時事通信社「地方行政」掲載前草稿

連載:行政サービスにマーケティング手法の導入を
第五回 『米国連邦高速道路局の事例』

上山信一
(マッキンゼー日本支社パートナー 行政経営フォーラム主宰)

はじめに

 道路の顧客サービス満足度といったことをお考えになったことがあるだろうか。実は、この問題は極めて難しい。

 第一に、道路の利用者は不特定で多数である。サンデードライバーもいれば、バス、タクシーなど商業者のプロのドライバーもいる。また、自転車やバイク、あるいは歩行者など、道路は必ずしも車だけのものではない。

 第二に、利用者は地元の人だけではない。高速道路の場合は、地元はどちらかというと迷惑することが多く、利用者は遠くから来て遠くに行ってしまう通過客である。

 第三に、利用者が直接の利用者だけでないという、難しさがさらにこの上にのしかかる。どういうことかというと、道路に依存して成り立っている施設や地元の経済があるということだ。道路沿いの店は値段が高いし、道路が山奥に通じて地元の経済が活性化したり、逆に過疎が進行したりする。まさに、社会インフラの典型なのである。

 第四に、費用の分担と利用者の関係が複雑である。原則は税金で建設されているが、ガソリン税でまかなわれる部分も多く、ここには受益者負担の発想が入っている。細かいことをいえば、バリューフォーマネーといったときのバリューもマネーも、車とそれ以外に分けて考えなくてはならないややこしさがある。

 第五に、特に日本で出てくる問題だが、道路建設は必ずしも道路のためではない……。つまり、地元の雇用対策の公共事業として、道路を造ること自体が自己目的化している側面がある。

 このように、道路の顧客満足度やマーケティングという話は一筋縄では整理できない。それでも、効率改善とサービス向上をめざす行政改革、あるいは行政評価の流れは道路にも及んでいる。OECDは道路の効用を評価する指標リストをつくっていま各国で実験中だし、道路の満足度をいかに高めるかというプロジェクトが米国を中心にここに二、三年始まっている。

 今回は、後者の、道路の満足度の向上をめざした、米国の連邦政府、そして州政府の動きを紹介したい。ただし、あらかじめお断りしておくが、米国では、道路はハイウエイと一般道路とに峻別して議論されている。一般道路に関しては、建設の話は少なく、補修・改良などのメンテナンスが中心になるので、取り立てて紹介する話題もない。ハイウエイに関しての議論は活発で、メンテナンス以外に、新設、改良がさかんに話題にされている。また、そうしたハード面とともに、渋滞緩和のための交通規制や案内表示など、ソフト面での改善課題もハイウエイでは多い。ここでは、ハイウエイにしぼってご紹介したい。

一。高速道路の利用者満足度調査

 米国政府で高速道路(ハイウエイ)を担当しているのは,運輸省のなかの高速道路局(Federal Highway Administration )である。ここは、高速道路に関する予算と技術についてのガイドラインを作成したり、その実施状況を指導調査したりする。全国の高速道路予算のうち八五%は国から州に流れ、州が実際の維持管理や建設などに当たっている。そうした事情もあって、各州には高速道路局の支分局が設けられていて、そこと各州の運輸省の間で実務の多くが行われている。

 さて、ハイウエイの顧客満足度を上げようという動きは、一九九二年に始まった。最初に問題提起をしたのは、州の道路関係者が集まる、ASHDOという団体だった。民間企業でよく行われるTQM(トータルクオリティマネジメント)やISO9000の認定獲得などの活動が道路の「品質向上」の参考にならないか、という問題提起がなされた。何回かのセミナーやトレーニングの会合を重ねたのちに、官民でナショナルクオリティイニシアティブ(NQI)という協議会をつくろうということになった。このメンバーには、連邦高速道路局はもとより、各州の道路関係者、建設業者、学者など、幅広く道路に関するプロが加わった。

 前回まで述べてきた老人ホームや美術館のケースと同じように、まずは実態調査と利用者の満足度調査をしようではないかということで、調査手法についての検討が始まった。具体的には、高速道路をハードとソフトの両方から成るサービスシステムと捉えて、以下の七つの観点から分析することになった。

 1.橋の状態
 2.修繕着手までのスピード
 3.舗装状態
 4.安全
 5.アメニティ
 6.流れ
 7.表示

 この七つの項目に沿って実態調査が行われた。やり方は、電話で無作為に選んだ全国各地のドライバーに、七つの項目のうちのどれが優先的に重要か、また、それぞれの項目について現在の満足のレベルがどの程度か、聞くものである。その報告書(「 National Highway User Survey」)が九六年五月に出ているので、その要点を以下にご報告したい。

 1.全体として、五〇%のドライバーが米国の高速道路システムに満足していることがわかった。三四%がどちらでもない(中立)と答え、明らかに不満だと答えた人は一六%にとどまった。

 2.さらに七つの項目それぞれについて細かく見ても、満足度は比較的高かった。

 3.七つの項目のどれが重要かという問いに対しては、第一位が舗装(三一%)、第二位が安全(二一%)、第三位が流れ(一九%)ということになった。

 4.コスト負担の方法としては、受益者負担(ガソリン税)を支持するという人が三五%おり、現行制度が最も支持率が高かった。また、六四%の人が、さらにハード、ソフト両面を改善するためならば、もっと税を払うのもやむをえないと答えた。

 このような結果から、連邦の道路局の関係者はどのような発見があったのか。インタビューしてみると、次の三つの発見があったという。

 第一に、顧客のニーズということで、まったく想定していなかったようなものは、実は出てこなかった。だが、七つの項目の重要度やそれぞれの項目に対する満足度が数字で出てくることによって、日ごろ自分が何となく思っていた感覚がより具体的に感じられるようになった。道路のユーザーとか、国民全体、といった抽象的な概念で政策を議論していたころに比べて、より具体的に顧客というものを意識するようになった。

 第二に、舗装道路の質が悪く雨の日に危険、と数字に表われた問題に関しては、予算案の策定プロセスや政策審議の際にこのデータが引用され、従来より明らかに重視されるようになった。

 第三に、高速道路システム全体に対する満足度が五〇%という数字に対しては、安堵する半面、必ずしも安住できないという見方もあった。満足度五〇%というのは、競合商品がある商品分野では落第のレベルである。この場合は、他に競合商品がないので合格点といえなくもない。しかし、どちらともいえないという中立的な人も三四%いることを考慮すると、全体の満足度は一概に高いとはいい切れないわけである。

 今回の調査は初めて行ったもので、この結果が予算や政策に大きな影響を与えるというものではないが、今後も継続的にこの種の調査を行おうという合意はほぼできたそうである。

二。国民交通利用実態調査

 先ほどの調査は、高速道路の直接利用者である運転者だけにしぼって、サービスの重要度と満足度を聞いたものだった。一方、連邦高速道路局の上位機関である運輸省(Department Of Transportation)は、別の切り口から、運転者に限らない国民全体の交通実態調査(NPTS: National Personnel Transportation Survey )を始めている。

 これは、一九九五年に調査されたもので、四千以上のサンプルに無作為の電話調査をしてつくられたものである。報告書のタイトルは「交通システム利用者の品質に対する考え方」(Transportation User's Views Of Quality)で、この表題が示すとおり、個々人にとって国内の交通システムがどれくらい使い勝手が良いのかを、実態調査したものである。

 何を調査したのかというと、まず、個々人の交通総量(総マイル)において、各モード(手段)がどれぐらいのウエートを占めているか、を聞いている。図1にその結果を示しているが、これを見ると、自家用車の比率が九割以上で、徒歩、バス地下鉄などの公共交通機関、自転車などのウエートは非常に小さい。

 次に、利用者として交通システムの全体体系、およびそれぞれのモードをどう評価するか、を聞いている。また、どのような点が不満かを選択肢で聞き、その結果を統計的に点数化し、地域(都市対郡部)、性別、年齢などによる差を出している。この調査からわかった結果は、次のとおりである。

 1.現在の米国内の交通体系の全体システムについては、六〇%の国民が満足だと答えている。

 2.その主な理由は、自家用車の使い勝手が良い交通システムになっているからである。自家用車は、自由にいつでもどこにでも自分一人で動けるモードとして、高い評価を受けている。

 3.交通体系の全体システムについてほぼ満足、というもう一つの理由は、自家用車だけでなく、特に都市部ではバスや地下鉄、バイクなどの他の選択肢も多く、いろいろ選べる自由があるから、ということがわかった。よくいわれることだが、米国では個人の自由、あるいは選択肢がたくさんあるということが、消費者の選好基準で大きな役割を果たす。

 余談になるが、衛星放送で百チャンネルもあるような放送局が人気を集めるのは、米国ならではの現象である。実際に選ぶ選択肢は、各人限られるわけだが、たくさんの選択肢が与えられているという状態そのものを、米国人はたいへん好む。このような国民性が調査から窺えていて、たいへんおもしろい。

 4.一方、不満エリアは大都市である。特に女性は、車について、環境を破壊するし、不潔だしということで、否定的な意見を述べる人が多かった。なお、公共交通については、全体的に前向きの評価が多かった。

 以上の調査結果がどう使われるかということについては、先ほどの高速道路の調査と同じく、まだ具体的にははっきりしていない。しかし、関係者の話では、今後とも、おそらく定期的にこのような調査は続けるだろうとのことである。

三。顧客満足度調査のねらいと背景

 以上、二つの調査の概要を紹介したが、いずれも九五〜九六年に実施されている。この背景には二つの流れがある。

 一つは、これまでの連載で紹介してきたような行政全般におけるTQMブームの反映である。米国経済再生の一つのトリガーでもある日本生まれのTQM(トータルクオリティマネジメント)手法が、企業からさらにパブリックセクターに普及してちょっとしたブームになっており、道路もその例外ではないわけである。

 もう一つは、GPRA法(ガバメントパフォーマンスアンドリザルツアクト)の制定である。以前にも述べたが、顧客志向でかつ成果志向の指標を具体的に選択し、「現在の数値がこう、将来はこういう数値にしたい、したがって、こういう予算や政策が必要」というような説明をしないと、予算も政策も議会の支持を得られないという流れが、この法律によって確立された。これに合わせて、連邦の各省庁の予算書のフォーマットや議会での審議の仕方が変わってきている。そこに載せる指標や目標数値の設定に各省庁が追われていて、まずは実態調査から始め、そして利用者の満足度を聞こうではないか、という取りあえずのアクションがあちこちで起きているわけである。

四。調査の実施体制

 さて、このような調査はどのような実施体制で進めたのか。

 前者のNQIの場合は、二千万円ほどの予算をかけてやったとのことである。NQIは、官民共同の協議会だが、予算は連邦高速道路局の応用技術部門(オフィスオブテクノロジーアプリケーション)が提供した。日本同様、業界にお金を出してもらうというのはやさしいことではなく、官民共同のイニシアティブとはいっても、やはり政府が金を出す以外に主な財源は見当たらなかった。設計は、会計事務所が発展してコンサルティング会社になっているクーパースアンドライブラントに頼んだ。実際の電話インタビュー作業は全米レベルで大掛かりな作業をやるので、世論調査の専門会社であるオピニオンリサーチコーポレーションに依頼をした。

 一方、後者のNPTSのデータは、運輸省のなかの統計局が行った。だが、実際の作業には、CSコンサルタントであるアラン・リアルスキー氏の専門ノウハウを借りた。

五。各州における展開

 以上に紹介したのは連邦レベルだが、州の政府のほうでもよく似た活動が始まりつつある。

 例えば、ペンシルバニア州、アリゾナ州、カリフォルニア州などが、同様の調査をやっている。これらの州の場合は、単に、施設としての高速道路の顧客満足度を聞くだけでなく、州の運輸省がやっている仕事全般についての顧客満足度の調査をしている。

 ペンシルバニア州の場合は、「QUIK」というニックネームのもとで、九五年と九七年の二回、市民が運輸省のサービスに対してどう評価しているかを調査し、かつその結果を公表している。主な質問項目は次のようなものである。

 1.運輸省が行っているサービスを総体として、どのように評価するか−−これに関しては、五段階評価で満足度を取り、約七五%の人が「大変良い」または「おおむね良い」と答えている。(図2参照:2Pの図)

 2.運輸省が行っている主な仕事二十個のうち、どこまでを運輸省がやっているということを州民が知っているか−−この結果は図3(5Pの図)のとおりである。

 3.運輸省の主要なサービス二十二個のそれぞれについて、一〇段階で重要度を評価するとどうなるか−−これに対しては、かなりはっきりとした優先順位が出た(図4参照:7Pの図)。

 4.運輸省のサービスのうち、最近どれを利用したか−−これについては、全体の二十二項目のうち上位十項目にかなり集中していることがわかった(図5参照:8Pの図)。

 5.運輸省が行っているサービスのそれぞれについて、サービス品質を0〜4の五段階で評価するとどうなるか−−これについては、平均して3という高い評価が出た。

 6.各サービスの重要度と品質評価をかけ合わせて見てみるとどうなるか。また九五年と九七年で、その数値がどのように変化しているか−−これについては、「重要だが品質が低い」という領域にはまったものが、十七項目のうち三つあった。一つは高速道路の補修と維持。二つ目は新しい高速道路の計画と建設。三つ目は道端の美観問題、である。また、おもしろい特徴は、補助金行政や検査行政を重要と考える割合が、九五年から九七年のわずか二年の間にも、下がっているということである。図6(12Pの図)の左下にあるとおり、公共交通機関や市内バスサービスの重要性が下がって左に移っている。また右上を見ればわかるが、トラックの安全検査や車検登録、ナンバー表示、運転免許の発給業務などに対する重要性も下がっている。

 ペンシルバニアの運輸省の調査は、必ずしも交通システムや高速道路のあり方そのものに対する調査ではないが、交通分野での行政サービス全体について、州民が何を望み、そのニーズにどのような変化があるかを、経時的に捉えて実際の政策や予算に反映させる糸口を開いたという意味で、画期的なものといえる。

 ここで少し総括してみると、第一に、そもそも自分たちがやっている行政サービスを州民が知っているか、という問いかけに始まり、また各サービスの利用の頻度をきちんと把握するところから出発しているのが目新しい。さらにそのうえで、何が重要でどこが不満なのかというエリアを、統計的に抽出している。このような調査結果があれば、次のような形で、政策や予算に反映できるに違いない。

 1.州民のニーズに合わせて、どこに予算を集中配分すればよいかがわかる。

 2.せっかくやっているのに州民の多くに利用されていないサービスや知られていないサービスについて、広報やキャンペーンをやるとか、そもそも止めてしまうといった思い切ったアクションが取りやすい。

 3.定期的に、このような調査を同じ手法で重ねることによって、州民のニーズがどのように変わっていくのかを、感覚論ではなく、定量的に実証することができる。この結果、旧態依然とした補助金や慣行を断ち切る、具体的なデータが手に入る。

 このような調査は、今回たまたま運輸部門の結果をご紹介したが、この手法自体は他の分野でも使えるはずである。

六。今後の発展性

 顧客志向あるいは成果志向の道路交通行政の改革は、ここ数年前からやっと始まった状態でしかない。美術館や病院など、利用者が特定でき、また、民間企業の消費者調査手法がそのまま使いやすい分野に比べると、この分野は、調査自体も難しいし、そもそも調査したところでどのように実際の行政に反映させるか、やさしくない。特に、道路の場合はいったん建設してしまうと、調査データがどうであろうと、いまさら造り直すわけにもいかず、消費者調査を継続的にやっていこうとしても、意欲がわかないに違いない。

 しかし、実際にやってみると、従来プロの間だけで議論されていた、道路というものに対する社会ニーズが具体的に実証された、といえるのではなかろうか。米国の道路システムに対する国民の支持は意外に高いということがわかったし、担当者が若干懸念をもっていたガソリン税に対する国民の支持のレベルも、予想外に高いということがわかった。このような結果が取れると、行政担当者にとっては励みになるのではないだろうか。そういう意味でも、ときおり、このような調査をやるというのは有効であるに違いない。

 また、今回の調査は連邦レベルだが、州のレベルで同じような調査をやり、同一基準で比較していくと、州の間の整備状況を比較したり他の州のやり方に学ぶ、というような動きにもつながるに違いない。いまのところ、各州の政府は州間比較を嫌がっているようだが、データがそろってくれば、おのずと比較検討する動きが出てくるに違いない。

 最後に、この分野のユニークな特徴としてあげておくべきことがある。顧客(カスタマー)と並んで協力者(パートナー)の満足度も調査する動きが出ている、ということである。NQIの調査自体が連邦政府だけではなく、民間建設業界、道路整備業界などの参加を得て行っているわけだが、建設という行政行為についてしぼっていうと、利用者の満足度ということよりも、実は、連邦と一緒に仕事をする州政府の仕事のやりやすさに対する満足度や、建設業界や地元などの関係者の満足度を高めていく必要があるわけである。

 運輸省のパンフレットを見ると、自分たちは顧客である国民、あるいは常用者に対してこういうことをやりたい、という宣言が書かれている。その横のページを見ると、パートナーに対する約束というような項目が書いてある。例えば、連邦政府の出先が州の政府に対して提供する情報のスピードや、問い合わせに対する回答のスピードなどを、実際に調査する動きが出ている。道路のような大規模な社会インフラの場合は、関係者の数も広がりがあるし、政府だけで建築維持できるものでもない。パートナーの満足度を上げるということが、ひいては顧客である利用者の満足度を上げることにつながるのだろう。

 このあたりは、実はディズニーランドのケースと似ていておもしろい。前にも述べたが、ディズニーランドの場合は、従業員の満足度を上げることがすなわち、顧客の満足度を上げることにつながるという洞察があった。インフラの場合はパートナーの満足度を上げることがすなわち、顧客の満足度だという法則があるのかもしれない。

 (※本文章は執筆者原文のものです。掲載のものとは若干異なります)