時事通信社「地方行政」(1998.11.12)掲載前草稿

米国の「行政評価専門家会合」参加レポート(中)
『”住民の信頼”をどう確保するか』

玉村雅敏
(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科)

はじめに

 本年五月、米国テキサス州オースティン市において、「Management for Results ― Decision Making in the Age of Accountability ―」とタイトルのつけられた行政評価(Performance Measurement)の専門家を集めた大会が開催された。

 今回で三回目となるこの大会は、合計六三九人(参加者名簿掲載者数)のシティマネージャや行政評価担当部門代表者といった行政評価の実務家・大学の研究者・行政経営のコンサルタント・会計士などが、全米はもとより、カナダ、ドイツ、日本といった諸国から参加しており、三七の報告セッション(分科会)と三つの特別ワークショップにおける現場の体験に基づいた活発な議論を通じて、行政評価の現状や最新手法、研究成果などを知ることのできる、大変参考となるものである。

 それぞれの報告セッションには一時間三〇分づつ割り当てられており、各テーマについて幅広くかつ奥深く報告ならびに議論がなされ、大変熱気にあふれるものであり、この大会の様相を見るだけでも、行政のあるべく姿を作り直そうという「行政革命(Reinventing Government)」が進行しており、行政の世界に大きな変化が現われ始めているということが体感できるものであった。

 本稿では、前回の上山氏による、米国における行政評価の全般的な傾向や浸透度合い、直面している課題などの報告を受けて、大会の報告全般においてみられた行政評価の体験からの共通認識や、評価手法を導入することが当たり前になっている、米国の地方自治体レベルでの行政評価の最近の潮流を、具体的な事例の解説を通じて紹介する。

 

米国地方自治体における行政評価のトレンド

 米国におけるベストプラクティス(成功事例)は、前回の上山氏の報告にあったとおり、オレゴン州やカリフォルニア州サニーベイル市、オレゴン州ムルトマ郡といった、これまであげられていたものばかりではなく、ミネソタ州やフロリダ州、ルイジアナ州、ノースキャロライナ州シャルロット市などといったいくつかの新しいベストプラクティスが挙がってきている。

 大会では、これらのベストプラクティスを実現した当事者(シティマネージャーや担当部局のトップなど)によって報告がなされたが、そこで発表されたこと全般と当事者間での議論などからわかる、行政評価に積極的に取り組んでいる、これらの米国地方自治体が重視する現在の共通的な論点として、以下の三つの点が指摘できる。

1.効果的なアカウンタビリティをいかに実現するか
2.行政プロセスに市民をいかに巻き込むのか
3.指標の質をいかに向上させるか―全州レベルの指標活用と民間との競合

 

効果的なアカウンタビリティをいかに実現するか

 世界的な傾向として、行政経営における大きな論点となっているのは、大会全体の副題(Decision Making in the Age of Accountability)にもされているとおり、「アカウンタビリティが求められている時代においていかに行政経営を進めていくのか」という点である。ちなみに「アカウンタビリティ」とは、日本語に翻訳すると、「報告・弁明・説明義務(責任)」または「実施義務(責任)」と訳されるものであり、説明をすることを通じて顧客(行政の場合は住民)からの信頼を確保するといった意味合いも含むものである。

 政府の行っている活動に対するアカウンタビリティを実現する方法として、米国では、行政活動のパフォーマンスを数値指標として示す業績評価や、英国の市民憲章(Citizen’s Charter)に類似する形で政策の効果を市民に公約するといった方法、貸借対照表や資産会計などの公会計制度を整え、またその現状を広く公開するといった方法などを利用して、「制度的」に整備を進め実現しつつある。そして、このような制度として政府の活動をわかりやすくする仕組みが導入された後に、その延長線上として直面しているのが、いかにして効果的に住民に情報を提供するのか、いかに住民と情報を共有するのかといったレベルである。すなわち、住民が見てわかりやすい形に行政システムを改革した後の話として、行政のやっている活動を住民に効果的に伝える「伝達方法」が問題となってきているのである。

 これまで取られてきた伝達方法としては、政府の活動に関する説明パンフレットの配布や説明会・講演会の開催などが行われてきたが、最近注目を集めているのが、「インターネットの活用」である。政府が行っているすべての活動を住民が容易に理解できるようにする方法として、インターネットの活用が進められている。

 具体的には、政府の行っているすべての活動やプログラムの情報をインターネット上のホームページとして参照できるようにし、検索機能やハイパーリンクの構造を利用して、多様な切り口から行政の活動を把握できるといった仕組みを構築しはじめている。また、あわせて市民のコメントをいつでも電子メールを通じて受け付ける態勢にすることも行っている。インターネットのリアルタイム性を利用して構築するこの仕組みによって、政府は現在、どういった目標に向けてどのような手法を使って進んでおり、今どのような状態に置かれているのか、また、その活動の根拠となる法令は何か、といったことが常時わかることが実現し始めているのである。さらに、この仕組みは、住民に対して政府の現在の活動を理解してもらうといった役割以外にも、政府内部において第三者機関から政府内の政策担当部局に対して、常時最新の指標を提供するといった役割や、他部門で行われている活動をいつでも参照ができるようにするといった情報共有の役割を果たすものとしても活用している。

 こういった効果的なアカウンタビリティの実現を目指したインターネットの活用は、実際にすでに多くの自治体で利用が進められているが、今回の大会の場で何回か言及されていたのは、ミズーリ州とフロリダ州の取り組みである。(フロリダ州の取り組みについては、新しいベストプラクティスとして注目されている「フロリダベンチマーク」ともあわせて、次回紹介する。)

 

行政プロセスに市民をいかに巻き込むのか

 大会中にたびたび耳にしたのは、Citizen Involvement、もしくはPublic Involvementという言葉である。

 Citizen InvolvementといったときのInvolvementは、日本語では「参加」といった訳がなされる言葉である。しかし、この訳にあわせて「巻き込むこと」といった意味合いも持っている言葉でもある。すなわち、involveは、自動詞であるParticipate(参加する)とは異なり、他動詞として他人を能動的に巻き込むという意味合いを持つ言葉なのである。行政プロセスにおいても、一つのキーワードとして、この言葉が使われるようになってきている。行政評価を進めてきた自治体では、「第一段階としては、行政評価の手法を利用することによって行政の活動の質を向上させることは達成しつつあるが、次の段階として、本来目指すべく『地域全体の生活水準(Quality of Life)』を改善するためには、民間(地域住民や地元の民間企業)を巻き込んだ(Citizen Involvement、Public Involvement)、大きな動きとしていくことが不可欠となってきている」といった認識を共通的に持っているのである。

 このInvolvementにおける成功事例として紹介されていたのは、自前の「住民ニーズ調査(Citizen Survey)」を通じて評価項目を作り上げた成功例としてバージニア州のプリンスウィリアム郡、「市民による作業チーム(Focus Group)」を利用して評価指標を作り上げたオハイオ州デイトン市などである。

 バージニア州プリンスウィリアム郡では、まず、一人当たりの平均一八分間の電話による質問を統計的に優位な件数(二六万人の人口に対して約九〇〇件)行い、政策の優先順位を決め、その結果を受けて、再び同様の調査を行ってサービス目標(サービススタンダード)を設定するというやり方ですべて自前で評価項目を作り上げた。また、同様にフロリダ州でも二〇〇〇人以上を対象に質問用紙調査を行ってベンチマークのゴール設定を行っている。こういった「住民ニーズ調査」は、単に「成果指標の設定」といった直接的な目標を実現することだけではなく、そのプロセスを公開しながら進めることで「政府の役割や地域の未来のあり方に対する住民間の論争」を引き起こすということも目的としており、フロリダ州のケースを報告した担当者Karen Stanford(FL Commission on Government)は、「論争を引き起こすことに関してある程度の成果があるものであった」との自負を持っていた。

 また、オハイオ州デイトン市では「プライオリティ・ボード」と呼ばれる七つの「市民による作業チーム」を結成し指標作りを進めてきた。こういった「市民による作業チーム」を結成するといった方法は、コーディネーションの難しさなど、ややレベルの高いものであるが、もともとデイトン市では一九七一年以来、様々な市民参加の活動を重ねてきたという実績があり、蓄積されてきたノウハウの上に進められている。そこで進められている方法の概略を説明すると、職業的には主婦から経営者まで、年齢的には若者から高齢者までと、多種多様な立場をもっている、各々イメージする「まち」の姿が異なるメンバーで構成される「プライオリティ・ボード」と呼ばれる七つの市民作業チームを結成する。まず、こういった多様なメンバーから構成される七つの各チームそれぞれが、チーム内で議論を重ねることやアクティブに住民インタビューなど重ねることを行い、市民の中にどういった要望があるのかをあぶり出すことを行う。続いて、各チームから一名づつ選出された計七名のメンバーからなる「市民アドバイザー・グループ」を結成し、専門家のグループと一緒になり実際の指標を作り上げていくというステップで作業を進めている。このプロセスによって、当初八〇項目出せれた指標が地域の未来にとって高いアウトカムが特に期待できる一九項目に絞り込まれていったのである。

 こういったデイトン市以外にも、政府の持つ限られた資源(予算や人員など)をどこに集中するのかについて、市民によるワークショップ(フォーカスカンサスシティ)を開催している決定しているカンサス州カンサス市や、「GAP(The Government Accountability to the People)コミッション」という市民ボードによってベンチマークや注意指標などを検討しているフロリダ州の手法などが大会では報告されていた。

 

指標の質をいかに向上させるか ―全州レベルの指標活用と民間との競合

 前回に上山氏が指摘したとおり、米国において行政評価を行ってきた自治体の経験から、行政評価のレベル(段階)といったものが、「行政評価の資源配分や政策立案への利用度合い」や「行政評価の政策プロセスへの組み込み方」、「競争原理の利用度合い」といった形で、指摘できるようになってきている。詳細はそちらを見ていただくことして、実際の成果を実現できる「質の高い指標」を設定することに成功しているベストプラクティスにおいて共通していることは、州政府(state government)が設定する州全体(Statewide)の指標と、各部局(agency)の設定する指標、各地域の政府(local government)が設定する指標の三者が有機的に関連付けられている・連携させられている(link)ということである。こういった全州レベルの活動でのベストプラクティスとしては、オレゴン州のオレゴンベンチマーク、ミネソタ州のミネソタマイルストーン、フロリダ州のフロリダベンチマークの3州の取り組みが有名となっている。

 また、高い成果を実現するために「連携させる」といった視点だけではなく、隣接する自治体や同規模の自治体を競争的な比較対象とすることや民間の類似サービスとの競争的比較を行うといった「競争環境を作る」といった視点から、指標の質の向上を図るといったことも行われている。この例としては、ノースキャロライナ州シャルロット市の行政評価が知られている。

 

 次号では、これまでに指摘した「米国自治体における行政評価のトレンド」の三つの特徴すべてを持っている事例として、「フロリダベンチマーク」を中心としたフロリダ州の取り組みについて、大会において報告されたことに加えて、コンフェレンス後に追加調査・取材したことも合わせて紹介をする。

  (※本文章は執筆者原文のものです。掲載のものとは若干異なります)