時事通信社「地方行政」掲載前草稿

連載:行政サービスにマーケティング手法の導入を
第一回 『なぜ行政サービスにマーケティング手法が有効なのか』

上山信一
(マッキンゼー日本支社パートナー 行政経営フォーラム主宰)

はじめに

 筆者は、民間の経営コンサルタント会社のパートナー(共同経営メンバー)をしている。民間企業の新規事業の立案や事業構造の転換、あるいは組織設計などを手がけて十二年になる。実は、この仕事に移る前は国家公務員をしていた。そのようなこともあり、最近の日本の行政改革のやり方を見ていると、気になることがいくつもある。

 その問題意識が高じて、昨年は、本紙で「行政に評価制度の導入を」という連載をさせていただいた。そのときは主に、行政の経営効率を改善するために、民間企業の目標管理の手法に習って、第三者がその数値目標の達成度をチェックする仕組み(行政評価)を導入すべきである、といった提案をした。(詳しくは『行政評価の時代:NTT出版』を参照)

 しかし、行政改革の目的は何も、効率改善や財政赤字の削減だけではない。税金を払う市民は顧客であり、顧客側から見たサービスの質を向上させたり、満足度を高めるということが、一方では求められる。現に、海外の行政改革を見ると、「成果指向」と「顧客指向」の二つが車の両輪として、行革の目的に明確に位置づけられている。米国のクリントン政権の一連のナショナル・パフォーマンス・レビューはそうだし、英国やニュージーランドの改革も、「市民憲章」を定めて、市民の立場から見て行政のサービスはここら辺りをめざすべし、という目標設定を迫っている。

 国民、市民の立場にたった行政改革とはいったい何か。このことに照らして考えてみると、わが国で現在進行中の行政改革は、その改革手法そのものに大きな疑問がある。

 「成果指向」ということに関しては、かなり問題提起がされてきている。今年春の国の行政改革会議の最終報告書を見ても、効果効率を追求するためのさまざまな手段(エージェンシー制、政策評価など)が意識されている。また、地方自治体を中心に行政評価を導入しようという動きが出てきており、税制危機をきっかけとして、効果効率を追求する動きのほうは、それなりに動き出していると思われる。

 一方、国民、市民の満足度を上げていくという「顧客指向」に向けての動きは、極めて鈍い。日本の自治体が取り組みつつある行政評価の中身を見ても、いわゆる「執行評価」に近く、行政サービスの効率改善やコストダウン、事務事業の整理廃止につながるテーマばかりが目標としてあげられていて、スリム化、緊縮財政の流れにのみ沿ったものになっている。行政改革の目的は、必ずしもスリム化であるはずはない。福祉や環境行政、教育など、むしろ行政がもっと機能強化するべき分野がたくさんある。

 コスト削減したり、効率を向上するからといって、サービス向上の余地がないというわけでもない。民間企業の場合は、二〜三割の業務効率改善を行うと同時に、顧客の満足度や製品サービスの品質を上げるのが、ほぼ常識になっている。行政改革にあたっても、対住民サービス、ひいては満足度の向上という点が欠かせないはずである。

 このような問題意識をもとに、筆者は、民間企業のマーケティング手法、あるいは顧客満足度調査などの手法が、行政でどのように使われるか、検討してみた。作業にあたっては、「行政経営フォーラム」の仲間の協力を得た。具体的には、海外の行政機関が取り組みつつある先進事例を分析するとともに、民間企業で確立しているマーケティングの手法がどこまで行政サービスに使われるか、について検討をした。今回の連載では、その要旨をご紹介したい。

一。なぜ行政にマーケティングが必要なのか

 行政サービスにマーケティング手法を導入するという考え方は、いままであまり正面から論じられることはなかった。だが、今日の行政に対する住民の不満を考えたときに、経営改革の専門家の目から見ると、効率改善や民営化、民間委託だけでなく、住民の満足度を上げるための現場活動やコミュニケーション、即ち、民間経営でいうマーケティング手法の導入で解決すべき課題が多い。なぜか。

 第一に、現在の行政は、やっている内容が複雑なわりに、市民に対するコミュニケーションが足りず、また稚拙である。正しいことをやっていても、伝わっていないという例が多い。第二には、行政サービスそのものが、かつてのように施設を造ったり補助金を渡したりという、目に見えるものから、むしろ、住民に対して街づくりへの参画を呼びかけたり、環境保全の大切さを啓蒙したりといった、ソフトな活動に移っている。すると、とりもなおさずマーケティングのセンスが問われることになる。

 そして第三に、値ごろ感の問題がある。これは、払った税金がどのように使われているのか、ということに対して、人びとが昔よりも敏感になってきているという問題である。英国では、行政改革は Value for Money(払った税金に見合うサービスがされているかどうかという問題)の問題だとされている。日本もこれから経済が伸び悩み、重税感が増してくる一方で、高学歴、高齢化社会が進むと、人びとの Value for Money感覚はますます高まるに違いない。

 このような、大きくは三つの理由から、行政が民間企業並みマーケティング手法を導入すべき時代に入りつつあるのである。

二。行政マーケティングとは何か

 民間企業経営の分野において、マーケティングという言葉の定義はかなり多義性を帯びている。一方に、営業を助ける販促ツール(パンフレットや宣伝ビラなど)をつくる程度のこと、と考えている向きもある。他方、マーケティングイコールマーチャンダイジング、つまり、品物をどのように店頭に並べ、ディスプレイすればよいか、あるいは店舗の品揃えをどのようにすればよいか、といったお客に対する直接的な商品の見せ方の問題だ、と捉えている向きもある。はたまた、マーケティングというのは、電通や博報堂に頼んでマス向け広告をやればよい、と割り切っている担当者もいるし、逆に、顧客ニーズを深く分析して、商品開発そのものにつなげていく作業がマーケティング、と考えている人もいる。このように、マーケティングの定義は極めて幅が広い。経営のプロの間では、戦略とは何か、組織とは何か、と並び称される難しいテーマである。

 筆者は、「行政マーケティング」を図1のように理解している。マーケティング・イコール顧客とのコミュニケーション、と捉えたい。行政とはすなわちサービス産業と考えて、どのような活動がマーケティングの範囲に入るかを整理してみたのが、この図である。

 マーケティング・イコール・コミュニケーションという意味でいうと、大きく分けて、三つのタイプがある。一つは、行政機関が何をやっているか、住民に対して説明するというコミュニケーション活動である。これは、行政機関から市民側へ情報が流れるという意味で、 outbound の情報提供活動である。具体的には、広報誌を配ったり、インフォメーションデスクを庁舎に置いて質問に対応したり、といったような活動である。さらに進むと、北九州市やニセコ町がやっているような活動も生まれてくる。これは、住民のグループが行政に対して「知りたい」というリクエストを出すと、行政側の幹部が出かけていって説明するという、出前講義である。また、外務省は、外郭団体を通じて学校に出向いて、経済協力がなぜ重要か、についてレクチャー(開発教育と呼ばれる)をしている。こうした啓蒙活動が outbound の情報提供活動に入る。

 次には、住民側が行政に何を求めているか、また、どのように満足しているか不満なのか、という情報を入手する活動がある。これは調査活動で得られることが多く、inbound の情報の流れということができる。これには大きく分けて、二つある。一つは、市民ホールの利用者が毎月何人いて、その人たちの年齢構成はどうなっているか、というような実態調査である。もう一つ、実態はともかくとして、顧客がサービスに対してどう思っているか、満足度を聞く顧客満足度調査(CS分析)も、ここに入る。

 第三にあげられるのが、双方向のコミュニケーションである。この典型的なものが苦情処理である。行政オンブズマンもここに入るかも知れない。さらに、最近出てきた動きとしては、都市計画のプランを住民グループに説明して、一緒にどのような街づくりをするか、考えるワークショップが開催されている。また、事業計画を立てるプロセスに住民が参加する、というような例もここにあげられる。

 以上、六つの活動を「行政マーケティング」と定義しよう。さて、これをよく見てみると、図1の上の三つは比較的基本的な活動であり、昔から多かれ少なかれ、行政機関はやってきた。それに対して、下の段にある三つは最近になって脚光を浴びてきた活動である。米国の先進的な自治体では、下の三つをきめ細かく、対象セグメント別にいかに積極的にやるか、というところに関心を移してきている。

 さて、日本の行政サービスはどうだろうか。広報も実態調査も苦情調査も、それなりにやっているのは確かである。だが、啓蒙や顧客満足度分析、施策立案への住民参画などについては、ごく一部の自治体で散発的な例が見られる程度のような感じがしている。

 広報や実態調査や苦情調査にしても、その中身をよく見てみると、経営コンサルタントをしている私のような人間に言わせると、その質は極めて劣悪と断ぜざるをえない。昼休みに電話をすると誰も電話に出ない、といったことに始まり、苦情処理を言いに行ったら、たらい回しにされて、それがさらに苦情を呼んだ、というようなことが起きる。実態調査も、役所側が聞きたい質問に対して賛成と応える人の数をとって、政策を正当化しようとしか思っていないような、見えすいた調査もある。

 このように、基本的なマーケティングに関しての実情にも、極めて辛い点をつけざるをえない。住民が行政に対して不満や不信感を抱いた結果、図2にあるように、国民の大半が行政サービスに対してネガティブなイメージをもってしまっている。だが、単なるマーケティングスキルの不足から出てくるものも多い。実際は、良いことをやっていても正しく伝えていない。あるいは、一方通行のサービス提供に終わっていることがままあるのである。

 さて、民間企業は顧客満足度を上げるために、まず三つのことに着手する。これは、広報、実態調査、苦情処理の三つである。

 ある消費財のメーカーでは、調査の結果、商品に対して不満をもっている人の半分は、その商品の正しい使い方を知らないことが原因になっている、ということがわかった。これは、明らかにメーカー側のコミュニケーション不足に非がある。例えば、感熱紙ではなく、普通紙でファックスが受けられるという謳い文句につられて、家庭用のファックス機を買い替えたところ、インクのリボンが二千円もしてとても維持コストに耐えられない、というようなケースが典型的な例である。これを買ったディスカウントショップでは、「毎月維持費が二千円もかかる」といった説明は、一切なかった。「騙された」という気持ちが不満の引き金になる。

 顧客の不満の残りの半分はどこからくるかというと、知識の不足である。どんな場合にこの商品を使うとよいのか、わからないままに、お客が商品を買ってしまい、そのまま不満につながるケースが多い。これは、化粧品や健康食品などの例に多い。

 さらにいえば、ものの売り方、ものの提供の仕方が悪いために不満につながる場合もある。せっかく、新車を買ったが、故障したときにどうすればよいのか、電話で何度も問い合わせようとしたが、その都度、営業マンが留守で返事の電話をよこさない。これが大きな不満につながることもある。そこでトヨタなどでは「アフターセールス」の顧客満足度を上げるための活動をしている。

 このように、顧客がある商品に不満だというときに、その背景をよく調べてみると、単なるコミュニケーション不足、あるいは理解不足、あるいは商品そのものよりも、それの届け方やサービスの仕方にまつわる不満が主な原因となっているケースが、実に多い。

 行政サービスについても、これとまったく同じことがいえる。サービスの中身が複雑化、高度化すればするほど、住民の理解は不足するし、そのサービスの提供の仕方に関しても、従来よりも神経を使う必要がある。一方的に、広報誌をばらまいたり、各局がさまざまなパンフレットをばらばらに作ってインフォメーションデスクに置いておく、といったようなコミュニケーションは、コミュニケーション以前といわざるをえない。場合によっては、こんなにたくさんの税金と紙をむだにして、いったい、役所は何をやっているのか、といった怒りを買うことすらある。

三。行政マーケティングの期待効果

 さて、行政マーケティングがこのようなものだとして、うまくできるのならやったほうが住民の満足度があがるということに対して、異論はないであろう。だが、費用対効果を考えると、どこまでこういうことをやる意味があるのか、疑問をもつ向きもあるに違いない。行政マーケティングを行うと、どのような成果があがるだろうか。主な期待成果は、三つある。

 1.市民が行政、あるいは官僚に対して抱いている基本的な不信感、不満を取り除ける。これは実は、行政サービスコストを下げるということとほぼ同義である。サービス業で、お客を怒らせてしまった場合、それをリカバリーするためのコミュニケーションのコストは甚大である。

 図3は、日本航空が広報誌で公開した調査結果である。これによると、たいへん満足した人は九五・五%が再利用し、九二・四%が他人にも利用を勧めている。そこまでいかなくても、満足した人は九四・二%が再利用し、七一・五%が他人に勧めてくれる。一方、不満をもった人はどうか。JALの例ではないが、一般にサービス業のマーケティングの常識としていわれるのは、次の原則である。即ち、サービスで不愉快な思いをした人は、十人の友だちに「あの航空会社のサービスはひどい」と言って歩く。「まあまあ良かった」という満足度を得た人は、この感想を二人ぐらいにしか話さない。「とてもすばらしい」と感動した人も、五人ぐらいにしかその体験を話さない。不満を抱かせると、いかにその人の口を封じるのが大変か、またそれが周りに伝染して、それを収拾するのがいかに大変か、この例が端的に示している。

 2.行政コミュニケーション、あるいはマーケティングを活発に行うことによって、行政に対する住民側からの協力が得やすくなる。これは、しゃれた言い方をすると Public Private Partner-ship(PPP)という概念である。この典型的な例をあげると、道路の拡張工事をするとき、なぜこの道路を造るのか、工期はどのくらいで、道路ができると近所にどんなメリットをもたらすか、などについて説明しておけばおくほど、用地買収の手間やコストは安くなる、といった考え方である。

 また、最近話題になっている、NPOへの業務委託も進みやすい。公園の維持管理に税金や正規の職員をつぎ込むと、大変なお金がかかる時代である。ボランティアの老人グループに、こうした状況をうまく訴えて、行政に対するボランティア的なサービスをしてもらうことができれば、画期的なコストダウンが実現する。このように、行政の効率改善、コストダウンを実際にやっていこうという場合には、行政マーケティングが不可欠になる。

 民間業者にお金を払って業務委託する場合も、同様である。昔のように、役所からの仕事だからと有り難がって、安値でも受注するというような企業の経営者は、ほとんどいなくなった。役所からの業務委託費は決して、うまみのある商売でないことが多い。そんななかで、どのようにして業者に業務委託をしていくのか。どちらがどちらに営業するのかというと、安い単価の場合は、行政側が頭を下げて、民間企業に業務の委託をお願いする「営業的な」マーケティングが必要になるに違いない。

 例えば、地元の大手電機メーカーに、市役所の職員が頭を下げていって、「うちの町は、何といってもお宅の企業城下町だから、関連のサービス子会社で、廃棄物の収拾処理を引き受けていただきたい」といったようなお願いをするというような場面が、昨今、あちこちで見受ける。行政マンも営業しなくてはいけない時代だし、営業することでコストダウンできる、そして行革ができる、という考え方が不可欠である。

 3.行政内部の業務改革と意識改革が図れる。これは、次号以降の連載で詳しくふれたいが、例えば、博物館や市民センターへの入館者の不満を、アンケートやデータで分析した結果がどのように生かされるか、考えてみよう。

 まず、受付の職員の応対が横柄だった、といったようなことは、すぐにその本人にフィードバックして注意すれば直ることかもしれない。次に考えられるのが、お客の経験(マーケティングの世界では Customer Experience という)に沿って業務のプロセスを見直す、ということである。例えば、「雨の日には受付で傘や荷物を預けたりするのに、七〜八分も待たされて、それがとても不愉快だ。なぜ、建物の外にコインロッカーを置かないのか」といったようなお客のコメントが、行政の事務処理のプロセスを変えたりする。

 さらにいうと、「二階の展示を見終った後、三階に何があるのか、どこにも書いていないので、そのまま一階に降りてきてしまった。それから、また三階まで行かされた。表示が不十分である」といった苦情から、館内の案内表示や順路ルートなどのソフトの改善が行われるに違いない。

 また、椅子がないと長い時間展示を見ていると疲れる、といった苦情は、椅子を増やしたり、展示場の設計を変えたりなど、ハードの設計に影響を与える。このようなケースはまだわかりやすい例かもしれない。お客の声というものを錦の御旗にして、業務プロセスの改革、組織や施設の改革は大きく進むものである。特に、首長が顧客指向ということをキーワードに旗を振っているような場合は、顧客の満足度調査をするだけで、かなり大きな改革のテコにすることができる。

四。行政マーケティングはどの分野にどう導入するのか

 行政にマーケティング手法を導入するにあたっては、考えなくてはならないことがある。

 第一は、広報部門や行政改革部門だけに任せてはならないということである。マーケティングやサービスは、現場でお客に直接サービスしている機関ごとに取り組むべきテーマである。つまり、医療ならば病院、教育ならば学校、あるいは福祉サービスならば福祉事務所ごとに、マーケティング手法は導入する必要がある。

 現場に近いところでものを考えないと、顧客の顔が頭に浮かばない。また、住民全体の満足度といった抽象的で難解なことを考え出すと、いつまでたっても議論ばかりで、アクションにつながらない。したがって、都道府県レベルの行革推進本部が住民の満足度向上のために一般的な満足度調査をやるのは、愚の骨頂といわざるをえない。顧客といっても、一般市民から市町村の組織、あるいは法人などさまざまである。また、やっている行政サービスを特定しないと、「わが県の行政に満足か」と漠然と聞かれても答えようがない。

 第二に、実態調査がすべてということである。調査とまではいわなくても、せめて苦情を直接聞いて、実情を把握することが重要である。これにあたっては、顧客の声を直接、生の形で取るということが大事である。シンクタンクに委託して、ありきたりの五段階評価の調査評価を行い、七割の人がほぼ満足だった、といったような調査をするのは、まったくの税金のむだ使いだろう。したがって、行政マーケティングをやるのは、現場の、しかも改革推進グループが中心になってやればよい。

 以上は、行政機関が中心に行政マーケティングを導入するという、内発的なアプローチの話をしたが、実は、外からこれを迫るというやり方もある。

 例えば、市民団体や議会が中心になって、県内の十七ヵ所の図書館すべてについての評価レポートを手作りでつくり勝手に公表してしまう、というアプローチはどうだろう。レストランやホテル、あるいは航空サービスなどについては、よく雑誌にランキングや苦情や体験コメントなどが、各社対比して載せられているが、これに近いことをやってもよい。J・D・パワーズという米国の顧客満足度調査会社は、自動車メーカーの基本的な車種について、安全性や乗り心地などの項目を顧客に聞いて点数づけし、それを発表している。点数の低いメーカーの担当者は、その数字を見て慌てて業務改革に走る。こういったサイクルが確立されている。ここまでくると、第三者機関による行政改革の基本ツールに、行政マーケティングの手法が取り込まれていくことになる。

 このように、行政マーケティングのツールは、行政評価と絡めて、第三者側から行政を改革していくツールとしても使えるし、行政機関自身が、顧客の声を外圧に使って、自らを改革していくきっかけづくりにもなる。

 日本の行政改革は、ともすれば暗い。予算を減らし、人を減らし、業務を削り、そしてその先に何があるのか、明るいビジョンがあまりない。明るいビジョンのないところで、職員が嬉々として行政改革に取り組むはずもない。省庁再編や定員削減などの形式的な議論ばかりで、いつまでたっても行政改革が進まない原因には、こうした行政機関の内部からの内発的な改革を生み出す仕掛けがないという問題もある。

 行政マーケティングは、この閉塞状況を打ち破るうえで、大きなきっかけになるのではないだろうか。

終わりに

 次回以降の八回の連載では、まず最初に、米国の行政機関がいま取り組みつつある行政マーケティングの事例について、ご紹介したい。次回(第二回)では、ニューヨーク州の交通局(地下鉄・バス)の例を、第三回では老人ホームの例を、第四回では美術館・博物館の例をご紹介する。また第五回目には、連邦と州の道路局の例をご紹介したい。そして、第六回目と第七回目は、国内の民間企業の顧客満足度向上活動(CS:カスタマーサティスファクション)の概要と、その行政サービスへの応用可能性について述べる。最終回(第八回)では実際に日本で、行政マーケティングを進めていくときの実践的な提言を述べたい。

  (※本文章は執筆者原文のものです。掲載のものとは若干異なります)