19:シアトル戒厳令
ニュースでもご存知と思いますが、今WTO(世界貿易機構)の多国間協議が行われているシアトルが大変です。戒厳令、と書いたのは多少大げさなのですが、暴徒と機動隊が衝突し、催涙ガス弾がばんばん打たれ、シアトル市長が夜間外出禁止令(都心の会議場周辺のみ)を出し、州軍もバックアップに出動するという事態ですから、エメラルド・シティ(シアトルの愛称)の都心は物々しい雰囲気に包まれています。
市長が外出禁止令を出す、というところに「?」と思ったのですが、考えてみれば市長はシアトル市警察という治安機関の長ですので、禁止令を実施する力と責任とがともにあるわけです。
ポートランド州立大学のトイレにも「シアトルに行ってWTOに抗議しよう!」という落書きが書いてありました。どうも、世界中の耳目が注目するこの会議を背景に、一発派手に抗議行動すればマスメディアにも華々しく取り上げられるということで、全米のありとあらゆる「抗議団体」「反体制グループ」が集まった観があります。その主義主張は実に多様で、遺伝子工学反対、農業補助金カット反対などから始まって、特に目立っていた主張は「環境保護(開発による環境破壊反対)」と「(途上国の)労働者搾取反対」でした。
新聞で「エコ・テロリスト(環境テロリスト)」なる言葉を見たときは、冗談かと思いましたが、本当らしいです。地球にやさしければ人間にはやさしくなくてもいいのかなぁと思うのですが。でもこの国では過激派の動物愛護主義者が、類人猿を実験に使う科学者たちにカミソリ入りのレターを送りつけるというようなことが現にあり、人間は愛護してくれない動物愛護主義者というのも実在するので、環境テロリストというのもあるんでしょう。
さて、問題の「衝突」は火曜日の朝に起こりました。抗議グループが、会場(ワシントン州コンベンション・トレードセンター)周辺に集結し、「身体を張って」にWTOの各国代表が会場入りするのを阻止しようとしました。この人たちの大半は非暴力的抗議者だったのですが、その数六千人かそれ以上。(中には「絶滅危惧種」であるウミガメの扮装をしている人たちも。)排除しようとする警察とにらみ合いになりました。
抗議集団が各国政府代表を追い返す事態を見て、警察は催涙弾を使用、強制排除に入ります。白煙たなびく阿鼻叫喚の中、その混乱に乗じた「跳ねっ返り(アナーキスト)」五十人ばかりが好き放題に暴れまくったようです。「催涙ガスの白煙たなびき、店のウインドウは粉々に壊され、新聞のボックスが路上に散乱、火をつけられたゴミ箱が炎上している(オレゴニアン紙)」という惨状を呈しました。
以来会場周辺は「抗議禁止ゾーン」として警察が封鎖しています。器物損壊による損害そのものは、数千万円のオーダーのようですが、都心の目抜き通りが「人影もまれ」という状態になってしまって、折しもクリスマス商戦のかきいれ時にもかかわらず、売り上げの激減は確実と地元商店は頭を抱えています。
WTO多国間交渉は、加盟135ヶ国から5,000人の代表団がやってくる巨大国際会議です。米国開催が決まったあと、シアトルが国内40都市と競争して開催市を勝ち取りました。かつてAPECの首脳会議の開催も経験しているシアトルですが、今回「グローバル資本主義の象徴」としてWTOが狙い撃ちにされるというところまでは予想できなかったようです。WTOの会議日程の決定が難航し、先約が入っていた米国検眼学会(4,500人)を蹴飛ばすという無理をしてまでこの時期にしたそうなのですが、最初から「年末の繁忙期によりにもよって」と批判されていました。誘致関係者も「長い目で見て」と弁解していたような状況でしたから、今回の事態は本当にダメージだったと思います。
今回の騒擾で、市民はしかめ面、商業者は怒り心頭、会議参加者はスケジュールの遅れに苛立つというわけで、あっちからもこっちからも文句の言われどうしに違いない、ホスト市の関係者たちの心労が思いやられます。