウトソーシングなどの民間的な経営手法の導入)
の3点を挙げた上で、今後の方向性として、
(1)地方公営企業法を最大限に活かし、給与や任用などについて首長の部局との横並びを廃し、民間企業に準拠し効率性を最大限に発揮するなど独立性を高める方向。
(2)長の執行機関の一つとして行政サービス面を重視し、首長の部局との均衡を図りながら、業務の実施については包括的な民間委託を取り入れるなど官民のパートナーシップを強化し民間的経営を取り入れていく方向。
の2点を挙げています。
さらに、水道事業改革の国際的文脈を見ても、「金融のグローバル化の地方財政への影響が水道事業改革の背景として大きなウェートを占めていることがわかる」として、「現在進みつつある地方財政改革のスピードと併せて改革を行っていく必要がある」と述べています。
第2章「水道事業の現状」では、水道資産の特徴として、
・約37兆円に上る巨大な社会資本であること
・資産額の約3分の2が水輸送系の管路施設であり地下に埋設されていて「見えない資産」であること
の2点を挙げ、これらの資産が、「高度経済成長期に集中的に投資されており、施設の寿命に比べて比較的短期間に整備されたものである」と述べています。
また、課題として、
・人口減少、使用量の減少は水道事業の運営財源である水道料金収入の減少に直結する問題であり、今後、水道事業体はますます厳しい経営環境の下で事業運営を担っていく状況にあること。
・水道事業体職員の年齢構成は、45歳以上の職員が過半を占め、次代を担う若年層が薄く、今後経験豊かな職員が短期間に大量退職していくことで技術の継承問題や事業実施能力補填の対応策が喫緊の課題となること。
等の点を挙げた上で、保有資産の長寿命化のための水道施設の資産運用管理手法(アセットマネジメントシステム)の確立が急務であると述べています。
第3章「水道事業における官民連携」では、「PPP(Public Private Partnership)」における「パートナーシップ」は、「官と民とがともに考えともに行動すること」を本質とし、「ともに考え、ともに行動するためには、『官』と『民』が共通の言葉で語り合い、水平的な信頼関係を形成し、ともに役割と責任分担を明確にする枠組みづくりが不可欠となる」と述べています。
そして、公共サービスにおけるPPP事業について重要となる要素として、
(1)目的の明確化
(2)リスクの分散化
(3)構成要素の選択
(4)斬新性と質的向上
の4点を挙げています。
また、水道事業に対しての民間関与・民間化の意義として、「国民の日常生活に支障が生じないように、健全な社会活動を支える水道事業の持続性を確保するため」に、事業体の広域化による規模の拡大だけではなく、「民間との連携により、水道事業のビジネスモデルを転換する手法も考慮されるべきである」と述べています。
第4章「水道事業における監査制度」では、「公営企業たる水道事業においても事務技術を横断する知識が求められている」として、外部監査人に就任する割合の高い公認会計士は、財務会計・監査の専門家であるため、「事務事業の有効性、経済性、効率性までを評価するためには、水道事業の専門的知識を必要とする場合も多い」と指摘し、「補助人制度の活用や関係専門家の意見を聴取する制度の活用が期待される一方、水道事業タイ側でも外部監査人に業務指標(PI)などの情報提供を積極的に行なうなど外部監査人及び地方公共団体双方の努力が求められる」と述べています。
第5章「水道事業の再構築」では、1990年代から急速に広まった途上国向け上下水道の民営化の動きによって世界の水ビジネスは活発になったと述べ、その理由として、世界銀行やIMFが採った「公営の水道事業は非効率であるとして、融資の条件とし民営化を強く要求」下政策があることを挙げています。
また、水道事業の再構築例として、
・東京都多摩地区水道の一元化
・松山市・DBOによる浄水場整備等事業
・福島県三春町における包括委託
・八戸圏域における水道事業の広域化
等の事例を紹介しています。
本書は、今後、下水道事業との統合や民間企業の参入など、激変を迎える水道事業について、現状を伝えてくれる一冊です。
■ 個人的な視点から
日本の水道事業は、日本の近代化施策の中では珍しく、自治体がイニシアティブをとって展開されてきました。もともと井戸などの水に恵まれていたために、富裕な都市を中心に事業が展開されてきたからかもしれません。
そのためか、今後必要となる膨大な設備の更新の需要もあまり意識されていないような気がします。いざ更新となると、外資が大幅にシェアを伸ばす可能性も高いのではないでしょうか。
■ どんな人にオススメ?
・蛇口をひねれば水が手に入るのがあたり前だと思う人。
■ 関連しそうな本
高寄 昇三 『近代日本公営水道成立史』 2007年05月15日
赤井 伸郎 『行政組織とガバナンスの経済学―官民分担と統合システムを考える』 2006年11月24日
白川 一郎 『自治体破産―再生の鍵は何か』 2006年10月30日
吉富 有治 『大阪破産』 2006年10月20日
野田 由美子 『民営化の戦略と手法―PFIからPPPへ』 2006年01月30日
大住莊四郎 『ニュ-・パブリック・マネジメント 理念・ビジョン・戦略』 2005年01月23日
■ 百夜百マンガ
すっかりテレビタレントとして顔の売れている人ですが、一般人の1.5倍の速さで年を経た老境の現在にあってもその筆は休まることがありません。
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2007年11月16日
第三の道―効率と公正の新たな同盟
■ 書籍情報
【第三の道―効率と公正の新たな同盟】(#1030)
アンソニー ギデンズ (著), 佐和 隆光 (翻訳)
価格: ¥1575 (税込)
日本経済新聞社(1999/10)
本書は、「これからの社会民主主義政治について、目下、多くの国々で闘わされている論争を整理し深化すること」を目的とし、「社会民主主義の刷新」について論じているものです。
第1章「社会主義は過去の遺物か」では、「社会主義も共産主義も過去の遺物と成り果てたが、それらは今なお、私たちの脳裏を離れない」理由として、「社会主義運動の推進力であった価値観や理想を、脇に追いやるわけにゆかない」ことを挙げています。
そして、「資本主義の限界に挑戦しようとするのが社会主義」であるとして、「資本主義経済を社会主義的に運営することにより、資本主義を人間的なものにつくり替えることができるという考え」が、「社会主義に固有の魅力の源泉となっている」と述べています。
また、ヨーロッパの福祉国家における制度のありようとして、
・イギリスの制度:社会的サービスや健康保険を重視するが、所得に応じた給付制に特徴がある。
・北欧型福祉国家:税率が非常に高く、万人救済志向であり、給付レベルは高く、ヘルスケアを始め、豊富な資金をもとに国のサービスが保証されている。
・中欧の制度:社会的サービスへの関与は比較的少ないが、他の点では、豊富な資金に基づく給付が成される。その主たる原資は、雇用者の社会保険負担金である。
・南欧の制度:中欧の制度と形式には似通っているが、中央ほど包括的ではなく、支給額も低い。
の4つの類型化を行ったうえで、古典的な社会民主主義と新自由主義を以下のように対比しています。
○古典的社会民主主義(旧左派) ○サッチャリズム、新自由主義(新右派)
社会生活や経済生活への広範な国家の関与 できるだけ小さな政府
市民社会よりも国家が優位 自律的な市民社会
集産主義(collectivism) 伝統的なナショナリズム
ケインズ主義的需要管理と 道徳的権威主義と強力な経済的個人主義
協調組合主義(corporatism)
市場の役割は限定的、すなわち 市場原理主義
混合経済あるいは社会的経済
完全雇用 他の市場並みに労働市場の需給を
バランスさせる
強固な平等主義 不平等の容認
完璧な福祉国家、すなわち セーフティネット(安全網)としての
「ゆりかごから墓場まで」市民を保護 福祉国家
単線的な近代化 単線的な近代化
環境保全への無関心 環境保全への無関心
国際主義 国際秩序についての現実主義的理解
二極対立の世界を前提に据える 二極対立の世界を前提に据える
さらに、新自由主義が無敵ではなく、現に「窮地に陥っている」理由として、「新自由主義の二つの支柱である市場原理主義と保守主義が、緊張関係に陥ったこと」を挙げています。
著者は、イギリス人の社会的、政治的意識を、
・横軸:経済的自由、すなわち自由市場への信仰
・縦軸:個人的自由
の2軸によって、以下の4つに分類しています。
○社会的・政治的意識の4分類
個人的自由 大
↑
経 | 経
済 社会主義|自由主義 済
的 | 的
自←――――+――――→自
由 | 由
権威主義|保守主義
小 | 大
↓
個人的自由 小
そして、「第三の道」について、「過去2、30年間に根源的な変化を遂げた世界に、社会民主主義を適応させるために必要な、思考と政策立案のための枠組み」であり、「旧式の社会民主主義と新自由主義という二つの道を超克する道」であると定義しています。
第2章「五つのジレンマ」では、社会民主主義をめぐる論争で重要視されたジレンマとして、
○グローバリゼーション:その正確な意味は何なのか。それはどんな影響を及ぼすのか。
○個人主義:いかなる意味で、現代社会はより個人主義的な方向を志向しつつあるのか。
○左派と右派:この対立軸が意味を失った、との主張をどう解するべきなのか。
○政治のあり方:民主主義の正統的なメカニズムから、政治は次第に遠ざかりつつあるのか。
○環境問題:社会民主主義的政策の中に、環境問題をどのように取り込むべきなのか。
の5点を列挙しています。
また、第三の道の政治が目指すところを、「グローバリゼーション、個人生活の変貌、自然と人間との関わり等々、私たちが直面する大きな変化の中で、市民一人ひとりが自ら道を切り開いてゆく営みを支援することにほかならない」と述べ、
○第三の道が重視する価値
・平等
・弱者保護
・自主性としての自由
・責任を伴なう権利
・民主主義なくして権威なし
・世界に開かれた多元主義
・哲学的保守主義
の7点を挙げています。
第3章「国家と市民社会」では、「社会を構成する主要な部分を包み込む、総合的政治プログラムの概略」として、
○第三の道のプログラム
・ラジカルな中道
・新しい民主主義国家(敵不在の国家)
・アクティブな市民社会
・民主的家族
・新しい混合経済
・包含としての平等
・ポジティブ・ウェルフェア
・社会投資国家
・コスモポリタン国家
・コスモポリタン民主主義
の10点を挙げています。
第4章「社会投資国家」では、第三の道の政治が「新しい混合経済」を提唱しているとして、「新しい混合経済は、公共の利益に配慮しつつ、市場のダイナミックな力をうまく活用し、公的部門と私的部門を結合して相乗効果を発揮させる」と述べています。
また、第三の道の政治における平等の意味として、「平等を包含(inclusion)、不平等を排除(exclusion)と定義」すると述べ、「もっとも広い意味での包含」とは、「市民権の尊重」、すなわち、「社会の全構成員が、形式的にではなく日常生活において保有する、市民としての権利・義務、政治的な権利・義務を尊重すること」であり、「機会を与えること、そして公共空間に参加する権利を保証することをも意味する」と解説しています。
さらに、1942年にベバリッジが、『社会保険等のサービスに関する報告』において、「不足、病気、無知、不潔、怠惰に対して宣戦布告」したことについて、「ベバリッジが宣戦布告したのはネガティブなものばかり」であると述べ、「ポジティブ・ウェルフェア」は、「これからの福祉のあり方」であり、「個人ならびに非政府組織が、富を創造するポジティブ・ウェルフェアの主役なのである」と述べています。そして、「指針とすべきなのは、生計費を直接支給するのではなく、できる限り人的資本(human capital)に投資することである。私たちは、福祉国家のかわりに、ポジティブ・ウェルフェア社会という文脈の中で機能する社会投資国家(social investment state)を構想しなければならない」と主張しています。
第5章「グローバル時代に向けて」では、「グローバルな問題は、ローカル・イニシアチブによる取り組みを求めると同時に、グローバルな解決策をも求める」と述べ、「行き先もわからぬグローバル市場の不規則な混沌、そして無力な国際機関」に「安定、平等、反映」などの問題解決を委ねてすますわけにゆかないと述べています。
「結び」では、「近年の社会民主主義論争は、相当数の検討課題を浮き彫りにした」と述べ、イギリス労働党が、これらの課題解決に「大いに貢献できるはず」であると述べています。
本書は、現代における社会民主主義を語る上で外すことができない一冊です。
■ 個人的な視点から
個人的には「第三の道」の考え方自体は悪くない考え方だと思うのですが、実際に「第三の道」を主張している人たちの顔ぶれを見ると、ベルリンの壁崩壊以降、「社会主義」という言葉を口にしづらくなった人たちが飛びついたという印象を受けてしまいます。
■ どんな人にオススメ?
・「社会主義は過去の遺物」と思いたくない人。
■ 関連しそうな本
小杉 礼子, 堀有 喜衣 (編集) 『キャリア教育と就業支援』 2007年03月16日
ジェフリー・W. メイナード (著), 新保 生二 (翻訳) 『サッチャーの経済革命』 2005年08月04日
林 信吾 『しのびよるネオ階級社会―"イギリス化"する日本の格差』 2005年11月27日
アレンド レイプハルト (著), 粕谷 祐子 (翻訳) 『民主主義対民主主義―多数決型とコンセンサス型の36ヶ国比較研究』 2006年02月20日
クリスチャン ウルマー 『折れたレール―イギリス国鉄民営化の失敗』 2006年08月03日
ポリー・トインビー (著), 椋田 直子 (翻訳) 『ハードワーク~低賃金で働くということ』 2006年03月08日
■ 百夜百マンガ
前作ではまったくの素人からスタートしたのに、いつの間にかベテラン秘書に成長してしまいました。素人が政治の裏の世界を見たカルチャーショック、という当初のコンセプトは薄らぎますが、政局好きには楽しめる作品です。
投稿者 tozaki : 05:00 | コメント (0) | トラックバック
2007年11月05日
構造改革の真実 竹中平蔵大臣日誌
■ 書籍情報
【構造改革の真実 竹中平蔵大臣日誌】(#1019)
竹中 平蔵
価格: ¥1890 (税込)
日本経済新聞社(2006/12/21)
本書は、「奇跡の内閣」である小泉内閣での大臣を引き受けた著者が、「国務大臣という責任と緊張の生活を日々振り返ることによって、教訓を大切にしながら何とかこの重責を全うしたい」と考え、また、「経済政策を勉強してきた人間として、この貴重な経験について、後日何らかの形で社会に還元する必要がある」と考えて「大臣日誌」を記し、この日誌に基づきながら「小泉構造改革の5年半を総括するもの」です。著者は、本書の狙いとして、
(1)経済的側面からの評価:この間の構造改革が経済政策という面からどのように意味を持っていたのか、またその効果をどう評価するかの素材を提供すること。
(2)政策決定の政治プロセス:実態に基づく正確な情報を提供すること。
(3)世論・ジャーナリズムと制作の関係
の3点を挙げています。
著者は、2001年4月26日、小泉総理から直接「これからすさまじい戦いになる。大臣として閣内に入り一緒に戦ってくれ」と大臣就任の要請を受け、経済財政政策担当大臣に就任し、小泉内閣が退陣するまでの5年半の間、内閣を支え続けますが、「閣僚として学んだ最大のこと、そして読者に伝えたい最大のポイント」として、「日本を改革するのは容易なことではない」ことであると語っています。
第1章「小泉内閣という"奇跡"」では、「失われた十年を解消し経済の再生を果たすには、経済政策を根本的に変える必要」があり、それが「構造改革」に他ならず、これを行えるのは、「奇跡の総理をおいてほかなかった」と述べています。著者は、本書で、小泉内閣以前にも大臣就任の要請を辞退したことがあることを語っていますが、小泉氏からの要請に対しては、「これは奇跡の総理だ。その総理が全力で戦いを挑み、日本を変えようとしている。そんな時、もし自分にできることがあるなら、自分も逃げることなくはせ参じなければならないのではないか」という思いで引き受けたと述べています。
著者は、2001年4月に経済財政政策担当大臣となり、翌年9月の内閣改造で金融担当大臣の「兼務」を命じられています。著者は、不良債権問題の責任者として銀行改革に取り組むにあたり、その本質を、O・ラモントやO・ハートらの論文等によって知られていた「デット・オーバーハング」の問題、すなわち、「もはや返済できないような過剰な借入れを企業が背負ってしまうと、経済全体が大変な停滞状況になること」であると認識していたことを語っています。そして、銀行が社会全体の「決済システム」を担っている点を強調し、「政府は銀行のために公的資金を使うのではなく、決済システムという社会インフラを守るために資金を使う」のだと主張しています。
第2章「金融改革の真実――"不良債権"という重荷」では、2002年9月30日に金融担当大臣を命じられ、10月10日には株価が8100円を割り込むところまで下げ、マスコミが「竹中ショック」だと報じ始めた際に、総理が著者を官邸に呼び、「何にも動じる必要はない。王道を歩んでくれ!」と語ったことに対し、「この総理の下であれば、どんな抵抗があっても不良債権処理を必ずやり遂げられる」と確信したことを語っています。
また、「金融再生プログラム」の大枠を固める中で、「大手銀行の不良債権比率(前貸出しに対する不良債権の比率、当時は8.4%)を二年半で半減させる」という思い切った数値目標を設定するに当たり、
(1)銀行の資産査定の厳格化
(2)自己資本の充実
(3)銀行のガバナンス改革
の3点の基本認識が重要であったと述べています。そして、10月30日に発表した「金融再生プログラム」について、
・試算査定強化(DCFなど)
・資産査定の統一(横串)
・自己査定と検査結果の格差公表
・公的資金の活用
・繰り延べ税金資産への対応
・経営健全化計画の厳格なレビュー
の6つの骨格のうち、「繰り延べ税金資産の扱いは引き続き検討することになったが、あとの5つは完全に当初案の通りとなった」として「五勝一分」であると述べています。
さらに、「大臣生活の5年半を通じて、私は常に批判に晒され、いわば針の筵の上にいた」という著者が、「最も痛いと感じた針の筵」として、2003年2月7日の閣議後の会見の中で、ETF(株価指数連動型上場投資信託)投資について、「つい『儲かります』という表現を使った」ために、国会が紛糾し、「いつ辞めても構わない」という開き直った気持で仕事を続けていた著者が、「正直なところこのときだけは、『何としても切り抜けなければならない』『ここで辞めるわけには絶対にいかない』という気持だった」と語っています。
銀行改革の山場である、りそな銀行問題に関しては、2003年5月6日の深夜、岸博幸政務秘書官から「合併したばかりのりそな銀行で、監査法人が繰り延べ税金資産の認定で厳しい意見を示しており、場合によっては自己資本が必要レベル(4%)を下回る可能性が出てきた」という「とんでもない情報」を入手したことから始まり、これに対して著者は、「隠さない」「原則を曲げない」「ルール通りにやる」の3つの原則で対応することを事務方に徹底したと述べています。
著者は、金融担当大臣として不良債権処理に取り組んだ2年間の経験を踏まえた教訓として、
(1)政策については細部を官僚に任せることなくしっかりと制度設計をしなければ成果は挙げられない。
(2)無謬性にこだわる官僚マインドが、いかに改革を阻む岩盤になっているか。
(3)日本ではいまだに過去の政策と行政の総括が十分に行われていない。
の3点を挙げています。
第3章「郵政民営化の真実――改革本丸の攻防」では、郵政民営化への改革を進める上での最大の分岐点の一つに「総理直轄で進める」という2003年6月の総理判断を挙げています。
また、著者がスタッフと一緒に気分転換をかねて三田の慶応義塾キャンパスを訪れ、その場で一気に「郵政民営化に関する『五つの原則』」として、
(1)活性化の原則
(2)整合性の原則
(3)利便性の原則
(4)資源活用の原則
(5)雇用配慮の原則
の5点を一気に取りまとめたことを述べています。
また、郵政民営化に当たっても、「不良債権のときの竹中チームのような作業部隊を改めて作って、その案を経済財政諮問会議に小出しにしていく」という方法でなければ、とても具体的な改革案に行き着かないと判断し、平日の夜9時以降か週末に、著者と秘書官、郵政改革を担う志ある官僚、経済・財政の専門家からなる「ゲリラ部隊」を編成、徹底した議論を踏まえ、民営化の基本方針には確保しなければならない「ボトムライン」として、
(1)郵政のそれぞれの事業(郵便、銀行、保険など)が自立すること、そのために分社化が必要だという点。
(2)民営化され分社化された各事業会社には、他の民間企業と同じ法律を厳格に適用するという点。
(3)経営の自由とイコールフッティング(対等な競争)をうまくバランスさせるための仕組みを作ること。
の3点を明確に認識したことを述べています。
さらに、2004年6月16日の国会閉幕日に、総理から、「改革のことを一番わかっている竹中さんが立候補し、選挙でそのことを国民に説明してほしい」と要請を受け、参院選出馬が決まり、6月24日の公示日までにポスターもビラも間に合わない状況の中で、72万2千票を獲得し、自民党のトップ当選を果たしたことを語って慰安す。
そして、2004年9月27日の内閣改造では、郵政民営化担当大臣を命じられ、
(1)基本方針に忠実に「制度設計」を行い、さらにそれを「法律案」にすること。
(2)国民に対する説明責任を果たすこと。
(3)基本方針を決定する過程で出された反論を受けて、十分な対応を準備しておくこと。
の3点に取り掛からなければならなかったと述べています。著者は、全国21ヵ所を回るTVキャラバンの合間に、準備室の主要メンバーと「基本方針に完全に忠実な制度設計、またそれを具現化した厳格な法案」の作成に携わり、「大臣が法案作成にこれだけ直接かつ詳細に関わったのは前代未聞」であり、「通常は、官僚任せの仕事」であると述べ、「戦略は細部に宿る」のであり、「後に民営化法案をめぐって記録的長時間の国会審議を行うことになるが、その厳しい質問に耐えられたのも、私自身が法案作りに直接勝つ詳細に係わっていたから」だと述べています。
また、法案をめぐる郵政ファミリーとの議論の中で、焦点となると考えていた点として、
(1)銀行と保険会社を「特殊会社」にせず商法の一般会社にするという点
(2)銀行・保険の株式について、持ち株会社はそれらを完全に処分し「民有民営」を実現させること
(3)準備のための会社をできるだけ早期に設立すること
の3点を挙げています。
さらに、2005年4月3日の総理判断の翌4月4日には、郵政民営化法案に関する基本事項を確認する会議終了後、「参加者の一人」が著者の耳元で、「いつか仕返ししてやる」と耳元で囁かれ、その翌日にはある大物議員から「「竹中さん、あんたすべて思い通りで満足かもしれないけど、気をつけろ。どんでん返しがあるかもよ」と言われたことを明らかにし、「政治の世界にも、人間の品性というものが求められるはずだ。私は、この両氏の言葉を決して忘れまいと思った」と語っています。
5月27日からの特別委員会での質疑では、民営化に対する批判及び議論の対立点として、
(1)民営化すれば郵便局の数が大幅に減少する、とくに過疎地において郵便局のサービスが維持されない。
(2)分社化の結果として「郵便局の窓口で金融(貯金・保険)サービスが受けられなくなる」という指摘。
(3)民営化後の銀行などを中心に、十分な収益を上げることができないのではないか。
(4)郵政は現状のままで何が悪いのか、何も国民に迷惑をかけていないではないか。
の4点があったことが語られています。
郵政民営化法案は、2005年8月8日に参議院において否決され、総理は、「民営化法案が否決されたが、郵政民営化を本当にしなくていいのか、国民に聞いてみたい。国民が反対なら、私は退陣する」と「歴史に残る演説」を行い、このとき著者は、「実のところ、否決されて総選挙になることも悪くないという本音を持っていた。郵政民営化のような明白な政策すら実現できなければ、その後に控えているさらに厳しい改革を行うことなど絶対にできない。そうであるなら、一気に国民に信を問うのは意味のあることである。これまで、大臣という守りの立場にあって言いたいことも言えずにひたすら我慢してきたが、これでようやく攻めの姿勢になれる。その意味で4年間待った瞬間がついに来たのだ。せめてせめて、絶対に勝ちにいく。私は心の底からそう思った」と語っています。
第4章「経済財政諮問会議の真実――政策プロセスはどう変わったか」では、小泉内閣発足後の2週間後、著者が経済財政諮問会議の性格と機能を「根本的に変えること」を狙いに一枚のメモを自ら作成したことについて、「永田町・霞が関では、大臣が自分でパソコンを打ってメモを作ることはほとんど考えられないことだった」が、「大学教授から閣僚に就任したばかりの私にとっては、ごく自然なことだった」と語っています。
著者は、諮問会議を、「マクロ経済政策の実践的な議論をする場であるとともに、構造改革の司令塔としての機能を果たし、日本における『政策の決定プロセス』を大きく改革する原動力となった」と評しています。そして、諮問会議の大きな利点として、
・総理が議長であること
・運営は経済財政担当大臣の私が行えること
・信頼できる4人の民間議員が入っており彼らと力を合わせることができること
・諮問会議の議事録が会議3日後に公開される(つまりオープンな議論ができる)こと
の4点を挙げています。
また、諮問会議の立ち上げに当たって得た教訓として、
(1)この国を帰るのは並大抵のことではない。世界的に見て普通のことが本当にこの国では容易に通用しない。
(2)諮問会議で民間議員が共同して声を揃えれば、それは事態を動かす力になる。
の2点を挙げ、「この二つの教訓を生かして、経済財政諮問会議を運営していこうと決意した」と述べています。
さらに、最初の骨太方針作成において、経済財政諮問会議をうまく運営すれば、
・議長として総理がリーダーシップを発揮する
・政治利害から独立した民間議員の提案という形で政策をリードする
・議事録の速やかな公開を前提に国民の前でオープンな議論をする
という利点を発揮することができたことを述べています。
この他、総務大臣として、「国と地方がもたれ合う複雑怪奇な仕組み」である地方財政改革に取り組んだ著者が、これを根本的に変えるために、
(1)国と地方の役割分担を明確にするための「分権一括法」を制定すること
(2)交付税の配分を、面積や人口などわかりやすい客観基準に基づいて行うこと(新型交付税)
(3)地方行革の新指針を作ること
(4)不交付団体を画期的に(例えば人口一定規模以上の都市の半分に)増やすこと。またそのための税源移譲を行うこと
(5)自治体の責任を明確化するために再生型の破綻法制を制定すること
(6)地方債の自由化を進めること
の6つの政策パッケージを進めた
ことを語っています。
終章「日本経済二つの道」では、日本が、「改革によって潜在成長率を高める重要なチャンスに直面している」と述べたうえで、経済政策を決定しそれを実施するに至るまでのプロセスとして、
(1)政策に関するアジェンダ設定を行うこと
(2)政策の方向性ないしは基本方針を、リーダーを中心にしっかりと決めること
(3)基本的な方針に則って制度設計をきちんと行ない、必要な仕組みを作ること
(4)民主主義のプロセスを踏まえた合意形成
の4点を挙げています。
さらに、改革の必要条件として、
・まず改革マインドをもった政治リーダーが存在し
・それを細部まで踏まえて支える、リーダーと一心同体のスタッフが存在し
・さらに民主主義のプロセスとしてそれを支持する国民が存在する
の3点を掲げています。
そして、「日本の民主主義のインフラとして、政策専門家が育っていくことが不可欠であると強く認識するようになった」と述べ、「こうした専門家が、民間部門から政府の政策をしっかりウォッチし、国民に伝えるという機能を果たしていかねばならない。専門家による健全なポリシー・ウォッチが機能する社会にしなければならない」と語っています。
本書は、当事者の一方的な視点であるとはいえ、小泉政権の総括としても、また政策決定プロセスの研究者による観察としても、価値ある一冊です。
■ 個人的な視点から
竹中氏が大臣に就任されている間、「スーパー公務員塾」という企画があり、主に入省数年の若手キャリア官僚の勉強会の発表会に大臣自ら2日間足を運ばれて発表を聞き、コメントをされていました。
プレゼン自体は、まだまだ経験の浅さが目立つものもありましたが、そういったものに対して、鋭い指摘と建設的な意見を出されていたことが印象的でした。
■ どんな人にオススメ?
・小泉内閣の「実効舞台」の舞台裏を覗いてみたい人。
■ 関連しそうな本
飯島 勲 『小泉官邸秘録』
大嶽 秀夫 『小泉純一郎 ポピュリズムの研究―その戦略と手法』 2007年06月19日
信田 智人 『官邸の権力』 2007年06月22日
大嶽 秀夫 『日本型ポピュリズム―政治への期待と幻滅』 2007年05月29日
読売新聞政治部 『自民党を壊した男小泉政権1500日の真実』 2006年03月14日
竹中 治堅 『首相支配-日本政治の変貌』 2006年12月26日
■ 百夜百マンガ
『あさりちゃん』に比べて印象が薄く、『おはよう!スパンク』と混同されやすい作品ですが、今読むと懐かしいこと間違いない人がたくさんいることと思います。
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2007年10月10日
財源は自ら稼ぐ!―横浜市広告事業のチャレンジ
■ 書籍情報
【財源は自ら稼ぐ!―横浜市広告事業のチャレンジ】(#993)
横浜市広告事業推進担当
価格: ¥2000 (税込)
ぎょうせい(2006/12)
本書は、「営業(?)開始以来、『小さな成功事例の積み重ね』と『転んでも無料(タダ)では起きない』をモットーにチャレンジしてきた横浜市広告事業の現状報告書であり他自治体への指南書」です。横浜市が始めた広告事業には、自治体や議員、シンクタンク、企業などからの問い合わせが殺到(2005年度400件)し、本書出版前には、自治体関係者向け広告事業講座を3回開催し、全国から100名以上の参加者が集まっています。
第1章「広告事業とは」では、広告事業を、「横浜市が所有する有形・無形のさまざまな資産を、企業の広告出稿や販売促進活動、タイアップ等によって積極的に有効活用し、新たな財源の確保および事業経費の縮減などを図ること」と定義し、例として、
・印刷物に広告を掲載し広告料を得る。
・公共施設での企業PRイベントや広告掲出を認める代わりに相当の広告料・使用料を得る。
・企業(横浜市に資金・物品の提供)都市(企業に広告・PR機会の提供)が、イベントや事業の際タイアップすることで、事業経費の一部を縮減する。
等を挙げています。
第2章「広告掲載基準」では、広告掲載基準の内容が、「各関係者の利害関係に配慮した多面的な役割を有したものである必要がある」として、
(1)広告媒体側である地方自治体にとっては、広告事業の基本スタンスを示すものとしての役割
(2)受け手である市民にとっては、違法・不当な又は不利益な広告が掲載されないようにするための役割
(3)出し手である民間企業等に対しては、地方自治体の広告媒体を使用する際のルールを事前に明示しておくための役割
の3点を挙げています。
第3章「広告ファーストステップ」では、実際の広告事業の例として、日常生活に必要な行政情報をまとめた「暮らしのガイド(横浜市民便利帳)」を、「冊子前半が行政情報、後半が民間情報という形の冊子」をフリーペーパー大手の株式会社サンケイリビング新聞社と共同発行することで、経費を2,400万円から600万円に縮減し、印刷部数は従来どおりの年間26万部を確保したことや、税金の封筒への広告掲載に関しては、軽自動車税の封筒に自動車ディーラーの広告を掲載すると市民からの誤解を受けると税務担当部署が主張して厳しい掲載基準を作ったため、「掲載できない業種がとても多い。というより、掲載可能な業種はありえない、というほど厳しい掲載基準が設けられている」こと、等が述べられています。
税金の封筒に関しては、市民から「税金の封筒に広告なんてふざけている」というクレームがあったが、財源確保のために広告事業にチャレンジしていることなどを説明したところ、「広告料が安すぎる。一企業のために安価にダイレクトメールを用意してやる必要はない。商売やるならシビアにやれ」という「励まし(?)のお叱り」を受けたことが述べられています。
第4章「公有財産の活用」では、行政財産に掲出される広告を、
(1)建物の壁面(内壁・外壁)に広告を表示する場合
(2)建物の床面に広告物を表示する場合(物品を床に設置し、部分的に独占利用する場合を除く)
(3)屋上に広告物を設置する場合
(4)建物内にパンフレットスタンドを設置する場合
(5)土地や建物内((1)~(4)以外)に広告物を設置する場合
の5つに類型化し、「公有財産規則の規定に従い、使用許可面積の算出方法や使用料月額を定め、広告主の利便性および事務の簡略化・効率化を図っている」ことを解説しています。
そして、行政財産への私権設定等の制限が、「あくまで当該財産の使用を妨げるような行為を規制する趣旨であり、それに直接関係する物理的な広告物の設置などに関しては目的外使用許可の原則に従うが、財産の本来的な使用に影響を及ぼさない付随的な無体財産権、広告の場合は『広告価値を利用する権利(広告権と言えるであろうか)』のようなものは、当該行政財産とは一体をなすものではなく、行政財産ではない(広告権は法的に確定した権利ではないので普通財産でもないと考えられる)無形の財産として、別途一般私法の適用のもとに処分可能である」と解釈し、広告価値の対価を、「私法上の契約によって、市場価値に基づいて定めた広告料をいただき、それとは別に、実際に広告物を設置するという行為に関しては、法の規定どおり目的外使用許可などを行い、その対価として使用料を徴収する」という2段階の仕組みをとっていることを解説しています。
また、実際の広告掲出事例として、磯子区総合庁舎への壁面広告や、ダスキンから提案のあった広告付玄関マット、タイヤホイールカバー等の事例を紹介しています。
第5章「企業タイアップ」では、「他業種が協力し合うこと」である「タイアップ(tie up)」のポイントについて、「双方のイメージが合うこと、双方ともにメリットがあること」であると述べています。そして、企業が、「自社名が報道されること」をとても重視しており、「タイアップの際には、自治体はパブリシティ効果(これだけは、どんな企業にも勝るはずだ)を最大のスポンサーメリットとして活用すべきである」と述べています。
一方で、自治体職員の懸念として、
(1)タイアップ企業と自治体が特別な関係にあるように思われるのではないか
(2)タイアップ企業が自治体とのタイアップを自社(商品)宣伝に使うのではないか
の2点を挙げ、(1)に関しては、公平性・透明性を保つために、「マッチングシステム」を作り、(a)横浜市への企業からの企画提案は常時平等に受け付ける、(b)横浜市のためによい企画やアイデアをくれた企業は優先する、というルールを明言していること、(2)に関しては、ゴミと資源の分別のパンフレットに広告を掲載した家電メーカーからの、パンフレットを自社負担で増刷したいという要望に対し、「横浜市の名前を利用した自社への利益誘導好意はしません」という念書を取ることでパンフレットの版下を貸し出した事例を紹介しています。
第6章「広告付きバス停留所上屋整備事業」では、「バス事業者である横浜市交通局が市の事業主体となり、契約、事業調整等を担当し、都市整備局(旧都市計画局)都市デザイン室が道路占用料、屋外広告物許可等の事業導入のための条件整備およびデザイン調整、審査の仕組みづくりを担当」するというプロジェクト体制をとったことを述べています。
また、留意した点として、
(1)財政的負担がないからといって安っぽいデザインとしないこと
(2)制限の対象である屋外広告物を景観的にいかに「プラス」に変えていくか
の2点を挙げています。
さらに筆者は、横浜市の屋外刻々活用型事業について、今後問題になると懸念している点として、
(1)少しでも稼ぎになればいいので、とりあえず広告スペースとして売ってしまえ、という発想が横浜市の内部で増えていること。
(2)あまりコストがかからない施設では、収入も多くを必要としないため、結果として質の低い広告になる恐れがあること。
の2点を挙げ、「いずれも、メディアとしての価値や広告の質を高めなくてもそれなりにできてしまう」という共通点があることを指摘しています。
第7章「横浜国際総合競技場のネーミングライツ」では、わがく院ではネーミングライツがいまだ定着した権利とはなっていないため、導入に当たってさまざまな課題が存在することを前置きした上で、2005年3月1日から「横浜国際総合競技場」等の3施設を、日産自動車株式会社をパートナー企業に、施設名称を「日産スタジアム」「日産フィールド小机」「日産ウォーターパーク」と変更したことを解説しています。
そして、この競技場が抱えていた最大の課題が、「ワールドカップの開催条件を満たすために、相当な設備投資を行い、それに要する管理運営費用」が重い財政負担としてのしかかっていたことを上げています。
また、募集に当たっては、「年間5億円・期間5年間」という契約条件を設定しての公募という形態をとったが、「実質的には企業への広告のセールスそのものであり、当然募集期間内には積極的なセールス展開を行った」と述べています。
第8章「市場へのアプローチ」では、広告代理店の機能として、
(1)媒体側の代理としての機能
(2)クライアント(広告主)側の代理としての機能
の2つの機能を挙げ、広告代理店が部署によって違う機能を持っていることもあることに注意するよう述べています。
また、自治体ならではの課題として、市の歳入額は公開しなければならないという情報公開を挙げ、「広告代理店にとっては『仕入れ値』であり、公開されると広告主との取引に差し支える場合がある」ことを解説し、発表時には「年間で約○○万円の歳入」などのように表現を工夫したことを述べています。
著者は、通常市の工事発注などでは、市側がクライアントになるのに対し、「広告事業では、横浜市は、お客様に印刷物や施設などを広告媒体として『使ってもらう・選んでもらう』ことで、『お金をいただく』というまったく逆の立場になる。広告媒体を買うも買わないもクライアントの気持次第なのである」と述べています。
第9章「自治体の広告事業を阻む二つの壁」では、自治体が、「足りない分を稼ごう」という当たり前の発想に立てない壁として、
(1)現行の公会計制度
(2)公務員特有の組織風土・・・役所の常識は世間の非常識、ビジネスルールを知らない、「やりたくない」公務員心理
の2点を挙げ、これらに関する課題整理と、広告事業を通じて得た解決のヒントを述べています。
本書は、歳入額以上に、職員の態度や気持の面での効果も大きい、広告事業の概要を知る上では必読の一冊です。
■ 個人的な視点から
広告事業の効果は、歳入や職員の意識の面にとどまりません。これだけの予算を投入する意味があるのか、また、行政が負担するべきものなのか、ということを考えるきっかけにもなります。例えば、ワールドカップに向けたサッカー場の設備投資のために、後年度必要になった市の予算からの持ち出し分を広告で賄う、という金額設定は、「泥縄」的な印象を免れません。また、防災訓練の際の昼食は、そもそも行政や企業がおにぎりを用意すべきものなのか、会場に売店があれば済むのではないか、というそもそも論的な検討のきっかけになるのではないかと思います。
■ どんな人にオススメ?
・税金は納めるのが当たり前だと思う人。
■ 関連しそうな本
南 学, 上山 信一 『横浜市改革エンジン フル稼動 中田市政の戦略と発想』 2005年04月13日
田村 明 『都市ヨコハマをつくる―実践的まちづくり手法』 2005年07月27日
田村 明 『まちづくりの実践』 38562
井之上パブリックリレーションズ (著), 井之上 喬 (編集) 『入門 パブリックリレーションズ―双方向コミュニケーションを可能にする新広報戦略』 2006年12月13日
矢島 尚 『PR会社の時代―メディア活用のプロフェッショナル』 2006年11月13日
ポール・A. アージェンティ, ジャニス フォーマン (著), 矢野 充彦 (翻訳) 『コーポレート・コミュニケーションの時代』 2006年10月23日
■ 百夜百マンガ
昔、「笑っていいとも」で、年齢当てクイズなんかをやってましたが、小学生でも背の高い人はいるものです。
ところで、最近の小学生は6年生までランドセルを背負っているものなのでしょうか?
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2007年10月09日
地方崩壊再生の道はあるか
■ 書籍情報
【地方崩壊再生の道はあるか】(#992)
日本経済新聞社
価格: ¥1680 (税込)
日本経済新聞出版社(2007/06)
本書は、日本経済新聞で「分権のデザイン」というタイトルで特集された自治体改革の動きや、夕張市の動向を詳報した「窮迫地方財政」等の記事をもとに、地域再生の方向性について提言しているものです。
プロローグ「都市サービスが止まる日」では、近い将来、地方都市が破綻し、中心市街地への住民の移住策が進められるが、住民が地域の中心築ではなく福祉サービスが手厚い大都市に向かう「逆疎開」の人口移動が加速し、都市部の自治体が破綻する・・・というシミュレーションを紹介しています。
第1章「ドキュメント『夕張破綻』」では、再建計画を策定した夕張市の後藤前市長が、再出馬への周囲の期待にもかかわらず、引退した理由について、「再建計画に沿って自己破産させた観光関連の第三セクター、夕張観光開発が地元信用金庫かr借りていた5千6百万円について、後藤氏は個人保証していた。一括弁済を求められた場合、自信が自己破産する可能性がある」という理由も挙げられると述べています。
また、夕張市が行っていた「一時借入金を用いた会計間での年度をまたがる不適正な会計処理」について、自治体に許された「出納整理期間」を悪用し、「前年度と新年度が混在している二ヶ月の間に、複数会計にわたる前年度の資金不足を新年度の資金で穴埋めし、赤字を単年度の決算では表面化させなかった」と解説しています。
そして、「議会のチェック機能の不全」に加え、「監督者」であるべき道にも明確な戦略はなく、「道と市は自治体としては対等関係にあり、道は市に対し、あくまで助言しかできない」という「原則論」に囚われ続けていたと述べられています。
また、再建計画策定に当たっては、「実際の策定作業に取り組んだのはもちろん市当局だが、道庁が派遣した職員が実務を取り仕切り、実質的な調整を進めたのは総務省と道だった」と述べ、徐々に総務省主導の色が濃くなったと解説しています。
本書では、財政破綻の原因を突き詰めていくと、「強烈な行動力を持ち膨張路線を突き進んだ元市長の故・中田鉄治氏の責任に行き着く」として、「『炭鉱から観光へ』を合言葉に、豊富なアイデアで観光施設を着想。強烈なリーダーシップで大規模な投資を推進し、一時は『全国一のアイデア市長』の名をほしいまま」にし、「同時に、市に膨大な負債を残した人物」であると評するとともに1990年には「ふるさと創生資金」を使って、第1回の国際映画祭を開催し、「同年には、旧自治省から『活力あるまちづくり優良地方公共団体』として自治大臣表彰を受けて」おり、「あるときまでは国にとっての『優等生』だった事実は忘れてはならない」と述べています。
また、仲田氏をめぐる政治情勢については、「政治力があり、構想力もある中田氏に、保革相乗りで産炭地の危機打開を託した」という実情があり、「そこにはチェック機能の不在という落とし穴も潜んでいた」と分析した上で、中田氏がこうした支持基盤の下、「フリーハンドで拡大路線を突き進」み、「前半の3期12年を選挙の審判なしに市長の座を守り続けた」と述べています。著者は、中田市政の24年間の政治構造を、「保革相乗りと中田氏の手腕への過度な期待が、地方自治の『ガバナンス(統治)』を機能しない状態に陥らせた」と分析し、「その意味では、中田氏だけでなく、議会や中田氏に投票した多くの市民の責任を免れない」と述べています。
再建開始後の夕張市政については、「職員の基本給を平均3割減らし、職員数を3年で半減以下にする」という再建計画の枠組みのなか、初年度の退職者は全体の半数に達し、「部長職12人と次長職11人は全員退職し、課長職でも32人のうち29人が去った。市長部局は5部17課30係を7課20係に縮小した」と、市役所の「崩壊」を解説しています。また、医療に関しては、夕張市立病院が診療所と老人保健施設へ縮小されたが、地域医療そのものは残り、「北海道出身で地域医療の第一人者として知られる医師、村上智彦氏の手に委ねられることになった」ことを紹介し、村上氏が、医療法人「夕張希望の杜」を設立し、「市が土地・建物を保有する市立診療所と老健施設の運営を受託」したことを解説しています。
しかし、夕張市の再建計画に関しては、353億円もの赤字を18年かけて解消するという大変厳しいものであり、近隣の市町村の首長からは、「途中で再建計画が頓挫し、国や道からの財政支援を得た上で、周辺市町村と合併し『夕張』は消滅するのではないか」という声も漏れていることも紹介されています。
補論「前代未聞の『自治体再生実験』」では、再建計画では、歳出面では、「全国で最も効率的な水準となるよう徹底した行政のスリム化と事務事業の抜本的な見直しを図る」と強調している一方で、歳入面では、「様々な分野で住民負担の増加を求め」、市税は「法令上の上限の税率を基本とする」と謳い、「入湯税の新設、施設使用量の50%引き上げ、下水道使用料や各種交付手数料の引き上げ、ゴミ処理の有料化」等の負担税を求めていることを解説しています。一方で、この再建計画自体が、「歳出削減と歳入確保に向けた対策をフル活用」したものであり、「想定が少し狂うだけで計画の実現性そのものが崩れかねない」と述べ、「『のりしろ』が小さく、弾力性に乏しい伸びきったゴムのような計画。成功させるためには、ほんの少しのズレすら許されない」として、人口動向などの不確定要素を挙げています。
第2章「改革の荒海のなかで――変わる自治制度」では、三位一体改革について、「国が地方に配分する国庫補助負担金(補助金)を削減し、その分の国税の一部を地方税へと移し(税源移譲)同時に自治体の財源不足を補う地方交付税の見直しを進めること」であると解説し、小泉政権が、「4兆円程度の補助金削減と3兆円程度の税源移譲を実施」したが、「実際には改革に合わせて不要と判断された補助事業が廃止されたため、補助金の削減額は4兆7千億円に上り、期間中に交付税も5兆円減った」と述べています。
また、道州制を巡る議論や東京都心部の政府直轄化案などを受け、「都と区の間で、二十三区の再編を含めた東京の自治のあり方の議論が始まっている」と述べ、その理由として、
(1)都民の生活圏、経済圏と二十三区の区域に大きなずれが生じている。
(2)二十三区間の人口や財政力の格差の問題。
(3)区の権限の小ささの問題。
の3点を挙げた上で、歴史的には、1943年に東条英機内閣の下で、東京府と東京市が廃止されて東京都が誕生した経緯を紹介し、「現在も緊急避難的な戦時体制が続いている」ことを指摘しています。
また、2006年5月に、鳥取県日野町で開催された、「財政危機にあえぐ町村長6人」が集まった「小規模町村破たん回避サミット」を取り上げ、「負け組みの会合」だという影山亨弘町長の言葉を紹介しています。
そして、財政を硬直化させる三大要因として、
・J:一般財源の4割弱を占める人件費。
・F:生活保護などの扶助費
・K:地方債償還などに充てる公債費
の3点を挙げ、「JFK」という言葉を紹介しています。
さらに、自治体の会計制度である公会計について、「明治中期から百年以上、大きな変更はない。その基本は現金の出入りだけの記録集めた税金を行政サービスという形で還元していた自治体にとって、会計制度はこれで十分だった」と述べた上で、この制度では一時借入金や第三セクターも含め負債の全体像は見えないことを指摘し、福岡県福津市や群馬県太田市、大分県臼杵市などでのバランスシート作成の事例を紹介しています。
著者は、日経新聞者が2006年9月に実施した全国調査をもとに、
・全国の市のうち、約1割が地方自治体の事実上の倒産に当たる「財政再建団体」転落への懸念を抱いている。
・その3分の1は3年以内に転落の恐れがあるとしている。
等の結果を紹介しています。
第3章「広がる格差――行政サービス調査から」では、2006年に実施した「行政サービス調査」から、少人数学級、介護保険料等のサービスや負担の格差を取り上げ、県庁所在地の自治体に関して言えば、4分の3が「高サービス・財政悪化型」に分類できると指摘しています。
第4章「自治体再生への挑戦――破綻の連鎖を防ぐ」では、行政コストを切り詰めた分を、子育て世帯の誘致に戦略的に投資し、村の人口と出生率を向上させた長野県下条村や、日本初のPFI刑務所を誘致した山口県美祢市、市役所の仕事のうち民間にできることを外部委託するサービス会社を設立した愛知県高浜市、「ごっくん馬路村」など村を丸ごとブランド化した高知県馬路村等の事例を紹介しています。
また、道州制の議論に関しては、2006年2月に地方制度調査会がまとめた答申のポイントとして、
(1)都道府県を廃止し、全国を10程度に再編した広域ブロックに国の出先機関の機能を統合する。
(2)道や州や地方自治体とする。
(3)道や州の長(知事)や議員は住民の直接選挙で選び、知事は多選を禁止する。
の3点を挙げ、道州制になることによって、
・道路のトラブルが減る
・公立で小中高一貫教育
・警察の捜査がスムーズに
・九州はアジアの基地に
・関西は医薬の拠点に
等の未来図が可能になるとしています。
そして、道州制が政治課題に浮上した背景として、l
・国と地方の二重行政を改称し、行政を大幅にスリム化する必要がある。
・「平成の大合併」で3200あった市町村が1800程度に減り、市町村が力をつけた結果、広域自治体である都道府県の役割が低下した。
等の点を挙げたうえで、今後、道州制の議論を進める上で、
(1)中央省庁の再編案とセットで検討すること
(2)市町村が強くなり、住民が便利になる制度にすること
の2点が大事な点であると述べています。
本書は、自治体の破綻と再生の現在の動きについて、コンパクトに知ることができる一冊です。
■ 個人的な視点から
本書にも登場する夕張市立総合病院の経営を引き継いだ村上智彦さんが格闘する様子は、10月1日にNHKスペシャル「地域の医療はよみがえるか ~夕張からの報告~」で紹介されています。また、それ以前にもETV特集で続けて取り上げられており、全国に切実な「村上ファン」を増やしているのではないかと思います。
■ どんな人にオススメ?
・市役所はつぶれないと思っている人。
■ 関連しそうな本
保母 武彦 『夕張破綻と再生―財政危機から地域を再建するために』 2007年08月08日
松本 武洋 『自治体連続破綻の時代』 2007年01月04日
吉富 有治 『大阪破産』 2006年10月20日
白川 一郎 『自治体破産―再生の鍵は何か』 2006年10月30日
橋本 行史 『自治体破たん・「夕張ショック」の本質―財政論・組織論からみた破たん回避策』
肥沼 位昌 『図解 よくわかる自治体財政のしくみ』
■ 百夜百マンガ
納豆菌は熱湯消毒ができないため、杜氏は納豆を口にすることがないそうです。ということは茨城県人は日本酒作りには向いていないということか?
杜氏さんはイカ納豆やキムチ納豆をつまみにできないかと思うとちょっとかわいそうです。
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2007年09月26日
私のだいじな場所?公共施設の市民運営を考える
■ 書籍情報
【私のだいじな場所?公共施設の市民運営を考える】(#979)
協働→参加のまちづくり市民研究会
価格: ¥1000 (税込)
市民活動情報センター・ハンズオン埼玉
(2005/11)
本書は、「共同→(による)参加のまちづくり市民研究会」(略称「協まち研」)を中心とした「公共施設の市民運営を考える調査プロジェクト」の調査研究報告書です。
第1部「『私』からはじまるみんなの場所」では、「がくどう」の運営に関して、「保護者の困りごと・解決したいことの本質は、夜遅くまで子供を預かってくれる施設やサービス」ではなく、「長時間の仕事や深夜の仕事と子育てが両立できないこと、そして子供の成長や子育てについて気兼ねなく話し合える相手がいないことなのではないだろうか」と述べています。そして、保護者の持つ3つの側面として、
(1)利用者として→課題・困りごとの当事者
(2)ボランティアとして→担い手、参加、参画
(3)運営主体として→スーパーバイザー、共同保育を支える
の3点を挙げた上で、子育てを、「これほど私的な行為はないかもしれない。同時にこれほど社会にとって重要な行為はないのではないか」と述べ、「子育ては『私的行為・プライベート』と『公的行為・パブリック』をつなぐ重要な社会的行為といえるだろう」と語っています。
保育所の「民間委託」の問題に関しては、現在の民間委託問題の論点として、
(1)民間になることで保育士の十分な配置ができるだろうか。
(2)役所運営を維持し続けることで、意思決定の権限を各保育所ごとに持つことができるだろうか。
(3)現場で豊かな保育を作るためには、職員が集団として目標を設定し、共同で作り上げるという営為がなければできない。
(4)無認可の共同保育などではボランティアコーディネートがないとそもそも保育所自体が成立せず、多くの人々が「持ち寄り」で場を作るためのコーディネーターが不可欠だ。
の4点を挙げています。
第2部「円卓のある風景」では、「子どもがつくるまち ミニさくら」(千葉県佐倉市)を紹介する中で、「ミニさくらのきまり」として、
ミ まもること、
ニ んたいすること、
サ しずしないこと、
ク ちだししないこと、
ラ くえん天国!
の5点を挙げた上で、「人が自ら学ぶとき、時間はゆったりと流れる。何度も同じところでつまずくものである。それを否定せず、そのループをじっと見守りながら何かが生まれるのを『待つ』のが、ミニさくらを支える大人に要求される忍耐である」と述べ、「失敗から学ぶ権利」が保障されている中で、「既存の社会の枠組みに囚われた大人が予想もしない展開が待っているのかもしれない」と語っています。
また、「六町エコ・プチテラス」(東京都足立区)に関して、「縄張り意識」が強すぎると、「仲間意識が過剰になり『よそ者』を受け入れない排他的で閉鎖的な空間になってしまい、公共性が失われていく」という問題点を挙げ、「『具体的な環境活動のフィールド』として、そのプロセスや成果を外部に積極的に開き、外部からの訪問者を受け入れていく風通しの良さが必要」だと述べ、「全く異なるベクトルを持つパワーの引き合いが、ブンブン・ゴマ(大きなボタンに紐を通して中央で回転させて遊ぶ道具)のように猛烈なエネルギーをつくり出す」と解説し、「複数の人間がコミュニケーションをとりながら、合意形成をしていく場や機会」として、
(1)円卓テーブルの謎
(2)インターネット・ミニコミ誌の活用
(3)さまざまなイベント
の3つの方法によって、この「絶妙なバランス」を維持していると述べています。
横浜市の舞岡公園の緑地管理に関しては、「横浜では緑地の多くが、私有地、もしくは緑地保全地区などの制度の下に置かれている民有地」であり、「言い換えれば、非常に公共性の高い緑地しか横浜には残されていないということで、市民が横浜の緑地へ関わる時、あまねく『公設民営』的な性格を帯びる」と述べています。
第3部「人が育む場所、場所が育む人」では、公共文化施設に関して、「市民と文化芸術の良好な関係を築いていくためには、すべての人々が文化芸術に出会い、触れるなど参加する機会を設けることが重要」であり、そのため、「日常生活の領域、つまり学校や公民間、病院といった場所に出かけていき、多くの市民が芸術文化に触れられる仕組みを作ることが求められてくる」という背景から、もともと「手を伸ばすこと、(地域社会への)奉仕活動、地域出張サービス」を意味する「アウトリーチ」という取組みが登場したことを解説し、
(1)呼び込み型アウトリーチ:「バックステージツアー」など文化施設と市民の距離をより近くする取組み
(2)お届け型アウトリーチ:「出前コンサート」のように、文化施設から外へ出て行き、市民の生活している場で文化芸術活動を行う
(3)バリアフリー型アウトリーチ:障がい者やマタニティ、育児支援などホールへのアクセスが他者に比べて難しい人々に焦点を限定した内容のもの
の3点を挙げた吉本光宏氏による整理を紹介しています。
高知こどもの図書館に関しては、「これまでの図書館は、公共施設の中でも一番閉鎖的だったのではないか。美術館や博物館はまだ多くの人が訪れるし、利用料ももらう場合が多いけど、図書館は無料だし、図書館の側でも来る人を待っていればいい、と思ってたのではないですかね」という「特定非営利活動法人 高知こどもの図書館」の大原館長の言葉を紹介しています。そして、大原さんたちが自力で図書館を作る方向に踏み切った背景として、「テレビやビデオに遊びを奪われている。遊べない子供たちも増えている。若い親も遊び方を知らない。子供たちの居場所づくりは緊急の課題だ」という「こどもたちの今の状況への危機感があった」と述べています。
第4部「まちの未来の描き方」では、「市民と行政組織の壁」として、「多くの行政組織の職員は公共施設を市民のものと思っていない。自分たち=行政組織のものであると考えている」という「行政組織が管理する施設」という考えを紹介し、「市民の持つ、公共施設に対しての『思い』や『目的』と、行政組織が公共施設について持つ『考え』と『目的』は、同じ『公共施設』に対するものでも全く異なる」と、「こちら(市民)」と「あちら(行政組織)」の間に存在する「深刻な壁」について言及しています。そして、「施設自体を市民が自ら運営する『市民運営』そのもの」について、「施設を市民運営することが、市民の生活問題を解決するためにもっとも効果的であることが多いという点から正当化される」と述べ、その意義として、
(1)市民運営により市民の側の問題解決の可能性が高まる
(2)問題解決を直接行う者が公共施設を運営することにより、公共施設の持つ能力を最も発揮できる
(3)今の公務員が管理するよりコストが安く運営ができ、問題解決の可能性が高まる
の3点を挙げています。
本書は、「公共」の施設とは何か、という問題について、答を提供するものではありませんが、考えるきっかけを与えてくれる一冊です。
■ 個人的な視点から
「公=官」ではない、という話は、学者や首長さんが口にする機会は多くなりましたが、本書のように、実際に「公」の典型である公共施設の管理に携わっている現場の人が語ったものは、やはり説得力があります。
■ どんな人にオススメ?
・「公」とは何かを考えたい人。
■ 関連しそうな本
稲沢 克祐 『自治体の市場化テスト』 2007年04月03日
市場化テスト研究会 (著), 本間 正明(監修・著) 『概説市場化テスト―官民競争時代の到来』 2005年10月07日
内閣府公共サービス改革推進室 『よくわかる!公共サービス改革法(市場化テスト法)入門』 2006年10月05日
内閣府公共サービス改革推進室 『詳解 公共サービス改革法―Q&A「市場化テスト」』 2006年12月04日
南 学, 小島 卓弥 編著 『地方自治体の2007年問題-大量退職時代のアウトソーシング・市場化テスト-』 2005年08月22日
八代 尚宏 (編集) 『「官製市場」改革』 2006年01月27日
■ 百夜百マンガ
塀内真人や島崎譲、さとうふみやにしてもそうですが、ある時期の少年マガジンは、半分くらいの作品が男性名を名乗った女性漫画家の作品だったわけです。つまり、少年誌(と言っても読者は大人が多いわけですが)の読者は、女性漫画家の作品に対するアレルギーがあったようです。
一方で、女性名を名乗って少女漫画を描いている男性マンガ家、というのはいるものなんでしょうか。
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2007年09月21日
NPM実務の考え方・進め方―効率的・効果的な政策形成・実施・評価改善
■ 書籍情報
【NPM実務の考え方・進め方―効率的・効果的な政策形成・実施・評価改善】(#974)
福山 嗣朗
価格: ¥3,360 (税込)
学陽書房(2006/12)
本書は、「新公共経営(New Public Management, NPM)の考え方を活用した効率的・効果的な行財政の運営の具体的な薦め方の全体像を体系的に解説するテキスト」です。著者は、元自治省の官僚で、滋賀県庁で課長、静岡県庁で部長等を経験し、国と県の両方の豊富な実務経験をベースにしています。著者は、本書の最大の特色として、「NPMの考え方を活用した効率的・効果的な行財政の運営の具体的な進め方の全体像について、現実の実務の過程を念頭におきながら、体系的に解説していること」にあるとしています。
第1編「行財政運営の基本的な考え方」第1章「行政の第一義的目的・運営目標」では、国家公務員法、地方自治法、地方公務員法にあるように、「国と地方公共団体の行政の民主的かつ能率的な運営の確保を図ることが必要」であることを踏まえた行政の運営目標を、「行政の効率性・有効性の一層の向上、職員の能力の開発・伸長を含む自己実現および国民の力の活用水準の一層の向上」であると述べています。
第2章「今後の行政運営システムの基本方向」では、新しい行政運営システムの理念系の考え方として、
(1)戦略面では、国民・住民を公共サービスの顧客と見た、その福祉の増進に資する成果の重視(成果思考)が特徴。
(2)内部マネジメント面では、伝統的な行政管理の利点は維持した上で、献身的に目標達成に尽くすかどうかは、自己実現の欲求充足にかかっているという人間観を理念として採用する。
(3)外部マネジメント面では、国民・住民の参加・共同の促進を図る。
の3点を挙げています。
第3章「NPMの考え方の導入・推進」では、「新公共経営」(NPM)を、「公共部門においても企業経営的な手法を導入し、より効率的で質の高い行政サービスの提供を目指すという革新的な行財政の運営(行政経営)の考え方」であると定義しています。
また、そのシステムのポイントとしては、「明確で測定可能な目標をもった戦略計画に従って、予算編成、組織管理、人的資源管理等が行われ、その結果が定期的に評価されて、時期の戦略計画にフィードバックされる」という「戦略経営の推進」を挙げています。
第2編「全庁的な行財政運営(方針管理)の進め方」第2章「総合計画の策定(政策形成)」では、「戦略計画としての位置づけを持つ総合計画を中心に展開される」NPMが実効性を持つかどうかが、「行政の効率性・有効性の一層の向上等という運営目標の達成を図る上で重要な鍵を握る」とした上で、総合計画の策定手順をかなり具体的に例を挙げて解説しています。
また、NPMの考え方に基づく予算編成が、「戦略計画で設定した数値目標に基づいて予算に盛り込まれた政策の効果を評価するという簡単な手法」であり、その内容として、
(1)計画・予算・業績評価の連結を図るもの
(2)公会計改革の手法の活用を図るもの
(3)全庁的なコスト意識の一層の向上を図るもの
の3点を挙げています。
第3章「実施」では、「NPMの考え方の下における権限の分散化」の手法として、総合計画で明らかにされた目標達成に各職員の自発的な貢献意欲を引き出すため、「トップ・マネジメント層と核管理監督者との間で達成すべき任務目的・目標とそのために必要な行政資源の配分、権限の移譲等について協議し、約束を行う手法」である、「目標達成・資源配分等に係る契約概念の導入」を挙げています。
また、給与管理に関しては、NPMが、「有意義な目標を達成することを通じて職員に自己実現の喜びをもたらし、行政の効率性・有効性の一層の向上を図ることに本来の趣旨がある」ため業績を挙げた職員に評価されている実感を持たせるために給与上の処遇に差をつけることも必要であるが、「成果主義を給与上の処遇に短絡的に導入して本来の趣旨が損なわれることのないように注意することも求められる」と述べ、「内発的動機づけの理論を勘案すると、給与上の処遇と業績をあまりに直接に連動させれば、仕事それ自体の面白さや楽しさを職員から奪い、かえって成果の向上が図れなくなる恐れがある」と解説しています。
さらに事務の見直しの具体的手法として、
(1)QC(Quality Control, 品質管理)
(2)VA(Value Analysis)・VE(Value Engineering)
(3)ABC(Activity-Based Costing, 活動基準原価計算)
等の手法を挙げ、解説しています。
著者は、NPMの特徴である、事務事業の執行への市場メカニズム活用について、
(1)広義の民営化・・・公的企業の民営化、民間委託・バウチャー制度
(2)市場化テスト
(3)独立行政法人化(エイジェンシー化)
(4)PFI
等の手法を挙げて解説しています。中でも、民間委託に関しては、静岡県を筆頭にした「総務事務のアウトソーシング」について、詳しく解説しています。
また、公共工事の新たな契約方式として、「工事発注者と契約した建設技術者等がコンストラクション・マネジャー(CMr)となり、建設プロジェクト全体を管理する方式」である「CM(Construction Management)」を取り上げています。
第4章「評価・改善」では、「評価・改善」を合わせて「統制」と呼び、「計画の標準に対し達成度合を測定し、計画に従って目標が達成されるように、計画からの逸脱を是正すること」であると述べています。
そして、行政内部における評価・改善の他、
・国会や地方議会による行政統制
・裁判所による行政統制
・国民・住民による行政統制
等について解説しています。
第3編「職場の行財政運営(日常管理)の進め方」第1章「職場の行財政運営(日常業務)の考え方」では、「非効率な行政運営システム」の下では、目標が明確に設定されないのに対し、NPMは、「何をどれだけやるかを評価可能な程度に客観的に示す目標を明確にすることを重視する」とのべ、その効用として、
・仕事の生産性を高め、質を改善することができること。
・目標設定の際に、重点事項の選択がより効果的にできるようになり、効果の薄い施策、事務事業のスクラップが行いやすくなること。
等を挙げています。
第3章「実施」では、自己啓発の学習のコツとして、
(1)担当する事務に必要な箇所、関連があると思われる箇所等をマークしながら、とりあえず目を通すこと。
(2)朝起きてすぐの1時間、夜寝る前の1時間、通勤時間等の短い時間を無駄にせず、こまめに活用すること。
(3)最初に学習してからおおむね1週間後に1度目の復習をし、さらに2週間後に2度目の復習、さらに1ヵ月後に3度目の復習をすることで、脳が短期記憶を長期記憶にして保持する仕組みを踏まえる。
の3点を例示しています。
また、国会・議会への対応として、本会議の答弁に当たり、
(1)現在行っていることを特に尋ねられた場合以外は、当局として正式に決定した今後の方針(目標・方策等)を答える。
(2)答弁の骨格は、質問に即して組み立てる。
(3)答弁で使用する文章と用語は、できる限り法律、条令、総合計画、長の公式発言、議会の答弁等において使用され、公式にオーソライズされた表現を用いる。
等の留意点を示しています。
さらに、上司のタイプによって、「読むタイプ」の上司には、「できる限り情報の揃った文書により報告」し、「聞くタイプ」の上司には、「説明資料は簡単なものにとどめ、詳しくは口頭で説明」するなどのコツを伝授しています。
本書は、役所で生きていこうとする人にとっては、役に立つ一冊です。
■ 個人的な視点から
本書のタイトルは、『NPM実務の考え方・進め方』ですが、どちらかというと、『NPMの考え方・実務の進め方』という感じです。「NPMの考え方」のテキストとしてはよくまとまっていますし、「実務の進め方」としてはさまざまなノウハウが詰まっています。
ただし、自治官僚の悲しいところか、テキストとしての性格上か、法律で定めた「あるべき姿」をベースにして「実務」を論じているところが残念です。
■ どんな人にオススメ?
・NPMの理想と実務の乖離を目の当たりにしたい人。
■ 関連しそうな本
大住莊四郎 『ニュ-・パブリック・マネジメント 理念・ビジョン・戦略』 2005年01月23日
大住 荘四郎 『パブリック・マネジメント―戦略行政への理論と実践』 2005年05月06日
Ewan Ferlie, Lynn Ashburner, Louise Fitzgerald, Andrew Pettigrew 『The New Public Management in Action』
南 学, 小島 卓弥 編著 『地方自治体の2007年問題-大量退職時代のアウトソーシング・市場化テスト-』 2005年08月22日
南 学 (編著) 『行政経営革命―「自治体ABC」によるコスト把握』
野田 由美子 『民営化の戦略と手法―PFIからPPPへ』 2006年01月30日
■ 百夜百マンガ
小学校のドッジボールブームを巻き起こした作品。
子供向け漫画はあたるとでかいのです。
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2007年09月14日
黒川和美の地域激論―日本の問題、地方の課題
■ 書籍情報
【黒川和美の地域激論―日本の問題、地方の課題】(#967)
黒川 和美
価格: ¥1800 (税込)
ぎょうせい(2002/09)
本書は、日本の問題、特に地域が抱える問題を中心に、公共選択論の第一人者である著者が鋭く切り込んだ一冊です。全13章が同じくらいの分量で収まっていることから、おそらく何かの雑誌への連載をもとにしたものではないかと推測されます。
第1章「日本の問題、地方の課題」では、経済の運営原理として、「規制緩和、競争導入、自己責任、情報公開といった市場原理に基づくもので、小さな政府が求められている」背景として、国の財政破綻とそれに導かれる、「将来の大増税」と「公共サービスの市場原理に基づく供給」(NPM)が存在していると述べています。
また、改革の方向として、「地方自治体の自治意識を高めることを結果的に阻害していた地方交付税制度の改善」を挙げ、国による補助事業ベースの公共事業を縮小し、地方自治体ベースの「コミュニティ型公共事業」を増やすことを主張しています。
そして、国の仕事は、「垂直的所得の再分配や、国防や外交」など、「極めて限定」されたものになると述べています。
さらに、公務員に求められる能力と役割して、
(1)起業能力とその事業の先行きを見通すことができる能力
(2)評価する能力・・・コントラクト・マネジャーの時代
の2点を挙げています。
第2章「国の仕事をなくしてしまおう!」では、「今の国は債務返済機関として存在している状況」であると述べ、「弱い自治体が残ることで、財政調整役としての国の責任が顕著になり、政府や国会の存在理由を確保している」が、「自治体が強くなればますます国は要らない」と主張しています。
第3章「どうなる税の配分」では、地方への新たな税源を考慮することが、「公共部門にとって推し量ることができないほど大きな痛みを伴なう」として、
・交付税制度の廃止
・すべての消費税は地方の財源になって新たな地域間の再配分を考える
・責任能力のある地方自治体を生み出すのに必要な広域連携の工夫が必要になる
というシナリオを語っています。
第4章「地方財政という概念がなくなる?」では、日本と諸外国の間における、公共投資の支払いに対する考え方の違いとして、
・日本:建設国債による投資といった長期耐久消費財への支出という観念がある。
・諸外国:キャピタルイクスペンディチュアが中心となっており、長期間のサービスも単年度ごとの経常的な支出として計上される。そのため、PFIのように、単年度ごとに支払う形での公共サービスが確立されやすい。
という対比を行っています。
第6章「不景気にうろたえるな」では、「環境への配慮や化石燃料の枯渇、人々の健康や高齢化社会における交通弱者対策を考慮しない限り、地域の経済は存立できなくなっている」と指摘し、「歩く」「サイクリングする」ことを魅力的にする街づくりが、求められていると述べています。
また、既成市街地の空洞化過程を、
(1)自動車社会の進行による中心市街地の商業不振
(2)鉄道利用者の相対的減少と自動車通勤の増加
(3)既成市街地内への自動車アクセスの向上努力
(4)駅にアクセスするバス等の採算悪化と利便性減少による自動車利用の一層の促進
(5)駅前周辺のアクセス減少と道路混雑
(6)道路の拡幅とバイパス整備
(7)沿道への大型商業施設の建設と週末・大量消費型ライフスタイル
(8)全国展開の大型商業施設の増加と家業型商業の衰退
(9)商店街の居住者の郊外移転
の形で模式化しています。
第8章「さらば『公共事業』」では、基礎的自治体の財源確保の方法が、「世界の先進国に習って固定資産税(都市計画税を含む)あるいは『新事業手法』といわれる制度が中心にならなければならない」として、
・TIF(Tax Increment Financing)方式
・PFI(Private Finance Initiative)方式
などの「マーケット依存型」手法が主流にならざるを得ないと述べています。
第9章「共通利益意識のない社会資本は滅ぶ」では、河川事業に関して、河川がもともと「コモン・キャリア(common carrier)」として、「道や海と同様に多くの人々が運送や移動に自由入用できる概念を提供」してきたが、その整備・管理の負担が特定の地域に担われることで、「その管理形態から利用の仕方について一定の権利を主張しようとし始めると『便利に』あるいは『効果的に』管理するつもりであった河川の流域が、人々にとっては不都合な非効率な活用しかできなくなってしまう」ことを指摘しています。
第10章「『都市』か『農村』か」では、日本の「都市計画」制度を、「公共選択論のアプローチ自主的秩序論・ポリセントリシティ(Polycentricity)論」で評価すると、「都市計画制度を支える中心ツールは都市地域における土地利用の誘導・規制である」と述べています。
そして、「深刻な問題を提起する3つのエリア」として、
・エリア1:都市計画制度で想定された住宅地、商業地、業務地、工業用地といったゾーニングが、それぞれの用途の土地利用を促進する社会資本整備と一体となって相互のスムーズな土地利用ができるための相隣関係を重視した、つまり外部経済を高める、機能の集中と分散を意識的に形作った土地利用計画
・エリア2:第2次産業全盛期、日本の経済活動の拠点とみなされていたウォーターフロントに面しての港湾地域に隣接する大規模な協業地域
・エリア3:都市計画区域と農業農村環境整備の両方が含まれ、従来「未線引き白地」といわれた都市計画区域外の、かつ、農業振興地域から外れた、かつては最も美しい自然環境を提供してくれていた里山とか雑木林のエリア
の3つのエリアについて解説しています。
また、アメリカやヨーロッパでは、「大都市のセンターコアにインテリジェントビルやスマートビルを建設し金融の拠点づくりをする一方で、小規模なオフィスを山の中やウォーターフロントに建設」することで、「働き手が自然環境の中で能力を発揮してもらおうという動き」があるのに対し、「日本では依然としてITで装備された情報通信関連事業者が、美しい緑や水に囲まれたところで仕事をするコンセプトは生まれていない」と述べています。
第12章「土地神話の次にくるもの」では、地価が「あるべき水準、賃料からみて合理的」な「収益還元地価」に向かっていると予想しています。
また、「土地と建物が分離されて設定」されている日本の不動産概念に関して、「欧米先進国では、不動産とは土地と建物が一体になったもの」であり、「土地を保有しているだけ」という行動様式は概念として存在せず、「建物の価値がなくなれば不動産としての土地の価値はなくなる」と述べています。そして、「保有しているだけでは価値は生み出されない」という価値観にあった税体系の導入を主張しています。
第13章「農家はなくなる、農業はなくしてはならない」では、農村や農業が、「中山間地域」といわれる条件不利地域と大都市郊外の開発の波という「両面からの変化の波」にはさまれているだけではなく、農業という産業自体が、「大規模型アメリカ型農業の産物」と「アジア労働集約型農業地域の産物」にはさまれ、WTOの自由貿易ルールを課されることで「逃げ道が閉ざされている」と指摘しています。
著者は、「農村においてネットワークの高度化が進み、IT技術が活かされて、情報機器を十分に使いこなすことができるのであれば、土地も安く、生活もしやすく、自由な時間を多く使え、あるいはテレワークやテレコミューティングを利用して仕事以外に資源を集中して、魅力的な生活を獲得することができる」と述べ、「オフィスワークを農村で行うことが十分可能であり、都心と比較して大きなメリットもあり、デメリットと比較して移転を考慮する可能性もある」と主張し、「農村こそ21世紀ニューライフスタイル革命の拠点である」と述べています。
そして、「地域再生の主要評価基準」として、
・イギリスの地域再生プログラム:雇用の創出問題
・アメリカSBA(中小企業庁)のエンパワーメントゾーン確立型地域再生策:福祉、教育、金融、道路などの都市基盤整備の複合型計画
の例を挙げた上で、「日本で必要な数値目標」として、
(1)若者の居住増加
(2)新規雇用を生み出す産業の誘致や創出
(3)一時滞在者、観光客などの増加
(4)女性や高齢者の雇用創出
(5)地域所得の拡大
(6)地域内の新規事業の起業数
の6点を挙げています。
著者は、「都心地域では自然を取り込むコストが高く、農村地域では都市機能を取り込むコストが高い」ため、中間の郊外型地域で地価の高い地域が、「理想的な都市機能と自然環境のミックス」である「庭園都市」として自立できているのではないかと述べ、「国土はゼロサムゲームで地域間競争に入っていく。競争のテーマは庭園都市国家にふさわしい庭園空間形成になるはずだ」と主張しています。
本書は、21世紀の地域のあり方をザックリと斬った、切れ味鋭い一冊です。
■ 個人的な視点から
先月、黒川教授の御講演を聴く機会があり、切れ味鋭いお話し振りに惹かれて本書を入手してしまいました。それまでは公共選択論の入門書の著者、というイメージを持っていましたが、まちづくりへの鋭い視点は本書で堪能することができました。
ちなみに、知人の高校の同級生のお父さんだそうです。世間は狭いものです。
■ どんな人にオススメ?
・地域を見通す視点がほしい人。
■ 関連しそうな本
加藤 寛 『入門公共選択―政治の経済学』 2005年03月13日
小林 良彰 『公共選択』 2005年04月15日
アレンド レイプハルト (著), 粕谷 祐子 (翻訳) 『民主主義対民主主義―多数決型とコンセンサス型の36ヶ国比較研究』 2006年02月20日
佐々木 毅 『政治学講義』 2005年03月11日
Eジャパン協議会 (編集) 『eコミュニティが変える日本の未来―地域活性化とNPO』 2005年5月16日
倉沢 進, 秋元 律郎 『町内会と地域集団』 2007年04月20日
■ 百夜百マンガ
どうしてもサッカーマンガの印象が強い人ですが、もともとは、塀内真人時代にも登山ものを描いてました。
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2007年08月17日
自治体改革と地方債制度―マーケットとの協働
■ 書籍情報
【自治体改革と地方債制度―マーケットとの協働】(#939)
稲生 信男
価格: ¥2,940 (税込)
学陽書房(2003/11)
本書は、「自治体経営と資金調達制度(地方債制度)の両者を有機的に、いいかえれば一つの『システム』ととらえることをめざし」、
(1)自治体の資金調達システムをどのように考えるべきか、という切り口。
(2)地方債の発行・流通市場や経営危機の場面での再生制度について、市場や投資家の側の視点を重視して論じている。
(3)米国の地方制度と地方債市場の動向を分析し、日本で米国の制度や手法を導入あるいは応用できるのか、という観点からも論じている。
の3点を柱にしたものです。
第1章「自治体改革に求められるもの」では、自治体を改革するために求められる視点として、「国からの財政移転には限界が見え始めている以上、資金調達の原点である、『市場』、つまり投資家からの、コストのついた資金導入の原則に立ち返るしかない。それは、地方債制度を、単なる財政の一部としての資金調達制度ではなく、『自治体の資金調達システム』と捉えなおす点にある」と述べ、「自治体の新しい資金調達システムの構築が次なる重要課題」であると述べています。
また、強調しておきたい点として、本書が、「市場原理をすべての解決の特効薬と位置づけるわけでもないし、市場原理による自治体の淘汰を目指すものではない」と述べています。
第2章「自治体経営の新潮流」では、ある機関投資家の債券投資担当者の話から、「市場の視点から自治体経営のあり方を考える、いくつかの重要な示唆」として、
(1)自治体の財源保証制度の今後に不透明感が増している
(2)政策目標の明確化と住民ニーズとの対応
(3)公会計など経営の観点の重要性
(4)投資家の自己責任原則の前提となる情報開示
の4点を挙げています。
そして、「1980年代半ば以降、英国名ニュージーランドなどの諸国で形成された行政部門の経営理論」である「NPM論」の中心的コンセプトとして、
(1)業績と成果による統制
(2)市場メカニズムの活用(市場による統制)
(3)顧客主義への転換
(4)ヒエラルキーの簡素化
の4点を挙げています。
第3章「地方債の発行市場」では、現在の地方債制度を構成する要素として、
(1)地方債は自治体が負担する債務であること
(2)資金調達、つまり原則的には資金の移動を伴なう形によって負担する債務であること
(3)証書借入または証券発行の形式を有すること
(4)自治体の課税権および地方交付税法に基づき地方交付税を受ける権利を実質的な担保とした債務であること
(5)債務の履行が一会計年度を越えて行われること
の5点を特徴として挙げています。
そして、その発行状況について、「傾向としては市場からの公募へと、資金調達がシフトしつつある」と指摘しています。
また、「これまでのような、地方債を引き受けてもらう代わりに公金預金をしたり財務関連の事務を依頼するという自治体と金融機関の密接な関係は崩れつつある」として、「金融機関の体力低下もあることから自治体との関係見直しは今後も進められる」と推測しています。
さらに、市場公募地方債に関して、「これまで国(総務省)が、統一して銀行や証券会社の代表と毎月交渉し、地方債の利率などの発行条件を決定してきた」方式である「統一条件決定方式」から、利率や価格などの発行条件について、発行団体の「発行規模や財政力の差などが必ずしも反映されていない」という指摘を受け、2002年4月から暫定的に、「東京都とそれ以外の27団体の発行条件を別個に決める」方式である「2テーブル方式(テーブル方式)」が導入され、最終的な目標は、「個々の自治体が引受けを行う金融機関と直接交渉する」方式である「個別条件決定方式」に置かれていることを解説しています。
この他、共同発行市場公募地方債に関して、地方債協会の「地方債に関する調査研究委員会」による、共同発行のメリットとして、
(1)発行コストの低減(発行ロットの大型化による流動性の向上、スケールメリットによるファンダメンタルズの改善、連帯債務による信頼感の向上)
(2)市場の評価に対するセーフティネットの形成
(3)地方債市場全体のベンチマーク債としての機能の発揮
の3点を紹介しています。
第4章「地方債の流通市場」では、債権投資において、一般的に挙げられるリスクとして、
(1)元利払いリスク(信用リスク)
(2)金利変動リスク(価格変動リスク)
(3)流動性リスク
(4)為替リスク
の4点を挙げています。
そして、わが国の国債市場の流動性が低いとされる背景として、
(1)税制:利子所得の所得税にかかる源泉徴収税等
(2)会計制度:時価会計の導入の遅れ
(3)発行市場の問題:10年物国際への集中、一銘柄ごとの発行量が少ない
(4)決済インフラ
(5)保有構造:公的部門のウェイトが高い、非居住者のウェイトが低い
の5点を挙げています。
第5章「米国地方債発行・流通市場の概要」では、「米国の地方債市場の現状について、発行市場と流通市場とに分けて」論じるとして、その発行形態を、
(1)償還までの期間
(2)課税の有無(課税債か免税債か)
(3)返済原資(償還財源として充当されるキャッシュフローの範囲・・・一般財源保証債とレベニュー債)
の3点によって分類しています。
さらに、米国地方債の代表的リスクとして、
(1)クレジットリスク
(2)課税リスク
(3)繰上償還リスク
(4)ボラティリティ・リスク(変動リスク)
の4つのリスクについて解説しています。
第6章「自治体財政の危機管理と再生制度」では、自治体債権の再建として、地方財政再建促進特別措置法による再建について、自治体が措置法に基づいて申請すると、
(1)総務大臣が再建の基準となる日を指定
(2)自治体が財政再建計画を策定し総務大臣に承認申請
(3)総務大臣が計画を承認
(4)再建計画に基づく予算を策定
の手続で再建が進められ、「国の管理下におかれるために、予算編成権をはじめ、首長や地方議会の主体性が失われ、国に委ねる形となる」と述べられています。
そして、自治体の経営破たんに関して、「現在のところ経営が完全に破綻し、債務不履行を生じることは予定しない制度・システムとなっている」理由として、「公法人は破産しないと言う、日本の破産制度に内在する理念とでもいうべき破産能力限界論も影響している」と解説したうえで、地方債の信用力に関する問題点として、
(1)政府保証ではないこと。
(2)起債に関して許可制度から協議制度に移行する点。
(3)地方交付税制度の改革
の3点を指摘しています。
本書は、地方債制度について、マーケットとの関係という視点から解説した一冊です。
■ 個人的な視点から
三位一体改革(補助金、交付税、税源)の3点に合わせて、地方分権改革のキーを握ると言われている地方債ですが、比較的地味な分野だったこともあり、これまであまり書籍類も出ていませんでしたが、三位一体改革と夕張市の破綻をきっかけに続々と面白いものが出てくるようになったと感じます。
■ どんな人にオススメ?
・地方債は地味な分野だと思っている人。
■ 関連しそうな本
加藤 三郎 『政府資金と地方債―歴史と現状』 2007年04月10日
平嶋 彰英, 植田 浩 『地方債』 2006年12月14日
白川 一郎 『自治体破産―再生の鍵は何か』 2006年10月30日
持田 信樹 『地方分権と財政調整制度―改革の国際的潮流』 2007年03月14日
持田 信樹 『地方分権の財政学―原点からの再構築』 2007年03月15日
赤井 伸郎, 山下 耕治, 佐藤 主光 『地方交付税の経済学―理論・実証に基づく改革』 2005年01月27日
■ 百夜百マンガ
さまざまなマンガ家との合作の中でも、やっぱり見ものは、ゴルゴ13のさいとう・たかをでしょうか。道楽BOXの方は、19800だそうです。マニア心をくすぐります。
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2007年08月08日
夕張破綻と再生―財政危機から地域を再建するために
■ 書籍情報
【夕張破綻と再生―財政危機から地域を再建するために】(#930)
保母 武彦
価格: ¥1500 (税込)
自治体研究社(2007/02)
本書は、「財政破たんの第一号」となった北海道夕張市を取り上げ、「夕張市の財政は、なぜ破たんしたのか」、「夕張は、これからどうなるのか」について、「同じような事情を抱えた全国の地方自治体」があるなか、「夕張問題は、夕張の問題であるが、夕張だけの問題ではない」として、「夕張を、国の自治体解体モデルにしてしまうか、それとも地方財政破たん地域の民主的再生モデルとするか」の選択が問われていると問いかけているものです。
第1章「夕張問題とは何か」では、マスコミや一部の学者を使った「夕張たたき(バッシング)」キャンペーンについて、
(1)夕張市の過大な観光開発を材料にした放漫な財政運営、「ヤミ起債」と赤字隠しの財政運営に対する批判が中心であった。
(2)「財政再建計画の基本的枠組み案」に見られる住民負担と行政サービス削減の厳しさが中心的内容となった。
の2段階であると述べています。
そして、夕張市の財政破たんの要因として、
(1)炭鉱閉山後の処理負担
(2)観光・リゾート開発とその後の費用負担
(3)国の行政改革の地方(夕張市)への転嫁
の3点を挙げています。
そして、いわゆる「ヤミ起債問題」について、「北海道空知地域の旧産炭地に対する対策の中で北海道庁トップ層もかかわって行われた起債の引き受けであった」として、「政府と北海道庁の責任が決して小さくないことは、この旧産炭地対策の経緯を見れば明らかである」と指摘しています。
著者は、「政府が推進してきた市場原理主義に基づく『競争的な経済システム』形成の中で、財政破たんに至った最初の犠牲が夕張である」と述べ、夕張問題を、「全国各地の地域社会と地方自治の将来に重要な影響を与える可能性がある」問題であると主張しています。
第2章「夕張市財政の現状と『破綻』の主な要因」では、平成18年11月14日に示された「財政再建の枠組み案」に関する問題点として、
(1)財政再建計画とは言うものの、歳入・歳出の骨格、収支計画の概要さえ示されていない。
(2)住民に耐え難い痛みを強制することにより、大規模な人口流出を招きかねず、計画の前提そのものが崩壊しかねない。
(3)広域自治体として夕張を支援すべき立場にある道の対応の問題がある。
の3点を挙げています。
また、北海道が、「道の市町村行政の中で、産炭地とくに夕張財政問題は、歴代の部長、室長、市町村課長にとって重要課題であり、その困窮度ややりくりの苦境ぶりを道庁は十分に知っていたと考える方が自然で」あり、「不適切な財務手法についても、『財務調査』等を通じて道は十分に知りうる立場にあったことを指摘せざるを得ない」と指摘しています。
さらに、財政破たんの主たる要因として、
(1)膨大な閉山跡処理対策費:住宅・水道など社会基盤整備に583億円
(2)リゾート開発の破綻と跡処理
(3)三位一体改革と交付税削減
の3点を挙げ、「夕張市の財政破たんの原因は、国策による基幹産業の崩壊とその後の跡処理対策およびリゾート開発が自治体財政に過大な負担を強いたこと、さらには政府による『構造改革』政策が夕張市財政を直撃したこと」であるとした上で、
(1)閉山対策と石炭資本の社会的な責任、さらに夕張の土地問題
(2)典型的企業城下町だった夕張市の再生、社会基盤整備と国・道の責任問題
の2点を補足し、「国際水準の価値評価が高い石炭博物館を道立博物館として整備・管理することもなかった」と指摘しています。
第3章「夕張市の財政運営に問題はなかったか」では、「ヤミ起債」問題について、「副知事も加わる理事会」で運営規程を改訂して運用したものであり、「地方行財政を指導すべき道企画振興部の市町村課は『この5月まで知らなかった』という」が、「市町村行政を指導監督している部課が、自ら一番困難かつ重要課題の産炭地財政にかかわる問題を『知らなかった』ですむ問題ではない」と糾弾しています。
第4章「夕張市の再生のために(提言)」では、「夕張市再生のために必要な再生の考え方および再生の課題と方法について」として、「日常生活を保障する社会サービスの緊急確保」や「北海道庁による補完、代行」等を提言しています。
補論「夕張問題と地方財政『改革』・『自治体再生法制』」では、ビジョン懇報告や「新しい地方財政再生制度」研究会、総務省の検討の方向性に関する「重要な問題」として、
(1)「護送船団方式により形成された『国が何とかしてくれる』という神話が、財政規律の緩みにつながってきた面を否定できない」といった地方財政の現状認識そのもの。
(2)「新しい再建法制」が国による自治体財政の新たな統制強化につながる。
(3)民主的正当性をもたない第三者機関を活用することは地方自治と民主主義の観点からも問題が大きい。
(4)自治体が市場からの監視にさらされ、銀行が自治体の生殺与奪権を握ることになりかねない債務調整の導入問題。
(5)「新しい自治体再建法制」の導入が、地方債の完全自由化と交付税措置廃止、交付税の財源保障機能の放棄などの地方行財政制度の抜本改革とセットで進められた場合、地方の自由度を高めるかわりに自己責任を負わせ、能力のある自治体のみが市場で資金調達できるようにする方向性が前提となること。
の5点を指摘しています。
本書は、自治体の財政破綻が現実となった時代に、より幅広い「国家の責任」を求めた一冊です。
■ 個人的な視点から
提言の内容が奇妙キテレツというわけでもなく、こういう視点からの検証が必要であることを否定しませんが、言葉の端々に「大きな政府」志向がにじみ出ているのが、読んでいて少しつまずくところです。
例えば、国策としてのエネルギー革命によって炭鉱が閉山したのだから、その責任は国が負うべきだ、という主張については、エネルギー革命は日本政府が起こしたわけでもなく、その影響、リスクをすべて国が保障すべきであるかのうような書き振りには違和感を覚えました。
■ どんな人にオススメ?
・夕張市の破綻を多面的に見たい人。
■ 関連しそうな本
松本 武洋 『自治体連続破綻の時代』 2007年01月04日
吉富 有治 『大阪破産』 2006年10月20日
白川 一郎 『自治体破産―再生の鍵は何か』 2006年10月30日
橋本 行史 『自治体破たん・「夕張ショック」の本質―財政論・組織論からみた破たん回避策』
今尾 恵介 『地図を楽しむなるほど事典』 2007年02月25日
肥沼 位昌 『図解 よくわかる自治体財政のしくみ』
■ 百夜百マンガ
播磨灘+あぶさん?
この人の作品の主人公は何を描かせても結局こういうタイプになってしまうというか、大迫力のどアップ顔面に啖呵を切らせて回りがびびって一件落着、というものばかりな気がします。それはそれでいいんですが。
投稿者 tozaki : 07:00 | コメント (1) | トラックバック
2007年07月30日
官のシステム
■ 書籍情報
【官のシステム】(#921)
大森 彌
価格: ¥2730 (税込)
東京大学出版会(2006/09)
本書は、「政策過程における行政の『政(まつりごと)的側面』の研究ではなく、『政(まつりごと)的側面』を内包する行政活動がどのような組織と人事の仕組みの中で行われているかを明らかにしようとするもの」であり、「なによりも官のシステムの『粘性』」、すなわち、「官のシステムが変化に抵抗する粘着力」を描こうとしています。
第1章「持続した官のシステム」では、明治維新後に形成された官のシステムが、「戦後改革を巧妙に潜り抜け、今日に至るまで連綿として続いている」と述べ、「変化を迫られても、変わるまいと抵抗する」理由や意図が、「従来なじみのなかった組織・人事制度が外部からの強い力で移植されようとした時」に端的に表れるとして、「敗戦日本の官吏制度改革のためにGHQが導入を強要した『職階制』」の例を取り上げています。「職階制」は、「アメリカ合衆国において、1892年にシカゴ市ではじめて採用され、連邦政府では『1923年分類法』の成立によって実施されるようになった」もので、職階制の実施によって、「国会公務員の官職は、○級統計職とか、○級建築職、○級法律職というように、省庁の別なく、職種と職級で分類され、それに応じた給与が与えられ、ある官職への採用、昇任のためには、その試験に合格して、その官職を担う適格性を実証しなくてはならない」ものであったと解説されています。
しかし、「危機に瀕した官のシステムは生き残ろうと」し、GHQによる間接統治のもとで、「ほとんどの官僚は温存され、敗戦後の各省庁の行政実務を担」い、「現に省庁に配置されている職員は日々の仕事をしなければならないし、職員の補充・配置・昇任の人事を行い、給与などの処遇の必要もあった」ため、「この現実の必要性と新たな制度へ向かおうとする改革の動きとが軋む中で、旧システムの温存が図られること」として、各省の人事担当者(=高文官僚)たちが、「この現実への対応の中で、職階制導入への抵抗を執拗に続け」たことが解説されています。
また、「自治官僚を務め公務員制度の研究者としても知られた鹿児島重治」が、職階制未実施の「直接の理由」として、「その制度当初から人事当局と職員の労働組合が強く反対したため」であり、人事当局は、「職階制による職務の分類が複雑で、それによって任命権が拘束されることを危惧し」、労働団体側は「職階制の階層的な格付けのために身分制が復活すること懸念した」ほかに、「根本的な理由」として、「詳細な職務記述書(Job description)に基づく職務分類(Positin classification)によって仕事をすることがわが国の職場の実態には一般的には妥当しなかった」ことを指摘し、職階制が、(1)集団主義的職務執行体制、(2)各職員の職務の弾力性、(3)労使の一体性、の3つの理由から「わが国の職場の風土に適合しない制度」であると解説していることを紹介しています。
著者は、「スーパー・パワーとしてのGHQ」が、「良かれと考え、アメリカ型の職階制を、改革(治療)方策として、それまでの日本の人事管理システムに『移植』した」が、「日本の官システムは、これを異物=非自己の侵入として認知し、自己の全体性を守るために、移植された制度(臓器)を機能不全に追い込み、いつでも排除できる状態にしてしまった」と解説しています。
第2章「変わらぬ大部屋主義の職場組織」では、「一課一部屋で複数職員が席を並べて仕事をする大部屋の職場」に、「わが国の行政組織の特色が映し出されている」と述べ、「明らかに職階制の『初めに職務ありき』とは異質の『初めに職員ありき』の組織の作り方と結びついている」と述べています。
そして、「わが国の職場組織が欧米のそれと基本的に異なることを発見」したのが、海外勤務に出た国の役人であったとして、「人事院に入り人事院公務員研修助長を歴任した田代空」が、1974年から5年間在ローマの国連食糧農業機関(FAO)に勤務した経験や、「旧自治省に入り自治大学校長を歴任した久世公尭」が、1968年に米国ロサンゼルス・カウンティを視察した報告などを紹介しています。
著者は、「組織は、仕事と人をどのように結びつけるか、その原理と様式によって理解することができる」として、
(1)初めに職務ありき
(2)初めに職員ありき
の2通りの組織の作り方を解説しています。
そして、「大部屋主義」を、
(1)公式の(事務分掌規程上の)所掌事務は、局、課、係という単位組織に与え、
(2)しかもその規程は概括列挙的であり、
(3)職員は、そのような局、課、係に所属し、
(4)しかも物理空間的には一所(ひとつところ、同じ部屋)で執務するような組織形態
の4点により定義するとともに、その特色として、
(1)一所の執務空間
(2)仕事振りの相互評価
(3)人間関係の重視
(4)概括列挙の所掌事務規定
(5)曖昧な職員定数
(6)よき人柄が望まれる所属長
の6点を挙げています。
第3章「規格化された組織とその管理」では、国家公務員の活動には、「広く国民の福祉や安全・安心にかかわる政策の運用を行っているため、その濫用が起きないように法制度という『鉄格子』がはめられていて自由度はかなり限定されている」と述べ、「鉄格子」といわれる所以は、「公務という活動の内容や方法の決定および活動資源の調達における自立性に制約を加えられているからである」としています。
そして、2001年の中央省庁再編の特色について、
(1)内閣府を内閣府設置法で創設し、それを国家行政組織法の外に置いたこと
(2)それまでとても実現は難しいと考えられていた省庁間の合併を断行したこと
(3)政策の企画・立案機能と実施機能を組織的に分離するという考え方から独立行政法人性を導入し国の行政機関の「切り落とし」を行ったこと
の3点を挙げています。
また、府省の組織について、「大臣を頂点にして、副大臣(大臣政務官)→事務次官→官房長・局長→局次長・部長→課長→係長→係員というピラミッドを構成している」ほか、「事務次官レベルから課長・課長補佐レベルに至るまで、これに相当するスタッフ的な「職」が配置されている」として、
・次官級:省名審議官
・局長級:制作統括官
・局次長級:官房審議官
・課長級:参事官
・課長補佐級:企画間
などの例を挙げ、「なぜこうした職が置かれるようになったか」に関して、昭和15年以降、どの省も、「戦争で相当損耗があるだろう」と見込んで、幹部候補生を「倍の人数とった」が、彼らが「戦争に行っても死なない」で、「戦争中は比較的ラクなところにおったとはいえるが、インパール、ニューギニアに行ってもシベリアに抑留されても損耗せずに帰って来る。内地に残った連中の損耗率と戦地へ行った損耗率と同じくらい。大体一割くらいしか減らなかった」ため、「仕方がないんで、部長、次長、参事官、審議官というヘンなものをつくった」のではないか、そのために「上のやつは長居できなくなって、公団、公社をつくらなければならん、というところまできた」という証言を紹介し、「こうした職が本当に必要であったと言うよりも、処遇のためであったことをうかがわせる」と述べています。
著者は、「不詳組織の内部構造は規格化されている。これにより組織単位や職名のレベル・価値が横並びで評価でき、その共有によって府省・所管課間の会議や協議等の際に、職員の相互確認が容易になっている」上、「内閣府や総務省・財務省・人事院などによる組織・定員管理上の総量規制と一律扱いを可能にし、特に削減・縮小型管理における審査・査定業務の負担を軽減させている」と述べています。
第4章「定員削減のメカニズム」では、「組織規制とともに官のシステムにはめられている鉄格子」である、各省庁の定数の削減について解説しています。
そして、定員の「純減」を理解するには、「わが国で取られてきた独自の定員の総量管理方式に目を向ける必要がある」と述べ、その手法が、「行政需要の減りつつある部門の欠員が生じた場合にこれを補充しない、そしてその欠員分を中央に留保して、これを必要な部門に充て(拡充定員に振り向ける)、これによって全体としての定員数の増加を抑えるやり方」であり、「各省庁を通じた国家公務員の総数に上限を決めてしまうもの」であることを解説しています。
著者は、定員の総量規制方式の問題として、
(1)総定員法によって各府省の定員は縛られているが、その外に特殊法人や公益法人の削減には総定員法は効かない。
(2)年次ごとに閣議で各省庁の削減数が決定されるが、省庁によっては削減目標数まで退職者数が達しないという事態が生まれ、定員削減の実績が年々低下する傾向を示している。
(3)各省庁に割り当てられた削減率を達成する任務は主として各省庁の官房部門が行っているが、各章内閣組織に格差をつけて削減を断行することは極めて困難な現状にあり、その結果、削減の割り当ては一律に行い、増員要求の内部審査の段階で需要に応じた増員配慮を行うのが一般的な実際である。
の3点を指摘しています。
そして、この方式が、「仕事量と適性必要人員の関係について客観的な測定と評価による審査に必ずしも基づいておらず、その意味で合理的根拠が乏しい」ことを指摘しています。
第5章「日本国所管課の活動」では、日本国政府が、「一つではなく、『合省国』といってよいが、所管事項について言えば、本府省各課が、事実上、日本国政府そのものであるといってよい」と述べています。
そして、キャリア官僚の育成について、多くの場合、「局内の総務課や企画課といった局内の取りまとめの課に配属」され、コピー取りやワープロ打ちなどの単純作業の中で、「役所の仕組み、仕事のやり方を体で学んでいく」、「徒弟制度的」であると述べています。その後、2~3年で企画法令係長などの係長に昇任し、「その所管課の立場から各種の協議・照会に対して意見の有無を回答することや、小規模な政省令や国事の案作り、通達・通知事項の文書化、自治体や出先機関(地方支分部局)からの問い合わせに対する回答作り」などを通じて、「官報に一行の政省令改正や告示を掲載するためには、あらゆる角度からの検討がなされなければならない」ことを学ぶことが解説されています。
また、法律案の作成作業を行うPT(プロジェクト・チーム)は、「タコ部屋」と呼ばれる作業部屋にこもり、現場監督をする総括課長補佐クラスのキャリア法令企画官が、
(1)概要説明資料(ポンチ絵)の作成
(2)立法実例の検索
(3)案文
(4)官房・法制局用資料の作成
(5)審査立会い
の5点セットの「作成・印刷・タイプ打ちといった立法作業全体を担当補佐の下の実行部隊として」行うという「法令作成の修行」を行うことを解説しています。
さらに、国会答弁作りのルールとノウハウとして、
(1)決して言質をとられず、責任の所在が明らかにできないようにする。
(2)できるだけ現状維持の状態を保てるような内容にする。
(3)聞いている誰もが不満を言わないような文章にする。
(4)突っ込んでくるような質問に対しては、はぐらかしていないようで、実際には上手にはぐらかすような文体とする。
の4点を挙げ、「重箱の隅を突っついてくるような質問が多い中で、このような要求を満たすのは至難の技だ。時間とエネルギーがかかるのも無理はない」と紹介しています。
第6章「分権改革と省庁の対応」では、1995年5月の地方分権推進法の制定を、「わが国憲政史上にも稀な政治的決定であった」と述べ、「中央省庁の官僚がこの国会の意思に従わないわけには行かない」のは、「法律の威力を彼ら自身が誰よりもよく知っているからである」と述べています。
そして、1996年11月20日に、第一次勧告を前に、分権委の委員長らが、自民党行政改革推進本部に説明に訪れたときに、「機関委任事務の廃止はわかった、各省が納得しているならそれでいい。党は何も言わない」と言ったが、「市町村への事務権限の移譲を独立のテーマとして取り上げ勧告を作成すること、市町村合併を積極的に促進すること、首長の多選を制限すること、これが党の総意である」という注文がついたことを紹介し、「機関委任事務の廃止」が、「『政治』を排除して成り立っていたこの事務の本質」のために、「さしたる関心事ではなかった」と述べています。そのため、「論より実利」に敏感な政治家にとっては、「重大なインタレスト」ではなく、官僚から見れば、「廃止に納得できない、うるさい先生(有力政治家)がうしろにいて、とてももたない」という防戦を張ることができなかったと解説しています。
一方で、難航した問題として、
(1)公共事業の分権改革:固い既得権益構造の中心に「日本が公共事業大国である限り分権改革に対抗し続ける最強の官グループ」である技官集団がいた。
(2)税源の移譲:大蔵官僚は、「地方税財政の充実・強化」は、税源移譲への布石であるとして、「強化」を「確保」に直させた。
の2点を挙げています。
また、第一次分権改革で手をかけられなかった税源移譲については、分権委の後継と見られた「地方分権改革推進会議」に期待がかかったが、委員の間で、財政再建か分権改革かで内紛を起こし、「税源移譲推進の主役は経済財政諮問会議と総理から異例の要請を受けた地方六団体に移ること」になり、「三位一体の改革」という言葉が出てきたことが解説されています。
さらに、三位一体改革の背景にある「霞が関事情」として、
・財務省:税源移譲に反対
・総務省(旧自治省系):財政再建のための地方交付税削減に反対
・個別省庁:国庫補助負担金の廃止・縮減に反対
の「三すくみ状態」があったため、「それぞれに『苦い薬を呑ませる』必要」があったことが解説されています。
著者は、今後の課題として、「消費税の地方移譲など、さらなる税源移譲に向かって、温存されている国庫補助負担金の廃止を実現していくこと」であるとし、そのための「折衝は厳しさを増す」のは、その廃止が、「日本国所管課の組織と定員の縮減に向けてじわじわと効いていくから」であると述べています。
終章「官のシステムのゆくえ」では、「官のシステムの核心」は人事システムにあり、「人事システムの改革によって官のシステムを変革する以外に、各府省の個別行政も一般行政も、その閉塞状況から脱却できない」と主張しています。
そして、国家公務員のキャリアパスとして、稲継裕昭による「二重の駒型」昇進モデルを紹介しています。
また、国家公務員法改正において、労働基本権問題が重要である理由として、「単にILOの勧告の実現にかかわるだけではなく」、「キャリアシステム廃止と新たな人事評価システムの導入」が「アジェンダとして具体性を帯びていく」ことで、「休眠中の国交法第78条を覚醒させる可能性が出てくる」ことを指摘し、分限免職の規定について言及しています。
著者は、「官僚制に対する実効的な民主的統制は言うほど簡単ではない」理由として、「現代民主制は有能で忠実な官僚集団を必要としている」ことを挙げ、「時代と社会の変化の中で、何が日本国の官僚の果たすべき役割なのか、どういう点でどのような能力を発揮すべきなのかが改めて問われなければならない」と指摘しています。
本書は、システムとしての官僚制度について、客観的な見地から解説している良書です。
■ 個人的な視点から
なんとなく、新聞や週刊誌などで目にする官僚のスキャンダルの記事をもとに、頭の中で「官僚像」を描いてしまいがちですが、実際に接してみると個々人は非常に常識人でびっくりするんじゃないかと思います。
問題は、個々人を超えたシステムの問題であることを教えてくれます。
■ どんな人にオススメ?
・「官僚」に会ったことがない人。
■ 関連しそうな本
川手 摂 『戦後日本の公務員制度史 「キャリア」システムの成立と展開』 2005年12月29日
早川 征一郎 『国家公務員の昇進・キャリア形成』 2006年04月20日
曽我 謙悟 『ゲームとしての官僚制』 2006年02月24日
稲継 裕昭 『日本の官僚人事システム』 2005年02月10日
稲継 裕昭 『人事・給与と地方自治』 2005年12月09日
天川 晃 『GHQ日本占領史 (12) 公務員制度の改革』 2007年01月18日
■ 百夜百マンガ
学習院は華族の子弟教育のために作られたそうです。鷹の爪団総統の「わしの先祖は殿様だったんじゃあ」という魂の叫びが蘇ります。
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2007年04月24日
政府会計の改革―国・自治体・独立行政法人会計のゆくえ
■ 書籍情報
【政府会計の改革―国・自治体・独立行政法人会計のゆくえ】(#824)
山本 清
価格: ¥4725 (税込)
中央経済社(2001/07)
本書は、「政府会計を政府の経営システム改革の中に位置付け、どのような論理から会計システムの改革が国際的に進行しており、わが国の改革に欠けているのは何かを明らかにする」ことを目的としているものです。
序章「政府会計の改革に向けて」では、「アカウンタビリティ(Accountability)と会計(Accounting)は、そのスペルに明確に現れているように密接な関係にあるというより、むしろ会計はアカウンタビリティを担保するシステムとして表裏一体のもの」であり、「結果について合理的に説明するには、記述的・定性的な情報より体系的・客観的に要約された情報と結果に関する関与について明らかにすること」が要求されていると述べています。
そして、「アカウンタビリティと効率向上に対して、会計が何を果たさねばならないか、どのように機能するのかと同時に、第三の機能として利害調整や協調関係の確立・維持に何ができるかを明らかにしようとする」ことが本書の目的であると述べています。
第1章「政府会計の発展の多様性と共通性」では、政府会計の目的・機能を、
(1)民主的統制とアカウンタビリティの確保
(2)資源管理の改善
(3)マクロ政策に資する情報提供
の3点に要約しています。
第2章「会計システムの変革モデル」では、三重県の改革の事例を取り上げ、外部圧力として、北海道庁のカラ出張等による不正経理事件と、地方債の償還費が年々財政を圧迫しVFMを求める業績圧力が高まってきた(ただし、他の都道府県に比べるとむしろ健全であった)ことを挙げ、内部圧力として、民間の経営手法の導入と県庁組織の分権化を目指した北川前知事による経営システム改革を挙げています。
また、今後の課題として、
(1)わが国の地方政府改革はいまだに進展中であり、特に会計システム改革は評価システム導入の次の政策として提案されているため、その効果について継続的に観察していく必要がある。
(2)本章で提示したモデルをわが国以外の他の諸国に適用して、その頑健性を検証すること。
(3)NPMと会計の関係を、サブシステム段階で詳細に検討すること。
の3点を挙げています。
第3章「会計システム改革の国際的動向」では、会計システム変革の国際的動向について検討し、「現金主義から発生主義会計への以降は、単に会計技術の問題でなく政府の経営や改革で重視する内容により、アカウンタビリティ志向、マネジアリズム志向及び統合志向があること」を明らかにしています。
第4章「財政制度改革と政府会計」では、各国の財政制度について、「米国にみられるように欧米諸国には、わが国のように歳入と歳出を同時に均衡させた形式で承認して予算とする方式でなく、歳出についてのみ歳出承認額(限度額)を与える方式があり、発生主義予算も歳入予算を除いた歳出予算のみに適用されることがあることに留意」すべきことが述べられています。
またニュージーランドの予算制度について、「アウトプットコストを財源措置する点でアウトプットを供給する側の裁量性を認め、効率性を向上させるとともにアカウンタビリティも確保しようとする契約構造として評価できる」としています。
著者は、各国の公会計制度の改革概要及びニュージーランド政府の財務改革から得られる教訓として、「会計制度の改革を決して独立の制度改革と位置づけるべきでないこと」すなわち、「予算制度、政府の経営システム及びアカウンタビリティ構造の改革の視点から、会計システムに何が必要かを明らかにし、会計制度の会アックと他の関係システムとの整合性・相互補完性が維持されねばならない」と述べています。
第5章「ストックの管理と政府会計」では、政府の貸借対照表の機能を、
(1)アカウンタビリティの向上
(2)資源管理の改善
(3)財政・経済政策への活用
(4)議会統制の向上
(5)情報開示の改善
の5点に要約しています。
また、わが国の貸借対照表の位置付けと利用については、「大統領制で三権分立が徹底している米国と議院内閣制で与党と内閣が一体となる行政優位のわが国で、同じモデルを採用することは政府経営に関して慎重な検討が必要である」と述べています。
さらに、政府会計改革の課題として、
(1)リスク分析やVFM評価の技能と標準化
(2)予算統制の確保方策
(3)予算・会計制度の改革
の3点を指摘しています。
第6章「政策評価と予算・会計」では、予算の目的・機能として、
(1)政府活動の経済的成果の事前測定
(2)財務資源の調達・統制
(3)アカウンタビリティの確保
(4)資源の効率的配分と利用
(5)利害調整
の5点を挙げています。
そして、現在の行政改革の主流になりつつあるNPMにおける予算と評価のリンケージに関して、
(1)政策階層のレベルに応じた3つのマネジメント・サイクルに関して、予算と評価の連動を考慮する必要があること
(2)成果志向の行政を実現するには、内閣レベルのサイクルにおいては予算編成は施策のアウトプットの量と質に焦点を当てること、このためには発生主義による予算編成と会計報告が必要なこと
(3)施策と事務事業の整合性を確保しつつ、予算で認められた額と目的の範囲内で施策の実施方策である事務事業の権限と責任は各省庁に委ねること。
(4)予算編成の政治的過程の特性を踏まえ、評価の経済的合理性を過度に追求せず、アウトプットにかかるサービスの質に関し満足度調査等のソフトな評価手法も活用して利害関係者の調整や合意形成に活用すること
(5)単年度の予算編成におけるモニタリング的評価の活用と戦略的計画に合わせたプログラム評価を併用すること、後者ではアウトプットだけでなくアウトカムの評価も行うこと
5点に要約しています。
第7章「政府の経営と管理会計」では、ABC(活動基準原価計算)について、「単に適正な原価の算定」という機能にとどまらず、「財・サービスの供給と顧客を供給側の活動を通じて結びつけるシステムであるため、原価がどのような活動により発生しているか及びサービスの質と原価の関係を明らかにすることができ、いわゆるWhat If分析を可能にする」と述べています。
また、海外の事例の導入について、「集権的で投入志向の行政管理が行政改革を通じて変革されれば、自主的・内発的にコストや質を比較する必要性が生じてくるからABCやBCSあるいはその基盤としてベンチマーキングが活用されることは自然な展開である」と述べています。
第8章「独立行政法人の経営と会計」では、独立法人制度について、「財務面に限定しても自立性、自発性を備えた法人として制度設計がなされているとは必ずしも言えない」と指摘した上で、
(1)中期目標は独立行政法人でなく主務大臣が設定することになっているから、法人はこれを受け入れるほかない。
(2)運営交付金については自律的な財源措置及び使用が認められているが、施設費等については公債発行対象経費に含まれる限り、財源措置は主務大臣及び財務大臣の裁量にゆだねられる。
の2点を挙げ、「独立行政法人の行う業務には一部について自立性を認めただけで、府省は企画立案と同時に当該法人の行う業務についても自ら主体的に行うことになる」と指摘しています。
著者は、「成果の測定が比較的容易な行政サービスにおいても、業務運営の自律性は独立行政法人の第一次目的とされた組織的独立性だけでは不十分であり、経常的原資である運営費交付金についてのみ自立性と主体的な意思決定が認められているにすぎない」ため、「業務運営の成果及び計画自体に当該法人で管理不可能な要素が影響し、本来の自律的な活動保障を通じた効率と質の向上やアカウンタビリティの強化も不完全なものになる危険性が高い」と述べています。
第9章「財務情報の公開と政府会計」では、「行政の効率化と同時に受益と負担の関係から行政サービスを見直すこと」が必要であり、「特に地方政府のサービスは費用と便益が地域内で尾ほぼ完結するため、財政情報を公開することにより、住民がサービスの質と量を選択するシステムを構築することが可能である」と述べています。
第10章「政府監査の機能と効果」では、民主的統制にとって、「政府全体にマネジメント・サイクルの視点」が必要であると述べ、各国のSAI(Supreme Audit Institution, 最高会計検査機関)の組織的性格について、
(1)議会付属型:米国GAO
(2)司法型:フランスCDC
(3)独立型:日本BOA
(4)独立型に近いが司法官的組織:ドイツBRH
(5)議会と緊密な関係ながら議会から独立して監査活動を実施:英国NAO
などのように類型化しています。
第11章「政策評価と会計検査」では、ニュージーランド以外のNPMを推進している諸国のSAIが、「いずれも政策・施策評価への拡充を図っている」ことについて、
(1)MPMの理論的前提を所与としても、供給者(政策の執行・実施者)の設定する計画目標及び業績指標が適正でない場合があり、このときには、行政府から独立した外部機関が妥当性を検証するとともに修正を勧告することが必要である。
(2)NPMでは、供給者はその実施する政策の枠組みに制約されて裁量性を有し、業績向上を図る構造をもっており、政策の枠組みの検討は、行政府から独立した機関が実施する以外ない。
(3)NPMの前提である市場原理や顧客志向が機能しなかったり、不適切なサービス部門がある。
の3つの側面から妥当であると述べています。
第12章「政府監査と行政改革――米国のGAOを例にして」では、1993年8月に成立したGPRAについて、「政府の政策が何を行っているか、目的を達成しているかを測定し効率性・友好性を向上し、アカウンタビリティの改善を目指す」ことを目的にしたものであることが解説されています。
著者は、その供給と課題として、「GAOのGPRAをめぐる活動はGPRAに規定された責務を超えて行政改革を推進するため大きな精力を割いている」ことを挙げ、わが国の会計検査院の活動の見直しを提言しています。
第13章「政府監査の将来展望」では、会計検査のインパクトが小さい理由を、
(1)内部的要因:会計監査の伝統的アプローチに起因し、「明らかに無駄が発生していると検証できるものを探し出すことに重点が置」かれている。
(2)外部的要因:議会の側で利益供与型政治を志向する議員が多くなる場合に、評価の検査結果の高需要の委員会は中位需要の議会より生産を非効率に統制しても算出水準を高めようとするため、モニタリングや非効率を指摘する監査、評価の限界価値を議会全体より低くする。
の2点から分析しています。
本書は、政府の会計制度や監査制度の新しい潮流を押さえておきたい人にはお奨めの一冊です。
■ 個人的な視点から
公会計改革の本ということで、テクニカルな記述を中心としたもの、という先入観を抱きがちですが、本書は、行政学や政治学の視点から公会計改革の意味を追っているという点で、「公会計改革ってバランスシートのことだろ? あんなの手間だけかかって意味ないよ」という単細胞の方にも分かりやすい一冊ではないかと思います。
■ どんな人にオススメ?
・「公会計改革=バランスシート」と思っている人。
■ 関連しそうな本
桜内 文城 『公会計革命―「国ナビ」が変える日本の財政戦略』 2005年02月28日
石原 俊彦 『地方自治体の事業評価と発生主義会計―行政評価の新潮流』
山田 真哉 『さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学』 2005年08月19日
石原 俊彦, INPMバランススコアカード研究会 『自治体バランス・スコアカード』 2005年11月01日
ポール・R. ニーヴン 『行政・非営利組織のバランス・スコアカード―卓越した組織へのロードマップ』 2006年07月12日
ロバート・S. キャプラン, デビッド・P. ノートン (著), 吉川 武男 (翻訳) 『バランス・スコアカード―新しい経営指標による企業変革』
■ 百夜百マンガ
「ヤンキーもの学園漫画家」からのイメージ脱皮を図りつつ、ハード路線に転じるも、どうしてもこの絵だと、いざというときには「友情」で大逆転しちゃいそうな気がしてしまってハラハラしません。
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2007年04月16日
三位一体改革と地方税財政―到達点と今後の課題
■ 書籍情報
【三位一体改革と地方税財政―到達点と今後の課題】(#816)
神野 直彦
価格: ¥2625 (税込)
学陽書房(2006/11)
本書は、「『三位一体改革』という歴史的出来事」に携わった「歴史の生き証人」である著者らが、「未来に真実を語り継ぐことが使命だという認識」のもと、編纂したものです。
第1章「三位一体改革の意義と課題」では、「改革(reformation)」という言葉が、「再び(re)」と「形造る(form)」の合成語であることか亜r、「本来の形に戻すこと」であるとして、「三位一体改革」の意味を、「国税から地方税への税源移譲、補助金の改革、交付税の改革という国と地方自治体との財政関係を構成する三つの要素を、有機的に関連づけて、国と地方自治体との財政関係を『本来の形に戻すこと』である」と述べています。
そして、日本において、「地方財政が地域住民の協働意思決定の基づいて運営されることを困難にしている」ルートとして、
(1)機関委任事務に象徴されるように、国の指令や命令によって「歳出の自治」を奪うというルート。
(2)補助金バラマキによって、「歳入の自治」を奪うというルート。
の2つのルートを挙げています。
また、地方分権改革の次のステージの課題を、
(1)地方分権改革を国の関与を廃止・縮小する段階から地方自治体の役割を高める段階へと進めること。
(2)地方自治体の役割を増加させて自立させる「上から下へ」の改革だけでなく、「団体自治」から「住民自治」へと踏み込み、「下から上へ」の流れを作り出す改革に着手すること。
であると述べています。
第2章「三位一体改革の経緯」では、2005年11月30日の政府・与党合意について、
・3兆円の大規模な税源移譲はこれまでにない画期的な改革であり、分権にとって大きな前進であること。
・個別の国庫補助負担金改革について、生活保護が盛り込まれなかったこと、施設費を対象に含めたことは評価、しかし、児童扶養手当、児童手当、義務教育費の国庫負担率の引き下げは地方分権改革に理念に沿わないものと批判。
・将来について、2007年度以降もさらなる改革を進めるべき。
と、地方六団体が声明を発表したことを解説しています。
第3章「三位一体改革の到達点」第1節「国庫補助負担金の改革」では、「補助金改革、税源移譲というアウトプットとは別に、重要な副産物があった」として、「地方が国の求めに応じ、自ら国に対し税源移譲に結びつく補助金改革案を作り上げ、政府に提示したこと、そして、『国と地方の協議の場』が設定され、それを閣僚相手に同じテーブルでの交渉で実現に結びつけたこと」を挙げ、「このプロセスは歴史的にも貴重な経験となった」としています。
また、三位一体の議論が、「霞が関にとって非常な脅威」となり、「三位一体と霞ヶ関の中で薦めたいと思っている組織」は、総務省の中の旧自治部局のみであり、「他の事業官庁、あるいは国の財政当局は、ただでさえ足りない国税を地方税に移管するという発想は、もともと不見識だと言い続け」、各省庁にとっては、「自分たちが予算要求して大事に守り育ててきた補助金を廃止して、それを地方税に振り替えて地方に渡すなどということは、尋常では考えられない発想」であり、事業官庁の立場では、「補助金があって組織が動き、地方との接点が出てくる。補助金がなくなると、自分達の仕事のツールがなくなることを意味」し、組織の存続に関わる問題であることが解説されています。
第2節「地方税の改革」では、2004年の政府税調の答申で検討された、消費税から地方消費税への税源移譲の実現可能性について、
(1)消費に関連した基準により都道府県間で清算を行うことにより税収の偏在性が少なく、安定的である。
(2)地方においても福祉サービスの安定的な提供が求められているなか、役割は重要である。
(3)国の消費税の制度と一体のものとして仕組まれており、全国一律の税率が前提である。
(4)国が委託を受け、消費税と合わせて徴収を行っており、地方が直接に税を徴収するしくみとなっていない。
の4点のまとめを紹介しています。
その上で、今回の税源移譲では、「所得税から個人住民税への税源移譲の優位性が勝った」ため、地方消費税の出番はなかったが、「今後の局面においては、地方消費税こそが最も充実させるべき基幹税であるといって差し支えない」と述べています。
また、税源移譲の受け皿として、「最も可能性が高い」と考えられていた個人住民税についても、2004年度の政府税調答申から、
(1)税体系の中で個人住民税が応益性や自主性の要請に最も合致している。
(2)所得割の税率のフラット化、均等割りの充実といった改革を進めていくことが重要である。
の2点を紹介しています。
さらに、個人住民税所得割の税率が10%比例税率かされることに伴う、「この10%の税率を都道府県民税と市町村民税にどう分けるか」という問題について、「マクロベースでおおむね今回の国庫補助負担金改革の影響を反映した税収が確保できる」という試算結果と、「市町村重視という観点」を踏まえ、「10%比例税率の内訳を、都道府県民税を4%、市町村民税を6%とする案が与党の税制調査会に示され、そのまま了承、決定されることとなった」ことが述べられています。
著者は、「税源移譲の結果、おおむね9割近くの納税者にとっては、個人住民税(所得割)の税額が所得税額よりも大きくなる」という見込みについて、こうしたことは税源移譲前には、ごく一部の場合しか生じていなかったが、「税源移譲後は、納税者にとっての個人住民税の比重はかつてなく重要なもの移ること」になり、「行政に関して需要と負担の関係の明確化が求められているなか、まさに画期的な変化」であり、「住民が地方団体に向ける目もより厳しいものになると考えられ」、「地方団体全体として、負担に見合った行政サービスとは何か、住民と向き合った財政運営をいかに行うかが従来以上に大事になる」と述べています。
さらに、課税自主権に関しては、法定外税の税収が増えたとしても、地方税収に占める割合はわずかであり、「今後も法定外税に税収面で大きな期待を寄せることはできない」が、「必ずしも税収そのものを目的としない税が現れている」として、典型的な例として、杉並区のレジ袋税や豊島区のワンルームマンション税などを紹介しています。
第3節「地方交付税の改革」では、交付税改革の具体的な論点として、「財源保障機能と財源調整機能という交付税制度の有する機能を有効・適性に発揮していくため」、
(1)総額:交付税の総額をどのように設定すべき
(2)配分方法(算定方法):個別団体の配分方式はどのようにすべきか
という2つの論点があることを紹介しています。
そして、財源保障機能と財源調整機能について、
(1)何らかの財政需要に着目して、その財源の保障をするために、国から地方に対して財政移転を行うと、移転された財源は、地方団体間の財源格差の調整機能を発揮する。
(2)何らかの財源調整を意図して、国から地方に対して行われる財政移転は、その前提として、何らかの財政需要についての財源を保障することを目的とするものである。
(3)両機能の相対的な主従関係は別として、(1)と(2)は同じことを言い替えたものである。すなわち、何らかの財源保障を行う際には、それがどの程度の財源調整機能を発揮するかを視野に入れつつ制度設計するものであり、何らかの財源調整を行う際には、それがどのような財政需要を保障するものなのかを視野に入れつつ制度設計を行うものである。
の3点により整理しています。
また、三位一体改革が、「地方分権の推進を目的とすることはもちろんであるものの、同時に、国と地方を通じた財政健全化も目指しているものであり、地方歳出の見直し・抑制に取り組み、また地方税収の増加の結果として、財源不足額が減少し交付税総額の抑制が図られたものである」と述べています。
著者は、今後の財政調整制度を考えていく上で、
(1)中長期的に持続可能な制度であること
(2)予見可能性の高い制度であること
という視点が必要であるとしています。
第4章「地方財政の将来」では、日本が、「社会経済構造にあった財政に転換しようとしている」ことが、財政再建の社会的背景であると同時に、「再建ではなく、財政構造改革と呼ぶべき」であると述べています。
また、地方税改革に関して、「交付税対象税目と地方税を入れ替えること」も議論されており、「地方税の法人課税を交付税財源の国税とし、同額の消費税(交付税財源分)を地方消費税とする」議論がなされ、地方六団体の「七つの提言」でも、「地方税は地域偏在性が比較的少ない税目構成とし、地方交付税の原資は地域偏在性の比較的大きな税目構成となるようにすること」を提言していることを紹介しています。
本書は、三位一体改革について、分かりやすく、コンパクトに解説した一冊です。
■ 個人的な視点から
地方税制の見直しについては、最近の報道では政府でも見直しの検討を進めているみたいですが、どこまで本気でやるつもりなのでしょうか。
補助金や交付税の見直しに引っ張られて税源が移譲され、税制の見直しに引っ張られて国の仕事が見直され、という良い循環になればよいのですが、どこかで梯子を外されて財務省だけがほくそえむ、という結果に終わらないように注視したいと思います。
■ どんな人にオススメ?
・「三位一体改革」という歴史的事実を記憶しておきたい人。
■ 関連しそうな本
赤井 伸郎, 山下 耕治, 佐藤 主光 『地方交付税の経済学―理論・実証に基づく改革』 2005年01月27日
土居 丈朗(編著) 『地方分権改革の経済学―「三位一体」の改革から「四位一体」の改革へ』
赤井 伸郎 『行政組織とガバナンスの経済学―官民分担と統合システムを考える』 2006年11月24日
上村 敏之, 田中 宏樹 (編著) 『「小泉改革」とは何だったのか―政策イノベーションへの次なる指針』 2006年11月2日
兵谷 芳康, 小宮 大一郎, 横山 忠弘 『地方交付税』 2007年03月22日
平嶋 彰英, 植田 浩 『地方債』 2006年12月14日
■ 百夜百マンガ
千葉県民としては見逃せない(を口実にしてしまう)作品。テレビから人が出てくるっていう、ギャグマンガ(2次元→3次元という逆平面ガエル)かホラー映画(貞子!)か、という設定でラブコメを読ませてしまうのはやっぱり画力でしょうか。
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2007年04月03日
自治体の市場化テスト
■ 書籍情報
【自治体の市場化テスト】(#803)
稲沢 克祐
価格: ¥2,520 (税込)
学陽書房(2006/06)
本書は、「官と民とを対等な立場で競争入札に参加させて、お互いの強みを競争させ、第三者の判断で公共サービスの担い手を決定する手法」である「市場化テスト」を、「行政改革の究極のツール」ととらえる視点に立ち、「市場化テストとは何か、自治体においては、それをどのように進めていけばよいか」を平易に書いたものです。
第1章「市場化テスト入門」では、市場化テストの核心を、「現在、独占市場である公共サービス領域に対して、競争原理を導入することによって、公共サービスの質の向上とコストの低下を図ろうとするもの」であると述べています。
そして、その前提として、
(1)自治体業務全体の棚卸作業
(2)棚卸した事務事業についての、適切な事務事業単位への整理
(3)事務事業の必要性を判断するための評価基準の設定と評価
の3つの前提が必要となるとしています。
また、市場化テストに伴う課題として、官側が落札できない場合の職員の処遇の問題を取り上げ、「20年間に渡り官民競争入札を強制されていたイギリスの自治体では、落札したばかりの部局でさえ、次の入札のときを考えて、解雇されるのではないかという不安から、職員の指揮(モラール)が低下してしまったという報告が数多く寄せられ」、イギリスでは、「営業上と規則(TUPE)」という公務員の「権利」を保護する法整備が進められたことが解説されています。
第2章「官製市場改革と市場化テスト法」では、「官製市場」を、「政府が独占的に事業を行うか、公的関与が著しく強い分野の総称」とした上で、
(1)国が自ら実施する事業
(2)自治体の類似の事業
(3)形式的には民間部門であるが、官に準じた規制の下に置かれた社会福祉法人などのいわゆる非営利法人が独占し、民間企業の参入が禁止・制約されている市場
などの具体例を挙げています。
また、自治体にとって市場化テストの対象となる「特定公共サービス」について、「地方公共団体の窓口業務」を挙げ、「戸籍法等の特例によって、これまで民間事業者には行えなかった戸籍法等に基づく戸籍謄本等の交付の請求の受付及びその引渡しなどの業務の実施が、民間事業者にも可能となった」ことが述べられています。
第3章「イギリスにおける自治体市場化テストの導入と限界」では、著者がイギリスに滞在していた1995~97年当時、数多くの自治体を訪問調査する中で、どの役所でもどの部署でも「CCT」)Compulsory Competitive Tendering:強制競争入札)を書かれた簿冊を目にしたという経験を語り、「この言葉に対する自治体職員の反応は決して好意的なものばかりではなく、むしろ圧倒的に廃止を願う声が多かった」と述べています。
そして、イギリスにおける強制競争入札導入の重要なポイントとなる、イギリス特有の組織として、「ブルーカラー」的な仕事を担う「直営現業部門(Direct Labour Organisation: DLO)」の存在について解説しています。
また、イギリスの自治体が、強制競争入札に対してとった手法として、
(1)官民競争入札を経ずにサービスを民間企業に委託してしまう方法・
(2)直営サービス部門を強化し民間企業に対抗できるようにすること。
(3)直営サービス部門を民間企業にしてしまうこと。
の3点を挙げています。
第4章「イギリスにおける自治体市場化テストの評価とその後」では、イギリスの強制競争入札によって、「自治体側が落札できなかったり、あるいは、落札するために人員削減をしたりしたために、数多くの自治体職員が職を失っていった」ことを指摘し、「こうした急進性ゆえに強制競争入札は不人気であったのだが、労働党政権によって廃止されたから後も、官民競争入札は自発的に」続き、自治体の文化がマネジメント重視へ変容したことなどが述べられています。
そして、強制競争入札の課題としては、
(1)自治体に調達方法を決定するのは、自治体の裁量によるものであり、当初から入札を強制されることは自治権の侵害に当たること。
(2)強制競争入札は、官民の公正な競争を確保しようとするあまり、制度が複雑化していったために入札や契約などに関する書類作成が大量に発生したことから、「繁文縟礼」へと後退していったこと。
(3)強制競争入札で自治体側が落札をしようと、人員を大幅に削減したり、勤務時間などの条件を厳しく設定したりしたことから、自治体職員の士気が落ちてしまったこと。また、落札できなかった場合には地方公務員の身分を失うことがほとんどのケースであり、士気の低下につながったこと。
の3点を挙げています。
さらに、労働党政権後、強制競争入札制度の廃止にもかかわらず、「競争によるサービスの有効性・効率性の向上を評価した上で、廃止後も積極的に競争条件の中でサービス提供に当たることが望ましいと自治体に対して宣言」し、廃止後も外部委託化の割合を増やしている自治体も2割程度あり、自治体内業務に戻った自治体は3%程度にとどまっていることが述べられています。
労働党政権が、強制競争入札制度の代替策として打ち出した「ベストバリュー」については、「公共サービスの質とコスト双方において、たゆまぬ向上を目指すことが新しい自治体の証であってベストバリューの目指すところ」であり、「(向上のために必要なことは)コミュニティ内のサービス・ユーザー等との良好な協働関係を保つこと、業績の向上は指標と達成目標により計測すること、サービス提供主体の選択肢を広くすること、常に透明な自治体であることに務めること」であると述べています。
また、ベストバリューを、
(1)戦略経営体系の構築
(2)業績マネジメント体系と品質マネジメント体系の構築
(3)外部評価
(4)失策に対する国の介入権行使
の4つのフェーズによって攻勢されていることを解説しています。
第5章「自治体市場化テストの進め方(1)――全体プロセスと対象業務の特定化――」では、市場化テストの導入プロセスを、
(1)対象を特定化するプロセス
(2)特定化された対象に関する官民競争入札を実施するプロセス
(3)サービス実施中及び実施後のモニタリング
の3段階に分けてそれぞれ解説しています。
また、(1)に関しては、競争入札に入る前の可能性調査の留意点として、
(1)官民の予想コストの把握
(2)事業規模・事業形態の検討
の2点を挙げています。
第6章「自治体市場化テストの進め方(2)――入札の準備(組織と会計)・入札実施のプロセス――」では、これまでの、
・仕様発注:何をどのようにするかという詳細な「仕様」を事前に決めておく
では、民間側の創意工夫を狭めてしまうため、
・性能発注:仕事の進め方は落札者に任せる
を前提として競争条件の設定が必要になることが解説されています。そして、そのために、官民比較可能な自治体会計の整備が必要であるとして、イギリスの自治体が、強制競争入札の導入を機に、1980年代に発生主義会計の導入を進めたことが述べられています。
また、価格のみの競争では、「安かろう悪かろう」に陥りがちであるため、「まずは、非価格要素で入札者を3者程度に絞ってから、当該3者に対して価格競争を課す」という「2段階の封筒(doble envelope)」という提案が生まれたことが紹介されています。
第7章「自治体市場化テストの進め方(3)――契約、実施中のモニタリング、サービス・レベル・アグリーメント――」では、市場化テストにおける契約の留意点として、
(1)サービスの質とモニタリングの方法を明記する:サービス水準合意書(SLA)
(2)リスク負担を明記する
(3)複数年契約である
の3点を挙げています。
このうち、SLAについては、「サービスの提供者と委託者との間で、サービスの契約を締結する際に、提供するサービスの範囲・内容及び前提となる諸事項を踏まえた上で、サービスの品質に対する要求水準を規定するとともに、規定した内容が適性に実現されるための運営ルールを両者の合意として明文化したもの」であると定義されています。
また、要求水準として書き込まれる中で重要な、「重要業績指標(KPI)」について、「提供されたサービスの品質を評価するために、重要な業務結果の状況を判断するための指標」であると定義しています。
第8章「地方公務員の処遇」では、「市場化テストで自治体側が落札できずに、そのまま職員が自治体内に残った場合、結局、人件費は変化なく落札した民間企業への委託料だけが上乗せされる」という問題について、イギリスでも制度の根幹にかかわる部分であると述べ、イギリスでは、「労働者の雇用と労働条件を保護するための法制度」として、1981年に「営業譲渡規則(TUPE)」を制定したことが解説されています。
営業譲渡規則の適用による問題点としては、転籍した職員には、従来の賃金水準が維持される一方、新規に民間企業に雇用された職員には別途契約で決定され、「同じ業務に従事しながら、賃金格差が生ずる」という「二層賃金制」が問題になることが解説されています。
また、日本における地方公務員の処遇の選択肢として、
(1)他の部局に移動させる。
(2)事業を受託した民間企業等に転籍させる。
(3)解雇する。
の3点を示し、それぞれ解説しています。
本書は、とくに自治体における市場化テストについて、分かりやすく解説した良書といえるでしょう。
■ 個人的な視点から
著者に初めてお会いしたのは、まだ、著者が群馬県庁の東京事務所にいらっしゃったときでした。行政経営フォーラムの縁でお会いすることができましたが、英国勤務をきっかけに「一皮むけ」、本書のような業績を重ねられていることは、多くの地方公務員にとって励みになることだと思います。人生、何がきっかけになるか分かりません。
■ どんな人にオススメ?
・自治体にとっての「市場化テスト」の意味を捉えたい人。
■ 関連しそうな本
市場化テスト研究会 (著), 本間 正明(監修・著) 『概説市場化テスト―官民競争時代の到来』 2005年10月07日
内閣府公共サービス改革推進室 『よくわかる!公共サービス改革法(市場化テスト法)入門』 2006年10月05日
内閣府公共サービス改革推進室 『詳解 公共サービス改革法―Q&A「市場化テスト」』 2006年12月04日
南 学, 小島 卓弥 編著 『地方自治体の2007年問題-大量退職時代のアウトソーシング・市場化テスト-』 2005年08月22日
八代 尚宏 (編集) 『「官製市場」改革』 2006年01月27日
大住莊四郎 『ニュ-・パブリック・マネジメント 理念・ビジョン・戦略』 2005年01月23日
■ 百夜百マンガ
スリ→手が早い→ボクサー、というのも安易だとは思いますが、「ダッシュ勝平」からの流れではやむなしか。
投稿者 tozaki : 23:00 | コメント (0) | トラックバック
2007年02月26日
現代日本官僚制の成立―戦後占領期における行政制度の再編成
■ 書籍情報
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【かっとばせキヨハラくん 】
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【熱闘コンドルズ 】
【スタンレーの魔女 】
【まあじゃんほうろうき 】
【味いちもんめ 】
【赤胴鈴之助 】
【THE STAR 】
【カスミ伝 】
【プ~ねこ 】
【怪奇版画男 】
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【キーチ!! 】
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【反逆ののろし 】
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【よいこ 】
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【ドッジ弾平 】
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