27:増税の市民投票
ポートランドでは桜が満開です。丈の高い、濃いピンク色のサクラがあちこちの道端に咲き誇り、なんかすごく嬉しいです。本当はハナミズキという木だという説もあるのですが、見たところ立派なサクラなので、花見を楽しんでいます。街路樹として植えてあるので背が高く、下を通ると濃厚で妖艶な匂いがします。しかし満開の桜の下で、誰も花見をしていないというのは、何か許せないような気がします。何十本も桜並木が続いているところがあちこちにあり、それはそれはゴージャスな眺めなのに、ピンクの花びらが華麗に可憐に舞い散っているのに・・・、誰も見てやっていない! まこと、アメリカ人は「もののあはれ」を理解しない無粋な連中であります。(公共の場所で公然と酒を飲むのは、こっちでは犯罪です・・・ピューリタン的無粋というものでしょうか。)
春学期が始まって、娘が学校からお知らせをもらってきました。その中に「増税」の承認を求める市民投票についてのチラシが入っていました。いつかの下水道整備のアンケートとは違って、本物の市民投票です。そのチラシがたいへん面白い。米国で「税金を払っていただく」ことの大変さが、とてもよくわかります。
チラシには、投票用紙がそのまま掲載してあり、投票用紙の記載内容から線が引き出してあって、詳細な注が付けてあります。投票用紙だけ見ても、だいたいの内容はわかるようになっています。以下の翻訳で「★原注」とあるのは、チラシにあった説明です。
投票用紙 ムルトノマ・カウンティ オレゴン州
2000年5月16日「26−2 学校の教育内容を復活させ、時代遅れになった教科書を更新するための五年間課税について」
【問い】
教科書を更新し、教育内容を復活させ、学級規模を小さくするために、2000年から向こう五年間、1000ドルの資産評価額に対して75セントの課税を学校区にさせてもよいですか? この市民投票により、資産税が3%以上増加するかもしれません。
はい いいえ
【要約】この市民投票は、50%以上の投票率があった上での選択で承認されます。過去十年間、ポートランドの公立学校の生徒は、教育内容を減らし学級規模を増大させることになった教師・カウンセラー・司書442人のカット(★原注1)を経験してきました。同時期に、ポートランド学校区は施設費を減らし、学校区予算全体の5%にも相当する額の本庁管理経費を削減するとともに(★原注2)、財政システムの更新に取り組みました。この五カ年の課税により、さらなる削減を防ぎ、生徒に対するサービスを復活させ向上させることができます。
税収の使途は:
・時代遅れになった科学、歴史その他の教科書の更新すること。それらは十年から十五年前のものです。(★原注3)
・美術、音楽その他の基本的教育内容の復活を助けること。
・170人の教師を新規雇用し、備品を整備し、研修することにより学級規模を小さくすること。(★原注4)
・学習困難児童へのサマースクールや、土曜学級などの必要とされるプログラムを支援します。(★原注5)
【金銭的影響の推定】
この課税により五年間に 7,830万ドルの税収が見込まれます。各年度の額は、2000-01年が 1,410万ドル、2001-02年が 1,500万ドル、2002-03年が 1,570万ドル、2003-04年が 1,640万ドル、2004-05年が 1,710万ドルです。課税は1000ドルの資産評価額に対して75セントです。標準世帯で一ヶ月あたり8ドルになります。(★原注6)(訳注:以上が投票用紙記載事項です。)
★原注1:「100の学校全てから442人のスタッフを削減」
・十年前、ポートランドの小学校にはカウンセラー、音楽教師、体育教師そして司書がいました。今日、多くの学校はそういうスタッフを持ちません。あるいはこれらの教育内容については時間を半分以下にしたりしています。
・高校のカウンセラーが担当する生徒の数は、350人から500人へと42.5%も増えています。
・全ての学年で学級規模が大きくなっています。多くの小学校や中学校のクラスが30人以上になっています。高校のクラスはさらに大きくなっています。
★原注2:「管理経費の削減」
・本庁管理経費は、全体予算の5%に相当する額が削減されています。学校現場の教師の削減は11%であるのに対し、管理及び支援の職員は17%削減しています。
・施設維持管理の職員数は40%削減しました;維持管理の管理職は50%削減。
★原注3:「原時代遅れになった教科書を更新します」
・社会科学の教科書の中では、ソビエト連邦がまだ存在し、ベルリンの壁がまだ立っている世界で、ロナルド・レーガンが現職大統領として記述されています。
・科学の教科書は1980年代から使われており、インターネット、地球温暖化、最近の宇宙探査、多くの医学の進歩と環境問題についての最新の情報に欠けています。
★原注4:「税収で教師を増やします」
・新しい教師は、学校区全体の学校に、生徒数に応じて配分されます。全ての学校の利益になります。
・学級規模を小さくし、美術や音楽の授業を復活させるために、どのように教師を増やすかということは、各学校が決定します。校区住民は、親と教師と校長を含む地区委員会を通して意見要望を言うことができます。
★原注5:「プログラムが生徒により多くの時間を与えます」
・サマースクールその他の特別プログラムは、学習についていけない子どもたちに、勉強する時間をより多く提供します。またより小さな学級規模になることにより、個々の生徒に対してより多くの注意が払われるようになります。
★原注6:「金銭上の推定」
・市場価格175,000ドルで評価額120,000ドルの資産を持つ、ポートランド学校区の平均的家庭に基づいています。
上記情報は、「ポートランド公立諸学校」が提供しています。印刷は、ポートランド電力の寄付によるものです。(以上、チラシからの翻訳です。)
米国の自治体がどれほどお金がないかよくわかる資料でした。特に、学校教育という、基本中の基本の行政サービスについて、こんなにもお金がないことはやはり問題です。「予算がないから音楽や美術、体育の授業がなくなる」という、私たちの感覚からすると「あまりと言えばあんまりな」ことがまかり通ってしまうようでは「納税者主権」も少し行き過ぎじゃないか?と思っていました。娘の行っている学校のように校区が裕福なところではPTAが募金を募って音楽や体育の教師を雇えるが、そうではないところは雇えない。シビル・ミニマムがクリアされていないわけで、「それでいいのか!」と思っていたら、こういう「増税」の話が出てきて、「そうか、やっぱりアメリカ人も平気じゃなかったんだ」と少し安心しました。
教育熱心な日本人の感覚からすると、文句なしの「イエス」という市民投票ですが、ポートランド市民はどう判断するのでしょうか。ポートランドの有権者の良識が問われる市民投票です。投票は全て郵送。5月16日までに選挙管理委員会に到着した投票で、結果が決まります。