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21:シアトル市の災難


 シアトルに栄誉をもたらすはずであったWTO会議は、散々な結果となって終わりました。国際会議の誘致は日本でも盛んですが、今回のケースは国際会議が負の遺産を残すこともあり得る、ということを示しました。シアトル市長は「もう国際会議はコリゴリ」と発言、市警察のチーフは混乱の責任をとって辞表を出しました。国際会議がかえって都市イメージを傷つけ、財政的な損害をもたらすという、たいへん希有なケースです。

地元紙「オレゴニアン」に載った総括の記事を紹介します。ちょっと長くなりますけど、おつき合いください。

「混乱のWTO後、怒り、戸惑うシアトル」(12月6日オレゴニアン)

それはシアトルの名前を世界に輝かし、旅行者が1,100万ドルを超える金を落としてくれるはずだった。しかしそのかわりに参加者とデモ隊がこの「アメリカでもっとも住み良い都市のひとつ」を去ったときに残されたものは; 破壊されたショーウインドー、合板でふさがれたビル、(催涙ガスで)ひりひりする目といがらっぽくなった喉、1,200万ドルを超える失われた売り上げ、損害賠償請求訴訟に対する脅え。まちと住民が暴動によって傷つけられたという気持ち。高圧的な戦術を用いた警察に対する腹の底からの怒り。部隊の投入地点を間違えた警察の指揮官たちへの同じ怒り。この会議をシアトルに誘致した市の指導者たちに裏切られたという感覚。また大きなイベントがあれば今度は反対するぞ、という決意。そして恥辱。世界中からこのまちがどう見られたことか!(こんな)結果を予測することもなく国際会議を熱心に誘致したウブさ加減!

自由な気風を誇りとするこのまちが、少なくとも数日、警察国家の観を呈したこと。 

スターバックコーヒーのハワード・シュルツ会長は「私たちは、人々がニュースで見たイメージを背負っていかなければならない。少なくとも、それによってかつては宝石であったものに疑問符がつけられたのだ。」という。シュルツをはじめ多くの人々は、疑念を克服し、落ち着きを取り戻して通常の生活に戻るように言う。確かにショーウインドーは修理された。だが、彼のコーヒーハウスは、全世界が注目する中で略奪され破壊されたのだ。

「ほんとうに個人的な体験として受け止めているよ。」とシュルツは語る。「まるで自分の家族が襲撃されたような気分だった。」

 

▼金銭的な影響

 先週起こったことの影響のうちで、金銭的影響はいちばん計量しやすいもののはずだが、それですら簡単ではなさそうだ。「シアトル都心会」は、1,200万ドルを超える売り上げが失われたと見ている。同会の調査によれば、財産の損害 250万ドルがこれに加わる。郊外の小売店もふるわなかった。人々は騒動をテレビで見るために家にいたのだ。商業者の怒りはポール・シェル市長とWTOを誘致した「シアトル誘致委員会」のメンバーである通商官僚と企業に向けられている。すでに都心会は市の「緊急事態基金」から損害の補填が受けられるのかどうか問い合わせており、また誰に対して訴訟を起こすべきか検討している。

「先週の日曜日からの売り上げといったら、全部でたったの9件だったわ。」と手作りの陶器、ランプ、高級家具、ギフトを扱う店を経営するアルバータ・ワインバーグは言う。先週のある日などは「一日で売れたのは2ドルのグリーティング・カードだけ・・家に帰って泣いたわ。」大規模紳士服店の「マリオズ」は一日あたり75,000ドルの売り上げに加え、木曜日に予定していた「お得意さまご招待」セールのキャンセルで20万ドルの売り上げを失った。

 公共機関も金を失った。市役所は警官の時間外手当、暴徒対応装備、清掃と後かたづけなどのコストと、失ったパーキングメーター収入、失った売上税額について算定中である。その額は、WTO会議のために予算計上されていた額、600万ドルよりはるかに大きくなると見られる。

 会議が始まる前、市は商業者に手紙を出して、1,100万ドルが彼らのキャッシュ・レジスターに流れ込んでくると言っていた。だが、WTOの代表団は、通常のコンベンション参加者のようには自由な時間もないし、買い物をよくしてくれる配偶者を連れてもいない、と懐疑的な商業者は主張していた。

▼新たなる醜悪さ

 そして痛恨の一撃。テレビで何度も流された、若いデモ隊を追い回す、対暴徒装備に身を固めた警官のイメージは、多くの人々がかつてシアトルでは見たことがない「醜悪さ」の象徴となった。このときまでに、シェル市長は非常事態を宣言し都心に外出禁止令を敷いていた。その他の脳裏を去らないイメージ;倒れたデモ隊を蹴飛ばしている警官、催涙ガスが依然濃く漂う中、テレビレポーターのガスマスクを切り裂く警官。WTOのレセプションに行く途中で警官により車から引きずり出される黒人の市会議員。

 シアトルではデモ隊が自発的に抗議行動の前に警察と相談することになっていた。WTO代表団が到着する前にも、デモ隊のリーダーと警察は、平和的な実施方法について詳細に話し合いを行っていた。だが、火曜日の開会式の前、デモ隊のうちの裏切り者が警察を出し抜き、代表団が会場に行けないようにブロックしてしまったのだ。正午には過激派(アナーキスト)たちが都心を叩き壊してしまい、公衆の怒りを買っていた。だが暴力行動が広がり警察が力で対抗するようになるにつれ、世論のかなりの部分が警察が統制を失っているのではないかと恐怖を感じるようになった。反WTOの叫びが反警察の叫びに代わった。特に警察とデモ隊が衝突したキャピトル・ヒル地区の住民は「侵略された」と感じていた。

「警察は催涙ガスを人々に使い始めたの。完全に常軌を逸していたわ。」とキャピタル・ヒル商工会の前会長であるグレンダ・ブラッドショーは語る。彼女の怒りは、WTO誘致のシンボルである都心の大企業にも向けられる。「都心部はえこひいきされている。このざまは、彼らの自業自得よ。」 指弾の嵐は終わらない。

 年輩者は若者の無思慮な破壊行為を非難し、若者は自分たちが獣のように虐待されたと感じている。あらゆる主義主張のデモ隊の人々が、看守から憲法違反の取り扱いを受けたと主張している。シアトル住民は、よそ者のせいでひどい被害が出たと非難する。商業者は、警察が守ってくれなかったと非難する。現場の警察官は、人員不足でこき使われ、デモ隊に対処する十分な装備もなかったと管理職を非難する。郡の保安官は市を批判する。市が連邦政府を十分な予算をくれなかったと非難すれば、連邦はもっとましな準備ができていたはずだと応酬する。シアトル中の市民が、市とWTO誘致委員会を非難している。

 

▼世界の視線

 誰に尋ねるかにもよるが、世界の目に映ったシアトルの様子は以下のようなものだ。(殴られて)目に黒痣をつくっている。 赤面している。 向こうずねを蹴っ飛ばされた。(破壊された建物を応急にふさぐ)合板のジャングル シアトルがサンディエゴやホノルル、デンバーを負かしてWTO開催都市という

「ジャックポットを引き当てた」とき、通商官僚や政治家が心に描いたイメージは、こういうものではなかったはずだ。今やシアトルは手ひどくつまづき、テレビのドラマチックな場面で、不穏分子と過剰に熱心な警察の立て籠もるところとして描かれてしまった。オーストラリアのシドニー・モーニング・ヘラルドは「ごみくず都市対世界の貪欲:シアトル騒乱」と見出しを打った。WTOの行事が開催できなかった開会の日「いかがわしい歴史」が作られた、とインドのタイムズ紙は書いた。ロンドンのタイムズ紙は、ガスマスクをつけたデモ隊と火をつけられて燃え上がるゴミ箱の写真を伝えた。コメディアンのジェイ・レノからはジョークにされた。「シアトルってさ、とってもヤッピーな(上品ぶった)まちだから、警察だって挽きたてのペッパー・スプレー(挽きたての胡椒と暴徒鎮圧用の催涙スプレーのしゃれ)しか使わないんだぜ、知ってたかい?」ワシントン・ポストのコラムでは;「おそらくは極端な市民の思い上がりとでも言うべき事例だが、シアトルはデモ隊を雰囲気の良い、カプチーノをすすりながらのセッションに囲い込むことができると期待していたのだ。」プロ野球の監督には「あんな混乱したところでプレイしたいというヤツの気が知れん。」と言われた。 

地元では、長期的なダメージについての意見は分かれている。シアトルから全国的な小売業が撤退するようなことはあり得ないという意見もある。シアトルの商業集積は強力であり、「一度は訪れるべきところ」としての地位は揺るがない、というものだ。

 さて、今後シアトルが大規模国際会議の誘致競争に乗り出すことがあるだろうか。 シェル市長は、「自分の任期中はない」と言っている。

 他の人々は? ただ「アーメン」と言うのみ。


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