公職研「地方自治職員研修(99/12)」掲載前草稿
『市町村経営フォーラム ’99開催記』 増田昭男
(あまがさき未来協会)
上山信一
(行政経営フォーラム主宰)「分権化時代の××」という言葉を、最近、よく耳にする。だが、今回のーー事務の廃止などの一連の制度改正は、主に国と県との間のしきりに係わるものが中心である。「市町村」には必ずしもスポットライトが当てられなかった。当の市町村はどうかといえば、介護保険の導入やら、小学校の学級崩壊の問題やら、目先の問題のもぐら叩きでますます忙しくなっている。住民あるいは地域コミュニティのニーズということから考えると、基礎自治体としての市町村の責任はますます重くなる一方だ。福祉介護、ごみなどの日常サービスの担い手はほとんど市町村である。また、一人暮らしのお年寄りなど、弱者が頼りにする行政は、国でも県でもなく市町村である。現に英国では、ほとんどの県で県が廃止された(一層制)。こうした世界のトレンドに照らしてみても、「市町村はコミュニティ活性化のカギ」なのである。
さて、このような思いをもとに、今回、初めての試みとして、市町村の経営のあり方を考えるためのフォーラムを、今年五月十四日、尼崎市で開いた。この企画は、非営利の自主研究団体である行政経営フォーラム(主宰者:マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー・上山信一)と尼崎市の外郭団体であるあまがさき未来協会の共同主催プロジェクトである。
当日は、全国から二〇〇人もの参加者があった。顔ぶれはさまざまである。市町村長や議員はもちろん、建設省などの中央官庁や県庁の職員、またシンクタンク、大学の先生、ジャーナリストなど、地方自治に興味をもつ幅広い人たちが集まった。
@〈米国の自治体改革最新事例報告=元ワシントンDC財務計画室勤務・井上英之氏、慶應義塾大学・玉村雅敏氏〉
午前の第一セッションでは、ベンチマーキング作成演習と、オレゴン州、ソルトレーク市、ワシントンDCなどの米国自治体における、ベンチマーキングによる行政改革の事例紹介が行われた。米国では、行政サービス改善にベンチマーキングの手法を用いる、非常に進んだ取り組みが行われている。また、野球のピッチャーを例にベンチマーキングの演習をやるという発想は秀逸だった。A〈報告『自治体の挑戦』の連載を終えて=ジャーナリスト・細川珠生氏〉
同氏は全国四〇ヵ所以上の自治体を足で歩いて取材し、サンデー毎日に各地のささやかな成功事例を紹介してきた。細川氏が推薦する全国トップ5の改革事例の発表があったほか、「せっかくほめた記事を書いてもけなして、ほとんど反応のない各自治体の不思議さ」についてのコメントなど、耳の痛い話もかなりあった。マスコミとの建設的な付き合い方をどうするか、という重要な問題提起があった。B〈基調講演『自治の現場と課題』=ニセコ町長・逢坂誠氏〉
ニセコ町長は、町民と徹底した「情報の共有」を進めてきた。例えば、「道路改良は何々さん方の軒先から何々さん方まで」と、とてもわかりやすい予算趣意説明書をつくり、町民にもわかってもらえるような努力をしてきているといったことに、一同、感服した。ちなみに、逢坂さんは一一年間の町役場勤務の中でおかしいと思っていたことにチャレンジして、初心のまま町長になって改革を実践している方である。この日の講演は、NHK教育テレビ「ETV特集」の取材も入った。C〈関西の自治体改革の事例=関西学院大学助教授・石原俊彦氏〉
臼杵市、長浜市、尼崎市など、市町村レベルの改革事例の紹介があった。特に興味深かったのは、長浜市の事務事業評価である。インプット→プロセス→アウトプット→アウトカム、という成果測定の流れに「インカム」を加えるべきという発想は、とても新鮮だった。これによって、産業振興政策や長期的にしか評価できないインフラ事業への評価の視点が加わり、行政評価がより「腰の据わった」ものになるはずである。「インカム」は「インプット」につながるものであり、一連の流れが連環し、理論的にも魅力あるものと思う。また、石原先生の「アメリカの事例の紹介が進み、先進自治体の取り組みも始まった。すでに知的インフラは整ったので、それをどう使いこなし、実際のものにするのかが今後の課題」というコメントには、会場でうなづく人が多かった。D〈パネルディスカッション『市町村は何に取り組むべきか』=パネラー:逢坂誠ニセコ町長、横尾俊彦佐賀県多久市長、某県M氏、あまがさき未来協会増田昭男、コーディネーター:行政経営フォーラム上山信一〉
一同驚いたのは、横尾市長が松下政経塾を経て、まだ二〇代のころ、自分で勉強してサニーベール市までインタビューにでかけていたという事実である。さらに驚いたのは、同氏が初登庁の日、市庁舎の周りを掃除したところ、職員たちが驚いて集まってきて隣の公園の掃除までしてしまった、というエピソードだった。就任二年目の市長さんだが、これからがたいへん楽しみだ。某県M氏の話には、会場は水を打ったようになった。M氏は、財政破綻に瀕したある市の助役に出向。「ムラ」の体質を色濃く引きずる市役所、議会で質問されても質問の意味すら理解できない部長たち、に出会う。市長に「人事権を預からせてください。にらまれ役は私がやります」と申し出て、出先に飛ばされていた有能な人材を発掘。人事・財政・企画を若手で固め、二〜三人を除いて部長を総入れ替えし、執務中の役所をうろうろする土建屋たちを立ち入り禁止にして……といった努力が実り、職員も活性化し、市再建への道筋をつけた、ということだった。身も蓋もないリアルな「地方」の話だった。
さて、この日の討議を踏まえて、行政経営フォーラムでは、最後に、「あまがさき’99宣言」を採択した。全国で改革に取り組もうという市町村の関係者に宛てたメッセージである。ご一読いただきたい。また、これに対するコメントやご意見があれば、次のアドレスまでEメールで送っていただきたい。
あまがさき未来協会: mirai4@jade. dti. ne. jp
行政経営フォーラム: pmf-info@vcom.or.jp(※本文章は執筆者原文のものです。掲載のものとは若干異なります)